平成12年6月23日

企業会計審議会

 

固定資産の会計処理に関する論点の整理

 

I .経緯及び基本的な考え方

 

 企業の実態を適切かつ適時に公表するディスクロージャー制度は、投資者の自己責任に基づくリスク投資と、企業経営に対する有効な外部規律という、資本・金融市場の基本的な秩序を維持するうえで不可欠のインフラストラクチャーである。その中核となる会計基準は、近年の市場環境や企業行動の激変に伴って、急速な変化を余儀なくされてきた。また、市場の国際化の進展により、会計基準の国際的調和が喫緊の課題として求められてきた。

 そうした状況にあって、当審議会は、我が国会計基準の整備を精力的に進めてきた。連結財務諸表、キャッシュ・フロー計算書、中間財務諸表、研究開発費会計、退職給付会計、税効果会計、金融商品会計及び外貨換算会計などの基準の整備が一段落した昨年1022日の総会では、新たに「固定資産の会計処理について」が審議事項に取り上げられ、固定資産の会計処理について幅広い観点から検討することとされた。

 我が国では、昭和24年の「企業会計原則」の設定以来、事業用資産か金融資産かを問わず、それらの評価には取得原価基準が採用されてきた。現行の企業会計では、販売等により投資の成果であるキャッシュ・フローが得られたときに、実現利益を計上しており、それまでは、保有する資産を取得価額で繰り越すことになっている。

 しかし、金融資産―特に自由に換金でき、換金が事業に制約されないもの―はそれ自体が貨幣性資産であり、その価値の変動は換金を待つまでもなく実現利益を構成するキャッシュ・フローの要素とみることができる。当審議会が公表した「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」(平成11年1月22日)は、そうした観点から、売買目的有価証券などの金融商品について時価による評価を定めるとともに、評価差額を当期の純損益に影響させることとしたのである。

 他方、事業用資産については、市場平均を超える成果を期待して事業に使われている以上、市場の平均的な期待で決まる公正価値(時価)が変動しても、企業にとっての投資の価値がそれに応じて変動するわけではない。また、投資の価値自体の変動も、投資の成果であるキャッシュ・フローが得られるまでは実現したものではない。そこで、事業用資産は取得原価から減価償却等の価値減耗を引いた額で評価され、それに基づく実現利益が計上されている。

 しかしながら、事業用資産でも、収益性が当初の予想よりも低下して投資額の回収が見込めなくなったような場合には、価値の下落を帳簿価額に反映させるのが、伝統的な考え方でもある。それは、帳簿価額を下方にだけ修正する点で時価評価とは異質だが、棚卸資産の低価評価や固定資産の臨時償却など、取得原価の期間配分を通じて広い意味での資産評価に組み込まれてきた。

 とりわけ不動産を始め事業用資産の価格や収益性が著しく低下している昨今の状況では、それらの帳簿価額が価値を過大に表示したまま、将来に損失を繰り延べているおそれは少なくない。その疑念が、財務諸表への社会的な信頼を損ねているという指摘もある。投資者にとって有用な情報を提供するうえで、固定資産の評価は避けて通れない問題になっている。

 国際的にも、近年になって固定資産の減損に関する会計基準の整備が進められており、米国財務会計基準審議会(FASB)では平成7年3月に「長期性資産の減損及び処分予定の長期性資産の会計処理」(SFAS121号)を、また国際会計基準委員会(IASC)では平成106月に「資産の減損」(IAS36号)を公表している。さらに本年5月には、投資不動産の評価について、国際会計基準委員会が時価基準と原価基準の選択を認める基準書「投資不動産」(IAS40号)を公表している。

 そのほか、固定資産の会計処理には、取得原価の範囲や減価償却のあり方、不動産の売却や流動化(証券化)など、多くの課題が残されている。それらには、基準の不備や海外の基準との差異が指摘されているもの、海外でも標準的な会計処理が定まっていないもの、過去にも話題になりながら既に実務に根付いているものなどがある。我が国会計基準の整備と国際的調和に当たり、現時点でどの問題を取り上げるかは、検討を要するところである。

