特例措置終了後の預金保険制度及び
金融機関の破綻処理のあり方について

金融審議会答申

平成11年12月21日
金 融 審 議 会


1.はじめに

(1)

 金融機関の破綻処理については、金融システムの安定化を図る観点から、平成8年度から12年度までの時限的な特例措置として、ペイオフコスト(保険金支払に要すると見込まれる費用)を超える資金援助等を行うことにより預金の全額保護が図られている。また、金融機能再生緊急措置法及び金融機能早期健全化緊急措置法において、平成12年度までの時限的な特例措置が設けられており、預金の全額保護が図られている間に、金融機関の不良債権処理を基本的に終了し、更に、その財務内容の健全化を進めることによって、ゆるぎない金融システムを確立することが求められている。このため、預金保険機構に対して、交付国債及び政府保証等による財源措置等が講じられている。

(2)

 預金の全額保護のための特例措置は平成12年度限りで終了することが法律で予定されており、その後は、預金者が金融機関の破綻による損失の一部を負担することがある体制に移行することとされている。その際の金融機関の破綻処理方式としては、現行の預金保険法本則において、保険金支払方式(ペイオフ)と一般資金援助方式(譲受金融機関への営業譲渡等に対してペイオフコスト内の資金援助を行う破綻処理方式)の二つの方式が措置されている。

(3)

 金融審議会としては、第2部会及び預金保険制度に関するワーキング・グループを中心に、「安心で活力ある金融システムの構築」を実現するためのテーマの一つとして、「恒久的な」預金保険制度及び金融機関の破綻処理のあり方について検討を行ってきたところである。
 検討の過程では、(a)平成11年7月6日に「預金保険制度に関する論点・意見の中間的な整理」を第2部会名で公表し、その後、金融界、産業界、労働団体、消費者団体等から「中間的な整理」に関する意見のヒアリングを行ったほか、(b)同年10月19日に「特例措置終了後の預金保険制度等に関する基本的な考え方」を同じく第2部会名で公表し、この「基本的考え方」に対して各界各層からの意見を広く求めたところである。
 預金保険制度のあり方は、国民生活に密接に関連する問題であり、できるだけ早く国民の前に特例措置終了後の姿を明らかにする必要があることから、金融審議会としても精力的に検討を行ってきたところであり、今回、金融審議会に寄せられた意見等を踏まえた上で、以下のように最終的な考え方をとりまとめた。
2.市場規律を中心とした預金者の保護

(1)

 預金保険制度は、金融機関の経営破綻に際して預金者の保護を図るという、言わば事後的な対応措置であるが、預金者の保護の基本は、健全で収益力の高い金融機関経営を確保することにある。したがって、個々の金融機関において、適正な会計処理や内部管理の向上等による経営の健全性の確保はもとより、新たな金融商品の開発、顧客の信頼の獲得などの点に関し、21世紀を見据えた真摯な努力が求められるとともに、制度面でも一層の環境整備が望まれる。

(2)

 預金の全額保護という特例措置終了後においては、金融機関の破綻を未然に防止することが預金者を保護する上で最も肝要であり、そのために、問題のある金融機関を早期に発見し早期に是正することが重要となる。
 問題のある金融機関の早期発見・早期是正については、金融機関における公認会計士監査機能の充実強化及びディスクロージャーの徹底を図り、市場規律によるモニタリングが有効に機能することが求められるが、それと併せて、監督当局における(a)検査・モニタリングの充実強化、(b)早期是正措置の適時適切な運用などが必要である。

 なお、協同組織金融機関における外部監査制の導入や員外監事の登用に関しては、預金等総額が一定規模以上のものについて義務付けられているが、上記の観点からも、その規模要件を大幅に引き下げることが適当である。

(3)

 現在の金融市場における決済慣行・企業行動等は、預金にリスクがないことを前提として成り立っているが、特例措置終了後においては、その前提を変更せざるを得ないため、従来の慣行等を見直していくとともに、多様な資金運用・調達・決済手段が提供されることにより、市場規律と自己責任原則に立脚した金融システムにふさわしいものとなることが望まれる。
3.金融機関の破綻処理のあり方

(1)

 基本的考え方
 預金保険制度の本来の目的は、少額預金者を保護し、もって信用秩序の維持を図ることであり、特例措置終了後においては、保険料負担やモラル・ハザードを減少させるためにも、基本的に「小さな預金保険制度」を目指すべきであると考える。
 しかしながら、これまでに破綻した金融機関の例をみると、破綻処理の結果、大幅な債務超過を生じているという問題がある。したがって、「2.市場規律を中心とした預金者の保護」で述べたように、市場規律を有効に機能させて問題のある金融機関を早期に発見し早期に是正していくことを基本とした上で、仮に金融機関が破綻した場合においては、これに伴う預金者の損失及び預金保険の負担を最小限に止めることが重要であり、回復の見込みがなくなった金融機関は、債務超過の程度が極力小さい段階で早期に処理していくべきであると考える。

