II 銀行監督上の評価項目

II -4 金融仲介機能の発揮

II-4-1 基本的役割

金融機関は、中小企業(小規模事業者を含む。以下II -5までにおいて同じ。)や住宅ローン借入者など個々の借り手の状況をきめ細かく把握し、他業態も含め関係する他の金融機関等と十分連携を図りながら、円滑な資金供給(新規の信用供与を含む。以下同じ。)や貸付けの条件の変更等(注1)に努めることが求められる。

特に、金融機関は、株式会社地域経済活性化支援機構法(平成21年法律第63号)第64条の規定(注2)の趣旨を十分に踏まえ、地域経済の活性化及び地域における金融の円滑化などについて、適切かつ積極的な取組みが求められることに留意する必要がある。

このような観点から、金融機関は、資金供給者としての役割のみならず、顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮を通じて、中小企業をはじめとする顧客企業の経営改善等に向けた取組みを先延ばしすることなく最大限支援していくことも求められる(顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮については、II -5-2-1を参照)。

特に、急激な経営環境の変化により資本の充実が必要となった企業に対する支援においては、貸付けの条件の変更等だけでなく、資本性借入金(注3)や出資等も活用し、顧客企業の経営改善等につなげていくことが強く求められる。

また、「経営者保証に関するガイドライン」の趣旨を踏まえ、経営者保証に依存しない融資の一層の促進を図るとともに、「経営者保証に関するガイドライン」で示された合理性が認められる保証契約の在り方に基づく対応を行っていくことが必要である(II -10-2参照)。

  • (注1)「貸付けの条件の変更等」とは、貸付けの条件の変更、旧債の借換え、DES(デット・エクイティ・スワップ)その他の債務の弁済に係る負担の軽減に資する措置をいう。

  • (注2)株式会社地域経済活性化支援機構法第64条では、「機構及び金融機関等は、事業者の事業の再生又は地域経済の活性化に資する事業活動を支援するに当たっては、地域における総合的な経済力の向上を通じた地域経済の活性化及び地域における金融の円滑化に資するよう、相互の連携に努めなければならない。」とされている。

  • (注3)「資本性借入金」とは、貸出条件が資本に準じた十分な資本的性質が認められる借入金として、債務者の評価において、資本とみなして取り扱うことが可能なものをいう。なお、あくまでも借入金の実態的な性質に着目したものであり、債務者の属性(企業の規模等)、債権者の属性(金融機関、事業法人、個人等)や資金使途等により制限されるものではなく、基本的には、償還条件、金利設定、劣後性といった観点から、資本類似性が判断される。一般に、

    • ① 償還条件については、契約時における償還期間が5年を超え、期限一括償還又は同等に評価できる長期の据置期間が設定されていること

    • ② 金利設定については、資本に準じて配当可能利益に応じた金利設定となっていること(業績連動型など、債務者が厳しい状況にある期間は、これに応じて金利負担が抑えられるような仕組みが講じられていること)

    • ③ 劣後性については、法的破綻時の劣後性が確保されていること(又は、少なくとも法的破綻に至るまでの間において、他の債権に先んじて回収されない仕組みが備わっていること)

    が求められると考えられる。

II-4-2 主な着眼点

上記の基本的役割を踏まえ、各金融機関が金融仲介機能を組織全体として継続的に発揮するための態勢整備の状況も含め、各金融機関の取組み状況を検証することが必要である。このため、以下の着眼点に基づき検証していく(顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮に関する着眼点は、II -5-3を参照)。

  • (1) 中小企業や住宅ローン借入者など個々の借り手の状況をきめ細かく把握し、円滑な資金供給や貸付けの条件の変更等に努めているか。また、他業態も含め関係する他の金融機関等がある場合には、当該他の金融機関等と十分連携を図りながら、円滑な資金供給や貸付けの条件の変更等に努めているか。

  • (2) 株式会社地域経済活性化支援機構法第64条の規定の趣旨を踏まえ、事業者の事業の再生又は地域経済の活性化に資する事業活動を支援するに当たっては、地域における総合的な経済力の向上を通じた地域経済の活性化及び地域における金融の円滑化に資するよう、地域経済活性化支援機構との連携を図るとともに、自らも円滑な資金供給や貸付けの条件の変更等に努めているか。

  • (3) 停止条件又は解除条件付保証契約、ABL、金利の一定の上乗せ等の経営者保証の機能を代替する融資手法のメニューの充実を図るよう努めているか。

  • (4) 法人個人の一体性の解消が図られている、あるいは、解消等を図ろうとしている主債務者が資金調達を要請した場合において、「経営者保証に関するガイドライン」に基づき、主債務者の経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断する中で、経営者保証を求めない可能性、(3)のような代替的な融資手法を活用する可能性について、検討するよう努めているか。

  • (5) 保証契約を締結する場合には、どの部分が十分ではないために保証契約が必要なのか、どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか、の客観的合理的理由について、顧客の知識、経験等に応じ、その理解と納得を得ることを目的とした説明を行うこととしているか。

II-4-3 監督手法・対応

各種ヒアリングの機会を通じ、上記の監督上の着眼点に基づき、各金融機関における取組み状況をフォローアップしつつ、金融仲介機能が十全に発揮されるよう、金融機関を促していく。

トップヒアリングにおいては、金融機関経営者から、金融仲介機能の発揮に関し、経営陣の主導性の発揮状況等を確認する。

また、総合的なヒアリング等においては、営業現場の責任者等から、顧客企業との接触状況を含め、個別具体的な実践(現場における課題や本部との連携の状況を含む。)まで踏み込んで確認する。

II -5 地域密着型金融の推進

II-5-1 経緯

  • (1) 地域密着型金融の推進のための監督指針の改正

    • マル1 地域密着型金融の推進については、平成19年8月に本監督指針を改正し、通常の監督行政の恒久的な枠組みとして位置付けるとともに、金融機関の自由な競争、自己責任に基づく経営判断の尊重、地域の利用者の目(パブリック・プレッシャー)を通じたガバナンスを基本としつつ、地域密着型金融が深化、定着するような動機付け、環境整備を行ってきた。

      こうした中、地域金融機関(地域銀行、信用金庫、信用協同組合)においては、経営改善支援、事業再生支援、担保・保証に過度に依存しない融資等の取組みが行われてきている。一方、中小企業をはじめとした利用者からは、そうした取組みにとどまらず、経営課題への適切な助言や販路拡大等の経営支援、ニーズに合致した多様な金融サービスの提供が強く期待されている。

    • マル2 このような状況を踏まえ、地域密着型金融の取組みについて利用者と地域金融機関の双方にとってより実効的なものとしていく観点から、地域金融機関の経営者や実務者、有識者等から忌憚のない意見を頂いた。これらの意見から、地域密着型金融の取組みに関する課題や改善の方向性を以下のとおり整理することができる。

      • イ 地域密着型金融の推進は、顧客企業(個人事業主を含む。以下同じ。)との長期的な取引関係を前提とした取組みであり、その成果を短期間で金融機関の財務の健全性や収益力の向上に結びつけることは難しい場合が多く、中長期的な視点に立った取組みや評価が重要である。

      • ロ 金融機関の営業店の業績管理が短期間で行われていることもあって、営業現場では、「短期的」な「量」重視に偏りやすくなっている。地道な企業訪問や経営相談・経営指導など、短期的な効果の測定が必ずしも容易でない継続的な取組みに関する姿勢や活動を評価・推進していくための工夫が必要である。

        また、金融機関は、当局に対する取組み実績の報告や開示を意識するあまり、網羅的な実績作りに陥りがちな面があり、当局の関与についても工夫が必要である。

      • ハ 地域金融機関は、人材やノウハウの面から、顧客企業に対し十分なソリューション(経営目標の実現や経営課題の解決を図るための方策)を必ずしも提案できていない。各業種に関する知識の吸収などノウハウの底上げが必要であり、営業店の人材育成、本支店間の連携強化、外部専門家や外部機関等との連携といった対応が課題となっている。

        顧客企業の経営改善や再建に際して金融機関に求められるのは、まずは、当該企業との日常的・継続的な接触を更に深めながら、その中で当該企業の事業価値を見極め、経営課題を発見・把握していく営業職員の目利き能力の向上である。

        顧客企業の経営課題を発見・把握した後は、金融機関が課題解決のための役割を常に全て担うのではなく、必要に応じ、積極的に地域の外部専門家や外部機関の知見・ノウハウを集めて対処していくことが有効である。また、金融機関が顧客企業の経営改善・再建支援を行うに当たって、債権者としての立場との利益相反が懸念される場合、これを防止するという観点からも、中立的な立場で関与できる外部専門家や外部機関等との連携は有効であると考えられる。

      • 二 顧客企業の創業、成長、経営改善・再建のためには、まずは、当該企業の経営者自身が明確なビジョンをもって自ら主体的に取り組むことが重要である。自らの経営課題を正確かつ十分に認識できていない経営者も少なくないため、経営者の意識改革も必要である。

      • ホ 顧客企業の発展のためには、地域や広域の活性化策の中に、当該企業や取引先を戦略的に位置づけ支援することが有益である。そのためには、地方公共団体、商工関係団体等との連携が必要であり、特に、地方公共団体が実施する計画的で継続的な取組みとの有機的連携が重要である。

      • ヘ 単なる金利の高低では計れない地域密着型金融のメリット(コンサルティング機能や長期的・安定的な金融仲介機能の提供)を地域の利用者に広く理解してもらうためには、積極的な情報発信、PRが必要である。発信する情報は、金融機関の創意工夫により、利用者が興味や関心を持てる具体的で分かりやすい内容とすることが重要である。

      • ト 地域の中小企業等を支え地域経済を活性化するため、地域の関係者の連携・協力が一層重要になってきている。地域金融機関は、そうした連携・協力体制の中で、大きな役割を果たすことが期待されている。地域金融機関の経営者は、自ら強い使命感を持ち、地域金融機関と顧客・地域社会がともに栄えていくビジネスモデルを確立し具体的な取組みを推進するため、主導性を存分に発揮していく必要がある。地域金融機関はこうした取組みにより、地域の関係者からの期待に応えるとともに、顧客企業や地域経済全体の発展を通じて自らの顧客基盤を維持・拡大し、収益力や財務の健全性の向上にもつなげていくことが期待される。

