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谷本金融担当副大臣講演「今般の金融危機対応への日本の貢献」
(平成21年6月8日・IMC京都総会)

【はじめに】

IMC会員の皆様、ご来賓の皆様、本日は、このIMC年次総会において、金融界の世界的なリーダーの皆様に対しお話できることを嬉しく思います。あいにく与謝野大臣が急遽国会に出席することとなりましたので、私が代わりを務めさせていただきます。

このIMCは、世界の主要金融機関の経営トップが参加する団体であり、国際金融や経済問題に関する自由な意見交換を行うものと承知しております。現下の金融・経済情勢の中で、世界の主要金融機関の経営トップが、今後の金融ビジネスモデルを議論するこの会議が有意義なものとなることを心から期待しております。

IMC総会が前回日本で開催されたのは1991年の大阪総会であったと聞いております。こうして18年振りに、本総会を、我が国の歴史ある古都、京都で開催することを喜ばしく思うとともに、アッカーマンIMC理事長やIMC事務局のほか、開催準備に携わった皆様に敬意を表したいと思います。

本日は、与謝野大臣に代わりまして、今般の危機を受けた我が国の世界への貢献についてお話させていただきます。

【世界経済の現状と我が国の役割】

今般の金融市場の動揺を受け、世界経済は、資金があふれ歴史的な高成長を享受していた局面から、グローバルな不均衡の調整と過剰なレバレッジの是正が進む困難な局面に入っています。 また、現下の世界経済は、金融市場の動揺が実体経済に波及し、先進国、新興市場国のいずれにおいても、成長見通しが大幅に低下するなど、世界同時不況が引き続き深刻な状況にあります。

こうした現在の金融・経済危機は、1929年の世界恐慌とも比較されます。しかし今回の場合、1929年と決定的に違う点があることに注意を払う必要があると思います。

それは、第一に、危機が目前にあるということがきちんと自覚されていることです。

第二に、この経済危機は国際協調によってのみ克服できるということを各国が自覚しています。

第三に、保護主義というものが破滅的な効果を持っていて、世界貿易を大幅に縮小させるというデフレ的な効果を持つというが分かっていることです。

第四に、恐慌の経済学ということを大恐慌のとき学んでおり、こうした危機から脱却するためには、クレジット・フロー(資金の流れ)を確かなものにすることと、ディマンド(有効需要)をしっかり作り出していくという2つの対策を講じなければならないということが共通した考え方となっていることです。

こうした中で、世界第2位の経済大国たる我が国の使命は、自国だけでなく世界経済のことも常に考えながら、国際協調に努めていくことだと考えております。国際的な経済危機、金融危機に対処するためには、やはり一国だけではなく、国際的な協調が必要であり、我が国はそうした国際協調の中で出来得る最大限のことを国際社会に対して行うという決意です。

こうした我が国の貢献には四つの側面があります。

第一に、世界経済を順調な軌道に戻すために、我が国として財政出動を含めた経済対策をどうしていくかということがあります。

第二に、IMF・世銀、アジア開発銀行をはじめとした国際金融の場で、我が国が今後どういう協力をしていくのかということもあります。

第三に、世界貿易を縮小させないために、保護主義的な動きを防止していくということもあります。

第四に、世界の金融危機をもたらした原因を踏まえて、新しい金融ルールの議論に積極的に参画していくということもあります。

【我が国の経済対策】

それではまず、我が国の経済政策についてお話ししたいと思います。

世界的な危機の克服には、世界的な解決策が必要です。まずは金融市場の機能を一刻も早く回復させるため、金融システムの修復を図るとともに、世界経済の底割れを防ぐため、金融政策及び財政政策の両面で思い切った措置をとることが重要です。

世界の総需要を支えるためには、特に、主要国における財政金融措置が重要であり、GDP世界第2位の我が国が現在の経済危機を一日も早く克服し成長軌道を回復することが、世界経済への貢献になると認識しております。

