横断的な集団投資スキームの整備について
(平成11年11月30日 集団投資スキームに関するワーキンググループ報告)

【法制の基本的枠組み】
 特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律(以下「SPC法」という。)については、特定資産を投資者の唯一の拠り所とする資産流動化の特質を踏まえて投資者保護の枠組みを確保するとともに、流動化の器としての特定目的会社(以下「SPC」という。)について組織の簡素化等を図るという流動化法制の基本的性格を維持しつつ、法制の簡素・合理化を図る。


 投資判断の裁量を業者に認める場合には資産運用型の集団投資スキームとして整理し、証券投資信託及び証券投資法人に関する法律(以下「投信法」という。)を改正して、幅広い資産への投資運用が可能となるよう法制を整備する。

1.資産流動化スキーム(SPC法改正)に係る論点

検 討 項 目

検   討   結   果

1.最低資本金の引下げ
 (現行法:300万円)

 一般の会社においては、最低資本金は会社財産を唯一の担保とする債権者のための財産的基礎として設けられているが、資産流動化のための単なる器としてのSPCについては、最低資本金を定める必要性に乏しい。

.1つのSPCによる複数の流動化計画に基づく証券発行
(現行法:1SPC1流動化計画)

 発行される証券と資産の対応関係が不明確となり、投資判断が難しくなったり各スキームの法的安定性が弱まるという問題がある。実務上もSPCの最低資本金引下げや設立手続の簡素化が図られれば、現行の1SPC1流動化計画で支障はなく、また、特定社債に付すことができる担保の範囲が広がれば、相当程度利便性は向上することとなる。このため、一つの流動化計画に一つのSPCを対応させるという現行の仕組みを維持すべきである。

.組織の簡素化
(1 ) 取締役の義務・責任の緩和
(現行法:競業避止義務、利益相反取引・違法配当・総会屋への利益供与の禁止等)

 簡素な仕組みのSPCにおける投資者保護の仕組みである取締役の義務・責任を法的に緩和すべきではない。

(2 ) 監査役の廃止
(現行法:監査役一人以上)

 SPCは取締役が1人でもよいとされていることから、取締役の行為をチェックするものとして監査役は必要である。

.商品設計の自由度拡大
(1 ) 対象資産の範囲の拡大
(現行法:指名金銭債権、不動産これらの信託受益権)

 金融イノベーションを促進し自由な商品設計が可能となるよう横断性と自由度の高い集団投資スキームを整備する必要があり、財産権を幅広く対象資産とすべきである。
 但し、任意組合の出資持分や同一法人の一定割合の株式のようにSPCがこれを取得するとSPCが実質上主体的に事業等を行う結果となるものや、資産運用が行われる匿名組合の出資持分権や特定金銭信託の受益権のように、流動化対象資産に加えると資産流動化型スキームの中で実質的に資産運用が行われるのと同様の効果が生じ、資産運用型スキームに係る規制が回避される結果となるものについては、流動化対象資産から除外する必要がある。このように実質的に資産運用にあたるようなものについては、投資者保護や横断的な共通ルール構築の観点から、資産運用型スキームにより対応することが必要である。
 なお、流動化対象資産が不動産・指名金銭債権から幅広く拡大されることにより、資産保管会社の破綻時のコミングルリスクへの対応が必要であり、有価証券等のコミングルリスクの大きい資産については、資産の保管について信託を設定する等の手当てを講ずる必要がある。

(2 ) 転換社債、優先出資引受権付社債の導入
(現行法:社債、優先出資、CP)

 商品設計に柔軟性を付与する観点から転換社債及び優先出資引受権付社債を発行できるようにすることが適当である。

(3 ) その他

 優先出資証券の投資商品としての魅力を高めるため、特定出資者には当初の払込金額を超える残余財産の払戻しを行わず、すべての残余財産を優先出資者に払い戻すこととしたいとの実務上の要望がある。特定出資は流動化の器としてのSPCを設立するために行われるものであることや、あらかじめ資産流動化計画に定めておけば特定出資者に不測の損害を与えることはないため、資産流動化計画の定めにより残余財産の全額を優先出資者に分配できるようにすべきである。

.行為規制の緩和
(1 ) 特定資産の弾力的処分、追加取得
(現行法:流動化計画に記載されたとおりに資産を取得・管理・処分)