        • (注)地域密着型金融については、年1回、「利用者等の評価に関するアンケート調査」を実施し公表してきた。加えて、平成22年5月から6月にかけて地域金融機関の経営者から地域密着型金融の取組みに関する意見の提出を受けたほか、同年11月から12月にかけて地域金融機関の経営者や実務者、有識者等と面談し、特に顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮の現状や課題等について意見交換を行った。

    • マル3 以上のような課題認識を踏まえ、地域金融機関における地域密着型金融の取組みの一層の促進を図るため、今般、以下のとおり、監督指針を改正することとした。

      • (注)平成22年12月24日に公表した「金融資本市場及び金融産業の活性化等のためのアクションプラン」において、「地域密着型金融の促進」を「中小企業等に対するきめ細かで円滑な資金供給」の施策の一つとして掲げている。

      「II-5-2 基本的考え方」においては、当局、地域金融機関、利用者等の関係者の認識の共有に資するため、地域密着型金融の目指すべき方向、特に地域金融機関が発揮すべきコンサルティング機能を具体的に示している。

      「II-5-3 主な着眼点」においては、個々の具体的な取組みは各金融機関の自主的な経営判断に委ねつつ、当局は各金融機関に対し地域密着型金融を中長期的な視点に立って組織全体として継続的に推進するための態勢の整備・充実を促すという考え方の下、監督に当たって重点的に検証すべき態勢面等の着眼点を示している。

      「II-5-4 監督手法・対応」においては、地域金融機関の規模・特性等を踏まえた自主的・創造的な取組みを促すためのフォローアップや動機付け、環境整備の手法を示している。

  • (2) 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けの5類感染症移行等を受けた地域密着型金融の推進のための監督指針の改正

    新型コロナウイルス感染症により、我が国の経済社会は大きく傷ついたが、令和5年5月に新型コロナウイルス感染症の感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)をいう。)上の位置付けが5類感染症に移行したことを受け、社会経済活動の正常化が進み、我が国は本格的な経済回復、そして新たな経済成長の軌道に乗ることが期待されるようになった。他方で、原材料・エネルギー価格等の高騰や円安、人手不足の影響等により、厳しい環境に置かれた事業者が数多く存在している中、官民の金融機関において実施した実質無利子・無担保融資の返済が本格化した。特に地域金融機関においては、地域産業や事業者を下支えし、地域経済の回復・成長に貢献することが重要であり、これがひいては地域金融機関自身の事業基盤の存立に関わる問題であると再認識する必要がある。

    こうした背景のもとで、地域金融機関による、資金繰り支援にとどまらない、事業者の実情に応じた経営改善や事業再生支援等の重要性が改めて認識されることとなったことを踏まえ、事業者支援の一層の推進を図るため、令和6年4月、監督指針を改正することとした。

II-5-2 基本的考え方(地域密着型金融の目指すべき方向)

  • (1) 地域経済の活性化や健全な発展のためには、地域の中小企業等が事業拡大や経営改善等を通じて経済活動を活性化していくとともに、地域金融機関を含めた地域の関係者が連携・協力しながら中小企業等の経営努力を積極的に支援していくことが重要である。なかでも、地域の情報ネットワークの要であり、人材やノウハウを有する地域金融機関においては、資金供給者としての役割にとどまらず、地域の中小企業等に対する経営支援や地域経済の活性化に積極的に貢献していくことが強く期待されている。また、外部環境が大きく変化した等、地域の中小企業等が過剰な債務を抱えるようになった場合には、地域金融機関において地域産業や顧客企業を下支えし、地域経済の回復・成長に貢献することが重要であることから、資金繰り支援にとどまらない、顧客企業の実情に応じた経営改善支援や事業再生支援等を先延ばしすることなく実施する必要がある。

  • (2) このため、地域金融機関は、経営戦略や経営計画等(以下「経営計画等」という。)の中で、地域密着型金融の推進をビジネスモデルの一つとして明確に位置づけ、自らの規模や特性、利用者の期待やニーズ等(注)を踏まえて自主性・創造性を発揮しつつ、以下に示す「顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮」、「地域の面的再生や地域産業の下支えへの積極的な参画」、「地域や利用者に対する積極的な情報発信」の取組みを中長期的な視点に立って組織全体として継続的に推進することにより、顧客基盤の維持・拡大、収益力や財務の健全性の向上につなげていくことが重要である。

    • (注)信用金庫及び信用協同組合は、地域銀行にも増して規模や人員に制約がある場合が多いことに加え、相互扶助・非営利という特性を有しており、取引先(会員・組合員資格)が原則として自らの地区内の小規模事業者に限定されている。

  • (3) また、地域金融機関が、地域密着型金融を組織全体として継続的に推進していくためには、経営陣が主導性を十分に発揮して、本部による営業店支援、外部専門家や外部機関等との連携、職員のモチベーション(動機付け)の向上に資する評価、専門的な人材の育成やノウハウの蓄積といった推進態勢の整備・充実(注1・2)を図っていくことが重要である。

    • (注1)規模や人員に制約がある場合が多い信用金庫及び信用協同組合については、中央機関や業界団体による業務補完・支援が不可欠である。したがって、これらを中心とした地域密着型金融の取組みに係る業務、態勢整備の連携等、業態内の相互扶助の実践・充実を図るべく、中央機関・業界団体の機能充実を通じた総合的な取組みを推進することが必要である。また、個別機関は、その自主的な態勢整備・強化に加えて、必要に応じ、中央機関・業界団体の機能活用を通じ、業態内において相互扶助の特性を十分発揮することが重要である。

    • (注2)営業職員の経営改善支援能力の育成にあたっては、金融機関内における教育のみならず、営業職員が組織・地域を超えて、同様の立場にある他の金融機関職員等との間で、知見・ノウハウを共有し、実践していく人的つながり(ネットワーク)に参画させることや外部専門家・外部機関等との連携・協働・研修制度の活用等も、有効な方法と考えられる。

II-5-2-1 顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮

顧客企業の事業拡大や経営改善等に当たっては、まずもって、当該企業の経営者が自らの経営の目標や課題を明確に見定め、これを実現・解決するために意欲を持って主体的に取り組んでいくことが重要である。

地域金融機関は、資金供給者としての役割にとどまらず、長期的な取引関係を通じて蓄積された情報や地域の外部専門家・外部機関等とのネットワークを活用してコンサルティング機能を発揮することにより、顧客企業の事業拡大や経営改善等に向けた自助努力を最大限支援していくことが求められている。

特に、貸付残高が多いなど、顧客企業から主たる相談相手としての役割を期待されている主たる取引金融機関については、コンサルティング機能をより一層積極的に発揮し、顧客企業が経営課題を認識した上で経営改善、事業再生等に向けて自助努力できるよう、最大限支援していくことが期待される。

このような顧客企業と地域金融機関双方の取組みが相乗効果を発揮することにより、顧客企業の事業拡大や経営改善等が着実に図られるとともに、顧客企業の返済能力が改善・向上し、将来の健全な資金需要が拡大していくことを通じて、地域金融機関の収益力や財務の健全性の向上も図られるという流れを定着させていくことが重要である。

地域金融機関のコンサルティング機能は、顧客企業との日常的・継続的な関係から得られる各種情報を通じて経営の目標や課題を把握・分析した上で、適切な助言などにより顧客企業自身の課題認識を深めつつ、主体的な取組みを促し、同時に、最適なソリューションを提案・実行する、という形で発揮されることが一般的であるとみられる。その際、業況悪化の未然防止や早期改善等の観点から、顧客企業の状況の変化の兆候を適時適切に把握し、早め早めの対応を促すことが重要である。以下に地域金融機関に期待される顧客企業に対するコンサルティング機能を具体的に示すこととする。

なお、これは、当局及び地域金融機関、さらには顧客企業の認識の共有に資するために、本来は、顧客企業の状況や地域金融機関の規模・特性等に応じて種々多様であるコンサルティング機能を包括的に示したものである。コンサルティング機能の具体的な内容は、各金融機関において自らの規模・特性、利用者の期待やニーズ等を踏まえ、自主的な経営判断により決定されるべきものであり、金融機関に対して、これら全てを一律・網羅的に求めるものではないことに留意する必要がある。

  • (1)日常的・継続的な関係強化と経営の目標や課題の把握・分析

    • マル1 日常的・継続的な関係強化を通じた経営の目標や課題の把握・分析とライフステージ等の見極め・予兆管理

      顧客企業との日常的・継続的な接触により経営の悩み等を率直に相談できる信頼関係を構築し、それを通じて得られた顧客企業の財務情報や各種の定性情報を基に、顧客企業の経営の目標や課題を把握する。

      そのうえで、以下のような点を総合的に勘案して、顧客企業の経営の目標や課題を分析し、顧客企業のライフステージ(発展段階)や事業の持続可能性の程度(以下「ライフステージ等」という。)等を適切かつ慎重に見極める。

      • ・顧客企業の経営資源、事業拡大や経営改善に向けた意欲、経営の目標や課題を実現・解決する能力
      • ・外部環境の見通し
      • ・顧客企業の関係者(取引先、信用保証協会、他の金融機関、外部専門家、外部機関等)の協力姿勢
      • ・金融機関の取引地位(総借入残高に占める自らのシェア)や取引状況(設備資金/運転資金の別、取引期間の長短等)
      • ・金融機関の財務の健全性確保の観点

      また、顧客企業が取り得るソリューションが多いうちから、地域金融機関が顧客企業の経営者の目線に立って丁寧に対話し、その経営判断をサポートすることが重要である。そのため、地域金融機関は、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じたため、経営に支障が生じ、又は生じるおそれがある状況(以下、II -5において、「有事」という。)へ移行する兆候があるかどうか継続的に把握することにも努める。なお、顧客企業における平時から有事への移行は、自然災害や取引先の倒産等によって突発的に生じるだけでなく、事業環境や社会環境の変化に伴い段階的に生じることが十分に想定される。そのため、地域金融機関は、必要に応じて、自ら有事への段階的移行過程にあることを認識していない者を含めた顧客企業に対し、有事への段階的な移行過程にあることの認識を深めるよう働きかけていく。

    • マル2 顧客企業による経営の目標や課題の認識・主体的な取組みの促進

      顧客企業が自らの経営の目標や課題を正確かつ十分に認識できていない場合も含め、経営の目標や課題への認識を深めるよう適切に助言し、顧客企業がその実現・解決に向けて主体的に取り組むよう促す。また、必要に応じて、他の金融機関、信用保証協会、外部専門家、外部機関等と連携し、顧客企業に対し認識を深めるよう働きかけるとともに主体的な取組みを促す。

