「貸金業制度に関するプロジェクトチーム」第十回事務局会議の概要

日時   平成22年1月21日(木)11時00分~12時15分
場所   金融庁 13階共用第一特別会議室
出席者   田村内閣府大臣政務官(金融担当)、中村法務大臣政務官、警察庁生活安全局 白川生活経済対策管理官、経済産業省商務情報政策局 坂口取引信用課長、日本銀行企画局 吉岡審議役
議題   ヒアリング
・有田 宏美氏   (NPO法人女性自立の会理事長)
・荻原 博子氏   (経済ジャーナリスト)
・高橋 伸子氏   (生活経済ジャーナリスト)

【有田宏美氏の説明】

  • 借金を法律で解決するより、その人の人生を再起させることの方が何倍も難しいことが相談者と接していて分かった。一度多重債務に陥ってしまった方が同じことを繰り返すことなく健全な家計を営めるように導くために大切なことは、多重債務の再発防止のために再生の意欲を育てるカウンセリングと、安定した家計に導くという家計管理のアドバイス、そして相談者同士がともに学び成長する生活立て直しのための勉強会と考える。

  • 平成20年度に厚生労働省社会福祉推進補助事業を利用して、過去の相談者に対してアンケートを実施したところ、初めてカードを作ったきっかけとしては、8割以上の方がデパートで買い物をする際のクレジットカードを挙げており、最初から消費者金融に借りに行った方は、回答者のわずか3%であった。

  • 住宅ローンの返済のために、貸金業者からの借入れを始めてしまったというケースもよく聞く。住宅は、購入者にとっては自分の城であり、そのローンが払えないということは恐怖である。そこで、賞与までの一時しのぎのつもりで、カードで借入れを行い、ローンの支払いに当てるという事例が多い。つまり、高金利が多重債務を生むのではなく、低利の借入れを行っている段階で、既に多重債務、あるいは過重債務の状況に陥り、その返済のために次第に高金利に移っていく。法定利息の中でも苦しんでいる人は存在しており、このような現実から目を背けては、多重債務問題の解決には繋がらないと考える。

  • 債務整理を行い、債務を減額しても、計画通りに返済できない人も中には存在している。これは、多重債務の問題の根本が、利用者の背景や資質に起因しているところが多いからではないかと思う。多重債務に陥った者が悪いと言っているのではないが、多重債務者の中には、カードを打ち出の小槌のように思っている者も多く、取り扱いを間違えると危険物になる危険性があるという認識が薄い。多重債務者の金銭管理感覚、能力が育っていないというよりも、お金やカードの扱い方を学ぶ機会が与えられていないことが問題だと考える。

  • 高利が自殺者を生むという考え方がある。それを否定するつもりはないが、たとえ低利であっても返済出来ないほどの債務を抱えて自殺する人は多く存在している。一番の問題は、高金利や債務の量ではなく、債務を抱えて苦しい胸のうちを誰にも相談できず、孤立無援、孤独になることである。従って、債務者を孤独にさせず、必ず解決の道があるということを伝えるための相談場所の告知や、一人ではないのだという希望を与えてあげる支援者こそが必要と考える。

  • 一般の利用者にまで、総量規制の内容が伝わっていないのではないか。総量規制はあまりにも複雑で、総量規制が自分にどのように影響するのかということを認識できていない者が多く存在しているという印象を強く持っている。

    特に、総量規制に係る相談の中では、一度も返済は滞っていないのに、どうして借りることができなくなるのか、という相談が多い。

  • また、債務のことを夫にどうしても打ち明けられない妻から、総量規制の導入後どうすればいいのかという相談を受けることもある。そもそも必要な借入れであるならば夫婦で話し合うべきであるという考え方もあり、私自身も、それが理想だと思ってはいるが、現実的に夫に相談できずに抱え込んでいる主婦も多く存在している。例えば、生活費が足りない時に、夫に相談すると喧嘩になるかもしれないと思い、一時的に自分の手持ちのカードで生活費を補ったことをきっかけとして、多重債務に陥ってしまう者も存在している。

  • このような人に対しては、まずは、夫に何故打ち明けられなかったのかを聞き、その気持ちを共有し、本人が勇気を持って夫に打ち明けられるよう、導いてあげることが必要だと考える。

