1.日 時:平成10年3月9日(月) 10時00分〜12時00分
2.場 所:合同庁舎4号館 大蔵省第一特別会議室
3.議 題:メンバーからの意見発表(2) −新しい金融法制のあり方(1)−
4.議事概要:
本日は、当懇談会のメンバーである上村達男・早稲田大学法学部教授、神田秀樹・東
京大学法学部教授から、「新しい金融法制のあり方」をテーマとした意見発表があり、
その後、質疑応答及び自由討議を行ったが、そこでの主な意見は次のとおり。
○ 金融システム改革により市場型・ルール型規制が一層求められるようになることか
ら、金融サービス法的な横断的・包括的法制の視点として、公共財としての市場メカ
ニズムを守り抜くルールとして、市場概念を思い切って拡大し、様々な業規制、行為
規制をも可能な限り包摂するような包括的な資本市場法制を模索すべきではないか。
○ 金融サービス法制の課題として、(1)「誰が行うか」ではなく「何が行われるのか」
という点に着目した縦割りではない横断的な法制の構築、(2)要件と効果を定めるルー
ル(取引法)と業者に行動を義務づけるルール(業者法)の整理・役割分担、(3)ルー
ルの不確実性の除去やルールのエンフォースメントといった法的ルールの機能強化、
といった点について考えていく必要があるのではないか。
○ 最近の経済学では、「市場」という概念を余り用いず、「取引」、「契約」に置き
換えて考える傾向にあるが、金融サービスに関する法制を考える上で「市場」の概念
をどのように取り扱っていくのか。
○ 「市場」には、「取引」、「契約」による私人間の利害調整の場に止まらず、公正
価格の形成が行われる場であるという側面があり、こうした観点から法律学的にも「
市場」という言葉を用いていけるのではないか。
○ 「市場」という言葉を用いないとしても、多数の取引が行われる場合には、勧誘に
係るコストの削減や、不当取引の誘因の増大によるモニターの必要性といった観点か
ら、ディスクロージャーの強制等何らかの法的対応の必要性が生じてくると思われる。
○ 経済学的な観点からここで言う「市場」の意義を考えると、取引条件がもっぱら価
格に集約されるような財・サービスの取引の場を示しており、一方、雇用といった取
引条件が価格に必ずしも集約されないような財・サービスについては、かつては「労
働市場」という言い方もあったが、基本的には「市場」という概念はなじまないであ
ろう。「市場」が有効に機能するための前提としては、当該財・サービスの定義が明
確となっていることが必要であり、法律にはそれを支える役割があると考えることが
できるのではないか。
○ 財・サービスの定義を明確にするといっても、金融商品の内容を規定するのは法律
の役割を超えており、むしろ不確実性の除去が法律の役割として重要である。
○ 金融サービス法制のあり方を検討するに当っては、法律学的な意味での「市場」の
概念が鍵となってくるのではないか。また「市場」といってもここでは「金融市場」
を対象としており、なぜ金融分野について新しい法制が必要とされるのかについても
説明が求められるのではないか。
○ 金融サービス法制に変革が必要なのは理解できるが、具体的に法制自体をどういう
形にしていくかについても考える必要があるのではないか。
○ 市場を守り抜く法制として、証取法の投資者保護の目的に叶うものは広くカバーす
る法制としていくべきであるが、証取法をベースとしつつも、結果としてはこれと似
て非なるものとなってもよいと思う。
○ 金融サービス法制を考える場合には、少なくとも、現行の証取法の流通性に着目し
た有価証券概念では狭すぎるので、投資商品については、(1)passive investmentであ
ること、(2)将来のキャッシュフローの移転であること、(3)特別の政策上の配慮(例え
ば、保険引受、決済手段等)のないもの、を基本概念として包括的に定義してゆけば
いいのではないか。
○ 金融サービス法を制定する場合には、同法の適用対象として、金融資本市場全体を
カバーすることを想定するのか、あるいは流通市場のみを想定するのか。
○ わが国の伝統的な民商法においては、商事における信託、債権譲渡や市場詐欺に対
する法制等が未整備であり、金融サービス法の適用範囲については、市場概念を幅広
く捉えることにより、あらゆる取引が入るようにすることが必要ではないか。
○ 私法的なエンフォースメントを強化することは望ましいが、日本の法制でそれを行
おうとするには、一般法レベルでの制約も多いのではないか。
○ 金融サービス法制の基盤となる我が国の民商法では、裁判手続き等エンフォースメ
ントにコストがかかりすぎるため法律の実効性に乏しいことが問題であると考えられ
る。もっとも、クラスアクション(集団訴訟)の導入といった法制上の大掛りな議論
をしなくても、金融サービスに関する私法上の要件と効果を明確にする特別法を設け
ることにより、エンフォースメントに係るコストを低下させることが期待できるので
はないか。
○ 取締法規違反の行為について私法上無効としたり、損害賠償に係る推定効果を持つ
ようにすることも考えられるのではないか。公法と私法の二分論に引きずられすぎる
べきではない。
○ 新しい金融商品・サービスを提供していく上で、出資法1条、2条は非常に大きな
障害であり、金融サービス法制と併せて見直していく必要があるのではないか。
○ 出資法の預り金禁止規定は、金融サービス法制に包摂されうると考えられる部分と
銀行預金のいわゆるナローバンクの部分を規定する部分とに整理されると考えられ、
それぞれの役割に分けて見直していくことが必要ではないか。
○ 出資法は、「まがい商法」対策として制定されたもので、本来金融の基本法ではな
いにもかかわらず広く金融分野で用いられてきた面があり、横断的な金融法制の整備
に際して、見直されて然るべきではないか。
○ 特別の行政上の配慮から金融サービス法上の投資商品の定義から除かれるものとし
て決済性預金が考えられるが、金融サービス法制の議論の裏側として、銀行の他業禁
止規定のあり方についても検討する必要があるのではないか。
○ 決済機能についても、電子マネーの発達等により、銀行のステータスが影響を受け
るものと予想される。セーフティーネットを提供する場合には、これが特権的な効果
を伴うものとしてはならず、預金保険や自己資本規制等によって中立化させるための
努力が必要である。これが実現すれば、決済機能についてもどこまで特殊であるかが
明らかでなくなる可能性もあるのではないか。
○ 金融サービス法制を考えていく上では、いかにエンフォースメントを図るかが問題
となる。行政による監視に限界がある中で、市場による監視を活用していく場合には、
裁判所の役割が高まることになると思うが、行政の裁量に問題があるとされる一方で、
裁判も裁量の世界であり、判例の積上げを待っているのでは法的に不安定性が残るの
ではないか。
○ 参入を活発化させることにより、現行法制の問題を緩和できる面があるのではない
か。
○ 司法を活用するといっても、行政が裁判所に訴えて民事制裁金を課したり、仲裁の
ように裁判所にいかない形でのエンフォースメントの仕組みを活用することも考えら
れる。また、行政の役割は、業者に対するfit and properや財務健全規制を含め、事
前・事後の双方で投資者を代弁するものになる。なお、裁判における判断基準につい
て、ある程度の不安定性が残るのはやむを得ないとして、事前のルールによりできる
だけ明らかにしていくための努力も求められる。
○ 市場型規制の下での行政の役割は、免許や通達を引き続き用いるとしても、上意下
達の形ではなく、市場を守るという理念に基づき、時々刻々ときめ細かいルールを示
すという形に変化するものと考えられる。
(以 上)
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