第二 政策委員会


+―――――――――――――――――――――――――――――――+

|1  設置                                                      |

|    日本銀行に、その内部の機関として、政策委員会を置く。      |

|    ※  いわゆる役員集会を廃止する。                          |

+―――――――――――――――――――――――――――――――+



  (説明)                                                        

                                                                  

  1.(政策委員会の導入の経緯)                                

                                                                

      政策委員会は、昭和24年の日本銀行法改正において、日本銀行

    の政策の最高意思決定機関として導入されたものである。        

      この政策委員会の導入については、連合軍総司令部のドッジ顧問

    の日本銀行の外部に日本銀行の政策を決定するポリシーボードを置

    くとの構想に対し、外部に置くことの問題点が指摘され、結局、日

    本銀行内部に置くことで決着したという経緯がある。            

      こうした経緯のため、現行日本銀行法においても、政策委員会の

    位置づけが、日本銀行内部の機関か外部の機関かを含め、不明確と

    の指摘がなされてきた。                                      

                                                                

                                                                

  2.(政策委員会の位置づけ)                                  

                                                                

      政策委員会の強化は、日本銀行制度の改革の中核をなしており、

    政策委員会の位置づけの明確化が重要である。政策委員会の位置づ

    けについては、○  独立行政委員会のような日本銀行外部の機関と

    する考え方(米国FRBの例)、○  日本銀行の内部の機関とする

    考え方がある。日本銀行外部の機関とした場合、政策委員会と業務

    執行部門となる日本銀行の間の連携が支障なく行われるか、あるい

    は、政策委員会の事務局と日本銀行の2つの事務局が併存すること

    が非効率ではないかという問題点が存在することにかんがみ、政策

    委員会は、日本銀行の内部の機関と位置づけることが適当と考え  

    る。                                                        

                                                                

                                                                

  3.(政策委員会と執行部門の関係)                            

                                                                

      現在、日本銀行においては、政策委員会の他、定款の定めに基づ

    いて、総裁・副総裁及び理事からなる役員集会が組織されており、

    業務執行の重要事項を審議するとともに、政策委員会に執行部原案

    を提出するための準備段階での審議も行っている。このため、役員

    集会で事実上重要な意思決定が行われている状況を改め、政策委員

    会の活性化を図るべきとの批判がある。                        

      こうした批判に応え、政策委員会がその機能を十分発揮できるよ

    うにし、これを活性化するためには、役員集会を廃止し、政策委員

    会に権限を集中し、名実ともにワンボードとすべきである。      

                                                                

                                                                

+―――――――――――――――――――――――――――――――+

|2  権限                                                      |

|  (1) 次の事項は、政策委員会の議決によるものとする。          |

|    ○  通貨及び金融の調節に関する事項(公定歩合の変更、金融市|

|      場調節方針、準備率操作、金融情勢の基本判断等)          |

|    ○  その他の業務の運営に関する事項(信用秩序維持に資する業|

|      務、考査等)                                            |

|    ○  業務の執行の基本方針に関する事項                      |

|  (2) 政策委員会は、日本銀行の役員の職務の執行を監督する。    |

+―――――――――――――――――――――――――――――――+

 

 (説明)                                                        

                                                                  

(1) (政策委員会の議決事項)                                      

                                                                

    現在、政策委員会の所掌は、現行日本銀行法第13条の3に定めら

  れているが、日本銀行の金融政策運営上、重要度を増している金融調

  節方針が政策委員会の議決事項にされていない等、最近の金融政策の

  変化に照らし、政策委員会への付議事項の範囲が狭いという問題があ

  る。                                                          

    政策委員会が、日本銀行の最高意思決定機関として、日本銀行の政

  策を決定していくためには、政策委員会の付議事項の範囲を拡げるこ

  とが必要である。具体的には、現在、政策委員会の付議事項とされて

  いない金融調節方針、金融情勢の基本判断等について付議事項に加え

  るべきである。また、日本銀行の業務執行の基本方針も、政策委員会

  の付議事項に加えることが適当と考えられる。                    

                                                                