    そのためには、安心して相談できる場所の告知と親身になって相談を行う支援者や相談所が必要と考える。そこが欠けると、借りられなくなってパニックになった多重債務者が、夫に知られたくない一心で、返済を行うためにヤミ金に手を出してしまうということに繋がるのではないか。規制だけでは多重債務問題を根本的に解決することは出来ないと考える。

  • 私たちの所に相談に来る方の中には、法テラスを知らない方、消費生活センターを知らない方が多くおり、また、法律で借金の問題が解決できるということを知らない方も多くいる。相談窓口の存在、法律による借金問題の解決法が認知されていない今、法律で新たな規制を導入するだけでは、パニックを起こす多重債務者を増やしてしまう危険があるように感じる。

  • 貸付残高の限界は、本来法律で規制するものではなく、その人の家族構成、支払能力等を知り得る貸し手が、その人にあった貸付枠を決めることが望ましいと考える。貸金業者が自主的にそのような取組みを実施出来なかったことから、今回の法改正に繋がったということは承知している。今後、貸金業者は、自主規制団体である貸金業協会を中心に、過去の問題点を総括し、自分たちにしかできない役割を果たしていくことが必要なのではないか。

  • 多重債務問題の解決のためには、幼い頃からの金銭管理教育・消費者教育や、同じことを繰り返すことがないように導くカウンセリング体制が必要と考える。私は、相談者の勉強会として、再生プログラムを行っているが、その方たちの任意整理後の完済率は100%である。その方たちが完済出来ているのは、彼女たちが特別なのではなく、彼女たちが再生したいと思う気持ちと、そのきっかけを得たからだと考える。

  • 時間がとてもかかることかもしれないが、貸さぬ親切を押しつけるのではなく、貸す責任と借りる責任、それぞれが責任を担えるような教育を目指すことが必要だと考える。

【荻原博子氏の説明】

  • 総量規制に関して、個人的に戸惑う部分が3つある。1つ目は、この時期で良いのかということである。日本経済が2番底になるかもしれない中、資金繰りに行き詰まる人が多々出てくる可能性がある。300万人と言える人が貸し出しを拒まれるというのは、一種の信用収縮につながる。通常の時期ならば問題ないだろうが、今のような時期に断行することには不安がつきまとう。消費者金融業界は多額の過払い請求を受けている。大手貸金業者ですら、早晩赤字転落していきそうなのだから、消費者金融業界そのものが消滅することも考えられるのではないか。この今の時期、景気後退と消費者金融業界の消滅、人為的な信用収縮が同時並行で進んでいくということが、どういう影響を起こすのかということが非常に不安である。

  • 2つ目は、過払い請求が急増する可能性があることで、これに備えて、現在、業者が手持ち資金を確保するために貸し渋りをはじめていることである。これによって、新規顧客や、年収の3分の1以下の残高の顧客の中にも、借りられないという人が出てきている。これは、消費者に対して不当なことだが、貸し出し基準を業者に任せている以上、取り締まる手段が無いのが現状である。このような状況が進めば、結局、年収の3分の1以下の残高の方でも、貸してもらえないという状況に追い込まれてしまう人がますます増えるだろう。

  • 過払い請求で儲かっているのは弁護士であるが、弁護士が困っている人全てを助けてくれているわけではない。弁護士の中には、多額の過払い金が戻ってくる相談者の案件に対しては一生懸命取り組むが、そうでない相談者の場合は、書類を貸金業者に送付して手続きを終えている事例もある。このような状況も考えると、過払い請求の問題は非常に重大であると考える。

  • 3つ目は、住宅ローンの問題である。政府は、景気対策として住宅の購入を進める施策を打ち出しており、個人に住宅ローンのような長期・多額のローンを組ませようとしている。結果、数年後に住宅ローンが払えなくなり、返済のために消費者金融から借入れを行い、多重債務に陥ってしまうという構造もあり、この住宅ローンの問題を解決する必要があると考える。特に、景気の先行きが厳しい中、収入の減少が進んでおり、今後、住宅ローンが返済できないという方が山のように発生すると思われる。例えば、アメリカのように、日本でも住宅ローンをノンリコースローンにするなど、貸し手の責任を問う制度を整備することも考えられるのではないか。そのようなことを総量規制と並行的に考えていく必要があるものと考える。

