「新しい金融の流れに関する懇談会」第8回会合議事要旨

 

1.日時:平成10年2月27日(金)  10時00分〜12時30分                             



2.場所:合同庁舎4号館  大蔵省第一特別会議室                                  



3.議題:メンバーからの意見発表                                                

                    −金融システム改革の進展の中での新たな金融の流れ−          



4.議事概要:                                                                  

    本日は、当懇談会のメンバーである堀内昭義・東京大学経済学部教授、池尾和人・慶

  應義塾大学経済学部教授、田辺昇・日本投資信託制度研究所特別顧問から、「金融シス

  テム改革の進展の中での新たな金融の流れ」をテーマとした意見発表があり、その後、

  質疑応答及び自由討議を行ったが、その概要は以下のとおり。                      



                                                                                

  ○  金融のアンバンドリングにより、伝統的な金融仲介機能が変化してきているなかで

    、伝統的な概念にとらわれず、どのような市場取引が必要なのか、共通レベルでどの

    ようなルールが必要なのかということを考える必要があり、業態別・縦割りの法的枠

    組みではなく、横断的なルールを考える必要があるのではないか。                



  ○  これまで個人や家計は、セーフティネットによる保護を漠然とした形で受けてきた

    が、今後は、明示的にかなりの程度リスクを負い、直接ないし間接的に金融仲介業者

    の行動を監視し、規律付けていくことが求められる。その一方で、社会的な見地から

    は、完全にリスク・フリーの貯蓄手段が選択可能であることが重要であり、その場合

    に、一定の最低限の範囲でセーフティネットが付されていることをきちんと識別でき

    るようにしておく必要がある。                                                



  ○  事前的行政から事後的監視システムへの移行に伴い、行政当局と市場との役割分担

    を明確化することが求められている。行政当局は、セーフティネットにより保護され

    る金融商品については、個人・家計の代理人として金融仲介業者を監視することが要

    求されるが、その他の金融商品については、マーケットのルールの遵守状況をチェッ

    クすることにその役割を限定すべき。                                          



  ○  我が国の金融構造面における資金余剰基調への転換、ストック化の進展といった環

    境変化に伴い、新しい金融仲介チャネルを拡大していく必要があり、伝統的な銀行の

    預貸を通じた間接金融により銀行がリスクを丸抱えする形から、集合的投資スキーム

    のような市場型の間接金融(市場を媒介とした分業体制による金融仲介)により、家

    計部門が広く薄くリスクを負担する形にシフトしていく必要がある。              



  ○  市場型の間接金融による金融サービスの供給構造を自成的な形で実現していくため

    には、幅広い競争を実現するための自由化措置と並行して、包括的・統一的な公正取

    引確保と利用者保護を図るための枠組みの整備が必要である。                    



  ○  集合的投資スキームの投資者にprincipal としての自己責任を問うためには受託者

    責任(fiduciary duty)を礎石とする健全なガバナンス構造を確立することが必要で

    あり、その際、どこからを個々の契約の自由に委ね、どこまでを法制のなかに取り込

    むべきかが問題となる。                                                      



  ○  集合的投資スキームとは、金融のプロが小口の投資者の資金をプールしてファンド

    を作り、それを責任を持って運用管理する「間接投資」である。これからの金融は、

    リスク負担を銀行に集中させる間接金融優位のシステムから、広く多様に個人・家計

    のリスク・テイクを求める「ビークル金融」に軸足を移していく必要がある。      



  ○  これからの投資者保護は、従来のように個人を証券市場から遮断することによって

    実現するのではなく、むしろ投資者が自らリスクキャピタルに投資できるような環境

    を整備することによって実現すべきである。我が国では、預金者保護と投資者保護の

    区別が曖昧であるが、今後は、「元本が保証される預金」と「元本が保証されない投

    資」との違いを預金の決済機能に着目して明確化することが必要とされる。        



  ○  我が国や世界の人々の大切な貯蓄が、効率的に内外の成長部門へ投資されるよう、

    国際的に通用するグローバルな金融インフラ作りが求められており、金融法上、税法

    上の集合的投資ビークルの捉え方についても、こうした考え方が必要となる。      



  ○  どの範囲までをセーフティネットの対象とすべきかは、コスト・ベネフィットの観

    点から判断する割切りの問題だと思う。小口の預金者等に対しても買手責任を求める

    ためには、制度的なインフラストラクチャーの整備に膨大なコストを要するため、一

    定の範囲で自己責任を免責することが正当化される場合があると思われる。なお、そ

    の際の社会的な機会費用は時代や競争環境等によって変化しうる。                



  ○  ガバナンス(統治)の意味としては、株主権の行使といった狭義の手段に止まらず、

    コンティンジェントな(条件付の)権利や証券の売却といったものも含め、voice と

    exitの双方を広く考えるべきである。                                          



  ○  新しい金融の流れの方向性はわかっているのに、何故世の中は変わっていないのか。

    新しい制度を考えるとともに、今ある制度的障害を取り除く必要があるのではないか。  



  ○  制度的な障害の問題を考える際には、インフラ整備のコストや情報の非対称性等と

    いった現実の問題も十分に考慮し、如何にそれと折り合いをつけていくのかという観

