金融商品に係る会計基準(案) 第一 金融資産又は金融負債の範囲等 一 金融資産又は金融負債の範囲等(注1) 金融資産とは、株式その他の出資証券、公社債等の有価証券、受取手形、売掛金、 貸付金等の金銭債権及びデリバティブ取引により生じる正味の債権等をいう。 金融負債とは、支払手形、買掛金、借入金、社債等の金銭債務及びデリバティブ取 引により生じる正味の債務等をいう。 金融商品とは、金融資産又は金融負債及びそれらを発生又は消滅させる契約をい う。 二 時価 時価とは期末又は取引時点における公正な評価額をいい、取引所等において形成さ れている価格その他の市場価格に基づく価額をいう。市場価格がない場合には合理的 に算定された価額をいう。 第二 金融資産又は金融負債の発生及び消滅の認識 一 金融資産又は金融負債の発生の認識 金融資産又は金融負債は、その発生に係る契約が締結された時点で認識しなければ ならない。 二 金融資産又は金融負債の消滅の認識 1 金融資産の消滅の認識要件 次の場合には、金融資産(又は金融資産の一部)の消滅を認識しなければならな い。 (1) 当該金融資産の契約上の権利を行使した場合 (2) 当該金融資産の契約上の権利を喪失した場合 (3) 当該金融資産の契約上の権利に対する支配が他に移転した場合(注2)(注3) 2 金融負債の消滅の認識要件 次の場合には、金融負債(又は金融負債の一部)の消滅を認識しなければならな い。 (1) 当該金融負債の契約上の義務を履行した場合 (2) 当該金融負債の契約上の義務が消滅した場合 (3) 当該金融負債の契約上の第一次債務者の地位から免責された場合 3 金融資産又は金融負債の消滅の認識に係る会計処理 金融資産又は金融負債の消滅を認識した場合には、当該金融資産又は当該金融負 債の帳簿価額と対価との差額を当期の損益として処理する。(注4)(注5) 第三 金融資産又は金融負債の貸借対照表価額 一 有価証券の貸借対照表価額(注6)(注7) 1 時価の変動により利益を得ることを目的として保有する市場性のある有価証券は、 時価をもって貸借対照表価額とする。 2 満期まで所有する意図を以て保有する社債その他の債券は、取得原価をもって貸 借対照表価額とする。債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合に おいて、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、当 該差額を償還期に至るまで毎期一定の方法で逐次貸借対照表価額に加算し又は貸借 対照表価額から控除する。 満期まで所有する意図を以て保有する社債その他の債券のうち、市場性のあるも のについて、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場 合を除き、当該時価をもって貸借対照表価額としなければならない。 市場性のない社債その他の債券の貸借対照表価額は、債権の貸借対照表価額に準 ずる。 3 市場性のある子会社株式及び関連会社株式については、取得原価をもって貸借対 照表価額とする。ただし、時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると 認められる場合を除き、当該時価をもって貸借対照表価額としなければならない。 4 市場性のない有価証券(社債その他の債券を除く。)は、取得原価をもって貸借 対照表価額とする。ただし、市場性のない株式について、発行会社の財政状態の悪 化により株式の実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をしなければならな い。 5 上記1乃至3以外の市場性のある有価証券は、時価をもって貸借対照表価額とす る。時価と取得原価との差額(以下、「評価差額」という。)は、洗い替え方式に 基づいて、次のいずれかの方法により処理する。 (1) 評価差額を資本の部に計上する。ただし、時価が著しく下落したときは、回復 する見込みがあると認められる場合を除き、当該評価差額を損失として処理する。 (2) 時価が取得原価を上回る場合は、評価差額を資本の部に計上し、時価が取得原 価を下回る場合は、評価差額を損失として処理する。 二 債権の貸借対照表価額 1 債権の貸借対照表価額 受取手形、売掛金、貸付金その他の債権は、債権金額又は取得価額から、貸倒見 積高に基づいて計上した貸倒引当金を控除した金額をもって貸借対照表価額とする。 債権を債権金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債 権金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、当該差額を弁済期に至る まで毎期一定の方法で逐次貸借対照表価額に加算し又は貸借対照表価額から控除す る。 ただし、破産、会社更生、和議等の事由により経営破綻に陥っている債務者に対 する債権(以下、「破産更生債権」という。)及びこれらに準ずる債権の貸倒見積 高は、債権金額又は取得価額から直接に控除することができる。(注8) 2 貸倒見積高の算定 (1) 債権の分類 貸倒見積高の算定にあたっては、債務者の財政状態及び経営成績を基礎として、 債権を以下のように分類する。 ○ 債務者の財政状態及び経営成績が特に問題のない債権(以下、「正常債権」 という。) ○ 債務者が経営破綻の状態には至っていないが、財政状態及び経営成績が悪化 し、当初の契約条件に従った債権の元本の回収及び利息の受取りができない可 能性の高い債権(以下、「危険債権」という。) ○ 破産更生債権及びこれらに準ずる債権 (2) 貸倒見積高の算定方法 ○ 正常債権については、正常債権に係る過去の貸倒実績率等合理的な基準によ り貸倒見積高を算定する。(注9) ○ 危険債権については、債権の状況に応じて、次のいずれかの方法により貸倒 見積高を算定する。