フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議(第3回)議事録

1.日時:

平成28年10月5日(水)9時30分~11時30分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館13階 金融庁共用第一特別会議室

【福田座長】

それでは、少し時間が早いですけれども、皆さんおそろいのようですので、ただいまよりフィンテック・ベンチャーに関する有識者会議第3回会合を開催いたします。

皆様、ご多忙のところご参集いただきまして、まことにありがとうございます。

これまで開催した2回の有識者会議では、ブロックチェーンや人工知能などのIT技術の発展について議論してまいりました。本日から何回かは、こうしたIT技術のイノベーションが金融業に与える影響や、こうした変化が進む中での国内外の金融グループ等の対応についてご議論いただければと考えております。

本日は、識者の方からご説明していただいた上で、国内外の金融グループにおけるFinTech関連の取り組みの状況や、FinTechの進展が金融業の将来に及ぼす影響について、皆様にご議論いただければと考えております。

初めに、本日の参考人のご紹介等について、事務局よりお願いいたします。

【井上総務企画局信用制度参事官】

新しく総務企画局信用制度参事官に着任いたしました井上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。  

本日は参考人として、NTTデータ経営研究所の山上聰様、A.T.カーニーの佐藤勇樹様、矢吹大介様にもご出席いただいております。  

また、金子委員及びMITメディアラボの松尾参考人につきましては、本日、米国よりテレビ会議でご参加いただいております。以上でございます。

【福田座長】

ありがとうございました。  

それでは、議事に移らせていただきます。本日は、まず山上参考人より、「海外を中心としたデジタルイノベーションの潮流」と題して、30分程度ご説明いただきたいと思います。その後、佐藤参考人及び矢吹参考人より、「金融機関における『革新的』な事業創造の実現」と題して30分程度ご説明いただき、最後にこれらのご説明に関し、一括して討議を行いたいと思いますので、よろしくお願いいたします。  

それでは、山上参考人、よろしくお願いいたします。

【山上参考人】
 

NTTデータ経営研究所の山上と申します。本日は、このような機会を頂戴しましてまことにありがとうございます。  

冒頭でご報告がてらお話をいたしますと、先週SWIFTのSibosという会議がジュネーブでございまして、そちらに参加してまいりました。その場でJPモルガン・チェースの投資銀行部門のCIOの方が講演をなさっていまして、「ディスラプティブ・イノベーションズ・トランスフォーミング・フィナンシャルサービセス」というタイトルだったのですが、その方がおっしゃるには、『プロセスのどこかに新しいテクノロジーを入れて目新しいサービスを提供するということではなくて、エコシステムを形成して、よりダイナミックにサービスを提供するようなビジネスモデルを構築することがイノベーションの目的、自分の銀行の目的として考えている』と。今まさにそのようなビジネスモデルがあるといいなという時代から、なければならないような時代に入っているというようなことを言われて、私としてもその話の趣旨を今日は申し上げようと思っていたので、少し先を越されたかなということもあったのですが、やはり皆さんそういうふうに思っていらっしゃる方が増えてきたのかなという感想を持っております。Sibos全体の雰囲気というのも、昨年シンガポールで開催されたときには、少々FinTech祭りのような雰囲気があったのですが、銀行がイノベーションをどのように取り入れるのかや、ビヨンドディスラプションというような言葉が使われておりまして、Fintech導入の理論としても地に足がついた考え方に変わってきているんだなという感想を持ちました。

本題に入ります前に、簡単に私の経歴をご案内いたします。本業としては国内外の金融機関や、金融機関に関連する企業向けのコンサルティングを提供しておりまして、米系のファームに10年ほど、当社で10年、20年ぐらいコンサルタントをやっております。副業というわけではないのですが、アジアと、それからグローバルの決済で、2つの標準化団体の役員をしておりまして、その関係もありまして、金融庁様の決済高度化の検討については、スタディ・グループの時点から委員として参画させていただいておりました。  

では、1枚おめくりいただいて、アジェンダですけれども、今日のタイトルにもなっているのですが、デジタルイノベーションの考え方というのをまず整理させていただいた上で、実際に金融機関の活動をご案内し、最後にまとめという形になるのですが、こちらでご案内する金融機関というのは、ネットで検索したり、当社の海外の出先から仕入れた情報というよりは、先ほど役員をしていると申し上げましたが、その立場をフルに活用して、自分自身で訪問して、目と耳で聞いてきたお話ということであります。  

では、次のページ、4ページをごらんいただきたいと思います。まず、デジタルイノベーションって何だと、何か聞いたような聞かなかったような言葉なんですけれども、私は先ほど申し上げたように、海外を中心に、金融機関がイノベーションにどのように向き合っているのかという点について、20ぐらいの金融機関と面談して参りました。彼らは、自分たちが目指す将来像や、新しいビジネスモデルについて、非常に熱心に語ってくれました。ところが、個別のFinTech企業が話題になるということはあまりございませんで、最初は「なぜかな」と不思議に思っていたのですが、その後いろいろな方に会うにつれて、彼らがやっていることは、そういうステージは既に終わっていて、イノベーションに向き合ってデジタル技術を利用し、金融機関の新しいビジネスを構想したり実現するということ自体に重きが置かれているんだなという理解に至りました。  

左側の図は、そういった彼らの対話をもとにして、デジタルイノベーションを概念的に示したものです。ここで一言申し添えますと、金融機関がイノベーションを取り入れる活動をし始めたのはそう昔のことではなくて、恐らくこの5年、もっと言ってしまうとこの2、3年なのかもしれないなと思っております。この後にご紹介するウェールズファーゴがイノベーションラボをつくったのが2014年と聞いておりますので、まさにこの数年の動きだということであります。  

そのため、参照すべき教科書のようなものは存在するわけではなく、彼らもトライ・アンド・エラーでいろいろなことをやっていて、イノベーションラボなどを訪れますと、自分たちが掲げるいろいろなルールややり方があちらこちらに貼り出してあるわけです。例えばウェールズファーゴでは「90日ルール」と書いてありましたが、これは意思決定のための期間であります。中をもう少し詳しく見てみると、これはBBVAに行ったときですが、プルーフ・オブ・コンセプトのプロジェクトに関しては、この先進めるかどうなのかを2週間以内に決めるというようなことが標語のように貼り出してありました。そのような形でトライ・アンド・エラーを繰り返してきた中で、自分たちがやるべきことを定義してきたということもあって、ここで私自身もフレームをつくってみました。大きく分けますと、経営のイノベーションとテクノロジーのイノベーションというものに分けられると思っています。  

経営のイノベーションに関しては、ここではマインドセットと書きましたけれども、いわゆる企業カルチャーを変えていく。それから、ビジネスモデルをつくり上げていく。それに必要なエコシステムを同時に構築していくというような動き。一方、テクノロジーのイノベーションに関しましては、クラスターと表しているのですが、AIやブロックチェーンというのは一つ一つの技術、それからその下に、コアテクノロジーと表したのですけれども、それらの技術を実現するために必要なクラウドやアジャイル開発、APIといったような基礎になる技術や、プラットフォーム化するときに必要な技術、こういったものが合わさって、デジタルイノベーション全体が構成されていると考えています。  

その中で、FinTechというのはあくまで1つの技術としては存在しているのですが、それは道具や手段であって、目的ではないということが非常に重要な点ではないかなと思います。なぜFinTechが目的ではないのかといいますと、海外金融機関はデジタルイノベーションの実現が目的になっていて、右の図をご覧いただきたいのですが、IT投資をコスト削減のレベルから、業務の高度化、さらにはテクノロジーでどうやって儲けていくのかというところまで見越してビジネスモデルを再構築しようとしていると。これは金融審議会のワーキンググループでも、ITの戦略的な活用が何度か話題になっておったと思いますが、まさにそういったところを地でいっている動きだと思っています。  

つまり、日本では主にITはコスト削減の手段と考えられていたわけですけれども、最終的にはデータを販売することによってマネタイズし、情報によってどう儲けるかというビジネスモデルの革新に、彼らは既につなげているということなのです。この段階で、金融機関はITのユーザーからITによってサービスを提供するテクノロジー企業になるのだということを、異なる金融機関の方が口々におっしゃるので、理解が進んだわけなんですけれども、逆にその発想がなくて、目新しいサービスを提供することを目的とした場合に、すぐ追加コストの回収の話になってしまって、その辺りについては非常に問題があるのではないかと感じている次第です。  

では、次のページでございますけれども、これは本日ご紹介する、幾つかの訪問先である海外金融機関についてざっと書いたものです。やはり感じておりますのは、FinTechをプロセスのどこかで目新しいサービスのために利用するという段階を終えて、各行ともイノベーションによるビジネスモデルの革新ということを目的にしているのだなという点です。ただし、それは一律の新しいビジネスモデルというのではなくて、商業銀行であればカードビジネスであったり、証券決済だったり、ネットワークを利用したりということで、それぞれの立ち位置からレバレッジが効いている形になっていると。これは昔々の話になりますが、アメリカで金融危機が起きたときの選択と集中というビジネスモデルが90年代に話題になったように、こういったビジネスモデルの見直しというのが大きく入って、それがデジタルの世の中で新たに進化してきたというような見え方を、私は記憶しております。  

もう一つの特徴としては、いずれのケースも、何らかの形で顧客のビジネスを支援するというエッセンスが入っている点が、今までの金融業のサービスモデルを超えた新しい着眼点になっているなと感じている次第であります。  

では、なぜ海外の金融機関はこのような考え方に至ったのかということですが、まさに世の中の全産業において、ソフトウェアの占める割合が増えてきている。例えば、車でもそうですけれども。そのときに、金融機関がソフトウェア産業として生きていけない場合、グーグルやアマゾンにディスラプトされてしまうのではないか。後ほど少し触れますが、2011年にマーク・アンドリーセンという方がウォール・ストリート・ジャーナルにSoftware eating the Worldという寄稿をしまして、何度かシリコンバレーに顔を出した際も、それが参照されることがあったので、恐らく業界である種のバイブル的な扱いをされているんだろうなと感じておりまして、その結果、どの銀行に行きましても、我々はソフトウェア企業になるんだというような宣言につながっている、そう想定されます。  

これ以降、個別の事例を参照していきたいと思います。まず、ウェールズファーゴですが、彼らはお客様であるカードの加盟店に対して、彼らのビジネスがうまくいくようにソフトウェアを提供しているということであります。まず彼らがやったことは、お客様が、これは銀行の顧客ですけれども、支店なりいろんなチャネルに対してアクセスがしやすい仕組みをつくり上げたと。それは例えば、認証手段だったり、お客様、例えばろうあ者であってもコミュニケーションがとれるような手段を配置したりという取組みから始まり、第2段階として、企業のお客様のビジネスがうまくいく仕組み。特にここではモバイルコマースを支援するためのソフトウェアを提供しています。  

結局、ウェールズファーゴにとっては、自前でカードを発行しておりますので、自社のカードがより使われれば使われるほど、最終的には銀行としての加盟店手数料が入ってきますので、収益の増大につながるという仕組みになります。提供しているソフトウェアについては、メンテナンスまでは銀行が行うのですが、サービス運用の責任は加盟店が担ってくださいねと。ただしデータは共有ですよといった条件がついているということであります。  

次のページですが、彼らもアクセラレータープログラムを2014年からやっていて、投資先企業が現時点で9社あるということですけれども、よく見てみると、FinTech企業は1社しかなくて、ほとんどが顧客のデジタル経験を高めるためのテクノロジーを持った企業に対して出資しているということがわかります。つまり、顧客エンゲージメントを強化する投資に力点を置いているということです。  

