はじめに



                                                                                        


1.検討の背景                                                                          


                                                                                        


    1996年4月1日に半世紀ぶりの全部改正となる「保険業法」が施行され、来るべき21世紀に


  向けての我が国の保険業及び保険監督行政の望ましい姿を包括的に提示した保険制度改革が、


  現在、着実に実施されているところである。                                            


    近年、経済の自由化・国際化の進展、人口の高齢化等、保険業を巡る環境は大きく変化して


  きている。また、国民の価値観やライフスタイルの多様化等に対応して、国民や社会が求める


  保険ニーズは着実に多様化・高度化してきている。一方、長期化する逆ざやの状況等を背景  


  に、保険会社の経営環境には厳しい面もある。このような中で、1996年11月11日、総理大臣よ


  り、内閣の最重要課題の改革の一つとして、2001年までに我が国金融市場をニューヨーク・ロ


  ンドンと並ぶ国際金融市場とすることを目指す「金融システム改革」に全力を挙げて取り組む


  よう指示が出された。これを受け、11月15日、大蔵大臣から、保険審議会をはじめとする関係


  5審議会の会長に対し、2001年までの間に金融システム改革が完了するプランをできる限り早


  急にとりまとめるよう、要請があった。                                                


    以上のような状況を踏まえ、今般、保険審議会は、金融システム改革の一環として、保険業


  及び保険監督行政における基本的な問題について検討を行うこととしたものである。        


                                                                                      


                                                                                        


2.審議の経過                                                                          


                                                                                        


    保険審議会は、1996年12月の第63回総会において、金融システム改革に係る総理大臣の指示


  を受け、保険業及び保険監督行政における基本的な問題について検討を行うことを決定し、そ


  の検討のために保険審議会の下に基本問題部会を設けた。                                


    基本問題部会では、1997年1月に、(1)算定会の改革等、自由化措置、(2)業態間の参入促進、


  (3)持株会社制度の導入、(4)銀行等による保険販売等、(5)トレーディング勘定への時価評価の適


  用、の5項目を主要な検討項目として審議を開始し、以後、各検討項目について、参考人の意


  見陳述も求めつつ、1997年6月までに10回にわたり検討を進めた。                        


    本報告は、これまでの審議結果を保険審議会報告「保険業の在り方の見直しについて」とし


  て取りまとめたものである。                                                          


                                                                                        





第1章 総 論



                                                                                        


  1.近年、経済の自由化・国際化の進展、人口の高齢化等、保険業を巡る環境は大きく変化し


    てきている。こうした中で、国民の価値観やライフスタイルの多様化等に対応して、国民や


    社会が求める保険ニーズは着実に多様化・高度化してきている。                        


      また、21世紀において我が国経済が活力を保っていくためには、1200兆円にも達する我が


    国の個人金融資産がより有利に運用される場が必要であり、効率的な保険サービスの提供が


    求められている。                                                                  


      国民が求める保険ニーズの多様化・高度化に応えるとともに、効率的な保険サービスを提


    供していくためには、市場原理の下で適正な競争が行われることを通じ、商品開発の活性化


    や経営の効率化が図られることが必要であり、このような観点から、金融システム改革の一


    環として、保険業及び保険監督行政について、次章で述べるような見直しを行うこととし  


    た。                                                                              


                                                                                      


                                                                                      


  2.見直しに当たっては、(1)利用者の立場、(2)国民経済的見地、(3)国際性の3つが重要である


    という認識の下に、これらの視点から、保険業及び保険監督行政について検討を行った。  


                                                                                      


   (1)  利用者の立場に立った制度の構築                                                


        利用者の立場に立って考える場合、利便性の向上を図ることが重要であるが、その際に


      は、何が利用者の真の利益につながるのかという観点からの考慮も必要である。すなわ  


      ち、利便性の向上につながるものとしては、販売チャネルの多様化により、保険商品にア


      クセスしやすくなる、価格設定や料率区分の多様化により、商品選択の幅が拡がる、ある


      いは、よりリスクに見合った保険料で商品が提供されるといったことが考えられるが、そ


      の際にも、利用者の真の利益という観点から、利用者にとって本当に役に立つ保険が選択


      できる、適正なルールの下で安心して保険を購入できるといったことを考慮する必要があ


      る。このように、見直しに当たっては、何が利用者の真の利益につながるのかを常に考慮


      しながら検討を行った。                                                          


        また、見直しの実施に当たっては、利用者の自己責任原則の確立が求められる中で、利


      用者が自らの利益を守るためには、保険会社による情報開示の充実等による十分な情報提


      供及び適切な監督行政が必要であるとともに、消費者自らが学べる場・機会の充実を図っ


      ていく必要がある。                                                              


                                                                                      


