平成23年7月20日
金融庁

ジェイオーグループホールディングス株式会社との契約締結者からの 情報受領者による内部者取引に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、ジェイオーグループホールディングス(株) との契約締結者からの情報受領者による内部者取引の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成22年8月27日に審判手続開始の決定(平成22年度(判)第18号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後、審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法第185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、本日、下記のとおり決定(PDF:258KB)を行いました。

決定の内容

被審人に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。

  • (1)納付すべき課徴金の額金982万円

  • (2)課徴金の納付期限平成23年9月21日

事実及び理由の概要

別紙のとおり


(別紙)

  • 第1課徴金に係る金融商品取引法178条1項各号に掲げる事実等

    • 課徴金に係る違反行為

      被審人は、

      • (1)平成21年1月22日ころ、その発行する株式が株式会社大阪証券取引所 (以下「大証」という。)市場第二部に上場されていた(平成21年7月1日上場廃止)ジェイオーグループホールディングス株式会社(以下「JOG社」という。)が同年1月23日に公表した無担保転換社債型新株予約権付社債(以下「本件CB」という。)の発行による第三者割当増資について、その実質的出資者の代理人としてJOG社と実質的出資者との間の総額引受契約の締結の交渉をしていたBから、Bが同契約の締結の交渉に関し知った、JOG社の業務執行を決定する機関が、JOG社の第三者割当による募集新株予約権を引き受ける者の募集を行うことについての決定をした旨の事実の伝達を受けながら、法定の除外事由がないのに、上記事実が公表された同日午後6時ころより前の同日午後1時10分ころから同日午後2時52分ころまでの間、大証において、C証券株式会社(以下「C証券」という。)を介し、自己の計算において、JOG社の株式合計16万株を買付価額968万4700円で買い付けた(以下、この買付けを「本件買付け」という。)

      • (2)平成21年2月20日午後零時ころ、Bから、Bが同契約の履行に関し知 った、本件CBの払込期日に払込予定額3億円が払い込まれず、本件CBが失権となる蓋然性が高まり、JOG社として、かねてより会計監査人から指摘を受けていた継続企業の前提に関する重要な疑義を解消するための財務基盤を充実させるのに必要な資金等を確保するのが著しく困難となった旨の、JOG社の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす事実の伝達を受けながら、法定の除外事由がないのに、上記事実が公表された同日午後10時56分ころより前の同日午後零時47分ころから同日午後2時56分ころまでの間、大証において、C証券を介し、自己の計算において、JOG社の株式合計16万株を売付価額655万1900円で売り付けた(以下、この売付けを「本件売付け」という。)

      • ものである。

    • 課徴金の計算の基礎

      • (1)本件買付けの事実について

        金融商品取引法175条1項2号の規定により、本件買付けについて、業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も高い価格に本件買付けの数量を乗じて得た額から本件買付けをした価格にその数量を乗じて得た額を控除した額。
        (92円×160,000株)-(59円×900株+60円×73,500株+61円×85,600株)
        =5,035,300円

      • (2)本件売付けの事実について

        金融商品取引法175条1項1号の規定により、本件売付けについて、本件売付けをした価格にその数量を乗じて得た額から業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も低い価格に本件売付けの数量を乗じて得た額を控除した額。
        (38円×50,000株+42円×78,100株+43円×31,900株)-(11円×160,000株)
        =4,791,900円

      • (3)金融商品取引法176条2項の規定により、上記(1)及び(2)でそれぞれ計算した額の合計額から1万円未満の端数を切り捨てる。

  • 第2争点等

    • 争いのない事実及び証拠から容易に認定できる事実

      • (1)関係者等

        • JOG社は、神戸市中央区大日通1丁目2番18号に本店を置く、流通、建設、不動産及びプラスチック関連の事業等を営む会社の株式の所有により、その事業活動を支配、管理することを目的とする持株会社である。JOG社の発行する株式は、平成17年4月1日付けで大証に上場していたが、平成21年7月1日に上場廃止となった。

        • 被審人は、昭和X年X月X日生まれの男性であり、老人保健施設などの事業所の経営を目的とする医療法人Dの役員である。

        • Bは、平成21年2月17日付けで懲戒解雇されるまで、株式会社Eのグループ企業であり、医療機関や福祉施設の経営コンサルタント全般を行う、株式会社F(以下、株式会社Eも含めて、「E」ということがある。)の社員で、主に調剤薬局の出店及び経営コンサルタントの業務に従事していた。

