企業会計審議会第31回監査部会議事録

1.日時:平成24年11月16日(金曜日)14時00分~16時00分

2.場所:中央合同庁舎第7号館 13階 金融庁共用第一特別会議室

○脇田部会長

定刻になりましたので、これより第31回監査部会を開催いたします。皆様には、お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。

まず、会議の公開についてお諮りいたします。本日の監査部会も企業会計審議会の議事規則にのっとりまして公開することといたしたいと存じますが、よろしゅうございましょうか。

(「異議なし」の声あり)

○脇田部会長

ご了解いただきましたので、そのように取り扱わせていただきます。

それでは早速議事に入ります。前回と前々回の部会におきまして、7月の部会でご了承いただきました主な検討項目をベースに、事務局で整理いたしました、不正に対応した監査の基準の考え方(案)につきまして、委員の皆様方からご質問、ご意見等を伺ってまいりました。本日は、主な検討項目に記載されておりました項目のうち、不正に対応した監査の基準の考え方(案)に記載された以外の検討項目が幾つか残されております。本日はそれらの検討項目につきまして、委員の皆様方からご意見を伺ってまいりたいと存じます。

本日の検討項目といたしましては、議事次第に4項目記載されております。ごらんいただきたいと思います。

まず第1項目の多様な監査業務に応じた審査のあり方について、ご審議をいただきたいと思っております。まず、事務局より説明をお願いします。

○栗田企業開示課長

それでは資料1に基づいてご説明をさせていただきます。多様な監査業務に応じた審査のあり方ということでございまして、これは今、部会長からお話がありましたように、主な検討項目において取り上げられていた項目でございます。

2ポツのほうに行っていただきまして、今、監査における審査に関してどういうことになっているかということでございますが、まずその前提といたしまして、公認会計士が行う法定監査といたしましては、金商法監査、会社法監査のほか、5ページにも資料をつけさせていただいておりますが、各種の法律に基づきまして多様な監査業務が行われているという現状でございます。それについて、監査基準でどういう規定になっておるかということでございますが、その下の丸のところにありますように、監査人は意見の表明に先立ち、みずからの意見が一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して適切に形成されていることを確かめるため、意見表明に関する審査を受けなければならない。この審査は、品質管理の方針及び手続に従った適切なものでなければならないということになっておりまして、監査に関する審査の実施が求められているということでございます。

それで、その下のポツに行っていただきまして、その審査につきましては監査基準上、今申し上げましたいろいろな監査があるわけですが、その監査業務の種類によってその取扱いに差が設けられているわけではないということでございます。したがいまして、監査事務所内部で適切な審査を実施できない、人数が少ないとか、そういうようなことがあって、部内で審査を実施できない場合には、監査事務所の外部に審査を委託するような場合が実際にあるということでございます。この場合につきまして、公認会計士協会の実務指針に記載がございまして、公認会計士法上の大会社等以外の監査に係る審査については、業務の品質が合理的に確保される範囲において柔軟な審査を実施できると規定されているところでございます。

海外のほうは今どういう状況になっているかというのがその下でございますけれども、国際監査基準、米国のPCAOB基準におきましては、全ての監査に審査が求められているわけではなく、また審査を行うという場合におきましても、上場企業に対する監査とそれ以外の企業に対する監査とでは異なる取り扱いがされているということで、そこにマル1からマル3の場合に分けて書かせていただいております。これが海外の今の審査に関する現状でございます。

それから(2)でございますが、こちらのほうはちょっと話が変わりますが、一般目的の財務報告の監査と特別目的の財務報告の監査ということでございます。財務報告の目的に応じまして監査にも種類がありまして、ここでは一般目的と特別目的という2つの区分を示させていただいておりますが、一般目的のほうは金商法監査などのように広範囲の利用者に共通する財務情報に対するニーズを満たすように作成された財務諸表に対する監査、それに対しまして特定目的の監査は特定の利用者の財務情報に対するニーズを満たすように作成された財務諸表に対する監査ということでございます。この特別目的の財務報告に関する監査につきましては、非常に限定的に行われているということもございまして、監査基準上、これに対応する規定は置かれていないというのが現状でございます。