   (2)  国民経済的に望ましい制度の構築                                                  


        国民経済的に見ると、適正な競争を通じて、資源の効率的配分が図られることが望まし


      い。このため、見直しに当たっては、保険会社が、自己責任原則の下で経営の健全性を確


      保しつつ、最大限の競争促進を図れるよう検討を行った。                            


                                                                                        


   (3)  国際的に調和のとれた制度の構築                                                  


        金融の国際化が進展している中で、保険業についても、制度面において、透明性を確保


      し、グローバル・スタンダードとの調和を図ることが求められている。このため、見直し


      に当たっては、グローバル・スタンダードを踏まえ、できるだけ自由で透明性のある制度


      を構築することを目指し、検討を行った。                                          


                                                                                      





第2章 各 論



                                                                                    


I.算定会の改革等、自由化措置



                                                                                    


    1.基本的考え方                                                                    


                                                                                        


     (1)  損害保険料率算出団体(以下「算定会」という。)は、損害保険会社を会員として任意


        に設立される法人であるが、中立的な機関として公正な保険料率の算出を行い、会員であ


        る保険会社に提供することにより、損害保険業の健全な発達と保険契約者等の利益の保護


        に貢献してきた。会員会社は、「損害保険料率算出団体に関する法律」において、算定会


        が大蔵大臣に届け出た保険料率を使用する義務がある代わりに、当該料率については個別


        に大蔵大臣の認可等を必要としないこととされており、このような制度は、保険行政に対


        する補助的な機能を果してきたと考えられる。                                      


                                                                                        


     (2)  しかし、他方において、算定会には事実上すべての元受損害保険会社が加入し、全社が


        一律に算定会料率を使用することから、現在の算定会制度が、商品の多様化や事業者間の


        競争に対する制約要因になってきたことは、否定できない。                          


                                                                                        


     (3)  現在、金融システム改革が進められている中で、保険市場においても、事業者間の適正


        な競争が促進され、多様化・高度化する消費者ニーズに柔軟に応える活発な商品開発が行


        われることが強く望まれている。また、1996年12月の日米保険協議の決着において、政府


        は、金融システム改革に係る総理大臣の指示と整合性をとりつつ、保険市場における革新


        (イノベーション)と競争の促進を通じて消費者の利益を高めるため、算定会料率の遵守


        義務の廃止を中心とする算定会制度の抜本的な改革など一連の規制緩和を、1998年7月ま


        でに実施する旨、意図表明を行っている。                                          


                                                                                        


     (4)  以上のような状況を踏まえると、算定会は今後、保険会社の新商品開発等の努力を適切


        に支援し、適正な競争の促進に貢献できる機能を主体的に発揮していくことが重要と考え


        られることから、下記2.で述べる算定会制度の改革を実施することが適当である。    


                                                                                        


     (5)  算定会改革後の保険行政は、金融システム改革の理念との整合性を確保しつつ、公正・


        公平で透明性が高く、かつ、諸外国の保険行政のあり方も十分念頭に置いたものであるこ


        とが適当である。商品・料率の事前認可制等に関しては、EU各国においては廃止されて


        いる一方で、米国では州により異なるものの当局による慎重な規制や審査が維持されてお


        り、いわゆるグローバル・スタンダードを特定することは難しいが、我が国では、算定会


        改革の結果、消費者保護や保険会社の健全性の確保に支障が生ずることのないよう、最低


        限必要な監督を行うとの考え方に基づき、認可制を維持することが適当である。        


                                                                                        


     (6)  以上の基本的な考え方を踏まえ、算定会改革等を進めていく際の具体的な論点につい  


        て、以下に述べていくこととする。                                                


                                                                                    


                                                                                    


    2.改革後の算定会の機能                                                        


                                                                                    


     (1)  料率算出等                                                                


                                                                                    


