9.預金・保険・企業年金 | ||
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○ 預金や保険商品は、金融機能のアンバンドリングに伴い、決済機能ないし保障機能と、資産運用機能に分解して捉えられるようになってきており、資産運用機能に着目すれば、投資性を持つ金融商品と共通の性格を持っているのではないか。 ○ 他方、預金や保険商品には、その決済機能や保障機能等から派生する経済的な外部性や、預金者や保険契約者等のソーシャルミニマムを確保する観点からセーフティーネットが供与される等の特殊性があると考えられている。それゆえ、利用者の自己責任をベースとする投資商品に対するルールとは異なるルールで律する必要があると言われているが、新しい金融法制・ルールを考える際には、これらの点についても併せて検討する必要があるのではないか。 |
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(注)これまで、社会全般に普及し利便性の高い決済機能や保障機能については、「銀行等」の「預貯金」、「保険会社」の「保険商品」というように、特定の「業者」が提供する特定の「商品」という限定されたチャネルを通じて利用者に提供されてきた。しかしながら、金融イノベーションによる商品の多様化と機能のアンバンドリング等により、例えば証券総合口座や電子マネーが登場する等、他のチャネルを通じて利用者がアクセスできるようになってきており、このような動向を踏まえながら、検討を進める必要があるのではないか。 |
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○ また、高齢社会において、自助努力を促し公的年金を補完する企業年金、個人年金の役割の重要性が、より一層高まるものと考えられる。企業年金等についても、老後の所得保障としての機能とともに投資性を兼ね併せた面があり、新しい金融法制・ルールとの関連で企業年金等をどのように取り扱うべきか考える必要があるのではないか。
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(1) 預 金
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現在、預金の受入れは銀行の固有業務として位置付けられるとともに、出資法や銀行法の存在により、銀行以外の業者による「預り金」の受入れが禁止されている。この預金が持つ機能は、(1)決済機能と(2)資産運用機能とに大別できるのではないか。 ○ 預金の決済機能とは決済サービスの提供であるが、これは i そのための要求払預金といった決済手段そのものの提供と、 ii 決済媒体の提供とに分けて考えることができるのではないか。 |
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(1) 決済サービスの提供 ○ VAN(付加価値通信網)システム等のように債権・債務関係の相殺を行う方法等もあり、決済サービスの提供は預金に特有のものではない。預金を通じた決済サービスの提供は、社会的・歴史的経緯から、主として銀行により行われてきた。その結果、様々な財・サービスまたは金融商品の取引に伴う債権・債務を清算する銀行を中心とするネットワークが形成され、経済活動全般を支える社会的インフラとしての役割を担う一方で、ある決済取引の履行不能が、決済システム全体に連鎖的に波及するおそれ(いわゆるシステミックリスク)もあるという外部性を有することとなったのではないか。 i 決済手段の提供 ・ 決済手段の提供については、新たに証券総合口座や電子マネーが登場する等の動きが見られるとはいえ、これまでの経緯もあり、現在の経済社会においては、銀行が提供する預金が最も利便性と確実性の高い決済手段として社会的に認知されている。それゆえ、決済手段としての価値を確実なものとし、決済の最終性、安全性を確保することが重要である。この点から、預金という決済手段の提供がシステミックリスクとの関係において外部性を持つと考えられるのではないか。 ii 決済媒体の提供 ・ 決済媒体の提供(他者間の資金の移転を仲介する手形、小切手等のデリバリーないし振替指図等に関する情報処理)については、デリバリーないし情報処理の確実性と効率性が重視されるものと思われる。最近では、クレジットカードやコンビニエンスストアにおける公共料金等の支払代行サービスといった銀行以外の主体による新たな決済媒体の提供も普及してきている。これらは、顧客から資金を預かりこれを受取人に支払うといった点でブローカレッジと機能的に類似していることから、決済媒体の提供についても、機能面に着目して横断的なルールを考えてみてはどうか。また、為替取引を銀行等の固有業務としている現行ルールのあり方についても、検討が必要ではないか。 |