      • (参考)中小企業である顧客企業が自らの経営の目標や課題を正確かつ十分に認識できるよう助言するにあたっては、当該顧客企業に対し、「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」の活用を促していくことも有効である。

  • (2)最適なソリューションの提案

    顧客企業の経営目標の実現や経営課題の解決に向けて、顧客企業のライフステージ等を適切かつ慎重に見極めた上で、当該ライフステージ等に応じて適時に最適なソリューションを提案する。その際、必要に応じ、顧客企業の立場に立って、他の金融機関、信用保証協会、外部専門家、外部機関等と連携するとともに、国や地方公共団体の中小企業支援施策を活用する。

    また、今後、顧客企業を取り巻く状況が変化することを想定し、有事に移行してしまったときに提供可能なソリューションについても積極的に情報提供を行う等、顧客企業の状況の変化の兆候を把握し、顧客企業に早め早めの対応を促す。

    特に、顧客企業が事業再生、業種転換、事業承継、廃業等の支援を必要とする状況にある場合や、支援にあたり債権者間の調整を必要とする場合には、当該支援の実効性を高める観点から、外部専門家・外部機関等の第三者的な視点や専門的な知見・機能を積極的に活用する。

    なお、ソリューションの提案にあたっては、認定経営革新等支援機関(中小企業等経営強化法第31条第1項の認定を受けた者をいう。以下、同じ。)との連携を図ることも有効である。

  • (参考)顧客企業のライフステージ等に応じて提案するソリューション(例)
    顧客企業のライフステージ等の類型 金融機関が提案するソリューション  
    外部専門家・外部機関等との連携
    創業・新事業開拓を目指す顧客企業
    • 技術力・販売力や経営者の資質等を踏まえて新事業の価値を見極める。
    • 公的助成制度の紹介やファンドの活用を含め、事業立上げ時の資金需要に対応。
    • 公的機関との連携による技術評価、製品化・商品化支援
    • 地方公共団体の補助金や制度融資の紹介
    • 地域経済活性化支援機構との連携
    • 地域活性化ファンド、企業育成ファンドの組成・活用
    成長段階における更なる飛躍が見込まれる顧客企業
    • ビジネスマッチングや技術開発支援により、新たな販路の獲得等を支援。
    • 海外進出など新たな事業展開に向けて情報の提供や助言を実施。
    • 事業拡大のための資金需要に対応。その際、事業価値を見極める融資手法(不動産担保や個人保証に過度に依存しない融資)も活用。
    • 地方公共団体、中小企業関係団体、他の金融機関、業界団体等との連携によるビジネスマッチング
    • 産学官連携による技術開発支援
    • JETRO、JBIC等との連携による海外情報の提供・相談、現地での資金調達手法の紹介等
    経営改善が必要な顧客企業
    (自助努力により経営改善が見込まれる顧客企業など)
    • ビジネスマッチングや技術開発支援により新たな販路の獲得等を支援。
    • 貸付けの条件の変更等。
    • 新規の信用供与により新たな収益機会の獲得や中長期的な経費削減等が見込まれ、それが債務者の業況や財務等の改善につながることで債務償還能力の向上に資すると判断される場合には、新規の信用を供与。その際、事業価値を見極める融資手法(不動産担保や個人保証に過度に依存しない融資)も活用。
    • 上記の方策を含む経営再建計画の策定を支援(顧客企業の理解を得つつ、顧客企業の実態を踏まえて経営再建計画を策定するために必要な資料を金融機関が作成することを含む)。定量的な経営再建計画の策定が困難な場合には、簡素・定性的であっても実効性のある課題解決の方向性を提案。
    • 中小企業診断士、税理士、経営指導員・よろず支援拠点・中小企業活性化協議会・知財総合支援窓口等からの助言・提案の活用(第三者の知見の活用)
    • 他の金融機関、信用保証協会等と連携した返済計画の見直し
    • 地方公共団体、中小企業関係団体、他の金融機関、業界団体等との連携によるビジネスマッチング
    • 産学官連携による技術開発支援
    事業再生や業種転換が必要な顧客企業
    (抜本的な事業再生や業種転換により経営の改善が見込まれる顧客企業など)
    • 貸付けの条件の変更等を行うほか、金融機関の取引地位や取引状況等に応じ、DES・DDSやDIPファイナンスの活用、債権放棄も検討。
    • 上記の方策を含む経営再建計画の策定を支援。
    • 地域経済活性化支援機構、東日本大震災事業者再生支援機構、中小企業活性化協議会等との連携による事業再生方策の策定
    • 中小企業の事業再生等に関するガイドライン第三部に定める再生型私的整理手続の実施
    • 事業再生ファンドの組成・活用
    • 再生系サービサーの活用
    事業の持続可能性が見込まれない顧客企業
    (事業の存続がいたずらに長引くことで、却って、経営者の生活再建や当該顧客企業の取引先の事業等に悪影響が見込まれる先など)
    • 貸付けの条件の変更等の申込みに対しては、機械的にこれに応ずるのではなく、事業継続に向けた経営者の意欲、経営者の生活再建、当該顧客企業の取引先等への影響、金融機関の取引地位や取引状況、財務の健全性確保の観点等を総合的に勘案し、慎重かつ十分な検討を行う。
    • その上で、債務整理等を前提とした顧客企業の再起に向けた適切な助言や顧客企業が自主廃業を選択する場合の取引先対応等を含めた円滑な処理等への協力を含め、顧客企業自身や関係者にとって真に望ましいソリューションを適切に実施。
    • その際、顧客企業の納得性を高めるための十分な説明に努める。
    • 中小企業の事業再生等に関するガイドライン第三部に定める廃業型私的整理手続の実施
    • 慎重かつ十分な検討と顧客企業の納得性を高めるための十分な説明を行った上で、税理士、弁護士、サービサー等との連携により顧客企業の債務整理を前提とした再起に向けた方策を検討
    事業承継が必要な顧客企業
    • 後継者の有無や事業継続に関する経営者の意向等を踏まえつつ、M&Aのマッチング支援、相続対策支援等を実施。
    • MBOやEBO等を実施する際の株式買取資金などの事業承継時の資金需要に対応。
    • 事業承継・引継ぎ支援センター
    • M&A支援会社等の活用
    • 税理士等を活用した自社株評価・相続税試算
    • 信託業者、行政書士、弁護士を活用した遺言信託の設定
    • (注1)この図表の例示に当てはまらない対応が必要となる場合もある。例えば、金融機関が適切な融資等を実行するために必要な信頼関係の構築が困難な顧客企業(金融機関からの真摯な働きかけにもかかわらず財務内容の正確な開示に向けた誠実な対応が見られない顧客企業、反社会的勢力との関係が疑われる顧客企業など)の場合は、金融機関の財務の健全性や業務の適切な運営の確保の観点を念頭に置きつつ、債権保全の必要性を検討するとともに、必要に応じて、税理士や弁護士等と連携しながら、適切かつ速やかな対応を実施することも考えられる。

    • (注2)上記の図表のうち「事業再生や業種転換が必要な顧客企業」に対してコンサルティングを行う場合には、中小企業の再生支援のために、以下のような税制特例措置が講じられたことにより、提供できるソリューションの幅が広がっていることに留意する必要がある。

      • ・企業再生税制による再生の円滑化を図るための特例(事業再生ファンドを通じた債権放棄への企業再生税制の適用)
      • ・合理的な再生計画に基づく、保証人となっている経営者による私財提供に係る譲渡所得の非課税措置
  • (3) 経営改善・事業再生等の支援が必要な顧客企業に対する留意点

    • マル1 経営再建計画の策定支援

      (2)に掲げるソリューションのうち経営再建計画の策定が必要となるものについて、金融機関と顧客企業、必要に応じて他の金融機関、信用保証協会、外部専門家、外部機関等との間で合意された場合(金融機関から提案されたソリューションが顧客企業、必要に応じて他の金融機関、信用保証協会、外部専門家、外部機関等との協議等を踏まえて修正された後に合意に至る場合を含む。)、速やかに、当該ソリューションを織り込んだ経営再建計画の策定に取り組むこととなる。

      経営再建計画は、顧客企業が本質的な経営課題を認識し改善に向けて主体的に取り組んでいくためにも、できる限り、顧客企業が自力で策定することが望ましい。その際、金融機関は、経営再建計画の合理性や実現可能性、(2)に掲げるソリューションを適切に織り込んでいるか等について、顧客企業と協力しながら確認するよう努める。

      ただし、顧客企業が自力で経営再建計画を策定できない場合や地域金融機関の積極的な関与が有効であると考えられる場合には、顧客企業の理解を得つつ、経営再建計画の策定を積極的に支援(顧客企業の実態を踏まえて経営再建計画を策定するために必要な資料を金融機関が作成することを含む。)する。その際、顧客企業の経営改善に寄与する内容となるよう、顧客企業の置かれた状況を十分に踏まえた計画策定支援を行う。また、金融機関単独では経営再建計画の策定支援が困難であると見込まれる場合であっても、外部専門家・外部機関等の第三者的な視点や専門的な知見・機能を積極的に活用し、計画策定を積極的に支援する必要があることに留意する。

      なお、経営再建計画の策定にあたっては、中小企業の人員や財務諸表の作成能力等を勘案し、大企業の場合と同様な大部で精緻な経営再建計画等の策定に拘ることなく、簡素・定性的であっても、顧客企業の経営改善や事業再生等に向けて、実効性のある課題解決の方向性を提案することを目指す。また、地域金融機関が、国や地方公共団体の中小企業支援施策を活用して金融機関が資金繰りの管理や自社の経営状況の把握などの基本的な経営改善の計画(基本的な事項に関する経営改善計画。以下「基本的経営改善計画」という。)等の策定支援を行う場合には、優越的地位の濫用の防止にも留意しつつ、当該支援施策の活用が真に顧客企業のニーズに合致したものであることを確認する必要がある。

      • (注1)顧客企業に対し貸付けの条件の変更等を行った場合であっても、経営再建計画や課題解決の方向性が、実現可能性の高い抜本的な経営再建計画に該当する場合には(該当要件については、本監督指針 III-4-9-4-3銀行法及び再生法に基づく債権の額の開示区分を参照のこと。)、当該経営再建計画や課題解決の方向性に基づく貸出金は貸出条件緩和債権には該当しないこととなる。