        1  現在、算定会が料率算出を行っている保険の種類のうち、商品・料率の多様化や適正


          な競争の促進が消費者利益の増進につながると考えられる任意自動車保険、火災保険、


          及び傷害保険については、既存事業者による多様な商品開発の活発化、新規事業者の参


          入を含む競争の促進、及び自己責任に基づく消費者の商品選択に対する判断材料の提供


          の観点から、算定会料率の遵守義務を廃止し、算定会が遵守義務のない標準約款及び参


          考料率を作成・算出する制度とすることが適当である。                            


                                                                                        


        2  参考料率については、いわゆる付加保険料率を含めた営業保険料率(最終料率)を算


          出・提供することが当面の保険の安定供給の観点から望ましいとする意見や、消費者に


          とっても比較・選択の判断材料となるとの観点から算定会が最終料率を算出・提供する


          ことが望ましいとの意見がある。しかし、(i) 付加保険料率は本来、各社が自己の合理


          化努力を折り込んで独自に算出すべきものであること、(ii) 参考料率であるとして  


          も、各社が算定会の最終料率を横並びで使用する場合には、結果として商品・料率の多


          様化が妨げられ消費者の選択の幅が狭められること、から、保険会社に対する参考料率


          の算出・提供は、純率についてのみ行うことが適当である。                        


                                                                                        


        3  改革後の算定会は、上記1の3種類以外の様々な保険についても、会員会社の要望、


          消費者ニーズ等を勘案しつつ、約款及び参考純率を作成・算出し、会員会社による多様


          化された保険商品の開発を支援することが望ましい。                              


                                                                                    


     (2)  データ・バンク機能等                                                      


                                                                                    


        1  改革後の算定会は、上記1)の約款・料率の作成・算出以外にも、広範な保険データを


          収集・加工し、その結果を会員に提供するデータ・バンクの機能を果たすことにより、


          適正な競争の促進と多様な商品開発の活発化に資することが適当である。            


                                                                                        


        2  新規参入を支援する観点から、作成した各種約款、参考純率、既存会社の経費の実績


          値等の共同統計等を、新規事業者たる会員に開示することが適当である。            


                                                                                        


        3  消費者が自己責任に基づき適切な商品選択が行えるよう、算定会においても、消費者


          に対して比較・選択に資するような情報提供を行うことが適当である。例えば、現実に


          どのような最終料率で保険が販売されているのかに関する実績統計等も開示されること


          が適当である。                                                                


                                                                                        


        4  改革後の算定会は、会員会社の損害率や経費の実績値等を集計し、行政当局に提出す


          るなど、行政に対してのデータ・バンク機能も担い、適正かつ効率的な行政に資するこ


          とが適当である。                                                              


                                                                                        


        5  算定会は、個別の会員会社に対し数理技術や算定会のノウハウの蓄積に基づくサポー


          トを提供する、いわゆるコンサルティング機能の発揮に関しても、積極的に検討するこ


          とが適当ではないか。                                                          


                                                                                    


     (3)  独占禁止法との関係                                                        


                                                                                    


        1  改革後の算定会について、競争制限的な側面が温存されるのではないかと懸念する考


          え方がある。しかしながら、今後の自由化時代においては、豊富な基礎データを収集し


          て、信頼性の高い参考純率を算出し、正確な統計数値を作成することは、消費者保護や


          保険会社の経営の合理化を確保しつつ、適正な競争を促進する環境を提供する点で、む


          しろ一層重要となる機能と考えられる。このような観点から、算定会は今後、損害保険


          市場において積極的な役割を果たすべきであり、これを確保するためには、算定会の活


          動に関し法的な安定性が確保されなければならない。                              


                                                                                        


        2  算定会も、独占禁止法に照らして適法に活動すべきことは当然であるが、適法な活動


          の範囲が不明確であり、算定会が独占禁止法との関係で不安定な状態に置かれるような


          事態は、回避されなければならない。                                            


                                                                                        


        3  したがって、行政当局においては、上記1)、2)の活動内容の法的安定性を、独禁法と


          の関係で明らかにしておくことが適当である。法的安定性を明らかにする具体的方法に


          ついては、適用除外等何らかの法律上の手当てが可能であれば望ましい。仮に、法律上


          の手当てが困難な場合には、これに代わる何らかの安定的措置が講じられることが適当


          と考える。                                                                    


                                                                                    