次は、バンク・オブ・ニューヨーク・メロンでございます。この金融機関は、もともと米国の地銀でして、90年代ぐらいから証券決済やレポ、カストディーといった業務に特化していた金融機関であります。今後、特にレポ取引がP2Pの決済が進展していくに当たって代替される可能性が高いと判断し、なかなか理解の進まないエグゼクティブをシリコンバレーに連れていき、ここでも触れておりますけれども、先ほどご案内したマーク・アンドリーセンやリップル、eBayなどの話を聞かせて、BNY Mellonは高度なテクノロジー企業になっていくんだという全社的な合意を形成したと聞いております。  

右の図に示したように、単にテクノロジーだけではなくて、カルチャーの変革や業務プロセス変革を同時に行い、銀行のデジタル・トランスフォーメーションが進展しているということです。  

続いて、彼らがサービスとして提供しようとしているNEXENというプラットフォームです。基本証券投資の管理を主業としてやっているわけですが、いろいろなサービスがヒストリカルに次々とでき上がってきたことによって、顧客がバラバラなソリューションやデータベースからデータを引っ張り出してリスク管理をやっている点が、非常に非効率かつ不整合であるというところに着目して、今まで行内で自分のために使っていたシステムをクラウド上に移行させてお客様からアクセスしやすくし、さらに商品やサービスなど横断的に顧客経験を高めるようなサービスとして提供していく。具体的にはリスク管理ですとかポートフォリオの代行的な管理とかになるのですが、あくまでも彼らとしては、アマゾンのように顧客に活用してもらう銀行になりたいということでありました。  

先日、Sibosへ行った際に、このNEXENの紹介セッションがございましたけれども、非常に人気を博していて注目を浴びていました。このスライドの右肩の上に、少し小さい字ですけれども、英語でWith NEXENと書いてありますが、その後に、彼らはこういったサービスプラットフォームを提供することでエコシステムを形成し、新しいファイナンスの形態をつくっていくんだという、随分大上段なコメントですが、なりたい姿が示されています。  

続いて、マスターカードであります。こちらは誰もが知っているカードネットワーク企業ですけれども、彼らは世の中がどんどん変わっていく、変わり端というところに常に自分たちがいて、自分たちがそういう変わり端を実現するプレーヤーなのだということをアピールしていく。それは期待ドライブ型の経済というような言い方をするのだそうですが、その中で、もはや決済ネットワークのサービス事業者ではなくて、システム提供者であると自らを定義しています。彼らがイノベーションに着手したのは比較的早くて、今から6年ぐらい前には米国にイノベーションのための研究施設を設置したということですが、現時点で世界に8カ所ほど、こういったラボを設置しているということです。  

次のページですけれども、こちらで御覧いただきますのは、自動販売機やコインランドリーであったり、一番右には座席の絵があるのですが、これらは基本的にキャッシュを払って物品を購入したりサービスを利用するような形態ですが、これは全てマスターカードのお客様企業なのだそうです。お客様企業と60日間でいかにこれをデジタル化していくかというプログラムを社内に持っていて、これをどんどんつくり上げていくということをマスターカードは運用しているわけです。真ん中のコインランドリーは既に実用化しているとのことです。一番右は、座席のQRコードを写真で撮り、そこから注文して、売り子さんにジュースや食べ物を席まで配達してもらうためのシステムだと聞いて思います。これはある種、IoTを実現していくことで、最終的にはマシンの加盟店が増えていくわけですから、マスターカードにとってもこういった活動に対する投資が正当化されるという流れになるのかなと思っております。  

次は、少し毛色が変わるのですが、DBS、シンガポールの一番大きな銀行ですけれども、そこの取り組みであります。チーフイノベーションオフィサーと話したときに、イノベーションには3つの方法があるという言い方をしておりました。まず既存のインフラにイノベーションを取りつける。これは豚に真珠だろうと。2番目としては、外部からプロダクトを買ってきて、自分のブランドをかぶせる。3つ目として、本腰を入れて企業カルチャーを変えていく。この3つのうち、DBSは、時間はかかるかもしれないけれども、最終的に効果が高い3つ目でいくぞということでした。実はカルチャーを変えるというのはそんなに簡単なことではございません。むしろ小さな効果を幾つか積み上げていくということが重要であろうということで、行内に2つプロジェクトを走らせているのだそうです。  

左側は、1つはデジタル・マインドセット・ハッカソンと言われるもので、これは支店長以上が全員は入らなくてはならず、自らがFinTechのスタートアップを創造するというプログラムであります。既に幾つかチームが組成されているようですが、こういったアイデアが出てきた時点でCEO・CIO、それから人事担当役員、ベンチャーキャピタリストを前に、その支店長さんがプレゼンをし、うまくいけば資金が提供されるというような仕組みになっています。  

もう一つのSparkiesというプログラムは、支店長以下の若手が入っているのですが、1カ月に1日は必ずイノベーションのために使いなさいと。具体的には、この上のプログラムでもって出てきたチームにお手伝いとして入るようなのですが、そういった場を提供する目的、また社員教育の場として、チャンギ空港のそばにDBSアカデミーという大きな施設をつくりまして、そこで一貫した教育を行っていると聞いております。一方、彼らはパブリッククラウドを利用するということについても非常に熱心で、今年の夏場だったと思いますが、こちらにプレスリリースを貼ってありますけれども、銀行のIT資産の50%を2018年までにパブリッククラウド上に移行させるというような発表をしております。ある種、当然彼らもスタートアップとの協同事業をやっているものの、内部に注力した取り組みをしているということであります。  

事例の最後は、米国の実績ということでご紹介したいのですが、こちらは米国の地銀であります。米国の地銀は大手行ほどイノベーションに対する投資の余裕がないという背景があります。このアンクア銀行がフリーで外部からコンサルタントを雇ったところ、銀行のリースモデルを一変させるような非常にいいアイデアを出してくれたと。それで頭取が、君たち、うちのために専用のソフトウェアをつくってくれよと話をしたところ、その人はノーと。なぜならうちはアントレプレナーであって、受託開発のIT企業ではないのだからそういうことはできないと。ただし、頭取が自分たちとベンチャー企業をつくってくれるというのであれば別だと。そこで銀行はその人たちに、資金と顧客とデータを使う権利と、規制対応のノウハウを提供し、その人たちはその資金でもってシリコンバレーで開発者を雇い、新しいソリューションをつくり上げていったと。それが世に認められて、最近ネイションワイドという英国のビルディングソサエティーからさらなる出資を得たということであります。こういったアプローチもあるんだなと思っておりますが、日本においても共同化が定着しているという観点から考えると、まさにこういう強みを持ち寄る分業というのは検討の価値があるのではないかと考えた次第であります。  

この後はまとめをしていきたいと思います。左の図をご覧ください。こうやって幾つかの事例を見てまいりますと、デジタルイノベーションにも発展段階があるんだなと感じております。まず第1段階として、FinTechの活用をするオープンイノベーションの段階。第2段階として、内部のカルチャーが変革したり、ベンチャーに出資したりすることを通じた組織的な変革の段階。最終段階として、ビジネスモデル全体を変革していく段階。こうして、経営のイノベーションとテクノロジーのイノベーションが内部喚起されるという方向になるのだろうと思っています。現時点では、日本のイノベーションの発展段階というのは第1段階にあると認識しています。  

さらにここからデジタルイノベーションを進めていくに当たり、幾つか検討するポイントがあると思っておりますが、ここではクラウドとエコシステム、API及び日本独自のイノベーションとしての留意事項を少し考えてみました。まずクラウドですが、先ほども少しDBSの件で触れましたが、世界的にオンプレミスからプライベートクラウド、さらにはパブリッククラウドへの移行の流れが進んでいるようでして、右側にはパブリッククラウドの利用に関してですが、FCAという英国の規制当局も、少なくともルールに準拠する限りにおいては使っていいんだよという言い方をしていることから、だんだんと世の中としても変わってきているのかなと思っています。  

クラウドの見方についてはいろいろな見方があるだろうとは思っておりますが、例えば日経新聞さんが、私も利用しているんですけれども、モバイルアプリケーションを出していくときに、今までは印刷時に一番のピークがあったかかったと聞いていますが、今は、むしろ朝の出勤時の利用や、号外が出たときなどがピークタイムとなるようで、まさにオンプレミスのハードではなかなか対応できないという状況があったようです。こちらで書いておりますキャピタル・ワンも同様で、モバイルサービスに移行した時点で、今までのITがなかなか使いづらくなったというところに背景があるのだそうで、イノベーションの観点からクラウドの活用を見ていくということが重要なのかなと感じているところであります。  

次は、エコシステムとAPIであります。現在日本でも、こういったエコシステムとかAPIの議論が進んでいるということは承知しておりますが、これはやはり起点として、銀行がビジネスモデルを変革していく。これがテクノロジーのユーザーからソフトウェア産業に変質していくというような過程がまずあって、エコシステムが必要になってくると。これは銀行が新市場にソフトウェア業として参入していく。銀行の持っている顧客接点だけでは足りないので、異業種とも連携したり、スタートアップとも連携していく。それがエコシステムになって、そこで初期投資も回収していくというビジネスモデルがここでつくり上げられて、それを実装しようとしていこうとしたときにAPIが必要になるという、そういう関係性を持っていると理解をしております。このときにAPIというのは、外部との連携だけではなくて、むしろ銀行の内部システムにおいてもAPIを使った連携というのが必要で、これが取引を記録するシステムから、顧客の関係を深めるシステムへ、銀行の内部システムを移行していくという過程をとるのだろうなと。こういった観点でAPIの議論も進めていかないと、なかなか難しい面が出てくるのではないかと感じております。  

エコシステムに関してはもう1点ございまして、これは金融庁さんにぜひいろいろ考えていただけたらと思っておりますが、例えば当局と研究機関が連携する事例。左側ですが、シンガポール政府では、地場の有力な大学と組んで、インバウンドで入ってくるFinTech企業に対してリソースを提供するという活動を既にやっております。これはインバウンドのみならずアウトバウンド、つまりシンガポール発のFinTech企業を育成していくということにも当然使えることになっていくだろうと思っています。  

もう一つは、イギリスとシンガポールの当局間の協調体制でありまして、FinTechブリッジと言われているものであります。こういったものも、関係者と当局を含めたエンド・トゥ・エンドでエコシステムを形成していくという点においては、非常に重要な役割になるのではないかなと感じている次第です。  

最後に、日本の独自のイノベーションの発展において考えていくべき点を抽出してみました。これは主に米国の成功要因や、日本と異なる特性という観点から幾つか出したものです。まず一番上は、米国には豊富にベンチャー企業が存在していますね、しかし日本はという話になるわけですけれども、だとすると、オープンイノベーション頼みだけでなく、むしろ内部イノベーションをもっと奨励すべきではないか。さらには、先ほどもご紹介した米国の地銀の例のように、強みを持ち寄るハイブリッドな形での起業というようなものも促進していく可能性もあるのではないかと。  

2つ目は、これはあまり知られていないことなのかもしれませんが、米国の金融機関のITは、これは特に開発の部分ですけれども、ほぼ内製が進んでいる一方、日本ではそうではないというところであります。これは裏を返していうと、日本のデジタルイノベーションというのは、ITベンダーとともにビジネスモデルを革新していくということが重要になってくるのではないかと考えております。さらにこういったFinTech企業との連携というのが、投資というところまで進んでいくと、今まで外部に依存していた部分を、逆に内製化するという動きにもなっていくわけでありまして、昔の銀行のITというのは、銀行員の方々が一生懸命自前でつくり上げた時代というのがおそらく三、四十年前にあったと思いますが、まさにそのころに原点回帰するような動きというのにつながると感じております。  