我が国の場合、金融機関における証券化商品の保有や損失が比較的少なかったことから、その金融セクターそのものは欧米に比べ相対的に健全といえます。実体経済の悪化や株価の変動等のリスクも高まっていますが、大手行は自ら市場で資本調達することとしており、金融システムの安定化のために公的資金による資本注入や銀行の一時国有化といった例外的な措置を講じる必要があるという状況にはありません。したがって、我が国における金融面での短期的対応は金融仲介機能の適切かつ積極的な発揮による実体経済の下支えにより重点が置かれており、この観点から設けられた資本増強スキームを地方の中小金融機関が活用し始めております。

しかしながら、我が国経済は、世界的な需要の落ち込みにより輸出が急激に収縮し、今年に入ってからは半減するなど、厳しい状況にあります。このため、昨年後半以降、経済対策を講じてきており、その規模は、対GDP5%程度に上っています。これにより、2009年度の日本の成長率のマイナス幅は、主要先進国並みのマイナス3.3%程度にとどまると見込まれます。我が国が戦後経験した最悪の失業率は5.5%です。現在の失業率は5.0%であり、これが決して5.5%にならないようにするというのが狙いです。

こうした経済対策と同時に、昨年12月には、持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた「中期プログラム」を閣議決定し、3月には、税制抜本改革の今後の道筋を盛り込んだ法律が成立しております。もし、日本政府が財政健全化への熱意を失ったとみなされれば、国に対する信認が低くなってしまいます。多額の借金にもかかわらず、日本の長期金利が1.5%と低水準なのは、まだ国に対する信頼が失われていないからです。

また、我が国として、中長期的な観点から、内需と外需によってバランスよく成長する経済にどう転換していくか、国際競争力を失わないだけのイノベーションをどう維持していくかという課題があります。こうした観点から、4月にまとめた経済対策では、中長期的な観点から、低炭素革命、少子高齢化への対応などの成長戦略を重視しています。ケインズは、有効需要は穴を掘って埋めても有効需要と言ったと言われていますが、ケインズが実際に言った言葉は、お金は利口に使えということです。お金を使うなら、現在の危機の克服にも役に立ち、かつ、将来花開く分野に使っていくということです。Wise Spendingということで、我が国が持っている技術や特色を生かしていくことが大事だと考えております。

【新興国・途上国支援】

我が国による貢献の二つ目は新興国・途上国支援です。我が国はこれからも、新興国や途上国など他の国々の経済に貢献する形での国際的な責任も果たしていくつもりです。

我が国は、この世界経済の危機にあたり、IMFが加盟国の危機対処への支援や将来の危機予防に積極的な役割を果たすことを強く求めてきました。そして、IMFがその役割を十分果たせるよう、他国に先駆けて最大1000億ドル相当の対IMF融資を表明し、IMFの資金基盤の増強に向けた国際的な議論をリードしてきました。今年2月に我が国が融資契約を締結したのに続いて、欧州やカナダからIMFへの融資表明があり、ロンドン・サミットの参加国間では新規借入取極(NAB)の大幅拡充が合意されています。

こうしたグローバルな取組みに加え、我が国は、アジアにおいて、IMFを補完し、通貨危機の際に外貨準備を融通しあう仕組みである、チェンマイ・イニシアティブ(CMI)について、そのマルチ化に貢献しております。また、我が国は、CMIとは別に、危機時に円を融通するスワップ取極を、必要に応じASEAN諸国等に提供していくこととしています。規模としては600億ドル相当を考えており、マルチ化後のCMIへの貢献額とあわせて、総額1000億ドル相当の通貨スワップによる流動性支援を行うことになります。

新興国・途上国に対しては、その成長を牽引してきた民間資金流入の急激な減少ないし逆流による様々な影響を緩和するための支援を行っていく必要があります。このため、我が国は、バイ支援の文脈で、今後2年間で50億ドル規模の、途上国における環境投資の支援を行うこととしたほか、途上国との貿易にかかるリスクを低減することで円滑な貿易取引に資する貿易金融支援を同じく今後2年間で220億ドル追加することを表明しました。さらには、アジアに対するODAによる貢献策を拡充し、最大2兆円規模の支援を行う用意がある旨を表明しております。