     (4)  以上を内容とする算定会制度の改革は、金融システム改革の一環として速やかに実施す


        ることが望ましいことから、1996年12月の日米保険協議の決着内容を踏まえつつ、所要の


        法令改正を経て、1998年7月までに実施することが適当である。                  


                                                                                    


                                                                                    


    3.算定会改革後の損害保険行政のあり方                                          


                                                                                    


     (1)  改革後の当面のあり方                                                      


                                                                                    


        1  これまで算定会により一律に設定された商品・料率が保険の安定供給に貢献してきた


          との考え方から、商品・料率の多様化が認められると、一部保険料の高騰により安定供


          給が阻害されるのではないか、リスクの高い消費者に対する引受拒否が起きるのではな


          いか、等の懸念があるが、これらの可能性をもって自由化を否定することは適当でな  


          く、(i) 保険会社が、必要最小限の危険担保を行う商品(例えば、対人賠償のみの任意


          自動車保険)を積極的に提供する等、消費者の選択の幅を拡げる創意工夫を発揮する、


          (ii)料率の高騰や引受拒否が特に発生しそうな保険分野については、その発生が懸念さ


          れる間、行政当局が商品・料率認可に係る最低限のガイドラインを設け、社会的混乱を


          回避しつつ自由化の進展を促す、等により対応することが適当である。ただし、行政当


          局がガイドラインを設定する場合には、その内容によっては、かえって安定供給を阻害


          する結果にもなりかねないおそれがあることに留意しつつ、明確かつ公正・透明な必要


          最小限のものとすることが適当である。                                          


                                                                                        


        2  算定会改革を機に、機動的な料率設定等の観点から、商品・料率の認可制を廃止し届


          出制へ移行すべきとの意見があるが、改革により消費者保護や保険会社の健全性に対し


          問題が生じないかを見極めずに事前認可制を廃止することは問題であると考える。一般


          消費者を顧客とする家計向け保険に関しては、行政当局が商品や料率の適正性につい  


          て、事前認可制を含む必要最低限の監督を継続することが適当である。              


                                                                                        


        3  ただし、行政当局は、改革の結果、消費者ニーズに応える多様な商品が円滑にマーケ


          ットに供給されることが重要であること、及び、今後、金融システム改革の理念に沿っ


          た行政運営が一層望まれること、に十分留意して、現実の職員数の制約も十分に勘案し


          つつ、効率的かつ公正・透明な認可等事務の運営に一層努めることが適当である。    


                                                                                        


        4  認可等手続きの一層の効率化等、改革後の損害保険行政を構築していく際には、行政


          当局は算定会の機能の積極的活用を図ることが適当である。具体的には、算定会は標準


          約款及び参考純率を行政当局に届け出ることとし、会員会社がこれらを利用して商品・


          料率の認可申請をする場合には、行政当局は当該算定会の届出内容から乖離した部分の


          み審査する、等の仕組みが考えられる。                                          


                                                                                        


        5  しかしながら、保険の専門的知識や交渉力を有する企業を顧客とする保険に関して  


          は、認可制の廃止を含む規制緩和を迅速に進めることが望ましく、行政当局は、このよ


          うな考え方に沿った検討を、具体的に進めることが適当である。                    


                                                                                    


     (2)  将来の方向性                                                              


                                                                                    


        1  将来、商品・料率の認可制を緩和し、例えば原則届出制に移行するような場合には、


          消費者保護や保険会社の健全性の確保に係る一層の措置を講ずることが必要であり、行


          政当局は、そのための検討を進めていくことが適当である。                        


                                                                                        


        2  また、自由化の環境の下では、一般消費者が損害保険の仕組みや商品内容に関する十


          分な知識や理解を有し、自己のニーズに適合した商品を自己責任に基づき主体的に選択


          できることが重要である。このような観点から、消費者自らが学べる環境の整備につい


          ても、今後、遅滞なく検討が進められることが適当と考える。                  


                                                                                    


                                                                                    


    4.経過措置                                                                    


                                                                                    


     (1)  算定会改革は、商品の多様化及び適正な競争の促進による消費者利益の増進を目的とす


        るものであるが、 (i)新制度への移行に関して、算定会及び損害保険会社は事務処理手続


        き、コンピューターシステムの改定等に多大な投資と時間を要すること、(ii)行政当局に


        おいても、各社ごとの膨大な認可申請を短時間に処理することは非現実的であること、か


        ら、各社が改革の実施時点で現に販売している算定会商品を引き続き販売する場合には、


        一定の期間は改めて認可を取得する必要がないとする経過措置を設けることが適当であ  


        る。                                                                            


                                                                                        