      • (注2)仮に中小・零細企業等が経営改善計画等を策定していない場合であっても、債務者の技術力、販売力や成長性等を総合的に勘案し、債務者の実態に即して「金融機関が作成した経営改善に関する資料」がある場合には、これを「実現可能性の高い抜本的な計画」とみなして、「貸出条件緩和債権」には該当しないこととなる(III -4-9-4-3銀行法及び再生法に基づく債権の額の開示区分を参照のこと。)。

    • マル2 新規の信用供与

      積極的かつ適切に金融仲介機能を発揮する観点から、貸付けの条件の変更等を行った顧客企業から新規の信用供与の申込みがあった場合であって、新規の信用供与により新たな収益機会の獲得や中長期的な経費削減等が見込まれ、それが顧客企業の業況や財務等の改善につながることで債務償還能力の向上に資すると判断される場合には、積極的かつ適時適切に新規の信用供与を行うよう努める。

    • マル3 経営改善・事業再生支援に関する積極的な取組み等

      地域金融機関は、自身が主たる取引金融機関である顧客企業に対しては丁寧に対話を行ったうえで実情に応じた経営改善支援や事業再生支援等に積極的に取り組んでいく。

      また、上記のほか、貸付残高が少ない顧客企業や、保全されている債権の割合が高い顧客企業、信用保証協会の保証付き融資の割合が高い顧客企業に対しても、自身の経営資源の状況等を踏まえつつ、必要に応じて早めに他の金融機関や信用保証協会、外部専門家、外部機関等と連携し、顧客企業の実情に応じた経営改善支援や事業再生支援等に取り組んでいく。

      なお、地域金融機関が顧客企業の主たる取引金融機関である場合において、当該地域金融機関が地域経済活性化支援機構又は東日本大震災事業者再生支援機構の機能を活用して当該顧客企業の事業再生支援を行うときは、当該地域金融機関が主体的かつ継続的に関与していく。

  • (4)顧客企業等との協働によるソリューションの実行及び進捗状況の管理

    顧客企業や連携先とともに、ソリューションの合理性や実行可能性を検証・確認した上で、協働してソリューションを実行する。

    ソリューションの実行後においても、必要に応じて連携先と協力しながら、ソリューションの実行状況を継続的にモニタリングするとともに、経営相談や経営指導を行っていくなど、進捗状況を適切に管理する。

    特に、国や地方公共団体の中小企業支援施策を活用しつつ、基本的経営改善計画の策定を金融機関が支援した場合には、当該金融機関が率先して当該計画の進捗状況について適切にモニタリングを行う。

    また、顧客企業へ貸付けを行っている金融機関が複数存在することを認識している場合は、必要に応じ、それらの金融機関や信用保証協会と連携を図りながら進捗状況の管理を行うこととする。

    なお、進捗状況の管理を行っている間に、ソリューションの策定当初には予期し得なかった外部環境の大きな変化等を察知した場合には、実行しているソリューションについて見直しの要否を顧客企業や連携先とともに検討する。見直しが必要な場合は、そうした変化や見直しの必要性等を顧客企業が認識できるよう適切な助言を行った上で、ソリューションの見直し(経営再建計画の再策定を含む。)を提案し、顧客企業や連携先と協働して実行する。

    • (注)ソリューションの実行に当たっては、上記(3)マル3にも留意する。

II-5-2-2 地域の面的再生や地域産業の下支えへの積極的な参画

地域金融機関は、成長分野の育成や産業集積による高付加価値化などの地域の面的再生に向けた取組みや地域産業、顧客企業を下支えし、地域経済の回復・成長に貢献する取組みに積極的に参画することが期待されている。

このため、まずは、利用者や関係機関との日常的・継続的な接触を通じて得られる各種の地域情報を収集・蓄積しつつ、地域経済の課題や発展の可能性等を把握・分析することが重要である。

その上で、自らが貢献可能な分野や役割を検討し、例えば、地方公共団体による地域活性化に関するプロジェクトに対して情報・ノウハウ・人材を提供すること、地方公共団体や中小企業関係団体及び地域経済活性化支援機構等の関係機関と連携しながら地域的・広域的な活性化プランを策定すること等により、地域の面的再生や地域産業の下支えに向けて積極的な役割を果たしていくことが重要である。

その際、例えば、地域活性化プランの中に自らの顧客企業を戦略的に位置づけ支援するなど、地域経済全体の活性化と同時に顧客企業の事業拡大や経営改善を図っていくという視点も重要である。

なお、このような地域の面的再生や地域産業の下支えへの参画については、地域金融機関にコストを無視した地域貢献までを求めるものではない。地域金融機関は、コストとリスクを適切に把握しつつ、中長期的な視点に立って、自らの経営基盤である地域の面的再生や地域産業の下支えに積極的に取り組むことにより、収益力や財務の健全性の向上につなげていくことが重要である。

II-5-2-3 地域や利用者に対する積極的な情報発信

地域金融機関は、地域密着型金融の取組みに関して、具体的な目標やその成果を地域や利用者に対し積極的に情報発信していくことが重要である。

その際、地域密着型金融は顧客企業にとっても大きなメリットがあること、すなわち、金融機関との関係を単なる金利の高低で計るのではなく、地域密着型金融を積極的に推進している金融機関との信頼関係の強化を通じて、当該金融機関によるコンサルティング機能や長期的・安定的な金融仲介機能の提供が期待できることを積極的かつ具体的に発信していくことが重要である。更に、地域の面的再生や地域産業の下支えへの積極的な参画に関する取組みや顧客企業の経営状況に応じたソリューションや経営改善・事業再生支援に関する取組みを積極的に発信し、自らの経営基盤である地域の経済や社会に対して責任ある立場を保持し続けるという意思を表明することにより、利用者の信頼や支持を高めていくことも重要である。

このような情報発信を通じて、地域密着型金融の取組みに対する利用者の理解を深め、金利競争に陥ることなく個性的なサービスを推進し、地域における評価を確立することにより顧客基盤の維持・拡大を図り、収益力や財務の健全性の向上につなげていくことが重要である。

II-5-3 主な着眼点

以上の基本的な考え方(地域密着型金融の目指すべき方向)を踏まえ、各地域金融機関が地域密着型金融の取組みを組織全体として継続的に推進するための態勢整備の状況について以下の着眼点に基づき検証していく。

なお、以下の着眼点に定める具体的な内容や水準については、各金融機関において、自らの規模や特性、利用者の期待やニーズ等を踏まえ、自主的な経営判断により決定されるべきものであり、金融機関に一律・画一的な対応を求めるものではないことに留意する必要がある。

  • (1)「II-5-2 基本的考え方」の「II-5-2-1」~「II-5-2-3」の取組みを推進するために、経営陣は、主導性を十分に発揮して、これらの取組みを経営計画等に明確に位置付けるとともに、当該経営計画等を組織全体として着実に遂行できるよう、職員への周知徹底も含め必要な態勢の整備に努めているか。また、取組みの成果を検証し、必要な改善策を経営計画等に反映するよう努めているか。

  • (2)地域密着型金融の取組みを組織全体として推進するため、本部による営業店支援態勢の整備に努めているか。例えば、営業店が顧客企業との日常的・継続的な関係を通じて把握した経営状況・経営課題(有事への移行の予兆を含む)等について、本部と当該内容を共有し、必要に応じて営業店と本部が一体となって実効性ある支援に取り組むなど、適切な役割分担のもとで、顧客企業の経営課題に応じた最適なソリューションを提供するための態勢整備に努めているか。

  • (3)個々の顧客企業の経営改善・事業再生等の支援に当たっては、顧客企業に密着して、顧客企業の経営課題に応じた最適なソリューションを、顧客企業の立場に立って提案し実行支援しているか。また、顧客企業の有事への移行の予兆を把握し、顧客企業に早め早めの対応を促すための態勢整備に努めているか。その際、関係する他の金融機関及び関係機関等がある場合には、当該他の金融機関及び関係機関等と連携を行うための会議を開催するなど十分連携・協力を図るよう努めているか。

  • (4)自金融機関における専門的な人材やノウハウの不足の補完や、中長期的な人材育成やノウハウ蓄積の観点を踏まえつつ、必要に応じ、適時適切に、外部専門家(税理士、弁護士、公認会計士、中小企業診断士、経営指導員等)、外部機関(地方公共団体、経済産業局、商工会議所、商工会、中小企業団体中央会、よろず支援拠点、JETRO、JBIC、地域経済活性化支援機構、東日本大震災事業者再生支援機構、中小企業活性化協議会、中小企業基盤整備機構、認定経営革新等支援機関、事業再生ファンド、地域活性化ファンド等)、信用保証協会、他の金融機関等と連携できるよう、本部や営業店等において連携態勢の整備に努めているか。

    特に、顧客企業が事業再生、業種転換、事業承継、廃業等の支援を必要とする状況にある場合や、支援にあたり債権者間の調整を必要とする場合には、判断を先送りせず、外部専門家・外部機関等の第三者的な視点や専門的な知見・機能を積極的に活用しているか。取引金融機関として、外部専門家・外部機関等や中小企業の事業再生等に関するガイドライン等を活用して顧客企業の事業再生支援を行う場合には、積極的な対応をしているか。

    また、取引金融機関は、仮に顧客企業の事業再生が困難であると判断した場合には、外部専門家・外部機関等の第三者の見解を十分に踏まえ必要な支援を行っているか。また、他の金融機関が外部専門家・外部機関等を活用して事業再生支援を行う場合、積極的に連携・協力するよう努めているか。

    加えて、主たる取引金融機関として、地域経済活性化支援機構又は東日本大震災事業者再生支援機構の機能を活用して顧客企業の事業再生支援を行う場合には、主体的かつ継続的に関与しているか。

    • (注)具体的な連携先は、各金融機関において、自らの規模や特性、地域の実情、利用者の期待やニーズ等を踏まえ、自主的な経営判断により決定されるべきものである。金融機関に対し、括弧内に例示している先全てと連携するよう求めるものではなく、またこれら以外の先との連携を排除するものではないことに留意する必要がある。

