アクセスFSA 第238号

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G7財務大臣・中央銀行総裁 新潟会合

 本年5月11日~13日、新潟においてG7財務大臣・中央銀行総裁 新潟会合が開催されました※1
 本稿では、金融分野に着目して、その概要をご紹介します。
G7のロゴマーク

「G7ハイレベル・コーポレートガバナンス・ラウンドテーブル」の開催

 金融庁は、経済協力開発機構(OECD)との共催で、「G7ハイレベル・コーポレートガバナンス・ラウンドテーブル」を本年5月11日に新潟で開催いたしました。G7財務大臣・中央銀行総裁会合の開催の機会をとらえたこのラウンドテーブルでは、政府当局や国際機関、民間企業等からハイレベルな出席者を招き、日本のコーポレートガバナンス改革の実質化に向けた取組みや「G20/OECDコーポレートガバナンス原則」の見直しについて議論・発信を行いました。

今般のラウンドテーブルは一般中継も実施し、アーカイブ動画を当庁ウェブサイトにてご覧いただくことが可能です※2。本稿では、ラウンドテーブルの概要をご紹介します。

1. 「G7ハイレベル・コーポレートガバナンス・ラウンドテーブル」開催概要

 開会にあたっては、鈴木大臣をはじめとした各国・国際機関の閣僚級3名にご挨拶いただきました。

開会挨拶を行う鈴木大臣の写真
写真:開会挨拶を行う鈴木大臣

 閣僚級による開会挨拶の後、「G20/OECDコーポレートガバナンス原則」の改訂と日本のコーポレートガバナンス改革を実質面で推進する取組み等について、リード・プレゼンテーションが行われました。

プレゼンター:
神田 眞人(日財務省)
Patricia Pollard(米財務省)
井上 俊剛(日金融庁)

 開会挨拶及びプレゼンテーションにて紹介された主な取組みは以下の通りです。

  • ●OECDは、企業統治分野における唯一の国際基準である「G20/OECDコーポレートガバナンス原則」の見直し作業を実施中。見直し作業の着手は、2021年10月のG20ローマ首脳声明で承認。今回の原則見直しでは、気候変動やCOVID-19ショック等に伴う経済・社会環境の変化の中で、企業の持続可能性と強靭性の向上に資するコーポレートガバナンスの枠組みの提供を企図。日本や米国を含む多くの先進・新興国が改訂作業に関与。
  • ●日本政府は、中長期的な企業価値の向上を図る観点から、精力的にコーポレートガバナンス改革を推進。岸田総理からは昨年9月にニューヨーク証券取引所におけるスピーチで「日本のコーポレートガバナンス改革を加速化し、更に強化する」との発言がなされた。昨年秋より、金融庁は、海外投資家等からの意見聴取を行い、本年4月にアクションプログラムを策定。今後はアクションプログラムの着実な実行が重要であり、コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた取組みを推進していく。
プレゼンテーションを行う井上審議官の写真
写真:プレゼンテーションを行う井上審議官

また、リード・プレゼンテーションに続いて、4名のパネリストからプレゼンテーションの背景を踏まえたパネルディスカッションが行われました。

パネリスト:
Kerrie Waring(ICGN)
Toby Rodes(Kaname Capital)
Luca Enriques(University of Oxford)
Monica de Virgiliis(Snam S.p.A.)
ラウンドテーブルの様子の写真
写真:ラウンドテーブルの様子
 パネルディスカッションに続いての自由討議では、機関投資家や実務家、国際機関等と多岐にわたる様々な分野に精通した出席者の間で、パネルディスカッションの内容も踏まえた精力的な議論が1時間ほど行われました。自由討議では闊達な意見交換が行われ、閉会にあたっては、鈴木政務官が挨拶しました。こうして、盛況のうちにラウンドテーブルは終了しました。
閉会挨拶を行う鈴木政務官の写真
写真:開会挨拶を行う鈴木大臣

2.担当者より

本ラウンドテーブルは、G7財務大臣・中央銀行総裁新潟会合の唯一のサイドイベントとして開催されました。会場で議論を傍聴される参加者の中には、G7の代表団の方々も見られました。限られた準備期間ではありましたが、多くの関係者の御協力のお陰で、無事盛況にラウンドテーブルを終わらせることができ安堵しています。出席者の皆様からは、裏方の担当者にも日本のホスピタリティに対する感謝の言葉をいただくことができました。グローバルなコーポレートガバナンス改革の促進に向けた議論に、今回のラウンドテーブルが寄与したことを願うとともに、金融庁の担当者としても引き続き国際的な議論に積極的に貢献してまいります。