     (2)  また、改革の実施時点で使用されている付加保険料率を引き続き使用することが、むし


        ろ新商品の開発等を促進すると認められるような場合には、付加保険料率の取り扱いにつ


        いても、適切な経過的措置を設けること等が適当と考えられる。                      


                                                                                    


                                                                                    


II.業態間の参入促進



                                                                                        


    1.基本的考え方                                                                    


                                                                                        


     (1)  経済・社会環境の変化と保険ニーズの多様化・高度化等を受けて、保険会社は、事業運


        営、商品開発等において、積極的な対応を図っているが、新規参入の促進等により、新し


        い活力を導入し、適正な競争を促進することにより、より効率的な事業運営が期待でき  


        る。                                                                            


                                                                                        


     (2)  保険会社による銀行・信託・証券業務への参入及び、銀行等・信託銀行・証券会社によ


        る保険業への参入については、これまで培ってきた経営資源やノウハウ等を基礎に、業務


        の適正な遂行が見込まれるとともに、利用者の多様化・高度化するニーズに応えることが


        期待できる。                                                                    


                                                                                        


     (3)  1993年4月の金融制度改革法の施行により、銀行等・信託銀行と証券会社との間では、


        相互参入が実施され、本年3月には更に子会社の業務範囲の見直しが行われたところであ


        る。                                                                            


                                                                                        


      (4)  1992年6月の保険審議会答申「新しい保険事業の在り方」において、業態別子会社方式


        によって、「保険会社が銀行・信託・証券業務に参入できるようにするとともに、銀行等


        ・信託銀行・証券会社についても保険事業に参入できるようにすることが適当である。」


        とされたところである。                                                          


                                                                                        


     (5)  上記答申に係る法制的検討をとりまとめた1994年6月の保険審議会報告「保険業法等の


        改正について」においては、「当報告を基にした保険関係法規の改正については、まず、


        子会社方式による生・損保の相互乗り入れを含む保険制度の自由化を進めるとともに、健


        全性維持のためのソルベンシー・マージン基準や新しい経営危機対応制度の導入などの法


        制化を急ぐことが肝要であり、その定着を見極めた後に子会社方式による他業態への進出


        も含めた制度改革が完了するよう、段階的に行うことが適当である。ただし、その際にお


        いても、当審議会において示した保険制度改革が、できるだけ早期に実現するよう配慮す


        ることが望ましい。」とされたところであり、保険会社と金融他業態との間の参入につい


        ては、できるだけ早期に制度面の実施を図ることが適当である。                      


                                                                                        


     (6)  1996年4月より施行されている新保険業法において、子会社方式による生・損保の相互


        乗り入れ、ソルベンシー・マージン基準や保険契約者保護基金の導入が盛り込まれ、既に


        実施されている。また、総理指示による金融システム改革についても、2001年までに完了


        することとされており、日米保険協議において議論された第三分野の激変緩和措置につい


        ても、1996年12月の決着により、遅くとも2001年までに終了することが予定されている。


                                                                                        


     (7)  保険契約者保護及び保険業の信頼性確保の観点から、早期是正措置及び支払保証制度の


        導入を図ることが適当である。                                                    


                                                                                        


     (8)  以上の点にかんがみ、保険会社と金融他業態との間の参入については、今般の金融シス


        テム改革の趣旨を勘案し、制度面では2001年までに実現を図ることが適当である。      


                                                                                        


                                                                                        


    2.参入の方法                                                                      


                                                                                        


     (1)  保険会社と金融他業態との間の参入の方式については、1本体での参入には、リスク管


        理、利益相反行為による弊害の防止、事業の健全性維持、競争条件の公平性等の面で問題


        が多いこと、2金融制度改革における銀行等・信託銀行と証券会社との相互参入は業態別


        子会社方式で行われていることから、基本的にはリスク遮断、利益相反行為による弊害の


        防止等の面で優れている業態別子会社方式によることが適当である。                  


                                                                                        