    その際、従来の規定上、政策委員会の所掌か否かが曖昧とされてき

  た事項も少なくないため、政策委員会の付議事項につき、できる限り

  列挙し、その明確化を図ることが適当である。                    

                                                                

                                                                

(2) (業務執行の監督)                                          

                                                                  

    政策委員会は、日本銀行の最高意思決定機関として、業務執行の基

  本方針を決定する権限を有するのと同時に、日本銀行役員による業務

  執行が、政策委員会の定めた業務執行の基本方針のとおりになされて

  いるかを監督する権限と責務も有することとするのが適当である。    

                                                                

                                                                

+―――――――――――――――――――――――――――――――+

|3  組織・構成                                                |

|  (1) 政策委員会は、次の委員9名で構成する。                  |

|          総裁      1名                                      |

|          副総裁    2名                                      |

|          審議委員  6名                                      |

|    ※  政府代表委員を廃止する。                              |

|  (2) 政策委員会の議長は委員の互選による。                    |

|  (3) 総裁及び副総裁は、政策委員会において独立して委員の職務を|

|    行う。                                                    |

+―――――――――――――――――――――――――――――――+



  (説明)                                                        

                                                                  

  1.(政策委員会の具体的構成)                                  

                                                                  

      政策委員会の委員の数については、多数決により議決が行われる  

    ことから奇数が適当と考えられ、また、状況に応じた迅速な判断が

    必要となることから、9名程度が適当と考えられる。            

      さらに、政策委員会の構成については、政策決定と業務執行の有

      機的なつながりを確保するため、総裁以下の執行部の者も含める

      ことが必要であるが、外部の有識者による政策決定により日本銀

      行の金融政策の信認を高めるという趣旨にかんがみれば、定足数

    (2/3)も勘案し、日本銀行執行部から3人、外部から6人とす

    ることが適当である。                                        

                                                                  

                                                                  

  2.(議長の互選)                                            

                                                                

      政策委員会の議長については、政策委員会の民主的運営の観点か

    ら、現状どおり、互選とするのが適当である。                  

                                                                

                                                                

  3.(政策委員の独立した職権の行使)                          

                                                                

      政策委員会において、委員は、独立してその職務を行うが、執行

    部門からの委員である総裁及び副総裁は、業務執行上は、ラインの

    関係にあり、委員としての義務と執行部役員としての義務が相反す

    ることもありうることから、総裁・副総裁につき、政策委員会にお

    いては、委員として独立して職務を行うことを明確にする。      

                                                                

                                                                

+―――――――――――――――――――――――――――――――+

|4  運営方法                                                  |

|  (1) 政策委員会の会議の定足数は、総委員の3分の2以上とする。|

|  (2) 議事は出席した委員の過半数をもって決する。              |

|  (3) 通貨及び金融の調節に関する事項を議事とする政策委員会の会|

|    議を定期的に開催するものとする。ただし、一定の場合に臨時に|

|    同会議を開催することを妨げない。                          |

+―――――――――――――――――――――――――――――――+



  (説明)                                                        

                                                                  

  1.(運営方法)                                              

                                                                

      政策委員会の定足数は、2/3とする。政策委員会の議事は、出

    席者の過半数をもって決することが適当である。                

      法令で定められた以外の政策委員会の議事運営については、政策

    委員会が決定することとする。                                

                                                                

                                                                

  2.(定期的開催)                                            

                                                                

      通貨及び金融の調節に関する事項を審議する政策委員会は、一定

    期間毎の定例日に開催することが適当である。また、米国連邦公開

    市場委員会(FOMC)のように、開催日を事前に周知することに

    より、マーケットに安心感を与え、その信認を得ることが期待され

    る。                                                        

      開催頻度については、臨時会議を頻繁に開くことなく、金融情勢

    の変化に対応しうるよう、定例会議自体を相応の頻度で開催する必

    要があるとともに、あまり頻繁であっても、毎回の会議が充実した

    ものとならないという問題点がある。こうした事情にかんがみ、ま

    たドイツの例を参考とし、定例会議は、月2回程度開催することが

    適当と考えられる。                                          

                                                                

