【集中連載】
 
ペイオフ解禁拡大(第3回:決済用預金の3要件)

 今回は、決済用預金の三要件(利息が付かないこと(無利息)、いつでも払い戻し請求できるもの(要求払い)、振込みなどの決済サービスに使うことができる)について徹底解剖します。


.利息が付かないこと(無利息)とは?
 決済用預金は無利息でなければなりません。これは、この制度が検討された金融審議会において、全額保護され、かつ、決済サービスを受けることができるものは、利息を付さないことにより預金者が実質的なコストを負担すべきであると議論(注1)されたことによるものです。
 

(注

1)この他、「決済用預金は要求払いとして流動性が極めて高いことから、これに見合う資金運用手段が限られ、金融機関にとっての収益性も極めて低いものとなるので、これに付される金利は相当程度低いことが合理的である。」や、「預金者は決済サービスを享受する対価を支払うべきである。」という意見がありました。

では、ここで問題です。
 「決済用預金の要件を満たす無利息の普通預金に入金したが、有利息の普通預金に預けていたときの利息に相当する額を別の名目で銀行からもらう契約をした場合、決済用預金として全額保護されるでしょうか?」

 答えは、「全額保護の対象ではなく、名寄せ後1000万円までの元本とその利息が保護される。」です。利息というのは、預金の預入れ期間と預入れ金額、その利率に応じて計算されるものです。ですから、その名称にかかわらず預金に対してこうした金品が提供されるものは「利息」に該当し、決済用預金の無利息という要件に該当しないということになります。
 なお、決済等のサービスの利用回数に応じたポイント等が付与され、その合計ポイントによりサービス利用手数料の割引や貸出金利の優遇などが行われる場合がありますが、あくまでもサービスの利用手数料の割引や貸出金利の優遇という性格のものであれば利息とは解されません。

 この他、皆さんから頂く質問で代表的なものをQ&A方式で説明します。
 

【Q

1】その預金が無利息であることは、どのように確認すればよいですか?
(A 1)各金融機関が預金規定などに表示(注2)するなどしていますので、取引のある金融機関で確認してください。
 

(注

2)銀行法その他の法令により、預金又は定期積金等が預金保険法上どのような取り扱いを受けるのか、預金者等に情報提供する義務があります。

【Q

2】有利子普通預金から無利子普通預金へ変更したあと、有利子時代の利息が、無利子普通預金に振り込まれました。これでは無利子普通預金にならないのではないでしょうか?
(A 2)大丈夫です。これは、通帳等への記入が遅れただけという扱いなるので、無利子普通預金であることに変りはありません。

【Q

3】金融機関が破綻したときに、預金利率がゼロでありさえすれば、それまで利息が付いていてもよいのですか?
(A 3)いいえ、利息を付すことが可能な預金は決済用預金に該当しません。


.いつでも払い戻し請求できるもの(要求払い)とは?
 決済用預金はその名のとおり決済に利用されるものですから、定期性預金(注3)などのように払戻しできない期間があってはいけません。
 

(注

3)当座預金や普通預金は、金融機関の窓口やATMコーナーでいつでも自由に引き出すことができますよね。これを「要求払い」といって、定期預金など満期日や契約などで決められた日まで引き出すことができない「定期性」の預金と区別しています。

