平成26年8月29日
金融庁

日本風力開発株式会社に係る有価証券報告書等の虚偽記載に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、日本風力開発(株)に係る有価証券報告書等の虚偽記載の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成25年3月29日に審判手続開始の決定(平成24年度(判)第41号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)第185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり決定(PDF:493KB)を行いました。

決定の内容

被審人に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。

  • (1)納付すべき課徴金の額金3億9,969万円

  • (2)納付期限平成26年10月29日

事実及び理由の概要

別紙のとおり


(別紙)

(課徴金に係る金商法第178条第1項各号に掲げる事実(以下「違反事実」という。))

被審人日本風力開発(株)(以下「被審人」という。)は、東京都港区西新橋一丁目1番15号に本店を置き、その発行する株式が東京証券取引所マザーズ市場に上場されていた会社(平成26年8月1日、同証券取引所市場第二部に市場変更)であるが、関東財務局長に対し、

  • 第1下表のとおり、重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書(以下「本件報告書」という。)及び有価証券報告書の訂正報告書(以下、本件報告書と併せて「本件各継続開示書類」という。)を提出し、

番号 本件各継続開示書類 虚偽記載
提出日 書類 会計期間 財務計算に
関する書類
内容(注) 事由
1 平成21年
6月24日
第10期事業年度連結会計期間に係る有価証券報告書
(本件報告書)
平成20年4月1日~平成21年3月31日の連結会計期間 連結
損益計算書
連結経常損益が▲64百万円であるところを2,201百万円と記載
連結当期純損益が▲1,434百万円であるところを831百万円と記載
・実態のない風力発電機販売斡旋取引に係る売上の計上
2 平成22年
7月28日
第10期事業年度連結会計期間に係る有価証券報告書の訂正報告書 平成20年4月1日~平成21年3月31日の連結会計期間 連結
損益計算書
連結経常損益が▲404百万円であるところを1,861百万円と記載
連結当期純損益が▲1,635百万円であるところを630百万円と記載
・実態のない風力発電機販売斡旋取引に係る売上の計上

(注)金額は百万円未満切捨てである。また、▲は損失であることを示す。

  • 第2

    • 平成21年9月7日、本件報告書を参照書類とする有価証券届出書を提出し、同有価証券届出書に基づく募集により、同月25日、新株予約権付社債を30億円で取得させ、

    • 平成21年11月10日、本件報告書を参照書類とする有価証券届出書(一般募集)を提出し、同有価証券届出書に基づく募集により、同月25日、2万株の株式を47億2,690万円で取得させ、

    • 平成21年11月10日、本件報告書を参照書類とする有価証券届出書(その他の者に対する割当)を提出し、同有価証券届出書に基づく募集により、同年12月17日、3,000株の株式を7億903万5,000円で取得させ、

    • 平成22年1月15日、本件報告書を参照書類とする有価証券届出書を提出し、同有価証券届出書に基づく募集により、同月29日、1,497個の新株予約権証券を3億7,965万5,667円(新株予約権の行使に際して払い込むべき金額を含む。)で取得させ、

    もって、重要な事項につき虚偽の記載がある発行開示書類に基づく募集により有価証券を取得させ

    た。

(違反事実認定の補足説明)

  • 第1事案の概要等

    • 本件は、風力発電開発事業を営む被審人が、風力発電機メーカーであるA社及びB社との間で、被審人が手掛ける風力発電開発事業につき風力発電機販売斡旋契約(以下、A社との間の契約を「本件A社販売斡旋契約」、B社との間の契約を「本件B社販売斡旋契約」といい、これらの各契約を併せて「本件各販売斡旋契約」という。)を締結した上、同各契約に基づく販売斡旋手数料を売上計上した本件各継続開示書類を提出するなどしたところ、上記売上計上されたもののうち、5件の風力発電開発事業案件に係るものについて、本件各販売斡旋契約に基づく役務提供及び対価の実態がなかったにもかかわらず、販売斡旋手数料が計上された重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券報告書を提出したなどとして、審判手続が開始された事案である。

      被審人は、上記役務提供及び対価の実態がなかったことについて争っているから、以下、この点について補足的に説明する(なお、違反事実のうち、その余の点については、被審人が争わず、そのとおり認められる。)。

