「新しい金融の流れに関する懇談会」第10回会合議事要旨

 

1.日時:平成10年3月24日(火)  10時00分〜12時30分                           

                                                                            

2.場所:合同庁舎4号館  共用第一特別会議室                              

                                                                            

3.議題:メンバーによる意見発表(3)  −新しい金融法制のあり方(2)−          

                                                                            

4.議事概要:                                                            

  本日は、当懇談会のメンバーである岩原紳作・東京大学法学部教授、村上政博・横浜

国立大学大学院教授、岩村充・早稲田大学アジア太平洋研究センター教授による「新し

い金融法制のあり方」をテーマとした意見発表があり、その後、質疑応答及び自由討議

を行ったが、そこでの主な意見は次のとおり。                                

                                                                            

                                                                            

  ○  一般の民商法を超えて金融サービスを対象とする特別の法制を検討する上で、金

    融取引の特性を考える必要があり、いわゆる「金融サービス法」で取り上げる「投

    資関連サービス」の範囲をどのような特性に着目して定義するのかをきちんと議論

    すべきではないか。                                                      

                                                                            

  ○  ルールの対象となる「投資関連サービス」については、我が国の証券取引法にお

    ける有価証券概念を見直し、米国の連邦証券諸法における「証券」概念や英国の金

    融サービス法における「投資物件」概念のような幅広い定義を採る必要があるので

    はないか。                                                              

                                                                            

  ○  市場型取引や相対型取引といった取引の類型に応じて、取引法的アプローチ、市

    場法的アプローチ、業者法的アプローチを組み合わせてルールを形成していくので

    はないか。なお、規制緩和の流れの中で、取引法的アプローチにより司法プロセス

    を通じて解決を図る仕組みが望ましいとの見方があるが、我が国の司法システムの

    現状から見てこれが万能というわけではなく、業者法アプローチにより行政庁が一

    定の規制を課す形が基本となるのではないか。ただし、余計な規制は排除し、透明

    なルールの下で、縦割りではない、横断的な規制によって適切な業務を担保してい

    くことが重要である。                                                  

                                                                            

  ○  営業規制については、ブローカー・ディーラー業務、引受業務、投資助言業務、

    資産運用業務、資産管理業務、仕組業務といった業務の機能に応じた横断的業務

    規制を考えていくのではないか。なお、集団投資スキームのうち、運用裁量性の

    ないものについては、利益相反のおそれも薄いから、規制の必要性は小さいので

    はないか。                                                            

                                                                            

  ○  開示規制のあり方としては、従来までの株式等の企業が発行する証券を中心とす

    るルールのほか、英国の金融サービス法や我が国の商品ファンド法に見られるよう

    な流通過程での広告規制も含めてルールのあり方を考えていくのではないか。  

                                                                            

  ○  保険については、商品の保障性、貯蓄性、投資性等の強弱に着目して細かなルー

    ルの内容や特殊性を考えていくことになるのではないか。                    

                                                                            

  ○  銀行業務については、決済システムを決済主体、決済手段、決済媒体、インフラ

    ストラクチャーといった構成要素に分解した上で、決済手段を中心にその特殊性を

    考えていくのではないか。具体的には、銀行の排他的業務とされている決済手段と

    しての要求払預金の受入れや、小切手等の決済媒体を用いた為替取引については、

    銀行以外でも類似の業務を営むものであり、為替取引は米独では排他的業務とさ

    れておらず、考え方を整理していく必要があるのではないか。              

                                                                            

  ○  専門的経済行政の分野においては、透明なルールの下での効果的な事後規制のた

    めの法的枠組みの整備が課題となっており、そのためには、是正措置権限、行政制

    裁を整備した上で、米国流の行政審判制度のような司法審査の介在する制度を採用

    することが望ましいのではないか。                                        

                                                                            

