預金保険機構及び日本銀行からのヒアリングに係る議事概要

 

預金保険機構からのヒアリング

 早期健全化法第4条第6項に基づいて、預金保険機構に対し、意見を求めたところ、同機構理事より、第9回会合において、公的資本増強に関する考え方について概要次のように意見が述べられた。なお、この後、預金保険機構の現状と課題について説明が行われた。

1. 条件設定、商品設計

 早期健全化勘定には損失補てん財源がなく、引受けの段階での条件設定、商品設計に関する点が重要となる。

 昨春のケースでは、劣後債、劣後ローンが多く変動金利でかつスプレッドが大きかったが、今回の場合は、優先株式による資本増強が主力となる見込みと聞いている。Tier I の増強が資本増強の一番のポイントであり、その方が望ましいことは間違いないが、問題は、転換型優先株は普通株への転換オプションが付されていることから、表面利率はその分だけ低い商品であり、また、固定配当という点からは、金利が上昇すればその分優先株引受けのための資金のファイナンスコストが増加し、逆ざやになる可能性があるという問題がある。

 金融システム健全化という法の目的に沿って、金融再生委員会としては、他の様々な政策目的に合致するような条件設定を考えるのは当然であろうが、早期健全化勘定の収支についても留意願いたい。

 その際、低い配当率の優先株であったとしても、資本増強の効果が現れて優先株あるいは転換後の普通株の売却等により少しでも収支を改善し得る状況も期待しているので、商品性、発行方法についても、市場において受け入れ易いポピュラー、スタンダードな設計をお願いしたい。
 

2. 資金調達

 預金保険機構が行う資金調達の手段としては、日本銀行、金融機関等からの借入れ、預金保険機構債券の発行がある。今回は、数兆円もの巨額の資金調達をしなくてはならないため、あらゆる調達手段、財源をトライしなければならないという状況であり、鋭意検討しているところである。

 重要なことは、資金調達手段の多様化、そして調達先の拡大である。日銀から借入れをすることは不可避であるが、日銀サイドには同行のバランスシートの問題から、日銀借入れへの過度の依存を抑制してもらいたいという要望がある。また、日銀借入れの場合も長短の金利リスクは残ることとなる。

 金利上昇リスクに対しては、長期固定の資金を導入する必要があると考えており、政府保証債を何とか出させていただこうと関係当局と折衝中である。金融再生委員会には、このような事情を理解いただき是非サポートしていただきたい。
 

3. 保有期間中の管理

 協定銀行保有株式が発行株式の50%を超え子会社となるケースでは、協定銀行が直接発行金融機関の経営管理を行い、預金保険機構は指導・助言することとなっているが、金融再生委員会及び金融監督庁が、早期健全化法、銀行法等に規定されたあらゆるツールを使って、経営健全化計画を確実に履行させることが大事である。
 

4. 処分

 処分については、法律上、協定銀行は、できる限り早期に譲渡その他の処分を行うよう努めるとされており、協定銀行が行う処分につき、預金保険機構に承認権限がある。

 しかし、処分判断を預金保険機構単独で下せるのかという問題がある。経済金融情勢等の総合的判断が必要であり、金額が大きく、処分による市場への影響も計り知れない。こうしたことから、処分の基本的考え方をどうするかについては、論点もいろいろとあるため、金融再生委員会にも今後相談していきたい。

 なお、前回の金融安定化法での引受分については、審査委員会での処分の考え方に関し、預金保険機構に申し送りがされている。処分に関する基本的考え方として、○金融システムの安定性を損なうものでないこと、○国民の負担を必要最小限とするものであること、○できる限り早期に処分を行うこと、の3点が示され、預金保険機構に対し、この基本的考え方を参考とし新法の処分方針と平仄を合わせて適切な対応をするよう要請がなされている。
 

日本銀行からのヒアリング

 早期健全化法第4条第6項に基づいて、日本銀行に対し意見を求めたところ、同行理事より、第10回会合において、内外金融情勢等の説明に引き続き、公的資本増強に関する考え方について、概要次のように意見が述べられた。

1. 基本的な考え方
 
 2001年4月以降を展望すれば、資本基盤が不安定な金融機関を残すことはできる限り回避すべきである。
 
 公的資本投入の是非は、明確かつ客観的な基準により判断することが必要である。
 
 また、破綻金融機関の増加による社会経済的負担増に対する配慮も必要であるので、一定の条件の下で債務超過ではないと認められる金融機関には、極力前向きに公的資本の投入を考えていくことが適当である。
 
