平成25年6月27日
金融庁

東京電力株式会社の契約締結交渉先の社員からの情報受領者による内部者取引に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、東京電力(株)の契約締結交渉先の社員からの情報受領者による内部者取引の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成24年6月8日に審判手続開始の決定(平成24年度(判)第10号、同第11号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後、審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり決定(PDF:335KB)を行いました。

決定の内容

各被審人に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。

  • (1)第10号事件被審人A(被審人A)

    • 納付すべき課徴金の額金6万円

    • 課徴金の納付期限平成25年8月28日

  • (2)第11号事件被審人ファースト・ニューヨーク・セキュリティーズ・エルエルシー(被審人FNY)

    • 納付すべき課徴金の額金1468万円

    • 課徴金の納付期限平成25年8月28日

事実及び理由の概要

別紙のとおり


(別紙)

(課徴金に係る金商法178条1項各号に掲げる事実(以下、1に掲げる事実を「違反事実1」、2に掲げる事実を「違反事実2」。))

  • 被審人Aは、遅くとも平成22年9月27日午前10時30分ころまでに、B証券株式会社の機関投資家向け営業部門の営業員であったCから、同社の引受部門のDらが同社と東京電力株式会社(東京電力。その発行する株式は東京証券取引所市場第一部に上場されている。)との間の引受契約の締結の交渉に関し知り、その後Cがその職務に関し知った、東京電力の業務執行を決定する機関が株式の募集を行うことについての決定をした旨の事実(本件重要事実)の伝達を受けながら、法定の除外事由がないのに、上記事実が同年9月29日午後3時50分に公表される前の同月27日午後2時58分から同月29日午前9時39分までの間、東京都中央区日本橋兜町2番1号所在の株式会社東京証券取引所(東京証券取引所)において、E証券株式会社を介し、自己の計算において、東京電力の株式合計200株を売付価額合計44万3100円で売り付けたものである。

  • 被審人FNYは、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市パーク・アベニュー90番地5階に本店を置き、ブローカー・ディーラー業務を行うことにつき米国証券取引委員会の登録を受けているリミテッド・ライアビリティー・カンパニーであるが、同社の保有資産の運用を担当していたFにおいて、遅くとも平成22年9月27日午前10時30分ころまでに、前記Cから、前記Dらが同社と東京電力との間の引受契約の締結の交渉に関し知り、その後Cがその職務に関し知った、本件重要事実の伝達を受けながら、法定の除外事由がないのに、上記事実が同年9月29日に公表される前の同月28日に、東京証券取引所において、G証券株式会社及びH証券株式会社を介し、被審人FNYの自己の計算において、東京電力の株式合計3万5000株を売付価額合計8051万8900円で売り付けたものである。

(違反事実認定の補足説明)

  • 第1事案の概要等

    • 事案の概要

      本件審判事件は、被審人A及び被審人FNYが、それぞれ、Dらが東京電力との引受契約の締結の交渉に関し知り、その後Cがその職務に関し知った本件重要事実につき、その公表前にCから伝達を受けた上、自己の計算において、東京電力の株式(本件株式)を売り付けたという、金商法178条1項16号に該当する事実について、各被審人に対し、審判手続開始の決定がなされた事案である。

    • 前提となる事実

      • (1)関係者等

        • 被審人A

          被審人Aは、I証券会社、J証券株式会社等複数の証券会社にトレーダーやアナリストとして勤務した後、平成20年1月から、投資運用会社であるK社にアナリストとして勤務した。被審人Aは、同社の閉鎖により、同社を退職することとなり、平成22年1月20日(以下、年の記載のないものは、いずれも平成22年)、コンサルティング業務や資産運用に関する情報提供等を目的とするL社を設立して、その代表取締役に就任した。

        • 被審人FNY

          被審人FNYは、ブローカー・ディーラー業務を行うことにつき米国証券取引委員会の登録を受けて、保有資産の売買等を行うリミテッド・ライアビリティー・カンパニー形態の米国法人である。

        • Fは、本件当時(平成22年9月ころの時期)、被審人FNYにトレーダーとして勤務し、同社の保有資産の運用を担当していたもので、それ以前にI証券会社に勤務していた際には、被審人Aの同僚であった。

