平成22年論文式試験の出題趣旨

【会計学】

第1問

問題1

本問は、総合原価計算の基礎力と応用力を同時に問う問題である。単純総合原価計算と工程別総合原価計算の違い、工程別総合原価計算を行うにあたり製造工程を区分する際の基本的な考え方、製造間接費の工程別配賦基準、適時な仕損品の把握により不要となる加工費配分額の計算、および累加法による工程別総合原価計算の欠点を問うている。

問題2

本問は、短期利益計画における損益分岐点分析、および活動基準原価計算(ABC)についての理解を問う問題である。リーマン・ショック以降、日本企業は海外移転が急速に進んでいるが、移転を検討している企業の事例を通じて、移転に際しての収益性の分析と、経営管理上の基本諸点について問うものである。

第2問

問題1

問1

(1)原価管理の基本かつ主要な要素のうち、原価改善の概念について理解できているかどうかを問う問題である。

(2)原価改善について、その他の主要な原価管理の要素である原価企画、原価維持との違いが理解できているかを問う問題である。

問2

実務的な原価低減策が直接労務費にどのような影響を及ぼすかについて考える考察力と原価差異分析についての基本的な理解(計算)力を問う問題である。

問3

実務的な原価低減策が材料費にどのような影響を及ぼすかについて考える考察力と材料ミックスの変化についての計算力を問う問題である。

問4

業務改善に基づいて固定費の圧縮をはかることで、原価計算上の配賦レートにどのような影響を与えるかについての考察力および計算力を問う問題である。

問5

原価企画活動は単なる目標原価の設定にとどまらず、機能部門の横連携やサプライヤーとの連携を含む組織的な活動の面を持つ。サプライヤーとの取組み方法について問うことで、原価企画活動の本質を理解しているかを問う問題である。

問題2

本問は取替投資案をめぐる資本予算の知識と計算・応用力を問う。まず、現行案と新機械への取替案のそれぞれの各年の正味キャッシュフローを計算させる(問1、問2、問3)。その上で、伝統的な回収期間法にもとづく回収期間を算定させている(問4)。最後に投資案の正味現在価値を算定させる。また、現実の投資決定では、戦略的な要素も配慮されることに注意を喚起している。(問5)。

第3問

問1

個別企業の決算時における貸倒見積り、退職給付、税効果などに関する会計処理ならびに連結財務諸表の作成プロセスを理解しているかどうかを問う総合計算問題である。単に、一つ一つの論点について解答できるだけでなく、複合的な問題を解く能力があるかどうかを問うている。

問2

本問は、退職給付会計に関する理解度を問う問題である。

(1)退職給付債務の計算および退職給付引当金の計上に際して、実際の退職時の退職給付を見積もって計上する会計処理が採られる根拠を問うている。

(2)年金資産と退職給付債務を両建てで計上したり、退職給付費用と期待運用収益を両建てで計上したりすることをせず、純額のみを計上することの理論的根拠を問うている。

(3)退職給付水準の改訂に伴う会計処理の理解度を問う問題である。平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理することの理論的な根拠を示せるかどうかを問うている。

第4問

問1

仕訳や補助簿という形式で表現された簿記の手続を費用・収益の対応、費用の発生、および収益の実現といった会計計算の基礎となる考え方と関連付けて説明させることで、具体的な記帳処理の意味や正当性に関する理解度を問うている。

問2

連結財務諸表の最近の動向を踏まえた概念とその作成のための基礎となる重要事項について、持分を超える損失の負担に関する連結基礎概念の思考、および連結決算手続における在外子会社の会計処理の統一に関する取扱いの趣旨を問うている。

問3

割引計算によって求められた資産の測定値のもつ意味、および当該測定値の性格について問うとともに、討議資料『財務会計の概念フレームワーク』における「会計情報の質的特性」の理解度を問うている。

第5問

本問は、業績不振な企業を題材にして、種々の資産や負債の交換・移転・減少が利益にどのような影響を与えるかを中心に、総合的な会計処理の知識や理解を問う問題である。また、具体的に会計基準を参照する能力や、公認会計士としての注意力も問うている。