    • 前提事実(被審人が認めている事実については、証拠を掲記しない。)

      • (1)関係者等

        • 被審人

          被審人は、平成11年7月26日、風力発電を含むエネルギー開発その他のエネルギー事業全般に係る施設の開発等を目的として設立された株式会社であり、設立以降、発電所の開発から運営までを一貫して手掛ける風力発電所の開発及び風力発電による売電事業を展開していた。

          被審人の発行する株式は、平成15年3月以降、東京証券取引所マザーズ市場に上場されていた(なお、平成26年8月1日、同証券取引所市場第二部に市場変更された。)。

        • 風力発電機メーカー

          • (ア)A社

            A社は、風力発電機の製造・販売を営む風力発電機メーカーである。

          • (イ)B社

            B社は、同社電力システム社において発電事業を営んでおり、風力発電開発事業の一環として、C社と共同開発したC社製風力発電機の販売・保守管理業務を行っていた。

        • 建設会社

          • (ア)D社

            D社は、建設業を営む株式会社であり、平成18年頃以降、被審人の子会社から風力発電所建設工事を受注していた。

          • (イ)E社

            E社は、船舶、プラントエンジニアリング、社会インフラ整備等について、建設工事を含む総合エンジニアリング事業を営む株式会社である。E社は、平成15年頃、被審人とともに設立した合弁会社が開発する風力発電所の建設工事を受注しており、その後も、被審人の子会社から風力発電所建設工事を受注していた。

      • (2)被審人による風力発電開発事業計画

        被審人は、平成20年当時、北海道、和歌山県、青森県、千葉県及び新潟県など複数の地域において、風力発電所を建設する計画を進めていた(以下、これらの案件をそれぞれ「F案件」、「G案件」、「H案件」、「I案件」、「J案件」、「K案件」、「L案件」、「M案件」及び「N案件」という。)。

        これらのうち、H案件、I案件、K案件、L案件及びN案件(以下「本件5案件」という。)が、本件で問題とされている案件である。

      • (3)本件各販売斡旋契約に至る経緯

        • 被審人は、かねてより、ドイツの風力発電機メーカーであるO社等から風力発電機を購入し、販売する事業(以下「直接販売方式」という。)を営んでいた。

          また、被審人は、風力発電による売電事業も行っていたところ、それらは、主に、完全子会社(以下「発電所子会社」という。)を設立し、風力発電事業の主体とするものであった(以下、発電所子会社が事業主体となる案件を「自社開発案件」という。)。自社開発案件においては、被審人は、自ら風力発電機を購入した上で、建設会社に販売し、建設会社は、発電所子会社から、いわゆるEPC方式で風力発電所に係る設備の設計、資機材の調達から建設工事までを一括して請け負い、被審人から購入した風力発電機を設置した風力発電所を建設するという方法が採用されていた。

        • ところが、被審人は、平成19年2月頃、監査法人から、自社開発案件においては、直接販売方式による販売利益を連結会計上消去すべきであるなどとの指導を受けた。

          そこで、被審人は、同年6月頃までに、直接販売方式に代え、風力発電機メーカーとの間で風力発電機の販売斡旋契約を締結し、風力発電機メーカーから直接建設会社に風力発電機を販売させ、風力発電機メーカーから同契約に基づく販売斡旋手数料を受領するという商流(以下「代理店販売方式」という。)を構築した。

      • (4)本件各販売斡旋契約等

        • 本件A社販売斡旋契約等

          • (ア)被審人は、A社との間で、代理店販売方式で取引を行うため、平成20年3月1日付け「販売斡旋に関する契約書」を取り交わし、受託者である被審人が委託者であるA社の製造する風力発電機の販売を斡旋すること等を内容とする風力発電機販売斡旋契約(以下「旧A社販売斡旋契約」という。)を締結した。

            その後、販売斡旋の対象となる風力発電機の仕様が一部変更されたことなどを受け、被審人とA社は、平成21年3月10日付け「販売斡旋に関する契約書」を取り交わし、旧A社販売斡旋契約に代え、本件A社販売斡旋契約を締結した。

