証券取引審議会総合部会

市場ワーキング・パーティー報告書

「信頼できる効率的な取引の枠組み」


                                                                              

平成9年5月16日                                                            

主査    蝋山  昌一                                                            

目    次

1.総論

2.取引所市場のあり方の見直し

3.店頭市場のあり方の見直し

4.未上場・未登録株の取扱いの見直し

5.取引・気配情報へのアクセスの改善

6.証券取引・決済制度の整備

7.貸株市場の整備

8.上場・公開等に関わる諸規則・諸慣行の見直し

9.検査・監視・処分及び紛争処理体制の充実

10.投資家啓蒙活動の充実

11.債券流通市場の改善(公社債利子課税のあり方)

12.電子化への対応


1.総論


 (1)  我が国証券市場には、巨額な金融資産の運用と内外の資金需要への資金配分の双

    方を、効率的かつ公正に行う役割が求められている。したがって、我が国証券市場

    の改革は、証券市場がこのような役割を十分適切に果たせるようにするものでなけ

    ればならない。                                                            

                                                                              

 (2)  資産運用・資金調達が「効率的」に行われるには、競争原理の導入が不可欠であ

    る。具体的には、市場に参加する運用者及び調達者の双方に対して多様な選択を行

    う自由が保証され、競争原理の下で市場仲介が行われる必要がある。市場仲介者に

    は、魅力ある商品及びサービスを提供するために可能な限りの自由度が与えられる

    べきである。その一環として、市場仲介者には、市場参加者のニーズに最も適した

    取引の場を選択し、取引を効率的に執行することが許容されるべきである。これら

    を通して、市場参加者は効率的な市場の成果を享受することとなろう。          

                                                                              

      今後、国内の様々な証券市場では、市場参加者の多様なニーズにこたえ、いかに

    魅力ある取引サービスを効率的に提供しうるかについての競争が支配的とならなけ

    ればならない。この場合、市場が提供しうる取引サービスとしては、高い流動性の

    提供による容易な価格発見と安定した価格形成、価格形成過程の透明性向上、取引

    コストの低減、決済リスクの削減、取引の公正性確保等が含まれる。このようなサ

    ービスの提供を巡って国内各市場間での競争が促進されれば、我が国市場全体とし

    ての競争力強化が図られ、国際的に見ても我が国市場は魅力あるものとなっていく。  

                                                                              

      市場間競争を促進するに当たっては、特に取引所市場や店頭登録市場といった制

    度化された市場の取引の枠組みを抜本的に見直し、それぞれの市場がそれぞれの機

    能をより発揮していけるようにする必要がある。これら制度化された市場の間では

    上場・登録企業を獲得するための競争も展開されることとなろう。他方、これらの

    市場以外での取引の役割も増大することが予想され、制度化された市場との間で取

    引執行の場を巡る競争が展開されることとなろう。                            

                                                                              

 (3)  資産運用・資金調達が「公正」に行われるには、信頼できる取引の枠組みの確立

    が不可欠である。この観点から、参加者が一定のルールに基づいて取引を行う取引

    所市場や店頭登録市場は、ますます大きな意義を持つこととなる。これらの市場が

    期待される機能を更に一層発揮していくには、取引決済システムの整備をはじめと

    する証券市場のインフラ整備が極めて重要である。殊に、通信・情報技術の高度化

    に対応し、グローバル・スタンダード(国際的に事実上成立している基準)と整合

    的な形での取引決済システムの整備は喫緊の課題である。                      

                                                                              

      また、市場間競争の活発化に伴い、制度化された市場以外の市場、すなわち未上

    場・未登録株式を取り扱う市場や証券取引の電子化に対応した市場あるいは様々な

    証券化商品市場の整備が求められてくる。このため、これら新しい市場での公正な

    取引を担保するためのルール整備等が必要となる。更に、市場の公正性の確保のた

    めには、市場ルールの整備だけでなく、ルール違反に対する、行政及び自主規制機

    関の厳正な対応が求められる。証券市場の自由化の中で、監視、検査の果たすべき

    役割はますます大きくなっており、その体制の整備も必要である。              

                                                                              

2.取引所市場のあり方の見直し


 (1)  取引所集中義務の現状                                                    

      我が国証券市場、なかんずく株式市場においてこれまで中心的役割を果たしてき

    たのは東京をはじめ全国8都市に開設されている証券取引所である。取引所は、需

    給の集約による公正な価格形成及び効率的な証券取引の実現に当たって重要な役割

    を担ってきた。取引所は、証券取引の分野で特別な地位を認められ、独占禁止法の

    適用を受けずに、証券取引法上の自主規制機関として会員証券業者の行動に一定の

    制約を課すことが容認されてきた。しかしながら、このうち、取引所定款による取

    引所集中義務や取引所受託契約準則による固定手数料制は、競争制限的なものとな

    っているのではないかと指摘されるようになってきた。                        

                                                                              

      証券市場改革に当たって、競争促進は不可欠な要素である。競争は、市場仲介者

    間のみならず市場間においても促進される必要がある。市場参加者及び仲介者が、

    それぞれの取引ニーズに合わせて、最もふさわしい取引の場を自由に選択できるよ

    うにすべきである。そのためには、会員証券会社に対して上場有価証券の取引を取

    引所において執行することを義務づけている取引所集中義務は、その撤廃を含め、

    抜本的に見直す必要がある。このことは、とりも直さず、取引所市場のあり方その

    ものを抜本的に見直すことを意味している。                                  

                                                                              

      取引所集中義務は、取引所市場に厚みを与えるとともに、公正な価格形成に資す

    ることを目的として設けられている。戦後の我が国証券市場、なかんずく株式市場

    においては、この取引所集中義務の下で取引所に需給を統合することにより公正な

    価格形成、取引の円滑化が図られてきた。市場の信頼を高めていく必要性は、今後

    ますます高まっていくものと考えられるため、取引所市場のあり方の見直しに当た

    っては、公正な価格形成機能を阻害するようなことがあってはならない。        

                                                                              

 (2)  取引所集中義務の見直し                                                  



      近年、取引所集中義務を見直す必要があるとの声が急速に高まっているが、その

    背景としては以下のような環境変化が指摘される。                            

                                                                              

      第一に、前述の通り、市場間競争を促進する観点から、証券会社の取引の執行を

    行う場を制約している規制を、その撤廃をも含め、抜本的に見直していく必要があ

    る、との指摘が強まっている。                                              

                                                                              

      第二に、市場における機関化現象の進展に伴い、株式注文の大口化やバスケット

    化が進む等投資家の取引ニーズが一層多様化してきている。また、取引コスト削減、

    即時一括執行、匿名性等を求める動きも高まっている。このため、現在の取引所の

    取引システムにおいては効率的な執行が難しい取引形態が増加してきている。例え

    ば、機関投資家が取引所において大口の売買注文を発注した場合、注文約定に相当

    の時間を要する(時間リスク)ほか、約定価格もあらかじめ想定できない(価格リ

    スク)という指摘がある。また、機関投資家が一度に複数銘柄をまとめて取引する

    バスケット取引を注文しようとした場合、取引所においては一括した取引執行が困

    難であるとともに、バスケット全体としての約定価格をあらかじめ想定できないと

    いう指摘もある。したがって、取引所は、このようなニーズにこたえていくため、

    取引所集中義務を弾力的に見直していく必要がある。                          

                                                                              