      また、金融機関が保有する顧客企業の経営に関する情報を連携先と共有する場合には、顧客企業の同意が前提となることに留意する必要がある。

  • (5)コンサルティング機能の発揮・地域の面的再生や地域産業の下支えへの積極的な参画に関する取組みを支えるための専門的な金融手法や知識等のノウハウを持つ専門的な人材の育成や活用に努めているか。また、そうしたノウハウや各種の地域情報を収集・蓄積するとともに、営業店と本部の適切な連携により組織全体で共有するよう努めているか。

  • (6)地域密着型金融の取組みについて、具体的な目標やその成果を地域や利用者に対して積極的に情報発信するよう努めているか。その際、利用者がコンサルティング機能の発揮・地域の面的再生や地域産業の下支えに向けた取組みの成果や地域における融資の取組みなど地域への貢献の状況を適切に評価できるよう工夫しているか。また、利用者の評価を金融機関の業務に適切に反映するための態勢整備が図られているか。

    • (注1)各地域金融機関においては、地域密着型金融の推進に関する基本方針、重点事項、具体的な目標とその成果等について、定期的に、自主性・創造性を発揮しつつ分かりやすい形でホームページ等において公表することが望まれる。

    • (注2)利用者の理解を深めるとともに、金融機関間の知見・ノウハウの共有に資する観点から、個別金融機関における情報発信に加え、業界団体が中心となって、業界全体の取組み状況や取組み事例集を公表するなど、各業態の特色ある取組みを積極的に情報発信することが望まれる。

  • (7)職員のモチベーションの向上に資するため、顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮・地域の面的再生や地域産業の下支えへの積極的な参画に関する取組みを業務上の評価(営業店の評価を含む。)に適正に反映するよう努めているか。

  • (8)定期的かつ必要に応じ、内部監査等を実施することにより、地域密着型金融を推進するための態勢が整備されていることを確認しているか。また、当該監査等の結果を踏まえ、必要に応じて推進態勢を改善・充実していくなど、監査等を有効に活用する態勢が整備されているか。

  • (9)信用金庫及び信用協同組合については、必要に応じ、地域密着型金融の取組みに係る中央機関・業界団体が有する各種業務支援・補完機能を有効に活用するための態勢の整備に努めているか。また、信用金庫及び信用協同組合の中央機関は、傘下金融機関のニーズ等を踏まえて、傘下金融機関に対する業務補完・支援を十分に推進する態勢の整備に努めているか。

    • (注)信用金庫及び信用協同組合の業界団体においては、傘下金融機関のニーズ等を踏まえて、中央機関との適切な役割分担の下、傘下金融機関に対する業務補完・支援を十分に推進する態勢を整備することが望まれる。

  • (10)地域金融機関が、国や地方公共団体の中小企業支援施策を活用して基本的経営改善計画の策定支援を行う場合には、優越的地位の濫用の防止に留意しつつ、当該支援施策の活用が真に顧客企業のニーズに合致したものであることを確認する態勢にあるか。また、策定する基本的経営改善計画が、顧客企業の経営改善に効果的な内容となるよう顧客企業の置かれた状況を十分に踏まえた内容となっているか。

II-5-4 監督手法・対応

各金融機関における地域密着型金融の取組みの検証に当たっては、短期的な視点で個別手法の単なる定量的な実績を評価するのではなく、中長期的な視点に立って組織全体として継続的に推進しているかという観点から、経営計画等における位置付けや態勢整備の状況を重視した評価を行うものとする。

また、地域密着型金融の推進に当たっては、各金融機関による規模や特性等を踏まえた自主性・創造性を発揮した取組みを深化・定着させていくような動機付け、環境整備を図っていくものとする。

さらに、地域の中小企業等への支援や地域経済の活性化等のための施策を実施する中小企業庁、経済産業局等の関係省庁はもちろんのこと、政府系金融機関や信用保証協会、外部専門家、外部機関等と中央・地方両レベルで連携強化を図っていくものとする。

  • (1)各種ヒアリングの機会を通じ、上記の監督上の着眼点に基づき、各金融機関における地域密着型金融の取組み状況をフォローアップしつつ、当該取組みが利用者と地域金融機関の双方にとってより実効的なものとなるよう建設的な意見交換を行うことにより、各金融機関が自主性・創造性を発揮しつつ取り組んでいくよう促していく。

    ヒアリングに当たっては、経営計画等の策定、実行、評価の各段階に合わせて、それぞれ、経営計画等における位置づけや内容、進捗状況、取組み成果の評価と次期経営計画等への反映状況を中心に意見交換を行う。

    トップヒアリングにおいては、金融機関経営者から、地域密着型金融の推進に関する経営計画等における位置付け、重点分野(地域・業種等)や当該分野における取組み手法等の戦略、「II-5-3 主な着眼点」に定める態勢整備の状況及びそれらに関する経営陣の主導性の発揮状況等を確認するとともに、経営計画等の着実な実施を促す。

    総合的なヒアリング等においては、営業現場の責任者等から、顧客企業との接触状況を含めたコンサルティング機能の発揮の個別具体的な実践(現場における課題や本部との連携の状況を含む)まで踏み込んで確認する。

    上記ヒアリングを実施するに当たっては、必要に応じて、各地域金融機関の取組状況や地域経済の抱える課題等について政府系金融機関や信用保証協会、外部専門家、外部機関等と意見交換を実施する。その結果はヒアリングにおける対話材料として活用するとともに、爾後の監督対応にも活用する。

  • (2)地域金融機関における地域密着型金融の取組みに関する利用者等の評価を把握するための調査を年1回実施し、その結果を公表するとともに、爾後の監督対応に活用する。

  • (3)各金融機関による規模や特性等を踏まえた自主性・創造性を発揮した取組みを深化・定着させていくような動機付け、環境整備を図るとともに、各財務局等において、地域の実情や課題に応じ、金融機関間の知見・ノウハウの共有に資する取組み(各種会議の開催等)を実施する。

II-6 将来の成長可能性を重視した融資等に向けた取組み

II-6-1 意義

金融が実体経済、企業のバックアップ役としてそのサポートを行うとともに、金融自身が成長産業として経済をリードするためには、金融機関が、支援対象の特性等に適した成長資金を供給する取組みを行っていくことが重要である。こうした取組みを更に促進させる観点から、考え方を整理し、明確化した。

  • (参考)「新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~」(平成22年6月18日:閣議決定)

II-6-2 成長可能性を重視した融資等の取組みに係る基本的考え方

銀行による成長可能性を重視した融資等の取組みについては、各銀行の自主的な経営判断により実施されるべきものであるが、例えば、以下に例示される取組みを行うなど、企業の技術力・販売力・成長性等、事業そのものの採算性・将来性又は事業分野の将来見通し(以下「企業の成長性等」という。)を重視した融資態勢の整備が図られていることが期待されている。

  • (参考)具体的な態勢整備の例

    (なお、以下の態勢整備はあくまで例示であり、成長可能性を重視した融資等の取組みについては、各銀行が自主的な経営判断により行うべきものであることに留意する。)

    • マル1経営陣が、企業の成長性等を重視した融資等への取組みについて、融資に係る方針等に位置付けていること。

    • マル2企業の成長性等を重視した融資等の取組みを推進する担当部署又は担当者の指定又は配置等、銀行内における体制が整備されていること。

    • マル3企業の成長性等、事業分野別の業況等又は取引先企業の顧客に関する情報(ニーズの動向)等について、十分に調査・分析・議論した上で、営業店と本部との適切な連携により組織全体でこうした情報等を共有し、営業(取引先企業に対する経営相談等を含む。)及び融資審査の過程で適切に活用していること。

      また、必要に応じて、営業(取引先企業に対する経営相談等を含む。)及び融資審査の過程で、外部専門家・外部機関等との連携を通じて、企業の成長性等を客観的・合理的に評価していること。

    • マル4融資審査の過程で企業の成長性等を適切かつ十分に評価することが、融資審査に関する内部規程等に盛り込まれていること。

    • マル5企業の成長性等を重視した融資等への取組みの重要性について、融資担当者や審査担当者に周知徹底を図るとともに、研修・教育等を通じ、成長性等を適切に評価する能力の向上に努めていること。

II-6-3 監督手法・対応

銀行による成長可能性を重視した融資等の取組み状況について、ヒアリング及び通常の監督事務等を通じて把握する。

II -7 消費者向け貸付けを行う際の留意点

II -7-1 意義

我が国における消費者金融市場を、中長期的に健全な市場として形成する観点から、同市場における個人向け貸付け(住宅ローンを除く。以下「消費者向け貸付け」という。)について、銀行による社会的責任も踏まえた積極的な参加が望まれる。

一方、銀行が消費者向け貸付けを行う場合、適切な審査や厳しい取立ての防止など、改正貸金業法(平成22年6月施行)における多重債務の発生抑制の趣旨や利用者保護等の観点を踏まえ、所要の態勢が整備されることが重要である。

また、貸金業者による保証を付した銀行による貸付けには、改正貸金業法第13条の2に規定するいわゆる総量規制等、同法の適用はないが、顧客保護やリスク管理の観点から、本項に規定している所要の態勢整備を図ることが重要である。

II -7-2 主な着眼点

  • (1)改正貸金業法の趣旨を踏まえた適切な審査態勢等の構築

    • マル1借入状況や返済計画、返済実績、年収や資産の状況などを踏まえ、顧客が借入申込額に対して返済能力を有していることを確認する仕組みを審査過程に設けるなど、銀行による貸付けが顧客にとって過剰な借入れとならないよう顧客の実態を踏まえた適切な審査態勢が構築されているか。

    • マル2消費者向け貸付けは、信用情報機関の情報を利用した審査や債権管理・回収など特有の手法が存在する。この貸付け手法に伴うリスクを把握し、適切に管理し、経営陣がその状況を理解して必要な指示を行っているか。

  • (2)審査等における第三者が保有する信用情報の利用

    消費者向け貸付けの審査や債権管理(以下この項において「審査等」という。)に当たり、借り手消費者の返済能力等に関する信用情報が自行に乏しい場合、これを補う手段として信用情報機関の情報を入手したり、信用保証会社の保証審査を受けたりする場合がある。

    その際、次の点に留意したリスク管理態勢が構築されているか。

    • マル1審査等に当たっては、信用保証会社の保証諾否の結果や信用情報機関の情報のみに依存することなく、自ら保有する情報と共に活用することで、債務者の状況を銀行として適切に判断する態勢が整備されているか。

