平成25年1月10日
金融庁

日本板硝子株式会社の契約締結交渉先の社員からの情報受領者による内部者取引に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、日本板硝子(株)の契約締結交渉先の社員からの情報受領者による内部者取引の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成24年6月29日に審判手続開始の決定(平成24年度(判)第15号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後、審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり決定(PDF:308KB)を行いました。

決定の内容

被審人に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。

  • (1)納付すべき課徴金の額金37万円

  • (2)納付期限平成25年3月11日

事実及び理由の概要

別紙のとおり


(別紙)

(課徴金に係る法178条1項各号に掲げる事実(違反事実))

被審人ジャパン・アドバイザリー合同会社(以下「被審人」という。)は、投資助言・代理業を行うことにつき、内閣総理大臣の登録を受けていたもので、Aファンド及びBファンド(以下、両者を併せて「本件ファンド」という。)等の資産を運用していたものであるが、被審人の代表社員であるC1において、平成22年8月20日、D証券株式会社の営業部門の従業員D1から、同社の引受部門の従業員D2らが同社と日本板硝子株式会社(日本板硝子。その発行する株式は東京証券取引所市場第一部に上場されている。)との間の引受契約の締結の交渉に関して知り、その後D1がその職務に関して知った、日本板硝子の業務執行を決定する機関が株式の募集を行うことについての決定をした旨の事実(本件重要事実)の伝達を受けながら、法定の除外事由がないのに、本件重要事実が同月24日に公表される前の同月20日、本件ファンドの資産の運用として、東京都中央区日本橋兜町2番1号所在の株式会社東京証券取引所において、E証券株式会社、F証券株式会社及びG証券株式会社を介し、また、H社、I社、J社及びK社に対して市場外で、被審人の顧客である本件ファンドの計算において、日本板硝子の株式合計265万3000株を売付価額合計5億4178万6532円で売り付けたものである。

(違反事実認定の補足説明)

  • 第1前提となる事実

    • 関係者等

      • (1)被審人

        被審人は、有価証券等に係る投資顧問業務等を目的とする合同会社であり、本件当時、投資助言・代理業を行うことについて内閣総理大臣の登録を受けた金融商品取引業者であった。

        被審人には、本件当時、代表社員であるC1のほか、C2、C3、C4をはじめとするアナリストを含めて、20人前後の従業員が在籍していた。被審人に在籍するアナリストは、いずれも証券会社等におけるアナリストとしての勤務経験があった上、C3ら一部の者はファンドマネージャーの経歴も有していた。

      • (2)日本板硝子

        日本板硝子は、商業用・住宅用ガラスの生産等の事業を行っている株式会社であり、その発行する株式は東京証券取引所市場第一部に上場している。

      • (3)L社

        L社は、L社グループの中核をなす法人で、本件ファンドを含むヘッジファンドの設定・管理及び投資家に対するファンド持分の販売等を行っており、最も大規模な海外のヘッジファンドの一つである。

      • (4)本件ファンド

        本件ファンドは、いずれも、N社(ケイマン諸島法に基づいて設立された法人。)が受託者となり、O社との間で締結した信託証書(日本の信託法において自己信託を設定するために必要な公正証書等に相当する。)により、日本株の運用を行うことを主な目的として設定されたユニット・トラスト(日本の信託法に規定される信託に相当するもの。)である。

      • (5)P社

        P社は、L社の完全子会社であるシンガポール法人で、本件当時、L社が運用管理するファンドの投資運用業務を行っていた。

        本件当時、P社には、本件ファンドの資産の運用について投資判断を行う役割を担っているメンバーとして、P1及びP2が在籍していた。P1は日本株の売買の発注等を、P2は主に借株に関する業務を、それぞれ担当していた。P1は、P社に勤務するまでは、個人的に又は業務上、株式の売買を行ったことはなかった。

    • 本件ファンドに係る投資スキーム及び契約関係等

      本件ファンドにおいては、本件ファンドの傘下のサブ・ファンドが受け皿となって、投資家が出資した資金が集められ、その資金が、本件ファンドに払い込まれた上で、運用されていた。

