「金融機関のIT活用状況実態把握アンケート」取りまとめ結果について

はじめに

 金融庁では、7月8日から8月1日までの約1ヶ月間、各金融機関並びに業界団体の皆様のご協力の下、わが国で業務を行う全ての預金取扱金融機関・証券会社・保険会社を対象に「IT活用状況実態把握アンケート調査」を実施し、その取りまとめ結果を去る9月30日に公表しました。まず、本アンケート実施にご協力頂いた関係者の皆様に対し、この場をお借りしてお礼を申し上げます。
 本コーナーでは、本アンケート調査実施の目的を示すとともに、約8割(839社)から頂いた回答の取りまとめ結果の概要を紹介しながら、わが国の金融機関におけるIT活用状況の実態をお伝えしていきます。

1.IT活用状況実態把握アンケート調査の目的

 金融庁が昨年末策定・公表した「金融改革プログラム−金融サービス立国への挑戦−」には、ITの戦略的活用等による金融機関の競争力の強化に向けた、「金融機関のIT投資プロセスの透明性確保、コストパフォーマンス及びリスクマネジメント能力の向上を促す方策の検討」が盛り込まれています。これを受け、本年3月に公表した「工程表」では、第一段階の取組みとして「金融機関におけるITの活用状況について実情を把握すべくアンケート調査等を実施し、アンケート結果を取りまとめ、公表」する旨が盛り込まれました。
 本アンケートは、こうした「金融改革プログラム」及び「工程表」の内容を踏まえ、各金融機関に対し、今後のIT投資判断やビジネスモデルを構築する際の参考情報を提供するとともに、工程表で記した「IT投資の効率化とITの戦略的活用策についての実務家・有識者との意見交換」等での議論の材料とすることを目的として実施したものです。
 もとより、金融機関がITを如何に活用し、これに如何に投資していくかは、各金融機関の経営判断により決定されるものです。しかしながら、金融分野におけるIT活用の実情を示す統計的情報が必ずしも十分でない現状において、こうした情報を行政が収集し取りまとめた上で公表することは、金融機関が自社のIT投資の効率性やビジネス戦略上の位置付けの評価を行う上で参考となるものと考えられます。また、こうした全体像を示す情報を取りまとめることで、金融分野におけるIT投資の実態について諸外国との比較検討等も可能となります。
 本アンケート調査は、こうした状況の下、個社ないし業界団体では収集困難な情報を取りまとめて公表し、各金融機関の今後のIT投資判断等の参考として頂ければ幸いとの考えの下、実施したものです。

2.アンケート調査結果の概要

 本アンケートは、わが国金融機関のIT活用状況の実態を、
 (1)  IT支出状況についての基礎的な計数、
 (2)  費用対効果の観点からのIT活用状況や問題点及び今後の取組み、
 (3)  戦略的活用の観点からのIT活用状況や問題点及び今後の取組み、
 (4)  金融取引に関する共通のインフラについての現状や問題点
の4つの切り口から調査しており、以下では、これらの切り口に即して調査結果の概要をご紹介していきます。

図1 IT関連支出全体の動向


(1)

 各金融機関のIT支出の全体像
 図1は、アンケート調査の結果明らかになった平成16年度末時点のわが国金融機関のIT関連支出の全体像です。
 これを見ると、わが国の金融機関のIT関連支出の合計額は平成16年度末時点で約1兆8,000億円となっており、業態別には主要行3割強、地域銀行2割強、大手証券、生・損保、協同組織金融機関が各々1割前後といった状況が見て取れます。
 次にIT関連支出全体を独自システム・共同利用システム・外部委託システムの3つに分けて示したグラフが図2です。これを見ると、独自システム向け支出が全体の約75%を占め、最大の支出項目となっています。また、全体に占める金額は少ないものの、共同利用システムについては、概ね地域銀行・協同組織金融機関により支出されていることが分かります。
 

(注

)独自システムとは、各金融機関が単独で開発、購入ないしリースしているシステムを、共同利用システムとは、複数の金融機関が業務系システムを共同開発・共同管理している場合等を、外部委託システムとは、各金融機関が外部ベンダー等にアウトソースする形で活用しているシステム(外部ベンダー等が開発したシステムであって、保守・運用も当該ベンダーが手がけているケースを含む)を指す。
 