ラウンドテーブル参加者による集合写真
写真:ラウンドテーブル参加者による集合写真

G7財務大臣・中央銀行総裁声明の概要

1.はじめに

日本は本年1月から1年間、G7の議長国を務めています。G7では、首脳が集まるサミットの他にも、様々な政策分野ごとに閣僚級会合が設けられています。このうち財務大臣・中央銀行総裁会議は、金融分野に関する論点を含め、世界経済に関する諸課題への対応を幅広く議論する場です。日本議長下では、金融分野のプライオリティである①暗号資産・ステーブルコイン、②サステナビリティ開示、③トランジション・ファイナンス、④自然災害リスクファイナンスに加え、今般の一連の銀行破綻等を踏まえた金融セクターの動向について議論が進められてきました。
 本年5月11日~13日、鈴木大臣・植田日銀総裁による議長の下、G7財務大臣・中央銀行総裁会合が新潟市で開催されました。本稿では、同会合後に公表されたG7財務大臣・中央銀行総裁声明※3の概要をご紹介します。

議長を務めた鈴木大臣の写真
写真:議長を務めた鈴木大臣

2.概要

【金融セクターの動向】

 2008年の世界金融危機後に実施された金融規制改革に支えられ、金融システムが強靱であることが再確認されました。その上で、引き続き警戒心を持って金融セクターの動向を監視し、金融安定及び金融システムの強靱性を維持するために適切な行動をとる用意があることが合意されました。加えて、金融安定理事会(FSB)が今般の一連の出来事から教訓を引き出し将来の作業の優先付けを行っていくことを支持する旨が声明で示されています。
 
セッションの様子の写真
写真:セッションの様子

【暗号資産・ステーブルコイン】

 責任あるイノベーションを支援しつつ、暗号資産がもたらす金融安定及びマネー・ローンダリング等に関するリスクに対処するために、効果的なモニタリング、規制及び監視が極めて重要との認識が共有されました。その上で、FSBのハイレベル勧告※4と整合的な形で、効果的な規制監督上の枠組みを実施することへのコミットが示されています。さらに、マネー・ローンダリング等のリスクに対処するため、金融活動作業部会(FATF)の作業が支持されました。

【サステナビリティ開示】

 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の最初の2つの基準(全般的要求事項と気候関連開示)について、最終化が支持されました。また、生物多様性及び人的資本に関する開示について、ISSBの将来の作業に期待が示されました※5。こうした開示は、投資家が生物多様性、従業員への投資、並びに多様性、公平性及び包摂性(DEI)に関する企業の価値創造を評価するにあたって、有用な情報を提供しうるとされています。
 

【トランジション・ファイナンス】

 トランジション・ファイナンスは経済全体の脱炭素化を推進する上で重要な役割を有しているとの認識が共有されました。また、 金融機関自身のネット・ゼロに向けた取組みの評価指標として活用されつつあるファイナンスト・エミッション(投融資に係る温室効果ガスの排出量)について、移行関連情報の入手可能性と信頼性を公的・民間セクターが強化することが奨励されました。こうした情報には、信頼性ある道筋に支えられた移行計画から入手できる情報を含みます。さらに声明では、移行関連情報の入手可能性や信頼性の強化は、移行の進捗について先を見据えた方法で評価することを可能にし、実体経済の排出削減に伴うファイナンスト・エミッションの軌跡を説明することになり、秩序あるネット・ゼロへの移行と整合的な投資を促進する助けになるとされています。
 

セッションの様子の写真
写真:セッションの様子

【自然災害リスクファイナンス】

 気候変動により自然災害の頻度と深刻度が増していることを踏まえ、プロテクションギャップ(自然災害による経済損失と保険による補償額の差)を縮小させるためには、保険を含む災害リスクファイナンスの促進における民間・公的セクターの協調の強化が極めて重要との認識が共有されました。また、保険監督者国際機構(IAIS)が経済協力開発機構(OECD)と連携して2023年末までに策定する、自然災害リスクに対する経済的及び財務的な強靱性強化に関する報告書への期待が示されました※6

 今回のG7財務大臣・中央銀行総裁会合では、金融分野に関する様々な論点について意義ある合意が形成されました。金融庁は引き続き、国際的な議論に積極的に貢献してまいります。
 