      第三に、通信・情報技術の発達に伴い、従来の取引所の枠組みを超えた取引の出

    現に備える必要が生じている。各種の市場情報が容易に入手できるようになれば、

    市場へのアクセス度も高まり、市場参加者による取引手法の選択の範囲は急速に広

    がろう。また、取引所非会員の証券会社が取引所定款に拘束されずに自由に新たな

    ニーズにこたえるための取引を行っていくことが予想され、会員証券会社との間で

    アンバランスが生じる懸念も指摘される。更に、今後、電子媒体を利用した私設市

    場が開設される可能性をも踏まえた市場インフラやルールを整備していく必要性が

    高まっている。                                                            

                                                                              

      第四に、証券取引の国際化が進展するのに伴い、国内で執行しにくい取引は簡単

    に国外へ流出していく可能性が高まっている。平成10年4月からの実施が予定さ

    れている外為法改正による自由化は、そのような国際的な市場間競争を一層加速す

    るものと思われる。したがって、取引所集中義務のように、国内の市場仲介者を通

    じた取引の手法に制約を課している制度は、速やかにそのあり方を見直し、我が国

    証券市場を国際的に見て、利用者にとって魅力あるものとしていくためには、取引

    所市場の効率化を進めていく必要がある。                                    

                                                                              

 (3)  検討の方向性                                                            

                                                                              

      証券市場を巡る環境変化に的確に対応して、取引所の機能を向上させていくため

    には、取引所市場のあり方について以下のような検討が必要である。            

                                                                              

      第一は、現行の取引所内における取引システムの見直し及び所要の改善である。

    具体的には、例えば、大口・バスケット取引に対応した売買制度の導入、立会時間

    外の取引需要に対応するための終値売買制度の導入や立会時間の延長等が検討対象

    となろう。これら取引所内取引システムの改善については、取引所が主体性を持ち、

    投資家及び会員証券会社のニーズに対応して適切な改善措置を講じていかねばなら

    ない。                                                                    

                                                                              

      第二は、取引手法の一層の多様化を図るためには取引所内の取引システムの改善

    だけでは不十分であり、取引所外取引を認める方策である。この場合、個人投資家

    を含む幅広い投資家が安心して市場に参加できるようにする観点から、取引所集中

    義務の考え方は残し、取引所外取引は大口・バスケット取引等の新たなニーズに限

    定して認めてはどうかとの考え方もあろう。しかしながら、取引所集中による公正

    な価格決定の意義は認められるとしても、市場間競争を徹底させるためには、現在

    定款により課されている義務を撤廃することが必要である。これにより、個人投資

    家による取引を含め、全ての投資家による取引について取引所外取引を認めること

    が適当である。                                                            

                                                                              

      第三は、新たに取引所外取引を認める場合、取引所外での取引において執行され

    る価格と取引所における価格との関係についての整理である。取引所外取引におい

    て独自の需給関係による価格形成が行われる場合、それは公正かつ透明に行われる

    必要がある。そのためには、取引所外取引を行う証券会社に対して、常時、気配を

    提示し、各社・各取引所の気配をシステム的にリンクした上で、顧客の注文を最良

    の価格で執行する義務を負わせることが前提条件となる。しかしながら、このよう

    なインフラを整備するためには多大なコスト及び相当の準備期間が必要となる。ま

    た、取引所外取引への需給の分散が主たる市場である取引所の流動性を低下させ、

    むしろ公正な価格形成が阻害される惧れもある。したがって、将来的には我が国証

    券市場のあり方としてそのようなシステムを構築した市場という選択肢もありうる

    ものの、我が国の現状からすれば、当面、取引所の価格形成機能を最大限活用した

    枠組みの構築の方が効率的かつ望ましいと考えられる。                        

                                                                              

      第四は、取引所外取引を認める場合、投資家保護の観点から取引の公正性確保の

    面での手当てである。従来は、取引所集中義務によって取引執行を取引所に集中さ

    せることで、競争原理を働かせた公正な価格決定が確保されると考えられていた。

    しかし、情報伝達手段が高度に発展した今日においては、むしろ重要なのは価格情

    報の報告・集中・公表であって、取引執行の取引所への集中ではない。したがって、

    取引所外取引を認めた場合には価格情報の報告・集中・公表が不可欠な要素となる。

    また、取引所外取引に対しても公正取引を担保するためのルールが課されることが

    必要である。                                                              

                                                                              

 (4)  取引所集中義務撤廃のスキーム                                            

                                                                              

      我が国において取引所外取引を認めていくに当たっては、以下のスキームを中心

    に検討することが適当である。今後、関係者間で実務的な検討を進め、証券取引法

    の改正を含め所要のルール整備を図った上で、できるだけ早期に実施に移されるべ

    きである。なお、法改正に先立ち、投資家ニーズに対応するため取引所内取引の改

    善策として実行しうるものについては早急に実施されるべきであることはいうまで

    もない。また、債券等についてはその特性等に応じた所要の措置がとられるべきで

    ある。                                                                    

                                                                              

      ○  取引所定款における取引所集中義務は削除されるべきである。但し、これは

        公正な価格形成を行う上で取引が取引所に集中することの意義を否定するもの

        ではない。                                                            

                                                                              

      ○  取引所外取引を行う際の取引価格は、立会時間中については、価格の公正性

        を確保するため、取引所における当該銘柄の価格の一定範囲内とする。具体的

        には、今後の検討課題であるが、例えば小口取引では最良気配の範囲内、大口

        取引では直近時価の上下数%以内という考え方がとられるのが適当である。こ

        の際、大口等の定義は平均的な取引量に照らして銘柄ごとに決められることが

        適当である。なお、立会時間外に取引所外で行われる取引の価格については、

        特段の制限を設けないこととするべきとの意見もあるが、今後、実務的に検討

        を深める必要がある。                                                  

                                                                              

      ○  取引の公正性・透明性を確保する観点から、証券会社は投資家に対して、取

        引態様(取引所内か仕切売買か等)を説明し、投資家が仕切売買を明示的に希

        望した場合にのみ、仕切売買で執行するものとする。                      

                                                                              

      ○  また、証券会社は、取引所外取引の内容(価格、約定数量、時間等)を直ち

        に自主規制機関に報告する義務を負う。自主規制機関は、取引内容を原則とし

        て直ちに公表することとする。なお、報告の方法及び内容並びに情報の公表方

        法等については、今後、実務的に検討を深める必要がある。                

                                                                              

      ○  取引所外取引についても取引所取引と同様の公正取引ルールを整備するとと

        もに、売買停止等の緊急措置の実効性を確保する等所要の法整備を図ることと

        する。                                                                

                                                                              

 (5)  私設取引システムへの対応                                                

                                                                              

