2.資産運用型スキーム(投信法の改正)に係る論点

検 討 項 目

検   討   結   果

.基本スキーム

 資産運用型スキームについても会社型と信託型について法整備を行う。

会社型スキーム: 資産の器としての投資法人、実際に業務を行う運用会社、資産保管会社、一般事務受託者という構成とする。
 (注 )不動産ファンドの「運用」は、不動産の売買だけでなく、賃貸や修繕・改装等の管理業務の判断等も含む。 「保管」は、不動産を保管するのではなく資産保全という観点から現金や口座等の分別保管を行う。
信託型スキーム: 外部の運用会社が運用指図を行う委託者運用型に加えて、受託会社が自ら運用できる受託者運用型も整備する。
 (注 )受託者運用型は、投資信託委託会社ではなく、信託銀行が投資家から集めた資金を自ら運用する。
.対象資産等
(1 ) 対象資産の範囲

 金融イノベーションを促進し自由な商品設計が可能となるよう、横断性と自由度の高い運用型集団投資スキームを整備する必要があり、財産権を幅広く投資運用の対象とすべきである。
 法制の整備にあたっては、既存の資産運用型法制との関係について、過重な二重規制とならないよう配意する必要がある。また、それぞれの資産には特有の性格や取引形態・市場があるので、すべての資産に共通する行為規制を形式的に定めるのではなく、投資対象資産の特性も踏まえた対応を行う必要がある。

(2 ) ファンドのポートフォリオ等

 リスク分散の可能性も含めて商品設計の自由度を広げる観点から、1つのファンドが様々な資産に投資して運用する混合運用もできるようにすべきである。また、ファンドの設計や運用にあたっては、設立したファンドが想定された成果をあげられるよう、適切な投資やファンドのタイプに応じた流動性の手当て等を図る必要があるが、具体的にどのような内容とするかはファンドの内容に大きな影響を与えるものである。創意工夫により多様なファンドの創設が可能となるよう、法令では、適切な投資やファンドのタイプに応じた流動性の手当てを講ずることを求める一般的な規定を設けるとともに、具体的な内容の設定は各ファンドが行い、これを投資者にディスクローズさせることが適当である。

(3 ) 資産の適正評価の担保

 組織化された公開の市場による価格形成が行われていない資産について一定規模以上のものをファンドが取得、売却するにあたっては、ファンドの運営の透明性、公正性を確保し投資者保護を図る観点から、SPC法のように外部の者による価格評価の適正手続を義務付ける等の手当てを講ずることが必要である。
 オープンエンド型のファンドについては、解約価格や新規投資価格算出のためファンドの資産価値を定期的に時価評価する必要がある。公開市場による価格形成が行われていない資産については、ファンドごとに個別に評価基準を定めて規約に記載するとともに、時価評価の計算根拠等も含めて資産の時価評価額及び解約価格・新規投資価格をディスクローズすべきである。これとは別に、財務諸表の作成については、投資目的の金融資産のように市場価格で売買することで利益を得る目的で保有する資産については時価評価すべきであるが、使用により収益を得る目的で保有する資産については取得原価又は低価法で評価することとする。
 クローズドエンド型のファンドについては、常時新規投資価格等を算出する必要性はないが、投資者自らが当該ファンドの価値を判断するに足る時価情報を開示していくことが重要であり、運用報告書等において、財務諸表に加えて、資産の時価を判断するに足る情報も開示することが必要である。なお、不動産は日々の時価評価が困難なほか、流動性が低く大規模な入替えも困難なことから、投資者の意思に基づく追加投資や一部解約に対応しにくいため、オープンエンド型よりはクローズドエンド型のファンドに馴染みやすいと考えられるが、この場合、投資証券を取引所に上場するなどして一般投資者が随時購入・換金できるようにすることが必要である。