問1

計算問題によって固定資産に関する減損処理や耐用年数の見積りの変更に関する基本的な理解を問うている。

問2

いわゆる分割型の会社分割の理解を踏まえ、事業分離や現物配当について、損益認識を中心とした具体的な理解を問うている。

問3

金融商品が継続的関与を有しながら、売却されている場合の損益認識に関する理解を問うている。

問4

退職給付信託を題材に、金融商品に関する損益認識の応用的な知識を問うとともに、退職給付に関する基本的な理解を問うている。

問5

賃貸している不動産が、資産としてまたは事業として、継続的関与を有しながら譲渡されている場合の損益認識に関する応用力や論理的な思考力を問うている。

問6

資産除去債務を対象に、見積りの変更が生じた場合の会計処理に関する基本的な理解を問うている。

問7

退職給付債務の減少に関連して、応用的な会計処理に関する理解を問うている。

問8

株主において、保有している株式が交換された場合の損益認識に関する理解を問うている。

【監査論】

第1問

「監査上の重要性」は、監査の計画から意見表明までのプロセスにおいて鍵となる概念である。その概念は、監査基準や実務指針等において、さまざまな箇所に登場するが、必ずしも個々の意味が明示されているわけではない。

そこで、本問では、財務諸表監査のなかで重要性概念がどのような位置づけにあるか、さらには職業的専門家としての重要性の判断はいかにあるべきかについて、監査基準及び実務指針等にみられる各規定を踏まえて、それらを体系的につなげて理解し、論理的に説明できるかどうかを問うものである。

第2問

継続企業の前提に関する監査上の取扱いについての出題である。2009年4月の監査基準の改訂を踏まえて、改訂後の監査手続及びそれに伴う四半期レビューにおける取扱いの変更を適切に理解できているかどうかを問うている。

また、単に、特定の一会計期間における状況、あるいは、個別企業における状況だけではなく、時系列的な状況の推移や、連結子会社において債務超過という問題が生じている場合の対応を問うことで、総合的な知識の定着を確認している。

【企業法】

第1問

本問は、株式会社が募集設立の方法で設立された場合における現物出資および財産引受けをめぐる会社法上の問題点についての理解を問うものである。問1では、会社成立時の現物出資財産の価額が定款記載の額に著しく不足するときの発起人等の会社に対する責任についての検討が求められる。問2では、定款に記載のない財産引受けの効力および会社による無効な財産引受けの追認の可否などについての検討が求められる。

第2問

株主の権利行使に関する利益供与の禁止について、その基礎的な知識や制度の趣旨について問うとともに、違反行為に伴う責任について、責任追及の具体的方法、とりわけ株主代表訴訟の問題についての理解を問うものである。問1では利益供与禁止規定の内容と会社自身による請求がどの機関によってなされるかを検討することが求められる。問2では、取締役に対する責任追及に加えて、利益供与を受けた者に対する利益の返還を求める訴えについても検討することが求められる。

【租税法】

第1問

問題1

本問は、所得税法及び法人税法の基本的な問題につき、理解ができているかを問うている。問1については無償での役務の受け取りに関する法人税法22条の考え方、問2については違法所得の益金算入時期に関する法人税法22条の考え方、問3については過払金返還の益金算入時期に関する法人税法22条の考え方、問4については給与所得(所得税法28条1項)及び退職所得の意義(所得税法30条1項)の理解が解答のポイントとなる。

問題2

本問は、ストック・オプションに関する課税問題について、法人と個人の両面から検討させることによって、総合的な事案分析力や法律条文理解力を試している。マル1についてはストック・オプションに関する会計処理と税務処理との相違、マル2については自己株式の取得に伴うみなし配当課税の要件、マル3については権利行使益の所得分類に関する判例(最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁)、マル4については源泉徴収をめぐる法律関係、に関する正確な理解が解答のポイントとなる。