 流動化型は資産が特定していることが前提であり、計画外の弾力的な処分や追加取得は投資者の利益が害される恐れがあるので原則として認められるべきではないが、不動産の流動化の場合、中長期の計画期間内においては、想定し得ない収益力や価格の低下等が生じ、不動産を計画通り保有し続けるよりは早期に売却して資金を回収した方が投資者の利益が保全される場合もありうるので、反対者への買取請求権付与を前提とした特別多数決により流動化計画を変更して資産の処分及び投資者への払戻しができるようにすべきである。なお、計画外の追加取得についてはこのような変更を認める必要性は乏しく、資産運用型スキームで対応すべきである。

(2 ) 借入金制限の緩和
(現行法:借入金は資産価値の維持増加や一時借入れに限定され、流動化計画に記載された範囲内で可能)

 資産流動化のためのSPCの資金調達手段の多様化を図るため、資産流動化計画に記載することを前提に、特定資産の取得のための借入金を認めるべきである。
 なお、不動産流動化に関し、予想外の事態により建物の大規模改修が必要となった場合に、流動化計画に記載された借入限度を超えて弾力的に借入ができるようにしたいとの要望があるが、追加的な担保設定等、投資者の利害に直接影響を与えるため、流動化計画の借入限度や使途を超えての借入については投資者の同意が必要であり、反対者への買取請求権付与を前提とした特別多数決により流動化計画を変更して対応することとすべきである。

(3 ) 余裕金運用制限の緩和
(現行法:国債、預金等に限定)

 不動産の流動化の場合、減価償却費相当額の資金や物件の一部売却代金がSPC内に滞留することから余裕金運用制限の緩和要望があるが、リスク資産による運用は、投資者保護のために運用型スキームの規制を及ぼす必要があり、流動化型では認めるべきではない。SPC内に滞留する資金については、後述(5)の優先出資の減資・払い戻しを可能とすることにより対応すべきである。

(4 ) 優先出資の計画外増資
(現行法:流動化計画に記載のある場合にのみ可能。額面発行)

 予想外の事由により必要となる特定資産の価値の維持・向上のための予定外の支出に対応できるよう、反対者への買取請求権付与を前提とした投資者の特別多数決により流動化計画を変更して優先出資発行総額の増額ができるようにすべきである。また、額面発行だけでなく時価発行増資ができるようにすることが必要である。

(5 ) 優先出資の減資
(現行法:流動化計画期間の途中での減資はできない。)

 不動産の流動化の場合にSPC内に滞留する減価償却費相当額の資金や物件の一部売却代金について投資者への払い戻しができるよう、優先出資について、流動化計画への記載に基づく減資や、債権者異議手続等の手続に基づく減資ができるようにすべきである。なお、流動化計画に基づく減資であっても一般債権者については流動化計画の記載を知らない可能性があることから、別途異議申述手続を経ることが必要である。

(6 ) 業務委託制限の緩和
(現行法:資産管理等の外部委託)

 SPCは証券化を行うための器に過ぎないため、資産の管理処分の外部委託を義務づけることはやむを得ない。

.資産流動化計画の簡素化等
(1 ) 定款事項からの除外、記載内容の簡素化
(現行法:計画期間、発行証券、特定資産の取得・管理・処分等を流動化計画に定めて定款に記載)

 流動化計画は定款記載事項であるため会社設立時に作成する必要があるが、実務上は証券発行直前まで内容が確定できないことが多く(SPCは登録完了後でないと証券の発行ができないが、登録審査の標準的処理期間は2ヶ月程度とされている。)、会社設立時の作成には困難を伴うとともに、その後の変更のための事務コストもかかるという問題がある。投資者への情報提供・スキームの変動防止という資産流動化計画の基本的役割を維持しつつ、実務上の要請に応えるため、投資判断の前提として流動化計画には現状通り詳細な情報を記載するが、定款記載事項からは外すとともに、別途、流動化計画違反の行為に対する投資者や監査役の差止請求権を認める規定を設けることが適当である。

(2 ) 計画の公衆縦覧の限定
(現行法:流動化計画は公衆縦覧)

 証券が私募形式や適格機関投資家向けに発行される場合には、証取法でも公衆縦覧によるディスクロージャーは不要とされており、投資者に対する情報の提供は相対により行われればよいと考えられることから、この場合には流動化計画を公衆縦覧しないこととする。

