「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書(公開草案)」の概要

                                                                            

                                                                            

                                                                            

    最近の証券・金融市場のグローバル化や企業の経営環境の変化等に対応して企業会

  計の透明性を一層高めていくためには、注記による時価情報の提供にとどまらず、金

  融商品そのものの時価評価に係る会計処理をはじめ、新たに開発された金融商品や取

  引手法等についての会計処理の基準の整備が必要とされる状況にたち至っていると考

  えられる。                                                                

    国際的な動向としても、国際会計基準委員会(IASC)や米国財務会計基準審議

  会(FASB)においては、金融商品に関する会計基準が明らかにされている。  

    当審議会は、このような状況に鑑み、平成8年7月以降、金融商品部会において、

  金融商品に係る広範な問題について審議を重ねてきた。この度、一応の成案を得たた

  め、これを「金融商品に係る会計基準(案)」として公表することとした。      

                                                                            

                                                                            

  本基準の位置づけ                                                        

    当審議会における一連の会計基準等の整備は、○内外の投資者の我が国証券市場へ

  の投資参加を促進し、○投資者が自己責任に基づきより適切な投資判断を行うこと及

  び企業自身もその実態に即したより適切な経営判断を行うことを可能にし、○国際的

  にも遜色のないディスクロージャー制度を構築しようとする基本的認識に基づくもの

  であり、もって、21世紀に向けての活力と秩序ある証券市場の確立に貢献すること

  を目指すものである。                                                      

    今回の意見書も、このような基本的認識に沿った会計基準の整備の一環をなすもの

  である。                                                                  

                                                                            

II  金融商品に係る会計基準の要点及び考え方                                  

                                                                            

1.金融資産又は金融負債の範囲等(適用対象)                                

    金融資産とは、株式その他の出資証券、公社債等の有価証券、受取手形、売掛金、

  貸付金等の金銭債権及びデリバティブ取引により生じる正味の債権等をいう。    

    金融負債とは、支払手形、買掛金、借入金、社債等の金銭債務及びデリバティブ取

  引により生じる正味の債務等をいう。                                        

    金融資産又は金融負債及びそれらを発生又は消滅させる契約を金融商品という。  

                                                                            

2.金融資産又は金融負債の発生及び消滅の認識                                

                                                                            

 (1)  金融資産又は金融負債の発生の認識                                      

      金融資産又は金融負債については、契約締結時においてその発生を認識すること

    とする。                                                                

                                                                            

 (2)  金融資産の消滅の認識要件                                              

      金融資産については、当該金融資産の契約上の権利を行使した場合、契約上の権

    利を喪失した場合又は契約上の権利に対する支配が他に移転した場合に、その消滅

    を認識することとする                                                    

      なお、譲渡人が譲渡後においても譲渡資産や譲受人と一定の関係を継続するとき

    は金融資産を構成する財務要素(財務構成要素)に対する支配が他者に移転した場

    合に当該財務構成要素の消滅を認識することとする(財務構成要素アプローチ)。  

                                                                            

 (3)  金融負債の消滅の認識要件                                              

      金融負債については、当該金融負債の契約上の義務を履行した場合、契約上の義

    務が消滅した場合又は契約上の第一次債務者の地位から免責された場合に、その消

    滅を認識することとする。                                                

                                                                            

 (4)  金融資産又は金融負債の消滅の認識に係る会計処理                          

      金融資産又は金融負債の消滅を認識する場合には、それらの帳簿価額と対価との

    差額を当期の損益として処理することとする。                              

                                                                            

3.金融資産又は金融負債の貸借対照表価額                                    

                                                                            

 (1)  基本的考え方                                                          

                                                                            

    ○  金融資産の貸借対照表価額                                            

        金融資産については、一般的には、取引市場が存在すること等により客観的な

      価額として時価を把握できるとともに、当該価額により換金・決済等を行うこと

      が可能である。                                                        

        このような金融資産については、客観的な時価の測定可能性が認められないも

      のや企業の保有目的等に鑑み実質的に価格変動リスクを認める必要のないものを

      除いて、基本的な考え方として市場価格による自由な換金・決済等が可能な金融

      資産については、これを時価評価することが必要であると考えられる。      

                                                                            

    ○  金融負債の貸借対照表価額                                            

        金融負債については、一般的には市場性に乏しいか、市場性があっても市場価

      格による自由な清算に事業遂行上等の制約があると考えられることから、債務額

      等を貸借対照表価額とし、時価評価の対象としないことが適当であると考えられ

      る。                                                                  

                                                                            

 (2)  金融資産の貸借対照表価額                                              

                                                                            

    ○  原則として取得原価をもって貸借対照表価額とすることが適切な金融資産  

                                                                            

      i) 市場性のない有価証券及び債権                                      

          市場性がなく客観的な時価を測定することが困難であること等から、取得原

        価等をもって貸借対照表価額とすることとする。                        

                                                                            

      ii) 満期保有目的の社債その他の債券                                    

          金利の変動による価格変動のリスクを認める必要がないことから、取得原価

        等をもって貸借対照表価額とすることとする。                          

                                                                            