          • (イ)被審人とA社は、上記契約書に加え、対象案件、数量等を定めた平成21年3月10日付け「覚書」を取り交わした。

        • 本件B社販売斡旋契約

          • (ア)被審人は、B社との間で、代理店販売方式で取引を行うため、平成20年9月12日付け「販売斡旋・促進に関する包括契約書」を取り交わし、受託者である被審人が委託者であるB社の取り扱うC社製風力発電機の販売を斡旋すること等を内容とする本件B社販売斡旋契約を締結した。

          • (イ)被審人とB社は、平成21年3月16日付け「販売斡旋・促進に関する包括契約書に関する覚書」を取り交わし、本件B社販売斡旋契約に係る取扱手数料を、1基当たり2,800万円から、10基を限度に1基当たり2,500万円に減額する旨合意した。

      • (5)内示書、作業準備依頼書の発行

        • H案件、I案件、K案件及びL案件

          • (ア)D社は、H案件、I案件、K案件及びL案件(以下「本件A社4案件」という。)について、風力発電所建設工事の受注を予定していたところ、正式な受注に先立ち、平成21年3月23日付けで、A社に対し、D社の社員のP名義で、本件A社4案件それぞれについて、名称、納期、機種、数量及び支払条件等に係る記載がある内示書を発行した。なお、D社は、この際、J案件についても同様に内示書(以下、本件A社4案件に係る内示書と併せて「本件各内示書」という。)を発行した。

          • (イ)A社は、平成21年3月26日付けで、被審人に対し、D社から本件各内示書を受領し、本件A社4案件に係る販売斡旋手数料を支払うことを記載した「販売斡旋に関する連絡書」と題する書面を発行した。

        • N案件

          • (ア)E社は、N案件について、発電所子会社から正式な受注を受けた後、平成21年3月26日付けで、B社に対し、本書をもって作業を進めるよう依頼する旨や、所掌範囲、納期、契約金額及び支払条件等に係る記載がある作業準備依頼書(以下「本件作業準備依頼書」という。)を発行した。

          • (イ)B社は、平成21年3月26日付けで、被審人に対し、C社製風力発電機10基分に係る本件作業準備依頼書を受領した旨を記載した「販売斡旋に関する連絡書」と題する書面を発行した。

      • (6)販売斡旋手数料の売上計上

        被審人は、本件各継続開示書類において、本件5案件に係る風力発電機合 計82基分につき、その販売斡旋手数料合計22億6,600万円を売上計上した。

      • (7)本件5案件の状況等

        本件5案件に係る事実経過及び現況は、別表「本件5案件の状況」(略)のとおりである。

  • 第2指定職員及び被審人の主張

    (指定職員の主張)

    • 役務提供の実態がないことについて

      本件5案件に関し、被審人が行ったと主張する販売斡旋の内容は、販売先の紹介・連絡取次、風況観測等の各種調査を含む各案件の実現に向けた準備行為及び当該各種調査の結果の情報提供であるところ、これらの被審人の行為には、本件各販売斡旋契約に基づく役務提供の実態はなかった。

    • 対価の実態がないことについて

      本件5案件に関し、被審人が販売斡旋手数料名目で受領する金銭は、被審人と経済的・実質的に同一である発電所子会社から支出される資金が、建設会社及び風力発電機メーカーを介して被審人に移動されるものにすぎず、本件各販売斡旋契約に基づく対価の実態はなかった。

    (被審人の主張)

    • 役務提供の実態がないとは認められないことについて

      被審人は、本件5案件について、風況観測等の各種調査や各種手続等の準備行為をした上、風力発電機メーカーに対し、風力発電所建設工事を行う建設会社を紹介し、風力発電機の販売を斡旋するとともに、各案件の立地場所の風況データ、解析結果等の風力発電機の製造等に参考となる情報を提供しているのであり、本件各販売斡旋契約に基づく役務提供には実態があった。