      本件当時、本件ファンドは、それぞれ、N社を介してO社との間で締結した各投資一任契約(本件投資一任契約)に従い、その資産の運用をO社に一任し、投資に必要な権限を委任しており、O社は、この資産の運用権限を、P社に委託していた。そして、P社は、被審人との間で投資顧問契約(本件投資顧問契約)を締結し、本件ファンドの資産の運用につき、被審人がP社に対して助言を提供する旨を約していた。

    • 本件公募増資が決定された経緯

      日本板硝子は、平成22年4月ころから、財務基盤の強化のため、同社の財務を統括する役員Q1が責任者となって、公募増資の実施を検討し始めた。

      そして、平成22年4月28日(以下、月日のみを示すときは、いずれも平成22年。)に開催された日本板硝子の取締役会において、Q1から、実施時期を最も早くて8月24日ころ、目標調達額を400億円以上とし、発行形態をグローバル・オファリング(日本国内だけでなく日本以外の各国においても募集を行うこと。)とする公募増資(本件公募増資)を行うこと、本件公募増資の主幹事証券会社をD証券株式会社等とすること等について、説明が行われた。これに対し、他の取締役らからは、最善の実施時期を検討すべき旨の指摘がされたものの、特に異論は出なかった。

    • 引受契約の交渉経緯

      本件公募増資の主幹事証券会社の候補として選定されたD証券株式会社は、日本板硝子に対して、本件公募増資に係る提案等を行うなどしていた。そして、4月30日には、日本板硝子から、同社との引受契約の締結を前提に、D証券株式会社がグローバル・コーディネーターとして本件公募増資に参加することの要請を受け、これに応じるなどした。このとき、D証券株式会社の従業員であるD2らは、同月28日に決定された本件公募増資の概要について説明を受けた。

    • 本件公募増資の実施を決定した旨の公表

      日本板硝子は、関係者間で本件公募増資の概要や今後の進め方等の確認をするなどした上で、8月24日、取締役会を開催し、本件公募増資を実施することを決議するとともに、東京証券取引所に対し、TDnetを利用して、本件公募増資の実施を決定した旨を通知し、東京証券取引所は、同日午後4時ころ、これを同取引所のウェブサイトに掲載して公衆の縦覧に供した。

    • D1によるC1への連絡

      D証券会社の営業部門(以下「営業部門」というときは、いずれもD証券会社の部門。)に在籍していたD1は、8月20日午前10時13分12秒から午前10時14分14秒までの間、C1に対し、電話で、「来週火曜日に、我々が関与するグローバル・オファリングの予定がある。むろん我々は、どの銘柄であるかは知らないが、いろいろな銘柄が出ている。その一つは日本板硝子である。そして、何でこのような話をするかというと、2週間前の決算発表前に、当該銘柄について推奨したからである。当時、担当アナリストは、直ちに増資があるとは見ていないといっていた。しかし、その銘柄は、言及されている銘柄の一つで、その銘柄の株価をみれば、その話は明らかに進められている。アナリストが、何も公表されないと言った旨を私は言ったが、私が指摘したいことは、チャンスがあり、何かが出てくるであろうということである。株価をみてください。」という趣旨の連絡を行った(D1が言及した「来週火曜日」は、8月24日。)。

      なお、D1は、これより前の同月5日には、C1に対し、多くの人が、日本板硝子について、バランスシートが弱く、増資が必要であると言っているものの、同社を担当するアナリストは、当面は増資が行われる可能性は低いとコメントしていることを、電話で伝えていた。

    • P社がL社名義で発注した日本板硝子の株式の取引

      P社は、8月20日、東京都中央区日本橋兜町2番1号所在の株式会社東京証券取引所及び取引所外において、日本板硝子の株式合計490万株について、L社名義で8回にわたり空売りを発注し、その各発注は、いずれも約定した。そして、その約定した各取引のうち、株式合計265万3000株、売付価額合計5億4178万6532円に係る取引が、本件ファンドの資産の運用として行われたもので、その内容は、別表のとおりである(本件取引)。なお、本件取引に係る助言の担当者はC1であった。