2. 投入形態に関する考え方
 
 償却・引当の財源となり得ること
 
 市場の評価が高まること
 
 中長期的なコーポレートガバナンスにも資すること
 
以上の点から、転換社債型優先株が基本になるものと思われるが、その中でも転換権の行使時期等の面で、状況により弾力的な対応を考えることが適当である。
 
3. 投入額等に関する考え方
 
 投入額について
 
 不良債権の抜本処理後の過少資本状態が完全に解消されること(要投入額の観点)
 
 投入した公的資金の確実な回収が見込めること(回収可能額の観点)
 
上記の2つの観点があるが、十分な資本投入額を確保するとの観点を優先し、回収の確実性については回収期間の延長、市場売却、フォローアップの強化等により、可能な限り弾力的に考えることが適当である。
 
 資本コスト

 業務再構築を下支えし、自己資本の強化に資すること及び市場原理を大きくは逸脱しないことが重要である。
 一律低コストとするのは問題であるが、配当負担軽減の観点からは一定の上限値を設け、その分商品性等の面で工夫を講じることが適当である。
 

 その他の留意点
 
 公的資本増強と貸し渋りとの関係
 
 不良債権のバランスシートからの切離しの重要性
 
4. 預金保険機構・早期健全化勘定の資金調達について
 
 預金保険機構の資金調達の現状

 預金保険機構の借入総額に占める日銀からの借入比率は極めて高い現状にある。
 

 預金保険機構向け日銀貸出に関する基本的考え方

 預金保険機構による民間からの最大限の資金調達努力を前提に、「最後の貸手」として、「短期つなぎ資金」の供給には可能な限り協力していくが、その際にも、我が国の通貨・金融システムに対する信認の基礎ともいうべき日本銀行の「資産の健全性・流動性」には十分留意する必要がある。
 

 預金保険機構・早期健全化勘定向けの与信は、次の理由から長期安定・低コスト資金であることが望ましい。
 
 投入資金を短期間に回収することは、現実的ではない。
 
 将来に亘り、金利リスクを避け、逆鞘を回避するためには、調達コストを抑え、かつ固定することが望ましい。
 
 預金保険機構・早期健全化勘定等に求められる資金調達手段等

 日本銀行の「資産の健全性・流動性」及び預金保険機構自身の「財務の健全性」を確保する観点から、早期健全化勘定を含め預金保険機構の資金調達全般について、次の方策を講じることが急務と考えられる。

 政府保証債の発行
 
 民間借入先のさらなる拡大
 
 残高方式による政府保証の導入

 


「資本増強に当たっての償却・引当の考え方」に係る議事概要

 

 早期健全化法第7条第1項第2号の要件を審査するに当たり、資本増強に当たっての償却・引当の考え方について、各委員から次のような強い意見があり、委員会として議論することとなった。
 
 不良債権の処理に当たっては、償却額・引当額を如何に見積もるかが最重要である。現在は、制度上、公認会計士協会の実務指針によって、各金融機関が自主的に判断して行っているが、当委員会として、定量的な基準を議論する必要があるのではないか。
 
 その基準に従うか、従わないかは当然各金融機関の判断によるところであってよいが、従わない場合には、その理由を挙証してもらう必要があるのではないか。
 
 また、このような議論を行った前提として以下の認識、法的枠 組みを確認した。
 
 金融再生委員会としては、今回の資本増強を契機として、大手行の不良債権処理を前倒しで進めるとともに、今後の不確実な金融環境に備えることにより、我が国金融システムの国際的な信認を回復させる必要があるとの基本認識がある。
 
 早期健全化法第7条第1項第2号の要件を審査するに当たり、資本増強の申請が見込まれた国際基準行に限って、引当等の定量的な目安を定めることとする。
 
 この目安は、早期健全化法第3条第2項に基づく引当等の基準とは別に、国際基準行の資本増強の金額規模の審査に際して、事実上準拠すべき規範としての性格を有するものであって、審査の透明性を確保する観点から、これを予め策定し、公表するものである。
 
 委員等からは主に次のような意見があった。
 
 アメリカでは、金融機関と検査官がまず定性的な議論をしても埒があかないときの一応の目安として、定量的な数値が使われる。あくまでも出発点は金融機関が自己査定で資産分類を行い、引当も行っていると認識している。
 
 資本増強後の3月決算では、通常の取引で発生する不良債権を除き、過去の不良債権の処理を実質的に終わらせるということが必要である。いつまでも、不良債権の処理が終わらないと言われ続ける事態をこそ克服すべきではないか。
 