    • マル2貸倒実績率や信用保証会社による代位弁済率の推移等を把握し、信用情報としての保証諾否等の結果の適切性を継続的に検証できる態勢が整備されているか。

    • マル3特に信用保証会社を利用する場合には、当該信用保証会社の財務状況や保証能力を確認する態勢が整備されているか。

    • マル4上記マル2及びマル3の態勢整備を行うとともに、必要に応じ、信用保証会社や信用情報機関と保証審査や情報処理の適切性について協議しているか。

    • マル5当該信用保証会社や信用情報機関において、適切な保証審査や情報処理の手続きが規定され、かつ、当該規定に基づき業務が適正に運営される態勢が整備されていることを確認しているか。

  • (3)法令遵守等

    • マル1改正貸金業法の趣旨を踏まえた対応

      銀行が消費者向け貸付けを扱う際にあっても改正貸金業法の規制の趣旨を踏まえたうえで、顧客保護等の観点から、例えば下記のような態勢が整備されているか。

      • イ.回収・取立てに関する事項

        消費者向け貸付けの回収や取立ての際、人を威迫し、又は人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしない態勢を整備しているか。また、代位弁済後の求償権実行の際、信用保証会社による過度の督促や強引な回収が行われないよう、予め信用保証会社の回収手続きを確認するなどの態勢を整備しているか。

      • ロ.苦情処理態勢

        苦情等対処に関する内部管理態勢を確立する際には、債務者のみならず信用保証会社が代位弁済を行った場合の元債務者への対処をも踏まえた態勢が整備されているか。

        なお、相談・苦情の内容に応じ、顧客保護や顧客の生活再建の観点から、外部機関や地方公共団体等の相談センターや弁護士会等を適切に紹介するなどの取組みを行うことが望ましい。

    • マル2反社会的勢力との関係遮断

      資金使途を問わない消費者向け貸付けの場合であっても、反社会的勢力との関係を遮断する態勢を整備しているか。また、ヤミ金融からの借入が判明した顧客に対しては、関係機関に相談するよう指導する態勢が整備されているか。

    • マル3その他

      子会社等(銀行及びその銀行持株会社の子会社、子法人等、関連法人等)の信用保証会社の保証を付した融資に取り組む場合、当該子会社等の信用保証会社との取引が実質的に同社への支援となっており、銀行法第13条の2(いわゆるアームズ・レングス・ルール)に違反していないか。

II -7-3 監督手法・対応

各種ヒアリング及び検査結果等により、消費者向け貸付けの業務運営体制に問題があると認められる場合には、法第24条に基づき報告を求めて検証し、検証の結果、業務運営の適切性や顧客保護に重大な問題があると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出するものとする。

また、検証の結果、経営として、法第12条の2第2項及び施行規則第13条の7に規定する「健全かつ適切な業務の運営を確保するための措置に関する社内規則等(中略)を定めるとともに、従業員に対する研修その他の当該社内規則等に基づいて業務が運営されるための十分な体制を整備」することを怠っていたことにより、貸付けの回収若しくは取立ての際に人を威迫し、又は人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動を反復・継続するなど、重大な法令違反又は公益を害する行為が認められるときは、法第27条に基づく業務停止命令を検討する必要があることに留意する。

なお、行政上の判断に当たっては、本監督指針における「信用リスク」、「反社会的勢力による被害の防止」、「利用者保護等」、「顧客等に関する情報管理態勢」、「外部委託」、「苦情等への対処(金融ADR制度への対応も含む)」、「銀行に関する苦情・情報提供等」、「子会社等」、「銀行代理業」など消費者向け貸付け以外の業務等に関する監督の着眼点や手法・対応も十分に踏まえる必要がある。

II -8 障がい者等に配慮した金融サービスの提供

II -8-1 意義

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)により、事業者には、障害者に対する不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の義務が課せられており、これを遵守する必要がある。

また、銀行は、成年後見制度等の対象でなく意思表示を行う能力がありながら、視覚・聴覚や身体機能の障がいのために銀行取引における事務手続き等を単独で行うことが困難な者(以下「障がい者等」という。)に対しても、視覚や聴覚に障がいのない者等と同等のサービスを提供するよう配慮する必要がある。

このため、各銀行においては、障がい者等に関する法令等を遵守するとともに、平成22年8月26日付で金融庁監督局長が金融機関業界団体等に対して発出した要請文「視覚障がい者に配慮した取組みの積極的な推進について」に示された「視覚障がい者対応ATMの増設」や「複数の行員の立会いによる視覚障がい者への代筆及び代読の規定化並びに円滑な実施」など、視覚障がい者からの要望等を踏まえた取組みを積極的に推進するよう努めることが重要と考えられる。

II -8-2 主な着眼点

  • (1)総論

    • マル1「金融庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」(平成28年告示第3号。以下「障害者差別解消対応指針告示」という。)の各規定に基づき、適切に対応しているか。

    • マル2自行の店舗若しくは設備又は取引に係る手続きにおいて、障がい者等の金融取引の利便性を向上させるよう努めているか。

      また、銀行の店舗若しくは設備の新設又は新しい手続きの導入の場合に、必要に応じて、障がい者等に配慮した仕様を検討しているか。

    • マル3銀行が、障がい者等に配慮した取組みを推進するにあたっては、国及び地方自治体などにおける障がい者支援に係る施策を確認し、必要に応じて、銀行のサービスにおいても利用するなどしているか。

    • マル4障がい者等から銀行に対し、意見(相談、苦情を含む。)があった場合、それらを踏まえた取組みを行うよう努めているか。また、障がい者等からの意見を完全に実現できない場合であっても、代替策を検討するなどしているか。

  • (2)業務運営態勢等

    • マル1自筆が困難な障がい者等への代筆について

      障がい者等のうち自筆が困難な者(以下、「自筆困難者」という。)から、口頭で預金口座開設等の預金取引や融資取引の申込みがあった場合、以下に示す自筆困難者の保護を図ったうえで、代筆を可能とする旨の社内規則を整備し、十分な対応をしているか。

      なお、自筆困難者からの当該申込みは「口頭による意思表示」に当たると考えられるため、取引関係書類への代筆は、当該申込みに係る意思表示の範囲内に限られることに留意する必要がある。

      • イ.預金取引の場合

        • a.自筆困難者が、預金取引に関して意思表示した内容を次に掲げる者に代筆を依頼した場合、依頼を受けた者による代筆が可能であることを定めているか。

          • i )自筆困難者と同行した者(注1、注2、注3)

          • ii )銀行の職員(複数の職員が確認するものとする。)

          • (注1)自筆困難者が来行せず、当該者からの依頼を受けたとする者のみが銀行に訪れた場合、自筆困難者本人に対して、当該来行者への代理権授与の意思や取引意思を確認することとしているか。

          • (注2)自筆困難者が単独で銀行に訪れた場合は、上記 i )の者との再度来行を求めるのではなく、銀行の職員が代筆することとしているか。

          • (注3)自筆困難者が、例えばヘルパー等の同行者に、代筆を依頼する意思がない場合、当該同行者へ代筆を依頼するよう求めるのではなく、銀行の職員が代筆することとしているか。

        • b.上記a.の社内規則等に、少なくとも以下のことを代筆の際の手続きとして定められているか。

          • i )自筆困難者の意思表示の内容を記録として残すこと。

          • ii )親族や同行者が代筆した場合は、銀行の職員が複数で代筆内容を確認し、確認した事実を記録として残すこと。

          • iii )銀行の職員が代筆した場合は、複数の職員が確認したうえで、その確認をしたという事実を記録として残すこと。

      • ロ.融資取引の場合

        自筆困難者が、融資取引に関して意思表示した内容について、推定相続人や第三者保証提供者など返済義務を承継する可能性のある者(自筆困難者と同行した者に限る。以下「同行推定相続人等」という。)に代筆を依頼した場合、当該依頼を受けた者による代筆が可能とすることを定めているか。

        その際、少なくとも以下のことを社内規則に定めているか。

        • i )自筆困難者の意思表示の内容を記録として残すこと。

        • ii )同行推定相続人等が代筆した場合は、銀行の職員が複数で代筆内容を確認し、確認した事実を記録として残すこと。

        • iii )同行推定相続人等以外の者による代筆を認める場合、複数の職員が立ち会い確認したうえで、その確認をしたという事実を記録として残すこと(注)。

        • (注)同行推定相続人等がいない場合であっても、そのことのみをもって融資を謝絶すると、自筆困難者の自立した日常生活及び社会生活の確保を困難にさせるおそれがある。

          このため、銀行は、自筆困難者の日常生活や社会生活を確保する観点から、公証人制度の利用や弁護士の立会いを求めるなどの解決策を検討することが重要と考えられる。また、当該対応策による融資の際は、銀行の本部や地域本部等の権限のある役席者が確認する態勢を設けるなど、後において、債務の存否を争うようなトラブルが発生しないよう留意する必要があると考えられる。

    • マル2視覚に障がいがある者への代読について

      視覚に障がいがある者から要請がある場合は、銀行の職員が、当該者に係る取引関係書類を代読する規定及び態勢を整備しているか。その際、個人情報の漏洩を防ぐとともに、複数の職員が代読内容を確認し、その確認をしたという事実を記録として残すこととしているか。

    • マル3本人特定事項の確認について

      本人確認書類として障がい者手帳が利用されている場合は、本監督指針「II-3-2-3 顧客等に関する情報管理態勢」を参照する。

    • マル4情報発信について

      障がい者等に配慮した取組みを行っている店舗や全盲の利用者も単独で利用できる機能を付加したATM(以下「対応ATM」という。)等の場所や内容(音声誘導システムの有無などを含む。)について、銀行が、障がい者等の視覚・聴覚等で認識されるよう、情報発信に努めているか。

      また、障がい者等に配慮した取組みを行っている場合、その事例をCSR(本監督指針「II-9 企業の社会的責任(CSR)についての情報開示等」を参照のこと)事例として積極的に公表することが望ましい。

    • マル5相談苦情対応について

      本監督指針「II-3-2-6-2苦情等対処に関する内部管理態勢の確立」を参照することとする。

      特に、障がい者等から、自立した日常生活及び社会生活を確保することに係る業務に関わる相談苦情等を受けた場合、その改善に向けた検討や取組みを行うよう努めているか。

    • マル6研修等について

      銀行として、障がい者等に配慮した取組みのために整備した態勢の実効性を確保するため、顧客対応を行う全職員に対し、障がい者等に配慮した態勢について研修その他の方策(マニュアル等の配布を含む。)により周知しているか。