     (2)  参入に当たっては、認可により適格性を判断したうえで認めるとともに、影響力を行使


        した販売等、参入に伴って発生する弊害の防止に十分留意する必要があり、銀行・信託・


        証券間の措置も参考にして、例えば、役員の兼任禁止、アームズ・レングス・ルール、抱


        き合わせ販売の禁止といった実効性ある弊害防止措置を講ずる必要がある。また、弊害防


        止措置については、その遵守のために必要な監督を行うとともに、必要に応じ見直しを行


        うことにより、常に実効性を確保していく必要がある。                              


          また、保険会社の経営の健全性確保に配慮するとの観点から、保険会社自身の自助努力


        による経営体質改善を促すとともに、資本又は基金の増額等、自己資本の充実を促してい


        く必要がある。                                                                  


          さらに、利用者の自己責任原則の確立が求められる中で、利用者が自らの利益を守るた


        めには、保険会社による情報開示の充実等による十分な情報提供が必要である。また、消


        費者自らが学べる場・機会の充実等、必要な環境整備を図っていく必要がある。        


                                                                                        


     (3)  業態別子会社としては、生命保険子会社、損害保険子会社、銀行子会社、信託銀行子会


        社、証券子会社を基本として、(2)で示したような事項の整備を図り、実施することが適当


        である。                                                                        


          なお、保険会社による銀行・信託・証券業務への参入、証券会社による保険業への参  


        入、並びに破綻保険会社が銀行等・信託銀行の子会社となる場合については、競争条件の


        公平性の観点から比較的問題が少ないと考えられることから、時期を早めて実施すること


        が適当である。                                                                  


                                                                                        


     (4)  また、業態別子会社の業務範囲については、法制上認められる全ての業務とすることが


        適当である。ただし、信託銀行子会社、証券子会社の業務範囲については、当初は、競争


        条件の公平性確保等の観点から、銀行等・信託銀行と証券会社との相互参入における業態


        別子会社の業務範囲との整合性を図り、一定の範囲とし、その後、これらの状況の変化を


        勘案しつつ、拡大していくことが適当である。                                      


                                                                                        


                                                                                        


III.持株会社制度の導入



                                                                                        


    1.基本的考え方                                                                    


                                                                                        


     (1)  我が国では、戦後、一貫して持株会社の設立が禁止されてきたが、持株会社の解禁等を


        内容とする独占禁止法改正案が第 140回国会において成立したところである。          


                                                                                        


     (2)  持株会社は、組織形態の選択肢の拡大をもたらすものであり、保険会社についても、持


        株会社制度の活用により、自らの特色や能力を活かす上で最も適切な組織形態を選択する


        ことが可能となるうえ、持株会社傘下の兄弟会社間でシナジー効果も期待できるため、多


        様化・高度化する利用者ニーズに的確に対応していくことが期待される。              


          また、持株会社制度の活用は、保険会社による他業態への参入や他業態からの保険業へ


        の参入及び不採算部門からの撤退を円滑化するものであり、競争の促進と経営の効率化が


        期待できる。                                                                    


                                                                                        


     (3)  さらに、持株会社を通じた兄弟会社化による合併代替等も可能となるため、保険契約者


        等の保護のための手段の多様化にも資するものと考えられる。                        


                                                                                        


     (4)  このように、持株会社制度の導入は、保険業においても重要な役割を担うものと考えら


        れるが、一方で、株式保有を通じて保険会社を支配する持株会社やその傘下の子会社が、


        保険会社の経営に影響を与えることも考えられることから、保険契約者等の保護、保険会


        社の健全性確保のため、効果的な監督の枠組みを構築する必要があり、持株会社の解禁時


        期をにらんで速やかに準備を進める必要がある。                                    


                                                                                        


     (5)  監督の枠組みの構築に当たっては、規制緩和が推進されている中で、規制を必要最小限


        とするとともに、金融の国際化が進展する中で、透明性を確保し、グローバル・スタンダ


        ードとの調和に配慮すべきである。                                                


                                                                                        


                                                                                        


    2.監督の枠組み                                                                    


                                                                                        


     (1)  株式保有を通じて保険会社を支配する持株会社やその傘下の子会社が、保険会社の経営


        に与える影響にかんがみ、保険会社の兄弟会社等について、以下の監督の枠組みを設け  


        る。                                                                            


                                                                                        


