金融審議会第二部会では、預金全額保護の特例措置終了後の預金保険制度のあり方について検討を行っています。本「特例措置終了後の預金保険制度等に関する基本的な考え方」は、骨格となる部分についての基本的な考え方をとりまとめたものであり、公表して広く内外の意見を募ることとしたものです。

 皆様から幅広いご意見が寄せられることを期待しています。

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)本「基本的な考え方」に対し寄せられたご意見は、今後当部会において審議の材料とさせて頂くとともに、事務局にてとりまとめ、審議資料として公表される可能性があることをお含み置き下さい。


特例措置終了後の預金保険制度等に関する基本的な考え方

平成11年10月19日
金融審議会第2部会

 

 

.はじめに

(1)  金融機関の破綻処理については、金融システムの安定化を図る観点から、平成8年度から12年度までの時限的な特例措置として、ペイオフコスト(保険金支払に要すると見込まれる費用)を超える資金援助等を行うことにより預金等の全額保護が図られている。また、金融機能再生緊急措置法及び金融機能早期健全化緊急措置法において、平成12年度までの時限的な特例措置が設けられており、預金等の全額保護が図られている間に、金融機関の不良債権処理を基本的に終了し、更に、その財務内容の健全化を進めることによって、ゆるぎない金融システムを確立することが求められている。このため、預金保険機構に対して、交付国債及び政府保証等による財源措置等が講じられている。

(2)

 預金等の全額保護のための特例措置は平成12年度限りで終了することが法律で予定されており、その後は、預金者等が金融機関の破綻による損失の一部を負担することがある体制に移行することとされている。その際の金融機関の破綻処理方式としては、現行の預金保険法本則において、保険金支払方式(ペイオフ)と一般資金援助方式(譲受金融機関への営業譲渡等に対してペイオフコスト内の資金援助を行う破綻処理方式)の二つの方式が措置されている。

(3)

 金融審議会第2部会としては、「安心で活力ある金融システムの構築」を実現するためのテーマの一つとして、「恒久的な」金融機関の破綻処理及び預金保険制度のあり方について検討を行っている。
 今回、第2部会として、特例措置終了後の預金保険制度等の骨格となる部分についての基本的な考え方を、以下のようにとりまとめたところである。今後、各界各層からの意見等を踏まえた上で、更に詰めるべき論点や特例措置が終了するまでに整備すべき環境等を含めた最終的な考え方をとりまとめることとしたい。
 

 

.市場規律を中心とした預金者等の保護

(1)  預金保険制度は、金融機関の経営破綻に際して預金者等の保護を図るという、言わば事後的な対応措置であるが、預金者等の保護の基本は、健全で収益力の高い金融機関経営を確保することにある。したがって、個々の金融機関において、適正な会計処理や内部管理の向上等による経営の健全性の確保はもとより、新たな金融商品の開発、顧客の信頼の獲得などの点に関し、21世紀を見据えた真摯な努力が求められる。

(2)

 預金等の全額保護という特例措置終了後においては、金融機関の破綻を未然に防止することが預金者等を保護する上で最も肝要であり、そのために、問題金融機関を早期に発見し早期に是正することが重要となる。
 問題金融機関の早期発見・早期是正については、市場規律による金融機関のモニタリングが有効に機能することが求められるが、それと併せて、監督当局における、(a)検査・モニタリングの充実・強化、(b)早期是正措置の適時適切な運用などが必要である。

(3)

 なお、現在の金融市場における決済慣行・企業行動等は、預金にリスクがないことを前提として成り立っているが、特例措置終了後においては、その前提を変更せざるを得ないため、多様な資金運用・調達・決済手段が提供されることにより、市場規律と自己責任原則に立脚した金融システムにふさわしいものとなることが望まれる。
 

 

.金融機関の破綻処理のあり方

(1)  基本的考え方
 預金保険制度の本来の目的は少額預金者の保護であり、特例措置終了後においては、保険負担やモラル・ハザードを減少させるためにも、基本的に「小さな預金保険制度」を目指すべきであると考える。このような観点から、金融機関の破綻処理においては、回復の見込みがなくなった金融機関を、問題を先送りすることなく早期に処理することが重要となる。
 一方、(2)以下に述べる措置を講ずることによって金融機関の破綻処理が迅速に行われれば決済機能の保護や借り手の保護にも資することを踏まえると、預金保険制度の役割・機能については、ある程度弾力的に考える余地もある。

