アクセスFSA 第83号(2010年3月)

アクセスFSA 第83号(2010年3月)

写真1

東京証券取引所訪問
(1月16日)

写真2

年度末金融の円滑化に関する意見交換会
(3月2日)

目次


【トピックス】

金融・資本市場にかかる制度整備について

今次の世界的な金融危機を受け、店頭デリバティブ取引やヘッジファンドなどに関して海外・国内において様々な議論が行われています。こうした各般の議論や我が国の実態を踏まえ、我が国として対応すべき諸課題について、平成22年通常国会に向けた具体的検討を開始することとし、昨年11月13日、「金融・資本市場に係る制度整備について」において、(1)店頭デリバティブ取引に関する規制、(2)ヘッジ・ファンドに関する規制、(3)証券決済・清算態勢の強化、(4)証券会社の連結規制等、(5)投資家保護・取引の公正の確保の各項目について、市場関係者等から適宜調査等を行うこととしました。昨年12月17日には、市場関係者等からの実態調査も踏まえ、国際的な議論や我が国の金融システム・金融業の実情に照らし、的確な対応を行う等の視点に立って、「金融・資本市場に係る制度整備についての骨子(案)」を公表し、同骨子案について市場関係者等との意見交換を行う等、更に広く意見を募集しました。

本年1月21日に発表した「金融・資本市場に係る制度整備について」は、これらの意見を踏まえてとりまとめたものです。また、ファンド販売業者や信託会社等に対して行政処分が行われた場合等において、当局がファンド販売業者等の破産手続開始や新受託者の選任等を申し立てる権限が設けられていないことから、投資者の被害が拡大する等の事態が発生しています。従って、投資家保護・受益者保護の観点から、こうした事態に対応するための制度整備を併せて行うこととしています。

具体的には、以下の内容となっており、今後、これらについて、平成22年通常国会への法案提出を含め、制度整備に向けた取組みを行って参ります。

<金融・資本市場に係る制度整備の概要>

  • I.店頭デリバティブ取引の決済の安定性・透明性の向上

    • (1) 清算集中の対象及び清算機関制度

      • 取引量が多額な店頭デリバティブ取引(現状、金利スワップ取引のプレーン・バニラ型)について、国内清算機関、リンク方式、外国清算機関への清算集中義務を課すこととしています。

      • 我が国法制下での執行と密接に関連し、一定の取引規模がある店頭デリバティブ取引(現状、CDSの指標取引のうちiTraxx Japan)について、国内清算機関への清算集中義務を課すこととしています。

      • 外国清算機関のリンク参入及び直接参入に当たっては、以下を参入要件とする国内清算機関制度に準じた制度を整備し、当局が継続的に監督することとしています。

        • 値洗い等のリスク極小化機能について国内清算機関と代替性が高い執行・運用体制を整備していること

        • 外国当局の適切な監督下にあること

      • 清算集中義務の対象業者は、取引規模の大きい金融商品取引業者等とすることとしています。

      • 国内清算機関に対する主要株主規制及び資本金規制を導入することとしています。

    • (2) 取引情報の保存・報告

      取引情報蓄積機関、清算機関、金融機関から当局への店頭デリバティブ取引情報の提出を可能とする制度を構築することとしています。

  • II.国債取引・貸株取引等の証券決済・清算態勢の強化

    • (1) 国債取引の決済リスク削減

      市場関係者において、以下の取組みに関し、本年前半を目途とする工程表の作成・公表を目指すべきであるとしています。併せて、国債取引の清算集中を法令上措置することを検討することとしています。

      • 日本国債清算機関の利用拡大を図るための態勢強化を行うこと。

      • 決済期間の短縮、フェイル発生時の取扱いルールの確立・普及を図ること。

    • (2) 貸株取引に係る証券決済・清算態勢の強化

      関係者において、清算集中又はDVP決済のルール化の時期を含む工程表を早急に作成・公表すべきであるとしています(本年中を一つの目途)。

    • (3) 我が国の清算機関の体制のあり方

      金融商品毎に清算機関が分立している状況(5機関に分立)の改善を図るべく、市場関係者による、各金融商品を通じた清算体制の整合性に配慮した検討が望まれるとしています。