 以上のような状況に鑑み、当審議会では8回にわたって第一部会を開催し、固定資産に係る我が国の会計実務や海外の会計基準及びその動向等について審議を重ねてきたが、その結果、投資者に有用な情報を提供し、会計基準の国際的な調和を図るうえで最優先の課題は減損の処理であり、まずその基準を整備することが必要であるという結論に達した。投資不動産については、我が国や米国では有形固定資産と同様に処理をしているが、国際会計基準ではそれを他の有形固定資産と区別して基準を定めているため、その違いにどう対処するかを検討することとした。また、審議の過程で指摘されたその他の事項については、その内容を示すに止め、今後の取扱いは別途検討することとした。

 本論点整理は、これまでの審議を踏まえ、固定資産の会計処理について検討すべき論点を公表するものであり、今後、広く各界から寄せられる意見も参考にし、固定資産の会計処理の具体的な見直しに向けた審議を続けていくこととする。

 

II .具体的論点

1.固定資産の減損会計

 固定資産の減損処理(減損会計)とは、収益性の低下により投資額を回収する見込みが立たなくなった帳簿価額を、一定の条件のもとで回収可能性を反映させるように減額する会計処理である。前述のとおり、それは、帳簿価額の切り上げを認めずに切り下げだけを求める点で、金融商品の一部に適用される時価評価とは異質である。帳簿価額の修正といっても、価値の変動によって利益を測るためではなく、また決算日における価値を表示するためのものでもない。将来に損失を繰り越さないための臨時的な減額と考えることが妥当である。

 この減損を扱う海外の代表的な基準には、前述の米国基準と国際会計基準とがある。米国基準では、帳簿価額が将来キャッシュ・フロー(割引前の総額)を超えるときに減損を認識し、その資産の帳簿価額を公正価値まで切り下げる。これは、減損した資産について、それまでのプロジェクトを清算し、その時点の時価で再び同じ資産を買い戻して新しい投資を始めたとみる考え方に基づいている。しかし、ある資産の帳簿価額が過大だからといって、継続している投資について清算と再投資を擬制する理由や、企業単位で資産価値の低下を認識して株主持分を切り下げる準更生との関係が明確ではないという見方もある。

 他方、国際会計基準では、帳簿価額が回収可能価額を超えるときに、その額まで帳簿価額を切り下げる。ここで回収可能価額とは、その時点の正味売却価格と将来キャッシュ・フローの割引現在価値とのいずれか高い方の額であり、それが企業にとっての「経済価値」であると考えられている。資産の価値が問題なら、そうした考え方は当然といえるが、国際会計基準においても事業用資産を常にそのように評価するわけではなく、減損したときだけこの価値で評価される理由が明確ではないという見方もある。

 当審議会の課題の一つである会計基準の国際的調和の観点からは、基本的には、上述した二つの基準と我が国の基準とに整合性を持たせることが必要であると思われる。しかし二つの基準は、帳簿価額の将来における回収可能性を問題にし、過去の回収状況を問わないという考え方を共有しながら、減損の認識や減損損失の測定では異なった基準になっている。しかも、どちらの基準も、他の基準を否定するだけの論拠が十分ではないという見方もある。どちらの基準の方式を採用するにしても、我が国の関連諸基準との関係を含めて、できるだけ合理的な理由を確認しておく必要があると思われる。

 従来、固定資産会計は、貸借対照表上の評価を含めて、減価償却による規則的な費用配分の問題を中心に議論されてきた。それに対し、減損会計は、将来の回収可能性を見直して帳簿価額を修正する点で、費用配分とは別の観点に立つ資産の評価替えと考えられることも多い。しかし、会計基準においては両者をできるだけ首尾一貫させ、全体として体系的な矛盾が生じないようにすることが望ましい。