      • (2)各重要事実の発生と公表

        • JOG社は、関連子会社のジェイオー建設株式会社に対して債務保証をしていた。しかし、同社が平成20年6月12日に民事再生手続開始決定を受けたため、平成20年9月期に債務保証引当金の計上をしなければならなくなったこと等により資金状況が悪化した。このため、JOG社は、そのころ、会計監査人から、継続企業の前提に関する重要な疑義が存在するとの指摘を受けた。

          そこで、JOG社は資金調達が必要と考え、第三者割当による本件CBの発行等による増資(以下「本件増資」という。)を計画した。この計画の実施は、JOG社の業務執行を決定する機関によって平成20年8月29日ころに決定され、平成21年1月23日午後6時ころ、調達価額を3億円とし、払込期日を同年2月12日とすることなども併せて、インターネット上に公表された。この公表がされた後2週間における、JOG社の株式(以下「JO株」という。)の最高値は1株92円であった。

        • しかしながら、本件CBについては、払込期日であった平成21年2月12日を過ぎた同月20日になっても、結局、払込みがされることはなく、そのため、失権することとなった。この事実は、同日の午後10時56分ころに、インターネット上に公表された。この公表がされた後2週間における、JO株の最安値は1株11円であった。

      • (3)Bの会社関係者性と本件買付け

        • 平成20年8月ころ、Bは、JOG社の株主であった者などを介して、JOG社の増資への出資希望者の募集に携わることとなり、これをきっかけに、出資者らの代理人として、JOG社との間で、本件増資の方法や割当先、価額、時期等を調整するなど、出資者らとJOG社との間の総額引受契約の締結の交渉をすることになった。そして、Bは、この交渉の過程で、JOG社が、上記出資者らを実質的な出資者とした、第三者割当による本件CBの発行を決定したこと(以下「重要事実1」という。)を知った。

        • 被審人とBは、被審人が役員を務める医療法人の老人保健施設建設事業を通じて、かねてより知り合いであった。被審人は、平成21年1月22日ころまでに、Bから、JO株の購入を勧められ、同日午後5時30分ころ、C証券に赴いて、証券取引口座を開設し、翌23日、JO株16万株を購入した。

      • (4)Bの会社関係者性と本件売付け

        • Bは、上記のとおり、出資者らの代理人としてJOG社と本件増資に関する総額引受契約の締結の交渉をしており、平成20年10月中には、出資者らから本件CBに対する払込みのための資金を預かっていたが、これを他人に貸し付けるなどして流用し、結局、本件CBの払込期日までに全額を回収することができなかった。こうしてBは、本件CBの払込みが完了せずこれが失権すること(以下「重要事実2」という。)を知った。

        • 被審人は、平成21年2月20日昼ころまでに、Bから、JO株を売ることを勧められた。そこで、被審人は、同日午後零時40分ころにC証券に電話し、JO株16万株すべてについて、午後零時47分ころから午後2時54分ころまでの間に売り注文を出し、午後2時56分ころまでに全てを約定させて売り切った。

    • 争点

      • (1)被審人が、Bから重要事実1及び同2の伝達を受けたか(争点1)。

      • (2)課徴金納付命令が発出されるためには、被審人が、Bが会社関係者であることを知っていたことが必要か(争点2)。

      • (3)被審人は、Bが会社関係者であることを知っていたか(争点3)。

    • 争点に対する主張

      • (1)争点1について

        • 被審人の主張

          被審人は、Bから、JO株を買うように勧められたが、増資の事実は聞いておらず、重要事実1の伝達を受けていない。

          被審人は、Bから、JO株を売るように言われたが、本件CBの失権の事実は聞いておらず、重要事実2の伝達を受けていない。

          Bの平成22年6月10日付け質問調書において、被審人に対し、Bが、重要事実1に係る本件増資の事実及び重要事実2に係る本件増資が失敗した事実を伝達した旨録取されている。しかし、上記調書は、Bが被審人に対する重要事実の伝達を否定するのであれば、被審人は行政処分では済まされず、刑事手続となる旨脅されるとともに、被審人がBから本件増資の事実を聞いたと認めている旨の証券調査官の虚偽に基づく質問調査により作成されたものであり、信用性に欠ける。