                                                                

  3.(付議内容・審議内容等の事前通知等)                      

                                                                

      米国のFOMC、ドイツの中央銀行委員会等は、当該会議での議

    論が活発かつ有意義に行われるよう、事前に、参加者に付議内容・

    審議資料を送付している。我が国においても、政策委員が適切な準

    備・審議を行えるよう、海外の事例を参考にしつつ、付議内容・審

    議資料等を事前に、政策委員等に通知することが適当である。    

      また、政策委員が事前の十分な検討ができるよう、各政策委員が、

    外部登用も含め、独自のスタッフを持てるよう、環境整備を図るこ

    とが適当である。                                            

                                                                

                                                                

+――――――――――――――――――――――――――――――――+

|5  政府からの出席等                                           |

|  (1) 大蔵大臣若しくはその指名するその職員又は経済企画庁長官若 |

|      しくはその指名するその職員は、必要に応じ、上記4(3)の会議 |

|    (通貨及び金融の調節に関する事項を議事とする政策委員会の会 |

|    議)に出席し、意見を述べることができる。                   |

|  (2) 政府からの出席者は、通貨及び金融の調節に係る事項に関する |

|    議案を提出することができる。                               |

|      また、政府からの出席者は、次回の同会議まで委員会の議決を |

|    延期することを求めることができる。この場合には委員会は、そ |

|    の求めについての採否を決定するものとする。                 |

+――――――――――――――――――――――――――――――――+



  (説明)                                                      

                                                                

  1.(日本銀行の金融政策と政府の経済政策の整合性の確保)      

                                                                

      日本銀行の金融政策は、政府の行う経済政策と相まって、国民経

    済の健全な発展に寄与するものであり、両者の整合性が確保される

    ことが必要である。このため、日本銀行は、常に政府と連絡を密に

    し、十分な意思疎通を図ることが必要であり、両者の金融政策に関

    する意見が異なった場合に政策の整合性を確保するための明確かつ

    透明性の高い仕組みを用意する必要がある。                    

                                                                

                                                                

  2.(政府からの出席)                                        

                                                                

      政府との連絡を密にし政策の整合性を確保するとともに、その過

    程の透明性を高める観点から、必要に応じ政府から政策委員会に出

    席できることとすることが適当である。議案の議決は、政策委員会

    の多数決で決定されるが、政府からの出席者は議決権がなく、政策

    委員会の独立性は阻害されることはないと考える。              

      こうした仕組みにより、政府の意見が政策委員会に対して直接伝

    えられるとともに、政策委員会において表明された政府の意見とそ

    れを巡る議論が議事要旨の公表等を通じて公開され、政府と日本銀

    行の政策調整の透明性が高まるというメリットがある。          

      多くの国(欧州中央銀行、ドイツ、フランス等)でも、中央銀行

    の金融政策の意思決定機関に政府から出席する権利を認めるが、政

    府からの出席者に議決権は付与しないという制度が採られている。  

      なお、政府からの出席者は、現行の政府代表委員と異なり、通貨

    及び金融の調節に関する事項を議事とする会議に必要に応じ出席す  

    ることとし、それ以外の会議には出席しないこととする。          

        政府からの出席者については、設置法上、「国の財務」、「通

    貨」、「金融」、「外国為替」等の行政事務等を一体的に遂行する

    責任を負う大蔵省及び、「物価に関する基本的な政策の企画立案及

    び推進」、「経済に関する基本的な政策の総合調整」等を事務とす

    る経済企画庁から、それぞれ1名ずつとすることが適当である。    

                                                                

                                                                

  3.(政府からの出席者の役割)                                

                                                                