  • III.証券会社の連結規制・監督等

    • (1) 証券会社の連結規制・監督の導入

      • 一定以上の総資産額を有する証券会社については、当該証券会社とその子会社を対象とする連結規制・監督を行うこととしています。

      • その中で、グループ全体の業務・リスク状況の把握が必要と判断される者については、親会社等を含むグループ全体の連結規制・監督を行うこととしています。ただし、他業法によるグループ全体の連結規制・監督が行われている場合には重複規制を避けるとともに、親会社が外国当局による規制・監督を受けている場合や、証券会社と一体的に業務を運営しているとは認められない場合には、実情を踏まえ適切な対応を行うこととしています。

    • (2) 金融商品取引業者に対する主要株主規制の強化

      金融商品取引業者の適切な業務運営等の確保のために必要な場合に、主要株主のうち議決権の過半数を保有する者に対する措置命令を可能とすることとしています。

    • (3) 保険会社の連結財務規制

      保険契約者等の保護を図る観点から、保険会社又は保険持株会社を頂点とするグループ全体を対象とする連結財務健全性基準を導入することとしています。

  • IV.ヘッジ・ファンド規制

    • (1) 登録対象の拡充等

      我が国のヘッジ・ファンド運用者は、金融商品取引法上の登録投資運用業者等として規制されている実態にあり、届出対象となっているプロ向け集団投資スキームも実態としてヘッジ・ファンドに該当するものは確認されていないことから、登録対象に変更する必要はないとしています。

    • (2) ファンドのリスク管理状況に係る報告事項等の拡充

      国際的な議論を踏まえ、また、運用者の事業実態を勘案しつつ、ヘッジ・ファンド運用者からの報告事項の拡充を各国と協調して行うこととしています。

  • V.投資家保護・取引の公正等の確保

    • (1) 地方公共団体に係る特定投資家制度の見直し

      地方公共団体について、投資家保護の一層の充実の観点から、「アマへ移行可能なプロ」から「プロへ移行可能なアマ」に分類を変更することとしています。

    • (2) デリバティブ取引一般に対する不招請勧誘規制のあり方

      デリバティブ取引一般を不招請勧誘の禁止の対象とすべきかどうかについて、市場関係者等と引き続き意見交換を行い、本年前半を目途に結論を得るよう検討することとしています。

    • (3) 金融商品取引業者全般に対する当局による破産手続開始の申立権の整備

      破産手続開始の原因となる事実がある場合において、当局による破産手続開始の申立てが可能な範囲を一部の金融商品取引業者(証券会社)から金融商品取引業者全般に拡大することとしています。

    • (4) 信託業の免許取消し等の際の当局による新受託者の選任等の申立権の整備

      信託業の免許・登録の取消し等が行われた場合の新受託者等の選任等について、当局による申立てを可能とすることとしています。

  • VI.その他

    • ○ 空売り報告制度の整備

      将来における空売りポジション報告・公表制度の恒久化について、(1)価格規制のあり方、(2)店頭取引を含むデリバティブ取引のポジションを報告対象とすること及び報告方法、(3)公表内容についてどう考えるかを含め、引き続き総合的に検討することとしています。

金融・資本市場に係る制度設備について(要旨)

※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から「金融・資本市場に係る制度整備について」(平成22 年1月21 日)にアクセスしてください。


公認会計士制度に関する懇談会について

公認会計士については、監査業界のみならず経済社会の幅広い分野で活躍することが期待されているとの考え方に基づき、社会人を含めた多様な人材にとっても受験しやすい制度となるよう、平成15年に公認会計士法が改正され、平成18年より新しい試験制度のもとで公認会計士試験が実施されています。

しかし、現状においては、合格者の経済界等への就職は進んでおらず、社会人の受験者・合格者についても十分増加していない、また、実務経験を得られず試験に合格しても公認会計士の資格を取得できないおそれが高まるなど、様々な課題が指摘されています。

