「ノンバンクに関する懇談会」報告書の概要
ノンバンクに関する懇談会は、バブル崩壊後のノンバンクの状況、市場規律に立脚した透明性の高い
金融行政への転換、金融システム改革の基本原則等を踏まえつつ、ノンバンクの業務運営のあり方、そ
の資金調達の多様化、消費者信用を巡る諸問題等について検討を行い、今般(平成9年5月16日)、報
告書を取りまとめた。
I.ノンバンクの業務運営のあり方、資金調達の多様化等
1.我が国のノンバンクの現状
・ ノンバンク全体の融資残高は、バブル期には高い伸びを示したが、平成3年3月末をピーク
に減少に転じ、平成8年3月末で約69兆円(全国銀行の約14%)となった。
・ 事業者向けノンバンクにおいては、バブル期に不動産関連融資等を中心に業容を拡大したが、
バブル崩壊後、多額の不良債権を抱えているところが多い。他方、中小企業向け融資を専門に
行い差別化を図ること等により、業容を拡大しているところもある。
・ 消費者向けノンバンクにおいては、消費者ニーズの多様化に応え、業容を拡大している。他
方、消費者信用の分野においては、個人の自己破産件数が平成8年は、過去最高の約5万6千
件となる等、多重債務問題が深刻化している。
2.ノンバンクの業務運営のあり方
・ ノンバンクは、国民のニーズが多様化する中で、その自由さと機動力を活かし、銀行等の預
金受入金融機関(以下、「銀行等」という。)が扱ってこなかったニッチの分野に資金提供す
る等、国民経済において重要な役割を果たしてきた。
・ 今後、ノンバンクは、バブル期にみられた不動産関連融資に過度に傾斜した安易な融資姿勢
を改め、リスク管理の徹底を図ること等により、国民のニーズの多様化に応え、次代を担う成
長企業等への資金供給を行う等、我が国経済において健全に発展していくことが期待される。
3.ノンバンクの金融システム上の位置づけ
・ ノンバンクは、預金等を受け入れていないこと等から、銀行等とは異なり、経営の健全性維
持の観点からの規制・監督を受けていないが、その国民経済上の役割等に鑑み、厳格な自己規
律と自己責任原則の下、健全な経営を実施していくことが求められる。ノンバンクの経営の健
全性は、基本的には市場の規律に委ねられるが、今後、貸手である銀行等のモニタリング機能
の強化に期待するとともに、市場メカニズムがより有効に機能するような制度の整備が必要と
考えられる。
4.ノンバンクの社債発行による貸付資金の受入れ
・ 出資法2条3項は、貸金業者(ノンバンク)が社債の発行により不特定かつ多数の者から貸
付資金を調達することを禁止している。当該規定の趣旨は、大衆投資家の保護を図るとともに、
金融仲介業務の公共性に鑑みこれを銀行等に限定することにあったと考えられるが、今日、投
資家保護のための諸制度が格段に整備されている一方で、企業の資金不足が解消され、金融仲
介の多チャンネル化が求められている状況にあることを踏まえると、同項による禁止の意義は
失われつつあると考えられる。
・ 更に、出資法2条3項に係る制約を廃止することについては、以下のメリットがある。
(a)金融仲介チャンネルの多様化による経済全体の資金配分の効率化
(b)市場による監視機能の導入による金融システムの透明化、安定化
(c)ノンバンクの資金調達の多様化・弾力化による貸出金利の低下の可能性の拡大
(d)ノンバンクの銀行依存の低下による自主性の発揮
(e)証券市場全体の発展及び債権流動化・証券化の進展
・ 以上を踏まえると、出資法2条3項に係る制約は、基本的に廃止すべきものと考える。
5.ノンバンクの資金調達の多様化に伴い留意すべき点
・ ノンバンクの社債発行により、その金融仲介機能は、より銀行等の金融仲介機能に類似した
ものとなる。今後、金融システム改革が進展していく中で、様々な金融商品・サービスの提供
が想定されるが、このような金融商品・サービスの多様化に対しては、投資家の自己責任を前