【高橋伸子氏の説明】

  • 改正貸金業法に関しては、平成17年3月から平成18年8月までに金融庁において「貸金業制度に関する懇談会」を計19回開催し、密度の濃いヒアリングと議論を行った。懇談会では、学識経験者、事業者のみならず、利用者、多重債務者にいたるまで、国民各層の参画を得て、透明性の高いオープンな議論が行われ、その後、与野党全会一致で改正貸金業法は成立している。

  • 改正貸金業法は施行までかなりの期間を置いており、十分な激変緩和措置がとられたと認識している。問題解決の先延ばしに繋がる見直しには反対であり、消費者の保護と自立のための取組みが、もっと活発に行われるべきであると考える。

  • 多重債務問題の解決のためには、多重債務者に対するカウンセリング体制の整備や、公的セーフティネット貸付けの推進を一層進めることが必要である。各省庁はもとより、自治体や民間団体、弁護士などの専門家が連携して多重債務問題に取り組むことが求められている。その動きを効率的、効果的に推進する場として、政府に多重債務者対策本部が設置され、その下に有識者会議が設けられている。有識者会議では、プログラムのフォローアップ作業を行っていたが、昨年6月以降、作業が一段落し、会議が開催されていない。多重債務問題の解決は簡単ではないが、私は3年前の国の英断を評価すると同時に、多重債務者の生活再生・救済のために、それぞれの持ち場で頑張り続けている人がいることをよく知っていただき、法改正により振り子を戻すのではなく、解決への動きを加速することを現政権に強く望む。

  • 前々回この会議に呼ばれた岩手信用生協や栗原市のセーフティネット貸付けと、本日参考資料として配布したグリーンコープ生協のセーフティネット貸付けについては、NHKの番組を通じて全国に紹介してきた。また、その他のセーフティネット貸付けについても、有識者会議で紹介することなどを通じ、各地に広がることを期待してきたが、残念ながら現状では日本全国には広がっていない。これは、政府のバックアップが少なく、また、地域の金融機関が及び腰であることが原因であると考える。

  • 参考資料として配布した岩手信用生協の提供のデータにおいて、相談者の借入動機や年収別相談件数の推移をみると、生活費の補てんや低収入など、貧困を原因として多重債務に陥る人が増えていることがわかる。しかしながら、同生協の貸倒率は大変低く、顔の見える面倒見の良い貸付けを行えば、きちんとお金は循環していくことが示されており、プロである金融機関がこういうことができないというのはおかしいと考える。

  • 次の資料として、グリーンコープ生協が福岡県の多重債務問題対策協議会に提出した報告書を添付している。福岡県では、東京のように自治体が自らセーフティネット貸付けに乗り出すのではなく、グリーンコープ生協が行っていた既存の活動を拡大・支援する形をとっている。もともとは組合員対象だった制度を、組合員以外にも広げていくという取組みが行われているが、現在のところ貸倒れはゼロである。ただし、このような取組みを全国で展開するには多くの課題が存在している。

  • 厚労省の社会福祉推進事業に採択されたグリーンコープ生協の調査研究の客員研究員として、昨年の9月、フランスの多重債務問題の取組みの視察調査を実施した。フランスでは20年以上前から政府が多重債務問題の解決に向け深く関与しており、学ぶべき点が多かった。特に、セーフティネット貸付けについては、2005年に政府が保証基金を設置しており、2008年時点で民間金融機関14行、それに民間の9つの市民団体ネットワークが連携し、非常に意欲的な活動を展開している。日本でもこのような取組みを進めていくべきものと考える。米英のみならず、欧州の多重債務問題に対する政府や金融機関の関与にも注目し、今後の参考とすべきである。

  • 多重債務問題の解決のためにも、家計管理指導ができるソーシャルワーカーの養成に国が取り組んでいただきたい。国のセーフティネット貸付けの一つである生活福祉資金貸付制度も、家計管理等の相談・指導を同時に実施しなければ貸倒れが増加し、いずれ原資が無くなってしまう。ソーシャルワーカーによる多重債務相談のためには、単に家計管理のことだけではなく、心の問題など、様々なカリキュラムが必要である。また、例えばフランスでは1973年から家庭経済ソーシャルワーカーという国家資格制度を導入している。