信濃川を背景に各国財務大臣・中央銀行総裁の集合写真
信濃川を背景に各国財務大臣・中央銀行総裁の集合写真
写真:各国財務大臣等を出迎える鈴木大臣と植田総裁
写真:各国財務大臣等を出迎える鈴木大臣と植田総裁
日本政府・地元共催歓迎レセプションの写真
写真:日本政府・地元共催歓迎レセプション
日本政府主催夕食会の写真
写真:日本政府主催夕食会
ランチセミナーで談笑する鈴木大臣の写真
写真:ランチセミナーで談笑する鈴木大臣
G7財務大臣・中央銀行総裁 新潟会合本会議場の写真
写真:G7財務大臣・中央銀行総裁 新潟会合本会議場

※1 G7(Group of Seven)とは、フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国及び欧州連合(EU)が参加する枠組みです。

※2 関連の情報は以下のサイトでご覧いただけます。
• 「G7ハイレベル・コーポレートガバナンス・ラウンドテーブルの開催について」  
  https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20230405/index.html
• 鈴木大臣・鈴木政務官  挨拶掲載ページ
  https://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/index_kouen.html
•  アーカイブ動画(YouTube「金融庁チャンネル」)
  https://www.youtube.com/watch?v=DYyywuZMP4c

※3 G7財務大臣・中央銀行総裁声明はこちらをご覧ください。
  英文:https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g7/g7_20230513_2.pdf
  仮訳:https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g7/g7_20230513_1.pdf

※4 FSBは2022年10月に、暗号資産及びグローバル・ステーブルコインに関する国際的な規制等に係るハイレベルな勧告案を公表しました。市中協議を経て、2023年7月までに最終化される予定です。
「金融安定理事会による暗号資産関連の活動に関する国際的な規制等に係る市中協議文書の公表についてhttps://www.fsa.go.jp/inter/fsf/20221017/20221017.html

※5 ISSBは、2023年5月4日から、今後の基準開発に向けた優先アジェンダに関する市中協議を行っており、今後の活動候補として4プロジェクト(生物多様性、生態系及び生態系サービス、人的資本、人権並びに(企業)報告の統合)が挙げられています。
「Consultation now open:The ISSB seeks feedback on its priorities for the next two years」:
https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2023/05/issb-seeks-feedback-on-its-priorities-for-the-next-two-years/

※6 IAISは、世界の各国・地域の保険監督当局等の約200機関(メンバー)で構成される国際会議体です。2023年の年次総会は、11月に東京で開催予定です。


財務局長会議の開催

本年4月26日、今事務年度4回目の財務局長会議を開催し、藤丸内閣府副大臣(金融担当)及び鈴木内閣府大臣政務官(金融担当)は、財務局長や金融庁幹部が集まる会議室にて、挨拶をいたしました。

<藤丸副大臣挨拶>

資産所得倍増プランを実現し、正しい情報と金融知識の下で国民の行動変容をもたらし、個人投資家の裾野を広げ、安定的な資産形成を達成する上で、協力をお願いしたい。
犯罪対策閣僚会議において策定された「SNSで実行犯を募集する手口による強盗や特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン」には、預貯金口座の不正利用防止策の強化や、口座管理の強化及び在留期限情報の共有態勢を検討すること等が盛り込まれているところ、こうした観点からのモニタリングにも協力いただきたい。

挨拶する藤丸副大臣の写真
写真:藤丸副大臣の挨拶

<鈴木政務官挨拶>

各地域において官民金融機関等を対象に、事業再生支援等の事業者支援策等を紹介する説明会の開催を予定しているところ、協力をお願いしたい。
事業者が事業全体を担保に金融機関から成長資金を調達できる制度(事業成長担保権(仮称))の早期実現に向けた作業等を進めているところ、地域の金融機関からご意見等が寄せられた際には、共有いただきたい。
サステナブルファイナンスに関して、地域における社会・環境課題の解決やスタートアップを含む新たな事業の創出に資する取組みへの後押しをお願いするとともに、気候変動対応について、創意工夫を期待したい。
 

挨拶する鈴木政務官の写真
写真:鈴木政務官の挨拶

 財務局長会議では、副大臣及び政務官からの挨拶のほか、長官はじめ金融庁幹部から、金融行政の当面の課題や金融庁の取組み等について説明を行いました。こうした課題等について、財務局長と認識を共有するとともに、引き続き金融庁・財務局が一体となって取り組んでいくことを確認しました。
 

財務局長会議の様子の写真
写真:財務局長会議の様子
 

“G7 Cybersecurity Seminar 2023”
の開催

1.開催概要

金融庁は、本年5月9日、“G7 Cybersecurity Seminar 2023”を東京都内において開催しました。対面又はオンラインでの参加を呼び掛けた結果、国内外から400名を超えるサイバーセキュリティ関係者にご参加いただきました。
 本セミナーでは、金融セクターのサイバーセキュリティの強化に向けて、昨年に公表された2つのG7基礎的要素(サードパーティサイバーリスク管理改訂版・ランサムウェア対策)及び地域金融機関のサイバーセキュリティをテーマに、G7サイバー・エキスパート・グループ(以下G7 CEG)の共同議長等を含む国内外の政府や金融機関関係者をお招きし、多様な視点から活発な議論を行っていただきました。 
 