  • 第2判断

    • 本件公募増資を行うことについての決定及びその公表

      前記認定した事実によれば、4月28日の取締役会において、本件公募増資の実施について異論がなかったのであるから、このとき、本件公募増資の実施が事実上了承されたものといえる。よって、同日、日本板硝子の業務執行を決定する機関である取締役会が、本件公募増資を行うことについての決定をしたと認めることができる。

      そして、上記決定に係る内容は、8月24日午後4時ころに公表されており、同時点をもって、本件重要事実が公表されたものと認められる。

    • D1が会社関係者に当たること

      前記認定した事実によれば、D証券株式会社の従業員であるD2らは、4月30日に、日本板硝子から、同社との引受契約の締結を前提に、本件公募増資の概要について説明を受けたものであるから、D2らは、D証券株式会社と日本板硝子との間の引受契約の締結の交渉に関して、本件重要事実を知ったということができ、本件当時、D証券株式会社の従業員であったD1は、法166条1項5号に掲げる「会社関係者」に当たる。

    • D1が本件重要事実をその職務に関し知ったこと

      • (1)D1が本件重要事実を「知った」こと

        D1は、上記のとおり、本件重要事実が公表される前の8月20日に、C1に対して、D証券株式会社が関与するグローバル・オファリングが同月24日に予定されていること、言及されている銘柄の一つが日本板硝子であること等を電話で伝えているのであって、その内容は、本件重要事実の本質部分と異ならないものであった。そうすると、D1は、少なくとも同月20日までには、本件重要事実を認識していたものと認めることができる。

      • (2)D1が本件重要事実を「その職務に関し」知ったこと

        • 認定できる事実

          • (ア)本件公募増資の実施についての営業部門等の従業員の認識状況

            • 本件当時、営業部門に隣接するトレーディング部門に所属していたD3は、8月18日に、同部門の従業員から、日本板硝子の公募増資が実施される可能性が高いことを示された。そこで、D3は、同日、本件当時営業部門に在籍していたD4に対し、「5202」という日本板硝子の証券コードを示して、同社による公募増資の噂について確認したところ、同人は、その可能性を示唆する内容の返答を行った。

            • 本件当時、営業部門の営業員であったD5は、8月18日ころまでには、日本板硝子の財務状況や株価の値動き等の分析、同社を担当するアナリストの動向等から、日本板硝子の公募増資が行われる可能性が極めて高いと考えており、同日、外部者や、本件当時営業部門に所属していたD6に対し、日本板硝子の公募増資が行われる可能性があることをほのめかすやりとりを行ったりしていた。

            • D1は、8月18日、トレーディング部門に所属していたD7から、日本板硝子が公募増資を行う理由を聞かれ、同社が外国会社を買収した際の負債が原因である旨の説明を行った。

            • 本件当時、営業部門に所属していたD8は、8月23日に外部からかかってきた電話の中で、同日の前の週から、日本板硝子の公募増資の噂が出ていた旨の話をした。

          • (イ)営業部門の朝会におけるドライランの実施に係る連絡

            営業部門では、本件当時、毎朝午前7時25分から、部員のほとんどが出席する朝会が行われており、8月20日の朝会(本件朝会)では、D9又はD10から、同月24日にドライラン(公募増資の実施の公表後、株式の発行者が主幹事証券会社に対して公募増資の概要等を説明するために開催される説明会。以下同じ。)及びドライラン後のアナリストとのミーティングが予定されているため、同日の引け後の時間帯はスケジュールを空けておくようにとの指示がなされた。なお、営業部門に所属する者であれば、ドライランが行われる日には、公募増資又は新規株式公開の公表がなされることを容易に認識することができた。

        • まとめ

          上記のとおり、8月18日ころまでには、営業部門やこれに隣接するトレーディング部門に所属する複数の従業員が、日本板硝子が公募増資を実施する噂を耳にし、あるいはその可能性が高いことを認識していたもので、このような日本板硝子の公募増資に関する情報は、営業部門やトレーディング部門内において相当程度広まっていたといえる。そうすると、本件当時営業部門の従業員であったD1にも、この情報は伝わっていたものと推認される。