        • Cは、J証券株式会社等複数の証券会社等に勤務した後、平成19年、B証券株式会社に入社し、本件当時は、同社の機関投資家向け営業部門の営業員であった。

        • Mは、本件当時、証券アナリストとしてB証券株式会社に勤務し、東京電力のカバレッジ(特定の上場会社について、目標株価を設定して、レーティングを付与し、継続的に企業調査を行うこと)を担当していた。

        • Nは、本件当時、B証券株式会社の機関投資家向け営業部門において、募集担当を務め、同部門の部長から、あらかじめ、翌月の募集案件の大まかな予定を知らされた上、その案件が予定されている期間には、営業員に休暇を取得させないように指示を受けていた。このため、Nは、同部門の営業員から、上記期間につき休暇取得等の可否を尋ねられると、その数日間は厳しいなどと答えていた。

        • 東京電力

          東京電力は、電力の供給を目的とする株式会社で、その発行する株式は東京証券取引所市場第一部に上場されており、その証券コードは9501である。

      • (2)本件公募増資の実施の承認及び公表

        東京電力は、平成21年秋ころから、自己資本比率の改善等を目的として、公募増資による資金調達を行うことを検討し始めた。平成21年12月22日には、同社において、実務担当者から、調達額を5000億円程度、主幹事証券会社をB証券株式会社とする公募増資(本件公募増資)の実施につき、代表取締役会長、代表取締役社長及び本件公募増資の起案部署の担当役員である常務取締役らに対して報告がなされ、同代表取締役会長らは、これを承認した。当時、東京電力では、公募増資等の重要な意思決定につき、常務会及び取締役会に付議する前に、代表取締役会長、代表取締役社長及び起案担当部署の担当役員に諮っており、同人らの承認が得られた時点で、会社として了解したものと扱われていた。その後、東京電力は、9月29日に開催された取締役会において、本件公募増資の実施を決議した。

        東京電力は、同日、東京証券取引所に対し、TDnet(適時開示情報伝達システム)を利用して、本件公募増資の実施を決定した旨を通知し、東京証券取引所は、同日午後3時50分、これを同取引所のウェブサイトに掲載して公衆の縦覧に供した。

      • (3)引受契約締結の交渉に係る経緯

        東京電力の本件公募増資の担当役員らは、1月5日、B証券株式会社の代表執行役専務らに対して、B証券株式会社を主幹事証券会社として本件公募増資の準備を進めることを伝えた。同月12日には、東京電力の実務担当者及び引受部門のDを含むB証券株式会社の実務担当者が集まって、本件公募増資の実施に向けたキックオフ・ミーティングが行われた。そして、東京電力の代表取締役社長は、2月5日、B証券株式会社の執行役社長に対して、正式にB証券株式会社を主幹事証券会社として本件公募増資の実施準備を進めることを連絡した。また、4月16日には、東京電力及びB証券株式会社双方の実務担当者間で、本件公募増資の実施スケジュール等の検討が行われた。この際、募集金額、引受証券会社への支払手数料率、発行決議予定日等を記載した資料が配布された。そして、東京電力は、10月18日、B証券株式会社との間で、引受契約を締結した。

      • (4)各被審人による本件株式の売買

        被審人Aは、9月27日午後2時58分に、東京証券取引所において、E証券株式会社を介し、自己名義の証券口座により、本件株式100株を、売付価額23万3600円で売り付けた。また、被審人Aは、同月29日午前9時39分に、上記東京証券取引所において、E証券株式会社を介して、自己名義の証券口座により、本件株式100株を、売付価額20万9500円で売り付けた(この売付けを、以下「9月29日売付け」。)。

        Fは、同月28日午前9時から午後2時34分にかけて、東京証券取引所において、G証券株式会社及びH証券株式会社を介し、被審人FNY名義及び同社の発注を受託している証券会社名義の証券口座により、本件株式合計3万5000株を、売付価額合計8051万8900円で売り付けた。

      • (5)本件公募増資の公表前における東京電力に関する広報や報道等の状況

        東京電力は、9月13日、同社の中期経営方針を示した「東京電力グループ中長期成長宣言 2020ビジョン」(本件経営ビジョン)を発表した。東京電力の代表取締役社長は、この発表に伴うアナリスト向け説明会において、営業キャッシュフローの積み上げが基本である旨の発言をした。これを受けて、各証券会社は、「東京電力は、増資よりも営業キャッシュフローでの蓄積と述べた」旨を指摘する電子メール(本件配信メール)を配信したり、東京電力に増資の必要がないと分析し、本件株式について買いを推奨する内容のアナリスト・レポートを発表したりした。

