講演等

熊本大学 ~「監査の信頼性と公正な投資市場の確立」について~
平成19年11月21日
公認会計士・監査審査会会長 金子 晃
熊本大学
 平成19年11月21日(水)熊本大学において、金子会長より「監査の信頼性と公正な投資市場の確立」という題目で講演が行なわれ、多数の方に参加いただきました。講演の概要は以下のとおりです。

概要
 本日は「監査の信頼性と公正な投資市場の確立」というテーマで、公正な投資市場の確保について、監査の信頼性という観点から、皆様にお話したいと思います。

 企業はその経済活動・企業活動について会計処理を行い、自らの会社の財務情報を提供し、監査人はその企業の会計処理が適切であることを保証しています。しかし、そのような企業の財務情報や会計処理が適切に実態を示しているかどうかという点に関して、会計監査の信頼性が大きく疑われる事件が世界的に起こりました。
 例えば、2001年に米国でエンロンが不正な会計処理により破綻しましたが、その不正会計処理にアーサー・アンダーセン会計事務所が関与していました。さらに、2002年には米国のワールドコム、2003年にはイタリアのパルマラットという企業でも同じような事態が生じるなど、会計監査の信頼性が世界的に揺らぐような事態が起こりました。わが国においても、国内トップクラス規模の監査法人の公認会計士が企業の不正会計に関与したという事件が発生しました。
 このような状況を受け、投資市場、あるいは金融市場に対する信頼性を確保するため、世界各国において、監査に係る法制度の変更、及び会計監査業界から独立した立場で監査を監視する監査監督機関を設立しようとする動きが起こりました。
 米国では、2002年にPCAOBという組織が作られ、上場企業等を監査する監査事務所をチェックしています。日本の多くの企業も米国で上場しており、これらの企業を監査する監査事務所はPCAOBに登録しなければなりません。これに引き続き、2003年にカナダでCPAB、2004年に英国でPOBという、やはり独立した監査監視組織が設立されています。
 こうした中、日本でも、2003年に公認会計士法の改正が行われ、これまでの「公認会計士審査会」が改組・拡充され、2004年4月に「公認会計士・監査審査会」(以下「審査会」)が設置されました。
 また、最近の動きとして、EUの法定監査指令が出されました。この指令は、各国の独立した機関によって監視されている監査事務所に監査を受けている企業のみが、EU市場に上場を許されるという体制を整備するものです。これを受け、EU加盟国では監査監督機関が出来上がってきています。

 ところで、投資は国境を越えて行われています。日本企業が諸外国で株式を上場し、逆に外国企業が我が国で株式を上場する、そして、上場された株式をボーダレスに投資者が取引する。このように投資市場が世界的に連動している中では、監査の信頼性を国際的に確保するため、関係する機関が国際的に協力していかなければなりません。このため、国際フォーラムの設立など、各国の監査監督機関の国際的協力が進められています。
 以上の他にも、監査に係る課題に関する様々な議論が特に英国から起こり、各国で議論されています。例えば、監査の信頼性を確保するため、監査の品質を高める要因(drivers of audit quality)は何かという議論。また、監査市場の構造が監査の品質にどの様な影響を与えているか、といった議論です。
 後者について、現在、我が国では上場企業の約70%が、規模でみた上位4つの監査法人により監査を受けています。各主要国でも、国際的ネットワークを形成している4大監査法人が70%以上の上場会社の監査を行っています。こうした中、企業側はどのように監査人を選択し、またこうした状況が監査の質にどのような影響を及ぼすのか。こうした議論が行われています。

 それでは、私ども審査会がどういう使命、権限、役割を持った組織なのかについてお話したいと思います。

 まず、その使命についてです。そもそも、監査人は企業から報酬を得てその企業が行った会計処理について監査をし、会計処理の適切性について保証しています。単純に考えれば、監査人は企業のために監査を行っていると思われるかもしれません。しかし、監査人はその企業の財務諸表を利用し、企業に投資する投資者などに対して、会計処理が適切であることを保証しているわけです。つまり、監査人は企業のために監査を行うと同時に、その企業に投資している人に対し企業の提供する財務情報の保証をするという役割を担っているわけです。
 すなわち、公認会計士は企業のためだけでなく投資家の利益を始めとして公益のために監査業務を行っています。審査会はこの公認会計士の監査が適切に行われるよう監査事務所が行っている品質管理をチェックしていますので、まさに公益、また投資者保護のために活動しているというということができます。これは、各国の独立監査監督機関にも共通している使命です。