      中央銀行研究会報告では、「金融政策に関する意見が異なる場合

    には、政府が政策委員会に対して、その判断を一定期間留保するよ

    う求めることを含めて、政府の意見を政策委員会に提出することを

    確保する方式を用意すべきである。」とされており、本金融制度調

    査会は、この報告の具体的な仕組みについて検討を行った結果、政

    府からの出席者が通貨及び金融の調節に係る事項に関する議案を提

    出し、また、委員会の議決の延期を求めることができることとする

    ことが適当であるとの結論に至った。                          

      このうち、政府が議決の延期を求めた場合、自動的に議決が延期

    される仕組みとするか、政策委員会がその採否を決定できる仕組み

    とするかについては、日本銀行の金融政策運営における独立性を強

    化する観点から、後者の仕組みをとることが適当であると判断した。

      ただし、後者の仕組みによる場合においても、政府と日本銀行の

    政策の整合性の確保のみならず、国民にその過程を明らかにすると

    いう透明性の確保のためには、政府にその見解を政策委員会におい

    て十分説明する機会を与えることが重要である。したがって、政策

    委員会は、この仕組みが政府と日本銀行の間で金融政策に関する意

    見が異なる場合の政策調整の仕組みとして用意されているという趣

    旨を踏まえ、その運営に当たり、政府の見解が十分に説明されない

    まま議決が行われることのないよう、十分な配慮が必要であると考

    える。                                                      

      なお、政府が議決の延期を求めることのできる期間については、

    次回の通貨及び金融の調節に関する事項を議事とする政策委員会の

      会議(臨時に開催される会議を含む。)までとすることが適当で

    ある。                                                      

                                                                

                                                                

+――――――――――――――――――――――――――――――――+

|6  議事録等の公開                                             |

|  (1)    政策委員会の議長は、上記4(3)の会議(通貨及び金融の調節|

|    に関する事項を議事とする政策委員会の会議)の終了後、速やか |

|    に、政策委員会の承認を得て、その会議の議事の概要を公開する |

|    ものとする。                                               |

|  (2)  政策委員会の議長は、上記4(3)の会議の議事録を、その開催日|

|      から相当期間(政策委員会が決定)経過後、公開するものとす |

|    る。                                                       |

+――――――――――――――――――――――――――――――――+



  (説明)                                                      

                                                                

  1.(通貨及び金融の調節に関する事項を議事とする政策委員会の会

    議の議事要旨の公開)                                        

                                                                

      金融政策決定過程の透明性の確保の方法として、通貨及び金融の

    調節に関する事項を議事とする政策委員会の会議の議事要旨を、一

    定期間経過後速やかに公開することが適当である。その公表に先立

    ち、政策委員会の承認を得ておくことが議事要旨の客観性を高める

    ためにも必要である。                                        

                                                                

                                                                

  2.(通貨及び金融の調節に関する事項を議事とする政策委員会の会

    議議事録の公開)                                            

                                                                

      議事要旨の公開に加え、通貨及び金融の調節に関する事項を議事

    とする政策委員会の議事録を、相当期間経過後に公開することが有

    意義である。ただし、政策委員会での自由な討議の妨げとならない

    ような配慮も必要である。相当期間をどの程度とするかは、政策委

    員会において、自ら決定することが適当と考えられる。          

                                                                

                                                                

  3.(通貨及び金融の調節に関する事項を議事とする政策委員会の会

    議以外の政策委員会の議事要旨・議事録の公開)                

                                                                

      通貨及び金融の調節に関する事項を議事とする政策委員会の会議

    以外の政策委員会においては、信用秩序の維持に関する事項、国際

    金融に重大な影響を与える事項、私企業の秘密に関する事項等が審

    議されることから、公開に当たっては、その審議内容等に応じ、慎

    重な取扱いを要する場合があると考えられる。したがって、これら

    の議事録等については、法的に一律に要件を定め公開を義務づける

    よりも、政策委員会の判断により取扱いを決定することが適当であ

    る。                                                        

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