 預金保険法では「要求払い」を、「その預金者がその払戻しをいつでも請求することができるものであること」と規定しています。
 こうした要求払いの預金であっても、小切手や手形が換金される前や,裁判所などに差し押さえられて払い戻しされない場合があります。この間に、その金融機関が破綻したらどうなるのでしょう。「要求払い」の要件は満たしているのでしょうか?
 答えは「要求払いの要件を満たしている。」です。こうした事情はあくまでも金融機関側の事務手続などの都合であって、要求払いという商品性自体を否定するものではありません。また、払戻しがされるかどうかは別として、預金者はいつでも払戻しを請求できますよね。こうしたものは「要求払い」の要件を常に満たしているものとして扱われます。
 一方、競馬が好きな人はよくご存知だと思いますが、「電話等で馬券が購入でき、競走日前後の一定期間は払戻し請求や預入れができない預金(金融機関によって預金の名称が異なります。)を利用して、購入代金を引落したり配当金が振り込まれる」というシステムがありますよね。ここで利用される預金は、預金規定等により預金者が「いつでも」その払戻しを請求することができない預金なので、「要求払い」という預金に該当しません。こうした預金は、その金融機関が破綻した場合、名寄せ後1千万円までの元本とその利息が保護されることになります。
 では、また問題です。「預託金」という制度が利用される契約がありますよね。預託金とは、他人に一定期間預ける金銭ということになりますが、これを決済用預金に預け入れた場合、要求払いという性格が失われるのでしょうか?
 答えは「いいえ」です。決済用預金の要件はまず、商品性として定められており、その利用方法は各預金者にまかされています。このため、決済用預金に預けられた預託金は、その預金者が自らの意思で払い戻し請求しないだけという扱いになり、全額保護の対象となります。
 さらに一問。「決済用預金は要求払いだから、夜間や休日・祝日などでもいつでも支払いに応じなければならないのでしょうか?」
 もう答えはお分かりですよね。答えは「いいえ」です。「要求払い」とは「その預金者がその払戻しをいつでも請求することができるものであること。」なので、「いつでも払戻しに応じる必要はない。」のです。


.決済サービスに利用できること
 決済用預金の3番目の要件である「決済サービスに利用できること」は、決済用預金そのものということなので特別な説明は必要ないですよね。
 注意してほしいのは、決済用預金の預金者が実際に口座振込や送金を利用してるかどうかではなく、その商品性として口座振込や送金など通常利用されるサービスを行うことが可能であれば、この要件を満たすということです。
 ただし、通常利用されると考えられる決済サービスが制限された預金(口座引落しはできるが、口座振込みはできない預金など。)は、その預金者と正式な預金契約を結ぶ必要があります。


.その他
 決済用預金の三要件それぞれについての解説は以上ですが、その他にも皆さんからよく頂く質問を紹介します。
 

【Q

4】決済用預金は、マンション管理組合などの権利能力なき社団や任意団体、地方公共団体も口座を開設することができますか。
(A 4)はい。可能です。普通預金や定期預金などと同様の事務手続となります。

【Q

5】決済用預金を利用しているのですが、残高が1千万円を超えることがないので、口座番号を変えずに利息の付く普通預金に戻すことはできますか。
(A 5)預金保険法で特に制限はありませんが、預金者から利息の付く普通預金に戻したいという意思表示を明確に行う必要があります。自動的に有利子から無利子、無利子から有利子へ変るような預金は、利息を付すことが可能な預金に該当するので注意が必要です。
 また、こうした場合の事務手続は金融機関によって取扱いは異なりますので、直接、金融機関にお問い合わせください。

 皆さん、これで決済用預金の三要件についてご理解いただけましたか?
 様々な預金商品が金融機関から提供されていますから、実際に取引をしてみないとよくわからないものもあるかもしれませんね。そんなときは、迷わずにその商品を提供している金融機関に「預金保険制度上、どのような保護を受ける商品なのか。」と確認してください。

 来月号では、仕掛り中の決済(決済債務)の保護について説明します。


 ペイオフ解禁拡大については、金融庁ホームページの「預金保険制度(ペイオフ本格実施)」にもアクセスしてみてください(リニューアルしました)。

【集中連載】
 
金融改革プログラム −金融サービス立国への挑戦−(第1回:「金融改革プログラム」の目指すもの)

 今月号から4回連載で、金融庁が昨年の12月24日に公表した新しい金融行政の構想、「金融改革プログラム−金融サービス立国への挑戦−」のポイントについて、キーワードを交えながらQ&A形式で紹介していきます。
 
Q.どうして「金融改革プログラム」を作ったのですか?