 金融機関が破綻した場合には預金保険制度の発動により処理されることになるが、その場合には、破綻金融機関を存続させないことを前提として、ペイオフコストの範囲内で破綻処理に要するコストがより小さいと見込まれる処理方法を選択するとともに、破綻金融機関の有していた決済や融資等の金融機能を維持するなど破綻に伴う混乱を最小限に止めることが重要となってくる。

 そのために、金融機関の破綻処理方式としては、破綻に伴う損失負担により預金の一部がカットされることは同じであるが、譲受金融機関が破綻金融機関の金融機能を引き継ぐことになる一般資金援助方式の適用を優先し、金融機能まで消滅させることになる保険金支払方式(ペイオフ)の発動はできるだけ回避すべきである。その際、破綻処理を迅速に行うことができるような措置を講じるとともに、破綻の態様に応じ処理方式を多様化しておくことも必要になる。
 これらを踏まえれば、決済機能の保護や借り手の保護は、破綻処理コストの最小化に寄与し、ひいては預金者保護にも資することから、預金保険制度の役割・機能において考慮すべき点になると考える。

 特例措置終了後の金融機関の破綻処理における必要な流動性の確保、特に破綻金融機関に対する貸付は、基本的に預金保険機構が対応することになるが、日本銀行についても「最後の貸手」としての立場から、一時的な信用供与を行う、いわゆる日銀特融等の発動が必要になる場合もあり、この面において適切な役割を果たしていくことが期待される。

 なお、預金保険の発動に際しては、金融機関を破綻に至らしめた経営者等に対して厳格な責任追及がなされ、株主・出資者等の損失負担が行われることは当然のことであり、また、悪質な借り手への責任追及と債権回収の徹底が重要であることは言うまでもない。


(2)

 一般資金援助を伴う営業譲渡等の迅速化
 現行の一般資金援助方式の下で営業譲渡が行われる場合、監督当局による業務停止命令や司法手続による保全処分によって預金の払戻しや融資機能が停止されることが想定されるが、それにより、預金者に多大な影響が生じるのみならず、決済機能を含む金融機関の営業体としての価値(フランチャイズ・バリュー)が急激に低下するなど、経済全般や金融システム等に対して大きな影響を与える可能性がある。
 こうした影響を最小限に止めるためには、一般資金援助を伴う営業譲渡を迅速に行うことにより、破綻金融機関が有していた金融機能をできるだけ早く譲受金融機関に引き継ぐことが求められる。
 一般に、預金の一部カットのような私権の一部剥奪を伴う倒産処理は、最終的には司法手続に依らざるを得ない。しかし、金融機関の破綻処理を迅速に進めるためには、司法上の手続に入ることを前提として、その前に司法手続の外で破綻金融機関の営業譲渡を行うという手法が有効であり、このような手法を可能とするためには、(a)事前準備、(b)資金援助が可能になる場合の拡大、(c)営業譲渡手続の迅速化・簡素化、等について特別な手当が必要となる。


(a)


 事前準備
 金融機関の破綻処理に当たっては、後述するように、公的な管理人の選任、譲受金融機関との営業譲渡契約の締結(健全資産と付保預金の承継等)、預金等債権の買取り(概算払率の決定)、預金保険法上の適格性の認定、裁判所に対する代替許可の申立、公正取引委員会への届出などの各種手続が必要となる。
 したがって、金融機関の破綻処理を迅速に行うためには、監督当局及び預金保険機構が緊密に連携をとりながら、経営状況が一定程度悪化した金融機関については、その金融機関が破綻に至ることも想定して、預金者の名寄せや資産内容の把握等に関し可能な限りの準備を行っておく必要がある。

 一預金者当たり一定限度額(現行1000万円)まで保護するという預金保険制度の下で、金融機関の破綻処理を行うためには、破綻した金融機関の預金者の名寄せを行うことが不可欠である。
 金融機関から引き継いだ預金者データを基に、預金保険機構において名寄せを行うというシステム開発は既になされている。したがって、破綻処理の迅速化という観点からは、金融機関に対して、名寄せと保険金額等の計算に必要な預金者データの整備及びその預金者データを預金保険機構にスムーズに引き継ぐことができるためのシステム対応を平常時から求めることが適当である。更に、預金保険機構が金融機関のシステム等の対応状況を把握できるようにしておくことも必要である。