  • (3)店舗・設備等

    • マル1銀行の店舗や設備が、障がい者等に利用されやすい仕様となるように配慮しているか。なお、当該店舗が建物賃借や借地関係にある物件である場合も、障がい者等から要望がある場合は、当該物件の賃貸人や地権者にも協力を仰ぐよう努めているか。

    • マル2個々の営業店においても、必要に応じて、障がい者等の金融取引の利便性を向上させるよう努めているか。

    • マル3特に、視覚障がい者への対応については、例えば、以下のことに努めているか。

      • イ.対応ATM(振込みが可能なものや暗証番号の変更が可能なものが望ましい。)並びに画面のコントラスト及び文字が拡大できるもの(大きな画面で、タッチパネルでないものが望ましい。)の設置に配慮しているか。

      • ロ.店舗入口から当該対応ATMまで、視覚障がい者を誘導するブロック(以下「点字ブロック」という。)を敷くなどの配慮を行っているか(当該店舗が建物賃借や借地関係にある物件である場合は、視覚障がい者からの要望に応じ、所有者等にも配慮を求めるよう努めているか。)。

        なお、点字ブロックの設置が、車椅子等の移動の障害になる場合も想定して、点字ブロックの敷設方法や通路の確保、銀行の職員等による誘導などを工夫する配慮が必要である。

      • ハ.いわゆるコンビニエンスストアなど預金取扱金融機関でない者が設置、保有するATMを、銀行が利用する場合に、対応ATMが設置されているかを、定期的に情報入手しているか。特に、視覚障がい者からの要望がある場合は、対応ATMの設置を当該設置または保有する者に、適宜、情報提供するよう努めているか。

      • ニ.店舗前の道路に敷設された点字ブロックから店舗入口まで、点字ブロックを敷くなどの配慮を行っているか。敷設できない場合は、音声誘導システムの設置を推進するなど、視覚障がい者が一人で来店できるよう配慮しているか。また、道路管理者に銀行店舗へ誘導するための点字ブロック敷設を働きかけるよう努めているか。

        なお、点字ブロックの設置が、車椅子等の移動の障害になる場合も想定して、点字ブロックの敷設方法や通路の確保、銀行の職員等による誘導などを工夫する配慮が必要である。

      • ホ.インターネットバンキングやテレフォンバンキング等を行う場合、視覚障がい者が利用できるようなシステムを構築するなどの配慮を行っているか。

      • ヘ.キャッシュカードや預金通帳、取引記録を視覚障がい者にも認識できるように提供するよう努めているか。

II -8-3 監督手法・対応

障害者差別解消対応指針告示に基づく取組み及び障がい者等に配慮した取組み並びにこれらの取組みを補完する相談苦情処理機能が構築され機能しているかどうかは、顧客保護及び利用者利便の観点も含め、銀行の健全かつ適切な業務運営の基本に関わることから、関係する内部管理態勢は高い実効性が求められる。

当局としては、障がい者等から銀行に対する意見が寄せられた場合、当該銀行に伝え、内部管理態勢の整備状況を確認する。仮に、当該整備状況に問題が認められる場合は、改善を促すこととする。

また、銀行の内部管理態勢の整備状況に疑義が生じた場合には、必要に応じ、報告(法第24条に基づく報告を含む。)を求めて検証する。当該整備状況に問題が認められる場合には改善を促す。

II -9 企業の社会的責任(CSR)についての情報開示等

II -9-1 意義

  • (1)CSRは、一般的に、企業が多様な利害関係者(ステークホルダー)との関係の中で認識する経済・環境・社会面の責任と、それに基づく取組みと解されており、それを通じて企業の持続可能性を高めることにその意義があると考えられている。

  • (2)銀行のCSRについては、その取組みはもとより、情報開示についても、本来、私企業である銀行が自己責任原則に則った経営判断に基づき行うものであり、その評価も市場規律の下、利用者を含む多様なステークホルダーに委ねられているものである。

  • (3)しかしながら、CSRについての情報開示が分かりやすい形で適時適切に行われることは、利用者が銀行を選択する際、その銀行及び提供されている金融商品・サービスの持続可能性等を判断する上での有用な情報を得やすくなることにつながると考えられる。そのような観点から、銀行がCSRについての情報開示を行う場合の着眼点を明らかにし、最低限の枠組みを示すことで、利用者にとって有益かつ適切な情報開示を促すこととする。

II -9-2 主な着眼点

銀行のCSRについて、利用者を含む多様なステークホルダーが適切に評価でき、銀行の利用者の利便性の向上に資するよう、以下のような点から適切な情報開示がなされているか。

  • (1)目的適合性

    CSR報告が、経済・環境・社会の各分野にわたる包括的なものであり、記述内容についても網羅的かつ社会的背景等を反映しているなど、利用者を含む多様なステークホルダーのニーズに的確に対応するという目的に適合したものとなっているか。また、適切なタイミングで効果的な開示がなされているか。

  • (2)信頼性

    CSR報告が、透明性が高いプロセスを通じて作成され、データや情報が正確かつ中立的で検証可能なものとなっているなど、多くのステークホルダーに受け入れられる信頼性の高いものとなっているか。

  • (3)分かりやすさ

    CSR報告が、利用者を含む多様なステークホルダーに理解されるよう、可能な限り分かりやすいものとなっているか。また、内容の一貫性が維持されるなど、当該銀行の過去の報告との比較可能性に十分留意したものとなっているか。

II -9-3 監督手法・対応

銀行によるCSRを重視した取組みやその情報開示は、銀行が自己責任原則に則った経営判断に基づき任意に行うものであり、上記着眼点を踏まえた報告がなされていない場合においても、監督上の措置を講ずることはない。

ただし、利用者の誤解を招きかねないような、不正確かつ不適切な情報開示を行っている場合については、業務の適切性の観点から検証することとする。

II-10 「経営者保証に関するガイドライン」の融資慣行としての浸透・定着等

II-10-1 意義

中小企業・小規模事業者等(以下「中小企業」という。)の経営者による個人保証(以下「経営者保証」という。)には、中小企業の経営への規律付けや信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や創業を志す者の起業への取組み、保証後において経営が窮境に陥った場合における早期の事業再生を阻害する要因となっているなど、企業の活力を阻害する面もあり、経営者保証の契約時及び履行時等において様々な課題が存在する。

こうした状況に鑑み、中小企業の経営者保証に関する中小企業、経営者及び金融機関による対応についての自主的自律的な準則として「経営者保証に関するガイドライン」(平成25年12月5日「経営者保証に関するガイドライン研究会」により公表。以下「ガイドライン」という。)が定められた。

このガイドラインは、経営者保証における合理的な保証契約の在り方等を示すとともに主たる債務の整理局面における保証債務の整理を公正かつ迅速に行うための準則であり、中小企業団体及び金融機関団体の関係者が中立公平な学識経験者、専門家等と共に協議を重ねて策定したものであって、主債務者、保証人及び対象債権者によって、自発的に尊重され、遵守されることが期待されている。

金融機関においては、経営者保証に関し、ガイドラインの趣旨や内容を十分に踏まえた適切な対応を行うことにより、ガイドラインを融資慣行として浸透・定着させていくことが求められており、その取組方針等を公表することが望ましい。

II-10―2 主な着眼点

  • (1) 経営陣は、ガイドラインを尊重・遵守する重要性を認識し、主導性を十分に発揮して、経営者保証への取組方針等を明確に定めているか。また、ガイドラインに示された経営者保証の準則を始めとして、以下のような事項について職員への周知徹底を図っているか。

    • マル1 経営者保証に依存しない融資の一層の促進(法人と経営者との関係の明確な区分・分離が図られている等の場合における、経営者保証を求めない可能性等の検討を含む。)

    • マル2 経営者保証の契約時の対応(適切な保証金額の設定や、保証契約を締結する場合には、どの部分が十分ではないために保証契約が必要なのか、どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか、の客観的合理的理由について、顧客の知識、経験等に応じ、その理解と納得を得ることを目的とした説明を行うことを含む。)

    • マル3 既存保証契約の適切な見直し(事業承継時の対応・経営者以外の第三者の個人連帯保証に関する適切な見直し(II -11-2(2)参照)を含む。)

    • マル4 保証債務の整理に関する対応(経営者の経営責任の在り方、残存資産の範囲及び保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取扱いを含む。)

    • マル5 その他(ガイドラインにより債務整理を行った保証人に関する情報の取扱いを含む。)

  • (2) ガイドラインに基づく対応を適切に行うための社内規程やマニュアル(「経営者保証に関するガイドライン」第4項(2)に掲げられている要素を参照の上、可能な限り、資産・収益力については定量的、その他の要素については客観的・具体的な目線を示すことを含む。)、契約書の整備、本部による営業店支援態勢の整備等、必要な態勢の整備に努めているか。

  • (3) 主債務者、保証人からの経営者保証に関する相談に対して、適切に対応できる態勢が整備されているか。

  • (4) 停止条件又は解除条件付保証契約、ABL等の経営者保証の機能を代替する融資手法のメニューの充実及び顧客への周知に努めているか。

  • (5) 主債務者たる中小企業等から資金調達の要請を受けた場合には、当該企業の経営状況等を分析した上で、法人個人の一体性の解消等が図られているか、あるいは、解消を図ろうとしているかを検証するとともに、検証の結果、一体性の解消が図られている等と認められる場合は、経営者保証を求めない可能性等を債務者の意向も踏まえた上で検討する態勢が整備されているか。

  • (6) 保証契約を締結する場合には、どの部分が十分ではないために保証契約が必要なのか、どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか、の客観的合理的理由についても、顧客の知識、経験等に応じ、その理解と納得を得ることを目的とした説明を行う態勢が整備されているか。また、その結果等を書面又は電子的方法で記録する態勢が整備されているか。

  • (7) 保証債務の整理に当たっては、ガイドラインの趣旨を尊重し、関係する他の金融機関、外部専門家(公認会計士、税理士、弁護士等)及び外部機関(中小企業活性化協議会等)と十分連携・協力するよう努めているか。

  • (8) 定期的かつ必要に応じ、内部監査等を実施することにより、ガイドラインに基づく対応が適切に行われていることを確認しているか。また、当該監査等の結果を踏まえ、必要に応じて態勢の改善・充実を図るなど、監査等を有効に活用する態勢が整備されているか。