    点も重要ではないか。                                                        



  ○  監督当局と市場がガバナンス構造に関してうまく役割分担していくことが必要なの

    ではないか。その際、市場の機能を活用し、これを行政が補完する仕組みとしていく

    ことが必要ではないか。また、投資者の自己責任が確立されれば、行政の役割はかな

    り限定的なものとなるのではないか。                                          



  ○  適合性原則については、リスクにさらされている人達に対し、選択できるメニュー

    を提供することで対処するのではないか。メニューから何を選ぶかは自己責任であり、

    行政がその役割を果たす必要はない。金融の流れを過剰にせき止める可能性がある。  



  ○  制度的な障害には、行為等の禁止による積極的な障害と、制度的インフラの欠如と

    いう消極的な障害とがあり、我が国については、会計、開示、インサイダー取引規制

    等の制度的インフラの面に大きな問題があるのではないか。社会的共通資本の整備に

    ついて、物的な公共投資よりも、制度的資本への投資が積極的に行われるためのコン

    センサス作りが肝要ではないか。                                              



  ○  厳しい金融を巡る環境変化の中で、リスクを直接的・間接的に監視し、規律付けを

    与える機能が我が国の金融システムでは充実していないのではないか。            



  ○  銀行や保険は特殊であるといわれているが、丸ごと特殊であるという意味ではなく、

    銀行の決済機能、保険のアンダーライティング機能は特殊であるが、その他の機能は

    一般の資産運用、販売と同じである。また、これらの特殊性については、セーフティ

    ーネットが提供されている分だけ強めの規制が必要である。                      



  ○  和牛商法のような取引については出資法をもって禁止するのではなく、情報開示に

    よって対処する制度に変えていくべきではないか。出資法をはじめとする戦後の金融

    経済法制は、わが国経済の現状においてはむしろ障害となっているのではないか。    



  ○  企業会計制度については、最近の金融不安に起因した対応の中には議論の方向性に

    必ずしもそぐわないものがないわけではないが、金融商品の時価評価を含む今後の会

    計制度のあり方に関しては、3月から4月初めころに公表予定の企業会計審議会の公

    開草案における成果を見て欲しい。                                            



  ○  当懇談会のメンバー間の認識はある程度固まりつつあるようだが、現実の国民の意

    識の方も変わってきているといえるのか。国民の資産運用・管理に関する教育と、金

    融機関サイドの意識の改革が必要なのではないか。                              



  ○  わが国国民には、資産運用を金融機関にお任せにするという意識が根付いており、

    証券投資の教育を受け、知識を身につけようという動機付けに欠けていたのではない

    か。国民の意識は大分変化しつつあるものの、対応する仕組みがうまくいっていない

    のではないか。例えば、国民が金融機関をコントロールできる仕組みになっていない

    にもかかわらず、国民自らがリスクを負わされる制度が存在しているが、この部分を

    変えていくことが必要ではないか。                                            



  ○  わが国国民に提供されている金融商品のメニューが乏しいことも問題であり、金融

    サービスについての新規参入を促進して、メニューの多様化を刺激することが必要で

    はないか。また、国民の意識を変えていく上では、業者サイドの競争の促進によって

    新商品に接する機会を増やすことが最も有効なのではないか。                    



  ○  消費者契約法(仮称)の問題意識は、いかなる消費者がどういう基準でどれだけの

    責任を分担しなければならないかという具体的な基準を示すということであり、金融

    分野においても同様の判断基準のあり方について検討していく必要があるのではない

    か。                                                                        



  ○  金融仲介のガバナンスについて、政府と金融機関との間の情報の非対称性の拡大に、

    行政が追いつけなくなっているのが実態であり、今後は投資家を介するガバナンスの

    モデルに見直していくことになるのではないか。また、そうした仕組みが機能するた

    めの法的な枠組みについて考えていく必要があるのではないか。                  



  ○  投資家等の自己責任のみを強調すべきではなく、これを支えるための健全なガバナ

    ンスの仕組みを考えることが重要である。その場合、政府の役割は制度資本の整備に

    シフトしていくものと考えられる。                                            



  ○  構造転換するときに、誰にそのコストを払わせるかというのは、慎重に考えねばな

    らない。これまでは、政府が全ての情報のプロセッシングを行い、国民がこれを信用

    すればよいという図式であったが、これを急に政府が止めてしまうのでは国民がひど

    い目にあいかねない。情報力で優位にある者がfairな取引を守るための何らかの仕組

    みの整備が必要である。なお、この点について諸外国では、格付機関のように情報の

    プロセッシングに特化し、その分野について競争原理が働くようになっている。    



  ○  経済界・金融界の立場ではなく、個人等の利用者の立場から見て金融の機能を分化

    させ、それを分かり易く示していくための法的な仕組みが必要である。            

                                                                                

                                                                      (以  上)

 

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本議事要旨は暫定版であるため、今後修正があり得ます。