2.セミナー概要

①開催挨拶
 冒頭では、栗田総合政策局長が開会挨拶を行い、G7 CEGの活動や問題意識、サイバーセキュリティ強化に向けた今後の展望について言及しました。

 

開会挨拶をする栗田総合政策局長の写真
写真:開会挨拶をする栗田総合政策局長
②セッション1:G7 CEGの基礎的要素
 昨年に公表された2つのG7基礎的要素について、各要素の詳細や改訂のポイントについて解説するとともに、パネルディスカッション・質疑応答においては、サードパーティの強靭性を高めるための方策や、ランサムウェア攻撃に備えたバックアップ活用の重要性などについて、登壇者の有する知見を基に、充実した議論を行いました。
[モデレータ]
・Todd Conklin(G7 CEG共同議長、米国財務省 次官補代理(サイバーセキュリティ/重要インフラ担当))
[スピーカー]
・Matthias Rest(「金融セクターにおけるサードパーティのサイバーリスクマネジメントに関するG7の基礎的要素」(改訂版)作業部会共同リード、独連邦銀行 上席監督役)
・Tim Paulowitz(「金融セクターにおけるサードパーティのサイバーリスクマネジメントに関するG7の基礎的要素」(改訂版)作業部会共同リード、独連邦銀行 上席決済専門役)
・Andrew Huddart(「金融セクターのランサムウェアに対するレジリエンスに関するG7の基礎的要素」作業部会共同リード、イングランド銀行 セクター・レジリエンス・チーム シニアマネージャー)
セッション1の様子の写真
写真:セッション1の様子
③ セッション2:地域金融機関のサイバーセキュリティ

中小・地域金融機関が直面するサイバー脅威の最新動向や課題、課題解決に向けた金融庁の取組み、官民の連携状況等について解説するとともに、質疑応答においては会場やオンラインから多くの質問が寄せられました。米国・日本のサイバー人材不足に対するアプローチや、官民を含む戦略的な情報共有の重要性などについて、闊達な議論を行いました。

 


セッション2の様子の写真
写真:セッション2の様子
[モデレータ]
・齊藤 剛(金融庁サイバーセキュリティ対策企画調整室長)
[スピーカー]
・鎌田 敬介(金融ISAC 専務理事・CTO))
・三浦 俊(金融庁サイバーセキュリティ対策企画調整官)
・高橋 明((株)みんなの銀行 サイバーセキュリティグループ マネージングディレクター)
・Wilson Co(米国財務省サイバーセキュリティ・重要インフラ防護課 副課長(国際政策担当・役職代行))
④閉会挨拶

最後に、Todd Conklin氏(G7 CEG共同議長)がセッション全体の総括を行いました。業界全体を巻き込んだ取組みの重要性について言及するとともに、政府が情報共有のプロセスにおいて迅速性・正確性を担保し、リーダーシップを発揮していかねばならないことを改めて強調しました。

閉会挨拶をするTodd Conklin氏の写真
写真:閉会挨拶をするTodd Conklin氏

金融庁は、今後も国内外の関係者とともに金融セクターのサイバーセキュリティ強化に取り組んでまいります。


※ G7サイバー・エキスパート・グループ:サイバーセキュリティの促進とG7の協力関係の構築を目的として、
G7財務大臣・中央銀行総裁会議の承認に基づき2015年に設立。金融庁をはじめ、G7各国及び欧州連合(EU)の金融監督当局・財務省・中央銀行がメンバーとして参加。


監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)議長就任について
~アジア初となるIFIAR議長~

本年4月25日から27日にかけて米国・ワシントンDCで開かれた監査監督機関国際フォーラム(IFIAR(イフィアール):International Forum of Independent Audit Regulators)の本会合において、2021年4月から副議長を務めてきた長岡 隆 金融庁総合政策局審議官(国際担当) 兼 公認会計士・監査審査会事務局長が議長に選出されました(任期2年)。アジアからの議長就任は、2006年のIFIAR設立後、初となります。この機会に、本稿では、IFIARの概要やこれまでの経緯、今後の方針について紹介します。

