1.日 時 平成8年12月10日(火)10時00分~12時00分 2.場 所 大蔵省第一特別会議室(本庁舎3F) 3.議 題 我が国金融機関・金融市場の問題点・課題 金融市場改革の必要性・意義・理念 金融市場改革を検討するにあたっての視点・切り口 金融市場改革により目指すべき方向性 改革のために必要となる具体的な制度の整備 4.議事概要 本会合においては、まず事務局より、金融市場改革について、年内までにはこれま での活性化委員会での議論の整理を行うとともに、当面、検討すべきと思われる各論 のテーマを例示し、年明け以降から各論について検討を行っていただきたいこと、来 年6月頃を取りまとめの一応の目安としたいことを説明し、了承を得た。 次に、金融市場改革について、神田秀樹委員(東京大学法学部教授)および西崎哲 郎委員(国際経営コンサルタント顧問)より総括的なプレゼンテーションがあった。 両委員のプレゼンテーションの概要は以下の通り。 (1) 神田委員 ・ 不良債権問題のために世界の状況に遅れをとってしまったというのが、わが国金 融機関・金融市場の現状 ・ 金融市場改革の必要性・意義・理念としては、 ○.わが国の金融市場を世界の水準に再生する必要がある(これは単に世界と同じ 水準になるという意味ではなく、ニューヨーク・ロンドンと競争できる魅力と活 力を備えた市場を目指すという意味) ○.その意義としては、わが国の金融機関・金融市場の競争力の回復と活性化 ○.改革の理念は、魅力ある金融市場と活力ある金融機関 ・ 金融市場改革の基本的な視点は以下の3つ。 ○.世界的な規模での金融自由化の進展に伴いニーズが多様化していることから、 ニーズに応じた多様な金融仲介サービスの提供 ○.サービスが市場において適切に評価され、その中で取捨選択され、相互に競争 していくという、市場機能を基軸とした金融仲介サービスの展開 ・○.金融システムおよび金融市場の健全性の確保 ・ 金融市場改革の目標は、グローバル・スタンダードを取り入れ、金融市場・金融 機関を活性化させること。ただし、何でも取り入れようとする態度ではなく、魅力 ・活力ある市場について共通の認識を深めた上で、必要なスタンダードを取り入れ る。 ・ 金融市場改革の具体的な方向感としては、 ○.多様な金融仲介サービスの提供との観点から、 ア) 金融機関の業務および商品の自由化・多様化 イ) 金融機関の組織形態の自由化・多様化(持株会社形態の承認。これは、持株 会社でなくてはならないということではなく、組織形態の選択肢を広げるとの 発想) ウ) 技術革新への積極的な対応(電子マネー実験等を含む) ○.市場機能を基軸とした展開との観点から、 ア) ディスクロージャーの一層の拡充(これについては、従来の資産・負債に関 するディスクロージャーだけではなく、各種リスクに関するディスクロージャ ーが必要。) イ) 会計制度の一層の改善 ウ) 市場機能を補完する監督行政(適正な自己資本の要求、リスク管理体制のチ ェック、早期是正等による対応) エ) 顧客保護のためのルール作り(これまで銀行分野においては顧客保護のため のルール作りが必ずしも十分認識されてこなかったが、これからはリスクを伴 う商品が出てくることとなるため、説明義務等そのためのルール作りが必要。 また、この際相手に応じてルールを作ることも考えられる。) ○.健全性の確保 ア) 決済システムの安全性確保(システミック・リスク顕在化の防止) イ) 金融機関の健全性確保(適切な自己資本と適切なリスク管理体制が2大柱。 逆にこうした要件を満たしている金融機関については、業務や商品規制は不要。 利益相反行為についてはディスクロージャーを中心として対処すべき。) ウ) 金融持株会社ないし金融グループに関する制度整備(持株会社については前 向きに検討すべき。最近、米国においては銀行の組織形態に関する議論が盛ん に行われていることも参考にすべき。) ○.その他 ア) 業態的発想からの脱却(業態の廃止) イ) 預貸金業務(特に貸付業務)中心の発想の再考 ウ) 得意分野への特化 エ) 以上をサポートする制度的基盤の整備 (2) 西崎委員 ・ わが国の金融を巡る問題は金融機関の国際競争力の低下と市場の空洞化。 ・ バブル期にはわが国は金融大国になったという錯覚があった。しかし、これは質 的改善ではなく、量的拡大に過ぎなかったため、バブルの崩壊でその脆弱性を露呈 した。この原因としては、すべて規制があったからということでは必ずしもなく、 業界内の横並び意識によって自主的創造力が失われ、競争が十分に行われてこなか ったこともあるのではないか。また、大蔵省は90年代より行政は市場の補完とい うことで金融行政の転換を図ってきたが、これが必ずしも十分ではなかった。 ・ 来年には為銀法が改正され、今後、国際化がますます進展していくこととなるが、 これによって、使い勝手の良くない市場は相手にされなくなるし、また、国民のニ ーズの多様化・高度化に十分対応できなければ、利用者は海外市場に直結し、日本 の金融機関は競争に敗れることになる。金融機関の機能低下は、日本経済の弱体化 に繋がってくる。すなわち、金融市場改革は金融のみの問題ではなく日本経済全体 の問題である。 ・ 金融改革を実施する際には、金融システムの安定化という視点も大切である。現 在金融機関は不良債権の処理を進めている最中であり、早期是正措置の導入に加え、 ビックバンがおこれば一時的に経営の不安定要因となる。ビックバンにより市場原 理にもとづいた競争が行われることとなれば、破綻に陥る金融機関も出てくること も予想され、改革スケジュールを作る際にこうした視点を十分取り入れる必要があ る。 ・ 金融改革においては、業務の自由化という観点から、業態別子会社の業務範囲の 拡大、持株会社の解禁は必要である。