これに対しまして海外におきましては、例えば国際監査基準におきましては、特別目的の枠組みに準拠して作成された財務諸表の監査に関する規定が置かれているということでございます。このような現状につきまして、これまでの部会でのご意見をそこに1つ書かせておいていただきましたが、独立の第三者の立場から報告するという監査に対するニーズは資金が拠出されているところには必ずついてくるということで、適正性意見だけでは十分対応できないような局面も現在としても既に発生しているということで、それから、利用者の特定のニーズのためにつくられる財務報告というものも現在存在しておりまして、そういうものにも適用することを視野に入れて監査基準の立ち位置というものを議論いただきたいというご意見が出ております。

以上の現状及びこれまでの議論を踏まえまして、論点として3ページ目に2つ書かせていただいておりまして、これについて本日ご議論をいただきたいということでございます。1つ目は、多様な監査業務に応じた審査のあり方をどう考えるかということでございまして、例えば私立学校法人監査のうち、幼稚園に対する監査のように、監査の利用者が限定されていて、かつ社会的影響も大きくないと考えられるものについて、上場会社に対して行っている監査と同様の審査を求めるのがいいのかどうかということでございます。

それから2番目は、特別目的の財務報告に対する監査の位置づけを監査基準上、明確にする必要があるかということでございまして、この検討を行う前提として特別目的の財務報告についてどの程度のニーズがあるのかといったことについて調査を行う必要があるのではないかということを掲げさせていただいております。私からは以上でございます。

○脇田部会長

それではただいまの事務局の説明に基づきまして、皆様からご質問、ご意見を伺ってまいりたいと存じます。時間も限られておりますので、区別しないでご発言いただいて結構でございますので、よろしくお願いします。では、どうぞ、お手をお挙げください。

住田委員、どうぞ。

○住田委員

今、ご説明いただきましたように、監査業務の多様化というのは現実既にいろいろなニーズから生じております。私ども公認会計士協会といたしましても国際品質管理監基準といいますか、ISQC1の規定に従って、全ての監査に必ずしも審査が必要ということではないという立ち位置から、リスクが相対的に高い監査に審査を要求するというようなスタンスに変更できないかどうかということを考えているところでございます。その場合に審査がなくても監査の質が担保できるかどうかというところが必ず論点になってくるかと思いますが、それについては仮に監査基準のほうで全ての監査に審査が必要であるというスタンスを変えていただいたとしても、日本公認会計士協会から出しております品質管理基準委員会報告書等で、上場外会社等の社会的影響度が高い企業の監査は必須とする一方、監査事務所としてそれ以外においても、どういう場合に審査を要求しなければならないかというような指針を提供し、各監査事務所がそれに基づいて審査が要求されるクライテリアをつくって運用していくという方法も可能なのではないかと考えています。監査のニーズ、多様性がどんどん広がることも想定されますので、そういう機動的な審査のあり方というのも今後必要になってくるのではないかと考えています。

また、一方で、審査を要求しない監査が出てきた場合に、その監査の品質そのものについて疑問が呈せられるということになっては、監査全体の信頼性にも影響いたしますので、監査チームみずからがきちっと品質管理が保てるようなチェックリストを適用するとか、あるいは事後検証の方針を日本公認会計士協会として定め、品質維持のための仕組みをつくったらどうかということも考えております。これは今後の検討課題だとは認識しておりますけれども、監査の質を落とすことなく柔軟性を図るということも可能ではないかと考えているところでございます。以上です。

○脇田部会長

先ほど泉本委員、手を挙げておられたので。

○泉本委員

はい、ありがとうございます。私、業種別の担当を公認会計士協会のほうで担当させていただいておりますが、多様な目的ということでいろいろな業法で要求されている監査がございます。特に規制業種ですと、ガス、電気、電気通信などですけれども、財務諸表の中の一部といいますか、一部分だけまたは、一部門だけを切り出した部門別収支計算書や、役務別損益明細表というものについて、それぞれの根拠法で監査を要求しています。ただ現状の監査基準の枠組みですと、財務諸表の中の一部だけを切り出して、それに意見を出すということができない仕組みになっていますので、公認会計士は会計士協会がつくりました業種別の実務指針に基づきまして、名称は「監査報告書」ではなく「検証報告書」という言い方をして保証業務を実施しています。法律では「監査」ですけれども、会計士が発行する報告書は検証報告書という名前で「適正に表示している」という結論を出しています。