また、国際金融市場の混乱のため、一時的に外国債発行が困難となったアジア諸国が、日本市場で円建ての国債、いわゆるサムライ債を発行する際、最大5000億円規模でJBICが保証を付与し支援することも決定しました。

やはり日本経済だけが良くなるということは無理なことであり、新興国・途上国が再び元気になって世界の成長センターの一翼を担って頂き、日本もこうした国々とともに発展していくという発想が大事だと考えております。

なお、新興国や途上国の経済開発に関して、今回、改めて認識させられたことに、これら諸国が開発に必要な資金を海外からの短期借入に依存することのリスクを挙げることができます。今回の金融危機により最も打撃を受けている東欧は、他の地域に比して、外国銀行からの借入れに大きく依存していました。また、次に明らかになったのは、これまでの外需依存型の経済開発の限界です。今後、米国をはじめとする先進国経済で貯蓄・投資バランスの大幅な調整が進行し、世界経済が新たな均衡点を求めてリバランシングを行いつつある中で、新興国や途上国も、内需と外需のよりバランスのとれた経済成長を目指す必要性が高まっています。今回の危機が、これら諸国が成長を再開するための変革の契機となることを期待しております。

【保護主義的な動きの防止】

三つ目の貢献は保護主義的な動きの防止です。世界経済の中で、日本にとって何といっても大事なのは、自由貿易体制を守り、保護主義に走らないように世界各国と協調していくことです。こういう状況になると、エコノミックナショナリズムというものが勃興してきますが、保護主義の台頭だけは抑えないといけない。大恐慌の経験から見れば、そういうことをすると世界の貿易量はどんどん減って、世界経済全体を縮小させてしまいます。

こうした精神は、G7やG20でも確認されておりますが、過去の教訓を踏まえ、保護主義的な施策を回避し、新たな貿易障壁の導入を控えるとともに、貿易の拡大・円滑化を通じて世界経済の成長を図っていくことが必要です。そのためにも、貿易金融に対する新興国・途上国への支援が重要ですし、保護主義的な施策のモニタリングのため、WTO、WCO等の国際機関の貢献を期待しているところです。

【危機の再発防止と金融規制・監督の再構築】

第四に、危機の再発防止と金融規制・監督の再構築についてお話ししたいと思います。今回の金融危機が起きた原因には、世界的な経常収支の不均衡などのマクロ経済的な背景とともに、歴史的な低金利や良好なマクロ経済環境が継続する中でリスクの過小評価が生じ、証券化など新たな金融ビジネスモデルについて、金融機関がそのリスクを適切に管理できなかったという金融部門に起因する問題があったわけです。

今回の危機では、何でも市場に任せ、公的関与は少ない方が望ましいという「市場原理主義」を突き詰めていけば、短期的な利益追求から過度なリスクテイクやレバレッジなどを招くおそれがあり、それが経済システム全体を危うくしてしまうということが明らかになったと思います。やはり市場原理主義という裸の市場主義ではなくて、市場経済、資本主義経済を基礎としながらも、いろいろな国の政策あるいは規制というものが混じり合って、経済というものは成り立つのだと思います。

政府としては、国民や国民経済のことを考えれば、市場の限界を冷徹に見極め、時々の必要に応じて柔軟に対応する、いわば「市場現実主義」とでもいうべき対応を進めていく必要があります。そして、こうした中で、賢い政府というものが求められているということだと思います。

こうした意味で、現在は、政策の振り子をセキュリティ重視の方向に戻していくべき局面にあると思っております。この観点から、危機の再発防止は重要な課題であり、このために中長期的な金融規制・監督の再構築は不可欠です。また、これに応じて、過剰なレバレッジをかけ不透明な形で短期的な収益の極大化を図るという金融ビジネスモデルは見直されることが期待されます。