3つ目は、世間がITに求める品質の話でありまして、これは資料を次のページにつけておりますので、重ねてご参照いただきたいのですが、日本ではITの品質、ダウンタイムに対しての、マスコミも含めた批判というのが非常に強くございますけれども、あまり過ぎるとコストに影響するということでありまして、少々情報は古いのですが、北米のミッションクリティカルなシステムにおけるダウンタイムというのは、ざっくり申し上げると97%台で、日本の場合、99の下に幾つか9が並ぶぐらいの非常に高い稼働時間を要求されていて、下のグラフで比較しますと、約10倍ぐらいの差があると。ここがコストをかけ過ぎなのではないかということにつながる可能性もあって、この点についても考えてみる必要があるのかもしれないなと考えております。  

もう一つは、システムの構造の面で、疎結合なのか密結合なのかという点であります。これはもう存在しているものなので、それに対して何やかんや言っても仕方のない話でもあるということもありますし、歴史的につくり上げられてきたものでありますので、今後、第二勘定系のような柔軟なアプローチだとか、先ほどご案内させていただいた、クラウドをいかに使うかというような視点が大事になってくるだろうと考えている次第です。  

最後に、本日は銀行がビジネスモデルを変革していくということについてお話申し上げたわけですが、これはベンチャー企業の立場で見ても、彼らのサービスが銀行に生かされる、もしくはエグジットの観点から見ても非常に重要な論点になるのではないかなと考えているということを申し上げて、本日の私のお話は終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

【福田座長】

ありがとうございました。  

それでは引き続き、佐藤参考人及び矢吹参考人、よろしくお願いいたします。

【佐藤参考人】

ご紹介いただきました、A.T.カーニーの佐藤でございます。本日は、このような機会をいただきましてありがとうございました。山上様からのお話も、大変私どもも勉強になりまして、大変ありがたく思っている次第でございます。  

今日は、このような機会をいただきましたので、私どもが日常、金融機関と接していて感じていること、あるいは日常どのようなアドバイスをしているかということについて、簡単にご紹介してまいりたいと思います。  

A.T.カーニーは、ご存じかもしれませんけれども、90年前にシカゴでできた会社でございまして、日本では1970年代の初頭からコンサルティングをしてございます。特に金融機関に対してのコンサルティングにつきましては、金融機関を通じて社会及びこの世の中を変えていくということをモットーに、金融機関に対しての絶え間ない対話をしているということです。このところ、金融機関のイノベーションということをやらせていただいているわけですけれども、それとあわせて非金融機関の金融化のご支援、つまり銀行法に基づく銀行免許を取らずに、いかにして金融機関に近いビジネスを企業の皆さんがやっていくかというようなご相談も大変増えてございまして、そのような観点からも、このようなテクノロジーが、これまであった1つの既成概念を変えてきているのではないかと考えています。  

私どもは長く銀行及びその他の金融機関のコンサルティングをしておりますけれども、個人的に日々悩んでおりますのは、本音と建前の戦いです。よく言いますと、頭取になる前は大変アグレッシブで、もっとこの銀行、この世の中を変えていかなければいけないという議論をしているのですが、頭取になってしまった瞬間にコンサバティブになってしまって、これは議事録に残りますので、あまりどこまで細かく申し上げるかということはありますけれども、がっかりする。はたまた頭取をご退任されて会長になられると、また元気になるという、こういう繰り返しでございまして、さて、私どもはそこであきらめちゃいけないと。その中でどれだけ一歩、1ミリでも前に寄せるかということを日々やっている最中でございます。  

なぜこんなことが起きるかというと、一言で申し上げれば、金融機関というのは大きな既得権益の塊でございます。やっているふりしてやらないことをやり続けることで、ちょうどいい雰囲気ができるというのがこれまででした。特にやらない理由ですね。1つは、お客様です。今までどおりのサービスをお客様に提供するというのが使命であると。これって、これまではよかったですけれども、FinTechなんてことが起こる、あるいは今、金融機関が置かれている環境、競争相手は必ずしも金融機関ではなくなった現状からすると、この言い訳は通用しなくなりました。  

もう一つは、レギュレーションです。金融庁が、あるいはその他の機関がどんどんやってはいけないことを積み上げるので、こんなコストがかかっています、こんなことができません、そんなことはやるべきかもしれないけど、やらないことになっていると。やるべきこと、必要なことなのであれば、チャレンジしたらどうですか、やってみたらどうですか。いやいや、うちだけだと、こういうことになる。しかし、これについても非金融の皆さんが新しいルールで参入することによって、新たな競争が生まれていって、そんなことを銀行も言っていられなくなるということです。  

3点目が、ITです。山上さんからもご指摘ありますけれども、既存のITが非常に巨大でがんじがらめで、何かおかしくなると、銀行の生命にかかわるという問題ですので、そこに手が入れづらい、そこに手をかけづらいという状況があります。これに対しても、このFinTechという概念に関して言えば、勘定系とかその他既存系に手を入れることなく新しいサービス提供ができるということになりますので、FinTechが訪れることによって、言い訳ができない状況にいよいよなってきたなと。やればいいじゃないですか、もうできますよと。そのような相手と競争していくという時代が始まったというふうに理解しております。  

したがいまして、そこの中で私どもは、これを機会に金融機関に対してイノベーションを働きかけているわけですけれども、決して私どもから見れば、イノベーションでも何でもなくてインプルーブメント、ほかの産業であれば当然できていることが、金融機関だからという理由でできなかったことが許されていた時代が終わってしまって、自分たちがどんどんほかと同じ目線で見られ始めてきていると。つまり、ほかの産業でできていたサービスと同じ目線のサービスができるようになるということが、まず第1段階。そこから先に、多分金融機関同士の競争が始まっていくのだろうと感じています。ただし、先ほどの本音と建前の議論というのはまだまだループしていて、実はコンサルティング会社はそこのループに挟まると儲かるという意識もあるわけですけれども、そこに漫然としていてはいけないわけで、いくべきところ、イノベーションしていくところということを見据えて、例えばこの銀行とこのような進化を実現させよう。あるいは、この企業とこのような金融産業の変化を実現させようという目線を持っていくことが大事だと考えております。  

そこでの大きなキーワードは、やはりお客様であり、社会であると思っています。そのサービスが提供されることによって、お客様にとってどのような利益が生まれるのかと。あるいは、そのようなサービスがよりローコストで、皆さんが使えるようになることによって、社会がどのように進化していくのかと。つまり、銀行なり金融機関の生き残りのためにFinTechを使っていって、儲けの手段を見つけるということでは決して意味がなく、私どもはそのサービスの変革を通じて、この世の中、お客様はどのように進化していくべきなのかという目線で取り組まなければ、正しい方向に進めることができないのではないかと考えております。  

ちょっと前置きが長くなりましたけれども、そのようなことを踏まえて、私どもはどのようなことをやっているかということについての具体的な内容を、矢吹のほうからご説明させていただきますので、よろしくお願いします。

【矢吹参考人】

A.T.カーニーの矢吹でございます。私のほうからは、資料に基づきまして、具体例、あるいは具体的な方向性も含めてお話をさせていただきたいと思っております。  

まず、2ページ目でございます。要旨として、今日申し上げたいことということで3つございます。1つ目は、今佐藤が申し上げたとおり、やはり金融機関がある意味主体となって革新的な事業を創造していくということは、この全体のエコシステムの参加者の一員であるのであれば、当然必要なことではないかと。ただ、いろいろな事情があって、なかなか進まないというようなところも現状としてございます。そのあたりのメカニズム、後ほどお話させていただきます。  

2つ目は、そういう状況のままではいけないということでございまして、先ほど山上さんのほうからもお話ありましたとおり、こういう新しい技術を活用していくというのは、ある意味チャンスでもある一方、そういったチャンスを生かしていくためには、技術を起点としてスタートするということではなくて、あくまでも金融機関として、お客様に何を提供していくのかと。ここを起点に考えていかなければいけないですし、そのために必要な外部パートナーとの連携を実現するということが重要と考えています。必ずしもそれはFinTechだけではなくて、地域金融機関であれば、地場の企業さんと連携して新しいサービスを提供していく、こんなことも含めて考えていかなければいけない。  

ただ、これをやっていくためには非常に大きなチャレンジもあります。もちろん規制とか、あるいはコストという重荷があるのもございますけれども、一方で、金融機関のカルチャーまで変えて踏み込んでいくと、こういったチャレンジが大変重要なポイントでございます。そういうチャレンジを置き去りにしていると、大きく世の中が変わっていく中で、どんどん新しい価値、これまでの金融機関の担ってきた役割を引き続き担っていくということが非常に難しくなっていくのではないかと考えております。  

それから、3つ目につきましては、ただそれをやる上で、当局、それから行政も含めて、そういう環境整備をしていくということもあわせて重要だと考えております。  

3ページでございます。皆さんもうご存じのとおり、FinTechのビジネスというところを整理してみますと、3ページはウェルズ・ファーゴのウェブサイトを使いまして、それに同じサービスを提供できるFinTechを当てはめたというものです。ごらんいただいたとおり、リテールの個人向けのバンキング領域については、ほぼ全てFinTechが代替できる状況です。唯一預金とか小切手の発行とか、そういったところは銀行だけに残されたところではございますが、それ以外はほとんどFinTechが代替できてしまうというのが今の状況でございます。  

あわせて4ページも、中小企業向けビジネス、こういったところにもFinTechの領域は広がってきておりまして、HSBCのホームページを今度は当てはめているのですが、ほとんどFinTechで代替できるような形になってきています。  

一方で、中国でございます。皆様もご存じかもしれませんけれども、FinTechの世界一の大国は中国と言われておりますが、その数とか、規模、成長性という意味でも群を抜いているFinTech企業が多いのではないかと思っております。ご承知のとおり、アリババが数年前に投資信託の販売を始めたとき、たった7カ月間でほかの全部の中国の金融機関を実績、売上高で追い抜いてしまったというようなケースがございます。当初、中国の銀行のトップも、そんなこと起こるわけないと言っていたわけですが、蓋をあけてみると、たった7カ月間で追い抜かれてしまって、あっと言う間にアリババ自体が世界第4位の投資販売会社になってしまったというようなケースでございます。  

それからもう一つ、例えばP2Pレンディングのところで申し上げますと、実はクレジットイーズという会社は、アメリカで結構有名なレンディングクラブという会社がありますけれども、実はそれよりも大きな成長性と規模を誇っております。ですから、中国で見ていくと、ほとんどこういうFinTechの企業が銀行業界の構造を引っくり返していると、こういうことが起きてきているわけでございます。  

次に、日本の例を挙げておりますけれども、こういった動きが出てくると、日本の金融機関における状況も大きく変わらざるをえないと思っております。結果として銀行に残る業務がどうなのかということですが、例えば住宅ローン、あるいは地方銀行であれば指定金融機関業務というのがございますけれども、いずれも今の金利環境下においては、収益性を確保していくのは非常に難しい状況でございます。となると、儲かるところはどちらかというとFinTech等の新しいプレーヤーがどんどん入ってきて、そこが進出してくる。一方で、残るところがなかなか収益を上げづらいというようなことになってくると、銀行においても新しいビジネスモデルをつくっていく、こういったことをきちっと考えていかなきゃいけない。いよいよこういう状況になってきているということでございます。  