II-10―3 監督手法・対応

金融機関による上記の取組みについては、「主債務者、保証人及び対象債権者がガイドラインに基づく対応に誠実に協力することによって継続的かつ良好な信頼関係が構築・強化されるとともに、各ライフステージにおける中小企業や創業を志す者の取組意欲の増進が図られ、ひいては中小企業金融の実務の円滑化を通じて中小企業等の活力が一層引き出され、日本経済の活性化に資するよう、金融機関等による積極的な活用を通じて、本ガイドラインが融資慣行として浸透・定着していくことが重要」との政策趣旨に鑑み、適切に取り組む必要がある。

こうした取組態勢や取組状況を踏まえ、各種ヒアリングの機会等を通じ、ガイドラインを融資慣行として浸透・定着させるための取組方針等を公表するよう金融機関に促していく。

さらに、監督上の対応として、内部管理態勢の実効性等に疑義が生じた場合には、必要に応じ、報告(法第24条に基づく報告を含む。)を求めて検証し、業務運営の適切性、健全性に問題があると認められれば、法第24条に基づき報告を求め、又は、重大な問題があると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出するものとする。

II-11 経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立等

II-11-1 意義

一般に、多くの中小企業(個人事業主を含む。)においては、家計と経営が未分離であることや、財務諸表の信頼性が必ずしも十分でないなどの指摘があることから、こうした中小企業に対する融資においては、企業の信用補完や経営に対する規律付けの観点から、経営者に対する個人保証を求める場合がある。他方、経営者以外の第三者の個人保証については、副次的な信用補完や経営者のモラル確保のための機能がある一方、直接的な経営責任がない第三者に債務者と同等の保証債務を負わせることが適当なのかという指摘がある。

また、保証履行時における保証人に対する対応如何によっては、経営者としての再起を図るチャンスや、社会生活を営む基盤すら失わせるという問題を生じさせているのではないかとの指摘があることに鑑み、金融機関には、保証履行時において、保証人の資産・収入を踏まえたきめ細かな対応が求められる。

こうした状況に鑑み、「金融資本市場及び金融産業の活性化等のためのアクションプラン」(平成22年12月24日公表)において、「経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行を確立し、また、保証履行時における保証人の資産・収入を踏まえた対応を促進」することとしたところであり、金融機関においては、こうした趣旨を十分に踏まえた対応を行う必要がある。

また、令和2年4月1日に施行された改正民法において、事業に関与していない第三者による個人保証についての意思確認手続を求めることとされた。金融機関においては、前段の趣旨を踏まえて保証契約を締結する際には、改正民法に定められた意思確認手続を経る必要がある。

II-11-2 主な着眼点

  • (1)経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立

    個人連帯保証契約については、経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする方針を定めているか。また、方針を定める際や例外的に経営者以外の第三者との間で個人連帯保証契約を締結する際には、民法に定められた意思確認手続を経たうえで契約を締結することに加え、必要に応じ、「信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止について」における考え方を踏まえているか。特に、経営者以外の第三者が、経営に実質的に関与していないにもかかわらず、例外的に個人連帯保証契約を締結する場合には、当該契約は契約者本人による自発的な意思に基づく申し出によるものであって、金融機関から要求されたものではないことが確保されているか。

    • (参考1)信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止について(抄、平成18年3月31日中小企業庁ウェブサイト)

      (前略)中小企業庁では、信用保証協会が行う保証制度(略)について、平成18年度に入ってから保証協会に対して保証申込を行った案件については、経営者本人以外の第三者を保証人として求めることを、原則禁止とします。

      ただし、下記のような特別な事情がある場合については、例外とします。(中略)

      • 1.実質的な経営権を有している者、営業許可名義人又は経営者本人の配偶者(当該経営者本人と共に当該事業に従事する配偶者に限る。)が連帯保証人となる場合

      • 2.経営者本人の健康上の理由のため、事業承継予定者が連帯保証人となる場合

      • 3.財務内容その他の経営の状況を総合的に判断して、通常考えられる保証のリスク許容額を超える保証依頼がある場合であって、当該事業の協力者や支援者から積極的に連帯保証の申し出があった場合(ただし、協力者等が自発的に連帯保証の申し出を行ったことが客観的に認められる場合に限る。)

    • (参考2)民法における保証契約の取扱い(公証人による保証意思確認手続)

      • 第465条の6
        (公正証書の作成と保証の効力)

        事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。

      • 第465条の9
        (公正証書の作成と保証の効力に関する規定の適用除外)

        前三条の規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。

        • 1 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者

        • 2 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者

          • イ 主たる債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下この号において同じ。)の過半数を有する者

          • ロ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者

          • ハ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者

          • ニ 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合におけるイ、ロ又はハに掲げる者に準ずる者

        • 3 主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者

  • (2)第三者の保証人から保証解除の相談を受けた場合の態勢整備

    第三者の保証人から保証解除の相談を受けた場合には、II -11-1の意義にある指摘に鑑み、保証債務を負うに至った経緯や保証人の保証能力、生活実態を十分に踏まえて、適切な対応を行う態勢となっているか。

  • (3)保証履行時における保証人の履行能力等を踏まえた対応の促進

    保証人(個人事業主たる主債務者を含む。)に保証債務(当該主債務者の債務を含む。)の履行を求める場合には、II -11-1の意義にある指摘に鑑み、保証債務弁済の履行状況及び保証債務を負うに至った経緯などその責任の度合いに留意し、保証人の生活実態を十分に踏まえて判断される各保証人の履行能力に応じた合理的な負担方法とするなど、きめ細かな対応を行う態勢となっているか。

    また、第三者の個人連帯保証の保証履行時等においても、「経営者保証に関するガイドライン」は適用され得るとの点に留意し、必要に応じ、ガイドラインの活用を検討し、ガイドラインに基づく対応を行う態勢となっているか( II -10-2参照)。

    • (注)II-3-2-1-2(1)、(2)、(3)、(5)、(6)も参照のこと。

II-11-3 監督手法・対応

金融機関による上記取組みについては、「経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行を確立し、また、保証履行時における保証人の資産・収入を踏まえた対応を促進する」という政策趣旨に鑑み、適切に取り組む必要がある。また、これらの取組みに当たって、適切な説明責任を果たすことも必要である(II-3-2-1参照)。

加えて、事業に関与していない第三者と個人保証契約を締結する際には、民法に定められた意思確認手続を経る必要がある。

こうした取組み態勢・取組み状況を踏まえ、監督上の対応を検討することとし、内部管理態勢の実効性等に疑義が生じた場合には、必要に応じ、報告(法第24条に基づく報告を含む。)を求めて検証し、業務運営の適切性、健全性に問題があると認められれば、法第24条に基づき報告を求め、又は、重大な問題があると認められる場合には、法第26条に基づき業務改善命令を発出するものとする。

II -12 秩序ある処理等の円滑な実施の確保

II -12-1 外国法準拠の契約に対してステイの決定の効力等を確保するための対応

II -12-1-1 意義

2013年6月の預金保険法改正により、内閣総理大臣は、預金保険法第137条の3第1項に規定する関連措置等が講じられたことを理由とする契約の特定解除等(同条第2項に規定する特定解除等をいう。)を定めた条項(以下、「特定解除等の条項」という。)について、同条第1項に規定する措置実施期間中は、その効力を有しないこととする決定(以下、「ステイの決定」という。)を行うことができるようになった。併せて、事業譲渡等における債権者保護手続の特例等に係る同法第131条の規定が改正された。我が国の金融システムの著しい混乱が生ずるおそれを回避するためには、同法第102条第1項に規定する認定の対象となる金融機関又は同法第126条の2第1項に規定する特定認定の対象となる金融機関等は、外国法準拠の契約に対しても、ステイの決定の効力及び同法第131条に規定する債権者保護手続の特例等(以下、「ステイの決定の効力等」という。)を及ぼすための適切な管理態勢を整備する必要がある。

II -12-1-2 主な着眼点

外国法準拠の契約における早期解約条項等の一時停止の効力の確保に向けた国際的な動向を踏まえ、外国法準拠の契約の管理態勢(注)に係る検証において、個々の取引状況等を考慮しつつ、以下の点に留意することとする。

  • (注)銀行グループで管理態勢を整備する必要がある。

  • (1) 契約締結等に係る留意事項

    預金保険法施行規則第35条の18に規定する「取引所の相場その他の市場の相場がある商品に係る取引又はこれに準ずる取引」のうち、店頭デリバティブ取引、金融等デリバティブ取引、有価証券の買戻又は売戻条件付売買、有価証券の貸借、選択権付き債券売買取引、先物外国為替取引、店頭商品デリバティブ取引及びこれらの取引に類似する取引(これらの取引の担保の目的で行われる取引を含む。以下、総称して「対象取引」という。)に関して、中央清算機関を除く取引の相手方との間で、特定解除等の条項を含む外国法準拠の契約を締結する場合(既存の契約内容を実質的に変更する場合を含む。)及び既存の契約に係る新規の取引を行う場合、取引の相手方が所在する法域にかかわらず、ステイの決定の効力等が当該契約に及ぶことを可能とするために必要な対応(注)を行っているか。

    • (注)以下のような対応が考えられる。

      • ① ステイの決定の効力等が外国法準拠の契約に及ぶことを目的とする国際的に共通のプロトコルを採択するとともに取引の相手方が当該プロトコルを採択していることを確認する対応

      • ② 対象取引にステイの決定の効力等が及ぶことを契約書に明記する対応

  • (2) 既存の契約に係る留意事項

    対象取引に係る特定解除等の条項を含む外国法準拠の既存の契約(当該契約に係る新規の取引を行う場合を除く。)についても、ステイの決定の効力等が当該契約に及ばない場合の影響の重要性を勘案した上で、必要に応じ、上記(1)の対応を行うことが望ましい。

II -12-1-3 監督手法・対応

上記の監督上の着眼点に基づき、銀行グループの管理態勢について深度あるヒアリングを行い、必要な場合には法第24条又は法第52条の31及び預金保険法第136条の規定に基づき報告を求めることとする。

また、報告徴求の結果、秩序ある処理の円滑な実施の確保の観点から重大な問題があると認められる場合には、法第26条又は法第52条の33の規定に基づく業務改善命令及び預金保険法第137条の4の規定に基づく命令の発出を検討するものとする。

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