提に、利用者の視点を重視した統一的、包括的なルールを構築する方向で検討すべきである。
その際、金融仲介や金融資産の管理・運用等の様々な金融サービスの担い手に関する取扱い
についても、その業務に係る共通の特性を考慮しつつ、更に検討する必要がある。
・ 更に、現行の出資法についても、金融商品・サービスの多様化を踏まえ、預り金等の禁止の
みならず、証取法のような行為規制や、金融犯罪・悪質業者のより効果的な取締りのための規
定の整備についても、今後、併せて検討していく必要がある。
・ ノンバンクの融資業務向け社債発行の自由化にあたっては、こうした金融サービスに係るル
ールの枠組みについての検討の方向をにらみつつ、現状における対応として、社債を発行する
ノンバンクに対し、以下の措置を講じるべきである。
(a)ディスクロージャーの強化
・ 不良債権の状況、融資基準、審査体制(リスク管理体制)、大口融資の状況等、ノンバン
クの融資業務の基本となる事項についてのディスクロージャーの義務づけ
(b)リスク管理体制、財産的基礎
・ 銀行等の金融仲介機能に類似してくること等を踏まえ、最低限の要件として、人的構成
(リスク管理体制)や財産的基礎(自己資本等)を求める。
(c)悪質業者による詐欺的行為の排除
・ 解禁に乗じた悪質業者の詐欺的行為を阻止するための方策についても検討する必要がある
が、上記(b)の人的構成や財産的基礎の要件は、悪質業者の参入阻止にも効果があるものと考
えられる。
6.ノンバンクのCPの発行
・ CPは、経済実態的には短期社債とも言うべきものであり、出資法2条3項を踏まえたノン
バンクのCPの資金使途に係る制約についても、社債に関する制約と同様、廃止すべきである。
その場合、上記5.のルールは、CPにも適用すべきものと考えられる。
7.債権流動化のための法制度の整備
・ ノンバンクが債権流動化により調達した資金の使途についても、出資法2条3項を踏まえた
制約があるが、当該制約についても、社債に関する制約と同様、廃止すべきである。
・ 債権流動化については、一層の進展を促す観点から、債権の譲受者としての特別目的会社
(SPC)の仕組作りや投資家保護のあり方等について検討する必要がある。その際、特債法
の全面的見直しも含め、総合的に検討する必要がある。
II.消費者信用を巡る諸問題
1.消費者信用市場の規模の拡大
・ 消費者向け金融及び販売信用を合わせた消費者信用全体の信用供与残高は、バブル期の前後
を問わず、ほぼ一貫して増加傾向を示しており、平成7年では約74.8兆円と、昭和61年の
約31兆円と比較し、約2.4倍の規模となった。
2.多重債務問題
(1)多重債務問題の現状
・ バブルの崩壊、景気の低迷等を背景に、個人の自己破産件数は急増しており、平成8年は
約5万6千件と、過去最高の水準に達した。最近の傾向としては、浪費型破産よりも、中高
年層のリストラ等を原因とする生活苦型破産が相対的に増えている、との指摘がある。
・ 多重債務者が自己破産に至る典型例としては、借金返済のために借金を繰り返すという自
転車操業的な借入行動が見受けられ、取り敢えず正常に返済が行われるので、貸手側におい
ても問題が表面化しにくく、その間に債務が雪だるま式に膨れ上がってしまう等の問題が指
摘されている。
・ 最近、多重債務者を狙った悪質業者(いわゆる整理屋、紹介屋等)による被害も急増して
いる。
(2)多重債務問題への対処
・ 消費者信用の適正な利用と健全な発展のためには、借手が自己責任意識の下、貸付条件等
を正確に認識した上で、自己の返済能力に見合った借入を行うことが前提であるが、他方、
貸手は、借手に対し貸付条件等を開示するとともに借手の返済能力に見合った与信を行う等、
借手側の情報不足等を補完する適切な対応が求められる。多重債務問題に対しては、以上の