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(注)大蔵省においては、昨年の「電子マネー及び電子決済に関する懇談会」に引き続き、「電子マネー及び電子決済の環境整備に向けた懇談会」が開催された。そこでは、電子マネーおよび電子決済に関する法制面等の諸問題の検討が行われ、本年6月に報告書が取りまとめられている。 |
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(2) 資産運用機能 ○ 預金の資産運用機能については、資金余剰主体と資金不足主体との間のリスクの再分配のプロセスとして捉えることができる。特に、預金のペイオフが実施されれば、預金保険による保証額を超える預金の受入れとこれを原資とする貸付けのプロセスは、利用者のリスクテイクを伴う金融仲介として、「集団投資スキーム」による資産運用・管理サービスと機能的に類似してくる面もあると思われるが、これについてどう考えるのか。(注) |
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(注)英国の金融サービス法ではCDを除く預金は「投資物件」に該当しない。しかしながら、銀行が「投資物件」を取り扱う場合には金融サービス法の投資業に該当し、同法の規制を受けることになる。 米国では、CDを含む預金は「証券」には該当しないが、銀行が「証券」を取り扱う場合には、グラス・スティーガル法等の適用を受ける。なお、我が国では、銀行等が証券関連業務を営む場合には証券取引法が適用される。しかし、商品ファンド等を取り扱う場合には、銀行等は商品ファンド法等の適用除外となっている。
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(2) 保 険
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○ 保険商品には、保障性の強い商品(例:定期保険・自動車保険)から貯蓄性の強い商品(例:年金保険・終身保険・積立型傷害保険)、投資性の強い商品(例:変額保険)やこれらの中間の商品(例:定期付終身保険)等様々なバリエーションが存在しているが、その機能についてみると、保障機能の他に資産運用機能を併せ持っている。 ○ このうち、保障性の強い保険商品については、 |
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(1) 保険数理の複雑さ等から、一般の契約者が契約の内容を十分に理解して契約することは容易でないこと、 (2) 生命保険のような長期保険の場合、保険期間中の状況の変化の予測が困難であり、途中解約をして新たな契約を締結することが難しいこと等から、利用者にとってのリスク評価やリスク管理面で情報の非対称性が他の金融商品に比して大きく、市場メカニズムが十分に機能しづらいという外部性が存在すると考えられる。また、社会的・歴史的な経緯により国民生活に幅広く定着していることから、ソーシャルミニマムを確保するという社会的な要請ないし期待が存在していると考えられる。このような観点から、公的セーフティーネットや財務健全性の確保に関する特別のルールが必要になるとの考え方が生じるのではないか。 |
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○ このような外部性・社会性の存在を踏まえ、保険商品の保障性、貯蓄性、投資性、長期性等を勘案しながら、保険に対するルールのあり方と幅広い金融商品・サービスに対する横断的なルールとの役割分担や整合性の確保を考えていく必要があるのではないか。 ○ ただし、保険に係る外部性・社会性の存在も、今後の金融イノベーションの進展に伴う新たな金融商品・サービスの登場・普及の影響を受ける可能性もあることから、保険に対するルールのあり方についても、十分な検討を行う必要性があるのではないか。 |
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(注)諸外国における保険に対する金融取引ルールの適用状況を見ると、英国の金融サービス法では変額保険といった長期保険契約も適用対象となっている一方、米国では変額保険・変額年金が証券関係法制の適用対象となるとともに、これらの商品を運用する保険会社の特別勘定は、投資会社法上の投資会社として位置付けられている。 なお、我が国においては、共済等の保険類似の商品が存在するが、このような保険類似商品のルールと保険商品のルールとの整合性をどのように考えるのか。 |