        • 指定職員の主張

          被審人は、平成21年1月22日ころ、Bから、携帯電話で、JOG社は、明日にも増資の発表があるので、JO株はほぼ間違いなく株価が上がります、などと勧められ、重要事実1の伝達を受けた。

          被審人は、同年2月20日午後零時ころ、Bから、電話で、今回の増資は失敗しました、今日中に売ってください、などと伝えられ、重要事実2の伝達を受けた。

          Bの上記調書におけるBの供述は、自然かつ合理的であり、自らの体験事実を具体的に供述したものであること、被審人によるJO株の特異な取引状況等の客観的事実に沿う内容であること、Bが虚偽の供述をする理由がないことなどからすると、その信用性は極めて高い。

      • (2)争点2及び争点3について

        • 被審人の主張

          課徴金は、財産権の侵害という点からすれば、刑事罰としての罰金よりも侵害の程度が大きい。よって、行政処分であることから直ちに構成要件的要素(を基礎付ける事実)の認識が不要と解すべきではなく、課徴金を課すためには、構成要件的要素を基礎付ける事実の具体的な認識が必要である。

          そして、インサイダー取引においては、会社関係者から重要事実の伝達を受けたことが構成要件的要素であるから、伝達者が会社関係者であることを基礎付ける事実について認識していることが必要である。本件では、被審人は、BがEの社員であることしか知らず、JOG社との間で本件増資契約について出資者の代理人として交渉を行っていたことなどBとJOG社との関係を具体的に示す事実を認識していなかった。よって、被審人に課徴金の納付を命じることはできない。

        • 指定職員の主張

          課徴金は行政上の措置にすぎず、罰金や科料等の制裁を科すものではないから、故意について定める刑法38条1項を含む刑法総則の適用を受けない。

          また、金融商品取引法上、規定に違反した事実があれば課徴金の納付が命じられることや、主観的要件を特に必要とする場合には明文でこれが求められていることなどからすれば、違反行為事実の認識は課徴金納付を命じる上で要件とはされていない。そもそも課徴金制度は違反行為を抑止し、金融商品取引法上の規制の実効性を確保するという行政目的の達成にあるのであって、違反行為者に対する責任非難を考慮する必要はない。

  • 第3判断

    • 認定事実

      • (1)本件買付け及び本件売付けに至る経緯

        • 被審人は、平成21年1月22日ころまでに、Bから、電話で、JO株の購入を勧められた。そこで、同日午後5時30分ころ、C証券に自ら赴き、証券取引口座の開設を申し込み、証券総合取引申込書を作成した。被審人は、上記申込書には、株式、信用取引等についてはいずれも経験がなく、投資信託のみ3年未満の経験がある旨記載した。また、投資の運用期間の欄には「短期」、投資目的の欄には「利回りを追求するが値上がり益を重視する」旨それぞれ記載した。このとき、C証券の職員によって、被審人の金融投資に対する知識度、経験度についてのワークシートが作成されているが、これによれば被審人の知識度のレベルは1から3までのうち2、経験度は1から5までのうち2であり、「商品の取引経験が浅い」と判断された。

        • 被審人は、こうして開設した口座に、1000万円を振り込んだ上、翌23日の昼ころ、C証券に再度赴き、同日午後1時10分ころから午後2時52分ころまでの間に、59円から61円の価格で、JO株16万株(その内訳は、59円で900株、60円で7万3500株、61円で8万5600株)を買い付けた。その際、被審人は、C証券の担当者に対し、JO株を買い付ける理由として、「最近の値動きが良い事や以前から注目していますので」などと説明した。本件買付けに係る購入代金合計額は968万4700円であった。

        • 被審人は、平成21年2月20日昼ころまでに、Bから、電話で、JO株を売るよう勧められた。そこで、同日午後零時40分、C証券に電話し、持っているJO株を全部売りたいと告げ、C証券の店長らの助言を受けながら、保有していたJO株16万株を、同日午後零時47分ころから午後2時56分ころまでの2時間余りの間に、38円から43円の価格ですべて売り付けた(その内訳は、38円で5万株、42円で7万8100株、43円で3万1900株)。本件売付けに係る売却代金合計額は655万1900円であった。

