平成10年6月17日
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新しい金融の流れに関する懇談会 座長 蝋山 昌一 事 務 局
1.金融システム改革と基本的な問題意識 (1) 「新しい金融の流れ」をどう捉えるか ○ 経済の成熟化に伴う資金余剰基調の定着、1200兆円の個人金融資産に象徴される 経済のストック化の進展、さらにその背景にある高齢社会への移行といった経済の 構造変化により、家計や企業等の金融に対するニーズは大きく変化している。とり わけ、金融資産の効率的な運用・管理(アセット・マメジメント)が金融の機能と して重要性を増してきているなかで、我が国の個人金融資産の大半は銀行や保険等 の間接金融の仕組みを通じて運用され、多様で効率的な資産運用というニーズに必 ずしも十分に応えきれていない。 ○ 我が国経済が21世紀においても活力あふれるものとしていくためには、新たなビ ジネス分野の開拓等についての今までにも増した試行錯誤とチャレンジが不可欠で あり、自由な競争・選択、および新たな金融技術の活用等により、経済社会全体と して相応のリスクをとりながら、多様な資金運用・調達ニーズに応えていく必要が ある。 ○ 最近の技術革新やバブルの経験等を通じて、金融取引・金融サービスの基本的な 機能について、資金余剰主体から資金不足主体への資金のアベイラビリティの移転 という面よりも、リスクの適切な評価とリスクの仲介という面が重視されるように なっており、このような観点から、経済全体としての効率的なリスク配分を実現す るための、新しい金融仲介チャネルのあり方とそれを支える適切な金融サービス提 供のためのインフラ整備が重要となっている。 ○ 情報処理・通信技術のイノベーションは、金融商品・サービスの構成要素への分 解(アンバンドリング)・再組成(リバンドリング)を通じて、デリバティブや証 券化商品といった形で、特定のリスク・リターンの組合せを市場で取引することを 可能としている。また、自由化の進展や金融取引の高度化・多様化に対応して、金 融サービスの提供等に関する分業化・専門化や、金融ビジネスの融合化等の動きも 見られている。 ○ 本年4月の改正外為法の施行に伴い、国境を越えた金融取引が一層活発化し、金 融商品・サービスの提供に係る国際競争が熾烈化することが予想される。さらに、 インターネットに象徴される情報通信技術の発達は、金融取引における物理的・空 間的な制約を大幅に除去し、海外金融機関等の国内市場参入や、クロスボーダーで の金融取引の拡大等を通じて、国際的な金融商品・サービス競争をより活発化させ る方向に働くものと思われる。 ○ 以上のような環境変化を踏まえると、「新しい金融の流れ」としては、 (1) 銀行・保険等による間接金融に偏重した金融仲介チャネルを多様化し、預貯金 のようなローリスク・ローリターンの金融商品だけでなく、ミドルリスク・ミド ルリターンの金融商品を始めとして、様々なリスク・リターンを持つ金融商品が 幅広く厚みを持って提供されること、 (2) とりわけ、投資信託等のように、投資者の資金をプールしてファンドを作るこ とで、分散投資のメリットを活かしつつ、各種の金融のエキスパートが、高度な 分業により責任を持って運用・管理等を行う形態である、いわゆる「集団投資ス キーム」(「市場型の間接金融」、「ビークル金融」)が金融仲介チャネルとし て重要な役割を果たすことにより、経済社会全体として円滑な資金の調達と運用 が図られること、 (3) 様々な資産に運用される「集団投資スキーム」に係る受益権・持分権および資 産担保型証券といった金融商品が、その他の様々な金融商品(預貯金、保険商品、 株式、債券、デリバティブ、これらの複合商品等)とともに、国際化や電子化に も対応した形で、幅広い選択肢として利用者に提供され、これらの商品の取扱い に係るサービスが効率的かつ公正に行われること、 等が期待される。 (2) 新しい金融の利用者像をどう捉えるか ○ 「新しい金融の流れ」に対応して、投資者および資金調達者が自らの判断で多様 なリスク・リターンを持つ金融商品・サービスを自由に選択できるような制度的な 枠組みを実現していくためには、金融商品・サービスの高度化・専門化の進展にも 配慮しつつ、利用者が金融取引に係るリスクの内容と所在を認識でき、責任および 損失の分担を明確かつ公正なものとしていく必要がある。 ○ 「新しい金融の流れ」の下では、もっぱら社会的な弱者・保護の対象として利用 者を捉えるのではなく、資産運用意識や自己責任意識を持って主体的にリスクを選 択できる利用者の姿を念頭に、その知識・経験等に応じて利用者の自立をサポート できるような法的枠組みを考えていくことが建設的であり、そのようなルールの整 備が、利用者・消費者教育の充実等と相まって、利用者の自己責任意識を向上させ ることにも繋がると考えられる。 ○ そうした観点から、金融取引当事者の行動の規律付けや、契約内容に沿ったリス ク移転および負担の実現を図る仕組み、すなわち金融取引に関する「ガバナンス」 のあり方についても、改めて見直すことが必要である。 ○ 金融の高度化・専門化が進展するなかで、行政当局と金融機関等との間での情報 の非対称性が拡大し、行政が積極的なガバナンス機能を発揮することは困難かつ非 効率となりつつある。今後は、市場メカニズムや利用者の権利行使を通じたガバナ ンスを重視する一方で、行政の役割については、市場メカニズムを補完する事後監 視型の行政への転換を徹底し、こうした体制への移行を早期に完了させるべきであ る。 ○ 健全なガバナンス構造の確立を促す観点からは、基本的に利用者を含む取引参加 者をガバナンスの中心に据え、その行動力・リスク負担能力とインセンティブに見 合ったガバナンス機能の発揮をどこまで期待できるのか、それを補完・強化するた めには、どのような法制・ルールが必要となるのか等について検討していくべきで ある。 (3) 「新しい金融の流れ」と金融法制・ルール ○ 金融システム改革の本格的な進展は、情報通信技術の発展、国際化の進展等とも 相まって、例えば次のような、現行の業法あるいは業態を超えた様々な動きを活発 化させるものと予想される。 (1) 現行の業法では想定していない新たな商品・サービスの登場 (2) 業態をまたがるハイブリッド(組合せ)型の商品・サービスの登場 (3) 業態間の相互参入の一層の活発化や非金融分野からの新規参入による商品・サ ービス提供者の多様化 (4) 金融機能別あるいは顧客ターゲット別の分業体制のさらなる高度化 (5) 金融サービスの提供者の組織体制の多様化 (6) ワンストップ・ショッピング型での商品・サービスの提供、等 ○ 金融システム改革法においては、縦割りの業法中心の現行法の体系を維持しつつ、 横断的な理念に則って、多様な金融商品・サービスの提供や業態にとらわれない自 由な参入が行われることを念頭に、投資信託や有価証券デリバティブ取引といった 銀行等と証券会社がともに行う取引等について、共通の行為規制、公正取引ルール を適用するための措置等が盛り込まれている。 ○ しかし、今後、本格的な金融システム改革の進展に伴い、各種のイノベーション が広範かつ不断に進展し、現段階での想定を超えるような新たな商品・サービス、 さらにはその提供手法等が創り出される可能性もあり、縦割りの業法を前提とした ルールの下では、こうした変化に柔軟かつ整合的に法制を即応させていくことには 限界が生じるおそれがある。 ○ 従って、「新しい金融の流れ」に対応できるよう、市場メカニズムや金融取引の 参加者の自己規律を前提とした利用者本位の法制・ルールとしていくことが、多様 なイノベーションを促すことにもなり、円滑で効率的な金融取引と十分な利用者保 護を図るためにも重要となる。 2.新しい金融法制・ルールの基本的考え方 ○ 新しい金融法制・ルールを考える際の基本的考え方としては、次のように整理で きる。 (1) 幅広い金融商品・サービスを対象とし、金融の機能面に着目した横断的な法制 ・ルール → 「誰が行うか」という業種・業態に着目した法体系ではなく、「何が行われ るのか」という金融の機能面に着目した横断的な法体系としていくことが重要 である。 (2) 金融取引に係るリスクの評価および所在を明らかにし、取引当事者間の権利義 務関係を明確化するための法制・ルール → 金融取引に係るリスク・リターンの適切な評価を可能とするとともに、如何 なる場合にどの取引当事者がリスクを負担するのかについて、明確化を図るた めのルールが重要である。 (3) 金融取引の公正を確保し、市場機能の円滑な発揮を促すための法制・ルール → 金融取引の総体としての金融市場は、経済における効率的かつ円滑なリスク 配分の中核的な役割を担っており、いわば公共財としての性格を有するという 観点から、市場機能の阻害防止という観点からのルールが必要である。 (4) 実効性が適切に確保される法制・ルール → 金融取引の当事者が、情報の非対称性や不確実性の軽減・解消、取引の公正 確保について自ら対応するインセンティブ(誘因)を付与するとともに、これ に逸脱した場合には利害関係にある当事者や公的当局等が対抗措置ないし制裁 措置を採ること等によって、適切な是正を図る仕組みを整備することが必要で ある。 (5) 公正・透明で機動性が高い法制・ルール → 市場機能の効率的な発揮を促し、金融分野における自由な競争とイノベーシ ョンを阻害しないためには、ルールの適用に関する予見可能性、新しい金融商 品・サービスに対する機動的・弾力的な対応と、ルールの制定・形成に関する 手続きの透明性の確保等が重要となる。 (6) 国際的な整合性のとれた法制・ルール → 国際的に見た法制・ルールの内容の整合性(グローバル・スタンダード)と いう観点とともに、クロスボーダーの金融取引を念頭に置いた各国間の法制の インターフェイスの観点にも留意して、法制・ルール、会計、税制、決済シス テムといった制度的インフラのあり方を考えていくべきである。 3.新しい金融法制・ルールの枠組み (1) 「金融商品」~新しいルールの対象となる金融商品~ ○ 懇談会では、個別商品について、どのようなものを「金融商品」に含めるべきか といった具体的な点まで議論するには至らなかった。しかし、「金融商品」の満た すべき要件としては、(a)現在から将来にわたるキャッシュフローの移転(目に見 えないものの取引)と(b)投資性(投資の共同性・受動性)が考えられるのではな いかという指摘がなされた。 ○ 商品の流通性・市場性については、「金融商品」の要件としては問わないことで よいか。外部性の存在による社会的なコストの削減といった観点から、政策的に特 別の配慮が必要なものについては除外することがあるか。その際、預金や保険商品 等との関係についての整理が必要ではないか。 ○ 米国の連邦証券法における「証券」概念や英国の金融サービス法における「投資 物件」のような幅広い「金融商品」の定義についてどのように考えるか。 ○ 金融の機能を活性化していく観点からは、新しい金融法制・ルールの対象範囲と 出資法の関係についても整理が必要であり、金融イノベーションの促進と悪質商法 の排除を両立するためには、どのような法的枠組みが考えられるか。 (2) 「金融サービス」~「金融商品」に関する取引行為等~ ○ 「金融商品」に係る取引等について、その機能面・行為面の特性に着目して類型 毎に整理し、それぞれについて必要なルールを検討すべきではないか。 ○ 「金融サービス」の類型は、以下のように整理できるのではないか。 (1) 販売・勧誘: 自己ないし代理人を通じた「金融商品」の販売・勧誘行為 (2) 売買(ディーリング): 自己の計算による「金融商品」の売買のうち、マー ケットメイク等の価格形成機能を伴う行為 (3) 仲介(ブローカレッジ): 他者間における金融商品の売買の成立に尽力する 行為 (4) 引受(アンダーライティング)・売出(セリング): 金融商品の発行者ない し保有者が当該金融商品を他者に売却する取引を円滑化する行為 (5) 資産運用(アセット・マネジメント): 他者の金融商品への投資における資 産等の運用行為 (6) 資産管理(カストディ): (5)の資産運用における資産等の管理行為 (7) 助言(アドバイス): (1)~(6)の金融サービス全般についての助言行為 (8) 仕組み行為: 集団投資スキームや証券化商品について、投資に係る主体ない しユニット(いわゆる「投資ビークル」)を組成し、契約や約款に基づいて持分 権ないし受益権等を分割する行為 ○ 「金融サービス」の行為類型のうち、「受託者(fiduciary )」としての役割を 果たす場合(上記(3)~(7))に関して、その担い手の責任として受託者責任(fidu- ciary duty)の明確化の必要性が指摘された。この概念の法制上の位置付けや具体 化が今後の課題の一つとなるのではないか。 (3) 「金融サービス業者」~「金融サービス」の専門的な担い手~ ○ 「金融サービス」行為を営業として行う者あるいは情報優位にある者を「金融サ ービス業者」として位置付けた上で、これを名宛人として、一定の行為ルールを課 すこと等が考えられるのではないか。 (4) 「ホールセールとリーテイル」ないし「プロとアマ」の区分 ○ 「ホールセール取引(プロ対プロ)」については、対等な当事者間での取引であ ること等から、自己規律を基本として、取引参加者の目安となる基本原則や任意性 のある緩やかなルールが中心となる一方で、「リーテイル取引(プロ対アマ)」に ついては、取引当事者間の情報格差の大きさ等から、「金融サービス業者」に対す る利用者保護に係る行為規範・規制の重要性が高まることになるのではないか。 ○ 金融取引に係る自由なイノベーションと、十分な利用者保護の確保を両立してい く上で、「ホールセールとリーテイル」ないし「プロとアマ」の区分の基準を明ら かにしていくことが重要ではないか。 (5) 新しい金融法制・ルールの枠組みのイメージ ○ 金融取引に係る新しい法制・ルールの基本的な枠組みについては、以下のような 幾つかのルールのアプローチが考えられ、これらのルールの組合せによって、全体 として機能面に着目した横断的で、実効性のあるルールを構築していくことが必要 ではないか。 (1) 金融取引の当事者間の私法的な権利義務関係の明確化に関するルール(「取引 ルール」) → 金融取引の特性を踏まえ、リスク移転に関する要件と効果を具体化すること により、当事者間の権利義務関係の明確化を図るルール。 (2) 市場機能の維持・発揮に関して、全ての取引参加者に適用される一般的な行為 ルール(狭義の「市場ルール」) → 金融取引が行われる場である「市場」を公共財として捉え、その機能の発揮 を重視する立場から、「市場」の概念をできるだけ広範に捉え、金融取引にお ける公正・円滑な価格形成の実現のために必要となる、取引参加者全体に適用 されるルール。 (3) 業者(特定の専門家等)に対する行為ルール(「業者ルール」) → 金融取引に係る専門家ないし情報優位者(=「金融サービス業者」)に特定 の行為を義務付けること等を通じて、取引の公正や利用者の保護等を図るルー ル。 ○ 上記(1)~(3)のルールは、これらの総体として、金融取引の公正確保を図るもので あると同時に、市場機能の維持・発揮のための広義の「市場ルール」と考えること ができるのではないか。 (6) 新しい金融法制・ルールの法形式(「器」の問題) ○ 上記のようなルールの基本的な枠組みを前提に、我が国の金融法制・ルールを具 体的に見直していく場合、ルールの法形式(「器」)についても検討する必要があ り、証券取引法や各種業法といった現行の金融関連法制との関係も念頭に置きつつ、 法令等の具体的なイメージを考えていくことになるのではないか。 ○ 法制・ルールの「器」としては、法律等の法令のほか、行政当局のガイドライン、 自主規制機関のルール、業界の自主ルール、市場慣行といった様々な形式とレベル が考えられるのではないか。 ○ いずれの法形式を考える場合でも、実質的な規制・ルールの横断性・整合性の確 保を図るためには、我が国の現行法体系・法理論等との様々な局面における調整が 必要になると考えられるがどうか。また、我が国の社会的・制度的インフラの状況 を踏まえたルールの実効性確保の仕組みも不可欠であり、新たな法制・ルールの具 体化に向けては、総合的かつ体系的な検討が必要ではないか。 4.新しい法制・ルールの具体的な内容 ○ 新しい金融法制・ルールの具体的な内容としては、次のようなものが考えられる のではないか。 (1) 「取引ルール」 ○ 情報開示・説明等とリスクの移転 ○ 分別管理と破産リスクからの遮断 ○ 利益相反行為に関する責任分担 ○ 受託者の注意義務に係る責任範囲 ○ 支配・従属、提携関係がある場合の責任分担 (2) 「市場ルール」 ○ ディスクロージャー ○ 公正取引ルール(インサイダー取引、相場操縦、風説の流布、詐欺的行為等の 規制) ○ 価格形成機能(取引所、マーケットメイカー等)に関するルール (3) 「業者ルール」 ○ 販売・勧誘行為に関するルール(説明義務、適合性原則、勧誘規制・広告規制 等) ○ 分別管理義務 ○ 利益相反防止義務(忠実義務) ○ 資産運用サービス等における注意義務 ○ 他者への委託等に関する行為義務 ○ 仕組み行為に関するルール ○ 手続き面等に関する行為ルール(書面の作成・交付・縦覧・保存等) ○ 業者の適格性(fit and proper)等に関するルール(参入規制、財務健全性規 制、業務分野規制・兼業規制の見直し) 5.