また、昨年の大震災の後、赤十字等で義援金を集めました。それに対してやはり多額のお金が集まりますので、公認会計士が保証してくださいというニーズがございまして、義援金収支計算書に対しての保証報告書というのを出しました。これは検証報告書ではなくて「保証報告書」ですが、限定的保証業務の結論を表明したもので、通常の財務諸表監査に見られる「○○に準拠して作成されている」「すべての重要な点において適正に表示している」という結論ではない形のものを出しています。それぞれ本日の資料の中ではご説明がありませんでしたが、最後の7ページのところに、「一般目的」と「特別目的」の枠組みということと、それに対応する監査意見の種類が2通り一番下にございますけれども、これについて、現実の中では「監査」という言い方ができなくても、順次こういう考え方を取り入れているというところも少しお話しさせていただきたいと思います。

ただ今の論点は「審査」ということですけれども、このような「検証報告書」を発行するにせよ、「保証報告書」を発行するにせよ、公認会計士が行う場合には必ずそれぞれの監査事務所で審査は行っております。

最後にもう1つ、ただいま私が担当している業種別で、厚生年金基金や企業年金基金に対して監査をしましょうということを、平成24年5月に日本公認会計士協会のほうから提言しました。提言した限り何か監査の枠組みをつくろうとしているところですが、「財務諸表の枠組み」がそれぞれの厚生年金保険法や確定給付企業年金法ですと、しっかりした資産の評価基準などがつくられていませんので、どのような財務諸表の枠組みで監査をしたらよいのかというところがございます。その場合には、今ありました7ページの「特別目的の枠組み」として、それぞれの会社やそれぞれの基金が、会計処理の基準や財務諸表の範囲、すなわち枠組を決めて、それに基づいた監査をする、ということで、「特別目的の財務諸表の枠組み」を用いれば、監査が可能になるのではないかという研究をただ今進めているところでございます。こういう考え方が監査基準の中にしっかり取り入れていただけると、日本でももっともっといろいろな分野で、「監査」というニーズは今多うございますので、多様な監査がきるのではないかと考えています。よろしくお願いいたします。

○脇田部会長

ありがとうございました。ほかにご意見ございますか。林田委員、どうぞ。

○林田委員

ありがとうございます。資料1の6ページを見ますと、幼稚園法人の監査報酬というのが右のほうにあって、3,000万円未満は40万円ということのようですけれども、小さな個人でやっていらっしゃる会計士さんなどが審査をよそにお願いするとなると、また何万円かかかり、これだとなかなかかけた手間と報酬がつり合わなくて大変なのかなと。ただ今の案を見た限りでは、ほんとうに緩めて大丈夫なのかなという素朴な心配がありまして、ケースによっては全く審査が必要なくなると、監査を受ける側と監査する側だけで完結をするということで、ほんとうに大丈夫なのかということです。不正を見逃しやすくしてしまうということのみならず、心配し過ぎかもしれませんけれども、幼稚園と監査法人で示し合わせて、多少緩くいきましょうという気持ちを起こさせて、わざわざ制度を変えることによって不正をやりやすくすることになりはしないかと思いました。

それから、3ページですか、監査の利用者が限定されているようなものであれば審査がなくてはいいのではないかという問題提起だと思うのですけれども、確かに上場企業のように何か監査に問題があって投資家に大損害を与えるということは幼稚園などの場合にはないのかもしれませんけれども、私学助成の関係で監査をすることになっているのだと思います。あるいは政党助成法に基づく監査もあるようですが、税金を使っていいのかどうかという判断基準にしているのだとすれば、利用者が多い少ないということを審査を不要とする理由とするというのはどうなのかという気が私はしました。以上です。

○脇田部会長

ご発言ございませんか。どうぞ、後藤委員。

○後藤委員

後藤でございます。住田委員から最初、審査の範囲をある程度限定してというご説明があり、これはめり張りをつけてという意味だと思うのですが、我々財務諸表利用者というのは基本的には上場企業を対象にその財務諸表を見ていますので、めり張りをつけて、広く社会的な影響力の大きいものに対して、審査をより厳しくするということは非常に好ましいと思っています。

幼稚園監査のようなものに対し、全く審査がないという状況になっても問題かもしれませんが、そういったものでも、私の認識不足かもしれませんが、公認会計士協会のレビューで一定のレベルで担保はされているのかなと思っております。優秀な人材がたくさんいれば、人数を掛けていろいろなものに厳しくということもできるかと思うのですが、やはりある程度限られた人材でやるしかないと思いますので、私は審査のところでめり張りをつけるというのには非常に共感を覚えます。以上です。