こうした方向感に関しては、G20において、(1)透明性及び説明責任の向上、(2)健全な規制の強化、(3)金融市場における公正性の促進、(4)国際連携の強化、(5)国際金融機関の改革といった原則の下で、この4月までに、具体的な進捗が図られたものと認識しております。 今後は、こうした進捗の更なる具体化のため、過剰規制に陥り金融の技術革新を阻害することのないよう気をつけながら、将来に向けて金融規制・監督の再構築を引続き着実に進めていかなければなりません。

過剰なレバレッジなど、金融部門における行き過ぎという点で、我が国が基本的には無縁であったことは不幸中の幸いでした。こうした客観的な立場から、我が国は、90年代以降のバブル崩壊後の経験も踏まえつつ、G20のプロセスにおいて、真に必要な金融規制・監督のあり方を主張してきましたし、これからもそうしていきたいと考えております。

例えば、今回の危機の要因の一つは、証券化商品をはじめとする複雑な金融商品のリスクを金融機関が適切に捕捉していなかったことにあります。従って、過剰なレバレッジを是正していく一方で、最低自己資本比率を直ちに引き上げるといった拙速な対応ではなく、リスク捕捉を改善し、ビジネスモデルの抱えるリスクに応じた自己資本の充実を図っていくという取組みがまずは不可欠であると考えております。

また、こうした中長期的な規制再構築は必要なことなのですが、こうした政策も性急に実施すれば、足下の状況が悪化し、危機管理がより困難になることに気をつけなければなりません。このことも、我が国が90年代の自らの危機で得た教訓です。今般の混乱を受けた議論の中で、我が国は、中長期的な規制再構築を短期的な危機対応と同時並行的、かつ、バランスのとれた形で実施していくことが重要であるという点を繰り返し強調してきています。こうした我が国の主張もあって、例えば、「銀行の自己資本規制等の強化は景気の回復を待つべき」との考え方がロンドン・サミットの首脳宣言にも反映されております。

【おわりに】

最後に、今般の混乱も踏まえた金融サービス業の今後の課題について申し述べさせていただきたいと思います。

現下の金融・経済情勢の中で、金融機関の果たす役割が大きいことは言うまでもありません。我が国は、各国との国際的な協調の下で、雇用と成長の回復や金融市場の安定に努めていくつもりです。こうした中で、各金融機関も金融面でクレジット・フローの維持に努めるなどその役割を果たすよう期待しております。

今般の金融市場の混乱を踏まえ、各金融機関におかれては、自らのビジネスモデルが過度のリスクテイクや過度のレバレッジを招いていなかったどうかを点検することが期待されています。そしてその際には、金融業は実体経済を支えるという役割を再認識していただく必要があるでしょう。将来的に、今般の危機のような規模で再び金融が実体経済を振り回すようなことは避けなければなりません。こうした中で、各金融機関はそれぞれの判断でそのビジネスモデルを修正していくこととなるものと予想しております。

その上で、金融業界が規制再構築後の新たな規制環境に適応しつつ、創意工夫を通じて質の高い金融サービスを提供されていくことを期待したいと思います。そうした中で、金融市場に規律を回復させ、イノベーションがそれに沿った形で行われることが必要です。与謝野大臣の好きな言葉に「decency」という英語があると承知しております。「まっとうさ」「行儀良さ」「きちんとしていること」といった意味ですが、金融部門においても「decency」を回復していくことが不可欠です。

以上申し上げてきたとおり、我が国は金融・経済危機の克服と危機の再発防止の両面において積極的に取り組んでいく決意です。こうした取組みが、ここに参加されている金融機関の皆様における努力とあいまって、一日も早い金融・経済危機の克服とより安定した金融システムの構築、金融サービスの質の向上を通じた金融市場と経済の持続的な繁栄につながることを期待しております。

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