IFIAR議長就任の挨拶をする長岡審議官の写真
写真:IFIAR議長就任の挨拶をする長岡審議官

1.IFIARの概要

IFIARは、グローバルな監査品質の向上により公益に資すること等を目的に、54ヶ国・地域の監査監督当局により構成される国際機関であり、わが国に本部を設置する初の金融関係の国際機関です(平成29年4月に東京に事務局を開設)。IFIARでは、①当局間で知見を共有し加盟当局の能力向上を図るとともに、②協調して国際的に重要な監査関係者と対話を行うことで、グローバルな監査品質の向上、ひいては資本市場の公正性・透明性の向上に取り組んでいます。日本からは、開設以来金融庁と審査会がメンバーとなっています。

2.IFIARに対するこれまでの日本の貢献

金融庁、公認会計士・監査審査会は日本として、これまで一貫して、加盟当局間の知見の共有や、監査関係者との対話等を通じ、IFIARの活動に積極的に貢献してきました。また、今回議長に選出された長岡審議官も、ホスト国である日本の立場から事務局をサポートすると共に、IFIAR内の作業部会の議長やIFIAR全体の副議長を歴任してきました。このようにIFIARの活動や組織運営に大きく貢献を行ってきたことが評価され、今般、アジア初の議長に選出されました。

3.今後の抱負

今後も一層、IFIARが、国際機関として発展・成長し、グローバルな監査品質を高めていくことができるよう貢献していきます。また、メンバー構成の更なる多様化のためには、アジアを含む新興国メンバーの拡大も重要ですので、具体的な成果につなげられるよう努めていきます。

監査を取り巻く環境は大きく変化し、IFIARとしても監査品質の向上に加え、例えば監査を担う人材の育成・確保、ESGに関する保証など様々な課題に向き合う必要があります。「多様な視点を機動的に取り込む組織運営」を一つの柱として、日本を含む加盟当局から幅広く知見や問題意識を吸い上げ、諸課題への的確な対応につなげていこうと考えています。


  IFIARについて、詳しくは金融庁ウェブサイトの特設ページをご覧ください。
https://www.fsa.go.jp/ifiar/20161207-1.html


「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラムについて

企画市場局企業開示課

課長補佐 松井 章

1.これまでのコーポレートガバナンス改革の取組み

金融庁は、これまで、企業の持続的な成⻑と中⻑期的な企業価値の向上に向けて、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの策定・改訂等を行い、コーポレートガバナンス改革の取組みを進めてきました。

こうした改革の効果について、コーポレートガバナンス・コード再改訂(2021年)後に実施した中間点検や、海外投資家を含むステークホルダーから幅広く意見を聞くために設置した「ジャパン・コーポレート・ガバナンス・フォーラム」を通じて寄せられた意見を踏まえ、検証して参りました。

検証によれば、企業価値向上のためには取締役会の機能を高めることが重要との考え方が多くの企業で共有されたとの評価や、直ちに業績に影響するものではなくとも良い方向に向かっているとの評価が見られた一方、一部の分野では進捗のペースが遅いとの指摘や、個別の課題に関する指摘も見られたところです。

具体的には、特に以下の課題が指摘されました。

  • ① 資本コストを踏まえた収益性・成長性を意識した経営の促進、人的資本への投資をはじめとするサステナビリティに関する取組みの促進といった経営上の課題
  • ② 取締役会や指名委員会・報酬委員会の実効性向上、独立社外取締役の質の向上といった独立社外取締役の機能発揮に関する課題
  • ③ 情報開示の充実、法制度上・市場環境上の課題解決といった企業と投資家との対話に関する課題

2.アクション・プログラムの策定

企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を促進する観点からは、上記の課題解決に向けて、形式的な体制を整備するのみではなく、実質的な対応を進めることが重要です。
 また、コーポレートガバナンス・コードの更なる改訂については、形式的な体制整備に資する一方、同時に細則化により、コンプライ・オア・エクスプレインの本来の趣旨を損ない、コーポレートガバナンス改革の形骸化を招くおそれも指摘されています。

このため、これらの課題については、企業と投資家との建設的な対話や、企業と投資家の自律的な意識改革の促進を通じて、個別企業ごとの課題が深掘りされることで、実情を踏まえた実効的な解決策が検討されていくことが望ましいと考えられます。

本年4月19日に開催された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」※1(以下「フォローアップ会議」)においては、こうした考え方や、今後実施すべき施策等について議論が行われました。

フォローアップ会議における議論を経て、4月26日、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」(以下「アクション・プログラム」)を公表しました※2
 アクション・プログラムにおいて提示された具体的な施策等については、以下のとおりです。

今後は、各施策を順次実施しつつ、その実施状況について検証し、必要に応じて追加的な施策を検討していくこととしています。
 引き続き、東京証券取引所をはじめとする関係者とも連携しつつ、コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた取組みを進めて参ります。