        共同通信は、9月28日午後9時24分、東京電力が数千億円規模の増資を実施する方針を固め、近く正式に発表する予定であることを報道した。また、翌29日付けの日本経済新聞の朝刊にも、同内容の記事が掲載された。

  • 第2争点等

    • 第10号事件について

      第10号事件の争点は、次のアないしエのとおりである。

      • Cは、金商法166条1項5号に掲げる「会社関係者」に該当するか。また、Cは、本件公募増資に関する情報を、「その職務に関し」知ったか。

      • Cが知った本件公募増資に関する情報は、「業務等に関する重要事実」と評価しうる内容・程度の情報に当たるか。

      • 被審人Aは、9月27日午前10時30分ころまでに、Cから、「業務等に関する重要事実」と評価しうる本件公募増資に関する情報の伝達を受けていたか。

      • 9月29日売付けは、本件重要事実が公表される前になされたものか。

    • 第11号事件について

      被審人FNYは、第11号事件に係る金商法178条1項16号に該当する事実について、当初争っていたものの、その後、これを認めるに至ったものである。当審判体は、上記事実のうち、被審人FNYがCから本件重要事実の伝達を受けたか否かにつき、後記第3の6のとおり、判断を示すこととした(その余の事実に係る認定及び判断は、前記第1の2及び後記第3の1ないし5のとおりである。)。

  • 第3争点等に対する判断

    • 認定事実

      • (1)L社の設立の経緯等

        被審人Aは、K社を退職後、Fに身上等を相談していた。この際、被審人Aのマクロ分析を評価していたFは、被審人Aに対して、同人が法人を設立し、その法人と被審人FNYとの間で契約を締結することで、被審人FNYが、被審人Aの分析レポート等による情報提供の対価をその法人に支払うことができる旨を伝えた。そこで、被審人Aは、L社を設立し、同社は、1月末ころ、被審人FNYとの間で、情報提供サービス及びコンサルティングに関する業務契約(本件コンサルティング契約)を締結した。本件コンサルティング契約に基づく報酬は、最初の6か月間は毎月30万円とし、6か月後に報酬額の見直しを行うこととされていた。また、L社は、同時期に、Fから、P社のQを紹介され、2月初旬ころ、同社との間でも契約を締結した。なお、L社には、被審人FNY及びP社以外の顧客はなかった。

        Fは、5月21日、被審人Aに対して、チャットで、FやQが被審人Aに報酬を支払えるよう、FやQの金儲けをどのように支援するのか、ビジネスプランを提供すべきであること、被審人Aは顧客の金儲けを手助けするビジネスをしているのであり、顧客が金を儲けるために何を必要としているかについて注目すべきこと等を伝えた。

        Fは、9月30日、被審人Aに対して、自分が儲かるようになったことや前日が大きな1日になったこと等を告げた上、上記報酬額を、同年10月から、35万円に増額することを伝えた。

      • (2)Cと被審人Aの関係等

        • Cは、被審人AがK社に勤務していた当時の担当者で、被審人Aが同社を退職した後も、同人と親交があった。

          Cは、被審人AがK社を退職後、同人のために英文の請求書の雛形を探すなどし、また、同人に対して、契約書類等で使用する専門用語の英訳を教えたり、資産運用ビジネスに関する参考資料を送付したりした。

          また、Cは、被審人Aに対して、毎日、朝にはB証券株式会社における寄付き前の売買の注文状況を、昼前にはB証券株式会社におけるバスケット取引の約定状況を、電話で教えていた。さらに、Cは、日中にも、被審人Aに対して、電話等で、特定の銘柄に関するマーケットでの話題、公募増資等の実施予定に関してB証券株式会社内のアナリスト等に確認した感触等、個別銘柄に関する情報を提供していた。このような情報の提供は、Cが、被審人Aから電話等による連絡を受け、それに対して応答するという形でなされることが多かった。

        • 被審人Aは、1月19日、Cに対して、チャットで、定款や登記簿謄本の英訳を聞くなどしていた。そして、Cが、被審人Aに対して、このチャットのやりとりの中で、「会社設立ですよね?」と尋ねると、同人は「はい!」などと答えた。また、被審人Aは、Cの「応援しております!」「いろいろとありますか?」とのメッセージを受けて、明日(1月20日)には新しい名刺で挨拶する旨を伝えた。