      • (2)被審人とBの関係

        被審人は、Bと、平成14、15年ころ、老人保健施設の建設事業の関係で知り合った。その後、Bとは被審人の事業に関する担当者として1年に何度か会う程度の付き合いであったが、平成21年1月ころ、新しく建設する老人保健施設の資金の融資についての相談を契機として、同年1月19日ころに連絡が再開された。

        その後、Bと被審人は公私にわたって交際を続けており、本件質問調査が始まるまでの間にも、Bの妻が経営する会社と被審人が役員を務める法人との間で契約を締結したり、被審人がBに対し、数回にわたって200万円ずつ貸し付けたり、業務の関係で海外へ同行したり、家族ぐるみで食事をしたりする間柄であった。

      • (3)本件増資計画に対するBの関係状況

        Bは、出資者らの代理人として、以下のとおり、本件増資計画に関与した。

        • 平成20年8月29日、Bは、出資者らの代理人として、JOG社のG役員、H役員と、本件増資について打ち合わせをした。このとき、Bは、JOG社の経営が厳しい状況にあるとの説明を受けた。

        • 平成20年9月上旬ころ、出資者の間で、出資者の負担割合がおおむね決まった。同年11月ころには、JOG社は、この出資者らに本件CBを割り当てる方法で資金調達を行うことなどを決定し、Bに伝えた。

        • 平成21年1月9日、Bは、G役員らと会談した。この会談中、G役員は、本件CBの発行金額総額を3億円、払込期日を同年2月中旬とすることなどを決定した。

        • 平成21年2月12日、Bは、払込みが完了しないことを知ったG役員から、このままでは倒産する、民事再生の準備をしなければならないと言われ、資金の確保等を依頼された。その後も、Bは、同日から、同月16日にかけて、JOG社関係者らから「入金がないと失権となり、上場廃止になって倒産してしまう」などと説明され、入金を迫られたが、結局資金を確保することはできなかった。

    • 争点1についての判断

      • (1)重要事実1について

        • ア(ア) 被審人は、株取引の経験は浅いと判断される者であったのに、重要事実1が公表される前日の夕方に、自ら証券会社の店頭に赴いて証券取引口座を開設した上、公表日当日の昼ころ、再度店頭に赴き、あらかじめ振り込んでおいた1000万円のほぼ全額でJO株を購入している。このような被審人の行為態様からは、被審人のJO株の購入に対する強い意思を看取でき、被審人は、第三者から、値上がり益が十分に見込めることを示唆されたことがうかがえる。

          さらに、1000万円という多額の資金を投資し、そのほぼ全額でJO株という単一の銘柄で16万株もの大量の株式を購入するという取引は、一般的に不確定な要素をはらむ株取引を、個人で、しかもほぼ初めて行う者の行為としては極めて不自然であり、被審人は、単に、「値が上がりますよ」という抽象的な情報ではなく、値上がりの根拠となる具体的な情報を伝えられていたものとするのが合理的である。

          また、購入後の行動をみても、被審人によれば、購入後は株価が上がっていたとのことであるが、その後、特に売って利益を得ようとするようなそぶりもみられないし、そもそも株価の推移に関する供述はあいまいであって、16万株という大量の株を値上がり益重視で購入した者の行動としては不自然である。このことからも、被審人は株取引が本来有している不確定要素を懸念する必要のないほどの確実な情報を得ていたことが推認できる。

          さらに、被審人が、重要事実1の公表日前日の夕方にわざわざ店頭に赴いていること、翌日も引き続いて昼ころまでには再度店頭に赴きJO株を購入していることからすれば、被審人の行動には時間的要素が意識されているとみるほかなく、被審人は、重要事実の公表時期も伝えられていたものと認められる。この公表時期の情報は重要事実1と密接な関係にあり、公表時期の情報のみ伝えられて重要事実1に係る内容が全く伝えられないということは考えられない。

        • (イ) そして、上記認定したBの本件増資計画への関係状況によれば、Bは重要事実1について十分に知悉していたといえるから、Bは被審人に対して重要事実1を伝え得る立場にあった。

        • イ(ア) ところで、Bは、重要事実1の伝達を認めた平成22年6月10日付けの調書に関して、証券調査官から誘導や脅迫を受けて、虚偽の供述をしたとして、上記調書の信用性を否定する主張をし、これに沿う供述をする。