図2 システム別動向(平成16年度業態別動向)

(クリックで拡大図)


図3 支出内容別動向 (平成16年度合計値) 更に、IT関連支出全体をソフトウェア開発費、ソフトウェアリース料、ハードウェア、ネットワーク、保守・運用の5つの支出別に動向を示したものが図3です。これを見ると、保守・運用関連の経費が最大の支出項目となっていることが分かります。
 なお、業態別に見ると、主要行・大手証券・生保・損保はソフトウェア開発支出が多いのに対し、地域銀行・協同組織金融機関はハードウェア・ネットワーク関連支出が多いとの結果が得られました。

(2)

 費用対効果の観点からのIT活用状況や問題点及び今後の取組み
 次に、各金融機関が費用対効果の観点からITをどのように活用しているかについて、「企画・立案」「調達」「開発」「保守・運用」「事後評価」等のフェーズ毎に、現状・問題点・今後の取組み方針を調査した結果の概要を紹介していきます。
 図4は、金融機関のIT投資戦略及びIT投資に係る効果目標設定の有無についての調査結果です。これを見ると、7割以上の金融機関がIT投資戦略を策定しているものの、効果目標の設定については5割程度に止まっていることが分かります。また、「企画・立案に当たって直面する問題点」に関しては、「投資効果に対する妥当性の判断が困難(自社の投資判断を検証する外部の客観的な基準がない)」等の回答が多く寄せられたところです。一方、既に効果目標を設定している金融機関からは、「ROI・ROA・ROE・内部収益率・損益分岐点・正味現在価値等の指標を定量目標として活用」、「投資案件を4つのカテゴリー(現状維持・質の向上・コスト削減・収益向上)に分類し、カテゴリー別に期待される効果(財務的効果・非財務的効果・機会損失防止効果)を設定」等のコメントが寄せられました。
 

図4  金融機関のIT投資戦略及び効果目標設定の状況

 
 「調達」段階では、「調達に当たっての重視事項(複数回答可)」に関して、業態・規模を問わずほぼ全ての金融機関が「コスト」を重視していると回答しています。また、「調達に当たってのコスト低減についての取組み(複数回答可)」については、「競争入札の積極的活用」(52%)、「他社が多く導入しているシステムの導入」(39%)、「同業他社へのヒアリング」(38%)という回答状況となっています(括弧内は、当該項目に該当すると回答した金融機関の割合。以下同様)。「調達に当たっての具体的な問題点」に関しては、「システムがブラックボックス化しているため、開発工数・価格・内容等の妥当性が検証できない」との回答が多く見られました。
 「開発」段階では、「開発工程管理のための取組み」に関して、「役員会への定期報告」(61%)「プロジェクト管理規定の整備」(45%)、「プロジェクトマネージメントツールの導入」(20%)といった回答状況となっています。「開発に当たっての具体的な問題点」については、「これまで、全体最適の観点から開発を行うことなく、システム毎に別々の設計思想に基づいてシステム開発を実施してきたため、結果として、開発コスト及びメンテナンスコストの高止まり、変化に対する硬直性を招来」「専門知識をもつ人材及びプロジェクト管理できる人材の不足・高齢化」等の回答が寄せられました。一方、成功例としては、「システム専門部門だけでなく、ユーザー部門及び関係先もメンバーとした定例工程会議を開催することにより、プロジェクト管理に成功」「企画から設計、開発・テスト、検証までをルール化した「開発工程標準」を策定することで、工程管理の徹底に成功」といった回答が寄せられています。 IT関連支出の最も多くを占める「保守・運用」段階では、金融機関の「保守・運用経費低減に向けた取組み(複数回答可)」に関して、「SLA(Service Level Agreement)の導入」(41%)、「ライフサイクルコストに基づく調達」(28%)等の回答が寄せられました。なお、これらの項目は「今後取り組みたい項目」としても多く挙げられています。「保守・運用に当たっての問題点(複数回答可)」に関しては、「当初想定外の保守が必要になるケースが多い」(36%)、「保守運用経費が当初の想定を大きく上回る」(14%)の他、「サポート期間が短い」、「ベンダーによる価格設定が不透明」といった回答が寄せられています。
 最後に、「IT投資の事後評価」段階については図5に取組み状況を示しました。これを見ると、内部評価・監査を実施している金融機関は7割弱、外部監査を実施している先は5割弱、外部評価を実施している先は2割強、となっています。なお、外部監査については監査法人による会計監査の一環として実施しているとの回答が多くを占めています。
 