          また、前記のとおり、D1が、8月20日のC1に対する電話の中で、グローバル・オファリングが行われると指摘した日は、本件朝会で初めて明らかにされたドライランの予定日と同じ日であること、D1は本件朝会で伝えられた事項を知りうる状況にあったこと、D1は、同月5日には、日本板硝子を担当するアナリストの言動により、同社が公募増資を行う可能性は低いとの認識を有していたはずであるのに、本件朝会後間もない時間になされた上記電話の中では、「その話は明らかに進められている」などと、日本板硝子の公募増資が同月24日に行われる可能性が相応にあることをうかがわせる表現を用いていること等からすれば、D1は、本件朝会の内容を踏まえて、上記連絡を行ったものとみるのが合理的である。

          以上からすれば、D1は、日本板硝子による公募増資の実施の可能性を示す情報に接していたところ、8月20日に、業務上参加すべき本件朝会においてドライランの実施に係る情報を得たことで、日本板硝子の公募増資が同月24日に実施されることを確信するに至ったものと認められる。そうすると、D1は、D証券株式会社の営業部門に属する従業員という立場に基づき、本件公募増資が実施されることを知りえたものであって、本件重要事実を「その職務に関し」知ったということができる。

    • C1がD1から本件重要事実の伝達を受けたこと

      前記のとおり、D1は、8月20日のC1に対する連絡の中で、D証券株式会社が関与するグローバル・オファリングが同月24日に実施される予定であることを告げた後、その銘柄として日本板硝子の名前を挙げているのであるから、これ自体、グローバル・オファリングの発行形態による日本板硝子の公募増資が、同日に実施される可能性があることを示すものといえる。しかも、D1は、以前に日本板硝子が増資を行う可能性が低い旨を伝えた会話を持ち出しながら、「その話は明らかに進められている」などと述べていることからすれば、従前の情報を訂正した上で、上記の日本板硝子による公募増資の実施について、確度の高い情報であることを意識的に強調して伝えたものということができる。そして、C1が助言の担当者であった本件取引のうち、別表番号1に係る取引は、上記連絡の直後に約定している上、本件取引全体で、265万株もの大量の日本板硝子の株式について空売りが行われているというのであるから、C1も、上記連絡を受けて、日本板硝子が8月24日に公募増資を行う予定であることを認識したものといえる。そうすると、8月20日の連絡により、D1からC1に対して、日本板硝子の公募増資が同月24日に実施される旨が伝えられたということができ、C1はD1から本件重要事実の伝達を受けたものと認められる。

    • 被審人が、本件取引を行ったこと

      • (1)認定できる事実

        • P社が発注する取引への被審人の関与等

          L社名義によるファシリテーション取引(主に市場外における顧客の売買注文に対して、証券会社の自己勘定を相手方として、売買を成立させる相対取引。)について、その受注、執行等に従事していた証券会社の担当者は、C1やC2に対して取引条件を提示しており、同人らは、取引条件を了承すると、同担当者に、「決めた」などと回答していた。その後、この担当者がP社のP1に確認の連絡を行うと、ほどなくして、同人から「OK」などとの簡単な返答や決定された取引条件と同一内容の発注がなされ、C1やC2がいったん了承した取引が変更されることはなかった。このため、上記担当者は、C1やC2が取引条件を了承した時点で取引が成立したものと理解し、自社のディーラーに対してファシリテーション取引が成立した旨を報告しており、この報告を受けたディーラーは、P社の発注を待たずに、ファシリテーション取引に必要な自己勘定によるヘッジ取引を開始するなどしていた。

          また、他の証券会社の担当者は、L社名義による株式の売買取引について、P1から発注を受ける前に、C1の了解を得た時点でこれを実行しており、P1の発注時点で既に取引が約定していたこともあった。

          さらに、証券会社の担当者がC1やC2に推奨した株式の銘柄について、L社名義による市場での売買の注文の委託が行われた際に、同担当者が、C1やC2に対して、その注文が誰の注文であるかを尋ねると、同人らは、「俺の注文である」などと回答をしていた。