    • 対価の実態がないとは認められないことについて

      本件各販売斡旋契約においては、被審人が販売斡旋を行う対価として手数料を受け取る旨合意されており、その販売斡旋に実態がある以上、対価に実態がないとはいえない。

  • 第3争点に対する判断

    • はじめに

      被審人は、本件各販売斡旋契約は、被審人が風力発電機メーカーであるA社及びB社に対し、風力発電機の販売先を紹介し、販売先との取次等を行うこと、風力発電開発事業案件の実現に向けた風況観測等の各種調査を含む各種準備行為をすること及び各種調査結果に係る情報提供を行うことを役務の内容とし、風力発電機メーカーが被審人に対し、役務提供の対価として風力発電機1基当たり2,800万円又は2,500万円の販売斡旋手数料を支払うことが合意されたものと主張する。

      そこで、以下、この主張を踏まえ、本件各販売斡旋契約に基づく役務提供及び対価に実態があったか否かについて検討する。

    • 役務提供の実態がなかったと認められるか否かについて

      • (1)本件各販売斡旋契約及びその後の売上計上に至った経緯

        • 被審人は、自社開発案件に関し、従来、直接販売方式を採用し、風力発電機の売買代金を売上計上していたところ、平成19年2月頃、監査契約を締結していた監査法人から、その販売利益を連結会計上は消去すべきであるとの指導を受けた。被審人代表者は、仮に、連結会計上、上記販売利益が消去されることとなれば、株式価値の低下、株式市場や借入金融機関における信頼の失墜を招き、被審人が資金調達の危機に直面することで破綻に至るおそれもあるとの想定をしていたものであるから、被審人には、上記種々の問題を回避するため、直接販売方式による取引で計上していた利益に相当する利益を同方式によらない方法により計上する必要があったことが認められる。

        • また、被審人は、連結会計上の利益の消去を免れる方法を検討した結果、代理店販売方式を採用し、販売斡旋手数料として金銭を受領する形態を採れば、売上を計上することができ、連結会計上の消去も免れるものと考えたため、O社を始めとした風力発電機メーカー各社に対し、直接販売方式により計上していた利益相当額(1基当たり2,800万円)を販売斡旋手数料とする販売斡旋契約を締結するよう働きかけた。しかるに、被審人は、税務上の問題等から上記働きかけに応じなかったO社の風力発電機はその後採用しなかった。

        • さらに、本件A社販売斡旋契約の締結に先立ち締結された旧A社販売斡旋契約は、被審人が平成20年3月期にF案件の販売斡旋手数料を売上計上できるように、既に同期末を経過していたにもかかわらず、あえて作成日付を遡らせてまで契約書を取り交わし、かつ、販売斡旋手数料の発生条件を契約の締結に至らない内示書等の発行時にまで緩和した。

          また、本件A社販売斡旋契約についても、A社が契約書に対象案件を明記するよう求めていたにもかかわらず、販売斡旋手数料が売上計上できなくなることを危惧した被審人の意向により、具体的な案件名が明記されなかったものである。本件B社販売斡旋契約についても、G販売斡旋契約のみでは子会社への販売が前提となっているとの指摘を受けることにより、販売斡旋手数料を売上計上できないおそれがあるとの考えのもと、締結されるに至った。

        • そして、販売斡旋手数料の発生条件は、本件各販売斡旋契約のいずれについても、旧A社販売斡旋契約と同様、風力発電機売買契約に係る契約の締結に至る前の内示書等の発行時で足りるものとされていたところ、被審人は、本件5案件に関し、いずれも風力発電機売買契約の正式な締結前であり、販売斡旋手数料の入金すらされていない平成21年3月期の段階において、その販売斡旋手数料を売上計上したものである。このように、いまだ風力発電機の販売の実現が確定していない段階において、販売斡旋手数料の支払義務が生じる内容の本件各販売斡旋契約を締結し、また、その段階において売上計上がされている。

        • その上、被審人は、本件A社4案件について、風力発電機の直接の購入者である建設会社が正式に決定していない段階であるにもかかわらず、請負候補となっていたD社に対し、内示書を発行するよう依頼したところ、D社から、あくまで生産工程枠の予約にすぎないことを前提に、社内決裁の必要がない文書として、グループ長名義により、本件各内示書が発行されたものであるが、被審人はその本件各内示書を根拠に、販売斡旋手数料を売上計上しているのである。しかも、本件各内示書の発行に際し、D社は、内示書が正式発注に係るものではなく生産工程枠の予約にすぎない旨明記したいとの要請をしていたにもかかわらず、被審人はその要請を受け入れなかったのであるが、その理由は、販売斡旋手数料の売上計上が問題視されることを避ける点にあったことにほかならないといえる。