こうした状況を踏まえ、公認会計士試験・資格制度等についての検討を開始するため、「公認会計士制度に関する懇談会」を昨年12月に設置しました。

昨年12月に開催した第1回の懇談会では、座長である大塚副大臣、座長代理である田村政務官の挨拶の後、事務局から公認会計士制度の概要と最近の活動状況などについて説明を行い、その後、自由討議が行われました。

また、本年1月に開催した第2回の懇談会では、公認会計士・監査審査会、日本公認会計士協会、資格指導校・専門学校からそれぞれ意見表明が行われ、それに対する質疑応答や自由討議が行われました。

今後は更に議論を進め、本年央を目途に一定のとりまとめを行う予定です。

※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「審議会・研究会等」から「公認会計士制度に関する懇談会」に アクセスしてください。


「国際的に活動する銀行に関する規制改革案(バーゼル委市中協議文書の概要)」について

バーゼル銀行監督委員会(バーゼル委)は、昨年12月17日、国際的に活動する銀行に関する自己資本規制の強化に向けたバーゼルIIの見直し案及び新たな流動性規制の導入に向けた規制案を発表しました。

  • 【1. 背景・経緯】

    バーゼル委は昨年12月17日、国際的に活動する銀行に関する一連の規制改革案を発表しました。本規制改革案は、昨年4月のG20・ロンドン・サミットで合意され、その後9月のピッツバーグ・サミットで改めて確認が行われた、銀行資本の質と量の双方を改善し、過度なレバレッジを抑制するための国際的なルール及び国際的な流動性に関する基準の原案との位置付けです。

    米国サブプライム問題に端を発した今般の金融危機は、その後のリーマン・ブラザーズの破綻や、欧米大手行に対する公的資金の注入など、世界的な金融・経済危機へとその後発展し、世界経済は未だに今般の危機から完全には脱却できていません。こうした危機の発端となった銀行のリスク捕捉の問題に早急に対処するため、バーゼル委は昨年7月に、金融危機の主な要因となった再証券化商品のリスク・ウェイトの引上げやトレーディング勘定の取扱いの強化などを発表しました(バーゼル銀行監督委員会によるバーゼルIIの枠組みの強化に関する最終文書の公表について(平成21年7月14日)でプレス・リリースの原文、仮訳及び説明資料等を公表しています。)。今般発表された一連の規制改革案は、昨年7月の見直しに加え、金融危機の再発防止に向けた、中長期的な銀行の健全性及びリスク管理の強化を目的とした包括的な規制改革案です。

  • 【2. 市中協議文書の要素】

    本規制改革案は、大きく分けて(1)自己資本の質、一貫性及び透明性の向上、(2)リスク捕捉の強化(カウンターパーティ・リスクの取扱いの強化等)、(3)レバレッジ比率規制(補完的指標)の導入、(4)プロシクリカリティ(景気循環増幅効果)の抑制、(5)流動性規制の新たな導入の5つの見直しに分類されています(各パートの説明資料はバーゼル銀行監督委員会による銀行セクターの強靭性を強化するための市中協議文書の公表について(平成21年12月17日)で公表しています)。市中協議文書に対するコメントは本年4月16日までバーゼル委事務局にて受け付けています。

  • 【3. 市中協議文書の位置付けと規制実施のあり方】

    バーゼル委では、各見直し案について引き続き複数の選択肢を検討しています。本提案はそのうちの一つの選択肢で、本提案がそのまま国際的に活動する金融機関に導入されるわけではありません。また、バーゼル委では、本提案全体の影響度を包括的に分析するため、本年2月より各国の銀行から必要なデータを収集し、定量的影響度調査(QIS)の実施を予定しています。バーゼル委では、QISの結果及び市中協議文書に寄せられたコメントを踏まえ、改めて規制改革案に関する検討を本年後半に行い、本年末までに新しい規制改革案を最終決定する予定です。