    福祉の現場の人たちが家計管理指導を実施することは、多重債務の予防、救済にとどまらず、高齢者のサポート、一人親家庭のサポートにも繋がっていくと考える。

  • 最後に、改正貸金業法について、公衆の正しい理解につながり、多重債務の救済や未然防止につながる広報活動の充実を期待したい。特に、内閣一体の取組みが重要で、さまざまな社会政策と連結して、効果的、効率的な取り組みが推進されることを期待する。

【質疑応答】

  • ○ 有田氏にお伺いしたい。NPOの資金面について、志が高いNPOほど資金的には厳しい状況になりやすいと認識しているが、相談の必要経費はどのように捻出しているのか。

  • (答:有田氏)必要経費については、寄付金や正会員からの会費等で賄っている。相談者への対応が優先事項であり、資金集めまでは注力できていない。

  • ○ 高橋氏にお伺いしたい。セーフティネット貸付けが重要であると感じており、例えば、以前ご説明のあった栗原市のケースの場合、多重債務相談とセーフティネット貸付けを一体的に運用することで生活再建を図っていくということであった。この事例のように、多重債務相談を実施する家計管理ソーシャルワーカーが必要であると考えるが、今後、国として何をどのように行っていけばよいか伺いたい。

  • (答:高橋氏)フランスの例を申し上げると、社会福祉の分野に古くから家計管理が組み込まれていた経緯がある。そのため、多重債務問題の対策を進めていくうえで、当然のこととして官民一体のネットワークに家計管理も組み込まれてきた。日本の場合は、社会福祉士の業務に家計支援が組み込まれていないので、社会福祉系の大学等にそのような講座を新設し、さらに国家資格とすることが考えられる。また、ファイナンシャルプランナーに社会福祉関係のスキルをつけ、弱者救済的な家計管理指導を勉強していただくことも考えられる。

  • ○ 荻原氏にお伺いしたい。先ほど業界が消滅するのではないかという発言があったが、仮にそのような状況に近づいた時、多重債務者以外の健全な利用者にどのような影響があるとお考えか。また、貸金業者の代替として銀行が貸付けを行うことについてどうお考えか。

  • (答:荻原氏)現状においても、過払い請求と今後導入される総量規制の影響により、貸金業者は健全な利用者に対しても貸し渋りを行う傾向が見受けられる。この点について、何らかの対応が必要ではないか。また、銀行が貸金業者の代わりに貸付けを行うことについて、貸金業者の貸付資金の原資は銀行の融資であり、これは見方によると、銀行が間接的に消費者に貸付けを行っている形になっている。そういう意味では、消費者金融業界だけの問題ではないとも思える。結局、銀行はあまり手を汚さないで、濡れ手に粟という商売をしているのではないか。

  • ○ まず、有田氏にお聞きしたい。「貸す責任」という発言をしていたが、貸付けを行う際、貸金業者は様々な相談を行っていくことが必要であり、この点についてまだまだ不十分であると感じているが、この点についてどのようにお考えか。

    次に、高橋氏に伺いたい。個人事業主や零細企業主への貸付けについて、銀行がなかなか貸出しを行わない状況において、セーフティネットをさらに拡充していく必要があると思うがどのようにお考えか。

  • (答:有田氏)ATMやネットでの借入れ等、便利さが人の慎重さを失わせたと感じている。そういう意味では、原点に戻り、貸し手側としてその説明責任をしっかり果たす必要があると考えている。ただ、相談者の中には、「元利均等払い」や「リボルビング払い」の意味を理解していない者も見受けられことから、幼い頃からの学校教育が大事だと思う。

  • (答:高橋氏)日本公庫のような政策金融機関で行っているセーフティネット貸付をより活用できるようにしていくことも考えられるのではないか。また、総量規制の適用除外や例外があるので、その点を広く周知することが必要ではないか。そもそも総量規制は貸しはがしを容認するものではないので、既に貸金業者から借入れを行っている者に対して、何らかの対策が必要と考える。

(以 上)

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総務企画局企画課信用制度参事官室
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