じゃあその方向性としてということで、これは1つのフレームワークでございますが、7ページにありますとおり、事業領域を拡大していくというのが非常に重要なポイントになってくると思います。銀行領域1.0、2.0、3.0と命名していますが、例えば今まで銀行がやってきた伝統的な金融領域というのを1.0の世界だとすると、FinTech等が提供しているような新しいサービス。伝統的金融が提供できていない金融領域という観点で言うと2.0。ただ、その先には非金融領域というものもございまして、ここが銀行にとっての潜在領域、つまり、3.0ということでございます。銀行の側から見ると、この銀行領域1.0は先ほど申し上げたように儲からないところが残ってくるということになると、ここだけではより厳しい状況になる。そうすると、銀行2.0というところに次出ていく必要があるわけですが、ただ、ごらんいただいたように銀行2.0も必ずしも銀行にとって収益をもたらしてくれるかというと、そんなことはない。例えば、決済というものはどんどん手数料が下がってまいりますし、決済を提供している異業種のプレーヤーというのは、必ずしも決済を収益源として考えているわけではないですので、非常に安い手数料でやってくる。そうすると、銀行はここで必ずしも儲からないかもしれない。あるいは、収益を上げることができないかもしれないとなると、いよいよ非金融領域も含めて出て行くと、こういう形で展開を考えていかないと、非常に難しい状況になってくるのではないかと考えられます。  

余談でございますが、かつて商社が物の仲介から企業の出資、バリューチェーンの再構築、さらには事業そのもの/本業に入っていくと、こういう進化を遂げてきたわけでございますが、金の仲介である金融も、いよいよこういう動きを見据えて動いていかなければいけない、こういうことではないかと思っております。  

8ページは参考までにということで、これは南アメリカの銀行で、先ほど山上さんからお話のありましたウェルズ・ファーゴのケースと若干似ている部分はあるのですが、これは通称グリーンバンクと呼ばれている銀行ですが、何をやっているかというと、マーケットエッジというソフトウェアを地元の取引先の企業、中小企業向けに提供しています。特にレストラン等、個人向けにサービスを提供している方々に対して、このソフトウェアを提供する。これは何かというと、銀行が保有している個人の情報を、誰がどこで買っているとか、どういう属性の人がどこに住んでいるとか、そういったところを全部整理して、もちろん個人情報そのものを提供するわけではないのですが、マーケティングデータとして提供するということです。そうすると、これを使っている企業や商店は、どこに自分たちの商品ニーズの高そうなセグメントのお客さんがいるのかということを、例えば右側の円がいろいろ示してありますけれども、この地域に多い、みたいなことを示してくれる。そうすると、じゃあ今後の店舗展開をどう考えていくのか、こういったことも含めて検討できるようなものを銀行が提供しているという事例です。銀行がなぜ提供しているかというと、価値ある情報が集められるというところがあるわけで、先ほどのフレームワークに照らして考えていくと、まさに3.0の世界の中でどうお客さんに貢献して、収益につなげていくかと、こういった取り組みはいろいろなところで実は始まっているということではないかと思います。  

一方で、銀行業界を見ると、次の9ページにありますように、デジタル化という観点からすると、いろいろな誤解があって取り組みが遅れているということも事実でございます。大きく4つ程ここで申し上げておりますが、自分たち自身が既に革新的だというような誤解を持っていないかどうか。それから、新しいテクノロジーは安全ではないので、どこかでほころびが出るのではないかといった話。デジタルバンキングについては、今構築しているオムニチャネルの一環として考えていけばいいのではないかといった話。それから、FinTechについては、一時的な流行であるかもしれないと。すぐに規制が追いつくのではないかと、こういったことが誤解として存在しているというのも事実としてあるのではないかということでございます。  

これを乗り越えて実際に取り組みを開始したケースというのも、私ども数多く見てきておりますけれども、失敗するケースというのも少なくないと思っております。これは日本に限らずということでございます。なぜそういうことが起きるのかというと、銀行の中においては、新しいビジネスモデルをつくっていくというのは、これまでなかなか経験したことがないというところもあって、まず慣れていない、R&Dということに関して、決して長けているわけではない。そうすると何が起こるかというと、一旦推進部隊が立ち上がるのですが、経営陣からは、世の中騒がしいから何ができるか、FinTechも含めて考えてみなさいという形で大ざっぱな指示が下りる。また、チームも銀行員だけで組成されるというケースは結構多うございます。  

では実際に事業構想の段階になると、結果的に何ができるかというところの定義がすごく曖昧。目的、ミッションがすごく曖昧なチームですので、しばらくすると、では幾らぐらいがどれぐらいの短期間で儲かるのかみたいな話が一部の役員から下りてきたりとか、こういった話というのが日常茶飯事起きます。そうすると、チームの皆さんからするとプレッシャーですので、短期的に何か成果を上げなきゃいけないということになると、例えばなんですけれども、シリコンバレーに行ってどんな技術がどれぐらいあるのかという調査をして、そこのところでどこに出資できるのかと、こんなような動き方をすることもあるということでございます。  

では、仮にこれを出資したらどうなるのかということなのですけれども、この右側にありますとおり、過去例えばスペインのBBVAという会社がシンプル社という会社を買収しました。これ、必ずしも成功したわけではなくて、BBVA自体も失敗だったと言っているケースなのですが、これは何が起きたかというと、実情として、BBVAがシンプルを買収した後に、マネジメントの人間をシンプル社に送り込んで、その中で一緒に仕事をしようとした。そうすると、そのマネジメントの方は、ベンチャーのシンプル社の社員に対して、朝9時に何で来ていないのだとか、あるいは3日徹夜で働いているのだけれども、2日来ないのは何で来ないのだと、こういったことをやっていくと、優秀な方々、イノベーティブな方々はどんどん抜けていくことになります。結果的に脱け殻になってしまったシンプル社だけが残ると、こういうケースになったわけでございまして、銀行自体がベンチャーをどうマネージしていくのかというところに必ずしも長けているわけではないということと、それからもっと言えば、銀行自体がベンチャーキャピタルではありませんので、目利きがあって必ずしも成功するベンチャーを見きわめられるわけではないので、目ぼしい技術に手をつけて出資するというのは非常に危険なアプローチだと考えております。  

それから、具体化という段階に入ると、銀行ですから、失敗したら大変なことになるということで、じっくりプランを練って、慎重に進めていく。そうすると、気がついたらあっと言う間にほかの人たちが先に行っているというようなことにもなりかねないということで、結果的にスピードも十分ではないし、十分に破壊的なモデルにもならない。このようなところが、これまで数多くのケースで繰り返されてきていることであるのではないかと考えております。  

さらにということで、特にこれは日本における特殊事情なのかもしれませんけれども、金融機関自身がチャレンジしにくい構造があると考えております。私はこれを「負のトライアングル」と呼んでいるのですが、例えばお客様、私自身が銀行の顧客であったとして考えると、銀行の方が何かを届けに来たときに、それに対して手数料を払うということは全く想像もしませんし、場合によっては、今、いろいろ議論があるとおり、口座の残高が一定額下回ると、それに対して手数料払うと、こういう感覚を持っていないですね。それは今までそういうことがなかったので、全く持ってない。したがって、お客様からすると、基本的に金融サービスの大部分はタダでこれまで提供されてきたという部分がありますので、そこに対して何か新しいことを行って、適正なフィーをいただくというのが非常に日本の場合は難しい状況がある。これは金融機関側から見たときには、そういう状況があるということでございます。  

一方で、行政というところに関していうと、規制の徹底遵守ということで、非常に厳格なレギュレーション、それから品質基準がすごく高い要請というところもあって、こういうことを考えていくと、なかなか新しいことをやるよりは、横並びでそこそこやっていたほうがこれまではよかったということです。ですので、これは今の状況下においては、新しい革新的なことをやっていかなければいけないという環境下においては、非常に大きな阻害要因になってきているということだと思います。したがいまして、この辺のところについても、どう土壌を整えていくのかということは、これは金融機関だけではなくて、行政も含めて一体となって考えていかなければいけないと考えております。決して金融機関を優遇するということではないと思うのですが、少なくともいろいろな重しとか鎖がある中でイノベーションするというのも非常に難しい状況でございますので、そこをどう取り除いていくか。その中で、適正な競争の中で、どう新しいイノベーションを起こしていくのかと、こういう観点で考えていく必要があると考えております。  

そういったことも踏まえまして、銀行がこういう革新的な事業創造をしていくために何が成功要件になるのかというところを少しお話させていただきたいと思います。大きく3つあると考えております。1つは、先ほど幾つかの失敗例でも触れたことですが、推進チーム、組織のミッション、それからチームの権限の明確化をきちんとしていくということが、まず第1段階で必要だと考えております。それから2つ目が、技術を買いに行くということではなくて、あくまでも顧客視点で新しい価値提供法を考えていくということです。それから3つ目が、デジタルは今までの延長線上ではなくて、デジタルの世界を前提とした新しいビジネスインフラというものをゼロベースで考えていくと、この3つが成功要因ではないかと思っております。これ以降のページで、少し具体的にお話をさせていただきます。  

まず1つ目、推進チームでございます。よく見られるケースというのが、先ほどの失敗例で幾つか申し上げたとおり、推進チームというのはでき上がるものの、実際は何をやるのかというのが、経営陣も含めて全員の中で浸透して理解されているわけではないという状況でございます。あるべき方向性としては、右側にありますとおり、ある程度トップ直下で試行の実施権限と予算をもって推進できるようなチームが必要で、かつチームの中には、銀行員だけではなくて、例えばマーケティング経験者であるとか、あるいは新しい事業を立ち上げた経験のある人、こういった人も含めてチームをつくっていく。さらに、ミッションと到達目標をきちっと定めて、それを皆さんと共有しておくということも非常に大事なポイントでございます。  

では、具体的に、どういうことを共有しておくのかということなのですが、これは基本原則ということで、これも1つのやり方、ということでご紹介申し上げると、これは経営陣、それから関連部門の皆さん、それから現業部門の皆さん、それからチームということで共有する話なのですが、これはあくまでもR&Dということで、将来儲かるかどうか、あるいは成功するかどうかというのはやはりわからない中で進めていかなければいけないという話でございますので、短期的な収益は追わない、あるいは求めない、こういったことも必要ですし、最初から完璧を求めるのではなくて、試行の数というのが重要だということも必要です。あるいは、できるだけ早く走る、営業部門と評価基準をちゃんと共有する、名前も含めてどういうブランドでの展開を目指していくのか、こういったところを基本原則として、何か起きたときにはここに立ち戻ってきちんと考えられるような、判断の基準なりの指針を定めておくというのが1つのやり方として有効なのではないかと思います。  

それからもう一つは、その中での評価基準の話でございますが、やはりR&Dのステージというのは、どちらかというと定量評価というよりはマイルストーンで、いつまでに何をどれぐらい進めていくのか、そのためにどれぐらい投資していくのか、こういった観点で見ていく必要があると思います。事業のステージごとに評価の基準を変えていくというのは、これは大変重要なポイントでございますので、この辺も含めて見ていく必要があるのではないかということでございます。  

以上が、1つ目のチームのお話でございまして、2つ目が、まさに顧客視点でどう考えていくのかという点です。技術を出発点にするわけではなくて、FinTechは目的地じゃないという山上さんの先ほどのお話もございましたけれども、例えばですが、これまで銀行起点で、銀行というのはサービスを提供してきた。これは1つの事実としてあったのではないかと思っておりますが、これからはお客様を見て、その方々のニーズとか嗜好とか思いとか夢というのは何なのか。こういったところを出発点にして、その上でライフステージなのか、ライフステージ全部をカバーしていくのか、あるいは幾つかのライフステージの中の重大イベントにフォーカスしていくのか。あるいは、もっともっと銀行に対するロイヤリティーが上がるような「真実の瞬間」というところにフォーカスしていくのか、こういった観点があるのかと思います。それを見きわめた上で、そこにどんなサービスを提供していくのか。その上で、最終的にそれが収益につながっていくのかという観点で考えていくことが必要だと考えております。そういった意味では、これは全くこれまでの銀行の考え方とは反対でございますので、この辺の銀行カルチャー、風土まで踏み込んだ改革というのが必要になってくると思います。  