     (2)  主要国の例を参考として、保険会社の株式のある一定割合(例えば50%)を超えて保有


        することについては、例えば認可により、適格性の審査を行うことが適当である。      


                                                                                        


     (3)  保険会社と兄弟会社等との間には、銀行・信託・証券間の措置も参考にして、例えば、


        役員の兼任制限、アームズ・レングス・ルール、抱き合わせ販売の禁止といった実効性あ


        る弊害防止措置を講ずる必要がある。また、弊害防止措置については、その遵守のために


        必要な監督を行うとともに、必要に応じ見直しを行うことにより、常に実効性を確保して


        いく必要がある。                                                                


                                                                                        


     (4)  監督の実効性を確保するため、兄弟会社等に対する定常的な報告徴収権及び立入検査権


        を監督当局に付与することも考えられるが、規制を最小限にするとの観点から、保険会社


        に対し、兄弟会社等の業務の状況等に係る報告の提出を求めるとともに、兄弟会社等に対


        する報告徴収権及び立入検査権については、保険会社を監督する上で、監督当局が特に必


        要があると認める場合に限り、限定的に行使できることとすることが適当である。      


                                                                                        


     (5)  金融業を営む兄弟会社については、子会社方式による参入との整合性にも配慮し、保険


        会社、証券会社、銀行、信託銀行を基本として、II.2.(2)で示したような事項の整備を


        図り、2001年までに制度面では全ての業態を認めることが適当である。                


          なお、複数の保険会社が兄弟会社となること、保険会社と証券会社が兄弟会社となるこ


        と、破綻保険会社と銀行等・信託銀行が兄弟会社となることについては、競争条件の公平


        性の観点から比較的問題が少ないと考えられることから、時期を早めて認めることが適当


        である。                                                                        


                                                                                        


     (6)  金融業以外の一般事業を兄弟会社が行うことについては、主要国の例を踏まえると、法


        令上、制限することは適当でない。ただし、兄弟会社が保険会社の健全性に与える影響の


        可能性を十分勘案し、必要な監督を行っていくことが適当である。                    


                                                                                        


     (7)  保険会社の健全性をモニタリングするうえで、兄弟会社等の業績に係る情報が重要とな


        るため、連結ベースのディスクロージャーの充実を図っていくことが適当である。      


                                                                                        


     (8)  相互会社が持株会社となることについては、相互会社の基本的な性質から問題があると


        の指摘を踏まえ、持株会社は株式会社とすることが適当である。                      


          この場合、相互会社が持株会社となるためには、株式会社への組織変更が必要となる。


        相互会社から株式会社への組織変更の規定については、新保険業法において導入されたと


        ころであるが、実務的な手続き等について、今後、検討していくことが適当である。ま  


        た、持株相互会社制度についても、諸外国の動向を見守っていく必要がある。          


                                                                                        


     (9)  組織形態の選択肢の多様化の観点から、保険会社が持株会社を子会社として保有するこ


        とを認めることが適当である(以下、保険会社が子会社として保有する持株会社を川下持


        株会社と呼ぶ。)。その場合、川下持株会社についても外部資金調達が可能となるよう、


        保険会社による川下持株会社の株式保有割合は法令上50%超とすることが適当である。  


                                                                                        


     (10)  川下持株会社が株式の50%超を保有する子会社の業務範囲については、保険会社に課せ


        られている他業禁止の趣旨を踏まえると、一定の制限を課すことが適当であると考えられ


        るが、一方、持株会社制度導入の意義を勘案すると、経営の効率化や利用者利便の向上の


        観点からある程度弾力的なものとすることが適当であると考えられる。                


          これらを勘案し、子会社方式による参入との整合性を図るとともに、保険に対するニー


        ズの多様化等に対応するため、金融業(保険・銀行・信託・証券業務)並びに保険業に付


        随する業務及び関連が深い業務については認めることが適当である。                  


                                                                                        


                                                                                        


                                                                                        


IV.銀行等による保険販売等



                                                                                        