 回収可能でない償却性資産の帳簿価額には、過去の見積りに比べて収益性が低下したことによるものもあれば、収益性に変化はなくても、事前に予想される資産価値の減耗に比べた減価償却の遅れという、規則的な償却方法の選択に由来するものもある。帳簿価額を将来の回収可能性に照らして見直すだけでは、両者を混同するおそれがあることから、減損を前者の部分に限るとすれば、過年度の回収額を含めて、投資期間全体を通じた回収可能性を評価する観点が必要という考え方もある。

 また、我が国の会計慣行では、資産の著しい機能低下に対して臨時償却の考え方が適用されるなど、減価償却と減損処理とが重なる部分もみられる。このような臨時償却も、減価償却の遅れと同様、過年度修正の一種と考えられてきたが、減損会計の導入に当たっては、そうした臨時償却との関係を整理する必要がある。

 以上のような観点を踏まえ、実務上の実行可能性にも配慮しながら、減損会計に関する論点として、以下の事項を検討する必要があると考えられる。

 

(1) 基本的な論点

固定資産の評価と利益計算

固定資産の回収可能性を財務諸表に反映させる際に、資産の評価を優先し、決算日における評価額を算定したうえで、その額まで帳簿価額を切り下げる立場がある。価値の下落した資産の評価額には、以下のような類型がありうるので、財務諸表におけるそれらの目的適合性や見積可能性等についてさらに検討する必要がある。

  イ.公正価値(時価)

  ロ.企業に固有の見積将来キャッシュ・フローの割引現在価値

  ハ.見積将来キャッシュ・フローの総額

  ニ.その他(例えば、イ、ロ、ハの条件付適用、混合適用)

資産評価額の類型の検討に際しては、資産の評価額によって将来の費用が決まることから、利益計算との関係を重視すべきであるという意見もある。この意見によれば、特に減価償却と減損処理との関係や、減損損失計上後の年度の利益計算に対する影響に着目する必要がある。

減損会計と類似の会計基準との関係

減損会計の適用の対象となる損失の内容を明確にするために、現行の会計基準で採用されている損失の計上方法と減損会計との関係を検討する。具体的には、棚卸資産の評価損(損傷・品質低下、低価基準、強制評価減)との関係、耐用年数の短縮に伴う臨時償却の処理との関係、有形固定資産の廃棄、災害・事故による滅失による評価損との関係、偶発損失の引当処理との関係などを検討する。

減損の認識

減損を認識する基準については、決算日における帳簿価額の回収可能性に基づいて減損を認識する立場がある。この点については、利益計算における費用配分を重視する観点から、理念的には、投資額(取得原価)の投資期間全体を通じた回収可能性を問題にすべきとの意見もある。

 また、減損損失の測定には見積りの要素が大きいという点を考慮して、減損の存在がある程度確実な場合に限って減損を認識すべきであるという意見と、定められた減損損失の測定基準に基づいた最善の見積りであれば、その結果は常に財務諸表に反映させるべきであるという意見がある。

 減損の認識基準については、以上のような観点を踏まえ検討を進める。

減損損失の測定

減損損失の測定基準については、資産の評価を優先する観点から決算日における評価額までの切り下げによって減損損失を測定する立場がある。

 決算日における評価額までの切り下げによって減損損失を測定する場合、企業の見積りに依拠した基準ではなく、公正価値(時価)のような客観性を重視した基準を採るべきであるという立場と、帳簿価額の回収可能性に関する企業の合理的な見積りを反映した基準とすべきであるという立場がある。

 また、利益計算における費用配分との関係で資産の評価を定める観点から減損損失を測定すべきという意見がある。

 ここで、決算日の帳簿価額の回収可能性に基づいて減損損失を測定すると、前述のように、その損失に、( i )収益性の低下による損失と、( ii )減価償却の不足による損失との、両方が混在するおそれがあるので、本来は( i )の部分を、認識したその期の損失としてとらえる減損概念が必要という意見もある。この意見によれば、過年度の回収額も含め、投資期間全体を通じた回収額を見積り、その価値が当初投資額(取得原価)を下回っていれば、収益性の低下によって減損が生じたとされる。このとき見積った回収額を基に算出される未償却額が、理念的には、減損後の帳簿価額になる。