    ○  子会社株式及び関連会社株式                                          

                                                                            

      i) 子会社株式                                                        

          事業投資と同じく時価の変動を財務活動の成果とは捉えないという考え方に

        基づき、原則として取得原価をもって貸借対照表価額とすることとする。  

                                                                            

      ii)関連会社株式                                                      

          他企業への影響力の行使を目的として保有する株式であることから、個別財

        務諸表において原則として取得原価をもって貸借対照表価額とするものとする。  

                                                                            

    ○  時価をもって貸借対照表価額とするとともに、評価差額を損益計算書に計上す

      ることが適切な金融資産                                                

                                                                            

      i) 売却目的の有価証券                                                

          時価の変動により利益を得ることを目的として保有されるため、投資者にと

        っての有用な情報及び企業にとっての財務活動の成果は時価に求められること

        から、貸借対照表価額は時価によることとする。また、企業が当期中に売却を

        行うにあたっての事業遂行上等の制約がなかったと認められることから、評価

        差額は当期純利益に反映させることとする。                            

                                                                            

        (注) 特定金銭信託・指定金外信託等の信託財産として保有されている運用目

            的の有価証券                                                    

              特定金銭信託・指定金外信託等、運用を目的とする金銭の信託の信託財

            産を構成する金融資産は企業が運用目的で間接的に保有しているものと考

            えられ、受益権に係る信託財産のうち市場性のある有価証券の貸借対照表

            価額は時価によることとし、時価評価に係る評価差額は当期純利益に反映

            させることとする。                                              

                                                                            

      ii) デリバティブ取引                                                  

          デリバティブ取引は、取引により生じる正味の資産又は負債の時価の変動に

        基づき保有者が利益を得又は損失を被るものであり、貸借対照表価額は時価に

        よることとし、評価差額は当期純利益に反映させることとする。          

                                                                            

    ○  時価をもって貸借対照表価額とするが、原則として評価差額を損益計算書に計

      上することが適切ではない有価証券(その他有価証券)                    

                                                                            

      i) 基本的な捉え方                                                    

          売却目的有価証券、運用目的の有価証券、満期保有目的有価証券、子会社株

        式又は関連会社株式のいずれにも分類できない有価証券(その他有価証券)に

        ついては、その多様な性格に鑑み保有目的等を識別・細分化する客観的な基準

        を設けることが困難であること等から、これを一括して捉えることが適当であ

        る。                                                                

                                                                            

      ii) 時価評価の必要性                                                  

          その他有価証券のうち市場性があるものは、客観的な時価を把握することが

        可能であり、かつ、売買・換金等の途が拓かれていることから、貸借対照表価

        額は時価によることとする。                                          

                                                                            

      iii) 時価評価による評価差額の取扱い                                    

                                                                            

        イ)基本的な考え方                                                  

            その他有価証券については、事業遂行上等の必要性から直ちに売買・換金

          を行うことには制約を伴う要素があり、評価差額は当期純利益に反映させる

          ことなく、税効果を調整の上、資本の部において区分掲記を要する剰余金と

          して捉えることとする基本的考え方を採用した。                      

                                                                            

        ロ)評価差額の一部の損益計算書への計上について                      

            時価が著しく下落した有価証券については、原価までの回復の可能性が認

          められる場合を除き、時価による簿価の付け替えを行うとともに、評価差額

          を当期の損益計算書に損失として計上するものとする。                

            他方、これまで企業会計上保守主義の観点から低価法の適用が認められて

          きたところであり、会計処理の連続性の観点も併せ考慮して、時価が取得原

          価を下回る銘柄について、洗い替え方式により計算された損失を損益計算書

          に計上することを認めることとする。                                

                                                                            

        ハ)評価差額の取扱いに関連する諸問題                                

            その他有価証券のうち市場性を有するものの時価評価の取扱いに関しては、

          商法との整合性が求められる個別財務諸表において、ネットの評価損の資本

          の部における取扱い、評価差額の利益処分との関係における取扱い、更に配

          当規制や合併に伴う処理などの企業のガヴァナンスの領域の問題といった広

          範な問題の検討を必要とするが、これらについては、我が国金融・証券市場

          の構造変化、企業経営やガヴァナンス等の分野の動向等を踏まえ商法との調

          整を図ることが必要と考えられる。                                  

                                                                            

      iv)その他有価証券に係る本基準の適用時期                              

                                                                            

        イ)平成12年4月1日以後開始する事業年度においては、その他有価証券に

          関し、期末簿価と時価との差額について税効果を適用した場合の注記を行う

          ことが適当である。                                                

                                                                            