図5 金融機関のIT投資の事後評価の有無

(3)

 戦略的活用の観点からのIT活用状況や問題点及び今後の取組み
 戦略的活用の観点からのIT活用状況については、「販売チャネルの拡大」「店舗戦略」「顧客の利便性・安全性向上」「リスク管理」の項目毎に現状や問題点等を調査しました。
 この中で、各金融機関がIT投資で重視している目的を見ると、「顧客の利便性・安全性向上」に関しては、昨今の偽造カード問題への対応や個人情報保護法施行に伴い、総じて高い優先順位となっています。図6は、上記各項目を目的としたIT投資の有無をまとめたものです。
 各項目について、「戦略的活用を目的としたIT投資に取り組めない理由」としては、「費用、人材、知識不足」や「セキュリティー面からの不安」、「費用対効果分析が困難」といった回答が寄せられました。
 
図6 金融機関によるITの戦略的活用策

(4)

 金融取引に関する共通のインフラについての現状や問題点
 最後に、全銀ネット・日銀ネット・取引所システム等、金融取引に関する共通のITインフラについて寄せられた意見を紹介します。
 アンケート結果を見ると、金融機関の「コストパフォーマンスの観点からの現状への満足度」は「満足している」が30.5%、「満足していない」が21.6%、「どちらともいえない」が47.9%との結果となりました。「満足していない」理由としては、「回線利用料が高い、容量が少ない」との声が多く、今後の希望としては、「ネットワークの高速化・低価格化及びセキュリティーの確保」が多く挙げられています。
 一方、「戦略的活用の観点からの現状への満足度」については、「満足している」が26.1%、「満足していない」が23.1%、「どちらともいえない」が50.8%と、「コストパフォーマンスの観点からの現状への満足度」に対する回答とほぼ同様の傾向が見られました。「満足していない」理由としては、「異業種間の業務提携等のITインフラが不十分」、「取引に係る処理能力・スピードが顧客の求める水準に達していない」等との回答が見られ、今後の希望として、「拡張性・柔軟性・汎用性の高いインフラの整備」等の声が寄せられています。

4.おわりに

 以上、「金融機関によるIT活用状況実態把握アンケート」の取りまとめ結果の概要を簡単に紹介してきました。本アンケート調査により、金融機関のIT活用状況は「情報セキュリティーの確保」「業務の効率化」といった項目の優先度合いが、「店舗戦略」や「販売チャネルの拡大」等の収益拡大を目指した項目の優先度合いを総じて上回る現状にあること、IT投資に係る事前・事後の効果判定基準の策定、部分最適から全体最適へ向けた全社的なプロジェクト管理手法の確立等に関して多くの金融機関が今後の課題と指摘していること等が判明したところです。
 いずれにしても、「金融改革プログラム」において謳われている「利用者の満足度の高い望ましい金融システム」を目指す上で、IT果たす役割は大きいと考えられます。本アンケート調査結果が、こうした「望ましい金融システム」実現に向けて、各金融機関が、各々のビジネスモデルに沿ったITの戦略的活用策を検討・実行される際の参考となれば幸いです。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から、「金融機関のIT活用状況実態把握アンケート取りまとめ結果について(平成17年9月30日)」にアクセスしてください。