1.企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた課題
2.企業と投資家との対話に係る課題

※1 本年4月19日開催 「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアッ プ会議」(第28回) https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20230419.html

※2 本年4月26日公表 「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(6))の公表について」 https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230426.html


 オペレーショナル・レジリエンスの確保に向けた対応について

総合政策局リスク分析総括課 健全性基準室 

課長補佐 岡田 章      
課長補佐 曽路地 達也
係長   金森 智史 

1.背景

オペレーショナル・レジリエンス(以下、「オペレジ」)とは、業務の強靱性・復旧力と訳され、自然災害、感染症、サイバー攻撃やシステム障害などの危機時においても、金融機関が重要な業務を最低限維持すべき水準において提供し続ける能力をいいます。

国際的には、2021年にバーゼル銀行監督委員会(以下、「バーゼル委」)がオペレジに関する7つの諸原則を公表したほか、金融安定理事会(FSB)や証券監督者国際機構(IOSCO)、保険監督者国際機構(IAIS)からも関連文書が公表されています。

こうした動向を踏まえ、金融庁では、昨年12月に「オペレーショナル・レジリエンス確保に向けた基本的な考え方」と題するディスカッション・ペーパー(以下、「DP」)案を公表し、本年4月に最終化しました。ここでは、DPの概要について説明します。

2.基本的なステップ

DPでは、バーゼル委が公表した諸原則を踏まえつつ、4つのステップを「オペレジの基本動作」として整理しています。

こうした一連のステップを通じて、危機時の対応を利用者目線で捉え直すことになるほか、業務プロセス全体の合理化や経営資源の合理的な配分を促す結果をもたらすことが期待されます。また、検討した枠組みの実効性を確保するためには、経営陣によるオペレジ確保に向けたコミットメントと、それを組織に浸透させるための企業文化の醸成が必要になると考えられます。

3.主なポイント

以下では、金融機関において策定されてきた既存の業務継続計画(BCP)との差異に着目しつつ、オペレジの特徴について解説します。

 
オペレジの基本動作
オペレジの基本動作の図

この中で、AIアルゴリズムの精度・予測結果の解釈の容易性・金融業界における利用実績等の軸で様々なAIアルゴリズムを評価し、本AIモデルでは「ロジスティクス回帰※2」「ランダムフォレスト※3」「勾配ブースティング※4」の3つを採用することにしました。

(1)特定の危機対応からオールハザード型へ

BCPは、通常、地震や感染症、停電といった特定の危機(原因)を想定した上で、個別の対応計画として策定されます。しかし、リスク環境が急速に変化している中、想定外の事象が発生した場合の対応としては十分ではない可能性があります。このため、重要な金融サービスについては、想定外の事象も起こることを前提に、業務中断時の初動・復旧対応の手順、代替手段が確保される必要があります。

(2)利用者目線で重要な業務や耐性度を設定

金融機関には、重要な業務を最低限度維持すべき水準(耐性度)を設定することが求められますが、これはBCPと同様に、業務中断時の目標復旧時間として設定することも考えられます。もっとも、金融システムへの影響や利用者目線で生活への影響を一定の範囲内に収める観点からは、業務中断が生じる範囲、影響を受ける取引数、取引額及び利用者数(例えば、業務中断時の利用者からの苦情数)なども考慮要素となります。

(3)社外(サードパーティ)も含めた経営資源の確保

重要な業務の提供にあたっては、社外のサードパーティやフォースパーティとの連携が不可欠であることも多いと考えられます。システム開発・運用を外部委託されているITベンダーや、サービス利用先であるクラウドベンダー、API連携を行ったフィンテック企業等との連携がその一例です。

したがって、自社の業務継続だけを考えるのではなく、重要なサードパーティ等による業務中断が、どのような波及経路で利用者に影響するかも考える必要があります。具体的には、社内外の経営資源の相互連関性や相互依存度をマッピングしたうえで、業務プロセス全体で必要な経営資源を特定し、経営陣が主導して投資・採用・配置することが期待されます。

(4)業務プロセスの合理化・デジタル化

オペレジの確保に際しては、業務プロセスの合理化・デジタル化を推し進める機会として捉えられる側面もあります。例えば、既存の複雑な業務プロセスを合理化・簡素化する手間を惜しむと、システム開発・更改の複雑度が跳ね上がり、高コストなだけでなく、レジリエンス確保の観点からも問題が生じやすくなります。そのため、デジタル化は、利用者目線の価値提供やコスト削減だけでなく、業務プロセスの合理化・簡素化という点で、レジリエンス確保にも貢献しうるとも言えます。

