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1−4  金融機関の健全性に関し報告を求める場合及び業務改善を求める場合の着眼点

 銀行に係る不祥事件、銀行に対する社会的批判その他の理由により、その業務運営の適切性、健全性に疑義が生じた場合には、必要に応じ法第24条に基づき報告を求め、内容によっては法第26条に基づき業務改善を命ずることが必要となる。以下は、その際の着眼点を類型化して整理したものである。
 

−4−1 経営姿勢
 
(1)  業務運営の基本的な方針を経営者が明らかにしているか。具体的には、次のような点についての明確な考え方を明らかにしているか。
 
銀行の公共的、社会的な役割についての考え方
 
自己責任原則についての考え方
利用者のニーズに応じた金融サービスの提供についての考え方
 
各種法令遵守についての考え方
 
資本基盤の強化についての考え方
 
経営の効率化についての考え方
 
経営姿勢、経営管理の適時、適切な見直しについての考え方
 
金融システムの安定性、信頼性確保についての考え方
 
(2)  健全な融資態度を確立するための具体的な方策を講じているか。
 健全な事業を営む融資先に資金の円滑な供給を行うために、どのような方策を講じているか。例えば資本増強等の措置を講じているか。
 また、投機的不動産融資、過剰な財テク融資、不健全な先に対する融資、等を行わないための措置を講じているか。
 
(3)  過度な協力預金、過当な歩積両建預金等を受け入れないための措置を講じているか。
 預金増強運動等が過剰な勧誘とならないような歯止め措置は講じているか。架空名義預金をどのようにして排除しているか。
 
(4)  他金融機関への過度な預金紹介、金融商品以外の紹介斡旋、顧客の印鑑等の預かりなど、正常な取引慣行に反する行為の発生をどのように防止しているか。
 
(5)  預金、貸出、決算等の諸計数の正確を期すための措置が講じられているか。
 
−4−2 経営管理
 
(1)  営業店の管理・指導に当たり、預金、貸出金及び利益目標等の設定が過大にならないような措置が講じられているか。営業店の内部管理体制を常時チェックする措置が講じられているか。
 
(2)  預金通帳・証書等の重要物品の保管、支店長印の管理、現金の管理・出納、異例取引及び預金担保貸出に係る内部事務管理に係る諸規定が明確に定められ、かつ、規定どおりに実施されているか。
 
(3) 市場関連リスク管理のための体制が構築されているか。
 
マル1  経営戦略に応じたリスク管理の基本方針が明確に決定されているか。基本方針には、管理すべきリスクの所在、リスク量の限度設定の基本的な考え方、リスク管理のための組織・権限規程、リスク管理手続が定められているか。また、定期的な見直しが制度化されているか。
 
マル2  市場関連リスクに関する経営陣の認識の程度はどうか。リスクの所在、自行の日々のリスク量を把握しているか。また、それらが取締役会等の意思決定機関に定期的に報告されているか。報告の結果がどのように活用されているか。
 
マル3  部門間の相互牽制機能が発揮されるよう取引実施部門と後方事務部門の分離等が行われているか。
 
マル4  リスク管理を担当する部門が他の部門から独立し、十分な専門能力を有する人員が配置されているか。
 
マル5  リスク管理手続の設定、運営について検証するための内部検査が行われているか。
 
マル6  銀行全体及び銀行グループ全体が有する各種のリスクを定期的に測定し、定期的に経営陣へ報告されているか。リスクの測定方法は、取扱い商品の特性、業務の手法及び規模に応じ、管理すべきリスク要因を把握できる精緻さとなっているか。また、経営陣への報告内容は、各種リスク要因を総合的に把握した上で経営判断に利用しうるものとなっているか。
 
マル7  リスク限度額の設定について、自己資本等を勘案したものとなっているか。限度額遵守のためのマニュアルやロスカットルールの設定等が行われているか。
 
マル8  海外営業拠点を有する金融機関については、特に、
 
(a)  リスク管理システムは、統計的手法を用い、かつ連結ベースで、ポジションの把握、時価評価、リスク量の計測を日次等適宜把握しているか。
 
(b)  リスクを管理する部門は、リスク測定の結果を基に日次等適宜のベースで報告書を作成しているか。
 
(4)  内部検査体制の確立が図られているか。
 
マル1  本部の検査・事務指導部門については、業務に精通した要員が確保されているか。
 
マル2  営業店や市場関連業務を行う本部においては、本部検査は原則として年1回以上行われているか。
 
マル3  経営陣への内部検査結果の報告状況はどうか。内部検査結果が営業店の業績考課に反映されているか。
 
マル4  自店検査と本部検査の連携は図られているか。
 
マル5  検査項目として次の事項が含まれているか。
 
(a)  資産の健全性に関する管理の状況
 管理債権の管理の状況、管理債権の定期的な見直しの状況、担保評価の見直しの状況、管理債権の把握と当局への報告の正確性、不良債権発生の未然防止策、自己査定基準の合理性・明瞭性、自己査定の実施の適正性、自己査定結果等の経営陣への報告の正確性・適正性
 
