1.日時:平成10年4月10日(金) 10時00分〜12時30分
2.場所:通商産業省別館 各省庁共用944号会議室
3.議題:メンバーからの意見発表(4)
−新しい金融法制のあり方(3)−
4.議事概要:
本日は、当懇談会のメンバーである石黒一憲・東京大学法学部教授、京藤哲久・明治
院大学法学部教授、山田誠一・神戸大学法学部教授から、「新しい金融法制のあり方」
をテーマとした意見発表があり、その後、質疑応答及び自由討議を行ったが、そこでの
主な発言は以下のとおり。
○ 外国の法制等の比較・紹介によってグローバル・スタンダードを考えていくだけで
はなく、外国法と国内法のインターフェイスの部分を重視して、国際的なグローバル
・スタンダード作りの動きに対して積極的・戦略的に関与していくべき。国内の新た
な金融法制を考えていく際にも、こうした観点からの検討が不可欠ではないか。
○ 金融サービス取引において、刑罰法規は、(1)一般投資家を含む人々の個別の財産を
保護する目的で詐欺罪等の財産犯として関わっているほか、(2)金融サービス取引の基
本的な枠組みを担保する目的でも関わっている。前者については、保護が不十分なら
刑罰は積極的に関与すべきであり、後者については、刑罰の利用は必要不可欠なもの
に限ることが適当ではないか。
○ 規制緩和の流れに沿って金融サービス法をつくる場合には、それが出資法第2条の
預り金規制と衝突するので、両者をどう調整するかという問題の解決が不可避と思わ
れる。なお、法律上の預り金禁止規定の及ぶ範囲と、現実の規制が及ぶ範囲には大き
なギャップがあることに留意すべきである。その場合、悪徳商法から人々の財産を守
るため欠かせない役割を果たしている出資法の規定を単純に削除してしまうのは適当
ではなく、預り金禁止に代わる規制のイメージとしては、商品に関する一定の届出制
や無届出ないし不実届出への処罰等の措置が考えられるのではないか。
○ 悪徳商法などの被害から一般投資家、消費者の財産を守るためには、詐欺罪では限
界があり、例えば、被害者の経験不足、判断の未熟さ等につけ込んで意思を支配する
ことにより財産を交付させる行為を刑罰の対象とするなど、新たな財産犯類型を設け
ることも考えられるのではないか。
○ 金融サービス法においては、ディスクロージャー関連の規定が重要度を増すことが
予想される。ディスクロージャーの対象を投資家が自らの判断でリスクを回避しうる
程度のものにまで拡大し、その違反に対する刑罰もより重くする方向で見直す必要が
あるのではないか。
○ 新しい金融の流れと民事責任の関係については、(1)金融商品・サービスの勧誘・販
売を理由とした金融機関等の顧客に対する説明義務違反・適合性原則違反による損害
賠償責任、(2)資産運用サービスを提供する者の行為義務(善管注意義務・忠実義務)
(3)決済サービスや融資サービスにおける提供者の利用者に対する責任、(4)従業員や代
理店・仲介業者が行った行為に基づく使用者や本人の損害賠償責任、(5)行政的な措置
を行う根拠となる規定と民事責任を成立させる根拠となる規定との関係の整序等が検
討課題となるのではないか。
○ 説明義務違反や適合性違反に基づく損害賠償責任を認める我が国の裁判例の傾向は
概ね妥当なものであるが、現状のように民法709条を根拠として損害賠償を認める
のでは予測可能性の点で問題があり、法律上の要件と効果を定める具体的な規定を設
けることが望ましいと考えられ、この点、不正競争防止法2条及び4条の規定が参考
になるのではないか。その場合、実質的に同一の取引行為については、同一の民事責
任が発生するということを基本的な方向とすべきではないか。
○ 行政的な制裁の根拠となる規定をそのまま民事責任の根拠とすることは、解釈上の
争いを残すと思われ、法的な安定性を実現するためには、民意責任を成立させる旨を
具体的に定める規定を設けることが望ましいのではないか。
○ 実際に規定を設ける場合には、(1)当事者のカテゴリーによって規制内容を区別する
か否か、(2)仮に区別する場合、その区分はプロ・アマまたはホールセール・リテール
を原則とするのか、(3)仮に二分法をとる場合、どちらを原則とするのか、についても
検討する必要があるのではないか。
○ 集合的投資スキームにおける法人形態以外のビークル(信託型のファンド等)につ
いても、刑事責任、民事責任および課税の面でルールの対象主体となることがあるの
か。
○ 刑法の世界では、刑事罰を科す主体は自然人を前提とし、法人については例外と考
えられているが、ファンドに対しても例外的に刑罰を科すことがあり得ない訳ではな