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保険は、死亡や傷病といった偶然の出来事による経済的不利益・損失をもたらす事故に関し、共通する同質のリスクを抱える多数の経済主体からなる集団を構成し、大数の法則に基づき、保険事故に伴うリスクの平均化・分散化を図るものであり、リスク評価の特殊性・専門性の観点からこれを保険の特質とする考えもある。しかし、銀行等による債務保証や最近発展しているオプションやクレジット・デリバティブといった保障機能を持ったデリバティブ取引については、大数の法則を活用できる面もある一方、保険商品にも人工衛星保険のように大数の法則を適用させることが難しいものもあり、リスクの平均化・分散化は保険だけに特殊なものとは言えないのではないか。 ○ 保険商品の募集や保険会社の資産運用等については、他の金融サービスと機能的に同じ性格を持つと考えられる一方、最近においては、欧州を中心に保険会社と銀行等金融機関との資本結合が活発化しているほか、巨大災害に対する保険リスクに関する資本市場を通じた証券化等の動きも見られる等、保険と他の金融との融合が進んでいる。このような動きと新しい法制・ルールとの関係についてどのように考えるのか。 ○ 保険取引は、一般に約款取引という性質を有するが、いかなる事故に対して保険金が支払われ、いかなる事由があれば保険者が免責されるのかといった約款の個々の条項については、個別的な説明・合意がなくとも、約款を契約内容として保険契約が成立するという従来の支配的な約款論に関して、これと新しい金融商品・サービスに対する横断的法制における説明義務との関係、さらには約款規制に関する「消費者契約法(仮称)」と新しい金融法制・ルールの役割分担について、整理する必要があるのではないかとの意見もあった。
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(3) 企業年金
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○ 現在、年金に関し様々な議論が行われているが、高齢化の進展の中で自助努力を促し、公的年金を補完する企業年金・個人年金の役割は一層重要性が高まるものと考えられる。また、企業年金の仕組みについては、現行の確定給付型年金に加えて、高齢化に伴う個人資産の運用チャネルの多様化や従業員が転職した際のポータビリティーの確保等の観点から、米国の401Kのような確定拠出型年金の導入が検討されている。 ○ 企業年金は、 |
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(1) 老後の所得保障を担う制度であること、 (2) 企業の福利厚生施策の一環として実施されるとともに、事業主や従業員による拠出や従業員の強制加入等が定められていること、 (3) 公的年金制度を補完していること |
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等の制度的特徴があることから、従業員の受給の保全等を図るため、政策上の配慮が必要であると考えられるのではないか。 ○ 現在の確定給付型企業年金については、将来における一定の年金給付額を保障するものであることから、老後の生活設計において重要な役割を果たしており、その受給の保全については、他の金融商品と比べてより強い社会的な要請が存在すると考えられるのではないか。 ○ 確定拠出型企業年金については、一般的には、資産運用についての責任(リスクテイク)を加入している従業員が負担するものと考えられるが、その点では「集団投資スキーム」と同じ仕組みとなっている。 ○ 米国では1974年ERISA法が、英国では1995年年金法が制定されたが、このような諸外国の企業年金関連法制と金融関連法制との関係も参考としながら、企業年金と新しい金融法制・ルールとの関係を検討する必要があるのではないか。また、企業年金分野における共通ルールの制定を目指して検討が進められている「企業年金基本法(仮称)」と新しい金融法制・ルールとの関係やルールの内容の整合性についても、整理が必要ではないか。
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おわりに
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以上、本懇談会で提起された今後の新しい金融法制・ルールの枠組みの検討に当たっての主な論点を可能な限り幅広く整理した。もちろん、この「論点整理」で提示されている事項が、必ずしも全ての検討課題を網羅しているものではない。今後の金融システム改革の進展状況等に応じて、改めて課題の整理が必要になるものと思われる。 「論点整理」における基本的考え方(特に1.および2.の部分)に沿って、新たな金融法制・ルールのあり方を早期に検討することが必要であるという点については、懇談会の参加者のほぼ共通の認識である。ただし、「論点整理」の3.以降の部分で整理されているように、今後具体的に掘り下げていくべき論点は広範かつ多様であり、これに対しては様々な見解が示されている。 いずれにせよ、本懇談会での議論を通じて参加者に共有された問題意識が、今後の具体的な検討作業に反映され、体系的・総合的な議論が、幅広くかつ早期に進められることを期待したい。 |