 金融機関が破綻した場合には預金保険制度の発動により処理されることになるが、その場合には、破綻金融機関を存続させないことを前提として、ペイオフコストの範囲内で破綻処理に要するコストがより小さいと見込まれる処理方法を選択するとともに、破綻金融機関の有していた金融機能を維持するなど破綻に伴う混乱を最小限に止めることが重要となってくる。
 そのために、金融機関の破綻処理方式としては、破綻に伴う損失負担により預金等の一部がカットされることは同じであるが、譲受金融機関が破綻金融機関の金融機能を引き継ぐことになる一般資金援助方式の適用を優先し、金融機能まで消滅させることになる保険金支払方式(ペイオフ)の発動はできるだけ回避すべきである。その際、破綻処理を迅速に行うことができるような措置を講ずるとともに、破綻の態様に応じ処理方式を多様化しておくことも必要になる。

 なお、預金保険の発動に際しては、金融機関を破綻に至らしめた経営者等に対して厳格な責任追及がなされ、株主・出資者等の損失負担が行われることは当然のことであり、また、悪質な借り手への責任追及と債権回収の徹底が重要であることは言うまでもない。


(2)

 一般資金援助を伴う営業譲渡等の迅速化
 現行の一般資金援助方式の下で営業譲渡が行われる場合、監督当局による業務停止命令や司法手続による保全処分によって預金等の払戻しや融資機能が停止されることが想定されるが、それにより、預金者等に多大な影響が生ずるのみならず、決済機能を含む金融機関の営業体としての価値(フランチャイズ・バリュー)が急激に低下するなど、地域経済や金融システム等に対して大きな影響を与える可能性がある。
 したがって、金融機関の破綻に伴う混乱を最小限に止めるために、一般資金援助を伴う営業譲渡を迅速に行うことにより、破綻金融機関が有していた金融機能をできるだけ早く譲受金融機関に引き継ぐことが、極めて重要となってくる。

 一般に、預金等の一部カットのような私権の一部剥奪を伴う倒産処理は、最終的には司法手続に依らざるを得ない。しかし、金融機関の破綻処理を迅速に進めるためには、司法上の手続に入ることを前提として、その前に司法手続の外で破綻金融機関の営業譲渡を行うという手法が有効であり、このような手法を可能とするためには、(a)事前準備、(b)資金援助が可能になる場合の拡大、(c)営業譲渡手続の迅速化・簡素化、等について特別な手当が必要となる。


(a)

 事前準備
 金融機関の破綻処理を迅速に行うためには、名寄せや資産内容の把握等が事前に行われていることが求められる。したがって、預金保険機構及び監督当局が密接に連携をとりながら、実際に破綻が起こる前に、破綻処理に備えて可能な限りの準備を行っておく必要がある。

 また、一預金者当たり一定限度額(現行1000万円)まで保護するという預金保険制度の下で、金融機関の破綻処理を行うためには、破綻した金融機関の預金者等の名寄せを行うことが不可欠である。
 破綻時に預金保険機構において名寄せ作業を開始することとすると、名寄せ作業そのものが迅速な破綻処理の障害となる。破綻処理の迅速化という観点からは、金融機関に対し、少なくとも当面、平時から預金者データを預金保険機構にスムーズに引き継ぐことができるためのシステム対応を求め、更に、預金保険機構が金融機関の対応状況を把握できるようにすることが必要となる。


(b)

 資金援助が可能になる場合の拡大
 現行の預金保険法本則の営業譲渡における一般資金援助は、破綻金融機関が譲受金融機関に対して営業の全部を譲渡した際に、営業譲渡時に譲受金融機関に対して行われることを前提としている。
 しかしながら、上記の場合以外にも資金援助を可能にすれば、破綻の態様に応じた多様な破綻処理を行うことが可能となり、破綻処理の迅速化にも資することになることから、営業の一部(例えば、健全資産と付保預金)のみを譲渡した場合の資金援助、営業譲渡後の追加的な資金援助を含め、資金援助が可能になる場合を拡大することが必要となる。

(c)

 営業譲渡手続の迅速化・簡素化
 迅速かつ円滑に破綻金融機関の営業譲渡を行うために、また、破綻金融機関の経営陣が破綻処理を進めることは適当でないことからも、司法手続に入る前に、監督当局の権限に基づく行政処分として破綻金融機関を公的な管理人の下に置くことが適当である。そのために、現行の金融機能再生緊急措置法における金融整理管財人制度を踏まえ、破綻金融機関の経営権を掌握する管理人制度を導入すべきである。

 通常の金融機関の営業譲渡においては、株主や債権者等の保護のために、一定の期間を要する厳格な手続を踏むことが要請されているが、一方で、金融機関の破綻の場合は、このような手続により、営業譲渡が遅れてフランチャイズ・バリューの低下をもたらし、結果的に債権者保護等の要請に応えられない事態になることが想定される。
 したがって、例えば、金融機能再生緊急措置法で時限的に措置されている株主総会の特別決議等に代わる裁判所の許可(代替許可)制度等を導入することにより、営業譲渡に要する手続を迅速化・簡素化することが必要となる。