    規制改革案の最終化に向けた作業の中には、市中協議文書の中では示されていない各規制案に関する水準の調整作業も含まれますが、こうした作業は一連の規制改革案に関する全ての要素を勘案した上で行われる予定です。その際には本規制案が銀行の貸出行動や実体経済に与える影響等が幅広く考慮されることになっています。また、本規制案の実施については、ピッツバーグ・サミットで合意されたとおり、2010年末までを目標としつつも、金融情勢が改善し景気回復が確実になった時点で段階的に行われる予定で、金融市場の安定及び持続的な経済成長と整合的な形で新しい規制を実施することが確保されています。

    さらに、規制の実施に当たっては、現行規制からの円滑な移行を確保するため、新規制の適切な段階的実施に向けた措置や、グランドファザリング(新規制実施後も、既存の取扱いを一定期間認めること)を十分に長期に亘り設定する予定です。

    このように、今後、市中からのコメント及びQISの結果を踏まえ、最終的な規制案の策定に向けた検討がバーゼル委にて行われることになっていますが、併せて実体経済に悪影響を与えない形で具体的にどのように新規制を実施に移していくかについても、バーゼル委において今後検討が行われる予定です。

※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「国際関連情報」からバーゼル銀行監督委員会による銀行セクターの強靭性を強化するための市中協議文書の公表について(平成21年12月17日)にアクセスしてください。


中小企業の業況等に関するアンケート調査結果の概要について

中小企業金融の実態把握の一環として、平成21年11月に、全国の財務局等を通じて、各都道府県の商工会議所47先を対象に、会員企業の業況や資金繰りの現状と先行き等について聴き取り調査を実施したところ、その調査結果の概要は以下のとおりとなりました。

  • (1)中小企業の業況感は、厳しい状況が続いています。

    悪化の要因としては、「売上げの低迷」の割合が最も大きく、次いで、「販売価格の下落」が続いています。

  • 表1
  • (2)中小企業の資金繰りも、厳しい状況が続いています。

    悪化の要因としては、「中小企業の営業要因」の割合が最も大きく、次いで、「金融機関の融資態度・融資条件」が続いています。

  • 表2

※ 詳しくは、金融庁ウェブサイトの「報道発表資料」から中小企業の業況等に関するアンケート調査結果の概要(平成21年12月22日)にアクセスしてください。


「中小企業向け融資の貸出条件緩和が円滑に行われるための措置」に基づく貸出条件緩和の状況について(平成21年7~9月期)

金融庁では、金融機関が借り手に対する貸出条件の緩和に柔軟に応じることができるよう、一昨年11月7日に、各監督指針及び金融検査マニュアル別冊[中小企業融資編]を改定しました(「中小企業向け融資の貸出条件緩和が円滑に行われるための措置」)。

同措置に基づく金融機関による中小企業向け融資の貸出条件緩和の状況を、平成21年9月11日の公表(平成21年4~6月期)に引き続き、同年12月16日に公表(平成21年7~9月期)しました。

今回の調査・集計では、金融機関が中小企業に対して貸出条件の緩和を行った債権は、主要行等、地域銀行及び信用金庫・信用組合全体で、平成21年7~9月期において46,402件(2兆1,575億円)となり、これを措置前の平成20年7~9月期と比較すると、件数ベースで61.7%(金額ベースで77.6%)の増加となっています。

また、貸出条件の緩和を行った債権のうち、経営改善の見込みがあり、不良債権に該当しなかった債権は、平成21年7~9月期において18,270件(1兆968億円)となり、これを平成20年7~9月期と比較すると、件数ベースで17.9倍(金額ベースで28.3倍)となっています。

金融機関におかれては、先般「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」が施行されたことも踏まえ、今後とも、中小企業向け融資に関し、適切かつ積極的に金融仲介機能を発揮して頂くことを期待しています。


【特集】

第6回国際コンファレンスの開催について
―世界同時金融危機下のアジア金融セクターの視点―(平成22年1月21日 開催)