.ファンドの設立等
(1 ) 設立時の最低規模、常時保持すべき最低純資産額

 詐欺的な小規模ファンド設立を防止するため、一定以上の規模とすることは必要であるが、具体的な金額レベルについては商品設計の自由度を阻害しないよう十分な配慮が必要である。

(2 ) ファンドを設立する者

 ファンドを企画・設立する者は、ファンドを適切に設計するとともに適正な運用会社を選択する必要があり、この観点から対象資産に関する十分な知識と経験を有する者に限定する必要がある。

.ガバナンス

 会社型については、投資者が投資法人の社員として規約違反行為の差止請求権や規約変更の議決権等、種々の権利を有している証券投資法人と同様の仕組みとする。
 信託型については、現行の証券投資信託では、投資者の帳簿閲覧権と外部の会計監査人の監査が定められているが、他方で商品としての同一性が失われるような信託約款の重大な変更についても投資者の同意なしに変更可能な法制となっている。信託約款の変更は、投信委託会社と信託銀行の合意が必要であることや、投資者や市場の評価を受けることから、現実には投資者の利益を害するおそれのある変更が行われることは稀であると考えられるが、他方で投資者間で評価が分かれる可能性のある変更を行うことは事実上困難である。約款の重大な変更も必要に応じて現実に行うことができるようにするため投資者のガバナンスの仕組みを整備する必要がある。既に、多数の投資者が受益証券を保有しており、新たなガバナンスの仕組みのコストは投資者の負担となることや、約款の変更には受託会社たる信託銀行の同意が必要であり事実上のチェック機能が期待できることも踏まえ、信託約款の重大な変更については公示するとともに、反対者が異議を述べることができることとし、反対者が過半数に達しない場合には変更が承認されたとする手続を導入することとする。また、当該ファンドがクローズドエンド型である場合には反対者には信託受益権の買取請求権を与えることが必要である。 

.発行証券
(1 ) 投資証券

 資産運用型スキームにおいては複数の種類の投資証券を発行すれば投資者間の利害対立が生じるため、エクイティ型の発行証券は1種類とすべきである。なお、会社型のクローズドエンド型については、エクイティ型証券1種類に加えてデット型の証券の発行ができるようにすることが望ましい。

(2 ) オープンエンド型の可否

 投資者の選好を考え、随時の払戻が可能であるオープンエンド型の組成も引き続き可能とすべきである。なお、流動性の低い資産に投資するオープンエンド型については、払戻資金の手当てを講ずるとともに、払戻手続や払戻制限等について定め、投資者に対して十分なディスクロージャーを行うことが必要であるが、どのような内容とするかはファンド毎に異なるため、法令では適切な対応を求める一般的な規定を設けるとともに、具体的な内容はファンドの組成者が定めることとするのが適当である。

.借入制限・レバレッジ規制

 個別性の強い資産については、売却のオファーがされている時期を逃すと取得は困難であることから、このような資産に投資するファンドについては、機動的で柔軟な資金調達の道が用意されている必要があり、その手段として借入が行えるようにすることが必要である。この場合、貸し手と投資者の間で利害の対立が生じることがあるので、オープンエンド型ファンドの解約に関する利害調整措置が必要である。

 デリバティブ取引に関するレバレッジ規制については、投資者保護の観点から様々な議論があり、投資者に対する適切なディスクロージャーを行えばレバレッジ規制は必要ではないとの意見がある一方で、投資判断の情報として意味があるとともに理解が容易な適切なディスクロージャーを行うことは困難であり規制が必要との意見もある。この問題については各国においても様々な議論が行われているが、未だコンセンサスが得られている状況にはない。当面は、法令レベルでのレバレッジ規制は定めず各ファンドの設計に委ねるとの現行法制を前提に、ディスクロージャーの充実に努めることが現実的である。