○脇田部会長

ありがとうございました。続きまして、八田委員。どうぞ。

○八田委員

資料1の6ページに例示として幼稚園などが示されていて、この場合などの審査はどうでしょうかという質問だと思うのですけれども、そもそも審査という監査意見形成に向けての品質管理上の行為というものについて、その背景について確認することが必要だと思います。かつてといいますか昭和20年代から始まったわが国の公認会計士監査ですが、40年代ぐらいまでは、個人の会計事務所が個人の公認会計士として監査契約を締結して監査を担当してきたということです。ところが個人としての対応ではさまざまな限界等が生じる。とりわけ企業規模の拡大、業務の複雑性、さらには会計士業界の専門性、こういったものが高まってきたことによってなかなか個々人のレベルでは十分な監査対応ができないということで、昭和41年の公認会計士法の改正により監査法人制度の導入になったものと理解をしているわけです。したがって、組織的監査が完遂されるためにその最後のとりでとして審査というものが設けられているのではないかという気がするわけです。

そうなってくると、例えば不特定多数のステークホルダーを擁する公開会社や大会社のように、社会的公共性の高いような企業の監査に関しては、審査というものについても当然これは原理原則を貫いていくというのが筋だと思います。しかし、今日でもいろいろ規定されている法定監査の中でも、実は監査論的に言うとほんとうにこれが監査と言えるのかどうかと思われるものもあるわけです。これを言うとそもそも監査とは何かといった1丁目1番地の議論が出ますからこれ以上は申し上げませんけれども、例えば政党助成金監査はほんとうに我々が考える監査なのかというと、非常にお寒い状況のものがある。

そうした事例はさしおいて、例えばそういった個人のレベルとか、あるいは閉鎖的なステークホルダーの中で行われている監査に関しては、確かに監査の質の担保は必要だけれども、個人でやった場合に、じゃあ第三者に委託して審査まで受けるのかというと、物理的な問題、金銭的な問題を考えて、私は必要がないと思っています。それは甘いかもしれませんけれども、少なくともそもそも公認会計士として、それなりの資格と経験を有している職業専門家であるならば、専門性と独立性と信頼性は付与されていると考えるわけですから、本来はそれで完結していいと思っているわけです。たださっき申し上げたように、諸般の事情があって、組織的監査が求められる場合には必要だということです。

したがって、解決策として、あるいは1つの案としてですけれども、監査報告をおこなうときに、なお書きか何かで、本意見表明に際しては審査は経ていませんとか、あるいは先ほどのように、審査を経た場合でちゃんとやっていると法人が自負するならば別に書く必要はないと思います。そこで何も責任限定をするわけじゃないのですが、審査の有無について一応識別をする必要があるならば、そこに、本意見表明に際しては監査基準上の審査を経ているものではありませんということで、当事者間同士の合意が得られれば十分に社会的な使命は達成するのではないかという気がします。

つまり、ただでさえ監査というと世間的には過大な負荷がかかっているんじゃないかという、まだまだ日本ではそういった議論がありますので、そこに100%審査というものを要求するということは、論理的には正しいと思うのですが、もっと原点に立ち至って、個々人の公認会計士の資質を十分に評価し得るならば、そこでの識別、違いを明示することでよいのではないかという気がします。

○脇田部会長

ありがとうございました。続きまして、どうぞ。よろしゅうございますか。では、関根委員、どうぞ。

○関根委員

ありがとうございます。今、八田委員からもご説明がございましたけれども、審査を行うかどうかについては、監査には審査があるという前提で考えると、審査を行わず監査だけで大丈夫なのかというご心配は確かにあるのかもしれません。けれども、考えてみますと監査というのは、経営者が責任を持って作成した財務諸表を監査人が見るということであり、独立性、職業倫理を非常に厳しく定めて見るものとなっております。そういった中で、もともとは審査というのは行われていませんでしたけれども、必ずしもうまくいかない場合がある、難しい場合があるといったことから審査が出てきたのではないかと私どもは考えております。

そうしますと、もちろん二重、三重に行っていけば非常に安心をするのかもしれませんが、逆に二重、三重に行っていくということになっていきますと、もしかしたら人に頼ってしまうというところが出ないかとも思っています。そもそも監査というのは独立な立場において、経営者が作成した財務諸表を見ていく立場でございますので、そこから必要性に応じて審査を行っていくというのがもともとであり、引き算ではなくて足し算と考えております。そういった意味で、先ほどの住田委員の発言にありましたように、品質を保持するようにしなければいけませんけれども、あくまでもリスクに応じて行っていくということを考えているという意味合いでございますので、そのあたりご理解いただければと思います。