減損損失の測定については、以上のような観点を踏まえ、検討を進める。

 

(2) 減損会計の対象資産

 有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が、減損会計の対象資産となると考えられるが、投資その他の資産のうち「金融商品に係る会計基準」に定められている金融資産、「税効果会計に係る会計基準」に定められている繰延税金資産、「退職給付に係る会計基準」に定められている前払年金費用については、各基準に減損や評価に関する定めがあるため、減損会計の対象資産から除くことが適当と考えられる。

 我が国では、所有権移転外ファイナンス・リース取引の会計処理として賃貸借処理(オフ・バランス処理)が認められている。賃貸借処理されているリース資産についても、減損会計と同様の効果をもつ会計処理が借手側で可能かどうか検討する。

 

(3) 減損の兆候

 米国基準や国際会計基準では、減損の有無を検討しなければならない固定資産を、減損の兆候がある資産に限っている。これは、全ての対象資産について減損の有無を検討することは実務上困難なため、減損の発生がある程度見込まれる資産に限って詳細に調査する趣旨であると考えられる。

 我が国でも、減損の兆候が存在する資産に限り減損の有無を調査することが妥当かどうかを検討し、妥当であるとすれば、どのような兆候があるときに減損の有無を調査しなければならないのかを、ある程度具体的に例示するよう検討する。

 休止中の固定資産や、当初計画されていたより以前に処分される予定の固定資産についても、減損の兆候の例示に含めるよう検討することが必要と考えられる。

 

(4) 将来キャッシュ・フローの見積り及び割引率

 減損損失の測定に際して、将来キャッシュ・フローの割引現在価値を用いる場合がある。現在価値の計算は、将来の不確実な見積りに基づくものであり、測定の信頼性に欠けるという見方もあるが、今日では、市場で直接に観察可能な時価が入手できないなどの場合に、固定資産の価値を把握するための重要な計算手法となっている。

 現在価値の計算に関しては、先ず、将来キャッシュ・フローの見積方法について検討する必要がある。将来キャッシュ・フローの見積りは、現在価値の計算の目的が、公正価値(時価)の把握にあるのか、企業に固有の価値の把握にあるのかによって、市場参加者の一般的な見積りによるのか、企業固有の見積りによるのか異なってくる。また、将来キャッシュ・フローの見積りには不確実性が伴うことから、将来キャッシュ・フローの見積額として、生起する確率分布から求められた期待値を採るのか、最も生起する確率の高い金額を採るのかという問題も生じる。

 次に、現在価値の計算に際して、どのような割引率を採るのかについても検討する必要がある。減損が生じた固定資産を公正価値(時価)で評価するという観点から、市場価格に代るものとして現在価値を用いる場合には、当該資産に固有のリスクに見合った市場の収益率によって割り引くことが考えられる。また、その資産を企業に固有の価値によって評価する場合には、例えば、当該企業の資本コスト(平均的な収益率)によって割り引くことが考えられる。さらに、これらの収益率が容易に入手できない場合、特定の借入資金によって当該資産を調達している場合など、当該企業の追加借入利子率が合理的と考えられる場合もありえる。将来キャッシュ・フローの見積額に当該資産に固有のリスクを反映させる場合には、無リスク利子率で割り引くという考え方もある。

 なお、将来キャッシュ・フローの見積額と割引率には、税引前のものと税引後のものとがあるが、減損損失は税引前当期純損益の計算に含まれるので、税引前の将来キャッシュ・フローの見積額を税引前の割引率で割り引いて現在価値を計算すべきであると考えられる。

 