      従来、我が国においては、非会員証券会社を含めて、上場株式等の需給は全て取

    引所に集約されてきた。しかしながら、取引所集中義務が撤廃されれば、今後、証

    券会社及び投資家等による私設取引システム(伝統的な取引所とは異なる私的な組

    織が電子的技術を活用して取引サービスを提供する取引システム)の開設が予想さ

    れる。このような新たな取引形態に関しても、取引の公正性が確保できるよう法的

    な手当てを整備する必要がある。                                            

                                                                              

      この場合、新たな取引システムが、取引所と同程度の高い価格形成機能を有した

    ものとなれば、そのようなシステムは、当然、取引所としての規制を受ける必要が

    あろう。しかしながら、当面、このようなシステムでは、基本的に取引所の価格形

    成機能を活用し、取引所と同程度の高い価格形成機能は有しないと考えられるので、

    取引所ではなく、証券業として整理することが適当となる。但し、不公正取引を防

    止する観点から、これらについても、証券会社としての規制に加え、取引が行われ

    る場としての性質に応じた最低限のルールは課される必要がある。また、そのよう

    な手当てが講じられたものについては、証券取引法上において開設を禁止している

    「有価証券市場に類似する施設」には該当しないとの立場を法律上明確にすること

    が適当である。                                                            

                                                                              

      なお、経済的に見れば有価証券市場の定義は広く考えられるべきであろうが、証

    券取引法上、有価証券市場とは取引所における取引であると限定して定義されてい

    る。今後、有価証券取引が行われる場が取引所以外にも広がることが予想されるた

    め、このような規定振りを見直す必要性につき検討を深めることが適当である。  

                                                                              

 (6)  地方取引所のあり方                                                      

                                                                              

      取引所集中義務の撤廃は、取引所のあり方、特に地方取引所のあり方に対して大

    きな影響を与える問題である。具体的には、地方取引所の売買高が一層減少し、取

    引所としての価格形成機能の喪失がより顕著になる事態も予想される。このような

    中にあって、各地方取引所は、それぞれ独自性を発揮し、創意工夫による効率的な

    サービスを提供する努力を強めない限り、現状のままでは取引所としての存在意義

    が問われることとなろう。したがって、今後、各取引所及びそれを支える会員証券

    会社が主体性をもってそれぞれの取引所のあるべき姿について地元経済界等と議論

    を深めていく必要がある。一方、行政にあっては、取引所が自主性を発揮できるよ

    う、取引所の参入退出のあり方を含め、取引所市場の法的枠組みについての見直し

    を行っていく必要がある。                                                  

                                                                              

3.店頭市場のあり方の見直し


 (1)  株式店頭登録市場(以下、「店頭市場」という)は、取引所市場と並んで、我が

    国の制度化された証券市場の一つとして重要な役割を果たしてきている。今後、2

    1世紀の高齢化社会において我が国経済が活力を保っていくためには、次代を担う

    成長産業への資金供給がこれまで以上に重要となってくることが予想され、店頭市

    場は、この面で一層大きな役割を果たすことが期待されている。                

                                                                              

 (2)  店頭市場については、昭和58年の証券取引審議会報告において、取引所市場の

    補完的機能を果たしていくことが適当であるとされた。しかしながら、その後、転

    換社債の発行等各種ファイナンスの手段が店頭登録銘柄企業にも解禁されるととも

    に、株価操作やインサイダー取引規制等不公正取引規制も店頭市場に適用されるよ

    うになっている。また、株式店頭市場システム(JASDAQシステム)の導入等

    により、店頭市場の市場機能も相当程度強化されている。更に、流通市場の規模に

    おいても、店頭市場は今や東京証券取引所第2部市場と匹敵するものとなっている。  

                                                                              

 (3)  このような店頭市場の現状を踏まえると、店頭市場が取引所市場の「補完」とさ

    れてきた位置づけを見直すことが適当である。これにより、両市場間の健全な競争

    を通じて、全体として公正かつ効率的な市場の実現が図られるべきである。その際、

    競争売買(オーダー・ドリブン)を基本とする取引所市場に対し、店頭市場におい

    ては、マーケットメイク機能(自己売買による流動性供給機能)を活用した特徴的

    な市場を目指すといった方向性が明らかにされることが望ましい。              

                                                                              

 (4)  店頭市場の流通面の現状については、株式の公開後に流通量が乏しくなり、取引

    リスクが大きくなるケースが多いことが指摘されている。したがって、店頭市場が、

    期待された役割を十分に発揮していくためには、店頭市場における流通面の改善に

    向けて具体的な機能強化策が講じられる必要がある。この点に関しては、日本証券

    業協会において、 1信用取引制度、 2発行日取引制度及び 3借株制度の導入につい

    て検討が進められ、本年3月に、これらに関する要綱が決定されたことが歓迎され

    る。今後、これらの措置ができるだけ早期に実施に移され、店頭市場の需給の厚み

    と流動性を増加させ、市場の効率化・活性化に資することが期待される。        

                                                                              

 (5)  また、店頭市場がその特徴を活かしながら、取引所市場との間で健全な競争を行

    っていくためには、証券会社のマーケットメイク機能の拡充が必要である。店頭市

    場における借株制度の導入は、そのための環境整備として歓迎すべきものである。

    また、今後とも、日本証券業協会において、現行の登録銘柄ディーラー制度につい

    て、その運用の実態を踏まえ、所要の見直しを進めることが必要である。なお、証

    券業務の多角化の中で、ディーリング業務(売買)をブローカレッジ業務(取次)

    の補完としている位置づけが見直されれば、証券会社のディーリングに対する意識

    の変化が進み、マーケットメイクの一層の活発化が期待できる。                

                                                                              

 (6)  更に、現在、取引所市場においては証券及び資金の決済がネットベースで行われ

    ているのに対し、店頭市場においては個別受渡決済で処理されている点も見直す必

    要があろう。店頭市場の売買高の増加傾向を踏まえ、日本証券業協会による積極的

    な取組みにより、受渡決済の簡素化・合理化が図られることが期待される。      

                                                                              

      なお、店頭市場については、もともと公正な価格形成を担保するための制度が整

    備されている。したがって、仮にネットベースでの受渡決済制度を導入しても、証

    券取引法が開設を禁止している「有価証券市場に類似する施設」として想定してい

    るようなものには該当しないと考えられる。しかしながら、店頭市場における取引

    は今後一層高度化すると見込まれ、この際、日本証券業協会が運営する店頭登録市

    場を本規定の適用除外とするための法的手当をとることが適当である。一方、決済

    不能が生じた場合の処置として、日本証券業協会において、損失補償制度等につい

    て十分な手当てを検討しておく必要がある。                                  

                                                                              

4.未上場・未登録株の取扱いの見直し


 (1)  現在、未上場・未登録企業の株式については、相対的にリスクが高いにもかかわ

    らず十分なディスクロージャーが行われていないものが多い等の事情により、証券

    会社の投資勧誘や公募の取扱いが日本証券業協会規則によって禁止されている。こ

    のため、未上場・未登録株式の流通の現状としては、上場・登録廃止となった銘柄

    や株主優待がある地方の鉄道・バス会社等について、証券会社が積極的に勧誘は行

    わず、気配値段の公表と受け身の取次ぎを行う形での取引が行われているにとどま

    っている。                                                                

                                                                              