          また、被審人は、G案件及びN案件についても、E社に対し、工事の正式発注前の段階から内示書等の発行を依頼し、その発行に抵抗を示されたものの、最終的には作業準備依頼書と題する書面を発行してもらい、特に、N案件においては、内示書として取り扱わないことを約した上で上記書面を発行してもらったにもかかわらず、上記書面を根拠に販売斡旋手数料を売上計上したものである(ただし、N案件については、上記書面の発行後に風力発電機メーカーが変更されたことを受け、売上計上を取り消した。)。

        • 以上、本件各販売斡旋契約が締結され、その後の売上計上に至る経緯に鑑みると、被審人は、専ら、被審人が直接販売方式により計上していた利益相当額を、連結会計上も消去されない方法により計上することを目的として同各契約を成立させたことが認められる。

      • (2)被審人の業務内容との関係

        • 被審人の業務内容について

          • (ア)被審人は、自社開発案件においては、各案件の事業主体となる発電所子会社を設立し、同社に風力発電機を使用させ、売電事業を行わせることとしていたところ、まずは、その準備行為として、自ら行った風況観測の解析結果等に基づいて、事業計画を具体化していた。そして、被審人は、事業計画が具体化した後、風力発電所建設工事の請負候補となる複数の建設会社に対し、採用する風力発電機の基数、メーカー、機種等に係る記載を含む見積仕様書を送付して仮見積書の作成を依頼し、その上で補助金の交付申請を行っていた。また、上記交付申請に際し、被審人は、事業の実施計画書とともに、設置する風力発電機の機種を検討した議事録を併せて提出していた。すなわち、被審人は、事業計画が具体化した後、自らの事業の一環として、風力発電機メーカーや建設会社に働きかけ、風力発電機の選定や工事の請負候補等について検討を行う必要があったものである。

            上記各事情に照らせば、本件各販売斡旋契約に係る役務の内容として被審人が主張する行為は、自社開発案件における売電事業を実現する上で、被審人にとって行うことが必要不可欠な、被審人の事業内容そのものであったというべきである。そうすると、被審人は、仮に本件各販売斡旋契約を締結しなかったとしても、自社開発案件である本件5案件に関し、自社の事業として、各種準備行為や風力発電機の調達に向けた各種作業を行ったことは明らかである。

          • (イ)また、自社開発案件の事業主体は、各発電所子会社であったが、各発電所子会社は、各種準備行為の段階においてはもちろん、事業計画が具体化した後の、風力発電機メーカーや建設会社に働きかけを行ったり、補助金の申請を行ったりする必要が生じた段階においても、いまだ設立されていないことも多くあったものである。そうすると、各発電所子会社の設立以前の段階においては、当然、被審人が、自社の事業として上記一連の行為に取り組むことが予定されており、実際に取り組んでいたものと認められる。

            さらに、各発電所子会社は、専ら被審人の売電事業のために設立された被審人の完全子会社であり、その本店所在地は被審人と同一で、従業員も存せず、代表取締役はいずれも被審人の取締役が兼任していたことに加え、各発電所子会社が行うべき風力発電所の設置に向けた業務は、全て被審人に委託されていたものである。その上、被審人は、自社開発案件に用いる資金については、自ら調達し、各発電所子会社に貸し付けた上で、各案件を進行させようとしているものである。

            これらのことからすると、自社開発案件において、各種準備行為を進めたり、風力発電機の調達に向けた作業を行ったりすることは、各発電所子会社の設立前後を問わず、被審人自らの業務内容であったと認められる。

        • 風力発電機の購入に係る決定権限について

          本件5案件に係る風力発電機は、自社開発案件に用いられることが予定されていたのであり、そのメーカーや機種等に係る決定権限は、当然のことながら、実際の使用者であり、最終的な所有者でもある事業主体が有しており、また、形式的な事業主体である発電所子会社と被審人の関係が、前記で述べたとおりであることに照らせば、その実質的な決定権限は、被審人が有していたものと認められる。