      • (3)平成22年9月になされたCと顧客や他の職員等との間のやりとり

        Cは、9月8日ころ、自己が担当する顧客から、東京電力が公募増資を実施するとの噂があることを聞いた。

        Cは、9月8日から9日にかけて、顧客の要請に基づき、Mに対して、電子メールで、電力・公益セクターのものも含むバリュエーションシートの送付を依頼し、Mからそのバリュエーションシートを入手すると、これを顧客に送付した。

        Cは、9月14日、自己が担当する顧客から、本件配信メールの内容に対するMの意見を聞かれたため、ダブリンに出張していたMに対して、電子メールで、本件配信メールの内容を送付した上、この内容についてコメントできるかなどを確認した。なお、Cは、被審人Aにも、この配信メールの内容を送付していた。また、Cは、同日中に、B証券株式会社の他の職員等に対して、電子メールで、Mが東京電力についてコメントできるかを確認したり、Mのプレゼンテーション用の資料の送付を依頼したりした。

        Cは、同月中旬から下旬ころ、Mに対して、東京電力の噂が出ているが、資金はどうするのかなどと聞いたところ、Mは、可能性は否定できない、やってもおかしくないなどと答えた。なお、Mは、同月15日ころには、本件公募増資が実施されることを認識していた。また、Cが、同月下旬ころ、Nに対して、同月29日に機関投資家との食事の予定を入れることについて確認をすると、同人から、同日に何かがあるかもしれない、規模は大きいかもしれないなどと言われた。

        Cは、9月22日から24日ころ、Nに対して、9月27日の週の休暇取得の可否を問い合わせたところ、Nは、その週は忙しくなりそうである旨回答した。

      • (4)Cによる顧客に対する売り推奨等

        Cは、9月16日、自己が担当する顧客2社に対して、それぞれ電子メールで、O社、東京電力等に公募増資の噂があることを連絡し、翌17日には、多数の顧客に対して、東京電力を含む複数の銘柄の売りを推奨する内容の電子メールを送信した。

        Cは、同月21日、上記顧客2社に対して、それぞれ電子メールで、東京電力のショート売りを推奨すること、イギリスにマーケティングのため出張していたMが、本件経営ビジョンの内容について質問を受けたこと、東京電力は、少なくとも1兆円の海外投資を公表しており、ファイナンスのリスクがあること等を伝えた。また、Cは、翌22日にも、顧客に対して、電子メールで、「東京電力株のショートをお願いします」などと連絡した。

      • (5)被審人AとFとの間のやりとり

        • 平成22年9月以前のやりとり

          被審人Aは、遅くとも4月ころから、Fとの間で、チャット等で、特定の銘柄に係る公募増資の予定等について、やりとりをするようになった。この際、被審人Aは、Cを指し示す言葉として、「C´」という単語を使用し、C´が電話等で連絡してきた内容として、公募増資の実施の有無や具体的な日程等に関する情報を伝えていた。その情報には、C´が休暇を予定していた期間に待機指示を受けたため、休暇をキャンセルしなければならなくなったことや、計画中の公募増資が延期になったこと、B証券株式会社の担当アナリストが特定の銘柄に対してレーティングを付与したこと等の内容も含まれていた。また、被審人Aは、Fとのやりとりの中で、C´について、以前にも増して良くなった、アナリストへの直接の接触も増やしているなどと評することもあった。

        • 平成22年9月中のやりとり

          被審人Aは、9月7日、Fに対して、電子メールで、C´は同月の第5週に休暇を取れない、これをQに伝えてほしい旨連絡した。また、被審人Aは、同月9日には、Fに対して、チャットで、C´が前日に東京電力の案件の噂を聞いたこと、C´が確認したところでは、アナリストは東京電力であるとは思っていないこと、C´はO社のような気がしていること等を伝えた。

          その後、被審人Aは、Fに対して、チャットで、同月14日には、C´が依然としてO社らしいと思っていること、同月21日には、C´が、電話で、アナリストがO社を否定するような言動をしていた旨を連絡してきたので、東京電力の方がO社より可能性が高いこと等を、それぞれ伝えた。

          そして、被審人Aは、9月27日午前10時29分ころ、Fに対して、チャットで、C´がちょうど今自分の携帯電話にメッセージを送ってきたこと、案件は29日らしいように思われること等を連絡した。