  ○  さらに、基本ルールの実効性確保のためには個人責任の追及が有効であるため、

    通常の行政調査権限のほか、刑事告発を目標とする犯則事件調査権限を整備し、刑

    事罰と行政上の措置を有機的に活用すべきではないか。                      

                                                                            

  ○  一方、被害者のイニシアティブによる裁判所の民事救済措置は、我が国では補完

    的な役割を果たすことにとどまると予想されるのではないか。                

                                                                            

  ○  経済構造の変化により、金融制度の役割に対する期待が変化しており、従来は、

    乏しい国民貯蓄を効率的に配分するための配給型の金融システムの下で、「カネ」

    (資金のアベイラビィティー)に注目した金融法制を採ってきたが、今日では、新

    しい投資機会への挑戦を可能とするための市場型の金融システムを支えるための「

    リスク」(投資に関する情報生産)に注目した金融法制が求められているのではな

    いか。                                                                  

                                                                            

  ○  今後の法整備における方向感としては、リスクを管理し取引するための私法的ル

    ールとして、リスクの移転等に係る要件と効果に着目したルールの整備が必要では

    ないか。また、新しい環境に整合的な業者法あるいは市場法へのリストラクチャリ

    ングとして、規制法の違反と私法上の取引の効果との関連性の明確化、金融取引の

    実情に即したディスクロージャー制度の充実、カネの所在に着目したルール(業者

    規制が中心)から情報の所在に着目したルール(情報優位者に対する義務規定が中

    心)への転換が必要となっているのではないか。                            

                                                                            

  ○  金融制度上の問題としては、(1)ルールそのものの問題、(2)ルールを作る仕組みの

    問題、(3)ルールの実行を監視・強制する仕組みの問題に区分できると思われる。現

    実的な仕組みを整備していくためには、(2)の面で迅速なルール作りへの要求に耐え

    うるルール形成のための仕組みが必要であり、金融の分野におけるルール形成機関

    のあり方を含めて議論を深めていく必要があるのではないか。                

                                                                            

  ○  いわゆる「金融サービス法」の適用範囲については最大限広いものとした上で、

    立法形式にもよるが、「金融サービス法」で最低限のルールを押さえるとともに、

    投資信託や変額保険といった個別商品に関するルールについては、それぞれの特性

    を踏まえて整備することになるのではないか。                            

                                                                            

  ○  保険会社の倒産の際、特別勘定の取扱いは分別管理を前提に一般勘定と区別する

    ようにすべきと思われるが、実際には、別扱いとすることができないでいる。今後

    は、分別管理に関するルールを明らかにし、倒産時には一般勘定と分離できるよう

    にすべきではないか。                                                  

                                                                            

  ○  数倍額損害賠償や懲罰的損害賠償については、特許法改正における知的財産所有

    権のように権利関係や違反行為の態様が明確なケースについても、我が国の法制で

    は認められなかった。まして、多様な違反行為の態様が存在する金融分野について

    は、導入は難しいのではないか。                                        

                                                                            

  ○  クラスアクションは少額被害の救済に有効な手段と考えられるが、これは金融取

    引のみならず、一般のケースについても当てはまるものであり、損害賠償制度一般

    の問題として議論していくべき点ではないか。                            

                                                                            

  ○  ドイツにあるような団体訴権は、裁判所に差止請求権を申し立てる権限を消費者

    団体等に付与するものであり、約款法のような分野では使えると思うが、日本法上、

    裁判所による差止めは例外的かつ重大な措置として捉えられており、また、私人に

    よる客観訴訟を認めていないことから、我が国での導入は困難ではないか。    

                                                                            

  ○  仲裁制度については、紛争処理に係るコスト削減には役立つと考えられるが、本

    来は公的機関が積極的な法運用において対処すべきであり、何らかの理由で公的機

    関が設けられていない場合に限って考えるべきものではないか。            

                                                                            

