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第10回金融審議会第二部会議事要旨
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1.日 時 : |
平成11年8月24日(火) 10時00分〜12時00分 |
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2.場 所 : |
大蔵省第3特別会議室 |
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3.議 題 : |
「預金保険制度に関する論点・意見の中間的な整理」に基づく金融サービス利用者からのヒアリング及び自由質疑 アメリカにおける金融機関の破綻処理制度について(事務局説明) 「保険の基本問題に関するワーキンググループ」の設置について |
4.議事内容 |
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○ | はじめに、今回から新たに第二部会のオブザーバーとなった花野昭男[はなの あきお]預金保険機構理事の紹介があった。 |
○ |
次に、「預金保険制度に関する論点・意見の中間的な整理」に基づく金融サービス利用者からのヒアリングが行われた。 |
<金融サービス利用者から発表された意見の概要> 土山淑郎[つちやま としお]大阪ガス株式会社常務取締役 |
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▼ | ペイオフは2001年4月に解禁されると承知しているが、それには前提条件として、景気対策等による日本経済の回復と、早期是正措置の厳格運用及びそれに伴う金融機関再編等による金融システムの安定化が求められると理解している。 |
▼ | 現時点では、この前提条件は未達成であるが、ペイオフ解禁を延期すれば、(1)2001年4月のペイオフ解禁は一種の国際公約とも目され、日本の金融システムに対する国際的な不信感は増大し、ジャパンプレミアム問題の再燃にもつながりかねないこと、(2)預金者・金融機関双方のモラルハザード(預金の全額保護を逆手に取った、高金利による預金獲得等)を助長しかねないこと等の問題が発生し、わが国経済の構造改革を進め、国際的に遜色ないシステムを構築する上での大きな弊害になるので、延期すべきではない。 |
▼ | ペイオフ解禁までに、金融再生法により導入されている一部制度(ブリッジバンク制度、公的管理制度)の継続や、米国で行われているP&Aの導入等を通じて、ペイオフ以外の破綻金融機関処理の手法の整備を終えておく必要がある。 |
▼ | また、ペイオフ解禁に向けては、決済性預金を何らかの方法により保護する制度を構築することも必要である。その実際の方法としては、事前に決済口座(有力候補は当座預金)を登録させた上で、その口座をペイオフの対象から除外し、全額保護することが考えられる。その場合、何をもって決済口座と定義するか、決済口座への資金シフトをどう見るか、等の難しい問題もあるが、企業経営における決済性預金の重要性に鑑み、決済の即時性推進や優先相殺等の手法の導入等も含め、是非何らかの方策をご検討いただきたい。その際、中小企業は決済口座を単一又は少数の銀行にしか設置していないことが多く、金融機関破綻時の影響が大企業より深刻なものとなる可能性が高いことには、特にご留意いただきたい。 |
▼ | ガス・電力・通信等の公益事業の料金徴収は、ほぼ全面的に銀行の提供する決済システムに依存しており、即座に利用できる代替手段もない。従って、決済性預金の保護を行わぬままペイオフを実施すれば、公益事業の料金徴収に多大な影響が出る可能性のあることにもご留意いただきたい。 |
▼ | 一昨年来の金融機関の破綻による金融機能の不安定化と実体経済の不安定化の悪循環に鑑みれば、中堅企業による資本市場への直接的なアクセスを容易にするための環境整備等を急ぐことを通じ、企業の直接金融へのパイプを強化し、バランスのとれた金融市場を構築する必要がある。 |
神谷一雄[かみや かずお]松久株式会社代表取締役社長 |
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▼ | 私が特別顧問を勤めている東京商工会議所は、先月の役員懇談会において、ペイオフ解禁問題も含めた当面の課題についての緊急アピールを取りまとめた。当該アピールにおいては、P&A等の具体的な破綻処理制度の導入と、決済性預金を保護するセーフティネットの構築なくして、ペイオフの解禁には賛成しがたいとされた。 |