第2問

問題1

本問は、公認会計士として業務を遂行するに当たって必要な法人税に関する基本的な知識を問うものである。すなわち、損益計算書に示された当期純利益に必要な申告調整を行い、法人税法上の課税所得金額、更に納付すべき法人税額を求める過程を問うている。

必要な調整項目の論点として、(1)工事進行基準、(2)自己株式の取得と受取配当等の益金不算入、(3)所得税額控除、(4)租税公課、(5)減価償却、(6)貸倒損失及び貸倒引当金、(7)交際費等、(8)役員退職慰労引当金、(9)リース取引に関する調整額が含まれている。

問題2

本問は、公認会計士として業務を遂行するに当たって必要な所得税に関する基本的な知識を問うものである。ここでは、同一生計親族間の取引と個人・法人間の取引についての所得計算の差異を問うている。

問題3

本問は、公認会計士として業務を遂行するに当たって必要な消費税に関する基本的な知識を問うものである。ここでは示された資料を基に、問1は課税標準額及び課税標準額に対する消費税額、問2は課税売上割合、問3は仕入れに係る消費税額、問4は売上に係る対価の返還等に係る消費税額、問5は納付税額を求めさせる問題である。なお、その論点として、輸出取引等に関する消費税の取扱いが含まれている。

【経営学】

第1問

問題1

世界的にM&Aが盛んになっている今日、企業価値を正確に測定することは非常に重要であり、その際、企業の持つ有形資産だけではなく無形資産の算出も必要になっている。企業の持つ無形資産のうち「ブランド」は企業の現在価値だけではなく将来価値に影響を与える要因であり、企業の価値を評価していくうえで考慮しておかねばならない重要な要因である。本問は企業のブランド価値と価格政策の関係に関する知識を問う問題である。

問題2

企業(組織)を理解するためには、構造(形態)だけでなく、文化(風土)という視点が必要である。本問は、企業文化とその変革に関する基本的知識を問うものである。企業文化は、長期にわたって形成され、目に見えないものであるために、いったん形成されると変革することが難しいといわれる。本問は、企業文化の変革が困難である原因と変革を有効に行うための方策に関する知識を試す問題である。

第2問

問題1

ポートフォリオ理論、CAPM理論に関する基礎的な理解と知識を確認するため、ポートフォリオの収益率の期待値や標準偏差などの数値計算とともに、理論モデルの諸仮定に関する理解を問う問題である。

問題2

投資家が投資判断の基準として利用する財務諸比率とともに、証券市場の企業に対する評価である株価と財務数値との関連性を問う問題である。

問題3

ペイオフの不確実性が1期間2項モデルで表され、債務不履行が生じる可能性があるという状況の下で、事業遂行のための資金調達を100%自己資本で行った場合と部分的に負債で行った場合における企業価値を、裁定の議論を用いて求める問題である。

【経済学】

第3問

問題1

消費者の最適化行動から需要関数ならびに補償需要関数を導出し、それに基づいて代替効果および所得効果を具体的に求める。最適化問題に関する基本的な計算力ならびに概念の理解を試す問題である。

問題2

完全競争企業において生産関数が具体的に与えられているとき、それに基づいて長期と短期の費用関数と企業の最大利潤を計算によって求めるものである。これによって企業の生産技術と利潤最大化行動の基礎的知識を問うものである。

問題3

不完全競争市場の基礎理論に対する理解を問う問題である。同質複占市場における標準的なクールノー均衡についての問題を中心にしながら、余剰概念をつなぎとしてベルトラン均衡と独占均衡に対する理解も確かめる。

問題4

上流の企業が下流の企業に汚染による外部不経済を与えるという状況を用いて市場の失敗の補正の方法を問う問題である。加えて、この問題では企業の利潤最大化についての基本的な計算力を求めている。