  ○  少額被害であるとしても、制度的に重大な事案については、裁判所に持ち込めば

    ルール形成に繋がるという点で重要である。従来は、こうした案件の処理について

    行政官庁がその処理を果たすよう期待されていたが、明確なルール形成には繋がっ

    てなかったと思われる。こうした観点からは、立法のための仕組みと実行のための

    仕組みが同一の機関により担われていることが適切かどうかという議論も考えられ

    るのではないか。ルールの受け皿のあり方とともに、ルールのコンセンサスを高め

    ることも重要ではないか。                                              

                                                                            

  ○  ルールの形成力については、裁判所と行政庁のどちらかが定めるのかということ

    ではなく、プロセスが公開か非公開かということに依存するのではないか。  

                                                                            

  ○  米国の行政手続法では、ルール形成の透明性確保のため、情報公開に対する厳格

    なルールを定めており、これが参考になるのではないか。                  

                                                                            

  ○  平成4年の証券取引法改正の際には、罪刑法定主義や証券会社の兼業禁止の関係

    から、包括的有価証券概念の導入が難しかったのではないか。有価証券の定義はル

    ール全体を画する概念であり、こうした点までも包括規定で自動的にカバーすると

    いう形では無理があるのではないか。市場性に着目した包括的規制を考える場合も、

    早い段階で政令指定することやミニ包括規定を設けることで、透明性と包括性が

    達成できるのではないか。                                              

                                                                            

  ○  刑事罰の適用が余りにも厳格すぎるのが問題ではないか。また、数倍額損害賠償

    やクラスアクションのように、法律に書いていない暗黙の障害があって、法的手当

    てができないことが多いというのが実態ではないか。包括的な定義によって、新商

    品が自動的に適用対象になるとしても、そもそも刑事罰以外のエンフォースメント

    手段は存在しており、さらに刑事罰についてももっと柔軟な適用を考えていくべき

    ではないか。政令指定を弾力的に行うことは実務的に困難な面があり、この仕組

    みを改めることが期待される。                                          

                                                                            

  ○  民間の自主規制に関して民民規制との批判があるが、我が国の証券関連自主規制

    機関の自主ルールは大蔵大臣の認可を得ている上、大蔵大臣の修正命令の対象でも

    ある。このようなルールは公的性格が強く、市場の現場を知っている者を活用した

    民主的ルールではないか。包括的な金融法制を考える際に、その持つ意味は重きを

    なしていくのではないか。                                              

                                                                            

  ○  英国のような強い規制権限をもった自主規制機関を、日本法上、定めることはで

    きるのか。公的機関が本来すべきことを自主規制機関にどこまで委任できるのか疑

    問であり、唯一理由があるとすれば人材、専門的知識といった物理的要因ではない

    か。なお、自主規制が常に民民規制になるということではなく、そうなる場合もあ

    りえるので、留意すべきということではないか。                          

                                                                            

  ○  独占禁止法の規定は抽象的であるが、運用で明確性を確保している。市場規制に

    ついても、弾力的に運営すればルールが明確になるのではないか。          

                                                                            

  ○  英国の自主規制機関が機能するのは、思考過程、結論の導出過程といったプロセ

    スに透明性・説得性があるからであり、公対民又は民対民といったルール制定の形

    式の問題ではないのではないか。                                        

                                                                            

  ○  ルール形成の仕組みについては、トラブルがあろうがあるまいがルールそのもの

    を定める立法的なルール形成と、トラブルに対して判例の蓄積を通じてルールを形

    成する司法的なルール形成とに区分して考えるべきではないか。後者の意味でのル

    ール形成は争う余地をなくすという意味であり、ルール自体が時代や環境に適合し

    ているか否かは別次元の問題である。我が国では、この両方のルール形成の仕組み

    が弱いと思われ、双方ともに重要な問題となっているのではないか。          

                                                                            

  ○  ルール自体が大まかであっても、判例の蓄積によりルールの詳細が固まっていく

    が、刑事判決、民事判決はともに司法審査を通じてなされることにより、ルールの

    明確性と正当性が確保されている。一方、現在の行政システムでは、不服審査等の

    司法手続きに至らないケースが大半であり、行政上のルール運用にも司法審査を介

    在させることが望ましいのではないか。                                  

                                                                            