「集団投資スキーム」に関するルール ○ 「集団投資スキーム」については、以下の点を踏まえ、投資対象や投資ビークル の形態に関わらず、機能面に着目して、横断的に適用されるルールについて検討し ていく必要があるのではないか。 (a) 投資ビークルの主体(信託、組合、法人等)の法的な位置付けと投資者等によ るガバナンスの確保 (b) 集団投資スキームに関係する専門家(とりわけ受託者)の責任範囲の明確化 (c) 集団投資スキームの「仕組み行為」の適格性の担保 6.ルールの実効性の確保(エンフォースメント) ○ 新たな金融法制・ルールの枠組みが十分に機能するためには、ルールの実効性を 確保するエンフォースメントの仕組みが重要である。そこでは、市場参加者の自己 規律を中心に据え、市場メカニズムを通じたガバナンス等を最大限活用することが 重要であり、公的な主体の関与は、市場規律を補完し、市場の公共性を維持するも のとして、極力裁量を排し、透明性の高い仕組みとすべきではないか。 ○ 是正・救済の手段・体制については、我が国の社会の性質や法体系との整合性を 踏まえ、是正・救済措置の実効性、ルールの遵守に要するコスト、社会的・経済的 な許容度等を勘案して、(a)民事責任の追及(民事救済)、(b)刑事罰、(c)行政に よる監視・処分、(d)自主規制機関の位置付け・役割について検討することが必要 ではないか。 7.ルールの形成・運用 ○ 金融取引に係るリスクの明確化や金融イノベーションへの対応を考えた場合、取 引参加者にとって透明性が高く、明確性・機動性に富むルールとしていくことが重 要である。ルール形成の仕組みについては、立法的なルール形成と司法的なルール 形成とに区分して考えることができるが、これらのルールについて、ルールの正当 性や明確性、機動性や柔軟性等を念頭に、全体としての仕組みと組合せを考えてい くことになるのではないか。 8.消費者保護 ○ 今後の消費者保護の基本理念としては、「消費者」と「業者」との間の情報力・ 交渉力の格差を念頭に置き、「消費者」の自立支援、自己責任原則の補完を基本的 考え方にすべきではないか。新しい金融法制・ルールの枠組みは、公正かつ効率的 な取引の確保を目的とするものであることから、それ自体結果として消費者保護に もつながることになるとはいえ、金融取引の特性に応じた特別のルールを、別途設 ける必要性をどのように考えていくのか。その際、現在、検討が進められている 「消費者契約法(仮称)」(経済企画庁国民生活審議会)との関係整理をさらに吟 味する必要があるのではないか。 ○ 消費者に対する信用供与については、リスクの明確化という金融取引全般に共通 する側面だけでなく、「借り手」の保護という社会政策的な側面も有している。そ れ故、高金利規制や過剰与信の制限、多重債務問題といった社会的な問題の克服等 の政策要請を十分に踏まえて、検討を進める必要性があるのではないか。 ○ 金融システム改革により商品の多様化や業務の参入・退出の自由化が進む中で、 悪質商法が多発するおそれもあり、出資法の見直しも視野に入れて、自由化のメリ ットを減殺しないよう配慮しつつ、実効的な取締りのできる法的枠組みを考えてい く必要があるのではないか。 9.預金・保険・企業年金 ○ 預金や保険商品は、決済機能ないし保障機能と資産運用機能に分解して捉えられ るようになってきており、資産運用機能に着目すれば、投資性を持つ金融商品と共 通の性格を持つと考えられる。一方、決済機能や保障機能等に着目すると、経済的 な外部性や、預金者や保険契約者等のソーシャルミニマムを確保する観点からセー フティーネットが供与される等の措置が講じられている。このため、利用者の自己 責任をベースとする新しい金融法制・ルールとは異なるルールで律する必要がある と言われているが、これらの点についても併せて検討する必要があるのではないか。 ○ 高齢社会における企業年金の役割の重要性はより一層高まるものと考えられる。 企業年金は老後の所得保障機能と投資性を兼ね併せた面があり、新しい金融法制・ ルールにおいて企業年金をどのように取り扱うべきかを考える必要があるのではな いか。 (以上)