金融庁金融研究研修センター(以下センター)では、金融を巡る実践的なテーマについて産学官の国際コンファレンスを年1回程度開催しています。今回は、「世界同時金融危機下のアジア金融セクターの視点」をテーマとして、国際通貨基金、アジア開発銀行研究所及び慶應義塾大学グローバルCOEとの共催により、1月21日(木)に開催しました。国内外の研究者、政府・中央銀行関係者、金融機関、在京各国大使館関係者など、約230名の参加がありました。

本コンファレンスでは、今般の金融危機がアジア各国の銀行に与えた影響の検証を行い、その上で、金融の安定性の確保と景気回復を両立させる望ましい規制・監督のあり方についてディスカッション等を行いました。

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○ 世界同時金融危機のアジア金融セクターへの影響(セッションI)

セッションIでは、岡野進氏(株式会社大和総研執行役員兼常務理事)から、サブプライム問題による直接的な金融機関への影響は、日本を含むアジア諸国では欧米とは比較にならないほど小さかったとの報告がなされました。さらに、アジア主要金融市場でドル不足が生じたものの、大きな混乱が生じなかったのは、1997年のアジア通貨危機の教訓が活かされているとの分析がなされました。また、金融危機の間接的な影響については、耐久消費財の落込みによる実体経済に対してはあったものの、それが日本の金融システムに与える影響は大きくなく、日本の製造業は輸出減少に苦しんでいるが、バブル崩壊後に比べればインパクトは小さかったとの報告がありました。この報告に対するコメントでは、金融危機の影響が小さかった背景として以下の4点が指摘されました。(1)アジアの金融機関によるサブプライム関連商品への投資が低かったこと、(2)アジアの銀行は比較的健全性が高いこと、(3)預金保険制度を含むセイフティ・ネットが整備されていること、及び(4)健全なマクロ経済政策運営がなされていたこと。

○ 金融危機後の課題:銀行監督規制のあり方(セッションI)

セッションIの後半では、白川俊介総務企画局総務課国際室長から、バーゼル銀行監督委員会が、2009年12月に公表した市中協議文書についての報告がなされました。改革案の主な要素は、以下のとおりです。(1)自己資本の質の強化、(2)リスク捕捉の強化、(3)レバレッジ比率規制(補完的指標)の導入、(4)プロシクリカリティ(景気変動増幅効果)の抑制、(5)流動性規制の導入。今後のスケジュールについては、市中協議及び定量的影響度調査の結果を踏まえ、2010年末までに国際的に合意されたルールが策定される予定となっているとの報告がなされました。この報告に対し、バーゼル銀行監督委員会を含め、現在行われている金融規制改革は、先進国主導であり、今後は途上国の視点も踏まえて改革を進める必要があるとのコメントがありました。さらに、吉野直行 金融研究研修センター長(慶應義塾大学経済学部教授)・平野智裕 センター研究官から、センターでの研究成果として、貸出市場、株式市場、土地市場、財市場、貨幣市場を含む一般均衡モデルを用いて、貸出の安定を図る上でどのような自己資本比率規制が望ましいのかを分析した結果、株価・地価・GDP・金利などのマクロ変数に自己資本比率規制を連動させることが望ましいことが示されたとの報告がありました。同研究成果からは、国毎に経済構造も銀行行動も異なるため、全ての国に同じ自己資本比率(たとえば8%)を適用するのではなく、各々の経済モデルに基づいて導き出されることが望ましいことも示されたとの報告がありました。

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○ マクロ・プルーデンスと規制の範囲について(セッションII)

セッションIIでは、エルベ・フェラニ氏(国際通貨基金金融資本市場局次長)より、金融危機以前は、個別の金融機関の健全性を確保すれば、金融システム全体の安定性も確保されるとの考え方に基づき金融規制が行われていたが、今般の金融危機により、個別金融機関が健全であっても、必ずしも金融システムの安定には繋がらないことが明らかになったとし、金融システム全体の安定をみるマクロ・プルーデンス規制が必要であるとの認識が広まったとの説明がなされました。その後の議論では、マクロ・プルーデンス規制の目的は、金融システム全体においてリスクが蓄積された“システミック・リスク”を緩和させることであり、規制の範囲を広げることで、システミック・リスクを防ぐことができるとの報告等がありました。また、規制の対象となる機関については、種類ではなく機能に着目して規制をかけていくべきとの指摘等がなされました。さらに、金融危機を受けて、国際的には規制の範囲を広げる方向で議論が進んでいるが、規制の拡大により実効的な監督が損なわれないよう配慮しなければならないとのコメントがありました。