    • 争点ア(Cの「会社関係者」該当性等)について

      • (1)金商法166条1項はその各号において、「会社関係者」に該当する者とその者が業務等に関する重要事実を知った状況とを区別して規定しているから、同項5号の「会社関係者」に該当するためには、同号に掲げる者が業務等に関する重要事実を「その者の職務に関し知った」ことが必要であるとの被審人Aの主張は採用できない。そこで、Cがその「職務に関し」本件公募増資に関する情報を知ったといえるか、検討する。

      • (2)Cは、9月8日ころに東京電力の公募増資に関する噂を耳にしてから、Mへの問い合わせ等を行うことにより、その噂の真偽を確かめるようになったもので、9月16日以降には、自己の担当する複数の顧客に対して、繰り返し、本件株式について売り推奨を行い、その売り推奨に際して、東京電力のファイナンスのリスクを伝えることもあった。そうすると、Cは、このころには、Mとの接触等を通じて、東京電力が公募増資を実施することにつき、相応の可能性があると認識していたことがうかがわれる。

        そして、このようなCは、Mが、東京電力による公募増資の可能性を否定しなかった一方、O社については公募増資の実施を否定するような言動を示していた状況において、機関投資家との会食や休暇取得の可否を確認した際に、Nから、9月29日に大規模な案件があることをほのめかされ、あるいは9月27日の週は忙しくなりそうである旨を聞かされたのであるから、これらのMやNの言動を受けて、東京電力の公募増資が9月29日に公表されることを認識したものと認められる。Cは、調査段階において、募集担当者の発言と自己の推察等を組み合わせて、9月29日に東京電力の公募増資があるかもしれないと思った旨の供述をしており、上記認定は、この供述とも整合するものである。

        また、Cと同じ部署に所属する他の営業員も、本件当時、営業成績を上げるために、Cと同様に、個別銘柄の案件に関する情報収集等を行っていた上、Nに対する休暇取得等の可否の問い合わせは、同人が上司の指示を受けて営業員の休暇等を管理するために行われていたものであるから、Cは、B証券株式会社の営業員としての職務を通じて、東京電力の公募増資が9月29日に公表されることを認識したものといえる。したがって、Cは、その「職務に関し」本件公募増資に関する情報を知ったものということができる。

    • 争点イ(Cの認識内容の重要事実該当性)について

      公募増資の実施は株価の値下がり要因となりうるもので、その公表前に対象銘柄に係る株式を売り抜けることにより、その株価の値下がりによる損失を回避することができる。すなわち、Cは、本件公募増資が9月29日に公表されることを認識したことにより、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす程度に本件重要事実の内容を知ったものといえる。したがって、Cは、金商法166条2項1号イに掲げる業務等に関する重要事実を知ったと認められる。

    • 争点ウ(Cによる重要事実と評価しうる情報の伝達の有無)について

      被審人Aが、9月27日午前10時29分ころ、Fに対して送ったチャットのメッセージの内容からすれば、このメッセージが送られる直前に、Cから被審人Aに対して、少なくとも、東京電力の公募増資が同月29日に公表されることを推察することが可能な情報が伝達されたものと推認できる。

      この点、被審人Aは、それまでも、Fに対して、Cが待機指示を受けたこと等、Cから入手しない限り知り得ないはずの情報を交えつつ、「C´」から聞いた内容として、個別銘柄の公募増資に関する内容を伝えている上、Cの情報の精度について評価していることをうかがわせる発言もしていることからも、調査段階で自ら供述しているように、Cが連絡してきた公募増資の日程等に関する情報を、ほぼそのままFに伝えていたと考えるのが合理的である。

      以上からすれば、被審人Aは、9月27日午前10時29分ころまでに、Cから、本件公募増資の公表時期を推察しうる情報の伝達を受けたものと認められる。そして、このような内容は、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすべき本件重要事実の一部ということができ、金商法166条2項1号イに掲げる業務等に関する重要事実に当たるものといえる。

    • 争点エ(9月29日売付けと本件重要事実の公表の先後)について

      9月29日売付けがなされるよりも前に、東京電力の公募増資の実施につき、共同通信及び日本経済新聞による報道がなされていたことが認められるが、このような報道は、金融商品取引法施行令(施行令)30条1項各号に掲げる措置に該当するものではないから、金商法166条4項に規定する「公表」と認めることはできない。そして、本件重要事実は、本件公募増資の実施の決定が、東京証券取引所のウェブサイトに掲載されることにより公衆の縦覧に供された、9月29日午後3時50分に公表されたものと認められるから(施行令30条1項2号)、9月29日売付けは、本件重要事実の公表がされる前になされたものと認められる。