第4問

問題1

マクロ経済学の用語に関する基礎知識を問うとともに、基本的な関係式についての理解を確かめる。

問題2

企業の投資行動を説明する代表的な理論であるトービンのQ理論に関する基礎的な理解を問う問題である。トービンのQ理論では限界Qと平均Qという二つの指標がある。問題では両指標の定義や両指標間の関係を正確に理解した上で、実質利子率や資本係数などの数値が与えられた場合に、それらを定量的に導出できるどうかを問うている。

問題3

経済成長理論における基本的な関係式を計算させる問題である。技術進歩率が外生的に与えられる標準的なソロー・モデルを用いて経済成長率を計算させると共に、技術進歩がR&D活動によって内生的に決まる場合について、基本的関係式に関する理解を問う。

【民法】

第5問

問1

未成年者が両親から相続した不動産を、未成年者の法定代理人たる後見人が未成年者を代理して、後見人と利害を一にする後見人の扶養親族に、贈与する契約の効力を問うものである。

問2

仮に、そうした贈与が利益相反行為に当たり無効であるとした場合に、扶養親族から当該不動産を転々譲渡を受けた者において、贈与契約の無効につき善意または悪意であるとき、最終的譲受人が当該不動産を時効により取得できるかどうかを問うものである。

第6問

問1

本問は抵当権(共同抵当)の付着した不動産の低廉譲渡が詐害行為に該当する場合の取消しの方法、範囲、及び原状回復方法を問うものである。

問2

本問は本旨弁済が詐害行為となるか否かを問うとともに、詐害行為となるとしたらそのための要件はなにか、取消しの方法、範囲はいかなるものとなるかを問うている。

【統計学】

第7問

問題1

記述統計に関する2つの問題からなる。

1.格差を測る手法としてしばしば用いられるローレンツ曲線とジニ係数の定義およびその意味する所の理解を問い、あわせて、具体的な計算を求める問題である。

2.度数分布表を作成し、それに基づいて分布を求める能力を問う初等的な問題である。

問題2

2つの離散確率変数に関する同時分布(同時確率の表)から様々な確率分布と期待値や分散など関連する量を評価する小問から構成される。

(1)はそれぞれの周辺分布(周辺確率の表)を求めるもの、(2)は確率変数の期待値を求めるもの、(3)は条件付分布(条件付確率の表)を求めて条件付期待値および条件付分散を求める問題であり、それぞれの定義を理解していれば容易に解答できる数値例である。

問題3

確率と確率分布に関する2つの独立した問題から構成される。

1.は連続するベルヌーイ試行の結果にもとづいて、関連する事象の性質や確率を求める小問からなる。

(1)は連続する試行結果からなる確率変数の独立性に関するもの、(2)、(3)、(4)はそれぞれ特定の事象の確率を計算する数値例である。

2.は正規分布と正規分布から導かれるカイ二乗分布の性質を問う小問からなる。

第8問

問題1

2つの変数の因果関係を記述する回帰分析を題材とする4つの小問から構成される。

(1)は回帰方程式の切片と傾きのパラメータの最小2乗推定値を求める数値例、(2)は説明変数が従属変数の原因ではないことを具体的に検定する問題、(3)は説明変数の将来の値が与えられたときに従属変数の予測値を計算する問題、(4)はデータの背後に構造の違いがある場合の回帰方程式をダミー変数によって設定する問題である。

問題2

ポアソン分布と適合度検定に関する問題である。

(1)ポアソン分布の確率関数の定義にしたがって、ポアソン分布に関する確率を求める問題である。

(2)(1)で求めた確率と、度数分布表の度数を表す確率変数の期待値との関係の理解を試す問題である。

(3)代表的な適合度検定である、カイ2乗検定を本問題に即して正しく適用できるか否かを試す問題である。

問題3

時系列分析に関する問題である。

(1)定常性に関係する定義および用語の知識に関する問題である。

(2)自己回帰モデルについての用語および定常条件に関する知識を問う問題である。

(3)自己回帰モデルのモーメントを誘導する問題である。やや特殊な問題であるが、確率変数の期待値に関する演算公式を理解していれば、選択式の設問でもあり、簡単に解答を見出すことができる。

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