(b)  内部管理の状況(法令遵守状況を含む)
 法令・定款・内部規程の遵守状況、海外支店における内部監査担当者(インターナル・オーディター)及び海外支店における法令遵守担当者(コンプライアンス・オフィサー)の活動状況、相互牽制の状況、内部管理に係る諸規定の整備状況、内部検査結果を踏まえた業務改善状況、海外支店における外部の専門家による業務監査の状況、海外支店における監査結果等を踏まえた業務改善状況、不祥事件等の発生状況(発生原因の分析を含む)、不祥事件等の発生の未然防止策、不祥事件等の本部、経営者及び当局への報告状況、長期連続休暇制度の運用状況、人事ローテーションの状況、苦情等トラブルの発生状況
 
(c)  デリバティブ取引等市場関連リスクの管理状況
 リスク管理の基本方針に基づいた業務運営の状況、リスク管理部門の独立性確保の状況、相互牽制機能の確保の状況、デリバティブ商品の販売業務の適正性(顧客への説明状況を含む)、リスク測定と経営陣への報告の正確性、各部門におけるリスクの限度額等の設定状況とその遵守状況、リスク限度額の定期的な見直しの状況
 
(d)  コンピューターシステムの管理状況
 コンピューターシステムに関連する組織、責任及び権限を定めた規定の整備状況、コンピューターセンターの安全対策の状況、コンピューター操作面の安全対策の状況
 
(5)  安全対策は講じられているか。
 
 巡回型の施設及び無人型の設備においては、防犯設備が施されているか。また、現金輸送時の安全対策が講じられているか。
 
 銀行以外の者が占有管理する端末機等(入出力装置等を含む)を利用する資金移動取引については、コンピューターシステムの事故防止対策、不正使用防止対策、不正アクセス防止対策、取引者のプライバシー保護対策が施されているか。
 
(6)  海外支店(役職員数40名以上)への内部監査担当者及び法令遵守担当者の配置が行われているか。内部監査担当者は支店長から独立し、本店検査部等に直結しているか。法令遵守担当者は国ごとに配置されているか。
 
(7)  海外支店への外部監査の活用は行われているか。年一回以上外部の専門家による監査が行われているか。特にデリバティブ取引等市場関連業務の監査に重点が置かれているか。
 
(8)  人事管理にあたっては、事故防止等の観点から職員を長期間にわたり同一業務に従事させることなくローテーションを確保するよう配慮されているか。年一回以上1週間以上の連続休暇を取得させているか。
 職員教育において、職業倫理が盛り込まれているか。
 
(9)  各種法令の遵守のために具体的な措置が講じられているか。
 
(10)  経営の効率化及び健全化に資する観点から、保有する資産及び経費について定期的な見直しが行われているか。
 特に、その他の資産及び営業用動・不動産については、常に厳格な見直しに努めているか。
 
−4−3 資産管理
 
(1)  貸出等の与信の審査・管理体制について、営業推進部門と与信審査・管理部門のバランスが、与信処理の実情に応じて保たれるような措置が講じられているか。
 与信への取組に当たって、事業計画、資金使途、返済財源、返済方法、投資効果、業況、財務内容、債権保全面が審査項目に入っているか。なお、審査に当たり、債権保全面のみに依存したものとなっていないか。また、与信後における債務者の業況把握、貸出条件の履行状況、資金使途の確認、事業計画の遂行状況といった債務者の実情にあった適切な管理を十分行っているか。
 
(2)  自らの資産内容の健全性を的確に把握するための措置を講じているか。
 
マル1  自己査定基準を策定して自らの資産を検討・分析し、回収の危険性又は価値の毀損の度合いに応じて分類区分(以下「自己査定」という)を行っているか。
 
マル2  自己査定基準の策定に当たっては、商法等関係法令に準拠し、経営陣の積極的な関与の下で正式の行内手続を経て、文書により規定化されているか。資産査定の具体的な基準、自己査定の実施部署が明記されているか。基準の合理性、明確性が確保されているか。
 