金融の証券化の進展により、銀証間の業務の 境は事実上無くなりつつあり、業務分野規制はもっと低くなるべきであろう。また、 金融債、信託の問題もいつまでもほっておく訳にはいかないだろう。 ・ これまでのように業態別で審議会を行ない、行政ベースで調整するというのでは なく、例えば、金融制度調査会と証券取引等審議会、あるいは保険審議会との合同 会議の開催や、さらには大蔵省の金融部局の一本化に対応した審議会の見直しも必 要なのではないか。 ・ 公的金融については、確かに金融制度調査会だけでは議論できないだろうが、適 切な受け皿を作って公的金融の見直しも改革スケジュールに乗せ、ビッグバンの期 限内に実現する必要がある。 ・ ディスクロージャーの促進も金融改革の重要な前提条件となる。ディスクロージ ャーを促進していくには、従来のような横並びの一律の拡大だけではなく、良い金 融機関はマーケット向けに頻度や内容の拡充を任意で行っていく必要があるし、現 実にそうなるだろう。また、商品の多様化・高度化・複雑化にともない、包括的な 消費者保護規定を作る必要もあるのではないか。 こうしたプレゼンテーションを踏まえ、自由討議が行われた。各委員の意見は概ね 以下の通り。 (自由討議における主な意見) ・ 本委員会では、銀行業は如何にあるべきか、どのようにして銀行業の改善を図っ ていくのかをまず検討すべきで、それから他業への参入を議論すべきであるとの意 見があった。 ・ 持株会社については、米国においても、これを利用することにより不良債権問題 の解決も進み、米銀は再生したとの意見があった。また、金融持株会社の議論をも っと進めて、その中でそれぞれの金融機関が何をするのか、それに必要な検査監督 機能が何であるのか等について早期に結論を出すべきであるという意見があった。 ・ 金融市場改革の方向性については異論がないが、一体誰のための改革なのかとい う視点が必要。すなわち、この改革は利用者の利便の向上のために行われるべきも のであり、こうした視点があれば、業態の問題等改革に関する問題の答えも出てく るのではないかとの意見があった。 ・ 金融システムについて日本においても粛々と自由化してきたが、各国が一斉に自 由化したため、日本の金融システムは相対的に規制が強いものとなってしまい、そ れが日本の金融システムの競争力の低下につながっているのではないかとの意見が あった。 ・ 郵貯が問題にされているが、しかし利用者にとって郵貯の利便性や期待感は高ま っている。本来民間活力が活きているとすれば、郵貯なんていらないと利用者が思 うようになるはずであり、このような取り組みがこれまで民間金融機関の側になか ったのではないかとの意見があった。 ・ 金融市場改革を進めていく上で、環境整備、配慮事項(例えば、混乱の防止、金 融市場改革による利用者利便の向上等の効果の均霑等)についても検討していくべ きであるとの意見があった。 ・ 両委員のプレゼンテーションには賛成だが、ニューヨーク・ロンドンに遅れたか ら、キャッチアップするというだけではなく、その前を行くという発想を持つべき ではないかとの意見があった。 ・ 今後の方向としては、リスク遮断に優れた子会社方式によって多角化を図るとと もに、サービスの妨げとなっている法制・税制の改善を行うべきであるとの意見が あった。 ・ 現在の業態問題は、業者と業を明確に区別した議論を行っていないことにある。 個別の企業と機能が密接不可分であるという形になっているのが「業態」という概 念であり、そういう業態概念は廃止すべきである。個々の企業体は必要に応じて免 許を取るなり、廃業するなり、転業するなりの自由を持ってしかるべきである。こ のため、業務に応じて、求められる資格や適格性、必要となる制度的基盤は何かと いった視点が必要であるとの意見があった。 ・ 不良債権処理を進めながら、もくしは信用秩序の維持を図りながら、金融市場改 革を進めていくといった意見があるが、金融システムの安定性確保や不良債権の処 理に関しても、単にそれをサポートしていくというだけではなく、むしろそこにも 市場の力を徹底的に入れていくという方向で考えていくということが重要であると の意見があった。 ・ 従来より金融制度改革は、利用者の立場、国際性、金融秩序の維持という3つの 視点を基本として行ってきた。この3つの視点は今後とも重要である。前回の制度 改革を3つの視点からもう一度見直したうえで、今後もこの視点で改革を進めてい くべきであるとの意見があった。 ・ これまでも規制緩和を実施してきているが、それは比較的利益調整が行いやすい 分野において行われてきており、これからが正念場となる。また、今後、競争の促 進を進めていくのであれば、当然整理淘汰という局面が訪れるはず。その時に生ず るコストを誰が負担するのかということもあらかじめ検討しておく必要があるので はないかとの意見があった。 ・ 日本の銀行に求められているのは利益率の問題。銀行は量より質か求められてい る。また、利鞘で儲けるのではなく、商品設計能力等が重要になってくるとの意見 があった。 ・ 両委員のプレゼンテーションに基本的に賛成である。金融市場改革について、当 委員会における過去5年位の議論でかなりの部分が出尽くしており、先般事務局が 作成した資料(金融制度調査会答申等において指摘された検討事項)を現状を踏ま え、必要な個所についてリニューするということだろうという意見があった。 次回(第12回)会合は、12月26日(木)10時から開催予定。 +-------------------------------+ | 担当者: 大蔵省 銀行局 調査課 松 村、阿久澤 | | 連絡先: TEL 03-3581-4111 (内線2801) | | | | 本議事概要は暫定版であるため今後修正があり得ます。 | +-------------------------------+