(5)風通しの良い企業文化の醸成

オペレジの実効性を確保するためには、環境変化に適応し続け、PDCAサイクルを形骸化させないことが不可欠であり、そのため、既存のBCPでは射程外となりがちな企業文化も重要な一要素になります。すなわち、システム部門だけでなく、業務部門、経営管理部門、広報部門、社外のサードパーティも含めて、異なる専門性・バックグラウンドを持つ人員同士が自由闊達に対話し、相互理解や連携を深めていく風通しの良い企業文化を醸成すること、過度な減点主義やゼロリスク志向から現実的なレジリエンスの確保へと意識を変えていくことも、危機対応を利用者目線でアップデートする上で必要となります。


  詳しくは、本年4月27日公表「オペレーショナル・レジリエンス確保に向けた基本的な考え方」(案)に対するパブリック・コメントの結果等の公表について」をご覧ください。
https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20230427.html
なお、本年6月に、DPを踏まえて主要行向けの監督指針を改正する予定です。


「資産運用業高度化プログレスレポート2023」の概要

総合政策局総合政策課資産運用高度化室

係長 鈴木 岳

係長 見上 竜

◎はじめに

金融庁では、資産運用業の高度化に向けた取組みを進めるために、本年4月、「資産運用業高度化プログレスレポート2023」を公表しました。今後わが国の資産運用業が、経営とサービスの専門性と透明性を高め、国民の信頼を得て、わが国の重要産業として成長するために必要と考えられる事項などについて整理しています。また、本レポートでは「資産運用業界」を資産運用会社だけでなく、信託銀行、生命保険会社、販売会社、システムベンダー等を含めて定義し、投資家サイドについてはアセットオーナーも含め、それぞれの課題について幅広く分析しています。今回は、本レポートの内容のうち、代表的な項目について簡単にご紹介いたします。

わが国の資産運用業の全体像

1.資産運用業の高度化に向けた課題

(1)資産運用会社の経営の透明性確保

わが国の大手資産運用会社には、銀行や証券会社などの系列会社が多く、状況によっては販売会社の短期的利益が資産運用会社の長期的利益に優先される恐れがあると以前から指摘されていました。そこで今回、日系大手資産運用会社11社と世界大手30社で、経営トップの在任期間、経営トップの資産運用会社経験年数、経営トップの出身会社について比較を行いました。その結果、日系の資産運用会社においては、海外と比較して経営トップの在任期間が短く、また、資産運用会社での経験が少ない中で、グループ内の他社から就任するケースが多いことが分かりました。日本の資産運用会社が今後、長期的に顧客からの信頼を得て運用資産を拡大していくためには、経営の独立性・透明性の確保による利益相反懸念の排除や、資産運用業を熟知した経営トップが長期的にリーダーシップを発揮することが必要であると考えます。そのためにも、まずは業務を継続的に高度化するサクセッションプランの策定や経営トップの選任理由の開示など、各社の具体的な行動を期待しています。

大手資産運用会社の経営トップの在任期間

(2)運用体制の透明性確保

米国Morningstarの調査によると、多くの国・地域ではファンド単位の運用担当者の氏名開示が進んでいるとの結果が出ています。一方で、わが国の公募投資信託における運用担当者の氏名開示は全体の本数の2%程度と、主要26か国中、最低水準にあります。実際に主力の運用担当者が変わると運用パフォーマンスに影響が出ることがあり、運用体制の実態がわからなければ投資家が安心して投資できないとも言われています。また、こういった情報が開示されることで、ファンド評価会社等による評価項目も充実し、顧客の資産形成に資する良質な投資信託を選定するための重要な参考情報にもなり得ます。わが国には法令による運用担当者の氏名開示の要請は現状ありませんので、各社における自主的な取組みが進むことが望ましいと言えます。

運用担当者の氏名開示の状況(本数割合)

(3)資産運用会社の新規参入促進

わが国の投資信託委託会社数の近年の推移を見ると、その数は殆ど変わっておらず、新規参入も限定的です。これには様々な要因がありますが、例えばそのうちの一つに、資産運用会社と信託銀行がそれぞれ投資信託の基準価額を計算(二重計算)し、毎日照合するという日本独自の慣習があります。その他にも、諸外国と比較して運用と事務の分離が進んでいないこと、システムベンダー間の不十分な競争によるコスト高などといった要因もあります。わが国の資産運用業の活性化に向けて、こうした日本独自の慣習を見直し、資産運用会社の新規参入や独立をしやすい環境を作る必要があります。