◆ ポイント ◆
 金融システムを巡る局面の転換
 不良債権問題への緊急対応(「金融システムの安定」を重視)
   ↓
 将来の望ましい金融システムを目指す未来志向
             (「金融システムの活力」を重視)
 金融を巡る外部環境の変化
 ・・・ IT化・高齢化・グローバル化の更なる進展


.金融行政はこれまで、平成14年10月に策定した「金融再生プログラム」などに基づいて、不良債権問題への緊急対応に取り組んできました。皆さんが新聞やテレビで目にする金融に関するニュースもこうした話題が多かったのではないでしょうか。しかし、今日、金融を巡る状況はずいぶんと変化してきています。不良債権問題は正常化に向けて着実に進展し(図表1参照)、各金融機関も前向きな取組みに力を入れ始めています。
 つまり、わが国金融システムを巡る局面が、不良債権問題への緊急対応から望ましい金融システムを目指す未来志向へ、即ち「安定」から「活力」へと転換しつつあるのです。
  <図表1:不良債権比率の推移(主要行)>
   
図表1:不良債権比率の推移(主要行)
   
  ※ 計数は金融再生法開示債権ベース

 また、経済社会全体の情勢も、少子高齢化、グローバル化が更に進展するとともに、インターネット取引の比重が高まる等大きく変化しています。また、こうした環境変化の中で、多様化する利用者のニーズに応じた金融商品・サービスが開発され提供されることが望まれています。
 以上を踏まえ、金融システム及び金融行政を、こうした局面の転換や環境変化に的確に対応でき、わが国経済の持続的成長に資するものとするために、平成17・18年度の2年間の金融行政の指針として、「金融改革プログラム −金融サービス立国への挑戦−」を策定しました。
 
Q.「金融改革プログラム」の目標は何ですか。

 金融商品・サービスの利用者がいつでも、どこでも、誰でも、適正な価格で、良質で多様な商品にアクセスできる金融システムを「官」の主導ではなく「民」の活力で実現
 ⇒ 「金融サービス立国」への挑戦


.「金融改革プログラム」の目標は、金融商品・サービスの利用者がいつでも、どこでも、誰でも、適正な価格で、良質で多様な金融商品・サービスの選択肢にアクセスできるような、利用者の満足度が高い金融システム、即ち「金融サービス立国」を、「官」の主導ではなく「民」の活力で実現することです。

 こうした「金融サービス立国」への挑戦を通じて、わが国の金融市場が国際的に見て魅力の高いものとなり、間接金融に偏っていたわが国金融の流れ(図表2参照)(マネーフロー)が、直接金融や市場型間接金融を活用した国民に多様で良質な金融商品・サービスの選択肢を提供できるものに変化していけば、
 
 (1)  資産運用手段が多様化・効率化し、「貯蓄から投資へ」の流れが加速される
 (2)  銀行にリスクが過度に集中する構造が是正される
 (3)  リスクに柔軟に対応できる経済構造の構築にもつながる
といったかたちで、わが国経済の持続的成長に資するものと考えられます。
 
 
図表2:家計等の金融資産
16年9月
家計等の金融資産
   
注)1 .日本の「家計」の金融資産には、米国との比較のため、「対家計民間非営利団体」の金融資産を含めている。
.日本の個人企業は家計に含まれ、非金融法人企業には含まれない。
.株式には価格変動分を含む。

 こうした認識の下、「金融改革プログラム」では、以下の5つの視点に立って、今後進めるべき改革の内容を整理しました。
 
(1)  民間活力を引き出し、利用者利便を向上させるための制度設計と利用者保護ルールの整備・徹底(利用者ニーズの重視と利用者保護ルールの徹底)
(2)  ITの戦略的活用等による金融機関の競争力の強化及び金融市場インフラの整備
(3)  国際的に開かれた金融システムの構築と金融行政の国際化
(4)  地域経済への貢献
(5)  信頼される金融行政の確立


 今後、本プログラムに盛り込まれた諸施策の実施を通じて、金融商品・サービスの利用者の満足度が高く、国際的にも高い評価が得られ、地域経済にも貢献できるような金融システムを「官」の主導ではなく、「民」の力で実現することを目指していきます。


 金融改革プログラムについては、金融庁ホームページの「報道発表など」から「「金融改革プログラム −金融サービス立国への挑戦−」の公表について」(平成16年12月24日)にもアクセスしてみてください。

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