iii.金融システムの健全性の確保

                                                                              

1.早期是正措置の導入                                                      

                                                                              

 (1)  基本的考え方                                                            

                                                                              

  ○  バブル経済の発生・崩壊により銀行等は多額の不良債権を抱えることになったが、

    この背景には、金融自由化の進展により銀行等の抱えるリスクが増大したにもかかわ

    らず、経営における自己責任意識の不徹底等から銀行等自身の経営の健全性確保が必

    ずしも十分でなかったことや、金融環境の激動期において、監督当局の従来の行政手

    法では銀行等の経営の健全性を早期にチェックし是正を求めることができなかったこ

    とがあることは否定できない。                                              

                                                                              

  ○  こうした点を踏まえ、現在、我が国の金融行政においては、自己責任原則の徹底と

    市場規律に立脚した透明性の高い新しい行政への転換が進められつつあるが、先般の

    金融三法の成立を受け98年4月より導入されることとなった早期是正措置は、今後の

    新しい金融行政の中核的手法となると考えられる。                            

                                                                              

  ○  早期是正措置は、監督当局が自己資本比率という客観的基準を用い、必要な是正措

    置命令を適時・適切に発動していくことにより、早め早めに銀行等の経営改善への取

    組みを促していこうとする新しい行政手法である。                            

                                                                              

 (2)  制度の内容                                                              

                                                                              

  ○  本制度の内容については、「早期是正措置に関する検討会」(銀行局長の私的研究

    会)が、96年12月に「中間とりまとめ」を公表した。そこでは、早期是正措置導入の

    前提となる適正な財務諸表の作成のための方策と早期是正措置制度の骨格が示されて

    おり、具体的には、ア)是正措置の区分は3段階とする(第一区分:経営改善計画の

    作成・実施命令、第二区分:個別措置の実施命令、第三区分:業務停止命令)、イ)

    措置の発動基準となる自己資本比率は、海外に拠点を有する銀行等には「国際統一基

    準(BIS基準)」を用い、それ以外の銀行等には現行国内基準を国際統一基準の考

    え方に近づける方向で見直した「修正国内基準」を用いる、等の考え方が示されてい

    る。                                                                      

                                                                              

  ○  なお、中間とりまとめの中で今後の検討とされている貸倒償却及び貸倒引当金の計

    上基準に関する割引現在価値の我が国への導入の問題については、現在、企業会計審

    議会において貸付金を含む金融商品の会計処理基準の検討が進められており、98年夏

    頃までに最終とりまとめを行うこととされている。                            

                                                                              

2.決済リスクの削減策の強化                                              

                                                                              

 (1)  決済システムのリスク削減                                            

                                                                              

  ○  銀行等の間の競争が活発化することに伴い、信用力やリスク管理能力に問題のある

    銀行等が経営破綻を来す事態が生ずることも想定されるが、こうした場合にも、金融

    システム全体の健全性は十分に確保される必要がある。このためには、一の銀行等の

    経営破綻が他の銀行等、ひいては金融システム全体に与える影響を最小限に止める体

    制の整備が重要である。                                                    

                                                                              

  ○  こうした観点からは、前述の日本銀行当座預金決済のRTGS化の円滑かつ速やか

    な導入が求められるとともに、全国銀行データ通信システム(いわゆる全銀システ  

  ム)や外国為替円決済制度等の民間決済システムについても、民間部門において、そ  

  のリスク削減策の強化に向けた取組みを一層促進していくことが期待される。      

                                                                              

 (2)  一括清算ネッティング契約の法的有効性の明確化                            

                                                                              

  ○  近年、デリバティブ取引等が急速に拡大する中で、取引の一方当事者が倒産した場

    合等に、一定範囲の取引から生じる履行期や通貨等を異にするものを含む全ての債権

    ・債務を一括してネットアウトし、一本の残額債権を成立させる旨をあらかじめ取り

    決めておく、いわゆる「一括清算ネッティング契約」の採用が世界的に一般化してい

    る。こうした契約は、取引相手方の経営破綻の影響を最小限のものに止めつつデリバ

    ティブ取引等を拡大する方策として、有効なものと考えられる。                

                                                                              

  ○  このような一括清算ネッティング契約に関しては、我が国においても倒産法制上有

    効なものであると解されているが、これまで判例がないことを理由として、法的有効

    性に対する疑義が完全には払拭されていないと指摘されることがある。金融システム

    の健全性の確保を徹底するとともに、我が国におけるデリバティブ取引等の金融取引

    の拡大と市場の活性化を図る観点からは、諸外国と同様、こうした懸念を立法措置に

    より払拭し、その法的有効性を明確化することが適当であり、次期通常国会への法案

    の提出を目指して積極的な検討を行うことが望まれる。

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