 現在要注意先債権の平均引当率が1.59%というのはいかにも低いとの印象がある。
 
 1.59%というのは、一般担保が効いているため。日本の金融機関は一般には、担保をとっていてそれで貸倒実績が低いという結果になっているのではないか。
 
 ベスト・プラクティスとして、金融機関に聞けば、第 II 分類の引当率は15%くらいということ。担保の取り扱いをどうするかという問題は別途ある。
 
 定量的な引当基準を適用する場合、前提として資産分類が適切に行われているということが必要である。さもないと資産分類を引当率にあわせるといったゆがんだ資産分類が行われてしまう懸念が起こるのではないか。
 
 基本方針において、資産判定についても厳格に行うことを求めており、分類をゆがめるようなことは絶対認めないということであり、それが守られるということが前提である。
 
 一般的に、第 II 分類の引当は過去1年の貸倒率でとっているが、本来の引当金の考え方からしてリスクに見合ってということなので平均残存期間分を引き当てておく必要があるのではないか。
 
 一般貸倒引当の対象については、個々の債権ごとではなく、正常先、要注意先と同様に、「借り手先」で分類して、要管理先を独立させ定義することが妥当ではないか。
 
 引当等の定量的な目安については、以上の審議、米国の実務における引当の実態、金融監督庁等の意見を踏まえ、委員会として1月25日(第13回)「資本増強に当たっての償却・引当についての考え方」を議決し、公表した(別添資料6)。

 


資本増強等に係る議事概要

 

 早期健全化法第7条第1項第1号及び第2号に規定する要件及び資本増強額の予備審査を開始するに先だって、各委員から次のような意見があった。
 
第7条第1項第1号関連
 
 第7条第1項第1号の規定は、マクロの経済で、資本増強を行う前提条件として日本経済の状況を言っているように考えられるが、あくまで個別の金融機関を念頭において規定しているので、申請してきたすべての金融機関に資本増強を認めるということではないのではないか。
 
 第7条第1項第1号の規定は、金融機関の個別救済に主眼があるのではなく、システム全体、日本経済全体のために行うと理解すべきではないか。
 
第7条第1項第2号関連(償却・引当については前章参照) 
 
 早期健全化法第7条第1項第2号に規定する要件のうち、資本増強前の要件、即ち、「債務超過等その存続が極めて困難であると認められる場合ではないこと」といった要件は、既に判明している直近の決算で判断せざるを得ず、そうであれば、現行会計基準に基づいた10年9月期の決算で判断することとなるのではないか。
 
 債務超過か否かの判定であっても、有価証券の含み損については時価法の前倒しにより実態を反映させるべきではないか。
 
 資格要件の債務超過の判定は現行会計基準でよいが、資本増強後は将来にわたって金融機関の健全性が維持されることが前提であるべきなので、増強後の健全性の判定及び必要な増強額の算定に当たっては、有価証券は低価法で含み損を全部出して計算すべきではないか。
 
 ポートフォリオで有している有価証券と取引先との関係で政策投資として有している有価証券とでは同じ取扱をしていいものかどうか。
 
 株式の持ち合いによって保有している株式の価格が下がって困っているというのが現状であり、それが日本固有の問題となっている。これから先、安定的に株を持って動かさないという可能性は少なくなっているのではないか。従って、長期所有のものは取得原価でよいということは国際的に説得力がないのではないか。
 
 税効果については、資本勘定が単なる計算上のものであってはならず、債権の償却に活用できるものであるべきとの意見があるが、これについてどのように考えるべきか。
 
 税効果については、3月から単体で税効果会計が認められるということ、繰延税金という形で資産とされることから、11年3月期の資本勘定をみる場合には、これを考慮してよいのではないか。
 
資本増強額関連
 
 公的な資本増強を行うことにより、有価証券の含み損や不良債権の処理額を考慮してもなお十分な資本勘定を確保すべきではないか。
 
 公的資金による資本増強額は、自己資本比率が8%に達するまでの額に限るべきとの議論があるが、信用供与の円滑化を図る等といった観点からそれに止めない方がよいのではないか。現在の資本勘定は、既に現行会計基準では9%なり10%になっており、8%以上は認めないという議論は成り立たないのではないか。
 
優先株の処理関連
 
 今、一般に想定しているのは、優先株を普通株に転換して回収するということであるが、当該金融機関が当該優先株を消却したいといった場合には、それは必ずしも法律上排除されていないし、排除しなくてよいのではないか。
 
 優先株のままでは、市場で処分することは困難であり、相対で処分するほかないが、価格の決め方などの問題があり、実態としては難しいのではないか。
 
以上の審議を踏まえ、以降の予備審査に臨むこととなった。

 


次へ(経営健全化計画(素案)の予備審査に係る議事概要)

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