○ アジアの金融セクター改革:安定化のための効果的な金融仲介の確保(セッションIII)

セッションIIIでは、ハンク・リム氏(シンガポール国際問題研究所研究部長)から、今般の金融危機は、アジアの中小企業に深刻な打撃を与えたとの報告がありました。アジア各国の政府は、これに対応して、融資保証、中小企業向け融資の目標設定等、様々なサポートを行っているが、中でもシンガポール政府では、優良な企業が資金を調達できるようにする“特別リスク・シェアリング”(SRI:銀行貸出促進スキーム)を導入しており、多くの中小企業がこのスキームの恩恵を受けているとの報告がありました。また、これに対し、韓国に関する報告があり、韓国では、中小企業のほとんどが輸出関連企業であったため、為替の変動が資金調達に及ぼす影響が大きく、中小企業の多くが為替の変動をカバーする目的でデリバティブを多用していたことから、今般の金融危機の影響を大きく受けてしまうという結果になったとの報告がありました。この教訓として、各国の中小企業の特徴に応じた金融行政を行うことが重要であるとの指摘がなされました。

また、シンヨン・パーク氏(アジア開発銀行地域統合室プリンシパル・エコノミスト)から、アジアの金融システムは今般の金融危機の影響が限定的であったため、被った打撃は比較的少なかったものの、脆弱性が残っており、アジアは地域における金融改革をグローバルな改革と協調させながら、金融システムを発展させていく必要があるとの報告がありました。そのためには、チェンマイ・イニシアティブ、アジア債券市場育成イニシアティブ等のこれまでの取組みを一層強化するほか、アジア域内の金融安定化のための政策対話の場を設立するなど、更に密接に協力していく必要があるとの指摘がありました。

○ パネル・ディスカッション(セッションIV)

セッションIVでは、冒頭にて吉野直行 金融研究研修センター長がこれまでのセッションについて総括 した上で、パネル・ディスカッションが行われました。主な報告・議論は以下のとおりです。

ピエトロ・ジネフラ氏(イタリア中央銀行アジア地域代表)から、今般の金融危機を受けた欧州の対応について報告があり、例えばEUの金融システムのマクロ・プルーデンス規制を行う、“欧州システミックリスク理事会”の創設が決定されたこと等が報告されました。

また、ヨンシアン・ブ氏(中国人民銀行研究所金融リスク局長)から、今般の金融危機の中国の銀行への影響については限定的であったが、中国の金融システムは脆弱であり、金融・資本市場の改革も遅れているとの報告がありました。今後中国は、マクロ・プルーデンス規制に関する国際的な動向を見つつ、預金保険制度の創設等に取り組んでいく必要があるとの報告がなされました。

また、エルベ・フェラニ氏(国際通貨基金金融資本市場局次長)から、経済がグローバル化している中、グローバルなレギュレーターが存在していないことから、規制が分断されることがないよう、グローバルなアプローチで規制を考えていく必要があるとの指摘がありました。これに対し、河合正弘氏(アジア開発銀行研究所所長)からは、アジアにおいては、金融システムの発展度合いが異なり、規制や法律面の違いなどがあるため、欧米と同じ規制を各国にそのまま適用するのは難しいとの指摘がなされました。グローバルな規制については、アジア地域等の視点を十分組み込むべきであるとして、本コンファレンスは締めくくられました。

※ 本コンファレンスのプログラムについては、金融庁金融研究研修センターウェブサイトの「国際コンファレンス「世界同時金融危機下のアジア金融セクターの視点」の開催について」にアクセスしてください。なお、資料及び結果概要については、近日掲載する予定です。


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