講演等

神戸大学 ~「監査の信頼性と公正な投資市場の確立」について~
平成20年1月21日
公認会計士・監査審査会会長 金子 晃
神戸大学
 平成20年1月21日(月)神戸大学において、金子会長より「監査の信頼性と公正な投資市場の確立」という題目で講演が行なわれ、多数の方に参加いただきました。当日は、監査の信頼性や公認会計士・監査審査会の役割等について講演が行われましたが、その中から国際的な動向や審査会の審査・検査等を中心に紹介します。

1.はじめに
2.監査監督機関に関する国際的な動向について
3.審査会の審査・検査について
4.おわりに

1.はじめに
 本日は皆様に、会計監査の重要性や、現在、世界各国において会計監査を巡る環境変化がどのように進行しているかについてお話をさせていただきます。
 公認会計士が行う監査は、企業の財務情報の公正性及び透明性を確保しています。公認会計士・監査審査会(以下「審査会」)は、公認会計士が行う監査の質の向上を支援することが役割です。このように公認会計士及び審査会は、投資市場の透明性を高め、投資者など企業の経済活動に関係する人々の利益を守るという非常に重要な役割を担っています。
 2001年に米国でエンロンが不正な会計により破綻し、その会計処理に監査事務所が関与するという事件が起きました。その後も米国だけではなく、世界各国において同じような事態が生じたことにより、監査の信頼性や、企業の会計処理の信頼性が大きく揺らぐことになりました。これは投資市場にとっても、経済全体にとっても非常に大きな問題であり、米国を始めとして各国において、緊急かつ重要な課題として、監査の信頼性を確保していこうという動きが急速に広まりました。

2.監査監督機関に関する国際的な動向について
 国際的な動向について、2つのことを指摘しておきたいと思います。
 1つは、各国において監査に関する制度の変更と独立監査監督機関の設立が行われてきているということです。米国では、2002年にSOX法(サーベンス・オクスリー法)が制定され、同法に基づきPCAOBという機関が設立され、上場企業等を監査する監査事務所をチェックすることとなりました。また、米国に引き続き、2003年にカナダでCPAB、2004年に英国でPOBという、独立した監査監督機関が設立されました。
 日本でも、資本市場の公正性及び透明性を確保し、投資者の信頼が得られる市場を確立する等の観点から、公認会計士監査制度の充実・強化を目的とし、2003年5月に公認会計士法が改正され、私ども審査会が2004年に設立されました。
 ところで、この独立監査監督機関の「独立」とは、国からの独立ではなく、監査業界あるいは公認会計士というProfessional(職業専門家)から独立した機関が、公認会計士の行う監査業務を監視するという意味を持っています。
 Professionalとしては、公認会計士のほかにも、医師や法曹などが典型としてよく言われますが、このようなProfessionalについては、自分たちのprofession(専門的職業)について自ら規律を作り、それを守っていくことが特徴的なことの1つとして言われています。
 米国でPCAOBが設立された際に、諸外国において、今までの自主規制が本当に十分に機能していたのか、という議論が起こり、米国では、監査業界から独立した機関が別にチェックをすることになりました。こうした考え方に至った背景の一つには、監査の目的が、監査を受ける企業あるいは法人のためになされるものではなくて、投資者や企業等と経済関係を持つ幅広い人のためになされるものであることがあげられます。言い換えれば、公益のために監査が行われているわけです。しかし、監査にかかる費用は、監査を受けている企業が負担し、監査人は企業から監査報酬を受け取っているわけです。こうした中で、いかにして公益を守るかを考えていく必要があると言われています。
 2つめは、現在、経済活動・投資活動は国境を越えて行われているということです。そこで、現在、各国の監査監督機関は、監査の質を高めるために、国際的協力を大きく進展させています。
 2004年から各国の監査監督機関が集まり、情報交換等を行っていたのですが、2007年3月に初めて公式の会合として、監査監督機関国際フォーラム(International Forum of Independent Audit Regulators)が設立され、その第1回会合は、当審査会の主催で、東京で開催されました。また、第2回会合は、昨年9月にカナダのトロントで開かれ、以降年2回開催されることとなっています。
 このように、監査の信頼性回復に向けて、それぞれの国で監査を監視する独立した機構が設立され、その機構がお互いに国際的な協力関係を結び、国境を越えて監査の質を高めていこうという努力を行っているわけです。

3.審査会の審査・検査について
 PCAOBは2002年に設立された後、2004年に4大監査法人に対する検査の結果を公表し、さらに検査で指摘した事項についてフォローアップを行い、この結果についても2006年に報告書を出しています。CPABも同様に、2004年に4大監査法人に対して検査を実施して検査報告書を出し、その後も毎年検査を実施しています。また、POBの下部組織であるAIUが2005年に4大監査法人に対する検査結果を公表し、2006年にも検査を実施しています。
 当審査会では、まず、2005年に、日本公認会計士協会が行っている品質管理レビューについての実態把握を行いました。この結果、協会のレビューに改善が必要であると認められたため、提言を行いました。その後、2006年には4大監査法人に対する検査を実施し、4大監査法人のそれぞれについて問題点が認められたために、それらの改善の勧告を金融庁長官に対して行いました。その後、2007年にフォローアップ検査を行うとともに、中小規模監査事務所に対して検査を行い、中小規模監査事務所の問題点についても指摘をしています。
 このように、審査会は監査の質を高めるために審査・検査を行い、問題点を指摘し、監査事務所に対して改善を要請しています。また、監査事務所も審査会の指摘を踏まえ、改善を進めることによって、我が国の監査の質は、今後、諸外国と比べても高い水準に達していくのであろうと思っています。
 こうした審査会の検査では、国際的な検査の視点も踏まえ、監査事務所における監査の品質管理や個別の監査業務の品質管理について検査を実施しています。
 例えば、監査事務所のトップが監査の品質についてどのような認識を持ち、それをどのようにスタッフに伝えているのか。また、パートナー、スタッフの評価、報酬、昇進、責任の分担、そういうものが監査の品質を中心にして行われているかという点について確認しています。
 その他にも、独立性に及ぼす非監査業務の影響や、新規契約及び更新を監査事務所が適切にチェックしているかどうかなどについて検査を実施しています。米国や英国、カナダも同じような視点で検査を行っています。

4.おわりに
 公認会計士監査の質が高まることは、我が国の金融資本市場の活性化や企業活動の活発化を通じて日本経済の発展を確立し、我々の社会生活を豊かにすることにつながっていきます。公認会計士の仕事は、適切な監査を行い、会社に必要な意見を言うことが、実は企業の存続につながっていくという意味で、社会貢献のできる非常にやりがいのあるものではないかと考えています。
(以上)
写真(神戸大学での講演)

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