(3 ) 計画の中途変更
(現行法:流動化計画の中途変更には原則として利害関係人全員の同意が必要)

 流動化型スキームにおいては、スキームの変動防止により投資者保護を図ることが基本となっているが、他方で予め予想しえない事由への対応(上記5(1)特定資産の計画外処分、(2)計画外借入、(4)計画外増資等)の必要が生じることもありうることから、この両者の要請の調整のため、予め定款や信託約款に記載しておけば、反対者に証券買取請求権を付与することを前提として投資者の特別多数決(書面投票を含む。)により流動化計画を変更できることとすべきである。

.行政庁の関与のあり方
(現行法:SPCの登録制)

 SPCの登録の審査(標準処理期間2ヶ月)のため市場の状況に応じた迅速な流動化に支障があるとの指摘がある。SPC法においては登録審査は法令違反の有無のみを審査することとされ、流動化計画の健全性、妥当性は投資者の自己判断に委ねられていること、実際には行政の関与のない海外SPCを利用した証券化商品が国内販売されるケースが多いこと、一般の会社の証券発行は事前登録なしに行われていることに鑑み、登録制による事前審査を届出制に改め、法令違反に対しては事後チェックにより対応することとすべきである。
 但し、行政の事前審査がなくなることから、詐欺的な証券発行防止のため届出時点で流動化対象資産の取得が確保されていることを義務づけるとともに、投資者の自己判断に資するよう特定社債の利回り等に加えて、これらの計算の前提となっている根拠もあわせてディスクローズさせることとすべきである。
 なお、登録制から届出制への移行は、行政の関与が事前審査から事後審査に変わるだけであり、引き続き金融監督当局が法律に基づき監督することに変わりはない。金融監督当局は一般の会社の証券発行に対する証券取引法の執行体制も含め、事後チェックの実効性があがるよう執行体制の充実に努める必要がある。

.倒産隔離
(1 ) 特定社員の議決権制限
(現行法:特定社員は完全な議決権を有する。)

 議決権を通じたSPCへの特定出資者の影響力を限定してスキームの安定性を高めるため、有限会社のように定款で特定社員の社員総会招集権、議案提出権を制限することを認めるとともに、取締役の解任にかかる議案提出権を監査役に限定することを認めることも考えられるが、この場合取締役の欠員への対応が困難となるなどスキームの運営自体に支障が生じて投資者の利益が損なわれることのないようにする必要がある。

(2 ) 倒産隔離のための信託

 議決権を通じたSPCへの特定出資者の影響力を遮断してスキームの安定性を高めるため、特定出資者が信託銀行との間で、(1)受託者は信託財産たる特定出資持分を、当初のスキームの変動防止、その他の信託契約で定める目的に従い管理する義務を負う、(2)委託者はSPCの業務終了まで指図及び信託契約の変更又は解除を行うことができない、という内容の信託の設定ができるようにすべきである。

(3 ) 優先出資の無議決権化
(現行法:優先出資権者には取締役解任権あり。また優先配当が行われない場合には議決権復活。)

 取締役解任権等の議決権を有する優先出資社員の構成が変化しうる状況においては特定社債権者が安心して投資することができないため、オリジネーターが優先出資証券を保有せざるを得ない場合がある。優先出資証券を広く一般投資者に販売できるよう、定款により優先出資を無議決権化できるようにすべきである

.信託型スキームの導入

 資産流動化スキームにおけるビークル(器)として信託の利用が可能となるよう、資産流動化型信託スキームについてSPCと同様の法制度を整備し、当該スキームの信託受益権を私法上及び証取法上の有価証券とすべきである。この場合、投資者保護の観点から、複数の受益者の権利行使関係の明確化が必要であり、(1)受益権を取得した者はその取得により委託者の地位を承継する、(2)受益者の意思決定について、多数決原理を導入するなど、集団的権利行使のスキームを整備する、(3)全ての受益者について計算書類等の閲覧請求権を認める、等の措置を講ずる必要がある。
 なお、投資者の数が少ない場合や期間が短い場合など、信託受益権を有価証券としない従来のスキームの方がコスト面から有利な場合もあり、幅広い選択肢を用意するという観点から、従来型のスキームも併存させるべきである。