2.市場=(信頼できる効率的な取引の枠組みの提供) 資産運用・資金調達といった証券取引を公正、効率的に提供するシステムとして、取引 所・店頭市場等の制度化された市場は大きな意義を有している。技術革新が進展し物理的 な取引執行の場所としての意味合いは薄れるとしても、制度化された市場が提供する信頼 できる取引の枠組み(ルールを含む取引のメカニズム)の存在意義は益々高まるものと考 えられる。 市場が提供しうる機能には、容易な価格発見、高い流動性、価格の安定化、取引コスト 削減、決済リスク削減、透明性の向上、取引公正性の確立等、多岐にわたっている。こう した市場機能は、競争原理の適切な発揮や取引決済システムを始めとした市場インフラの 整備によって実現される。制度化された市場としての存在意義は、利用者に対して、公正 な取引ルールの遵守と自己責任原則の徹底を前提として、いかに魅力ある取引サービスを 提供できるかに求められるべきである。市場参加者が市場に期待する機能の優先度は様々 である。それ故多様なニーズに応えていくためには、公正さを確保しつつ、国内各市場間 の競争を促進していく必要があり、これを通じて我が国市場全体としての競争力も強化が 図られいくものと考えられる。 [具体的検討項目] ○ 取引形態の多様化と各取引形態の競争関係 市場間の競争を通じ、多様なニーズに対応し、かつ市場全体としての機能と競争力 の強化を図っていくとの視点から、取引所や店頭市場などのあり方について、どう考 えていくべきか。 ・ 取引所集中義務の見直し 取引所集中義務は、取引所市場に厚みを与えると共に、公正・妥当な価格形成 に資することを目的とするものである。他方、近年、取引所内での効率的な執行 が難しい大口・バスケット取引等が拡大している。こうした投資家のニーズに応 える為には、取引所集中の考え方に柔軟性を持たせていくべきではないか。 また、情報通信技術の活用を通じて価格情報の集中が確保されれば、今後、取 引の集中義務がなくとも、結果として公正・妥当な価格形成を実現できるとの指 摘についてどう考えていくべきか。 ・ 店頭市場の位置づけの見直し 21世紀の高齢化社会において、我が国経済が活力を保っていくためには、次 代を担う成長産業への資金供給が重要となっており、こうした観点から、店頭市 場は今後、一層大きな役割を果たすことが期待されている。店頭市場については、 従来、取引所市場の補完的な位置づけとされてきたが、市場間の健全な競争を通 じて全体として公正かつ効率的な市場の実現を図っていくべきであるとの考え方 に照らせば、こうした位置づけは見直されるべきではないか。 ・ 未上場・未登録株の扱いの見直し 我が国証券市場が今後、様々な資金の調達・運用ニーズに対応していくために は、未上場・未登録株式についても、適切なディスクロージャーの確保等を前提 として、取引環境の整備を行っていくべきではないか。 ○ 取引・気配情報へのアクセス 投資家の取引・気配情報へのアクセス改善といった投資家の利便性の改善の要請を、 相場・情報操縦等の不公正取引の機会の増大や投資家間の情報格差の可能性等を踏ま え、どのように考えていくべきか。 ○ 流通・決済制度等のインフラ整備 ・ 証券取引・決済制度の整備 証券市場においては、通信・情報技術の高度化に対応しつつ、グローバル・ス タンダードと整合的な形でインフラの整備を図っていくことが必要である。この 観点から、取引コストに配意した効率的かつリスクの少ない注文発注・執行及び 決済制度を整備するべきではないか。 ・ 貸株市場の整備 貸株については、近年、機関投資家や証券会社を中心として、新しい貸株・借 株ニーズが出現し、証券会社においては、既に、機関投資家等からの株券調達や 証券会社間での貸株取引が行われているといった実態を踏まえ、信用・貸借取引 制度を含めた貸株市場の一層の整備について、証券市場の機能強化の観点から、 早急に検討すべきではないか。 ・ 店頭市場の流通面での改善 店頭市場については、株式の公開後に流通量が乏しくなり、取引リスクが大き くなるケースが多いことが指摘されている。従って、店頭市場が十分な市場機能 を発揮するためには、証券会社のマーケットメイク機能の拡充を含め、店頭市場 の流通面の改善について、さまざまな努力が行われるべきではないか。 ・ 債券流通市場の改善 債券市場が幅広い投資家に対して魅力を高め、十分な機能を発揮していくため には、流通面での基盤整備を進めていくことが重要となっている。 この関連で、社債の決済については、オンライン・ネットワーク化を基礎に、 決済リスク解消やコストの軽減を図り、国際的水準の決済制度構築を目指すとの 方向性が示されており、これが着実に推進されることが必要ではないか。 また、公社債利子に対する課税のあり方などを見直すことが、円滑な価格形成 を促し、債券市場の参加者の多様化に資するとの考え方についてどう考えるか。 ○ 上場・公開等に関わる諸規制・諸慣行の見直し 株式等の発行市場について、公正・妥当な価格形成機能を維持させつつ、期待され る資金供給力をより十全に発揮させていくとの観点から、新規株式公開時等における 発行条件の決定や募集・売出しの方法及び配分ルールのあり方についての見直しを検 討すべきではないか。また、上場手続きの効率化等の観点から、上場承認手続のあり 方についても検討されるべきではないか。 ○ ディスクロージャーの整備 複雑化、国際化した集団の企業活動について、投資家に対し、リスクとリターンの 関係がより明示されるよう連結情報の充実や時価基準のあり方を含めた金融商品にか かる会計基準の検討等を進めるべきではないか。 同時に、ディスクロージャーの適正性が確保される必要があり、公認会計士の監査 実務、監査体制等全般について、最近の経済・金融構造の変化に対応し、一層の質的 向上を図るための取り組みが求められているのではないか。 ○ 監視・処分及び紛争処理体制の充実 我が国において自己責任原則に基づく公正でより競争的な市場取引を確保する為に は、証券取引等監視委員会の増強等、規制面での体制を整備する必要があると共に、 ルール違反に対する処分の積極的発動を支える受皿としての体制の強化も必要とされ るのではないか。 更に、個人投資家等が安心して参加できる市場とするためには、何らかの被害が あった場合、民事的な問題処理をより簡便に行える仕組みを整備すべきではないか。 ○ 投資家啓蒙活動 市場における自己責任原則を徹底する為には、とくに個人投資家に対し、証券取引・ 貯蓄に関する認識を深めるよう啓蒙を図る必要があり、投資家啓蒙活動に積極的に努 めていく必要があるのではないか。 ○ 電子化への対応 国際的に進展している証券取引の電子化は、取引コストの低下、取引利便性の向上、 選択肢の拡大等、市場参加者に様々な利益をもたらす一方で、電子化に対応したルー ルの整備や新たな投資家保護のあり方の検討も必要となってきている。電子化の発展 の可能性を先取りする形で検討を進めていくとともに、電子化の進展を積極的に支援 するための基盤整備を進めていくべきではないか。 ・ インターネットを利用した証券取引への対応 インターネットのホームページを利用して、発行企業が直接株式の募集を行っ たり、海外の証券業者が国内の投資家と取引関係を持とうとする動きが見られる。 証券取引へのインターネットの利用については、資金運用・調達手段の多様化と いった市場利用者のニーズを念頭におきながら、同時に投資家に不測の損害を与 えぬよう、国際的な議論を踏まえつつ、取引ルールの確立と監視体制の整備に努 めていくべきではないか。 ・ ディスクロージャーの電子化 法定開示書類の受理・審査・閲覧を電子的に行うシステムは、開示情報の迅速 な伝達、投資家・発行企業の利便性の向上等様々な効果をもたらすことから、我 が国においても導入の必要があるのではないか。また、目論見書等、投資家に交 付すべき各種書面のペーパーレス化・オンライン化が図れるように制度的な面を 含め整備を図るべきではないか。