        • 証券会社の担当者の認識

          L社名義の口座に係る売買取引について、P1が迅速な決定が要求される取引の発注に手間取っていたこと等から、証券会社の担当者は、実際に投資判断を行っていたのは、C1やC2であり、P1には投資判断を行う能力がなく、P1はC1らの判断に従って発注を行うための存在であるとしか認識していなかった。このため、証券会社の担当者は、自社が売買可能な銘柄に係る取引の勧誘を、P1ではなく、C1やC2に行っていた。

        • 本件投資顧問契約に基づく被審人の報酬

          被審人は、本件投資顧問契約において、本件ファンドが負担する全てのマネジメント・フィー(本件投資一任契約に基づきO社に支払われる管理報酬)及びパフォーマンス・アロケーション(本件ファンドの資産の運用実績に基づき算出される利益に対する成果報酬)の80%に相当する額から、L社が本件ファンドに関して負担した費用(旅費・交通費を除く。)の80%並びに旅費・交際費の全額及びP社が負担した経費(P社の従業員の報酬を含む。)の全額を控除した額を、報酬として受け取ることとされており、その報酬は、実際にはP社を介さずL社から直接支払われていた。他方、P社は、L社から、本件ファンドの資産の運用の対価を受け取っていなかった。

        • 本件取引の態様

          本件取引のうち、別表番号3の取引については、C1が、担当者に直接売買の打診をし、その担当者との間で取引条件を決定した上で、P1に取引条件を連絡していた。そして、P1は、この連絡を受けて直ちに、決定された条件どおりの発注を行った。また、C1は、本件取引が行われている間、P2に対して、直接、日本板硝子の株式の借株を指示していた。

      • (2)まとめ

        • ア(ア)上記認定事実からすれば、外形上、P社が発注を行っていた取引は、実際には、被審人が、証券会社の担当者と直接連絡を取り合い、その取引の可否や取引条件を決定するなどしていたもので、P社は、このような被審人の決定内容を特に吟味することなく、その内容に従って機械的に発注を行っていたにすぎないことが認められる。そうすると、証券会社の担当者が認識していたとおり、P社が発注を行っていたL社名義の取引は、被審人が実質的な投資判断を行っていたものといえる。

          また、証券会社において、P社の発注を待つことなく、被審人が取引条件を了承した時点で取引が実行され、取引が成立したことを前提とする対応が取られており、あるいは、P社の発注時点で既に取引が約定していたこともあったこと等からすると、P社の発注は名目的なものにすぎず、被審人が証券会社に対して取引条件を了承したことをもって、発注とみなされていたものということができる。

          • (イ)しかも、上記認定事実によれば、被審人には、本件投資顧問契約に基づき、L社から、本件ファンドの資産の運用に対する対価やその運用実績に基づく成果報酬のうち、いわば純利益に相当する部分の大半が支払われていたこととなる一方、P社には、本件ファンドの資産の運用の対価に相当するものが一切支払われていない。このように、本来、本件ファンドの資産の運用を担う者に支払われるべき内容の報酬が、P社ではなく、被審人に支払われていたことからすれば、本件ファンドの資産の運用も、被審人が行っていたものというべきである。

          • (ウ)さらに、P社において株式の売買の発注を担当していたP1は、株式取引の経験が乏しく、実際にも取引の発注に手間取るという未熟な面が見られたのに対し、被審人には、経験豊富なアナリストが多数在籍していたもので、投資判断及びそれに基づく運用を行う能力の点で、P社と被審人との間では、格段の差があったことが認められる。このような能力の差異にもかかわらず、被審人は投資助言を行うにとどまり、実際の資産の運用は、P社において行われているというのは、本件ファンドの資産を効果的に運用するという観点からは、不自然であるといわざるを得ない。

          • (エ)以上から、P社が発注を行っているL社名義の取引は、実質的には、被審人が自ら、投資判断を行いかつそれに基づく発注を行っていたと評価できるのであって、被審人自身がその取引を行ったものと認められる。