 (2)  しかしながら、今後、我が国証券市場が多様な資金調達・運用ニーズに対応して

    いくためには、米国のような多重構造の市場を確立していくことが重要である。創

    業段階のベンチャー企業を含む未上場・未登録企業の株式は、上場株式、店頭登録

    株式に比して、相対的にリスクが高いと考えられる。他方、これら企業の資金調達

    ニーズに適切に対応して、円滑な資金供給を行うとともに、資金運用者に対して当

    該株式の流通の場を提供し、資金回収の機会を与えていくことは、今後の証券市場

    に期待される重要な機能の一つである。また、証券会社が、これら企業の資金調達

    に早い段階から関与していくことは、証券会社の業務を多様化・差別化していく観

    点からも意義があると考えられる。                                            

                                                                              

 (3)  このような観点から、証券会社による未上場・未登録株式の取扱いについては、

    発行・流通両市場における所要の環境整備を図った上で、これを認めていくことが

    適当である。具体的には、適切なディスクロージャー、取引の公正性の確保及び適

    切な価格情報の提示についてのルール整備等が必要となろう。                  

                                                                              

 (4)  具体的なルールについては、今後、日本証券業協会を中心に実務的な検討が進め

    られるべきであるが、おおむね以下の点を骨子とすることが適当である。          

                                                                              

      ○  ディスクロージャーについては、証券取引法上の継続開示会社については有

        価証券報告書によることとする。一方、有価証券届出書又は有価証券報告書の

        提出が義務付けられていない企業については、日本証券業協会規則において、

        証券会社に対し、当該企業の株式の投資勧誘を行う際には、公認会計士の監査

        がなされた財務諸表等の投資情報の提示を義務付けることとする。また、その

        際は、相対的にリスクが高いと考えられるため、証券会社が適合性原則の観点

        から当該株式の内容を十分理解でき、そのリスクに耐えうると認める投資家を

        対象にすることとする。                                                

                                                                              

      ○  不公正取引防止については、証券取引法等による現行規制で対応することと

        するが、協会規則について現行規定を必要に応じ整理することとする。      

                                                                              

      ○  価格情報の提示については、証券会社が投資勧誘に併せて気配情報(価格情

        報)の提示を行う際、協会規則において、証券会社が提示する価格情報に関し、

        当該情報の素性(だれが提供している情報か、いつの時点の情報か、気配か成

        立した価格か否か等)を明示することを新たに義務付けることとする。      

                                                                              

 (5)  なお、未上場・未登録株式の5億円未満の募集等については、現行証券取引法上

    ディスクロージャー義務はかからないこととなっている。しかしながら、今後、イ

    ンターネット等による不特定多数の者を対象とした投資勧誘が増加することが考え

    られ、これらについては、相対でなく公衆縦覧を前提としたディスクロージャー制

    度を行政において新たに検討することが適当である。この場合には、証券会社によ

    る5億円未満の未上場・未登録株式の投資勧誘についても、同様の取扱いを検討す

    ることが適当である。                                                      

                                                                              

 (6)  更に、このような市場の整備は、将来的には様々な証券化商品の取引も視野に入

    れることができよう。                                                      

                                                                              

5.取引・気配情報へのアクセスの改善


 (1)  証券市場が円滑に機能するためには、市場の透明性及び市場参加者の利便性の向

    上を図る観点から、市場情報は広く市場参加者に対し正確かつ迅速に伝達される必

    要がある。その意味で、取引・気配情報は、公共財的な性質を色濃く有していると

    いえる。                                                                  

                                                                              

 (2)  我が国取引所市場では、相場報道システムを通じて、約定価格、約定数量のほか、

    四本値(始値、高値、安値、終値)、前日比、最良気配、売買高の情報が提供され

    ている。一方、店頭市場においては、JASDAQシステムの情報伝達システムを

    通じて取引所市場と同等の情報が提供されている。現行の市場情報の提供範囲は、

    諸外国の状況に比べると複数の気配や注文数量が公表されていない等の面で狭くな

    っており、投資家の多様なニーズ、通信・情報技術の高度化等を勘案すれば、必ず

    しも十分なものとは言いがたい。                                            

                                                                              

 (3)  したがって、投資家に対する取引・気配情報の提供範囲の拡大を図っていく必要

    がある。具体的には、諸外国の例を参考にし、最良気配を含めた複数の気配とそれ

    ぞれの注文数量の公表が行われることが適当である。                          

                                                                              

 (4)  また、いわゆる板情報等のより詳細な情報の伝達範囲は、現状では、会員証券会

    社のいわゆる場電店(取引所に近接した営業所1ヶ所)に限られている。しかしな

    がら、不公正取引等の増大や投資家間の情報格差の拡大の可能性に配慮しつつも、

    時代のニーズや投資家の利便性向上の観点から、詳細情報の伝達の範囲の拡大を検

    討すべきである。具体的には、投資家からの問い合わせ等に迅速に対応できるよう、

    少なくとも会員証券会社のあらゆる支店までは板情報等のより詳細な情報の伝達を

    認めることが適当である。                                                  

                                                                              

 (5)  取引・気配情報へのアクセスの改善は、取引所等が投資家ニーズを踏まえ、会員

    証券会社の合意に基づき自主的かつ積極的に取り組んでいくべきものである。しか

    し、取引所集中義務撤廃後のスキームにおける価格情報の報告・集中・公表の重要

    性等にかんがみれば、情報の公共財的重要性は一層高まるものと考えられる。した

    がって、今後、証券取引法においても、情報提供義務に関する規定を整備する方向

    で検討を進め、市場の透明性及び市場参加者の利便性向上を図ることが適当である。  

                                                                              

6.証券取引・決済制度の整備


      証券市場の機能向上のためには、通信・情報技術の高度化に対応しつつ、グロー

    バル・スタンダードと整合的な形で、取引・決済制度等証券市場のインフラ整備を

    図る必要がある。                                                          

                                                                              

 (1)  注文発注・執行の効率化                                                  

                                                                              

      諸外国においては、通信・情報処理技術の高度化に対応して証券取引の注文発注

    ・執行の効率化を図るための様々な努力が図られている。我が国においても、投資

    家から証券会社への発注方法について、証券会社は新しい技術を積極的に採り入れ、

    低コストでの効率的な注文発注・執行を実現することにより、証券会社としての競

    争力を高める努力を行う必要がある。また、証券会社から取引所への発注方法につ

    いては、取引所として事務処理の合理化・効率化を図る観点から、立会場のあり方

    の見直しを含め、システム化を一層進める努力を行う必要がある。そのような努力

    がない限り、取引所はこれからの市場間競争に勝つことは困難となってこよう。  

                                                                              

 (2)  証券決済制度の整備                                                      

                                                                              

      証券決済制度は、証券市場全体に関わる極めて重要なインフラである。殊に近年、

    決済リスクに対する認識の高まりを反映し、証券決済制度の効率性、安全性の高さ

    が各国証券市場の競争力を左右する重要な要素となっている。我が国証券市場の競

    争力を高めるためには、証券決済制度の一層の整備が喫緊の課題である。        

                                                                              