では、それって具体的にどう考えていくのかということで、本日ご紹介させていただくのは、人生の重大イベントにフォーカスしたサービス設計のやり方というのはどんなものがあるのかということでございます。17ページにあるように、金融機関側からすると、今までであれば、例えば紛失したクレジットカードを再発行してくださいというのが重大イベント、1つのお客様のニーズとして捉えていくという見方がメインだったところが、実はお客様から見ると、クレジットカードの再発行というのは、財布を紛失したというイベントになるわけです。それから、住宅ローンを組んでくださいというニーズも、実はお客様からすると初めて家を購入したいというのが本当のニーズでございます。こういった側面から見ていくというのが、ここで申し上げている重大イベントにフォーカスしていくという話です。  

そう見ていくと、実は18ページにありますように、お客様の重大イベントというのは、結構そんなにたくさんあるかというと、金融サービスに紐づく重大イベントというのはそれなりに仕分けができるわけでございまして、A.T.カーニーがいろいろなところでご支援していく中で整理していくと、大体20から30ぐらい、このあたりが金融サービスにつながりやすい重大イベントということでございます。日常の銀行取引から資金の借り入れに当たって、それぞれいろいろなイベントがあるということです。  

例えば、この中で資金借り入れの「初めての住宅購入」というところを例に挙げて考えていくと、私も実は去年家を買ったのですが、家を買う側からすると何が大変かというと、自分の持っている今の資産と収入で、どれぐらいの家が買えるのかというのをまず調べなければいけない。そうすると、それを調べた後に、では自分の予算とか規模に合う家というのは、あるいは土地というのはどこにあるのかという物件探しをしなければいけない。そうすると、今度はそれを購入するに当たってどういう契約手続を踏まなければいけないのか。あるいは、資金繰りをどう考えなければいけないのかということも考える必要がある。それから、そこで銀行からどう借り入れるのかというのが初めて出てきて、その後、今度は引っ越しというイベントがありますので、登記があって、引っ越しがあって、その後、新しい家具の購入もしなければいけない。これは全部自分でやらなければいけないのです。誰かがまとめて提供してくれたら、ものすごくありがたいのにと思うのだけれども、実は誰もまとめて提供してくれていない。  

銀行であれば、例えばもっとこういうニーズに基づいた領域に少しずつにじみ出していくことで、いろいろな付加価値の出し方ができるのではないかと思います。このように考えると、例えば20ページのようなエコシステムを活用して、新しいモデルというのをつくっていけるのではないかと思っています。これは1つの例ではございますけれども、銀行が不動産業者と組む、銀行がいろいろな口コミサイトと組む、あるいはFinTechと組む、建築業者と組む。そうすると、一気通貫で今申し上げた不都合なところをある程度カバーできるような仕掛けというのがつくれるのではないかと考えております。まさにFinTechの活用というのは、こういうエコシステムの前提があった上で、そこでどう活用していくのかと、こういう観点で考えていくというのが非常に大事なのではないかと思っております。  

21ページは1つの例でございますが、USAAというアメリカの損害保険会社です。自動車保険とか住宅の火災保険とかというのをメインに収益を上げてきたわけでございますけれども、この会社、今実は住宅購入サービスを提供しています。何でこれを始めたかというと、ご承知のとおり自動車の自動運転が始まると、自動車保険ってどうなっていくのかと、こういった問題に直面したわけです。その中で、自分たちの事業領域を広げていかなければいけないということで、その周辺のところから含めてサービスを展開していって、こういうことを提供している。まさに先ほど申し上げた、幾つかのイベントを起点にしてそこから広げていくと、こういうようなビジネスの展開をしているということでございます。結果的にそこで収益が上がるかどうかというのは、これはわかりません。ただ、そういったサービスを提供することによって、単純に価格や金利競争だけではないところで金融サービスを提供するなら、こういった仕掛けにつながってくるということなのだと思っております。  

最後、新しいビジネスインフラを構築するということが3つ目の大きなポイントでございます。まだまだ実は世の中デジタル化されていない、あるいはデジタル化しなければいけないところというのは、実はこれからが本番でございます。銀行が現在参入しているところというのは、本当にその一部ということでございますので、その延長線上の中で全部対応できるかというと、必ずしもそうではない。この全体像を見据えると、実は新しい仕掛け、仕組みを一からつくっていくぐらいの形で考えていかなければいけないということではないかと思っております。  

1ページ飛ばさせていただきます。24ページでございます。その上で、この3つの問いに今後応えていくということが大事ということで、1つは、自分たちの今のデジタルの成熟度ってどこにあるのか、そういう立ち位置を客観的に評価していくことが重要ということです。それがどこに、世の中の環境も含めてどう向かっていくのかというところの差分をしっかり認識するというところです。それから、2つ目が、ではどうやってそこに到達していくのかというところのデジタル戦略の構築。それから、その上で、それをどうつくっていくのか。特に銀行の今のカルチャー、文化等を含めて、それをどう変えていくのかと、こんなところを考えていかなきゃいけないということかと思います。  

最後でございますけれども、山上さんからもお話ありましたとおり、新しいベンチャーとしての戦い方を、金融機関も取り入れていかなければいけないということなのではないかと思います。あらゆる場所で戦うという、これまでの戦い方ではなくて、トップになれる場所にフォーカスして戦うということが重要かと思います。重大なイベントにフォーカスしていくというのも、こういう観点から非常に有効なアプローチなのではないかと思っております。  

それから、完璧を求めないで迅速に行う、できるだけ早く走るということも非常に重要なポイントだと思います。例え失敗してもそこの失敗から学んで、それを次の体験に生かしていく、このサイクルをつくっていく、回していく、これが非常に重要なポイントだと思います。それが今の銀行の組織の中でできないのであれば、新しい組織を切り出してつくっていくと、こんなような形も含めて考えていく必要があるのではないかなと思います。  

以上、私のほうからは説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。

【福田座長】

ありがとうございました。  

それでは、これから皆様からご質問、御意見をお伺いする討議の時間とさせていただきます。ただいまの山上参考人、佐藤参考人及び矢吹参考人のご説明も踏まえ、委員の皆様の問題意識等、ご発言いただければと思います。参考人のご質問に関しまして、ご質問、ご意見があればあわせてお願いいたします。それでは、どなたからでも結構ですので、ご発言をお願いいたします。瀧委員。

【瀧委員】

マネーフォワードの瀧でございます。本日は内容、示唆に富んだプレゼンをありがとうございます。いつも我々、自分たちの業についても考えることが多いのですが、ITを一つのサービス業として、その将来を考えるときに、よく2025年であるとか2030年の銀行はどんな形なんだろうかというところから逆算した形で、自分たちのあり方をしっかりと考えるというのを、我々自身もよくやっています。おそらく今のままで進んでいくと、私は結構リテールに関する市場の半分ぐらいを、グーグルとかアマゾンとか、あるいはアップルといった会社が持っているという、そういう世界観をまず意識といいますか、見据えながら考えなければいけないんじゃないかという思いがございます。  

例えば、10年ぐらい前であれば、スマートフォンというのは詳しい人にしか売れないものなんだよと言われたりとか、あるいは7年ぐらい前ですと、実名のSNSは日本にはそぐわないみたいな意見があったわけだと思うんですけれども、現状はもう全く違います。スマートフォンは外資のプラットフォームが全てです。SNSは大体フェイスブックが普通になりました。そのような形で将来、非常に今日いただいたプレゼンの中では海外を参照しながら日本を考えるというフレームワークになっていますが、実はもう海外イコール日本になってしまうようなケースというのに対して、今、かなり真剣な意識の変化が必要なんじゃないかなと思っております。  

特に今、やっぱり岐路といいますか、最後のチャンスというタイミングなのかなとは思っていまして、というのも、仮になんですけれども、銀行業というのが今後ソフトウェア会社になりますという価値を考えたときに、仮に3年後とか4年後に不動産市場とかが非常に収縮したりして、攻めのお金がありませんという業態になったとします。となった場合に、R&Dが止まってしまう可能性があるのかなと思っていまして。先ほど山上様の資料の中にあった、まさに第二勘定というような発想が大事なのかなとは思っておりまして、現業は守らないといけませんと。ただ、現業に加えて外の知恵であるとか、あるいは中からもいっぱいイノベーションが生まれるべきである中で、もう一つのしっかりとした投資がされる基盤を確保しておかないと、おそらく景気サイクルにそれが裏切るような形で働いてしまいます。そのような世界の中で、ちゃんとバッファを持った形で、将来のお客様を幸せにするような投資の枠というのをちゃんと考えていかないと、金融機関はいけないのかなというふうに考えております。  

我々もよく自社のアプリで経験することなんですが、二、三年置きに新しいユーザー世代というのがどんどん生まれてまいります。なので、ある種マネーフォワードも生まれて4年ぐらいのアプリですので、だんだんと古いですとか、オワコンとか言われるような、そういうところにも簡単に行き得ます。そしてさらに、金融機関の基準でいう所の世代が一巡するころには、これはよく地方の金融機関さんが悩まれていることではあるんですが、中央にどうしてもお金が移ってしまうと。なぜなら利便性だけ見られてしまうからというところが、同じことが10年、15年後というスパンですと起きていくわけでございますので、そこをちゃんと攻めの投資という一言でくくるのも難しいことではあるんですが、担保していく必要があるのかなと思っております。  

あと3点目、最後ですが、規制の話でいろんな議論があるんですけれども、私は結構最近しっかりとリスクベースという言葉を改めてちゃんと運用することというのが大事なのではないかと考えております。よくFISCさんとかでも最近の報告書にもございましたけれども、非常にある種、リスク許容度の低い状態でリスクベース運用をしてしまうということが、いろいろなことの根源になっているのかなと思っていまして、それはひいては、やはりあらゆるところでリスクヘッジが行われ過ぎているところというのはあると思っているんですね。一番避けるべきシナリオは、制度も含めて供給者の論理というところがお客さんに対してはありますので、制度が供給者の論理に加担するようなことはあってはならないのかなと思っております。ちょうどFISCさんも新しい検討を今日から始められたりもしますけれども、そういったところのユーザーが最後は正義ですし、アップルもアマゾンも、何か裏で手を引いて支配力を持つのではなくて、ユーザーに支持されているものをつくっているからこそ、彼らがそこの支配的な立場に立たれるわけですので、そういう本当のユーザーファーストの世界を、極めて実は愚直なちゃんとしたリスクベースの社会で見ていくことができると、まずは最初のステップとしては大事なのかなというふうに思っております。以上でございます。

【福田座長】

ありがとうございました。ほかにご意見ございます方いらっしゃいますでしょうか。仮屋薗委員。

【仮屋薗委員】

山上様、矢吹様、大変示唆に富んだプレゼンで、本当にありがとうございました。いただいたフレームワークもちょっと鑑みながら、まず今の日本のベンチャーキャピタル業界、もしくはベンチャー業界におけるFinTechへの投資、それから活性化の状況がどうなっているかということを簡単にお話をさせていただきまして、その上でどういうふうなエコシステムの活性化の方向性があるのかということに対して、私見を語らせていただけましたらと思います。  

2016年の上半期、日本におけますベンチャー企業の資金調達額が1,000億近くに、928億円になりました。通年としてそれを倍の線に乗せますと、年間2,000億円程度のベンチャー企業の調達になるであろうと思われています。これは昨年に対しますと20%強の増加になってまいります。そういう中で、FinTechの分野の企業の資金調達がどういうふうに動いてきているかと申しますと、昨対ベースで申しますと、若干もしかすると割れてくるかもしれないというようなところが見えています。非常に昨年、多くの企業や、FinTech分野の企業への資金調達がございましたが、今年さらに盛り上がってくるかと思っている、もしくは期待値が大きい中においては、それほど伸びていないなというふうな印象を持っております。一方で、投資をする側の立場で、調達でどうなっているかと申しますと、1,000億のベンチャーの調達があったんですが、一方で上半期は2,000億円のベンチャーキャピタルのファンドレイズが行われておりまして、こと、金融系のVCのファンドの設立は多くなっております。  