 なお、破綻処理のための名寄せが金融取引全体に過大なコスト負担をもたらすことを回避する観点から、今回の預金保険制度の見直しの中では、金融機関に対してそれぞれが平常時から名寄せを行うことまでは義務付けないが、預金保険制度は預金者の名寄せが行われていることを前提としており、また、顧客サービスという観点からも、個々の金融機関において自主的に名寄せが行われることが望ましいと考える。

 また、金融機関の資産内容の把握等については、金融機関の健全性の確保等を目的とした検査・モニタリングを通じて監督当局が収集した資料情報等を活用するほか、破綻処理を迅速に行うために必要な情報を、金融機関に対する資料徴求や立入検査などを通じて、監督当局及び預金保険機構が入手できるようにすることが適当である。


(b)


 資金援助が可能になる場合の拡大
 現行の預金保険法では、営業譲渡における一般資金援助は、破綻金融機関が譲受金融機関に対して営業の全部を譲渡した際に、営業譲渡時に譲受金融機関に対して行われることとされている。
 しかしながら、上記の場合以外にも資金援助を可能にすれば、破綻の態様に応じた多様な破綻処理を行うことが可能となり、破綻処理の迅速化にも資することになる。このため、営業の一部(例えば、健全資産と付保預金)のみを譲渡する場合の資金援助、営業譲渡後に行う追加的な資金援助、債権者間の衡平を図るための破綻金融機関に対する資金援助など、資金援助が可能になる場合を拡大することが適当である。

 なお、資金援助の一つである資産買取りについては、現在、預金保険機構から委託された協定銀行(整理回収機構)が破綻金融機関等から不良債権等を買い取って集中的に回収を行うというスキームを時限的に措置しているが、特例措置終了後も、そのスキームを継続することが適当である。


(c)


 営業譲渡手続の迅速化・簡素化
 迅速かつ円滑に破綻金融機関の営業譲渡を行うために、また、破綻金融機関の経営陣が破綻処理を進めることは適当でないことからも、司法手続に入る前に、監督当局の権限に基づく行政処分として破綻金融機関を公的な管理人の下に置くことが求められる。そのために、現行の金融機能再生緊急措置法における金融整理管財人制度を踏まえ、破綻金融機関の経営権を掌握する管理人制度を導入することが適当である。また、その際、現在の金融整理管財人制度と同様に、破綻処理の実務の蓄積のある預金保険機構が今回導入される管理人の一員となることを可能とすることが望ましい。

 通常の金融機関の営業譲渡においては、株主や債権者等の保護のために、一定の期間を要する厳格な手続を踏むことが要請されている。一方で、金融機関の破綻処理の場合は、このような手続により、営業譲渡が遅れてフランチャイズ・バリューの低下をもたらし、結果的に債権者保護等の要請に応えられない事態になることが想定される。
 したがって、金融機能再生緊急措置法で時限的に措置されている株主総会の特別決議等に代わる裁判所の許可(代替許可)制度、営業譲渡に伴う債権者保護手続を迅速化する制度等を導入するほか、営業の譲受けに伴う独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)上の届出について営業の譲受けの禁止期間を短縮すること等により、営業譲渡に要する手続を迅速化・簡素化することが必要となる。


 上記(a)〜(c)のような手当がなされれば、事前の準備を行った上で、破綻公表と同時に公的な管理人が選任され、公的な管理人により譲受金融機関に破綻金融機関の営業の一部又は全部の譲渡を行うという一連の処理を速やかに行うことが可能となる。
 この方法は、我が国における特例措置終了後の金融機関の破綻処理の望ましい基本形として位置付けられ、また、米国において多用されているP&A(資産買取・負債承継)と同様の機能を持つことになる。

 なお、金融機能を消滅させることになる保険金支払方式の適用はなるべく回避すべきであるが、仮に保険金支払を実施する場合には、混乱を最小限に止めるために保険金支払を迅速に行うことが必要である。そのためにも、上記・の事前準備等が十分になされていることが重要であり、更に、破綻金融機関以外の金融機関に保険金支払事務を委託するなどの運用上の工夫を検討する必要がある。


(3)

 金融機能の維持(営業譲渡までに時間がかかるケース)
 破綻金融機関の金融機能の維持については、破綻処理を迅速に行うことによって対応することが望ましいが、営業譲渡のための準備が十分でないまま破綻に至る場合など、破綻時から営業譲渡までにある程度時間が必要なケースも想定される。その間、破綻金融機関において預金の払戻しや融資等の金融機能を停止すれば、破綻金融機関の利用者である企業や個人の決済が滞ることになるほか、必要な融資を受けられなくなるなど、経済全般や金融システム等に大きな影響をもたらすことになりかねない。
 したがって、営業譲渡までに時間がかかる場合には、原則として公的な管理人を選任した上で民事再生法等の司法手続を利用し、処理手続として整合性がとれる範囲内で、以下のとおり、一定の金融機能を継続することが適当である。