考え方を基本としつつ、その実情を踏まえ、具体的に、以下の施策を講じていく必要がある。
(a)消費者信用教育の充実
・ 学校教育、社会人教育等の場での消費者信用教育や、消費者啓発活動の一層の充実
・ 主体的な学習能力、自己責任意識を養うことによる自立した経済主体としての消費者の
育成
(b)カウンセリング機能の充実
・ 米国のCCCS(消費者クレジットカウンセリングサービス)のような、借手の自力更
生を促す予防的カウンセリング(家計管理や生活設計等に関する助言等)の実施
・ カウンセリングに入った旨を債権者に通知した場合に取立行為を制限する仕組みの導入
・ 各カウンセリング団体間の連携の一層強化及び各団体の一本化による第三者機関の設立
(c)与信審査の一層の厳格化等
・ 過剰融資禁止の規定等の基準をよりきめ細かなものにする等、過剰融資の抑制をより効
果的なものにすること
・ 貸付条件等の開示、広告・勧誘規制等の行為規制の強化
(d)信用情報の交流
・ 与信審査の厳格化に資する観点から、業態毎の信用情報機関間の残高情報等の交流の促進
・ 個人信用情報の保護
(e)悪質業者の排除
・ 正常な貸金業者を仮装した悪質業者を排除する観点から、貸金業の登録申請時に貸金業
を営む意思等を証明する書類の提出の義務づけや、登録の拒否要件等の強化等についての
検討
3.消費者信用全体に対する消費者保護の強化
・ 欧米においては、消費者信用取引について、販売信用も含め、かつ、業種の如何を問わず、
統一的に規制する消費者信用保護法を制定している国が多い。
・ 我が国においては、消費者信用取引について、貸金業規制法、割賦販売法等で規制している
が、その内容は、欧米の消費者信用保護法における主要な規定は盛り込んでいるものの、特定
の業態や信用供与の形態に着目して規制する形式を採っているため、業態や信用供与の形態が
異なることにより規制のアンバランスが生ずる等の問題が指摘されている。
・ 今後、消費者信用市場の一層の拡大、取引形態の多様化等が予想される中で、消費者保護を
適切に図っていくためには、現行の各業法を見直し、整合性を図っていく必要があるが、その
場合、基本的には、欧米の統一的な消費者信用保護法のように、消費者信用を行う全ての業態
に対する横断的な法制を構築することが望ましい。
・ 今後、消費者信用取引に係る法規制を見直す際には、併せて個人信用情報の保護のあり方に
ついても検討を行う必要がある。
4.金利規制のあり方
・ 現行の利息制限法、出資法等による金利規制については、金利は本来、市場によって決まる
ものであり、規制は好ましくないという考え方もあるが、現行の金利規制が借手の保護に資す
る効果を果たしていることは否定できず、現時点で金利規制自体を撤廃することは時期尚早と
考えられ、将来的な課題として検討していくべきものと考えられる。
・ 現行の利息制限法と出資法の上限金利の間の隙間(グレーゾーン)については、それぞれの
法律の規制の趣旨・態様や利息の定義等が異なることによるものであり、直ちに撤廃すること
は困難と考えられる。但し、貸金業規制法による貸金業者に対するみなし弁済の規定について
は、競争条件の公平や外国の法制等も留意しつつ、更に検討を行っていくべきものと考えられ
る。
・ いずれにせよ、貸金業者に対しては、借手の保護の観点から、貸出金利の一層の引下げ努力
が求められる。
5.その他
(1)現実の取引形態に見合った法規定の見直し
・ いわゆる包括契約方式による貸付形態等、現実の取引形態を踏まえた規定の見直し
(2)一層の規制緩和の実施
・ 消費者保護とは直接関係のない規制の緩和・撤廃(貸金業者の事務負担軽減等)
・ 消費者利便の向上の観点からの規制緩和・撤廃(銀行系クレジット・カード会社等に対す
る総合割賦等の解禁等)
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