    • 被審人FNYがCから本件重要事実の伝達を受けたか否かについて

      • (1)被審人Aが、1月19日、Cとの間で、会社の設立や、翌20日には新しい名刺を用意することになること等についてやりとりをしている。これに、同日がL社の設立日であること、被審人Aは、同社の代表取締役という肩書を付した自己の名刺を作成し、これをCに渡したことがあることもあわせ考えると、被審人Aは、遅くとも1月19日までには、Cに対して、L社を設立することを説明していたことは明らかである。

        また、被審人Aは、調査段階において、L社を設立する際に、Cに対して、同社が自ら株取引を行わずにマーケット情報等を顧客に提供することを業とすることや、被審人FNYを顧客としてビジネスを立ち上げたことを話した旨供述しているのであるから、被審人Aは、Cに対して、L社の設立とともに、その業務内容や被審人FNYが顧客であることも伝えていたものと認められる。なお、被審人Aは、K社を退職後も、Cと個人的に親交が深かったもので、上記のL社の設立に係る説明に付随して、同社を設立するに至った経緯や同社の業務内容等についても話が及ぶはずであって、そのような会話の流れとして、Fから会社設立を勧められたことや被審人FNYを顧客とすることについても言及がなされるのが自然であるから、被審人Aの上記供述内容は、十分に信用することができる。

        そして、Cは、本件当時、被審人Aから、電話等で、頻繁に情報の提供を求められては、これに応じていたのであるから、L社の業務内容を踏まえ、被審人Aに伝達した内容が、同社の顧客である被審人FNYにも伝わっていた可能性を認識・認容していたものといえる。

      • (2)Fは、遅くとも平成22年4月ころから、被審人Aとのやりとりを通じて、継続的に、個別銘柄に関するCの言動を把握し、時には、被審人Aに対して、暗に、利益をもたらす情報の提供を要求するような言動に及んだり、特定の銘柄について何か聞いていないか確認したりしており、他方、本件株式の売付けを行った後には、儲かるようになったなどとして、本件コンサルティング契約の報酬を増額している。これらの事情に加え、FがCを情報提供者として評価する発言をしていることからすれば、Fは、本件当時、Cと親しい被審人Aを介して、Cから公募増資の実施等に関する有用な情報を入手しようという意図を有していたことが推認される。そして、被審人Aは、Cに頻繁に連絡を取り、個別銘柄に関する情報を入手した上、その情報をそのままFに伝えることにより、上記のようなFの意図を実現する手段としての役割を果たしていたものといえる。

      • (3)まとめ

        以上のとおり、本件当時、Cは、被審人Aに対して伝えた情報が、被審人FNYにも伝達される可能性を認識し、Fも、Cからの情報の取得を意図していたもので、被審人Aは、このような意図を実現する役割を担っていたということができる。こうした中で、Cから被審人Aに対する本件重要事実の伝達が行われたものであるところ、このような本件重要事実の伝達は、Cから被審人FNYに対してなされたものと同視しうるものである。したがって、被審人FNYは、Cから本件重要事実の伝達を受けたものと認められる。

(課徴金の計算の基礎)

  • 違反事実1に係る課徴金の額

    • (1)金商法175条1項1号の規定により、本件株式の売付けについて、本件株式の売付けをした価格にその数量を乗じて得た額から業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も低い価格に本件株式の売付けの数量を乗じて得た額を控除した額。

      (2095円×100株+2336円×100株)−(1881円×200 株)=6万6900円

    • (2)金商法176条2項の規定により、上記(1)で計算した額の1万円未満の端数を切捨て、6万円となる。

  • 違反事実2に係る課徴金の額

    • (1)金商法175条1項1号の規定により、本件株式の売付けについて、本件株式の売付けをした価格にその数量を乗じて得た額から業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も低い価格に本件株式の売付けの数量を乗じて得た額を控除した額。

      (2291円×5000株+2301円×5000株+2302円×2万株+2303円×1100株+2304円×3900株)−(1881円×3万5000株)= 1468万3900円

    • (2)金商法176条2項の規定により、上記(1)で計算した額の1万円未満の端数を切捨て、1468万円となる。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局総務課審判手続室(内線2398、2404)

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