        • そして、本件取引についてみると、少なくとも別表番号3の取引に係る発注は、C1が証券会社の担当者との間で決定した取引条件を、P1が直ちに追認することにより行われており、上記の他の取引とその態様において異なることはないものといえる。これに、本件取引に必要と認められる借株についてもC1が自ら指示していることや、上記で述べた、本件ファンドの資産の運用に関する、被審人の報酬の内容及びP社と被審人の能力の差異を踏まえれば、本件取引全体における実質的な投資判断及びこれに基づく発注は、上記の他の取引と同様、被審人においてなされていたものと推認される。

          そうすると、実質的には、被審人が本件取引を行ったものと認められる。

    • 被審人が行う金融商品取引業の顧客の計算において、本件取引が行われていること

      前記のとおり、被審人は、本件ファンドの資産の運用について、事実上、自己の投資判断に基づく取引を行っていたものであって、その運用に係る投資判断及びこれに基づく投資を行うのに必要な権限を有していたものと評価できる。したがって、本件ファンドの資産の運用に係る被審人の行為は、実質的に投資運用業(金商法28条4項、2条8項12号)に該当するものである。

      そして、被審人が、形式上は本件ファンドと直接の契約関係になかったとしても、前記のとおり、被審人は、自ら、本件ファンドのためにその資産を運用していたものである上、本件投資顧問契約に基づく被審人の報酬の算定基礎となる管理報酬や成果報酬は、本件ファンドの負担に係るものであって、かつ、その純利益相当部分の大半が被審人に支払われることとなっていたというのである。そうすると、本件ファンドと被審人とは、本件ファンドが被審人に対して自己の資産の運用権限を直接付与しているのと同視しうる関係にあったということができ、本件ファンドは被審人の「顧客」(金商法175条1項3号)に当たると解すべきである。

      また、本件取引は、本件ファンドの資産の運用に係る取引であって、その経済的効果は、第一次的には本件ファンドに帰属するといえるから、本件ファンドの計算において行われたものということができる。

(課徴金の計算の基礎)

被審人の違反行為に係る納付すべき課徴金の額は、Aファンド及びBファンドの各運用財産の運用としてなされた売買ごとに次の計算をして得られた額を合計した金額の、1万円未満を切り捨てた37万円である(金商法175条1項3号、金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府令1条の21第1項1号、金商法167条2項)。

(運用財産の運用として当該売買が行われた月について当該売買をした者に当該運用財産の運用の対価として支払われ、又は支払われるべき金銭その他の財産の価額の総額)×(当該売買が行われた日から当該売買が行われた月の末日までの間の当該運用財産である当該売買の銘柄の総額のうち最も高い額)÷(当該売買が行われた月の末日における当該運用財産の総額)

Aファンドの運用財産につき

3708万3375円×3億9748万8000円÷553億5431万0770円=26万6288円

Bファンドの運用財産につき

1603万3222円×1億5433万6000円÷227億2358万5720円=10万8895円

合計 26万6288円+10万8895円=37万5183円

別表
番号 約定成立時刻 株数(株) 売付価額(円) 受注態様 受注証券会社
(相対取引の場合は相手方証券会社)
10時15分05秒 195,000 39,655,980 市場 E証券株式会社
76,000 15,455,664
10時15分11秒 98,000 20,580,000 市場外 H社
38,000 7,980,000
12時16分18秒 156,000 31,698,779 市場外 J社
61,000 12,395,035
12時42分44秒 98,000 19,840,296 市場 F証券株式会社
38,000 7,693,176
12時42分47秒 195,000 39,379,080 市場 G証券株式会社
76,000 15,347,744
12時47分01秒 390,000 80,340,000 市場外 I社
151,000 31,106,000
16時05分23秒 516,000 104,635,843 市場外 K社
200,000 40,556,528
16時06分39秒 263,000 54,129,296 市場外 K社
102,000 20,993,111
  • ※株数欄の、上段に記載された数値はAファンドの資産の運用として行われた取引に係る株数を、下段に記載された数値はBファンドの資産の運用として行われた取引に係る株数を、それぞれ示している。

  • ※売付価額欄の、上段に記載された数値はAファンドの資産の運用として行われた取引に係る売付価額を、下段に記載された数値はBファンドの資産の運用として行われた取引に係る売付価額を、それぞれ示している。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

総務企画局総務課審判手続室(内線2398、2404)

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