マル3  自己査定の責任部署が明確化されているか。当該部署は営業店及び本部貸出承認部署とは独立したものであるなど相互牽制機能が確保された体制となっているか。
 自己査定の手続き等について、検査部門等の内部監査部門が監査を行う体制となっているか。自己査定関連部門へ精通者が配置されているか。
 
マル4  実際の自己査定が基準どおりに行われているか。
 
マル5  自己査定結果の経営陣への報告が適宜に行われる事務フローとなっているか。経営陣は報告を理解し自行の資産内容を正確に把握しているか。
 
マル6 自己査定結果を踏まえた、償却引当方針は明確か。外部監査人との連携は十分か。
 
マル7 公認会計士協会実務指針に則った償却・引当が行われているか。
 
マル8  海外の政治経済情勢等に起因して、特定の国又は地域に関連して特に生ずることが見込まれる貸倒損失(以下「カントリー・リスク」という。)の評価に係る合理的な基準が整備されているか。
 
マル9  カントリー・リスクの評価結果を踏まえた、特定海外債権引当勘定への引当方針は明確か。引当方針に則った引当が行われているか。外部監査人との連携は十分か。
 
マル10  カントリー・リスクの評価基準は、以下のような事実等が発生している国又は地域の政府、その他対象国に住所又は居所を有する自然人若しくは対象国に主たる事務所を有する法人に対する信用供与を適正に評価できる内容となっているか。
 
(a)  当該国の政府、中央銀行、政府関係機関又は国営企業(以下「政府等」という。)に対する民間金融機関の貸出金(以下「政府等向け民間貸出金」という。)の元本又は利息の支払いが一月以上延滞していること。
 
(b)  政府等向け民間貸出金について、決算期末前五年内に、債務返済の繰延べ、主要債権銀行間一律の方式による再融資、その他これらに準ずる措置(以下「債務返済の繰延べ等」という。)に関する契約が締結されていること。
 
(c)  政府等向け民間貸出金について、債務返済の繰延べ等の要請を受け、契約締結に至らないまま一月以上経過していること。
 
(d)  政府等向け民間貸出金について、前各号に掲げる事実が近い将来に発生することが見込まれること。
 
(e)  当該国に住所又は居所を有する自然人若しくは当該国に主たる事務所を有する法人に対する民間金融機関の貸出金について、(a)から(c)に類する事実が発生していること又は近い将来に発生することが見込まれること。
 
(f)  その他、カントリー・リスクの評価に影響を及ぼすことが見込まれる事象。
 
マル11  金融商品並びに退職給付に関して、公認会計士協会実務指針に従った処理等が行われているか。
 
−4−4 その他
 
(1)  不祥事件等の発生時の対応
 不祥事件発生時の本部への連絡体制が確立されているか。事件の事実関係の調査、関係者の責任追求、監督責任の明確化を図る体制が整備されているか。当局、警察への報告、通報体制が確立されているか。事件の調査・解明を事件とは独立した部署で行う体制となっているか。証券取引所の定める適時開示を行う体制となっているか。
 
(2)  苦情処理体制の充実・強化
 営業店及び本部の苦情処理体制が確立されているか。
 特に、顧客に対し十分説明する体制が確立れているか。
 
(3)  貸付債権の流動化について
 
 対象債権を有する銀行は、原債務者の保護に十分配慮しているか。
 
 債務者等を圧迫し又はその私生活若しくは業務の平穏を害するような者に対して貸付債権を譲渡していないか。
 
(4)  商品投資に係る業務(商品ファンド)の取扱いについて
 銀行が「商品投資に係る事業の規制に関する法律」(平成3年法律第66号)により適用除外を受ける者とされている趣旨に鑑み、同法等に定められている投資家保護等のための規制に沿った業務運営が確保されているか。
 
(5)  小口債権販売に係る業務の取扱いについて
 銀行が「特定債権等に係る事業の規制に関する法律」(平成4年法律第77号)により適用除外を受ける者とされている趣旨に鑑み、同法等に定められている投資家保護等のための規制に沿った業務運営が確保されているか。
 
(6)  抵当証券業務について
 銀行が「抵当証券業の規制等に関する法律」(昭和62年法律第114号)により適用除外を受ける者とされている趣旨に鑑み、同法に定められている購入者保護のための規制に沿った業務運営が確保されているか。
 
(7)  履行保証について
 銀行が、いわゆる履行ボンド等、建設工事等の履行保証を行う場合には、保証履行の際に、銀行が自ら工事を完成させる等銀行法第12条に照らして銀行が行うことができない業務を行う必要が生じない契約内容となっているか。
 

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