      特に株券の決済について言えば、証券決済制度に関するグローバル・スタンダー

    ドであるG30勧告(昭和63年)において、決済リスクへの対応という観点から、

     1証券決済を現物を伴わない口座振替方式とすること、 2毎営業日決済(ローリン

    グ決済)を行い、約定後できるだけ短期間で決済を完了すること、及び 3資金と証

    券の同時決済(DVP)を行うことが重要な柱とされた。                      

                                                                              

      我が国においては、株券等の受渡しは財証券保管振替機構による口座振替が可能

    である。だが、現状では、同機構への株券の預託残高は発行済株式数の15%程度

    にとどまっている。また、株券の決済は、売買日から起算して4営業日目(T+3

    のローリング決済となっており、G30勧告を達成してはいるものの、決済リスク

    低減の観点から、決済期間の一層の短縮が求められている。更に、資金の受渡しは

    小切手の授受によって行われており、即日資金化は実現していない。            

                                                                              

      このため、グローバル・スタンダードを念頭に置き、取引コストに配意した効率

    的かつリスクの少ない決済制度を計画的に整備していく必要がある。具体的には、

    決済リスク低減の観点から、決済期間(約定から決済までの期間)の短縮及びDV

    Pを図っていくことが重要である。また、取引所における資金決済については、早

    急に即日資金化の実施を図る必要がある。更に、証券取引の電子化を進め、これら

    の実現を図る観点からすれば、決済のペーパーレス化の実現が不可欠である。この

    ためには、保管振替制度の一層の利用促進が図れるよう、株券等の保管及び振替に

    関する法律の改正を含め、行政において所要の対応が図られるべきである。      

                                                                              

      また、社債受渡し・決済制度については、「社債受渡し・決済制度研究会」の報

    告を受けて、市場関係者によりオンライン・ネットワーク化のための準備作業が進

    められている。既に、ネットワークの核となる中継機関「株債券決済ネットワーク」

    が設立され、本年12月にはネットワークが稼働する予定である。今後、準備作業

    が着実に進められるとともに、将来の一層の発展に向けて、同制度について更に改

    善・検討が加えられることが期待される。                                    

                                                                              

      更に、欧米では、いわゆるフェイルのルール化(決済遅延が生じた場合の当事者

    間における事後処理方法のルール化)が債券取引及び決済の円滑化・効率化に寄与

    しているといわれている。我が国でも、即時グロス決済(RTGS)方式の導入、

    DVP化の一層の推進等、所要の条件整備を行った上で、フェイルのルール化が図

    られることが望ましい。この点については、今後、市場関係者間における具体的な

    検討が望まれる。                                                          

                                                                              

      なお、今後、中長期的な観点から我が国の証券決済制度の整備を図っていくこと

    も必要である。その際には、国際的な動きを見据えながら、株券か債券か、あるい

    は、取引所取引か店頭取引かにかかわらず、より包括的な清算・決済を行うための

    仕組みの構築を視野に入れ、全ての関係者が積極的に取り組むことが重要である。  

                                                                              

7.貸株市場の整備


 (1)  証券市場が多様なニーズに対応して市場機能を効率的に発揮していくためには、

    厚みのある貸株市場を整備し、株式の流動性を向上させる必要がある。          

                                                                              

 (2)  これに対し、これまでの我が国における貸株は、証券金融会社による信用・貸借

    取引制度を中心として行われている。この制度は、個人投資家を主たる対象とした

    信用取引の円滑な運営を念頭に置いて構築されているものであり、市場に厚みを与

    え、株式の円滑な流通に寄与している。具体的には、証券金融会社による貸株の一

    元的管理及び喰い合いを前提とすることにより、少ない貸株可能株数の下でも、通

    常は事前の規制を行うことなく、品貸料ゼロで顧客の借株注文に応じることができ

    る形となっている。このような信用・貸借取引制度に対しては、個人投資家を中心

    として、引き続き強い取引ニーズがあると思われる。しかし、今や、この枠組みに

    納まらない貸株・借株ニーズが出現してきており、このようなニーズに対応してい

    くことが証券市場の一つの課題となっている。                                

                                                                              

 (3)  例えば、証券会社のマーケットメイク機能やディーリング業務の活発化等に伴い、

    証券会社による証券金融会社を通じない借株及び証券会社間の貸借ニーズが高まっ

    ている。また、機関投資家においては、保有株式の一部を貸株として運用するニー

    ズが増大している。更に、投資家サイドからすれば、事後的に品貸料が発生しうる

    現行の信用・貸借取引とは異なり、事前的にコストを確定しうる借株へのニーズも

    高まっている。                                                            

                                                                              

 (4)  現行の信用・貸借取引の枠組みに納まらない貸株・借株ニーズを満たすには、ま

    ず、証券会社による機関投資家等からの借株や証券会社間の貸借の自由化が必要で

    ある。その上で、証券会社による対顧客向けの貸株についても、事前的にコストを

    確定しうる借株ニーズにこたえるため、これを導入することが適当である。      

                                                                              

 (5)  信用・貸借取引の枠外の取引については、市場の公正性・透明性確保の観点から、

    担保の徴求・値洗いの励行、取引状況等に関する適切な情報提供等が図られること

    が望ましい。今後、貸株市場の具体的整備に向けて、この点を含め関係者間で実務

    的な検討が進められることが期待される。また、その際、証券取引法において保証

    金率の下限を画一的に定めている現在の規定について、見直すことが適当である。  

                                                                              

 (6)  なお、貸株が増加した場合、信用・貸借取引に流れる株券が減少し、証券金融会

    社による貸株制限措置の頻発、品貸料の上昇等が生じ、信用・貸借取引制度の機能

    が低下しかねないとの指摘がある。これらについては、信用・貸借取引制度の側で

    対応していくことが適当である。具体的には、証券金融会社において、株券調達ル

    ートの拡大や貸株停止等の措置の弾力的な発動等について実務的な検討が十分行わ

    れるべきである。                                                          

                                                                              

 (7)  また、貸株市場の整備によって、信用・貸借取引の枠外における貸株が増加した

    場合、従来から信用・貸借取引制度を運営してきた証券金融会社の業務について見

    直しを行う必要も出てこよう。これには、証券取引法の関連規定を見直すことによ

    り、証券金融会社の経営の自由度を高めていくことが適当である。              

                                                                              

8.上場・公開等に関わる諸規則・諸慣行の見直し


      証券市場が企業の資金調達に当たって期待されている役割を適切かつ効率的に果

    たしていくためには、株式等の発行市場における諸規則・諸慣行について不断の見

    直しを行っていく必要がある。具体的には、以下の二点につき見直しが求められて

    いる。                                                                    

                                                                              

 (1)  株式新規公開時の公開価格決定方法の見直し                                

                                                                              

      現在、株式の新規公開時の公開価格決定は、いわゆる「一部入札+配分ルール」

    という方式で行われている。これは、公開株の一部(50%以上)を入札に付し、

    その落札加重平均価格を参考にして、残株の公開価格を決定した上で残株を募集・

    売出し、その際、顧客一人当たりの配分株数に対して制限を設けるというものであ

    る。現行方式は、昭和63年の証券取引審議会報告に基づいて、従来の類似会社比

    準方式に代えて、価格形成の公正性及び配分の公平性に主眼を置いて導入されたも

    のである。                                                                

                                                                              