そういう意味で申しますと、FinTechの分野のみならず、金融系の会社様のイノベーションへの投資に対する指向性は逆に高まっているのかなと思っておりまして、起こっている現象としましては、私の見方は、そういう資金面での提供の構えは非常にできつつあるんですが、一方で投資が進んでいなかったり、件数が減っている。イコールエコシステムは、この直近はここはやはりまだ機能しきれていないんじゃないかなというふうなことがあらわれているのではないかと思っております。  

そういう中で、VCのほうですね、それから銀行、それから金融起業会社の投資の用意がある中で、回っていない背景の1つに、もしくは回ってきていないところを打開するための考え方に、本日山上様が最初にフレームワークで示していただきました、3つのいわゆるイノベーションの捉え方ということで、山上さんのプレゼンテーションの4ページで、デジタルイノベーションを業務の省力化と、業務の高度化と、デジタルイノベーションの3段階で目的化して、そして使われていくというような説明がございました。そういう意味で申しますと、業務の省力化、それから業務の高度化のところにつきましては、やはりベンチャーへの投資、もしくはアクハイヤーというキーワードで我々よく言うんですが、技術を内製化するために人及び会社をM&Aするというエグジットですね。エグジットというのは、ベンチャーからするとエグジットなんですが、企業側、金融機関側からするとテクノロジー及び人材の能力の取り込みというふうな部分がまだほとんど、日本では動いていない状況です。  

一方でデジタルイノベーションの分野なんですが、こちらはさまざまな新しいサービス、FinTechらしいと申しますか、新しいユニークなビジネスモデルというものがいろいろな形で出てきてはいて、まだ海外のほうは進んでいるんですが、こちらに関して申しますと、日本におきましては当然ながらまだまだこれから出てくるところです。海外におきましては、こちらは矢吹様のプレゼンにありました、BBVAの企業の買収事例ですね。M&Aの後に、やはり何を買ったのかわからない状況になってしまっている。そんな例が出ているところだと思います。  

デジタルイノベーションの領域におけますFinTechの現在の状況は、ハイプカーブ的な考え方でいうと、まだ第一の波のちょうど頂点ぐらいで、いろいろな試行錯誤が今行われていて、これからどういうところが本質的にワークしていくのか、勝つのかというのは、第2の段階に向けての手前のまだまださまざまなトライ&エラーをすべきタイミングでありまして、こういうタイミングではM&Aというよりは、やはりエコシステムをつくって、さまざまな機会に投資もしくは協業していくということが大事なのかなと思いますし、一方でそういう時に金融機関よりのデータの拠出ですとか、いろいろなジョイントベンチャー的な取り組みというものが大事になってくるのかなと思っています。  

先ほど1点、内製化と高度化のところで、投資もしくはM&Aで、やっぱりM&A後の人材の流出というのが怖くてなかなかできないというのがあるんですが、IT系の企業でのCVCやM&Aのベストプラクティスでは、やはりM&Aの段階からPMIと申しまして、ポスト・マージャー・インテグレーション、もしくは人材のリテンションのためにさまざまな用意、新しい給与を含めたコンペンセーションパッケージの用意ですとか、何年間どういう形で働いてほしいという、M&Aのプロセスの中に大変人材を大切に考え、人に長くいてもらうような、そういう施策まで含めたM&Aプロセス、PMIチームとエグゼキューションチームが、しっかりと買い手の側にチームが組成されておりまして、これによって大変高い継続就業率ですとか、M&A後のいわゆる統合のスムーズなプロセスが行われているというところがございます。日本のこれからの金融機関におけますベンチャー投資、コラボレーション、オープンイノベーション、その先にあるM&Aというようなところの中に、このいわゆるPMIの、ポスト・マージャー・インテグレーションのナレッジというものをしっかりと組み込んで、本当にオープンイノベーションが協業レベルから統合レベルの中でうまくワークするようにしていくことが肝要ではないのかなと考えます。そういう中でやはり投資も、マイノリティーの投資からM&Aまで広くベンチャーの側、VCの側、そして大手金融機関様の同じ土俵の上での一連の取り組みが重要ではないかというふうに思った次第でした。すみません、長くなりましたが。

【福田座長】

ありがとうございました。仲津委員、お願いいたします。

【仲津委員】

NTTデータの方とA.T.カーニーの方から、非常に示唆に富んだレポートをいただきましてありがとうございます。  

まず、NTTデータ様のほうから先ほどいただいた資料をベースのところで1点、私自身事業をやっていて、体感としてある点で意見を述べさせていただきたいところがあります。20ページのところで、日本独自のイノベーション発展に向けてというところで、NTTデータの山上様にまとめていただいた資料の中に、ITベンダーとともにビジネスモデルを革新することが重要というふうに書かれていると思うんですけれども、私も非常に同感でして、それが実際、私自身が今、多くの場合地域通貨というのをベースに、主に地銀さんと商売のお話をさせていただくことが多いんですが、その中で得られた1つの学びがあります。どういうことかというと、我々自身はいわゆるSaaSと言われているセールス法と同じような、クラウドベースのソフトウェアを地域通貨を運用できるソフトウェアという形で地銀さんに提供させていただきます。ただ、地銀さん側というのは、やはり地場のお客さんに長く使ってもらいたいという要望がありますので、カスタマイズニーズというのが非常に強いんですね。地場のお客さんに、自分たちはこういうことを自前のお客様には提供したいから、こういう機能を入れてくれないかとか、ああいう機能を入れてくれないかという要望が強いです。  

ただ、僕らの場合はやっぱりベンチャーですので、地銀さんごとの、例えば金融機関さんごとのそれぞれの個別のニーズに応えていると、ベンチャーとしての事業の拡張性というのが阻害されてしまうんですね。我々は、先ほど仮屋薗様からお話があったとおり、投資家から資金を受けて、例えばM&Aとか上場を目指していますから、本当に1行の銀行さんのためだけにソフトウェアをつくっているわけではないので、こういったことをずっとプロジェクトとしてやっていると、事業もなかなか拡張していかないですし、チームも少ない人数でやっていますから、同じニーズに応えられなくて事業が進んでいかないということがあります。その中でキーとなってくるのは、ITベンダーさんとの協働の部分だなと思っていまして。  

今現在、ITベンダーさんにも一部ご協力いただいてプロジェクト等を進めているケースもあるんですけれども、そこでポイントになってくるのが、1つはプロジェクトサイズの調整ですね。どういうことかというと、ITベンダーさんのほうが今までの既存の勘定系システムとか情報系システムでプロジェクトをされる場合というのは、非常に長期間の大がかりなプロジェクトになることが結構多いんですよね。それは当然、システムの性質がそうである以上必然的なんですが。  

一方、新しいFinTech系のプロジェクトというのは、先ほどの資料にもありますとおり、結構短期間でアプリケーションをつくってはリリースして改善していくという、アジャイル的なモデルで採用されてくることが実際には多いので、それを踏まえると、ITベンダーさん側のほうで、そういったFinTech向けのプロジェクト体制みたいなものを金融機関さんと協働でつくっていくというという動きがとれると、実際のFinTechベンチャー自身も、金融機関と協業したいと。もしくはお客さんとしてサービスを提供するときに、ITベンダーさんのわりとコンパクトなコスト感だったりとか、プロジェクト体制の人たちと働けるので、わりと拡張しやすく、ソフトウェア事業とかを展開していけるというメリットが得られるかなと思っているので、この点に関しては、非常に重要になってくる。FinTechベンチャーが日本のエコシステムでいろいろな金融機関と商売をしていく上で、すごい重要なポイントになるのではないかなと思っています。

【福田座長】

ありがとうございました。ほかにご意見ある方いらっしゃいますでしょうか。はい、金子委員。

【金子委員】

ちょっとよろしいですか。金融に関して詳しくないので、私、 テクノロジーという面で見ていたんですけれども、1994、5年にネットスケープが出てきまして、それからものすごい勢いで世の中変わってきたわけですけれども、例えば私が一番今注目しているので、その既存の産業を壊してきたという意味では、アマゾンという会社はすごいなと思っているんですね。なぜかというと、本屋さんが、このベイエリア、私が住んでいるところにもほとんどなくなったんですね。全部つぶれてしまった。それから、商品にしましても、ウォルマートとすごい喧嘩をやりながら、最終的に残るのはアマゾンのような会社が残るんじゃないかと見ている。それから、今、ウォルマートも今ネットに入ってこようとしているんですけれども、やっぱり太刀打ちができない。そして、AWS、アマゾンのクラウドのサービスは、マイクロソフトとグーグルと、この2社と戦っているわけですけれども、これでもこのAWSが出てきたことによって、シリコンバレーに次々に10万ドル、20万ドルぐらいの資金で小さな会社ができたんですね。  

そして今、金融でもアマゾンは入っていこうとしていますけれども、それは自分たちのベンダーにデータがありますので、このベンダーの商品が売れているのか売れてないかというデータで、資金を出すことができるわけです。何を言いたいかといいますと、このテクノロジー、FinTechと言われているもので、既存の銀行なり何なりがつぶれていくのか。というのは、私は、この20年ネットが出てきた中で、既存の産業がどんどんつぶれていくのを見ていたわけですね。1つ金融の中に、1980年代のチャールズ・シュワブというのがベイエリアに出てきたんです。これは株の売買の手数料が圧倒的に1970年代に下がったところで出てきた会社です。これは誰かをディスラプトして変えていくというところまでいかなかったんですね。それで私が今日、本当にプレゼンテーションを聞かせていただきながら、FinTechというのは既存の会社をつぶしていくのか、あるいは既存の会社と共存しながら今までの産業の中に1つ大きな役割を果たすのか、どっちかなというふうに聞いていたわけです。  

私はあまり金融に詳しくないので田中さんなんかにお聞きしたいんですけれども、どういうふうに変わっていくのか。それから、中国などを見ると、圧倒的に早くサービスが出てくる。アリババのようなところがフィンテックに出てくるということが日本にもおこる土俵があるのかどうか。アメリカでは出てくる土俵はあると私は言えるんですけれども、中国で何であんなに出てくる土俵があるのだろうかと思います。その辺の違いも、もし皆さんご存じでしたら教えていただきたいなと思います。

【福田座長】

ありがとうございました。田中委員、何かございますでしょうか。

【田中委員】

まず、NTTデータの山上さん、それからA.T.カーニーの佐藤さん、矢吹さん、大変すばらしいプレゼンテーションをありがとうございました。  

このお話を聞いていて、さあ、どうしようかというのが率直なところでございます。もともと金融機関の経営者ではあるんですけれども、今は離れておりますが、去年離れましたときに後輩たちに、これは本当に厳しい状況になるぞということを話した覚えがあります。現在の金融機関のことですけれども、もともと福田座長のほうから、今日の議論は金融業に与える影響というのが1つのテーマというふうに伺っていましたので、ちょっといろいろ考えてみたんですけれども、その中で1つ、今ちょっと私は一時的にお世話になっています、一時的といいますか、顧問としてお世話になっていますPWCが今年世界中のサーベイをやっているんですよね。  

細かいことまで申しませんが、世界中46カ国、544人、CEOとかCIOのサーベイをやっておりまして、これによりますと、一番よく出てきた声は、FinTechに関しては、私たちは顧客をよく知っていると思っていたけれども、本当に知っていたのはFinTech企業であったという、そういう印象の言葉が出ています。それから、2020年までに、個人向け銀行業とか資金の決済サービス、これは最大で28%ぐらい消えるだろうというふうに彼らは思っているそうです。それから保険、アセットマネジメントですね、ウェルスマネジメントの世界では、同じく22%ぐらいが脅威にさらされると、こういうふうな見方を、そういう経営者の方々が世界中でしておられるんですね。  