(注9)(注10) i)債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残 額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する 方法 ii)債権の元本の回収及び利息の受取りに係るキャッシュ・フローを合理的に 見積もることができる債権については、当該キャッシュ・フローを当初の約 定利子率で割り引いた金額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方 法 ○ 破産更生債権及びこれらに準ずる債権については、債権額から担保の処分見 込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とする。 三 金銭の信託の貸借対照表価額 運用を目的とする金銭の信託(合同運用を除く。)は、当該信託に係る信託財産の 構成物の本基準による評価額を合算した上での純額をもって貸借対照表価額とする。 なお、信託財産の構成物のうち、市場性のある有価証券は時価をもって評価する。 四 デリバティブ取引により生じた金融資産又は金融負債の貸借対照表価額 デリバティブ取引により生じた金融資産又は金融負債は、時価をもって貸借対照表 価額とする。 五 金銭債務の貸借対照表価額 支払手形、買掛金、借入金等の金銭債務(負債たる社債を除く。)は、債務額をも って貸借対照表価額とする。 六 負債たる社債の貸借対照表価額 負債たる社債は、社債金額をもって貸借対照表価額とする。 社債の発行価額と社債金額との間に差額があるときは、当該差額を資産又は負債に 計上し、償還期に至るまで毎期一定の方法により償却する。 第四 ヘッジ会計 一 ヘッジ会計の意義 ヘッジ会計とは、ヘッジ取引のうち一定の要件を充たすものについて、ヘッジ対象 に係る損益とヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を会計 に反映させるための特殊な会計処理をいう。(注11) 二 ヘッジ会計が適用されるヘッジ対象 ヘッジ会計が適用されるヘッジ対象は、相場変動等による損失の可能性がある資産 又は負債で相場変動等が評価に反映されていないもの及び相場変動等が評価に反映さ れているが評価差額が損益として処理されないものであり、未履行の確定契約又は予 定取引により発生が見込まれる資産又は負債も含まれる。(注12)(注13) 三 ヘッジ会計を適用するための要件 ヘッジ会計を適用するためには、次の要件のすべてが充たされていなければならな い。 1 ヘッジ取引時の要件 当該ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、取引時に、 次のいずれかによって客観的に認められること (1) 当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、文書により確認 できること (2) 企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定及び内部統制組織が存在し、当 該取引がこれに従って処理されることが期待されること 2 ヘッジ取引時以降の要件 ヘッジ取引時以降において、ヘッジ手段の損益とヘッジ対象の損益が高い程度で 相殺される状態が引き続き認められることによってヘッジ手段の効果が定期的に確 認されていること 四 ヘッジ会計の方法 1 ヘッジ取引に係る損益認識時点 ヘッジ会計は、時価評価されているヘッジ手段に係る評価差額を、ヘッジ対象に 係る損益が認識されるまで資産又は負債として繰り延べる方法(以下、「繰延ヘッ ジ」という。)による。 ただし、ヘッジ対象である資産又は負債を時価評価できる場合には、ヘッジ対象 を時価評価してヘッジ手段と同一の会計期間に損益を認識する方法(以下、「時価 ヘッジ」という。)によることができる。 (注14)(注15) 2 ヘッジ会計の終了 ヘッジ会計は、ヘッジ対象が消滅した時点で終了する。(注16)(注17) 第五 複合金融商品 一 複合金融商品の範囲 複合金融商品とは、複数種類の金融資産又は金融負債及びそれらを発生又は消滅さ せる契約をいう。複合金融商品は、契約の一方の当事者の払込資本を増加させる可能 性のある部分を含む複合金融商品と当該部分を含まない複合金融商品に大別される。 二 払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品の会計処理 契約の一方の当事者の払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品 には、新株引受権付社債及び転換社債の発行又は取得がある。 1 新株引受権付社債の会計処理 (1) 発行者側の会計処理 新株引受権付社債の発行者は、新株引受権付社債の発行価額を社債の対価部分 と新株引受権の対価部分とに区分する。 社債の対価部分は、普通社債の発行に準じて会計処理する。 新株引受権の対価部分は負債の部に計上し、権利が行使されたときはこれを資 本準備金に振り替え、権利が行使されずに権利行使期限が到来したときは、これ を利益として処理する。(注18) (2) 取得者側の会計処理 新株引受権付社債の取得者は、新株引受権付社債の取得価額を社債の対価部分 と新株引受権の対価部分とに区分する。 社債の対価部分は、普通社債の取得に準じて会計処理する。 新株引受権の対価部分は、有価証券としての新株引受権として資産に計上し、 権利を行使したときはこれを有価証券としての株式に振り替え、権利を行使せず に権利行使期限が到来したときは、これを損失として処理する。(注19) 2 転換社債の会計処理 (1) 発行者側の会計処理 転換社債の発行者は、発行価額を社債の対価部分と株式転換権の対価部分とに 区分せず、普通社債の発行に準じて会計処理し、権利が行使されたときは資本金 及び資本準備金に振り替える。 (2) 取得者側の会計処理 転換社債の取得者は、取得価額を社債の対価部分と株式転換権の対価部分とに 区分せず、普通社債の取得に準じて会計処理し、権利を行使したときは転換社債 の帳簿価額を有価証券としての株式に振り替える。 三 払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合金融商品の会計処理 契約の一方の当事者の払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合金融 商品は、それを構成する個々の金融資産及び金融負債の本基準による評価額を合算し た上での純額をもって貸借対照表価額とする。