      現行方式に対しては、公開価格が一般投資家による入札結果等に基づき決定され

    るものの、入札が公開株の一部についてのみ行われること等もあり、発行済株式数

    全体の需給を反映したものとはならず、そのため、公開価格が高く設定されがちで

    あり、公開後の円滑な流通に支障をきたすことがあるとの問題点が指摘されている。

    また、公開の迅速性の点でも問題があるといった指摘がなされている。          

                                                                              

      一方、公開価格決定方式としてブックビルディング方式(引受証券会社が投資家

    の需要を積み上げ公開価格を決定する方式)には、以下のようなメリットがあると

    考えられる。                                                              

                                                                              

      ○  発行市場だけでなく公開後の流通市場まで勘案した需要の積上げによる公開

        価格決定が可能となり、株価に対する投資家の信頼感を高めることができる。

        また、長期投資を目的とする機関投資家による市場参加を促すことにより、市

        場の効率化・活性化も期待できる。                                      

                                                                              

      ○  引受証券会社が自ら主体的に公開価格の決定に関与する結果、公開後も流通

        市場においてマーケットメイク機能をより積極的に発揮することが可能となる。

        これにより、公開後の売買高の低下を回避し、流通市場の活性化を図ることが

        期待できる。                                                          

                                                                              

      ○  引受証券会社がアンダーライター機能(引受機能)をより一層発揮し、それ

        を通じて、流通市場におけるマーケットメイク機能をより積極的に発揮するこ

        とができる。この結果、引受証券会社による多面的で自由な競争が促進され、

        市場の効率化に資すると期待できる。                                    

                                                                              

      ○  現行方式に比べ手続が簡素となり、公開日程の短縮が可能となるとともに、

        需要動向に応じた弾力的な発行も可能となる。                            

                                                                              

      ○  欧米でも一般に行われている公開方法であり、グローバル・スタンダードに

        合致している。                                                        

                                                                              

      また、ブックビルディング方式を導入する際、以下のような措置を講ずることに

    より、価格決定の公正性・透明性及び配分の公平性についても十分配意することが

    できる。このため、従来から実施されている配分ルールは、ブックビルディング方

    式の下では適用しなくても良いのではないかと考えられる。                    

                                                                              

      ○  価格決定の公正性・透明性の観点から、価格決定の過程を有価証券届出書に

        おいて開示させるとともに、公開後の流通市場の状況を取引所や日本証券業協

        会が公表する。これにより、その良否を投資家や発行体が容易に判断できるよ

        うにする。                                                            

                                                                              

      ○  配分の公平性の観点から、引受証券会社の販売方針を有価証券届出書におい

        て開示させるとともに、販売先リスト等の証拠書類の保存を十分な期間義務付

        ける。これにより、行政及び自主規制機関による事後的チェックを可能とする。  

                                                                              

      以上の諸点にかんがみ、公開価格の決定方法として新たにブックビルディング方

    式の導入を図ることが適当である。これにより、証券市場の一層の効率化・活性化

    が図られるものと期待される。                                              

                                                                              

      なお、ブックビルディング方式を導入した場合においても、現行方式と併存させ、

    いずれの方式を採るかについては、発行体と引受証券会社がそれぞれのニーズに応

    じて判断できるようにすることが望ましい。その結果、関係者の選択の自由が認め

    られることを通じて競争が促進され、この面からも証券市場の効率化に資すること

    が期待される。                                                            

                                                                              

 (2)  上場手続の簡素化                                                        

                                                                              

      株式等の発行市場の効率化・活性化を図る観点から、有価証券の上場手続の簡素

    化を図る必要があり、その一環として大蔵大臣による上場承認手続の見直しも検討

    する必要がある。                                                          

                                                                              

      現在、取引所は、有価証券、有価証券指数又はオプションを上場しようとすると

    きは、証券取引法上、大蔵大臣の承認を受けなければならないとされている。しか

    しながら、このような大蔵大臣による承認手続は、取引所による審査に加えて行わ

    れているため上場手続の効率化を図る上で問題となりかねない。また、このような

    制度が存在すること自体、行政の予防的な関与に対して過度に依存する傾向をもた

    らし、投資家の自己責任原則を醸成していく上で障害となる惧れもある。更に、株

    式の店頭登録が大蔵大臣への事後届出制とされていることとのバランス上も問題が

    あるとの指摘もなされている。                                              

                                                                              

      したがって、取引所において有価証券の上場規程があらかじめ明確に定められて

    いる場合には、大蔵大臣に対する事後届出制として、個別の審査については取引所

    にゆだねることが適当である。                                              

                                                                              

      一方、有価証券指数やオプションの上場に当たっては、これらは取引所自らが組

    成するものであり、また、あらかじめ一定の上場規程を定めることが困難であると

    考えられる。したがって、これらについては、取引所における市場管理が適切に行

    われるよう、引き続き大蔵大臣によるチェックを上場承認という形で行う必要があ

    るのではないかと考えられる。なお、その際は上場承認基準の明確化を図るととも

    に、上場承認手続の迅速化にも配意すべきである。                            

                                                                              

      その他、有価証券の上場に当たっての上場申請書類については、その徴求基準の

    明確化・簡素化が図られているところであるが、今後とも発行会社の負担軽減に配

    慮し、取引所において様々な努力が続けられるべきである。                    

                                                                              

9.検査・監視・処分及び紛争処理体制の充実


 (1)  基本的な考え方                                                        

                                                                            

      これからの証券市場において、行政は、一般的な事前予防的な規制から事後監視

    的な規制への一層の転換を図り、証券会社をはじめとする市場参加者に自由な活動

    を保証することが必要である。事後監視的な行政への転換により、証券会社の業務

    内容や取引形態は格段に多様化すると予想される。このような証券市場における自

    由度の高まりは、サービスの多様化をもたらす一方で、証券会社等による新たな利

    益相反的行為や法令違反行為等を増加させる可能性がある。したがって、自由化さ

    れた証券市場において公正な競争を確保するため、今まで以上に明確かつ合理的な

    市場ルールを整備し、ルール違反に対する処分・罰則の適用を厳格に行うことが必

    要である。                                                                

                                                                            

 (2)  行為規制の整備と罰則の強化                                            

                                                                            

      証券取引法は、不当な勧誘や損失補填等の禁止等の証券会社の禁止行為を定める

    とともに、不正取引、相場操縦、インサイダー取引等の証券市場における禁止行為

    を定めている。証券市場の自由化に応じた公正な競争の確保という観点から、これ

    らの行為規制の要件及び罰則等について、所要の見直しが必要である。          

                                                                              

      具体的には、証券会社の業務範囲の拡大、インターネットをはじめとする電子取

    引の利用の拡大、あるいは有価証券関連店頭デリバティブ取引の発展等に見られる

    取引形態の多様化等に対応して、利益相反行為の防止、相場操縦禁止やインサイダ

    ー取引規制等について、関連規定を整備・強化していく必要がある。            

                                                                              