そういう中で、じゃあ具体的にどういうことをやろうとしているのかということなんですけれども、実はFinTechの動きというのは、日本よりも当然欧米のほうが早くて、世界中でさまざまなコンファレンスが行われております。私も2カ月前シンガポール、その前にサンフランシスコのコンファレンス出ましたけれども。そこで既存の金融機関で、特に大手の金融機関ですね。このFinTechに関して4年、5年やってきたというパネリストたちが共通して言っていますのは、この四、五年の経験で非常に大きなテーマは、ディスラプションマネジメントであると。つまり、FinTechの企業というのは、当然イノベーティブなサービスというものを持ってくるわけで、既存の彼らが持っているビジネスに対する脅威になると。それを取り込みますと、既存のビジネスとの間にカニバリゼーションが発生し、そのディスラプションを会社全体としてどのようにマネージするか、これが非常に大きなテーマになっているということを非常によく聞きます。  

ちょっとうがった見方なんですが、ご承知のように、現在ウェールズファーゴは大変な問題を抱えておりまして、たしか250万口座ですかね、架空口座をリテールの部門でつくっていたということで、議会証言をさせられたりとか大変大きな問題になっていますけれども、この背景にも、やはりそのカルチャーとリテールビジネスというものが、先ほどNTTデータさんからご説明ありましたように、非常にFinTechビジネスというものを取り入れようとしている。それに対して既存のビジネスという、そこにいる方々ですね、特に。というものは、非常に大きなプレッシャーを感じてるのではないかと、そういう部分が感じ取られます。このディスラプションマネジメントというものは、既存のビジネスに対する影響というものをどのようにマネージしていくのかという、非常に大きなテーマを突きつけているだろうと思っています。  

そこで日本の状況につきましては、NTTデータさんでは16ページに、一般的な日本の現状というので一番左側に書いていますし、基本的にはA.T.カーニーさんのご説明をお伺いしていても、7ページの銀行1.0ですか、まだそういう段階にあるという評価ではあるんですけれども、そういうご評価だというふうに思うんですが、私も大体同じような印象を持っていまして、メディアが非常にいろいろなものを日本の金融機関がFinTechの事業をやったとか、いろいろなことを報道していますが、基本的にマネタリゼーションのプランが見えない案件が非常に多いのではないかと。  

つまり、FinTech事業を行うに当たって、欧米のFinTechの事業をやっておられる方々は、全てそれをやることによって、どれだけリターンが入ってくるビジネスモデルとしているのかというところを非常に強く強調される傾向があるんですけれども、どうも日本のを見ていますと、どちらかというと宣伝効果みたいなものが多くて、マネタリゼーションのプラン、どのようにして、よく海外ではウェイ・ザ・マネーという言葉をいうんですけれども、そういうビジネスをやったときに、どれだけのリターンが株主に対して返ってくるのかというところがもうひとつ見えないという段階にあるんじゃないかと見ております。これは下手しますと、単なるコストイーター、要するにコストカットではなくて、システムに対する負荷がものすごくかかりますから、コストカッターではなくてコストイーターになってしまうという、それくらいの心配すらあるのではないかというふうに見える案件もあるんじゃないかと思っています。  

現在、日本の金融機関はあちこちで議論されていますように、非常に経営の余裕がなくなりつつあるのではないか。これは大手、メガだけではなくて地銀なんかも含めて全てそうだと思うんですが、これはご承知のように非常に長期間にわたる超低金利、それからマイナス金利。それから海外の事業も、ジオポリティクスの問題が非常に大きくなってきまして、これもなかなか簡単に伸ばせないような状況になっている中で、FinTechの問題が出てきたということで、そもそも金融機関の経営環境自身が非常に厳しい中で、新しい投資を考えていかなきゃいけない。しかも既存のビジネスというものを、言ってみれば食っていくわけですから、そのレガシーのビジネスというものをシュリンクさせていかなきゃいけないという、非常にチャレンジングなところにきているんだろうと思います。  

1つの例でご説明しますと、皆さんテレビをごらんになりますと、ほとんどの大手の金融機関、地方に行きますと地方の金融機関もそうなんですけれども、消費者金融の宣伝が最近ものすごく多いですね。ほとんどすぐに貸しますよというメッセージと、金利は4%から18%というのが大体ほとんどそろっておりまして。ただ、みんな4%で借りられると思うと、ほとんどは十何%になるというのが平均だろうと思うんですけれども、そういうふうな状況なわけですね。一方で、マイナス金利なのに何で十何%で借りるのと思う人が多いんだと思うんですが、これはやっぱりコストなんですね。金融機関が抱えるレガシーコスト。1つは人件費。要するに、金融機関の職員の人件費のレベルの問題。2つは、物件費。これは店舗ですね。一等地に店舗があるということは、固定資産税が一番高いか、リース料が一番高いわけです。それからもう一つ、先ほどもご説明がありましたけれども、システムのコストですね。しかもシステムコストというのは、99.99何%の確率が必要だというところなんですけれども、普通の欧米に比べるとさらに高い。しかも1カ所を直すと、あと7カ所ぐらい直さなきゃいけないみたいな、そういうシステムになっているものですから、こうしたレガシーを抱えながら、金融機関が現在のビジネスをやっていると。そういう状況の中で、このFinTechというものが出てきますと、さっきも冒頭申しましたように、2割、3割のビジネスが消えていくということになりますと、これは大変な脅威になるという状況だろうと思います。  

そこで、1つの解はどういうところにあるんだろうというところになるんだと思うんですが、A.T.カーニーさんのプレゼンテーションの中には、一番最後でしたかね、3つの方向感、これは12ページですか、書いておられまして、1、2、3とあるんですけれども、うーんと思って聞いておりました、正直申し上げて。例えば、1番につきましては、もう少し具体的に13ページに書いておられるんですが、確かにこういうふうな形というのは1つの方法論としてはあり得るんだと思いますが、もっと13ページで大事なのは一番上のところ、つまり経営トップの資質の問題であるとか、その上にある取締役会によるガバナンスであるとか、そうしたものがもっと重要なのではなかろうかと。  

今、これだけの変革というものを進めていかなきゃいけないということであれば、どちらかというとここで求められるのは、オーナー企業並みのストロングリーダーシップがなければ、とてもこんなことはできないだろうというふうな気がいたします。したがいまして、これは要するに1つの箱のつくり方としては非常に納得性があると思うんですけれども、ここに必要なのは、一番上に銀行と書いてあるところ、ここがガバナンスですね。取締役会がそういうことをさせるというガバナンスがなければいけないでしょうし、経営トップというものがそういうことをしっかりやっていくだけのストロングリーダーシップがなければとてもできないだろうという気がいたします。  

一般的に日本の金融機関のトップというのは、どこの会社、地銀なんかも全部含めて、どちらかというとリテールの経験者というのはあまりいないんですよね。デジタルに関しては、これも比較的遅れている人が多い。そういう意味では、むしろネットの銀行であるとか、ネットの証券会社の方々のほうがリテール、朝から晩までリテールのことを考えるという方々が多くて、そこには大きな知見の違いがあるんだろうという気がいたします。  

なかなか金融業に与える影響というのはさまざまな角度からの、今、チャレンジが金融業に対してはあるんだと思いますが、このFinTechというものの進展度合いによっては、構造不況業種になってしまうんじゃないかと。少なくとも日本の金融機関の国内のリテール業務から始まって、場合によっては中堅・中小企業のビジネス、それから大企業、要するに国内業務ですね。ただでさえ苦しい国内業務は、このまま放置すると非常に難しい構造不況業種になってしまうのではないか。場合によったら、既になっている部分があるんじゃないかという気がいたします。そういう意味で、今日FinTechの議論ではあるんですけれども、金融業に対する影響というものは、非常に大きなものがあるだろうということで、その点はしっかり認識していく必要があるだろうと考えております。以上でございます。

【福田座長】

ありがとうございました。

【松尾参考人】

すみません、松尾でございます。

【福田座長】

松尾参考人、よろしくお願いします。

【松尾参考人】

ちょっとだけ、まず、非常に参考になるお話、いろいろありがとうございます。それで今日聞いていて一番おもしろかったなと思うのは、エンドユーザーの視点であるとか、人のライフサイクルみたいなのをとらまえて考えられるということが重要だというのは結構いいキーワードだと思っていまして。  

1つ、例えばブロックチェーンの話でいうと、多分今、我々が世の中で活動している中で、いわゆるフィアットマネーにかかわる、フィアットマネーがないと困るところって、例えば給料をもらうとか、家賃を払うとか、いわゆる円じゃないといけないところがあるんですけれども、多分これから日本の中で重要な、例えば家庭内介護であるとか、家庭内労働みたいなものというのは、フィアットマネーに算出されないものがあるんだけれども、それというのは、経済活動というより社会活動で必要な部分で、そういったものが今までの金融にはあらわれてこないんだけれども、本当は社会活動の一部としてあり得る部分というのをどう支えるかというのは、日本においても問題になると思うんですね。  

そういう意味では、FinTechというといかにも旧来型の金融だけにかかわりそうな気がするんだけれども、多分ライフスタイルとか社会、ソーシャルテックとかそういう意味で、そこに今までのお金を勘定してきた人たちがどうリーチするのかということを考えるほうが、よりディスラプティブというか、いい意味で我々がディスラプティブになれる可能性があると。我々ブロックチェーンの話をやっていて、ブロックチェーンとかというのは、多分インターネットとかをやっているのと同じで、インターネットって結局情報の発信源がいろいろな末端に行くことで、末端にエンパワーする。いろいろな一市民であるとか、末端にエンパワーするというところが1つのキーワードで、それがよかったところでもあり、不完全だったところでもあるんですけれども、ブロックチェーンというのも、データというのはみんなで持ちながら、アプリをつくるとか、何かエコシステムをつくるのが、末端の一市民のアイデアに還元されるという性質があって、そういう意味で、またこういうブロックチェーンみたいな末端にエンパワーされるというときを捉えて、そういった一市民視点とか、ライフサイクルだとか。これまで伝統的な銀行業だとか経済とかファイナンスの世界であらわれてこなかったものをどう捉えるかという視点ができると、FinTechらしい、次のディスラプションをやる方向なんじゃないかなと思って聞いていました。以上です。

【福田座長】

ありがとうございます。非常に難しい問題があると思うんですが、やっぱり銀行は特殊だというふうに今までは思って、いろいろ制度設計とかができてきたという面はあって、そういう面はFinTechが発展しても依然として残ると思います。例えば、銀行がつぶれるかどうかといったときに、普通の会社がつぶれるというのとはやっぱり次元が違うという形で議論をいろいろとやってきたし、銀行が本業以外のビジネスをどれだけできるかということに関しても制限を課しているということがある。実際、田中委員がいろいろと提言された問題もあると同時に、国際的にも金融規制というのはむしろ銀行に関しては強化されている面もある。  

そうした中で、しかしながら、FinTechという観点からは、もっともっと違うことをやっていかなければいけない。あるいは、ほかの異分野から似たようなビジネスがどんどん参入してくるというバランスをどう考えて制度設計していくかということは、多分大きな問題です。ただ、その際に、何とかテックという問題の1つがFinTechというよりかは、FinTech、金融にかかわるいろいろな問題というのは別途考えていかなければいけない特殊な問題というのはあるんだとは思うんです。銀行は特殊なのか、あるいはもう特殊だと考えるべきじゃないのかという問題というのは、非常に難しい問題にだんだんなってきているのかなという印象は持ちました。田中委員、お願いします。