          しかしながら、このことを裏付ける客観的証拠はない。

          また、平成22年6月10日の供述が虚偽であるとする、Bの審判廷における供述は、合理性を欠き、信用できない。

        • (イ) その他、Bの同日の供述について任意性が否定されるような事情は見当たらないのであり、同日の供述内容は、上記認定した客観的状況に沿うものであることからすると、Bの平成22年6月10日付け質問調書は、信用できる。

        • ウ 以上にかんがみると、被審人は、Bから、平成21年1月22日ころに、「JOG社は明日にも増資の発表があるので、JO株はほぼ間違いなく株価が上がります。」と告げられたものと認めることができ、重要事実1の伝達を受けたものといえる。これに反する被審人の供述は採用できない。

      • (2) 重要事実2について

        • 上記認定したところによれば、被審人は、平成21年2月20日、上記のとおり強い意思をもって購入した株を、2時間余りの間にすべて売り付けている。しかも、指値を43円から38円まで下げており、とりわけ午後2時53分の取引では、午後2時01分に指値42円で売り注文を出していたにもかかわらず、指値を38円に訂正して売り付けている。結果的に、被審人の取引状況は、345万円弱もの損失を生み出すものであり、上記のとおり、1か月前には値上がりを相当強く意識して相応の負担をもって購入した株の処分方法としては、極めて不自然であるといわざるを得ない。こうした被審人の取引態様には、今後の値上がりを期待する様子は微塵もなく、また、時間的要素が強く意識されているのであって、翌日以降、さらに確実に値が下がることを念頭においていたものとみるほかない。

          そして、上記認定したBの本件増資への関係状況によれば、Bは、本件増資が失敗したこと、これによって、JOG社の経営が破綻しかねない状態に陥ったことを十分知悉していたから、増資の失敗について伝え得る立場にあった。また、上記認定したとおり、Bは、すでに被審人に対し、重要事実1について伝えていたから、この時点で増資の失敗について伝えることについて支障はないし、むしろ理由を伝えるほうが、自己の発言に説得力を持たせるものであり、自然である。

          これらの事情に、上記のとおり信用できる平成22年6月10日のBの質問調書の内容を併せれば、Bは、被審人に、平成21年2月20日昼ころまでに、「今回の増資は失敗しました。今日中に売ってください。」と伝えたものと認められる。

        • 金融商品取引法166条2項4号に定める「投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす」重要事実とは、通常の投資者が当該事実を知った場合に、当該上場株式について当然に「売り」又は「買い」の判断を行うと認められる事実をいうと解される。本件売付け当時、JOG社のウエブサイト等により、本件増資が、かねてから会計監査人から指摘を受けていた、継続企業の前提に関する重要な疑義の解消を目的とした財務体基盤の充実計画の一環であることが公表されていたから、通常の投資者であれば、かかる増資が失敗したということを知れば、JO株について当然に「売り」の判断を行ったであろうと考えられる。よって、重要事実2は、金融商品取引法166条2項4号に定める「投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす」重要事実に該当すると認められる。

        • 以上の事実を総合すれば、被審人は、Bから、増資の失敗を告げられ、JOG社の「運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要事実」について伝えられたものと認めるのが相当である。これに反する被審人の供述は採用できない。

    • 争点2及び争点3についての判断

      • (1)金融商品取引法上の課徴金については、故意やこれに相当する違反事実の 認識の存在を一般に必要とする規定はない一方、特に主観的要件を必要とする場合には別途明文がおかれている。これは、金融商品取引法の課徴金制度は、証券市場の公正性と投資家の市場に対する信頼を保護するという目的を達成するために設けられたものであり、課徴金納付命令は、こうした金融商品取引法の規制の実効性確保を目的とした行政上の措置であって、刑罰のように行為者の責任非難を目的とするものではないから、原則として故意は要件とされないものと解される。そうすると、課徴金の納付を命じるためには、特に明文で求められている場合を除いて、故意やこれに相当する認識の存在を必要としないものというべきである。

      • (2)被審人は、Bが「会社関係者」であることを知らなかったから、金融商品取引法166条3項の違反事実についての認識がなかったと主張するところ、同項は、違反者が重要事実の伝達を受けたことは要件としているものの、それ以外に違反事実について違反者の認識を特に明文で求めていないから、上記のとおり、課徴金の納付を命ずるに当たっては、行為者の故意やこれに相当する認識の存在を要しないものというべきである。そうすると、被審人のこの点に関する主張は、理由がない。

以上

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局総務課審判手続室(内線2398、2404)

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