      また、証券取引法の行為規制違反に対する罰則について、国内他法規とのバラン

    スや米国等先進諸国の状況を踏まえ、投資家に信頼される市場を整備する観点から、

    より充実する必要がある。特に、罰則が軽過ぎるとの指摘が多いインサイダー取引

    規制について、罰則の強化を図ることが必要である。なお、行為規制の見直しに際

    しては、徒に市場を萎縮させることのないように配慮することが必要である。    

                                                                            

 (3)  検査・監視・処分体制の整備・充実                                      

                                                                            

      証券市場に対する事後的な監視を強化するためには、行為規制を整備するだけで

    は不十分である。証券市場の自由度の高い米国では、証券会社のルール違反に対し

    て厳しい罰則を設けているほか、充実した検査摘発体制により市場に対する監視を

    行っている。我が国でも、平成4年に証券不祥事を踏まえ、監督当局から独立した

    合議制機関として証券取引等監視委員会が設置された。発足後5年近くが経過する

    中、市場監視に関する手法、ノウハウ、情報等が蓄積されてきており、これまでに

    蓄積された手法等が更に有効に活用されることが期待される。                  

                                                                              

      今後、自由化の進展の中で、証券会社の業務の多角化、有価証券関連店頭デリバ

    ティブ取引に関する制度整備、未上場・未登録株の取扱いの解禁等によって、証券

    市場における取引形態は多様化する。また、取引所外取引の出現や証券取引におけ

    る電子媒体の利用の活発化も予想される。このような多様な取引形態の広まりに対

    応して、市場の公正性を確保するための監視機能の果たすべき役割はますます大き

    くなる。                                                                  

                                                                              

      このような市場監視機能の強化の要請にこたえるために、検査・監視当局の人員

    増強、ノウハウの蓄積等、その体制の整備を図ることが必要である。体制の整備は

    量的な側面だけでなく質的側面においても求められる。これまでにない新しい取引

    分野における市場監視のためには、証券市場の自由化に適応した検査・監視手法を

    確立していくことが求められる。また、証券会社の取り扱う商品の多様化・高度化

    に対応して、検査、監視手法の高度化が求められるとともに、リスク管理体制のチ

    ェックを含む財務検査の重要性も高まるものと考えられる。                    

                                                                              

      また、日本証券業協会及び証券取引所の自主規制機関としての協会員等に対する

    監視機能は、平成4年に自主規制機関の機能強化の一環としてその充実が図られた。

    米国や英国では自主規制機関の監視が公正な競争の維持・促進に大きな役割を果た

    しており、我が国においても、自主規制機関の監視機能の一層の充実が望まれると

    ころである。                                                              

                                                                            

      なお、当局と自主規制機関は、それぞれの目的に応じた検査、監視等を行うこと

    となるが、対象となる者に過大な事務負担を強いることのないよう検査内容の調整

    等について配慮することが必要である。                                      

                                                                            

 (4)  紛争処理制度の充実                                                    

                                                                            

      証券市場の自由化が進むと、証券会社の対顧客営業の考え方も変わらなければな

    らない。特に、勧誘に当たって、適合性原則に十分配意するとともに、取引内容の

    説明等を徹底させることがますます重要になる。しかしながら、顧客と証券会社間

    の民事的な紛争が増加する可能性も否定できない。米国や英国においては、顧客と

    証券会社との間の紛争を早期に処理するために、自主規制機関による仲裁制度が幅

    広く利用されており、民事的な紛争の処理に大きな役割を果たしている。        

                                                                              

      我が国では、現在、証券会社と顧客との紛争処理について、証券取引法上、行政

    による仲介及び日本証券業協会の苦情処理の規定が置かれている。これに加え、日

    本証券業協会は、定款であっせん・調停制度を定めている。今後は、米国や英国の

    例を参考に、証券取引に関連する紛争処理の制度について、自主規制機関のあっせ

    ん等を法制化し、当事者間の和解のための処理スキームをより一層充実させていく

    ことが必要である。更に、紛争処理制度の確立の観点から制度を一本化し、実績を

    上げることが求められるため、自主規制機関の紛争処理制度の充実に併せて行政に

    よる仲介を廃止することが適当である。その際、紛争処理制度の損失補填との関係

    に留意し、自主規制機関によるあっせん等の結果については、損失補填には該当し

    ないものとし、事故確認を不要とするための規定整備が必要である。            

                                                                              

10.投資家啓蒙活動の充実


 (1)  今後、投資家保護のあり方は、リスクから投資家を遠ざけるのではなく、リスク

    を周知することに力点が置かれるべきである。そのためには、個人投資家が自らリ

    スクを理解する能力が重要であり、投資家の証券投資に関する知識等の充実に向け

    た投資家啓蒙活動がより大きな意味を持ってくる。                            

                                                                              

 (2)  こうした観点からは、自己の金融資産については自己の判断に基づいて運用する、

    との意識を若年層のうちから培っていくことが重要である。しかしながら、我が国

    においては、こうした投資家教育、更には広い意味での消費者教育により大きな努

    力を注ぐ余地がある。                                                      

                                                                              

      米国においては、初等教育段階から、資本市場の役割、政治・経済情勢と株価の

    関係、証券投資のリスク等について学習させているなど、証券教育が充実している、

    といわれている。我が国においても例えば、経済に関する教科書の記述において、

    企業の資金調達の場としての市場の役割に加え、個人の資産運用の場としての観点

    も触れることなどを通じ、若年層に対する証券教育を拡充していくことが有益では

    ないか、との指摘がある。                                                  

                                                                              

 (3)  証券界においては、PR資料の作成・配付をはじめとする投資家向け啓蒙活動及

    び副教材の作成・配付や教師向けセミナーの開催をはじめとする証券教育の推進の

    努力が払われている。こうした地道な取組みを今後とも引き続き行っていくことは

    重要であるが、これに加え教育関係者の理解も得て、証券教育を含む広範な投資家

    ・消費者教育の充実が図られていくことを期待したい。                        

                                                                              

 (4)  また、少人数が集まり、株式等に関する知識を学習し、その結果の実践として投

    資を行うことを目的とする投資クラブについては、小口資金での分散投資が容易と

    なることに加え、自己の判断に基づく投資を理解することに資するものであると考

    えられる。こうした投資クラブについては、我が国においてはまだ初期的な段階で

    あるが、今後ともその一層の定着に向けて、様々な取組みが行われることが望まし

    い。                                                                      

11.債券流通市場の改善(公社債利子課税のあり方)


 (1)  現行税制上、公社債の利子については、金融機関、証券会社、公共法人などの主

    体については源泉徴収が免除されているのに対して、個人、事業法人、非居住者な

    どの主体は源泉徴収を受けている。                                          

      このため、公社債流通市場においては、利子の源泉徴収を受ける公社債(課税玉

    と呼ばれている)と、源泉徴収を受けない公社債(非課税玉と呼ばれている)が併

    存し、いわゆる課税玉については、源泉徴収を受けない主体から忌避され、流通性

    が劣るものとなっている。すなわち、                                        

    ○  同一銘柄の公社債でありながら、課税玉と非課税玉とに市場が分断されている、  

    ○  源泉徴収を受ける主体が公社債流通市場に参加しにくい状態となっている、  

    といった問題が生じている。                                                

                                                                              