    1.銀行等の預金取扱金融機関(以下、銀行等と呼ぶ。)による保険販売については、販売チ


      ャネルの多様化、効率化等が図られるとともに、ワンストップ・ショッピングのニーズにも


      対応し、利用者利便の向上につながると考えられる一方、銀行等がその優越的地位や影響力


      を行使することにより、顧客保護、競争条件の公平性確保等の観点から弊害が生じるおそれ


      がある、あるいは、預金・決済等により得た情報を流用するおそれがある、との指摘もあ  


      る。これらを踏まえ、2001年を目処に、銀行等がその子会社又は兄弟会社である保険会社の


      商品を販売する場合に限定したうえで、利用者利便の向上等のメリットと弊害を比較考量し


      メリットが大きいと考えられる住宅ローン関連の長期火災保険及び信用生命保険を認めるこ


      とが適当である。ただし、仮に結果として販売に問題があった場合でも比較的容易に対処策


      を講じることができると考えられる住宅ローン関連の長期火災保険については、銀行等がそ


      の子会社又は兄弟会社である保険会社の商品を販売することに限定しないことも考えられ  


      る。                                                                              


                                                                                        


                                                                                        


    2.保険会社以外の金融機関による保険販売については、適正な販売を確保し、保険契約者の


      保護を図るため、保険業法上の規制が適用されるべきである。また、特に、顧客保護、競争


      条件の公平性確保等の観点から、例えば、影響力を行使した販売の禁止、抱き合わせ販売の


      禁止、預金・決済等により得た情報の流用の禁止といった実効性ある弊害防止措置を講ずる


      とともに、適切な商品情報提供義務を課すべきである。また、弊害防止措置については、そ


      の遵守のために必要な監督を行うとともに、必要に応じ見直しを行うことにより、常に実効


      性を確保していく必要がある。                                                      


                                                                                        


                                                                                        


    3.また、保険会社がこれまで培ってきたノウハウや経営資源を活かしつつ、多様化する利用


      者のニーズに対応していくため、保険会社による投資信託の販売についても認めることが望


      ましい。また、保険会社による投資信託の販売を認める場合には、適正な販売を確保し、投


      資者の保護を図るため、証券取引法上の規制が適用されるべきである。                  


                                                                                      


                                                                                        


                                                                                        


V.トレーディング勘定への時価評価の適用



                                                                                      


    1.金融制度調査会答申「金融システム安定化のための諸施策」(1995年12月)、証券取引審


      議会報告「証券会社のトレーディング業務への時価法の導入について」(1996年2月)等を


      踏まえ、金融機関のトレーディング勘定への時価評価の適用が盛り込まれた「金融機関等の


      経営の健全性確保のための関係法律の整備に関する法律」が、本年4月に施行され、一部の


      銀行等・証券会社が、認可を受けて、トレーディング勘定に時価評価が導入されたところで


      ある。                                                                            


        一方、保険会社のトレーディング業務については、1996年4月に施行された保険業法にお


      いて公共債ディーリング業務の根拠規定が置かれ、同年7月に生命保険会社2社が認可を受


      け、公共債ディーリングの業務を開始しているところである。                          


        金融機関のトレーディング勘定に時価評価が導入された背景には、現行の会計処理では、


      トレーディング業務の実態を財務諸表に反映できないため、リスク管理の徹底が害される場


      合がある、といった問題があるが、このような状況は、保険会社についても同様であること


      を踏まえると、保険会社のトレーディング勘定についても、健全性確保の観点から、銀行等


      ・証券会社と同様に、時価評価を適用することが適当である。                          


                                                                                        


                                                                                        


    2.導入の時期については、保険会社のトレーディング業務については、昨年、公共債ディー


      リング業務が開始されたばかりであること等から、今後、取引の実態等を見ながら、行政当


      局において検討し、できるだけ早期に実現を図ることが適当である。                    


                                                                                        


                                                                                        


                                                                                        


むすび



                                                                                        


      本審議会は、来るべき21世紀を見据え、金融システム改革の一環として、保険業及び保険監


    督行政における基本的な問題について検討を行い、以上のような報告書をとりまとめた。本報


    告書は、21世紀に向けて改革のスケジュールを具体的に提示したものであり、今後、本報告書


    を踏まえ、法律改正等の所要の措置がとられることを希望する。                          


      本改革により、市場原理の下で適正な競争が行われることを通じ、商品開発の活性化や経営


    の効率化が図られ、国民のニーズに応える効率的な保険サービスが提供されるとともに、保険


    業の健全な発展が図られることを期待したい。                                          


                                                                                        


                                                                                



[次に進む]

[「保険業の在り方の見直しについて」に戻る]