 なお、和議手続に代わる新たな再建型の倒産手続として民事再生手続が導入されることになるが、金融機関の倒産手続の特例を定めた更生特例法(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律)においても、更生手続の特例等と同様の民事再生手続の特例を盛り込むことが適当である。


(a)


 預金者の利便性の確保
 預金者の利便性の確保(預金の払戻し、決済サービスの享受等)については、破綻公表から営業譲渡までにある程度時間がかかる場合であっても、その間に、一定の範囲で預金の払戻し等を可能にしておくことが望ましい。したがって、倒産手続に入った場合も含め、預金保険機構による仮払金の支払や破綻金融機関における付保限度までの預金の払戻しを可能とするとともに、預金保険機構が破綻金融機関に対して必要な資金を貸し付けることができるようにすることが適当である。
 なお、付保限度を超える預金については、保険金支払方式の場合に認められている預金等債権の買取制度を適用することが適当である。

(注

)預金等債権の買取りは、預金者の流動性を確保するとともに裁判手続の円滑化を図るために、付保対象となる預金等のうち預金保険によって保護されない部分(現行、1000万円超の部分)を一定の割合(概算払率)で預金保険機構が買い取る制度である。


(b)


 流動性預金(主に決済のために使用される期限の定めのない預金)の問題
 金融機関が破綻して預金の一部がカットされる場合、迅速な破綻処理による対応で決済の問題をどこまで解決できるかという問題については、当審議会において、以下のように幅広い観点から検討を行った。

 預金保険制度は少額預金者保護を目的とする制度であり、決済の問題は可能な限り破綻処理の迅速化及び民間による多様な決済サービスの提供によって解決すべきであるとの基本的な意見がある一方で、迅速な破綻処理を目指すとしても、営業譲渡までに時間を要する場合には、企業や個人の決済への影響が懸念され、特に中小企業は決済取引のために活用している金融機関を簡単に変えることはできないことからも、当面の営業資金や生活資金が保管されている流動性預金については、全額を保護すべきではないかとの意見もあった。後者に対しては、流動性預金を全額保護対象とすることは負担やモラル・ハザードの増大につながる、流動性預金の範囲をどうするか、他の預金との明確な線引きが技術的に可能か、全額保護が必要ならば他の制度で対応すべきではないか、等の問題の指摘もあった。
 更に、決済サービスへの影響を緩和しつつモラル・ハザード等の問題を回避するため、付保限度を超える一定額について、予め定められた比率で迅速に払い戻すこととしてはどうかとの意見のほか、流動性預金については、決済されるまでの間は移転の途上にあるものと考えられるので、他の債権に優先して弁済を受けられる優先権を与えてはどうかとの意見があった。

 また、仕掛かり中の決済取引の扱いについては、金融機関の決済機能に対する信頼性を維持するため、また、仕掛かり中の決済取引を通常の債権と同様に処理すれば迅速な営業譲渡の障害となりうるとの観点から、別段預金や仮受金に計上されている未決済取引を結了できるよう、仕掛かり中の取引のみを預金保険や優先権の付与によって全額保護すべきではないかとの意見があった。これに対しては、中小企業を中心として翌日以降の決済資金を取扱金融機関に預け入れておくことが少なからず見られ、こうした仕掛かり中の決済取引は当座預金や普通預金に滞留していることが多いという実態を踏まえると、それらの決済性預金が保護されなくなることとの公平性をどう考えるか、また、実務上の問題として仕掛かり中の決済取引とそうでないものとの線引きが本当に可能か、等の問題があるとの指摘が行われた。

 以上のような議論に基づき、流動性預金の扱いについて検討を進めた結果、迅速な破綻処理が確実なものとなり、また、民間の決済サービスの多様化が図られるまでの間は、企業や個人の決済が滞ることを通じて経済全般や金融システム等に大きな影響を与える事態とならないよう、流動性預金に関して何らかの特別な措置を時限的に講じることも止むを得ないのではないかと考える。但し、その場合においても、できる限りモラル・ハザードの発生を抑えることが必要であり、例えば、全額保護される流動性預金を付利されない預金に限る(又はその金利に上限を設ける)ほか、その負担については、それ以外の預金よりも重い保険料負担を課すなど納税者負担によらない手法を採ることが考えられる。