          そうすると、被審人が、風力発電機メーカーに対し、風力発電機の直接の購入者である建設工事の請負元を紹介したり、その販売に係る連絡取次等をしたりしていたとしても、それは、自社開発案件において採用する風力発電機の購入に際し、自らの決定権限を行使したものにすぎない。

        • 以上のとおりであるから、本件各販売斡旋契約に係る役務の内容として被審人が主張する行為は、本件各販売斡旋契約の存在いかんにかかわらず被審人が行う被審人自らのための行為にすぎないと認められる。

      • (3)風力発電機メーカーにとっての必要性

        • 風力発電機の決定権限について

          前述のとおり、自社開発案件における風力発電機の購入に係る実質的な決定権限は、被審人が有していたものであるが、他方、風力発電機の直接の購入者である建設会社は、風力発電機を使用する発注元の意向と異なる風力発電機を購入することはできず、風力発電機の購入に係る決定権限を有していなかった。

          そうすると、本件5案件に関し、被審人が風力発電機メーカーに対し建設会社の紹介等を行うことは、風力発電機の購入に係る実質的な決定権限を有する者が、その販売を行おうとする風力発電機メーカーに対し、決定権限を有しない者を紹介等する行為であるといえ、風力発電機メーカーが販売という目的を達成する上では、必要性の認められない行為であったといわざるを得ず、それを販売斡旋と評価することはできない。

        • A社の認識等について

          A社は、自ら役務提供の対価として支払うはずの販売斡旋手数料の金額根拠を認識していなかった上、被審人の自社開発案件ではないQ案件においては、販売斡旋手数料の支払を拒んでいる。また、A社のRは、被審人に対し、Q案件に関する交渉において、被審人の自社開発案件以外で2,800万円という高額な販売斡旋手数料を支払うのは困難であり、販売斡旋手数料を支払う場合、A社の利益から支払うことのできる口銭で合意できるかどうか、それが顧客にとって利益になるかを判断することになる、どのような理由で手数料を支払うかは頭が痛く風のデータでは無理であるなどと述べている。これらのことに照らせば、A社は、被審人の自社開発案件に関しては、販売斡旋手数料を実質的に負担することはないとの認識を有しており、そうであるからこそ販売斡旋契約の締結に至ったものと認められる。そうすると、A社は、建設会社の紹介、連絡取次等のほか、各種準備行為や各種調査結果の情報提供という本件各販売斡旋契約に係る役務の内容として被審人が主張する各行為に関し、対価に見合う価値を見出していなかったことは明らかである。

          そもそも、被審人自身、本件5案件に係る各種準備行為は本件各販売斡旋契約締結時の数年前から実施していた上、A社に対し、情報提供等を行っていたと主張し、また、Rによれば、A社は、既に本件A社販売斡旋契約締結前の段階において、被審人から、風況観測等の各種調査結果の報告を受けていたというのであり、被審人が主張する一連の流れからしても、各種準備行為をすること及び各種調査結果を報告することが、本件各販売斡旋契約に基づく役務提供であったということはできない。

        • B社の認識等について

          B社は、被審人から販売斡旋契約の締結を求められた際、販売斡旋手数料の金額根拠やその内訳について、何の説明も受けず、役務の内容を把握できていなかったが、自社の販売する風力発電機を採用してもらうためには、同契約を締結することが前提となっている旨伝えられ、同契約の締結に至ったものである。

          また、B社は、社内において、販売斡旋契約に係る役務の内容及び対価の妥当性等について問題視されたため、被審人に対し、その役務の内容等に係る問合せを行ったものであるが、その際も、販売斡旋手数料が社内及び対外的に説明可能かという観点から検討を行っていた。そして、被審人代表者自身、販売斡旋手数料の内容に関するB社からの問合せについては、1基当たり2,800万円又は2,500万円という金額が設定されている前提で検討が進められており、販売斡旋の内容として見積書に掲げられた個々の項目に係る内訳金額には根拠も意味もなかった旨自認する。