いと思う。
○ 一般論としてファンドが民事責任を負いうるかと問われれば、負う場合がありうる
という答えになると思うが、例えば、ファンドによる相場操縦等に対する民事責任は
考えることができても、勧誘や販売に係る民事責任をファンドの参加者がファンド自
体に問うことは実際にはありえず、販売者・仲介者に問うことになると思う。
○ 経済的な効果が同じであるにもかかわらず、ビークルのガバナンス構造や法的枠組
みが異なることで規制上の取扱いが異なるという日本の現行制度には問題があるので
はないか。
○ インターネット等の発展により、ホールセールの分野に限らず、個人取引の分野で
も国際的な取引が増加しており、個人間あるいは企業と個人間の金融取引に係る国際
的な紛争が起こる可能性が高まることも予想される。その場合、(1)お金の動きがどこ
で行われるか、(2)契約の勧誘・合意がどこで行われるか、(3)そもそも(1)、(2)を特定で
きるのかといった問題が生じるのではないか。
○ 「悪徳商法」の定義をいくら厳密に行っても、その定義の抜け道を探す業者が必ず
出てくる。一方、罪刑法定主義の原則からすれば、明確に要件を定めなくてはならず
結局はイタチごっこになってしまうのはある程度仕方がない面があると思う。
○ 相場操縦、インサイダー取引、不実開示などの市場型の犯罪と一般刑法に係る相対
型の犯罪とは分けて考える必要があるのではないか。市場型の犯罪は、個別に被害が
発生しなくても、市場に対する悪影響という観点から、いわば抽象的危険犯として重
い罰則を課すべきではないか。その場合、独禁法のように包括的な規定を置くととも
に、法律の運用プロセスの透明性を高めることで対処すべきではないか。また、民事
責任についても、取引としては実質的に同じであっても、市場に与える影響の大小に
着目して整理することも必要であり、例えば、市場メカニズムを阻害したことに対す
る民事制裁といったことを考えられないか。
○ 市場型の行為規制に対する刑罰は必要不可欠な場合に限定して用いるべきであり、
市場への悪影響ということだけで刑罰の対象とするのは行き過ぎではないか。なお、
処罰の対象を広くするというのは公平なように見えるが、実際は摘発に係る人員の制
約等もあり、誰を起訴するのかが当局の恣意に流れる危険性があることから、必要最
小限に対象を絞っていくことが立法政策上は望ましいのではないか。
○ 市場型の犯罪防止のような社会的法益の保護を目的としたものに、民事責任の考え
方は無力である。唯一、民事的な差止めが考えられるが、我が国の場合、差止めは物
権的請求権のような権利に基礎を置いていると考えられるので、実際には難しいであ
ろう。
○ プライバシーの侵害に対する損害賠償請求には、個人の損害だけではなく、社会的
法益の侵害も加味されているという考え方が可能であるならば、市場型犯罪の民事責
任にマーケットに対する影響を加味するということも考えられないことはないのでは
ないか。
○ 近年、金融市場における格付けの注目度が高まっているが、格付け自体についても
も、プロセスの透明性確保が重要といえるのではないか。また、企業経営のあり方の
最初から最後までを国際標準の画一的な物差しで評価しようとすることには問題があ
るのではないか。
○ 我が国の金融機関は、国際金融取引における法的問題を様々な点から検討し、顧客
にきちんと説明するということができていないように思う。クロスボーダーのリーガ
ル・リスク・マネージメントをしっかりとしたものとするためには、国際渉外弁護士
の充実等の環境整備も必要ではないか。我が国におけるリスク意識の低さは大きな問
題であると思う。
○ 従業員の行為に係る使用者の責任の問題や複数の事業者が関与する場合の問題につ
いては、支配・監督関係、法人格の分離、費用の負担等に応じて、使用者と従業員、
本人と代理人の責任範囲について判断していくことになるか。その場合、どれだけ明
確なルールを定めることができるか。例えば、保険業法283条(保険募集人の所属
保険会社の責任)のような規定を他の金融商品にも当てはめることが適切かについて
の検討が必要なのではないか。
○ 出資法の問題については、実際に経済犯罪の最後の砦的な役割を果たしているが、
真っ当な人にとっては線引き(預り金の規定等)をはっきりとしておくべきである一
方、逆にはっきりさせてしまうと、悪質な人は抜け穴を用い易くなる面があり、その
バランスが非常に難しい。
(以 上)
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