.運用(指図)会社
(1 ) 資格要件

 今回整備を検討している資産運用型スキームは、有価証券の発行により広く一般投資者から資金を集めて多様な資産に運用するファンドであり、この新しい投資ファンドが我が国金融市場に定着し発展していくためには、透明性・信頼性の高い仕組みとして一般投資者に受け入れられることが必要不可欠である。資産流動化型スキームは企業の資金調達のための手段であり、その投資証券は裏付けとなる特定資産に支えられているのに対し、資産運用型スキームは、一般投資者から資金を預かって運用するという金融サービスを提供するための仕組みであり、その投資証券の信頼性はひとえに運用会社にかかっている。
 このため資産運用型スキームの運用会社については、投資者保護の観点から各国とも金融監督当局による適格性の確保が図られており、我が国においても投資者保護の観点から、運用会社について、健全な財産的基礎・良好な収支見通し、運用対象資産についての十分な知識・経験や社会的信用を有する人的構成、的確な業務執行体制等を要件とする認可制とすべきである。

(2 ) 兼業制限

 運用会社については、投資者との間の利益相反の問題について情報開示や利益相反行為の禁止規定で対処する一方、ファンドの運用に必要な各種情報の入手、有能な運用担当者の確保や経営基盤の強化を図ることができるよう、業務範囲を制限せず、ファンドと同種の投資事業を自ら営むことも含めて幅広い業務が行えるようにすべきとの要望がある。
 しかしながら、利益相反のリスクは単に禁止行為を定めることによって防止しうるものではなく、その実効性が確保されなければならない。このためには運用会社の事業や保有資産の内容の透明性が確保され投資者が利益相反の有無を現実にチェックできることが必要であり、この点は、組織化された公開の市場がなく、客観的かつ公正な価格評価が難しい資産を投資対象とするファンドの運用会社においては特に重要である。このため、運用会社は専業制を基本とすることが望ましい。更に、他業の事業リスクを遮断し運用会社の健全性を確保するとともに、適格性確保のための検査・監督の実効性を確保するためにも、運用会社は専業制を基本とすることが必要である。以上の理由から、運用会社は専業制を基本とし、兼業範囲はファンドの運用業務を営むにつき公益又は投資者の保護に欠けるおそれがないと認められるものに限るべきである。また、兼業部分についても投資者に対して透明性が確保される必要があるとともに、ファンドの運用に与える影響という観点から業務及び財産の状況について検査・監督の対象とする必要がある。

(3 ) 受託者責任

 利益相反防止のため、(1)ファンド相互間の取引、(2)運用会社とファンドの間の取引、(3)運用会社の利害関係者とファンドの間の取引、(4)ファンドが第三者との間で行う取引であって、投資者の平等を害する行為や運用会社、利害関係者及びこれらの顧客等、ファンドの投資者以外の者の利益を優先する行為、(5)運用会社又はその利害関係者が第三者と行う取引であってファンドの運用・管理に何らかの関連性を有する取引、等について情報開示義務や一定の行為の禁止等を定める必要がある。
 但し、利益相反取引の禁止については、大量に流通し価格・利回り等の条件だけで売買される資産と個別性の強い資産とでは区別して考える必要があり、不動産等の個性の強い資産についてはファンドのパフォーマンスをあげるためには利害関係人との取引等が有益な場合もあり、取引行為そのものを禁止するのでなく情報開示や投資者等のガバナンスの確保により対応することが必要である。
 このほか、売買価格の適正性確保のためのアームズ・レングス・ルール、プルーデント・インベスター・ルール、関係者が複数存在する場合の責任関係の明確化等を図る必要がある。

.資産保管会社

 コミングルリスクへの対応や相互牽制の観点から、資産運用会社と資産保管会社は分離することが適当である。また、金銭や有価証券等の即時取得の対象となる資産については、コミングルリスクに対応するため資産保管会社を一定の者に限定する必要がある。
 但し、信託勘定については破綻の場合に独立性が法的に担保されているため、受託者運用型について信託銀行の外に更に資産保管会社の設置を義務付ける必要はない。