【田中委員】

今、福田先生おっしゃったのは全くそのとおりだと思うんです。やっぱり銀行が大きいのは、預金者保護という非常に重要な側面があるので、そのところについては、やはり金融システムを安定させるということが、経済の安定にとって非常に重要だと、これはもう間違いないことだろうというふうに思います。ただ一方で、先ほど既存の金融機関の現状について少しコメントをさせていただいたんですが、しっかり考えなきゃいけないのは、既存の金融機関に関する業者行政という側面と、金融という機能ですね。この機能全体が日本の経済、もしくは世界の経済全体にとってどのように役に立たせるかということは、分けて考えなきゃいけないと思うんです。既存の金融機関の経営が苦しければ、それは経営として対応すればいいだけの話であって、それ以外にFinTechの企業が伸びることによって国民経済的にいいのであれば、当然そちらのほうを伸ばせばいいというふうに私は思います。  

先ほど既存の金融機関の経営について非常にチャレンジが大きくなったという話をいたしましたが、一方で、先ほど冒頭先生からありましたテーマに関するところで、要するに国内外の金融業者がどのようにして影響を受けるかというところで、新規参入のほうで、最近いろいろな方と随分お話をするんですが、投資会社ですね。これは必ずしもベンチャーキャピタルに限らないんですけれども、投資会社の方々のシリコンバレー、それからシンガポールの方々のお話を聞きますと、実はきのうもお話を聞いていたんですが、投資会社自身がビジネスモデルを考えると。そして、そのビジネスモデルというものをベースにして、それを具体化させるために必要な人材も集めていくと。そして、CEOとしてその会社をつくらせると。これは要するに、P2Pレンディングの世界ではそういうことがよくあるそうなんですけれども、それぐらい金融の世界の方々が、FinTechのある一定の部分ですね。決済かもしれませんし、レンディングかもしれませんが、そういうところに知見を持った投資会社が主導して新たな会社をつくると、こういう動きが随分最近はあるようです。  

そういう意味では、一般的にFinTechの会社が出てきて、それにお金を出すかどうかという発想ではなくて、そうしたものをつくらせるというふうな動きすら出てきているということで、これは少し新しい動きではないかと思います。実態的には、レンディングの世界になりますと、ご承知のようにレンディングクラブも、それからプロスパーもかなり問題をここのところ抱えたりしておりますが、これはサイクルを超えていけば、1つの確固たるビジネスモデルとして認識されるんじゃないかとは思いますけれども、やはりそうした少し経験をしながら、いろいろな問題点というものを把握するということが、新規参入については必要だろうと思います。ただ、だからといって新規参入というものをとめさせるということは必要なかろうと。  

それからもう一つ、福田先生がおっしゃっていた、銀行というものが特殊なのかというところなんですが、多くのFinTechの方々とお話をしますと、特に最後の決済、お金、例えばビットコインなんかもそうなんですけれども、最後の決済のところはどうしても銀行口座をつくらなければいけないという部分があるんですが、なかなかそれをさせてくれないとか、銀行がですね。もしくは銀行が、そういうものに対して異常に、なぜこれだけ預金が増えたか減ったかという、彼らからすれば非常に余計なお世話みたいなことが随分されるとかそういうようなことがあって、自分たちで金融機関、銀行をつくりたいというような方々も結構おられます。そういうものに対して、じゃあ金融行政として、銀行を設立するということを、もう少し従来よりも柔軟にやるということも考えていってもいいんじゃないかという気はいたします。

【福田座長】

ありがとうございます。

【瀧委員】

今の田中様の意見にちょっと続くところなんですが、よくFinTechでアンバンドリングという言葉があると思うんですが、あまりまだしっかりと議論があったほうがいいのかなと思うのは、銀行の定義といいますか、銀行業務ってよく預金と為替と融資ですと。この3つがアンバンドルされる世界観というのをちゃんと追ったほうがいいのかなと思っております。融資と預金というのも個別にはよくアメリカの証券化市場などで見られてきたように、個別に得意な人がやるというアンバンドリングが市場化とともに進展していきました。ただ、まだ日本の議論の趨勢として、為替業務を預金をいっぱい持っている人たちがやるというのがある種基底にあるようなところが、もしそうではないという仮定を置いたときに、非常に違う世界があるんじゃないかと。昔、よくナローバンクとかそういう表現がされていたと思うんですけれども、決済専業銀行であるとか、要は預金保険機構がある種補完している社会的な信用と、あとそうではなくて、システミックリスクの部分で補完されている決済の機能というのは、それはそれでよく考えると、本当に一体運営が必要なんだっけというところはあると思うんですね。  

これは本当に実務の話に落とすと資金移動業に関する規制緩和であるとか、今ありましたように、ある種日本でチャレンジャーバンクを増やすような話の政策なのかもしれないんですけれども、イギリスとかで新しく認可されている銀行業は、別に預金とかもやりたいんですが、やはり決済に強い銀行というのも生まれてきております。あと、たまにお話するのが、アメリカの地方銀行のCBWバンクという非常に零細な、まだ総資産が20億円程度の銀行を金融危機の直後に、投資銀行家が買いまったものとなります。  

ただ、その人が中にグーグルのエンジニアを入れて、完全なAPI型銀行に変えて、今例えばSimpleとかは、それの上で動くような銀行になっているわけなんですね。裕福な人の個人資産の範疇で、そのような世界観というのは少なくともアメリカだと実現することができますと。日本だとちょっと信用組合レベルの会社でそういう投資ができるかというと、直接同じことをするのはまた難しいかもしれないんですが、それぐらい本来ナローバンクというのは身軽につくられるものでもあり、またスケールメリットが実はAPIの世界ですと、それほど関係ないと。便利なものをオープンな形でつくっていけば、それは便利な銀行になって、いろいろな人の金融仲介の役に立つという世界観があると思いますので、やや銀行業務自体のアンバンドリングを制度として考えるというところも大事なのかなと思っております。

【福田座長】

ありがとうございます。ほかにご意見ございますでしょうか。岩下オブザーバー、よろしくお願いします。

【岩下オブザーバー】

いつも遅い時間に発言させていただいて恐縮でございます。今日のお話は大変示唆に富むもので、かつ銀行業そのもののあり方について大変深い議論ができたのではないかと思います。ただ、先ほど山上委員の資料の、例えば16ページあたりには、デジタルイノベーションが徐々に発展段階を経て発展していって、あたかもウォーターフォールモデルのごとくと言うといけないでしょうか、ちょっとずつ右側のデジタルのイノベーションが進むのと、縦側の経営のイノベーションが進むというのが歩調をそろえて進んでいるステージがあるかのように見受けられるところなんですけれども、現実はどうかというと、デジタルのイノベーションというのは、全部一遍に多分起こっちゃった現象なんですよね。もちろん微妙にクラウドと、それからオープンソースということで、ブロックチェーンと細かく分けるとちょっとずつ進んでいる部分はあるんですけれども、ある意味で金融業界がそういうものに直面した、APIとかそういうものに直面したという瞬間は、ある瞬間にいきなり起こっていると。  

例えば、左側に書かれている日本の一般的な銀行は、まだオープンイノベーションだけの、テクノロジー的には低いところに位置づけられるという表現になっているんですが、実際には右側にあるようなクラウドを使います、エコシステムをつくりましょう、APIを使いましょうという話は、現にもうやっているわけですね。そういう意味では、我々は多分昔よくタイムマシン経営なんて言いましたけれども、アメリカとかヨーロッパの先進的な銀行があって、それがテクノロジーを上手に使っていると。これを真似していけば、よい銀行がつくれるのではないかという、そういう神話があるような感じがするんですけれども、それは多分成り立たない状態にある。なぜならば、アメリカもヨーロッパもアジアも、ほぼ同時に同じイノベーションに直面してしまって、同じような対応をみんながとっている。そのとっている中で、我々も最前線のところで戦わないといけないからだと思います。  

その意味では、今、最先端の技術をどういうふうに使うべきか。そのために今の銀行という仕組みが果たしてガバナンスの不確かな、あるいは経営の、あるいはメンバーの資質の問題から、本当にそれを扱うのに十分になっているのかと。いないのであれば、それはどこを変えればよいのかというお話なんだと思います。そういう意味で考えていくと、APIとかを使っていれば、より効率的に銀行をというお話が、先ほど瀧さんからお話がありましたし、こういう方向に進んでいくことはこれから当然必要なんだと思うんですけれども、そのとき私自身ちょっと気になるのは、どんどん先ほどの住宅を提供するようなビジネスで、コマースであるとか、あるいは不動産業であるとかというのをどんどん銀行の中に取り込んでいくというようなお話がありましたし、あるいは資金決済法の100万円の枠を外してさらに拡大していくようなイメージのお話もあったかと思うんですけれども、そういう形の銀行、そこで思っている銀行と、今我々が銀行に対して期待していることというのが、やっぱりそこはさっきのアンバンドルじゃないですけれども、微妙に差があるんですね。  

そこはもしかしたら、今の銀行がわりと、例えば典型的にはマネーマーケットであるとか、ラージバリューのペイメントの世界で果たしているもの、それはやっぱりある意味でレガシーと言われようが、わりと精度の高いシステムで守らなくちゃいけない部分もあるんだと思うんですね。それとは別に、リテールの部分でマーケットを拡大したい部分については、そこを一生懸命やらなくちゃいけないために、コストを安くするために、あるいはより利便性を上げるために新しいツールを使わなくちゃいけないという部分があると思うので、そういう部分がもうちょっと峻別された形で、銀行業のあり方というものが、このテクノロジーとあわせて議論されることが必要ではないかと感じた次第でございます。

【福田座長】

ありがとうございます。かなり予定していた時間が終わりに近づいているんですけれども、追加でご意見ございますでしょうか。

【金子委員】

1点あるんですけれども。今お聞きしていて、大体私の中で考えがクリアになってきた点があるのですけれども、1つ金融というのは、ほかの産業で一般的な“破壊と創造”というのがあまりうまく機能してはいけない産業かなと思うんですね。というのは、信用という大きな他の産業にないものがあります。それともう一つ、私どもがVCで、産業は違うんですけれどもやることは、今さっき田中さんが言われた中で、これはおもしろいなと思ったのですけれども、また今日NTT、A.T.カーニーの皆様からお聞きした中で勉強になったのは、ブループリントがもうできているのではないか。そうしたら、ブループリントをきっちり建物にできる方を集めて、そこに100億、200億のお金を出して、きっちりしたサービスができるものをつくって、APIで既存の金融機関に繋げていく。あるいは、100億、200億円でつくった会社をどんどん大きくしていくという方法もあるんじゃないかなと思うんですね。  

私どもバイオで会社を興す時は、新しいテクノロジーに沿って、こう人を創業者として集め、お金はこれだけ300億、400億円入れて、こういう会社にできるというブループリントが描けるんです。そういうことをやってもいい段階に、もうフィンテックも来ているんじゃないかと思うのです。皆さんの中で、こういうサービスはこうやったらできるんだということがきっちり頭の中にもうできているんじゃないかという印象を受けたんですけれども。

【福田座長】

ありがとうございます。ほかにご意見ございますでしょうか。もしございませんようでしたら、これで本日の討議は終わらせていただきたいと思います。  

皆様、本日は活発なご議論をいただき、まことにありがとうございました。本日いただきましたご意見も踏まえて、次回以降も引き続き検討していきたいと思います。

【井上総務企画局信用制度参事官】

最後に事務局のほうから、次回の有識者会議の日程でございますけれども、皆様のご都合を踏まえた上で、後日、事務局よりご案内をさせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。事務局からは以上でございます。

【福田座長】
どうもありがとうございました。それでは、以上をもちまして、本日の会議を終了させていただきます。ありがとうございます。

 

以上

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

総務企画局企画課信用制度参事官室(内線3596、3558)

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