金融庁における業務・システム見直し方針について

 従来の行政事務のIT化は、既存の業務及び制度を前提としたものにとどまり、IT導入に当たって、業務の制度面・運用面からの見直し、さらに見直しに基づいた新たな業務の処理形態に対応したシステムの構築・運用に関する取組が不十分でした。また、情報システムの整備についても、各府省に共通する業務、類似の業務に関して各府省において制度との整合性は図りつつも、区々にシステムの整備・運用が行われているなど、IT導入による業務・システムの最適化が十分に図られているとは言い難い状況にあります。
 このような認識の下、政府は、2003年(平成15年)7月17日に策定され、2004年(平成16年)6月14日に改定された電子政府構築計画の中において、各府省に共通する業務・システム及び個別府省の業務・システムについて、業務や制度の見直し、システムの共通化・一元化、業務の外部委託などを内容とし、業務処理時間や経費の削減効果(試算)を数値で明示する最適化計画を2005年度末(平成17年度末)までに策定することとしています。
 また、各業務・システムの最適化計画の策定に向け、当該最適化の基本理念及び具体的な改革事項を内容とする業務・システムの見直し方針を遅くとも2005年(平成17年)6月までに策定し、政府全体における業務・システムの最適化の具体的な取組事項について、その全容を明らかにするとしています。
 これを受けて、金融庁においては、次に掲げる業務・システムについて、2005年(平成17年)6月29日に業務・システムの見直し方針を策定しました。
 
業務の名称 システムの名称
金融検査及び監督業務 金融検査監督データシステム
モニタリングシステム
証券取引等監視等に関する業務 証券総合システム
疑わしい取引の届出に関する業務 特定金融情報データベースシステム
有価証券報告書等に関する業務 EDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork)

 これらの特徴として、「金融検査業務及び監督業務」や「証券取引等監視等に関する業務」においては、関連部局間での適切な情報共有やシステム間の連携強化、「疑わしい取引の届出に関する業務」においては、事務作業の電子化と分析機能の強化、「有価証券報告書等に関する業務」においては、XBRL(eXtensible Business Reporting Language:財務情報を効率的に利用可能なコンピュータ言語)の導入による利用者の利便性向上、等を行うこととしています。
 また、各業務・システムの見直し方針において、情報セキュリティに関する社会的要請、技術的動向を踏まえつつ、セキュリティに関する運用・システムについて専門的見地から継続的に精査し、システム面・運用面から必要な措置を講じるとしています。

 今後は、業務・システムの見直し方針を具体化する業務・システム最適化計画を、2005年度末(平成17年度末)までのできる限り早期に策定します。


 詳しくは、金融庁ホームページの「金融庁について」から「行政情報化推進」(「行政情報化推進」の「金融庁における業務・システム見直し方針について(平成17年8月16日)」)にアクセスしてください。
 また、電子政府の推進についての政府全体の取組について、詳しくは「電子政府の総合窓口」の「電子政府について」にアクセスして下さい。

電子政府(e-Gov)利用促進への取組みについて

 電子政府の構築は、行政のあらゆる分野でコンピュータやネットワークなどの情報通信技術(IT)を活用することにより、手続きに係る利用者の負担の軽減や、行政の効率化の促進など、国民の利便性の向上と行政運営の効率化等を実現することを目的としています。
 これまで、国の行政機関が扱う申請・届出等手続のほとんどをオンライン利用可能とするなど基盤の整備に努めてまいりました。今後は、この整備された基盤を活用し、いかに「利用促進」を図っていくかが重要な課題となっています。
 電子政府の利用促進を図るためには、利用される方々の視点に立ったシステム整備、サービスの改善などとあわせて、各府省庁が緊密に連携協力していくことが不可欠です。政府全体の取組として、体験イベントや説明会の実施、ホームページや新聞・雑誌でのお知らせなど、より効果的な広報・普及活動を推進していくよう取組を進めてまいります(「電子政府・電子自治体」の体験イベント(総務省主催)につきましては電子政府の総合窓口(e-Gov)内にある「お知らせ」のコーナーをご覧下さい)。
 本年度は10月21日(金)から10月27日(木)を「電子政府利用促進週間」とし、その期間を中心に各府省庁で広報・普及に取組んでまいります。金融庁においても、この一環として、電子政府の広報・普及活動などを効果的に実施していく予定です。


 電子政府の総合窓口であるe-Govについて、詳しくは金融庁ホームページ内の「電子政府の総合窓口」  e-Gov 電子政府の総合窓口 をご覧ください。

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