(c)


 借り手の保護
 金融機関が破綻した場合、現行の司法手続の下では、その金融機関と取引をしていた善良かつ健全な借り手であっても、破綻金融機関からは新たな融資を受けられなくなる。金融機関の破綻処理における善良かつ健全な借り手の保護についても、破綻処理を迅速に行うことによって対応することが望ましいが、司法手続の下でも破綻処理費用の最小化を図るために破綻金融機関からの融資を可能としておくことも求められる。しかしながら、預金者の保護が本来の目的である預金保険制度による対応だけでは自ずと限界があり、国における政策的対応が併せてなされることが望ましい。
 また、地域経済に与える影響や住民生活の安定等を勘案して、地方公共団体における自主的な対応が行われることが期待される。

 相殺に関しては、金銭消費貸借契約上、借り手の債務不履行や倒産手続の開始の申立を借入金債務の期限の利益の喪失事由とする旨の約定がなされる慣行が見られる一方で、金融機関の破綻は、金融機関の預金債務の期限の利益の喪失事由にはされていないという問題が指摘されている。この問題については、

ア)  例えば、預金取引約款等において、保険事故が発生したときには期限未到来の預金債権と借入金債務との相殺を預金者が行うことを可能とするなど、金融機関が、預金者でもある借り手の立場を考慮した契約関係を築くことが重要である、
イ)  現状の金銭消費貸借契約に係る慣行を踏まえると、こうした約款等の見直しにより、借り手でもある預金者が相殺によって他の債権者よりも優先して弁済を受けるのと同じ結果となることも容認される、
との指摘がなされた。

 なお、借り手が預金を有している場合、継続的な取引関係を維持する観点からは、営業譲渡において預金と借入金をともに譲渡することが、借り手及び譲受金融機関の双方にとって望ましい扱いになると考える。こうした観点から、破綻処理においても預金が借入金と両建てになっている場合は、預金と借入金を両建てで譲受金融機関に譲渡しても他の債権者を害しないことを考慮して、その預金を、譲受金融機関に譲渡される借入金の額までともに譲渡する扱いとすることが、預金者保護の観点からも望ましいと考えられる。


 なお、以上の営業譲渡までに時間がかかるケースの問題については、(2)の金融機関の破綻処理が迅速に行われる場合(望ましい基本形の場合)に共通する問題もあるので、預金等債権の買取制度の適用や借り手の保護のための措置等について同様の措置を講じることが求められる。

(4)

 破綻金融機関の承継先
 現行の一般資金援助方式では譲受金融機関の存在を前提としているが、我が国の過去の破綻事例を勘案すれば、今後、譲受金融機関が即座には現れない場合も想定される。したがって、金融機関の破綻処理を迅速に行うためにも、破綻金融機関の承継先が現れやすい環境を整備するとともに、仮に破綻金融機関の承継先が直ちに現れない場合でも対応できるような破綻処理方式を用意することが求められる。


(a)


 破綻金融機関の承継先が現れやすい環境の整備
 譲受金融機関が即座に現れない要因としては、承継する破綻金融機関の資産の内容に対する不安、資産の承継や営業譲受に係る諸費用による自己資本比率の低下等が指摘されている。
 このため、資金援助の一環として、まず、破綻金融機関から引き継いだ資産が営業譲受後に劣化した場合に、譲受金融機関に生じる損害の一部を預金保険機構が一定期間担保するような仕組み(ロス・シェアリング)を導入することが適当である。その際、逆に承継資産に利益が生じたときは、その一部を預金保険機構が取得できるようにすることも併せて求められる(プロフィット・シェアリング)。
 また、資産の承継等により低下する自己資本比率を回復させるため、譲受金融機関に対して資本増強などの措置を講じられるようにすることが適当である。その際、増強した資本の価値が減少することのないよう、少なくとも譲受金融機関から優先株式等の消却等に対応できる財源を確保するための方策等を提出させることが求められる。

 現行の預金保険制度の下では、資金援助において破綻金融機関の受皿となることができるのは預金保険の対象となる金融機関及び銀行持株会社等に限定されている。しかし、株式取得方式による資金援助の場合には、破綻金融機関の承継先(株式取得者)をそれらの金融機関及び銀行持株会社等に限定する経済的合理性はなく、その範囲を拡大することが適当である。


(b)