▼ | わが国経済の根幹である中小企業は、金融取引に関しては極めて弱い立場にある。すなわち、その資金繰りを間接金融に強く依存していることに加え、資金需要の規模が小さいことから金利が割高になることや、拘束性預金を要請されることもある。加えて、貸し渋りの対象にもなり易い。 |
▼ | また、地域経済に密着した存在である中小企業は、地域密着型金融機関との取引が主流となることが多いが、地域によっては代替金融機関が極めて少なく、事実上、取引先金融機関の選択ができない中小企業も多い。 ペイオフ問題を論じる際には、是非こうした中小企業の金融特性や地域の金融事情というものにご配慮いただきたい。 |
▼ | 5月に行われた日銀のアンケートでは、ペイオフの制度内容と解禁時期のどちらも正確に把握しているのは、アンケート対象者の2割に過ぎないとされている。こうした状態でペイオフが行われれば、預金の全額保護に慣れ親しんだ預金者の不安心理が中小金融機関からの預金シフトを生み、ひいては中小企業の資金調達に支障をきたしかねない。 |
▼ | 経済への影響ができるだけ小さくて済むような破綻金融機関の処理制度の充実も必要である。具体的には、(1)時限立法である金融再生法・金融早期健全化法の存続、(2)米国で行われているP&Aの導入、(3)ペイオフ上限額の見直しをはじめとする新スキームの構築、(4)仮払金額の見直し及び迅速な預金払戻し手法等を検討すべきである。中でも、ペイオフによる破綻処理は、預金者の口座を一旦失わせる上、破綻金融機関の清算を前提とするが故に健全な借り手までも資金調達先を失ってしまうといった影響を伴うことから、P&Aの導入は大いに検討に値する。なお、地域によっては、同一地域に金融機関が少ないことなどから継承先を見つけることが困難となるおそれがあるため、わが国の経済社会になじみ易い制度の構築が求められる。 |
▼ | 資金繰りは中小企業の命脈であることを考えると、その決済性預金については、全額保護も含め、万全の対策を講じることが必要である。 |
▼ | システミックリスク発生のおそれのある場合、米国のように、預金全額保護や破綻金融機関の救済等の例外的措置を講ずることが出来るようにしておくことも必要である。また、直ちにP&Aを活用できない場合に備え、金融再生法によるブリッジバンク制度や金融整理管財人による管理制度の存続等、多様な対応策を検討すべきである。 |
▼ | ペイオフ解禁により預金者に自己責任を問うならば、その前提として、預金者に自己責任を問い得るだけの適切な内容のディスクロージャーが必要である。 |
村上忠行[むらかみ ただゆき]連合総合政策局長 |
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▼ | 預金保険制度におけるペイオフ凍結は、これまでのような金融システム不安下においては、安定化のために必要なものと理解している。 |
▼ | ペイオフ解禁に向けての問題の一つは、国民がペイオフ制度について必ずしも正確に理解していないことである(例えば「預金のうち1,000万円超の部分は一切払戻されない」との認識等)。政府は、ペイオフ制度がどのようなものであるか、又何故現在凍結されているのか等について十分な周知を図るべきである。 |
▼ | 国民は、金融システム不安、不良債権問題、金融不祥事、破綻処理負担の増大等から、金融行政・金融機関・政治への不信を強めている。90年代の経済停滞の責任は金融行政と金融界にあることを自覚するとともに、金融機関に対しては明確な経営責任を問うべきである。 |
▼ | ペイオフ実施に向けては、国民に金融システムに対する安心感と信頼を取り戻させるとともに、ペイオフ解禁までに金融システムの安定化と景気回復を図ることが極めて重要である。行政当局は、金融機関の経営健全化を図るべく、検査・モニタリング機能を強化し、金融機関の経営状況を正確に把握するとともに、万が一の事態に迅速に対応できる体制の整備を早急に行う必要がある。 |
▼ | 金融機関の健全性・経営努力を示す情報が十分に開示されておらず、預金者が適切な選択を行うことができないことも、ペイオフに向けての問題の一つである。預金者が判断を誤らないように分かり易い諸指標を提示する等、情報公開のあり方についても早急に検討する必要がある。 |