        ロ)本基準の適用は基本的に平成13年4月1日以後開始する事業年度以降、

          連単同時に行うことが望ましいと考えられる。    

            なお、その他有価証券の貸借対照表価額及び評価差額に関する個別財務諸

          表上の会計処理について、商法におけるガヴァナンスの問題等さらに検討を

          要する課題が生じた場合においても、時価評価に関する投資情報等をできる

          限り早期に提供する観点から、平成13年4月1日以後開始する事業年度以

          降、連結財務諸表においては本基準を適用することが適当である。      

                                                                            

          (注)本基準の連結財務諸表からの段階的実施の間においては、期末簿価と

              時価との差額について税効果を適用した場合の注記を個別財務諸表につ

              いて継続し、当該注記事項を基礎として連結上の会計処理を行うことが

              適当である。                                                  

                                                                            

4.貸倒引当金の計上方法                                                    

                                                                            

 (1)  基本的考え方                                                          

      受取手形、売掛金、貸付金その他の債権に係る貸倒引当金については、債務者の

    財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を適切に算定するため、債権を正常債

    権、危険債権及び破産更生債権等に分類し、その分類ごとに貸倒見積高の算定方法

    を示すこととする。                                                      

                                                                            

 (2)  貸倒見積高の算定方法                                                    

      危険債権に係る貸倒見積高の算定方法として、担保の処分及び保証による回収見

    込額を考慮する方法の他、元利金のキャッシュ・フローの予想額を当初の約定利子

    率で割り引いた金額と債権の帳簿価額の差額を貸倒見積高とする方法が認められる。  

                                                                              

5.ヘッジ会計                                                                

                                                                            

 (1)  基本的な考え方                                                          

      ヘッジ会計とは、ヘッジ対象の相場変動等による損失の可能性がヘッジ手段によ

    ってカバーされているという経済的実態を財務諸表に反映させるため、ヘッジ対象

    及びヘッジ手段に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果を財務諸表に

    反映させるための特殊な会計処理をいう。                                  

                                                                            

 (2)  ヘッジ会計が適用されるヘッジ対象とヘッジ手段                          

      ヘッジ会計が適用されるヘッジ対象は、相場変動等による損失の可能性にさらさ

    れている資産又は負債のうち相場等の変動が評価に反映されていないもの及び反映

    されているもので評価差額が損益として処理されないものの他、未履行の確定契約

    又は予定取引により発生が見込まれる資産又は負債も含まれる。              

                                                                            

 (3)  ヘッジ会計を適用するための要件                                        

      ヘッジ取引についてヘッジ会計を適用するためには、                     

                                                                            

    ○  ヘッジ取引時においてヘッジ取引が企業のリスク管理方針に基づくものである

      ことが客観的に認められること                                          

                                                                            

    ○  ヘッジ取引時以降においてヘッジ手段の損益がヘッジ対象の損益を高い程度で

      相殺する効果があることが定期的に確認されていること                    

    の二つの要件が充たされていなければならない。                            

                                                                            

 (4)  ヘッジ会計の方法                                                      

                                                                            

    ○  ヘッジ取引に係る損益認識時点                              

        ヘッジ会計は、時価評価されているヘッジ手段に係る評価差額をヘッジ対象に

      係る損益が認識されるまで繰り延べる方法(繰延ヘッジ)によることを原則とす

      るものとする。ただし、ヘッジ対象である資産又は負債を時価評価できる場合に

      は、ヘッジ手段に係る損益と同一の会計期間にその損益を認識する方法(時価ヘ

      ッジ)も認めるものとする。                                            

                                                                            

    ○  ヘッジ会計の終了等                                                    

        ヘッジ会計は、ヘッジ対象が消滅した時点で終了し、繰延ヘッジの場合には、

      繰り延べられているヘッジ手段に係る評価差額を損益として処理することとする。  

                                                                            

6.複合金融商品(複数種類の金融資産又は金融負債及びそれらを発生又は消滅

    させる契約)                                                                  

                                                                            

 (1)  払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品                

      新株引受権付社債については新株引受権部分と社債部分を区分して処理すること

    とする。転換社債については、両者を区分せず一体として処理することとする。  

                                                                            

 (2)  その他の複合金融商品                                                    

      複合金融商品を構成する個々の金融資産又は金融負債の評価額を合算した上での

    純額をもって貸借対照表価額とする。                                      

                                                                            

  実施時期等                                                                

                                                                            

1.実施時期                                                                

    金融商品に係る会計基準は、その他有価証券の時価評価に関する事項を除き、平成

  12年4月1日以後開始する事業年度から実施されるよう措置することが適当である。  

                                                                            

2.経過措置                                                                

    ローン・パーティシペーションに係る譲渡債権及びデット・アサンプションに係る

  社債については、一定の要件が充たされる場合に限り、消滅を認識することとする。  

                                                                            

3.実務指針等                                                              

    本基準を実務に適用する場合の具体的な指針等については、今後、関係省令を整備

  するとともに、日本公認会計士協会が関係者と協議のうえ適切に措置することが必要

  である。また、業種固有の問題についても実務的取扱いを定めることが必要と考える。

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