(5) 資産のグルーピング、全社資産の減損及び減損損失の配分

 将来キャッシュ・フローを見積るためには、当該固定資産から生ずるキャッシュ・フローが識別可能である必要がある。固定資産は、個別の資産が独立のキャッシュ・フローを生み出す場合もあれば、複数の資産によって構成されるグループが識別可能なキャッシュ・フローを生み出す場合もある。したがって、減損の認識及び減損損失の測定に際してキャッシュ・フローを識別する場合には、合理的な範囲内で資産のグルーピングを認める必要がある。

 一方で、複数の資産グループにまたがる共用資産、本社建物等の全社資産について減損を認識すべきかどうか検討する必要がある。この点については、資産のグルーピングの単位を拡大して、セグメントなど、より大きなグルーピングの単位を認める方法、共用資産又は全社資産の帳簿価額を各資産グループに合理的に配分する方法、これら二つの方法を組み合わせる方法などが考えられる。

 さらに、資産のグルーピングを認めた場合、当該グループに生じた減損損失を各構成資産の帳簿価額にどのように配分させるかについても検討する。

 なお、我が国では個別財務諸表が企業会計の中で大きな地位を占めていることを踏まえ、個別財務諸表と連結財務諸表の関係に留意して、資産のグルーピングの方法及び資産グループのキャッシュ・フローの見積り方法を検討する必要がある。

 

(6) のれん(連結調整勘定)の減損

 企業結合によって取得した資産又は資産グループについて減損を認識する場合、関連するのれん(連結調整勘定)の帳簿価額を当該資産又は資産グループにどのように配分すべきかについて検討する。また、のれんの配分後の資産グループに減損損失が生じた場合、当該減損損失をどのようにグループの構成資産とのれんとに配分するかについても検討する。

 

(7) 減損損失の戻し入れ

 減損損失の計上後、固定資産の収益性が回復した場合、過年度に計上した減損損失の戻し入れを行うかどうか検討する。仮に戻し入れを行うとした場合、その上限は、減損損失計上前の帳簿価額までか、減損損失を計上しなかったならば計算されるであろう帳簿価額までかについても検討する。

 

(8) 減損の会計処理及び表示

 以上の手続によって把握された減損損失については、損益計算書において費用として計上し、翌期以降の減価償却は、減損損失計上後の帳簿価額に基づいて行うものと考えられる。

 減損が生じた固定資産について、貸借対照表上、減損額をどのように表示すべきか、減損損失を損益計算書のどの区分に計上するか、減損損失の戻し入れを行うとした場合に、減損損失の戻入益を損益計算書上どのように表示するのかなどの点について検討する。

 さらに、減損処理(戻し入れを含む)を行った場合に、財務諸表にどのような注記が必要かについても検討する。

 

2.投資不動産(注)

(1) 投資不動産の会計処理

 我が国では投資不動産について有形固定資産と同様の会計処理を行っており、米国を始め多くの国でも投資不動産と有形固定資産の会計処理は取得原価基準で統一されている。しかし、国際会計基準においては、投資不動産については公正価値による評価と取得原価基準による評価のいずれかを会計方針として選択することとされている。公正価値による評価を選択した場合、公正価値の変動は損益とされ、減価償却及び減損処理は行わない。取得原価基準を選択した場合には、公正価値を注記することが求められ、減損会計が適用される。

 国際会計基準によれば、投資不動産は賃貸収益または資本増価という形で他の資産から概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す点で、企業が自ら使用する資産と区別される。一方、我が国では投資不動産も他の有形固定資産と同じ事業用資産であるとされ、これを区分する考え方は一般的ではない。また、公正価値(時価)評価が意味を持つほどには不動産市場は成熟していないという見方もある。

 このような状況に配慮しながら、投資不動産の資産としての性格を明らかにしたうえで、企業が自ら使用する固定資産と異なった評価基準である公正価値(時価)による評価を、投資不動産に適用すべきかどうか、あるいは、そのような選択肢を企業に認めるかどうかについて検討する。