  ○  行政処分がルール形成に繋がらないのは、明らかに違法とわかる事象に対して大

    まかな事実認定に基づいて処分を行っているケースが大半となっているからであり、

    それ以外は行政指導という形で処理されているからではないか。むしろ、微妙な案

    件についても行政が積極的に関与する形としない限り、ルール形成は期待できない。

                                                                            

  ○  証券取引法第 192条にある大蔵大臣による裁判所への差止命令の請求は、現実に

    は用いられていないものの、私法上のルール違反の是正に行政が関与するものであ

    る。行政上の措置を強化するのが現実的という考え方もあるかもしれないが、むし

    ろ公法と私法の区分に囚われることなく、私法的なルールをいかに活用するかにつ

    いて検討していくべきではないか。                                      

                                                                            

  ○  証券取引法第 192条のような規定は、アメリカ並みの司法審査体制がなければ技

    術的に我が国に導入することは難しいのではないか。なお、民事訴訟への行政の関

    与について、米国では、法律上重要な案件については行政庁が意見書を提出する場

    合があり、裁判所が必ずしも採用する保証はないが、実質的には調整が図られてい

    る。こうした対応について、我が国の行政訴訟法上の手続きをどのように考えるの

    か。                                                                    

                                                                            

  ○  米国の「証券」の定義に関するHowey Testは、投資物件の解釈に関する基準と考

    えられているが、このほかにもDemand Note に関する判例では、family resemblan

    ceといった類似性の基準が採用されている。また、先物取引の扱いについて、法律

    上は1992年の法改正及び1993年のCFTC(商品先物取引委員会)規則によって、

    商品取引所法の対象とすることとされたという経緯がある。なお、米国においてHo

    wey Testが持つ意味は主としてマルチ商法的なものに限定されると解されているの

    ではないか。また、英国の金融サービス法では、当初単純なカストディー業務は対

    象外とされていたが、その後の改正で追加されたという事例もある。こうしたこと

    を念頭に、我が国の場合は、どのような程度まで幅広い商品を対象としていくのか

    を考える必要があるのではないか。                                      

                                                                            

  ○  英米における投資物件および証券の概念は歴史的に構築されてきたものであり、

    必ずしも理論上の一義的な定義がある訳ではなく、様々な基準が用いられてきてい

    る。いずれにせよ、英米でも見られたように、全体として対象となる商品・サービ

    スの範囲をどうするかという議論は重要であり、その中でも「集合投資スキーム」

    といった概念はかなり幅広い範囲を捉えることができるのではないかと思っている。

    一方、マルチ商法については、現在出資法により対応しているが、商品開発を阻害

    しているとの指摘があり、新しい金融法制において「まがい商品」を抑制できるよ

    うな体系を考えるべきではないか。そのことにより、出資法の見直しも可能となる

    のではないか。                                                        

                                                                            

  ○  紛争処理が規範性を持つためには、その最終性、正当性の二つの側面を考える必

    要があり、手続きの透明性を高めることで行政処分の正当性を高め、規範性の重み

    を増すことはできると考えられるが、最終性という面では、裁判所の判決と比較し

    て劣っており、その点で規範性が弱いということになるのではないか。また、正当

    性という面でも誰が判断したかという点が重要であり、民間の判断か、行政の判断

    か、裁判所の判断かで重みに違いがあるのではないか。                      

                                                                            

  ○  英国の自主規制機関が実際に機能しているかどうかは判断の分かれるところで

    あり、ベアリング社の事例を鑑みると、自主規制機関の機能には限界があるとい

    えるのではないか。                                                      

                                                                            

                                                                  (以  上)

 

問い合わせ
大蔵省 3581−4111(代)
銀行局総務課金融サービス室(内線5408、5952)
本議事要旨は暫定版であるため、今後修正があり得ます。