 上記(a)〜(c)のような手当がなされることを前提とすれば、我が国における特例措置終了後の金融機関の破綻処理の望ましい基本形としては、十分な事前準備が行われた上で、破綻公表と同時に公的な管理人が選任され、公的な管理人により譲受金融機関に破綻金融機関の営業の一部又は全部の譲渡を行うという方法が考えられる。この方法は米国において多用されているP&A(資産買取・負債承継)と同様の機能を持つことになる。

 なお、金融機能を消滅させることになる保険金支払方式の適用はなるべく回避すべきであるが、仮に保険金支払を実施した場合には、混乱を最小限に止めるために保険金支払を迅速に行うことが必要である。そのためにも、上記(a)の事前準備等が十分になされていることが重要となる。


(3)

 金融機能の維持(営業譲渡までに時間がかかるケース)
 破綻金融機関の金融機能の維持については、破綻処理を迅速に行うことによって対応すべきであるが、営業譲渡のための事前準備が十分でない場合など、破綻時から営業譲渡までにある程度時間が必要なケースも想定される。
 その間、破綻金融機関において預金等の払戻しや融資の継続等の金融機能を停止すれば、破綻金融機関の利用者である法人や個人の決済が滞ることになるほか、必要な融資を受けられなくなるなど、地域経済や金融システム等に大きな影響をもたらすことになりかねない。このため、営業譲渡までの間であっても、公的な管理人の下又は司法手続の下にある破綻金融機関において、処理手続として整合性がとれる範囲内で、以下のとおり、一定の金融機能を継続することが望ましい。

(a)

 預金者等の利便性の確保
 預金者等の利便性の確保(預金の払戻し、決済サービスの享受等)については、破綻公表から営業譲渡までにある程度時間がかかる場合であっても、その間に、預金の払戻し等を可能にしておくことが望ましい。したがって、破綻金融機関において付保限度までの預金等の払戻しを可能とするとともに、預金保険機構が破綻金融機関に対して必要な資金を貸し付けることができるようにすることが必要となる。
 なお、付保限度を超える預金等については、保険金支払方式の場合に認められている預金等債権の買取制度を適用することが求められる。

(注

)預金等債権の買取りは、預金者の流動性を確保するとともに裁判手続の円滑化を図るために、付保対象となる預金等のうち預金保険によって保護されない部分(現行、1000万円超の部分)を一定の割合(概算払率)で預金保険機構が買い取る制度である。

(b)

 流動性預金の問題
 金融機関が破綻して預金等の一部がカットされる場合、迅速な破綻処理による対応で決済の問題をどこまで解決できるかが問題となる。これについては、預金保険制度は少額預金者保護を目的とする制度であり、決済の問題は可能な限り破綻処理の迅速化と民間による多様な決済サービスの提供によって解決すべきであるとの基本的な意見がある。
 他方、迅速な破綻処理を目指すとしても、営業譲渡までに時間を要する場合には、企業や個人の決済への大きな影響が懸念されることから、当面の営業資金や生活資金が保管されている流動性預金については、全額を保護すべきではないかとの意見もある。これに対しては、流動性預金を全額保護対象とすることは負担やモラル・ハザードの増大につながる、流動性預金の範囲をどうするのか、他の預金との明確な線引きが技術的に可能か、全額保護が必要ならば他の制度で対応すべきではないか、等の問題が指摘されている。
 更に、決済サービスへの影響を緩和しつつモラル・ハザード等の問題を回避するため、付保限度を超える一定額について、予め定められた比率で迅速に払い戻すこととしてはどうかとの意見がある。また、流動性預金については、決済されるまでの間は移転の途上にあるものと考えられるので、他の債権に優先して弁済を受けられる優先権を与えてはどうかとの意見もある。

 以上のように議論が多岐に亘っていることに加え、破綻金融機関に滞留する仕掛かり中の決済取引の扱いをどうするかなど実務的に詰めるべき点も残されており、今後、これらの論点について検討を急ぐこととする。


(c)

 借り手の保護
 金融機関が破綻した場合、その金融機関と取引をしていた善良かつ健全な借り手は、破綻金融機関からは新たな融資を受けられなくなる。金融機関の破綻処理における善良かつ健全な借り手の保護についても、破綻処理を迅速に行うことによって対応すべきであるが、司法手続の下でも破綻処理費用の最小化を図るために破綻金融機関からの融資を可能としておくことが望ましい。しかしながら、預金者等の保護が本来の目的である預金保険制度による対応だけでは自ずと限界があり、国における政策的対応が併せてなされることが望ましい。
 なお、地域経済に与える影響や民生の安定等を勘案して、地方公共団体における自主的な対応が行われることが期待される。