 

(2) 公正価値(時価)情報の開示

 近年の不動産価格の下落により、投資不動産の時価に対する関心が高まっている。このような状況を考慮して、取得原価基準による会計処理を行った場合に、国際会計基準が求めているような公正価値(時価)情報の開示が必要かどうかを検討する。仮に開示するとした場合、開示対象、開示内容、公正価値(時価)の算定方法などについて検討する。

 検討に当たっては、開示情報としての有用性、公正価値(時価)を算定する際の実務上の負担についても考慮する。

(注) 投資不動産に含まれる資産の範囲については必ずしも明確になっていないが、本論点整理においては、さしあたり、国際会計基準に準じて、企業が自ら使用するもの及び棚卸資産を除いた、賃貸収益又は資本増価を目的として保有する不動産を投資不動産としている。

 

III .その他の指摘事項

 審議の過程で、検討が望まれるものとして指摘のあった事項は別紙のとおりである。

 

(別紙)

 

1.固定資産の取得及び処分の会計処理に関する指摘事項

(1) 支払利息の取得原価算入

 支払利息の取得原価算入を任意とする現行実務の妥当性。

 取得原価算入を行う場合における取得原価に算入すべき支払利息の範囲。

 

(2) 購入代金の決済期間が通常より長い場合の会計処理

 固定資産の購入取引で代金の決済期間が通常より長い場合の利息相当額の取扱い。

 

(3) 国庫補助金等で固定資産を取得した場合の会計処理

 国庫補助金、工事負担金等で固定資産を取得した場合の取得原価など。

 

(4) 交換取引の会計処理

○ 固定資産との交換

 固定資産同士を交換した場合に、交換損益を認識せずに交換に供した資産の帳簿価額の引き継ぎを認める範囲の明確化。

 収用等による代替資産の取得を交換に準ずるものとして取扱うことの妥当性。

 交換時点で公正価値(時価)が帳簿価額を下回っている場合の会計処理。

 

○ 有価証券との交換

 有価証券との交換で取得した固定資産の取得原価が有価証券の公正価値(時価)又は帳簿価額とされていることの妥当性。

 

(5) 現物出資により受け入れた資産の取得原価

 現物出資により受け入れた固定資産の取得原価を、株式の発行価額としていることの妥当性。

 

(6) 内部生成無形固定資産の会計処理

 内部生成無形固定資産(ソフトウェアを除く)の計上要件と取得原価に算入すべき支出の範囲。

 

(7) 不動産の売却取引に関する会計処理

 不動産の売却取引の会計処理に関する基本的な考え方(売却損益の認識など)。

 

(8) リース取引に関する会計処理

 所有権移転外ファイナンス・リース取引に関する賃貸借処理(オフ・バランス処理)見直しの必要性。

 セール・アンド・リースバック取引に関する会計処理の基本的な考え方(売却損益の認識など)。

 

2.減価償却に関する指摘事項

(1) 償却方法の選択

 償却方法の選択に関する基本的な考え方(資産の性格に応じた合理的な償却方法の選択など)。

 

(2) 償却方法の変更

 償却方法の変更に関する基本的な考え方(会計方針の変更とするか、会計上の見積りの変更とするかなど)。

 償却方法を変更した場合における過年度減価償却の遡及的修正の要否。

 

(3) 耐用年数(償却期間)及び残存価額

 耐用年数(償却期間)及び残存価額の見積りに関する基本的な考え方。

 営業権の償却期間(商法の規定に基づき5年以内)と連結調整勘定の償却期間(原則20年以内)の整合性。

 営業権及び連結調整勘定以外の無形固定資産について償却期間に一定の制限を設けるかどうか。

 

(4) 耐用年数(償却期間)及び残存価額の変更

 減価償却における耐用年数(償却期間)及び残存価額の変更に関する基本的な考え方(過年度の減価償却に遡って修正するか、変更年度以降の償却計算のみ変更するか)。