 破綻金融機関の承継先が直ちに現れない場合の対応
 破綻金融機関の承継先を探す時間的な余裕を確保するためにも、現行の金融機能再生緊急措置法で措置されている承継銀行(ブリッジ・バンク)制度を踏まえた制度を導入することが適当である。その場合において、ブリッジ・バンクの設立及びブリッジ・バンクへの営業譲渡が速やかに行われることが必要であり、(2)(c)の通常の営業譲渡手続の迅速化・簡素化の他に、ブリッジ・バンクの事後設立の特例等を措置することが適当である。
 また、預金保険法附則で規定されている協定銀行(整理回収機構)の受皿機能についても、承継先のラスト・リゾートを確保する観点から、継続することが求められる。
4.危機的な事態が予想される場合の対応

(1)

 例外的な措置の必要性
 預金の全額保護のための特例措置が終了した後における金融機関の破綻処理は、これまでに述べたように、ペイオフコストの範囲内で行うことになる。しかしながら、金融機関の破綻により信用秩序全体の維持や国民・地域経済の安定に重大な支障が生じることが予想されるような危機的な事態(システミック・リスク)には、通常の破綻処理の枠組みでは対応できないことも想定される。
 米国においては、金融機関の破綻処理において、選択可能なあらゆる破綻処理方法の中でコスト負担が最小の方法を選択することが求められている(「最小処理コスト原則」)。一方、厳格な手続の下において「コスト基準を遵守した処理方法を選択すれば経済情勢や金融システムの安定性に深刻な影響を及ぼし、他の方法を用いればこれを回避ないし緩和できる」と判断されれば、「最小処理コスト原則」に依拠することなく例外的な処理を行うことが可能とされている。
 我が国でも、現在の特例措置により金融システムが安定化した後においても、危機的な事態が起こる可能性を否定することはできない。このため、万が一に備え、モラル・ハザードの発生を回避しつつ、例外的な措置が可能となるようにしておく必要があり、その場合には、厳格な手続が併せて求められると考える。

(2)

 例外的な措置の内容及び手続
 危機的な事態が予想される場合に採るべき例外的な措置としては、(a)破綻を未然に防止するという観点からの金融機関に対する直接の資本増強、(b)譲受金融機関等に対するペイオフコストを上回る資金援助、(c)金融機能再生緊急措置法に規定されている特別公的管理の枠組み、が挙げられる。
 なお、特別公的管理は、株式の強制取得という手法を伴うものであるので、例外的な措置の中でも最後に採るべき手段として位置付けることが妥当である。
 例外的な措置を採る場合の厳格な手続としては、システミック・リスクの存在と例外的な措置の必要性が認識された上で、平成13年1月の中央省庁再編と同時に発足する内閣総理大臣を議長とする金融危機対応会議の議を経て、例外的な措置の発動等の決定がなされることが適当と考えられる。更に、例外的な措置が発動された際には、その必要性等について事後的な説明が求められることになると考える。

 上記のような例外的な措置を講じることによって生じる損失(ペイオフコストを超えるもの)を埋めるための財源については、一般保険料で賄いうるものではないと考えられる一方で、納税者に安易に負担を求めるべきではないことから、金融機関に一般保険料とは別に特別な負担を課すことが妥当である。しかしながら、金融・決済システムは経済のインフラストラクチャーであり、その安定性確保は金融機関、預金者のみならず、広く経済全般の安定の基礎となるものであることから、例外的な措置を採らなければ信用秩序全体の維持に重大な支障が生じるような場合には、金融機関の特別な負担を前提としつつ政府が適切な財政措置を講じることにより、経済全般の安定を確保するためのコストとして、広く間接的な受益者である納税者にも負担を求めざるを得ないこともあると考えられる。なお、例外的な措置を採るために必要となる資金(流動性)については、預金保険機構による政府保証付きの借入れや日本銀行による信用供与で確保することが適当である。

5.預金保険制度の他の論点

(1)

 付保対象
 預金保険の対象商品であるか否かについては、従来から、



基本的な貯蓄手段として国民の間に定着していること
元本保証がなされていること
債権者が特定され、転々流通しないこと
が主な基準となっていたところである。
 従来の基準を基本とした上で、預金者の混乱の防止や迅速な破綻処理という観点をも考慮した場合、以下のものを新たに付保対象とすることが妥当である。なお、金融機関において個々の金融商品が付保対象であるか否かを利用者に明確にする必要があることは言うまでもない。


(a)


 金融債
 金融債については、転々流通する有価証券であって名寄せにより1人当たり一定限度額まで保護することが技術的に困難であること等から、現行では預金保険の対象になっていない。しかしながら、金融債の中で上記の3つの基準を満たしているものは実質的には定期預金と同じ性格と考えることが可能であり、しかも通常個人向けの貯蓄手段として販売されているものに限定すれば、付保対象とすることが適当である。


(b)