(4)

 譲受金融機関の問題
 現行の一般資金援助方式では譲受金融機関の存在を前提としているが、我が国の過去の破綻事例を勘案すれば、今後、譲受金融機関が即座に現れない場合もありうる。したがって、金融機関の破綻処理を迅速に行うためにも、破綻金融機関の金融機能を引き継ぐ譲受金融機関が現れやすい環境を整備するとともに、仮に譲受金融機関が直ちに現れない場合でも対応できるような破綻処理方式を用意することが求められる。

(a)

 譲受金融機関が現れやすい環境の整備
 資金援助の一環として、破綻金融機関から引き継いだ資産が劣化した場合に譲受金融機関に生じる損害の一部を担保するような仕組み(ロス・シェアリング)や、資産の引継等により低下する自己資本比率を回復させるための譲受金融機関に対する資本増強などについて検討することが必要となる。

(b)

 譲受金融機関が直ちに現れない場合の対応
 譲受金融機関を探す時間的な余裕を確保するためにも、現行の金融機能再生緊急措置法で措置されている承継銀行(ブリッジ・バンク)制度を踏まえた制度を導入すべきである。また、預金保険法附則で規定されている協定銀行(整理回収機構)の受皿機能を継続することも必要と考える。
 

 

.危機的な事態が予想される場合の対応
 預金等の全額保護のための特例措置が終了した後における金融機関の破綻処理は、ペイオフコストの範囲内で行うことになるが、金融機関の破綻により信用秩序全体の維持や国民・地域経済の安定に重大な支障が生じることが予想されるような危機的な事態(システミック・リスク)には、通常の破綻処理の枠組みでは対応できないことも想定される。
 米国においては、金融機関の破綻処理において、選択可能なあらゆる破綻処理方法の中でコスト負担が最小の方法を選択することが求められているが(「最小処理コスト原則」)、一方、厳格な手続の下において「コスト基準を遵守した処理方法を選択すれば経済情勢や金融システムの安定性に深刻な影響を及ぼし、他の方法を用いればこれを回避ないし緩和できる」と判断されれば、「最小処理コスト原則」に依拠することなく例外的な処理を行うことが可能とされている。
 我が国でも、現在の金融再生のための特別措置により金融システムが安定化した後においても、危機的な事態が起こる可能性を否定することはできない。このため、万が一に備え、例外的な措置が可能となるようにしておく必要があるが、その場合には、厳格な手続が併せて求められると考える。

 

 

.預金保険制度の他の論点

(1)  付保対象
 預金保険の対象商品であるか否かについては、従来から、
・ 基本的な貯蓄手段として国民の間に定着していること
・ 元本保証がなされていること
・ 債権者が特定され、転々流通しないこと
が主な基準となっていたところである。
 今後、預金利子の扱いを含めた付保対象の見直しに関する検討を進めていくが、その検討に当たっては、上記の基準を基本として、預金者の混乱の防止や迅速な破綻処理という観点を考慮することが必要になる。

(2)

 保険金支払限度額等
(a)  保険金支払限度額
 現行の保険金支払限度額は1000万円となっているが、我が国の1人当たりの平均貯蓄残高や諸外国の水準、保険料負担の増加等を勘案すると、この水準を引き上げる必要性は乏しいと考える。

(b)

 仮払金
 金融機関の破綻処理が迅速に行われれば、仮払金制度の意義は相対的に薄れることとなるが、仮払金制度が必要とされる事態に備えて、預金者等の不安の解消を図るために仮払金の水準(現行20万円)の引上げを検討することが考えられる。

(3)

 預金保険料
 預金保険機構の一般勘定における借入金残高は、現在、相当な規模になっているが(平成11年9月末現在 13,025億円)、既に破綻を表明している金融機関の処理が予定されていることを踏まえると、今後、更に借入金が増加することが見込まれる。
 預金等の全額保護という特例措置が終了した後の預金保険料の水準を検討するに当たっては、預金保険制度に対する国民の信頼に応えるためにも、まずもって、一般勘定の借入金を早期に返済し、更に、将来に備えて一定規模の責任準備金を積む必要があることを念頭に置かなければならない。

 なお、金融機関の財務状況等に応じた保険料率の導入については、市場規律を補うという観点からは望ましいと考えるが、一方で、一般勘定の借入金の早期返済が必要な状況の下で直ちに導入した場合には、経営の悪化した金融機関に与える影響は看過できない。したがって、当面は、慎重に検討すべき課題であると考える。