 (2)  また、諸外国では、公社債利子については、海外からの資金流入を促す等の観点

    から、非居住者に対して原則は課税であっても、一定の条件の下で源泉徴収が免除

    されている国が多い。これに対して、我が国においては、一部の例外(民間国外債

    を除き非居住者に対しても源泉徴収による課税が行われている。これが、我が国公

    社債が海外の投資家に保有されにくくなっている要因の一つとなっている。      

                                                                              

 (3)  事業法人や非居住者など公社債流通市場の参加者層を広げ、公社債の流通を一層

    円滑化させ、ひいては公社債の発行コストの軽減を図るためには、税制がマーケッ

    トに対してできる限り中立であることが望ましい。こうした市場の活性化、効率化

    の観点からは、公社債利子課税のあり方を見直すべきであると考える。          

                                                                              

 (4)  公社債利子に対する源泉徴収制度は、適正、公平な課税を確保する観点から設け

    られている制度である。公社債利子課税のあり方を見直す場合、公社債利子の課税

    漏れが生じるといった事態は避ける必要がある。そのための見直しの方策について

    は、                                                                      

    ○  公社債流通の円滑化の観点からは、利子に係る源泉徴収を廃止することが望ま

      しいが、公社債利子に対する適正、公平な課税も重要な課題であり、米国のよう

      な納税者番号制度に基づく総合課税化を図るべきであるとの意見が出された。  

    ○  他方、適正な課税の観点から個人に対する利子の源泉徴収制度の役割は大きく、

      源泉徴収制度自体は維持する必要がある。その上で、事業法人、非居住者の公社

      債流通市場への参加を円滑化する観点から、これらの主体に対する利子課税のあ

      り方について検討を行うべきであるとの意見があった。                      

                                                                              

 (5)  非居住者に対する源泉徴収については、それを免除すれば、公社債利子に係る居

    住者と非居住者の課税のバランス、公社債利子とその他の所得に対する課税のバラ

    ンスを失し、課税の公平、中立の観点から問題があるとの指摘がある。他方、公社

    債市場は内外の投資家、企業等にとって重要な資産運用・資金調達の場であり、そ

    の流通を円滑化し市場を活性化することは、グローバルな市場間競争への対応とい

    う観点からも、また経済全体に大きなメリットを与えるという観点からも重要な課

    題である。それゆえ、両者の関係をどのように考えるかが重要な論点となるが、公

    社債市場の活性化の観点からは、非居住者に対する課税のあり方について検討が行

    われることが望ましいと考える。                                            

                                                                              

 (6)  公社債市場の更なる整備については、現在、流通市場の重要なインフラである社

    債の受渡し・決済制度の改善について精力的な取組みが行われている。こうした取

    組みとあわせ、公社債利子課税のあり方についても、適正、公平、中立な課税の観

    点をも踏まえつつ、公社債流通の円滑化のための適切な方策について行政において

    検討が行われることを要請する。                                            

                                                                              

12.電子化への対応


 (1)  基本的な考え方                                                        

                                                                            

      情報のやりとりが中心である証券取引は、電子化に馴染みやすい分野である。近

    年、コンピュータ・ネットワークを活用して証券取引のプロセスを電子化する動き

    が世界的に進行しており、伝統的な証券取引の姿を大きく変貌させつつある。    

                                                                            

      証券取引の電子化は、省力化による取引コストの低下、物理的・地理的制約の縮

    小による利便性の向上など、市場参加者に様々な利益をもたらすものであり、電子

    化が遅れることは、我が国証券市場の相対的魅力が低下することを意味する。また、

    グローバルに広がりつつある証券取引のネットワークから取り残されかねない。し

    たがって、国際的な市場間競争の中で我が国証券市場が競争力を維持していくため

    には、積極的に電子化を進める必要がある。                                  

                                                                            

      この場合、情報伝達の確実性の確保、コンピュータへの不正侵入の防止等により、

    電子化がもたらすリスクに適切に対応する必要がある。                        

                                                                              

 (2)  今後の対応                                                            

                                                                            

    ○  取引ルールの確立                                                    

        近年、我が国においても、ベンチャー企業等による株式の募集を含め証券取引

      にインターネットを利用する動きがみられる。取引手段がどのようなものであれ、

      証券取引であることに変わりはない以上、このような取引についても、証券取引

      法に基づく各種の取引ルールを適用し、投資家保護を図る必要がある。しかし、

      インターネットは、低廉なコストで簡易に多数の者へ情報伝達ができ、かつ、こ

      れが双方向で行いうる等、従来のメディアにない様々な特性を有している。イン

      ターネットを利用した証券取引については、国際的に確立した取引ルールが存在

      せず、また、将来の発展を阻害しないような留意が必要であるが、その特殊性を

      踏まえ、各種の取引ルールの適用について明確化を図るべきである。          

                                                                            

    ○  クロスボーダー取引への対応                                          

        インターネット上の情報は、世界中どこからでもアクセス可能であるため、免

      許を受けない外国証券業者が国内の個人投資家に対し勧誘を行い、注文を受け入

      れることを禁じた外国証券業者に関する法律との関係が問題となる。また、我が

      国の証券会社がインターネット上で投資情報を提供した場合に、この行為が外国

      の規制に抵触しないかという問題もある。こうした問題に対応していくためには、

      国内ルールの明確化に加えて、インターネットを利用したクロスボーダーの証券

      取引(国境を越えた取引)についての国際的な指針作りが重要であり、我が国当

      局としても、このための作業に積極的に貢献していく必要がある。            

                                                                            

    ○  ディスクロージャー等の電子化への対応                                

        現在、我が国においては、有価証券報告書等の開示書類は全て紙形態で提出さ

      れている。一方、米国においては、開示書類の提出から縦覧までを電子的に行う

      EDGARシステムが1984年から段階的に導入され、昨年5月には、SEC(米

      国証券取引委員会)に登録されている全ての内国会社について、電子媒体(オン

      ライン、フロッピー等)による提出が義務付けられたところである。          

                                                                            

        投資家による企業情報へのアクセスを容易かつ迅速なものとし、発行会社によ

      る書類提出のための事務負担の軽減を図る観点から、証券市場のインフラ整備と

      して、行政において、開示書類の提出から縦覧までを電子的に行うシステムの早

      期導入が図られるべきである。また、有価証券報告書等の他、目論見書や取引報

      告書等についてもペーパーレス化を推進する必要があり、行政においてはこれら

      の情報が電子媒体により提供される場合の要件や留意点を明確化していく必要が

      ある。                                                                  

                                                                              

      なお、証券取引の電子化については、財資本市場研究会が設置した「証券取引の

    電子化に関する研究会(座長:神田秀樹教授)」において検討が進められ、平成9

    年4月10日にこれまでの検討成果を中間報告としてとりまとめたところである。今

    後、これを踏まえた一層の検討が必要となろう。                              

                                                                            


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