二重計算イメージ図

2.アセットオーナーの運用高度化に向けた課題

わが国の年金基金のシェアは世界的にも大きく、その動向は世界でも注目されています。わが国では特に公的年金の存在感が大きいですが、一方で企業年金については規模が小さい先も多く、運用に携わる職員の専門性や人員の不足、運用に係る適切なリスク管理が出来ていない先もあるのではないかと言われているのが現状です。そんな中、わが国の企業年金では、昨今の低金利環境下において、より高い利回りが見込めるオルタナティブ投資への投資意向が高くなっています。一方で、オルタナティブ投資は個別性が高く、情報開示も少ないため伝統的資産と比較して適切なリスク管理が難しいとも言われています。年金基金においては、資産規模や運用内容に応じて、運用体制の整備に向けた企業の意識向上が必要です。

◎おわりに

2024年以降、新しいNISA制度の開始が予定されており、国民の資産形成において資産運用業が果たすべき役割はますます大きくなっています。わが国の資産運用業には現状、少なからず課題がありますが、本レポートで取り上げた項目については、関係者の取組みを期待するとともに、金融庁としても進捗状況を継続的にフォローアップしてまいります。また、このような取組みを通じて、資産運用業界がわが国の中長期的な企業価値の向上と資本市場の活性化を図り、家計・個人がその果実を享受できるようになることが業界全体で目指すべき方向性と考えます。

業界関係者の本監督指針の趣旨を踏まえた積極的な開示や態勢整備等の対応を期待しております。


 本年4月21日公表 「資産運用業高度化プログレスレポート2023」の公表について https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230421.html


ギャンブル等依存症問題啓発週間

ギャンブル等依存症とは、ギャンブル等にのめり込んでいくことで、欲求のコントロールができなくなる精神疾患の一つです。これにより、日常生活や社会生活に支障をきたすおそれがあり、深刻な場合は、家庭内不和、虐待、自殺、犯罪など重大な問題につながることもあります。

金融庁は、本年5月14日~20日のギャンブル等依存症問題啓発週間にあわせ、Twitter広告を集中的に実施いたしました。Twitter広告では、金融庁のウェブサイトで公表している、ギャンブル等依存症に関するご本人やご家族の方への注意事項や、対処に困った場合の相談窓口をご案内しています※。また、ギャンブル等依存症問題啓発週間における関係省庁及び業界団体の取組みもウェブサイトでご紹介しております。

♦ギャンブル等依存症問題啓発に関する取組(内閣官房)

  • ・「ギャンブル等依存症対策啓発動画 ~一人で悩まず、家族で悩まず、まず!相談機関へ~」
  • ・ 「ギャンブル等依存症体験談」
  • ・ ギャンブル等依存症問題啓発週間の啓発ポスター
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♦ギャンブル等依存症問題啓発週間における動画広告(全国銀行協会)

  • ・「うっかりあなたもカードライオンになっていません?(ギャンブル編)」
  • ・「うっかりあなたもカードライオンになっていません?(貸付自粛制度編)」
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♦ギャンブル等依存度チェック(日本貸金業協会)

ギャンブル等依存症でのお悩み相談してみませんか?

ギャンブル等依存症は、適切な治療と支援により回復が十分可能な疾患です。しかし、本人自身が「自分は病気ではない」などと現状を正しく認知できない場合もあり、放置すると症状が悪化するばかりか、借金など身の回りの問題も深刻になっていくことが懸念されます。

依存症は誰でもなり得る病気で、「意思が弱い」、「だらしがない」というようなものではありません。自分ひとりや家族内だけで抱え込まず、相談窓口にご相談ください。

ギャンブル、やめられなくなっていませんか?

※ 本年のギャンブル等依存症問題啓発週間について、詳しくは金融庁ウェブサイトをご覧くだ
https://www.fsa.go.jp/policy/kashikin/gambling/20230514.html


先月の金融庁の主な取組み(令和5年5月1日~5月31日)


編集後記

いよいよ2022事務年度(2022年7月~2023年6月)も最終盤となりました。3月号の編集後記で、「4か月あるから」と油断していると、あっという間に時が過ぎる経験も何度もしているので、計画的に対応したいと、我ながら随分立派なことを書いていましたが、やはり今年も気が付いたら6月になっており、例年どおり自らの成長のなさを痛感しております…。

一方で、今月号のアクセスFSAは、冒頭6ページのG7新潟会合特集に加え、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」や「資産運用業高度化プログレスレポート2023」の解説記事など、来事務年度の課題にもつながる充実した内容となっております。

ぜひご一読ください。
 

  • 金融庁広報室長 守屋 貴之
  • 編集・発行:金融庁広報室

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