 次に、審査会の役割をより理解してもらうために投資市場においてそれぞれの参加者や機関がどのように関わっているのかをご説明したいと思います。
 まず、証券取引所が市場を設置、管理・運営し、この市場で株式等を発行したい者が取引所に申請し、審査が行われ、取引が開始されます。また、市場の番人などと呼ばれますが、市場で不適切な取引が行われていないかどうかについて、証券取引等監視委員会が 監視し、取引の適正化を図り、公正な投資市場を維持する役割を担っています。
 さらに、発行された株式や様々な金融商品について、これらを売買する投資者や、間に入って取引を成立させる証券会社等の仲介業者がいます。
 上場企業等の株式等の発行体は、制度上、必ず会計監査を受けることが求められており、監査人が監査を行った財務情報が市場に提供されることで、投資家が安心して取引を行うことができる仕組みになっています。市場において、株式等がどれだけの価値を持っているのかという判断は、この監査人が監査を行った財務情報に基づいて決定されていくわけです。審査会は、発行体の財務情報の適切性を、監査人である監査事務所の監査の品質管理を監視することを通じて確保する役割を投資市場において果たしています。
 なお、私ども審査会では、以上に述べた他に、国家資格たる公認会計士試験を実施しています。取引所、金融商品取引業者を監督している金融庁、証券市場の監視を行う証券取引等監視委員会、そして審査会、これらが有機的に投資市場に関係し、投資者利益(公益)の確保のために活動しているわけです。

 それでは、審査会の審査・検査活動はどのように行われているかについて述べます。日本公認会計士協会(以下、「協会」)のレビュー(「品質管理レビュー」)対象となっている監査事務所は、法令、監査基準及び協会の会則等、さらに監査事務所の内部規程等のうち監査の品質に関する規定への準拠状況について、原則3年に1度、協会からレビューを受けます。審査会は、協会から品質管理レビュー結果の報告を受けて、その内容について審査を行います。そして、審査の結果、公益又は投資者保護のため必要かつ適当と認める場合、公認会計士法に基づき、監査事務所等に対して監査の品質管理が適切に行われているか立入検査を行います。検査が終了しましたら、検査対象先に対し検査結果を通知し、必要な場合には、監査事務所の品質管理を改善させるため、金融庁長官に行政処分その他の措置をとるよう勧告を行います。

 海外においては、アメリカ、カナダ、イギリス等が監査監督機関の先発国であり、我が国はそれに続いています。これら先発国では、4大監査法人などへの検査をすでに実施し、問題点を指摘、改善を要請しています。次に、我が国における活動状況について説明します。
 審査会は、2005年に、協会の品質管理レビューの実態調査を行いました。検査を実施するに当たって、レビューがどのようなものであるかをまず把握するためです。そして翌2006年には、4大監査法人に対し検査を実施し、その結果を公表しました。さらに2007年には、中小規模監査事務所に対する検査結果を取りまとめ公表し、同年6月には、3大監査法人に対し、改善状況を確認するためフォローアップ検査を行い、その結果を公表しています。
 検査の視点としては、海外主要国の監査監督機関の検査の視点も参考にしつつ、事務所全体の品質管理の状況をみています。品質管理の状況をみるために、個別の監査業務を取り上げて検査を行い、監査事務所の監査の品質管理上の問題点を特定し、改善を要請しています。
 例えば、2006年の4大監査法人の検査においては、各監査法人について監査の品質管理に関する業務運営全般に問題点が見られました。組織としての監査業務運営が十分に行われておらず、法令等遵守態勢の整備も不十分な点があり、また地方事務所に対する本部の統制も十分でなく、さらに職業倫理及び独立性が十分に確立されていないというような多くの問題点が認められました。そこで、審査会は4大監査法人に対し業務改善指示を行うよう、金融庁長官に対し勧告を行いました。これを受け、金融庁から4大監査法人に対し、監査の品質管理に関し業務改善指示がなされました。

 最後に、今後の審査会の活動ですが、審査会の委員の任期は3年です。2004年4月の発足後すでに3年が過ぎ、2007年4月からは、審査会は改めて委員の任命がなされ、活動は第2期目に入っています。第2期目では、第1期で指摘を行った監査事務所の問題点についてきちんと改善がなされているかどうかを検査等を通じて確認していくとともに、検査を通じて監査の品質の向上に資するよう貢献していきたいと思っています。

  本日は監査の信頼性と公正な投資市場の確立ということで、主に審査会の業務についてお話させていただきました。どうもありがとうございました。

熊本大学 ~「監査の信頼性と公正な投資市場の確立」について~
(以上)

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