▼ | ペイオフ凍結の特別措置は、現在のような、金融に対する不信・不安が続いている状況では必要であるが、預金者や市場による金融機関のチェック機能が働かず、金融機関の努力が遅れるなどモラルハザードの問題も伴っている。 |
▼ | ペイオフ解禁に当たっては、(1)金融システムの安定化が確保されていること、(2)景気回復がなされていること、(3)日本型P&Aやブリッジバンクといったセーフティネット・迅速な対応スキームが整備されていること、が必要である。今後とも、金融機関と金融行政双方が条件達成に向けて最大限努力する必要がある。 |
▼ | 一般預金者の視点からは、現行のペイオフ限度額である1,000万円を引き下げることには反対である。 |
▼ | 労働組合、生活協同組合、マンション管理組合、NPO等の非営利団体の預金については、預金の性格(例えば労働組合の預金は、ストライキの際の賃金補填のために組合員から集められ、一つの名義で預託されたものである。)に鑑み、別途の保護方策が必要である。 |
▼ | 決済性預金については、現行制度のままペイオフを実施すれば、中小零細企業等は資金繰りに行き詰まり、賃金支払の遅延や連鎖倒産が生じる。中小零細企業の決済性預金については、ペイオフ実施時に迅速な払戻のできるスキームを構築しておく必要がある。 |
▼ | 仮払金の現行水準20万円は、現状の生活水準に鑑み、3倍程度引き上げられるべきである。同時に、事故・医療費等の不時の出費について、別枠で迅速に支払われる仕組みが必要である。加えて、預金者のローン・カード決済遅延によるペナルティが、預金者個人に課されないようにする制度も必要である。 |
▼ | 銀行の取扱う商品も、証券・保険・共済など多様化する中、現状は金融商品毎の利用者保護策に有無・差異があるが、利用者の立場から言えば、金融商品について論理的、平明、かつ納得のいく、総合的な利用者保護策が必要である。 |
▼ | 破綻処理制度の整備の際には、国民負担を最小化するとの観点が重要である。すなわち、時限立法である金融再生法に定めるブリッジバンク制度等は手直ししつつ存続させるべきであり、米国で一般的なP&Aの導入などを検討し、迅速かつ最小コストで破綻に対応できるスキームを用意すべきである。 |
日和佐信子[ひわさ のぶこ]全国消費者団体連絡会事務局長 |
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▼ | ペイオフ凍結の延長は金融機関のモラルハザードの蔓延を招き、破綻処理にかかる公的資金を増大させ、ひいては国民負担を重くすることになるため、ペイオフ解禁は予定通り実施すべきである。 |
▼ | 現行制度における、1,000万円のペイオフ限度額は、勤労者世帯の貯蓄額が大半が800万円以下であること(総務庁・貯蓄動向調査)を考えると、妥当な水準である。 |
▼ | 但し、仮払金については、消費者の主たる貯蓄目的が病気・災害への備え、老後の生活資金、教育資金等であること(貯蓄広報中央委員会)に鑑み、現行水準を増額するとともに、消費者が必要とする金額を迅速に支払える仕組みを整える必要がある。仮払金の迅速な支払の実現には、名寄せに時間もコストもかかることが障害になるとの声も聞かれるが、預金者データがオンライン化されている昨今、迅速に名寄せを処理するシステムの構築には、さほど時間も費用もかからないものと認識している。 |
▼ | ペイオフ解禁に向けての必要な施策として、(1)消費者への情報提供を十分に行い、消費者の制度理解を深めること(現状では1,000万円を超える預金はカットされる等の誤った認識が広まっている)、(2)低金利下、利用の拡大している外資預金を預金保険の保護対象とすること、(3)米国のP&Aを導入する等、セーフティネットの整備が行われること、(4)金融機関の経営内容の早期把握・経営健全化の早期実施、が挙げられる。また、併せて金融機関のディスクロージャーが公正・透明でかつわかりやすく行われるようにすることも重要である。 |
荒巻禎一[あらまき ていいち]京都府知事 |
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▼ | 京都府は、歳計現金である公金預金200〜300億円(平均残高)を指定金融機関(議会の議決を経て決定。1機関のみ。)に、中小企業・農林漁業向け制度融資や福祉対策のための預託金670億円を幅広く地元金融機関に、特定目的のために積み立てている基金720億円を指定金融機関を中心とする一定の取引関係のある金融機関に、それぞれ預金している。 |