 公金預金・特殊法人預金
 公金預金等(国庫金の出納に当たり国の出納機関が行う預金を含む)については、預金者が一般の預金者とは違う上に、1000万円まで保護しても実質的な意味は乏しいこと等から、現行では預金保険の対象となっていない。しかしながら、企業との均衡を勘案すれば預金保険の扱いに差を設ける必要性はないこと、また、流動性預金に関して特別な措置を講じることになれば歳入歳出の管理に実質的なメリットが期待できることから、付保対象とすることが適当である。


(c)


 預金利息
 預金利息については、金融機関経営者や預金者のモラル・ハザードを助長する上に、事務手続が煩雑になること等から、現行では預金保険の対象になっていない。しかしながら、預金利息を守ることで少額預金者に安心感を与え無用の資金シフトを防止するという側面や、倒産手続の迅速化及び郵便貯金との均衡等を勘案した場合、付保対象とすることが適当である。なお、モラル・ハザードの問題については、早期是正措置により金融機関の高金利の預金の受入れを禁止又は抑制することで、一定の歯止めをかけることが可能になると考える。

 なお、外貨預金については、為替リスクが存在する上に、国民にとって一般的な貯蓄手段となっているとは言えないこと等から、従来どおり、付保対象としないことが適当である。

(2)

 預金保険の対象金融機関
 現行の預金保険の対象となる金融機関は、都市銀行、長期信用銀行、信託銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用協同組合、労働金庫となっており、資金援助の対象となる金融機関についても、これらの金融機関に限定されている。したがって、譲受金融機関となる候補を拡大するなどの観点から、現在は預金保険の対象となっていない全国信用金庫連合会等の協同組織金融機関の連合会を預金保険の対象とすることが適当である。

 なお、外国銀行在日支店については、管轄権の問題があるため破綻処理に当たって迅速かつ適切な対応をとることが困難であること等から預金保険の対象になっていないが、預金者保護の観点や、主要国の預金保険制度において基本的に強制加入となっていること等を考慮すると、将来的な制度のあり方としては、預金保険の対象とすることが望ましいと考えられる。
 外国銀行在日支店の預金保険制度上の具体的な取扱いについては、引き続き、外国銀行在日支店に対する規制、検査・監督、破綻処理のあり方等につき検討を進めた上で、結論を得ることが適当である。


(3)

 保険金支払限度額等


(a)


 保険金支払限度額
 現行の保険金支払限度額は1000万円となっているが、我が国の1人当たりの平均貯蓄残高や諸外国の水準、保険料負担の増加等を勘案すると、この水準を引き上げる必要はないと考える。


(b)


 仮払金
 金融機関の破綻処理が迅速に行われれば、仮払金制度の意義は相対的に薄れることとなるが、仮払金制度が必要とされる事態に備えて、預金者の不安の解消を図るために、現行20万円である仮払金の水準を相当程度引き上げることが適当である。

(4)

 預金等債権の買取り
 現行の預金等債権の買取りは、預金保険の対象となっている預金等が対象となっているが、非付保対象預金等の流動性の確保の観点及び債権者の集約による倒産手続の迅速化の観点等から、その対象範囲を拡大すべきであるとの意見がある。それについては、非付保対象預金等の中には権利関係が複雑で定型的な処理にそぐわないものも少なからずあるため、預金保険機構が買取りを行ったとしても倒産手続の迅速化に寄与するとは必ずしも言えないほか、仮に非付保対象預金等の買取りにより預金保険機構に損失が発生した場合には、結果的に保険料を財源とする一般勘定の負担となってしまう等の問題がある。
 これらの点を踏まえると、債権及び債権者が明確に確定できるものに限定するなどの工夫を行った上で、預金等債権の買取りの対象範囲を拡大することが適当であると考える。

(5)

 預金保険料
 預金保険機構の一般勘定における借入金残高は、現在、相当な規模になっている上(平成11年11月末現在 13,321億円)、既に破綻を表明している金融機関の処理が予定されていることを踏まえると、今後、更に兆円単位で借入金が増加することが見込まれる。預金の全額保護という特例措置が終了した後の預金保険料の水準を検討するに当たっては、預金保険制度に対する国民の信頼に応えるためにも、まずもって、一般勘定の借入金を早期に返済し、更に、将来に備えて一定規模の責任準備金を積む必要があることを念頭に置かなければならない。
 現行の預金保険料率は、特例業務に要する費用や金融機関の財務の状況等を勘案して、平成7年度以前の水準の7倍(特別保険料を含む)となっているが、特例措置終了後の保険料の水準については、一般勘定の借入金の早期返済等という観点から、現行の水準をベースとして検討することが必要になると考える。