          これらのことから、被審人とB社との間では、販売斡旋契約を締結すること自体が目的となっており、同契約の役務の内容については、契約の外形的な体裁を整えるため後付けで考案されたものと認められる。

        • 以上の各事情に照らせば、本件各販売斡旋契約に基づき販売斡旋等の役務提供を受ける者とされていた風力発電機メーカーには、その役務提供を受ける必要がなく、また、風力発電機メーカーが、対価を支払ってまで役務提供を受ける意義を見出していなかったことは明らかである。

      • (4)小括

        以上によれば、本件5案件に係る被審人の行為に同契約に基づく役務提供としての実態はなかったものと認められる。

    • 対価の実態がなかったと認められるか否かについて

      • (1)各契約における代金、販売斡旋手数料等の定め

        風力発電機メーカーは、風力発電機の売買代金を算定するに際しては、自社が受領する代金と被審人に対し支払う販売斡旋手数料について、各種書類にその旨区別して記載するなど、自社が受領する代金と販売斡旋手数料を区別して取り扱っていた。

        また、D社は、風力発電所建設工事の工事代金を算出する際には、販売斡旋手数料を含む風力発電機の売買代金を風力発電機の調達コストとして計上した上で、発電所子会社との間で、D社が算定した金額に従って風力発電所建設工事を請け負っており、本件A社4案件についても、同様の取扱いをする予定であった。E社は、発電所子会社であるN風力開発株式会社との間で、風力発電所建設工事請負契約を締結したところ、同契約の工事代金には、風力発電機購入価格に相当する費用が計上されていた。

      • (2)各代金等の支払時期の定め等

        本件A社販売斡旋契約に係る販売斡旋手数料の支払期限は、風力発電機売買代金の前金が支払われた月の翌月末までと定められている。また、本件B社販売斡旋契約に係る販売斡旋手数料は、検収完了月の翌月末までに支払うものとされ、風力発電機売買代金の前受金を受領した場合には、当該受領月の翌月末までに、販売斡旋手数料総額に前受金と販売斡旋価格の割合を乗じた金額を支払うものと規定されている。

        そして、D社及びE社は、発電所子会社から工事代金を受領した後に、その中から風力発電機の売買代金を支払えば足りるものと理解していた。

      • (3)被審人の認識

        被審人のSは、D社に対し、風力発電機売買代金の支払時期は発電所子会社からの工事代金の支払後である旨の記載があるメールを送信した。また、Sは、B社に対し、G案件に関連して、「風車代金支払につきましては、SPC→E社→御社→(手数料)→弊社と、すべて同時期にトコロテン式にH21.3月に行いたくお願い致します。御社にはSPCから発した送金がE社経由で流れてきますので、手数料支払の原資は確保されております。(「客先からの風車代金の入金後、翌月末現金」で構いません。)」という内容のメールを送信した。なお、G販売斡旋契約と本件B社販売斡旋契約は、その支払条件に係る条項が同一であった。

        このように、Sが上記各メールを送信していることに加え、被審人の役員であるTが、参考人審問において、本件5案件に関し、販売斡旋手数料の支払を受けるために発電所子会社に資金を貸し付けてまで、建設会社に工事代金を支払わせた旨供述していることにも照らせば、被審人においても、販売斡旋手数料は、風力発電機売買代金及び工事代金にそれぞれ上乗せされており、また、その支払時期は、発電所子会社から建設会社に工事代金が支払われ、その後建設会社から風力発電機メーカーに売買代金が支払われた後であるとの認識を有していたことは明白である。

      • (4)販売斡旋手数料への関心等

        A社においては、販売斡旋手数料の金額の根拠が不明であったにもかかわらず、特にその根拠につき被審人に説明を求めていない。また、B社と被審人の間では、専らB社内における説明を可能とすることを目的として、販売斡旋手数料の内訳に係る見積書が作成されており、見積書の各項目に係る内訳金額に根拠はなく、内訳金額は総額を前提として決められたにすぎない。これらのことからすると、風力発電機メーカーは、自らが支払義務を負うはずである販売斡旋手数料の金額根拠等について関心を持っていなかったと認められる。