▼ | 地方公共団体の公金預金に対しては、その特性に鑑み、特別の配慮が必要である。すなわち、地方公共団体の公金預金も、基本的には安全・確実な運用を行うことのできる金融機関に預けるべきものであるが、地方公共団体は住民の生活向上と地元産業の振興という使命のために活動していることもあって、安全・確実な運用という基準だけで預金預け先を決定できるものではない。例えば、地域振興や環境対策等の目的での制度融資を行う場合、制度融資の対象となる企業等の取引先金融機関に公金を預託しなければならない。また、公金預け先を安易にシフトさせれば、公金預金を引き出された金融機関の経営内容に対する信用失墜を招くことになりかねない。 |
▼ | 公金は地域住民が地方公共団体に預託したもの、すなわち住民の預金の変形とみなすべき性質のものであるが、その住民のうち、1,000万円以上の納税をしている者は、ごくわずかに過ぎない。従って、大部分が零細な住民からの税金であり、少額貯蓄の保護という預金保険制度本来の趣旨からしても、公金預金の保護は必要である。公金の特殊性と地方公共団体としての使命に十分なご配慮をいただき、ペイオフの特例として公金が保護されるようなセーフティネットを検討していただくようお願いしたい。 |
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続いて、金融サービス利用者からの意見発表を踏まえ、自由質疑が行われた。 |
<自由質疑での主な意見>
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▼ | 公金預金をペイオフの対象外とすることは、ペイオフ制度に極めて大きな例外を作ることになるのではないか。 |
▼ | 公共事業の前払金保証制度において、保証料を負担するのが前払金を支出する地方公共団体ではなく工事請負業者であるのと同様に、セーフティネット維持のためのコストは、セーフティネットにより保護される預金者ではなく、預金を受入れた金融機関が負担すべきではないか。 |
▼ | 金融機関に公金預金保護のためのコストを負担させたとしても、その負担分は結果として金融機関の利用者に転嫁され、最終的には巡り巡って住民の負担に帰すことになるのだから、必ずしも社会的なコスト負担をミニマイズすることになるとは限らないのではないか。 |
▼ | 資金繰りは企業経営の命脈であり、預金保険制度によるかどうかはともかく、企業の決済性預金は全額保護すべきではないか。 |
▼ | 預金保険制度の概略についての分かり易いパンフレットを作成するとともに、それを広範に頒布するための工夫をこらすことが必要ではないか。 |
▼ | 一般的に言って、国民に対するマスメディアの影響は大きいので、金融当局は、TV番組枠を購入したり、新聞に広告を掲載することを通じて、預金保険制度について国民に周知するべきではないか。また、インターネットを通じた広報活動も、一定の層には効果が高いのではないか。 |
▼ | 金融機関に適用される会計基準においては、有価証券の評価方法について時価と簿価の選択が可能となっていること等に照らせば、預金者に自己責任を問うに足るディスクロージャーがなされているとは言い難いのではないか。 |
▼ | ペイオフ解禁により「郵貯シフト」が一挙に加速し、ひいては中小企業に対する貸し渋りにつながる恐れがあることから、郵便貯金と民間金融機関との条件の平等(名寄せの厳格な実施等)を確保するようにすべきではないか。 |
▼ | 郵便貯金にも民間金融機関同様に預金保険料を負担させる等、民営化されたのに等しい状態とするのも一つの方策であろうが、現行制度では貯金額が1,000万円に限定されているので、そこまでの措置の必要はないのではないか。 |
▼ | 金融システムの安定化に関して、景気動向というのは極めて大きなポイントとなるもので、今後の景気動向次第では、金融システム不安が再燃する可能性のあることに留意すべきである。 |
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続いて、アメリカにおける金融機関の破綻処理制度について、事務局より配布資料に沿って説明が行われた。 |
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最後に、「保険の基本問題に関するワーキンググループ」の設置について、事務局より配布資料に沿って説明が行われた。 |
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