第五 日本銀行券


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|1.銀行券の発行                                              |

|                                                              |

|    日本銀行は、銀行券を発行する。日本銀行が発行する銀行券(日|

|  本銀行券)は、法貨として無制限に通用する。                  |

|    その他日本銀行券に関する事項について、所要の措置を講ずる。|

|                                                              |

|    ※  日本銀行券の発行限度及び発行保証を廃止する。          |

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  (説明)                                                        

                                                                  

    日本銀行券は、法貨(リーガルテンダー)として強制通用力を付与

  された支払手段である。すなわち、我が国において、日本銀行券によ

  る支払いを受けた場合には、決済は終了する。なお、日本銀行券につ

  いては、通用限度は存在せず、無制限に強制通用力を有している。  

    こうした点につき、法律上規定することが適当である。          

                                                                  

                                                                  

  2.(発券制度の変遷)                                        

                                                                

      銀行券の発行は、中央銀行の最も本質的な業務である。その具体

    的な発行制度は、時代の変遷につれ、大きく変化してきている。す

    なわち、我が国においては、明治17年の兌換銀行券条例により、

    兌換銀行券制度が導入され、その後、明治21年に「保証準備屈伸

    制限制度」が採用された。これは、銀行券発行高と同額の金銀貨及

    び地金銀を準備として保有する必要があるが、一定額を限り公債等

    の保証物件を準備として発行することができ、さらに必要があれば、

    大蔵大臣の認可の下に保証発行限度を超えて発行しうる制度である。

    その後、昭和16年の兌換銀行券条例の臨時特例に関する法律が制

    定され、「最高発行額屈伸制限制度」が導入され、昭和17年の日

    本銀行法制定により同制度が恒久化され、現在に至っているところ

    である。現在の発券制度は、(1)  最高発行額制限制度、(2)  発行保

    証制度を基本とするものである。                              

                                                                

                                                                

  3.(最高発行額制限制度)                                    

                                                                

    (1) 現行の最高発行額制限制度                                

                                                                

      最高発行額制限制度においては、主務大臣が閣議を経て銀行券の

    発行限度を定めることにより最高発行限度を定めることとしている。

    日本銀行は、必要があると認めるときは、この発行限度をこえて銀

    行券を発行することができるが、この場合限外発行が15日をこえ

    て継続するときは主務大臣の認可を受けることを要し、また16日

    以後の限外発行については、主務大臣の定める税率による発行税を

    納めることとされている。                                    

                                                                

    (2) 最高発行額制限制度の廃止                                

                                                                

      金本位制から管理通貨制度に移行する過程においては、兌換制度

    の維持に代わり、銀行券の発行高が重要な意味を持つと考えられた。

    こうしたことから、昭和17年に制定された現行日本銀行法は、い

    わゆる最高発行額屈伸制限制度を採用し、一時的に発行限度を超え

    ることを容認しつつも、原則的には、銀行券発行高の上限をコント

    ロールしていくことを基本としたものである。                  

      しかしながら、最近の議論においては、銀行券の発行高のみに着

    目することは不適当であり、国民経済への影響の観点からは、むし

    ろ、「マネーサプライ」という概念が、より重要であるとみなされ

    ている。こうした状況の下、銀行券発行高を制限することがどれだ

    けの意義があるのかは疑問と言わざるを得ない。                

      また、中央銀行が銀行券の発行高をどれだけコントロールし得る

    かという点についても、銀行券の発行は、経済取引の繁閑に伴い、

    拡縮しうるものであり、実際の最高発行限度額の変更もむしろ、現

    実の銀行券発行高を追随してきたところである。                

      こうした点にかんがみれば、現行の最高発行額制限制度の意義は

    希薄になっており、最高発行額制限制度は、廃止することが適当で

    ある。                                                      

                                                                

                                                                

  4.(発行保証制度)                                          

                                                                

    (1) 現行の発行保証制度                                      

                                                                  

      現行日本銀行法は、日本銀行が銀行券発行高に対して、同額の確

    実な保証物件を保有することを義務づけている。その際、日本銀行

    が保有すべき保証物件は、日本銀行法において定められ、また、発

    行保証に充てる保証物件の充当価格は、日本銀行が大蔵大臣の認可

    を受けて定めることとされている。保証物件の種類毎の保証充当限

    度額を大蔵大臣が定めることとされている。                    

                                                                

    (2) 発行保証制度の廃止                                      

                                                                

      発行保証制度の意義は、日本銀行券の価値を、日本銀行の保有す

    る優良確実な財産によって裏付けることにあると考えられる。ただ

    し、管理通貨制度の下、日本銀行券の価値はその保有する財産から

    直接導かれるものではなく、日本銀行券の価値の安定のためには、

    発行保証制度より、むしろ日本銀行の金融政策の適切な遂行が求め

    られているところである。                                    

      その意味では、今回の日本銀行改革で、強化された政策委員会が

    金融政策を適切に運行することを前提にすれば、発行保証物件の保

    有を義務づけることの意義は小さくなり、発行保証制度を廃止する

    ことが適当であると考える。ただし、発行保証制度の廃止後におい

    ても、中央銀行の財務の健全性の重要性が減ずるわけではなく、銀

    行券の価値に対する信認を確保するためにも、中央銀行の全体とし

    ての財務の健全性に対する十分な配慮が必要である。  

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