(注)預

金保険料率の推移
平成7年度以前
平成8〜12年度
0.012%
0.048%+0.036%(特別保険料率)

 なお、金融機関の財務状況等に応じた保険料率の導入については、諸外国の預金保険制度においても導入の動きが見られること、また、市場規律を補うという観点から、本来望ましいものと考える。しかしながら、一般勘定の借入金の早期返済が必要な状況の下で直ちに導入した場合には、経営の悪化した金融機関に対する保険料率は相当高い水準になることが見込まれるため、その金融機関の経営に対する影響は看過できないものとなる。したがって、金融機関の財務状況等に応じた保険料率の枠組みの検討は早く進めるべきであるが、その実施については、当面、慎重に対応すべきであると考える。

(6)

 預金保険機構の資金調達
 預金保険機構の一般勘定の資金調達は、現行法上、まずは日本銀行からの借入れで対応し、その借入れの返済のために借換えを行う際には、日本銀行からの借入れは一時的な流動性の補完にすぎないことから、原則として民間からの資金調達に振り替えていくこととされている。
 預金保険機構のその他の勘定においては当初から民間資金の調達が可能になっており、また、実際の運用において預金保険機構は可能な限り民間からの資金調達に努めている現状等を踏まえると、一般勘定における当初の資金調達についても、制度的に日本銀行からの借入れに限定する必要はなく、可能な範囲内で民間から資金を調達する努力を行うことが適当と考えられる。

 なお、今般の恒久的な預金保険制度及び金融機関の破綻処理制度の構築に伴い、農水産業協同組合貯金保険制度についても、その特殊性等に配慮しつつ、基本的には同様の方向で検討を行うことが望まれる。

6.特例措置が終了するまでに整備すべき環境

 平成7年12月22日の金融制度調査会答申では、「現時点においては、ア)ディスクロージャーが充実の過程にあり、預金者に自己責任を問いうる環境が十分に整備されていない、イ)金融機関が不良債権を抱えており、信用不安を醸成しやすい金融環境にあることから、未だペイオフを行うための条件が整っていない」旨が言及されている。
 その後の環境整備の状況は以下のとおりである。

(1)  金融機関のディスクロージャー
 金融機関がディスクロージャーを充実させることは、金融機関の経営の透明性を高め、市場規律により経営の自己規正を促すとともに、預金者の自己責任原則の確立のための基盤となることから、極めて重要である。

 このような考え方に基づき、金融機関のディスクロージャーについては、平成10年3月期から(協同組織金融機関は11年3月期から)米国証券取引委員会(SEC)の基準と同様の基準による不良債権の情報開示が行われている。また、11年3月期からは金融機関の業務・財産の状況に関し法令に規定された具体的な事項を連結ベースで開示することが罰則付きで義務化されるなど、その拡充が図られてきたところである。
 また、金融機能再生緊急措置法に基づく資産査定の開示が、11年3月期から都市銀行、長期信用銀行、信託銀行について行われているが、12年3月期からは預金取扱い金融機関の全てについて行われることとなっている。
 なお、今後の我が国金融システムにおいて市場規律の機能がますます重要になることを踏まえると、決算期にとらわれることなく、金融機関が自己の経営・財務状況について適時適確に情報開示を行うことが適当であると考える。

 さらに、個々の金融機関に対しては、法令で定められた業務・財産の状況に関するディスクロージャー及び付保対象に関する情報等の提供以外にも、預金者に対して、自己の経営・財務状況を分かりやすく示すとともに、預金保険制度等について正確な情報を提供することを望みたい。


(2)

 金融システムの安定
 現在、預金保険法のほか、金融機能再生緊急措置法及び金融機能早期健全化緊急措置法を車の両輪とする法的枠組みの的確な運用が行われているところであり、それにより、一時の金融システムの不安定な状態は解消されつつあると考える。
 平成13年3月末までの間に、上記の枠組み等を活用して、金融システムの安定を一層強固なものとする取組みが引き続き行政当局及び金融界においてなされるとともに、個々の金融機関において、収益性の向上や自己資本の充実等に努めることにより、強い競争力を持った経営基盤の強化を図ることが求められる。

(3)

 その他
 保険金支払方式(ペイオフ)になれば、1000万円を超える預金は全額カットされるなどといった誤解があり、そのような正確でない情報のために、国民が特例措置の終了について不安を感じている面があることは否定できない。その不安を取り除くためにも、預金保険制度等に対する国民の理解を深めることが重要であり、政府、預金保険機構、金融界等の関係者において、預金保険制度等に関する広報のための更なる努力を望みたい。