        また、前記のとおり、本件各販売斡旋契約に基づく役務提供の実態はなく、同各契約が、直接販売方式により計上していた利益相当額を売上計上するという、専ら被審人の便宜を図る目的で締結された風力発電機メーカーにとって必要性の認められないものであること、A社においては、自社の利益の中から販売斡旋手数料を負担する必要がある場合には、その支払を拒んでいることを併せ考えると、本件5案件に関し、風力発電機メーカーが販売斡旋手数料を自社の利益の中から負担するのであれば、本件各販売斡旋契約は締結されなかったものと認められる。

      • (5)現実の資金の流れ

        A社は、本件A社4案件について、B社は、N案件について、現に風力発電機の販売先である建設会社から売買代金の一部を受領した後に、被審人に対し、本件各販売斡旋契約に係る販売斡旋手数料を支払っており、また、建設会社は、発電所子会社から工事代金の一部を受領した後に、風力発電機メーカーに対し、その受領した金額の範囲内で風力発電機売買代金を支払っていたものである。

      • (6)小括

        以上によれば、本件各販売斡旋契約に基づく役務提供について、対価の実態はなかったというべきである。

  • 第4結語

    以上のことから、本件5案件に係る被審人の行為に、本件各販売斡旋契約に基づく役務提供としての実態はなく、また、同各契約に基づく対価の実態もなかったものと認められる。

(課徴金の計算の基礎)

課徴金の計算の基礎となる事実については、被審人が認めており、そのとおり認められる。

別紙の第1の表に掲げる事実につき

番号1及び同2

旧金融商品取引法第172条の2第1項本文の規定により、被審人の第10期事業年度連結会計期間に係る有価証券報告書(以下「第10期有価証券報告書」という。)及び第10期有価証券報告書に係る平成22年7月28日提出の訂正報告書(以下「第10期訂正報告書」という。)に係る課徴金について、個別決定ごとの算出額は、

  • 被審人が発行する算定基準有価証券の市場価額の総額に10万分の3を乗じて得た額

    第10期有価証券報告書 1,153,737円
    第10期訂正報告書 1,153,737円

  • 3,000,000円

を超えないことから、

第10期有価証券報告書については、3,000,000円

第10期訂正報告書については、3,000,000円

となるが、第10期有価証券報告書及び第10期訂正報告書が、いずれも第10期事業年度に係るものであることから、旧金融商品取引法第185条の7第2項及び旧金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府令第61条の2の規定により、3,000,000円を個別決定ごとの算出額に応じて按分することとなり、

第10期有価証券報告書に係る課徴金の額は

3,000,000×3,000,000/(3,000,000+3,000,000)

=1,500,000円

第10期訂正報告書に係る課徴金の額は

3,000,000×3,000,000/(3,000,000+3,000,000)

=1,500,000円

となる。

別紙の第2に掲げる事実につき

金商法第172条の2第1項第1号の規定により、重要な事項につき虚偽の記載がある発行開示書類に基づく募集により取得させた株券等の発行価額の総額の100分の4.5に相当する額が課徴金の額となることから、

  • 平成21年9月7日提出の有価証券届出書に係る課徴金の額は、

    3,000,000,000円×4.5/100=135,000,000円

  • 平成21年11月10日提出の有価証券届出書(一般募集)に係る課徴金の額は、

    4,726,900,000円×4.5/100=212,710,500円
    について、金商法第176条第2項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて、212,710,000円

  • 平成21年11月10日提出の有価証券届出書(その他の者に対する割当)に係る課徴金の額は、

    709,035,000円×4.5/100=31,906,575円
    について、金商法第176条第2項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて、31,900,000円

  • 平成22年1月15日提出の有価証券届出書に係る課徴金の額は、

    379,655,667円×4.5/100=17,084,505円
    について、金商法第176条第2項の規定により1万円未満の端数を切り捨てて、17,080,000円

となる。

以上により、納付すべき課徴金の額は、

1,500,000円+1,500,000円+135,000,000円+212,710,000円+31,900,000円+17,080,000円

=399,690,000円

となる。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局総務課審判手続室
(内線2398、2404)

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