○脇田部会長

ほかにはございませんか。第2番目の論点でした、特別目的の財務報告に対する監査の位置づけ、監査基準での対応といったようなことについてのご議論はよろしいでしょうか。よろしゅうございますか。それを含めまして、この第1項目につきましてのご発言はよろしいでしょうか。

それでは、ただいまの事務局のご説明に続きましてご意見を伺ってまいりましたけれども、引き続きまして第2項目の監査契約書のあり方についてご審議いただきたいと思います。では事務局からご説明ください。

○栗田企業開示課長

続きまして、資料2に基づきまして監査契約書のあり方についてご説明をさせていただきたいと思います。ここでは大きく2つぐらいを論点として考えておりまして、1つ目は報酬の話、もう1つは監査人の交代・引き継ぎの話でございます。報酬に関しましては、6月の本部会においても一度ご説明させていただきましたので重複になる部分もあるかと思いますが、もう一度ご説明をさせていただきたいと思います。

まず「2.現状」のところで、国内の現状がどうなっているかということでございますが、監査人と被監査人との監査契約書につきましては、公認会計士協会の定められております作成例というものがございまして、そこに記載されている監査契約書のひな型に基づいて契約書が作成されているというのが一般的でございます。その中で報酬につきましては、その報酬額を明示的に金額表示するというのが一般的になってございます。

それからその下のポツの注のところにありますように、委嘱者の内部統制の不備とか、いろいろな事由を原因として監査執務の時間数が予定を超えることとなった場合には、受嘱者はあらかじめ契約した報酬額の改定を申し出ることができるものとし、この場合には双方誠意をもって協議するものとするという規定が置かれているのが現状でございます。

それから監査人の交代・引き継ぎに関しましては、この監査約款におきましては第14条の第4項というのがございまして、そこに引用させていただいておりますが、必要と認められた事項について十分な引き継ぎを行うということが規定されてございますけれども、具体的にどういう内容について引き継ぎを行うかということについては記載はされておりません。それから、引き継ぎを行うために要した費用は被監査会社が負担するという規定がされているわけでございます。

それから海外、米国ではどうなっているかということでございますが、これは後ろに資料をつけさせていただいておりますし、前回も説明させていただきましたけれども、米国の契約書の記載例を見ますと、監査報酬は監査の実施に必要となる時間を基準として算出されるという取り扱いが明示されておりまして、日本のように報酬額を書くというような書き方には基本的になっておりません。それから当初の監査契約に比して追加手続が発生した場合の追加報酬に関しましては、追加の監査報酬は当法人の標準単価に基づき計算され、当初の監査契約書に記載された監査報酬に加算されるということで、工数を基準にして監査報酬が定められるという考え方がある意味では貫徹されておりまして、追加の工数が生じればその分は追加の報酬を請求するという建てつけになっているわけでございます。

それから監査人の交代・引き継ぎに関しては、米国の場合、監査契約書の記載例には記載はないということでございます。

これにつきまして、これまでの部会でいただいた意見をそこに幾つか並べさせていただいておりますけれども、まず監査報酬の関係で申し上げますと、1番目のところにありますように、相手から監査報酬をもらえないでただ働きするようなことがあるのか、ただ働きというか、長くやっても同じ料金しかもらえないというようなことがあるのかというような疑問が呈されております。

それから2番目の丸でございますけれども、監査時間の大幅な増加があったとしても、ここの分もしっかり見てくださいという経営者側の利害と一致した場合には、追加報酬の交渉ができることが多い。他方、経営者不正のように、監査人がたとえそのような不正の兆候をつかんで監査時間を増やそうとしても、監査を受ける側の会社とは立場が逆転していまして、会社はそれを隠そうとしますので、監査人の監査時間の増加が歓迎されないというご指摘がございました。

それから3つ目のところでございますが、監査報酬の関係ではインセンティブのねじれという問題があるということで、監査人が必要な作業を追加的にしようとするときに、その工程数にかかる費用を誰がどう負担するか、もし報酬に反映されないのであれば、監査法人の側のインセンティブは非常に下がってしまう。インセンティブのねじれは会社法制部会の議論だということは承知しておりますが、非常に大きな問題ですので、監査契約の側からこの部分を見直していくのは、まさに正鵠を得た重要なポイントではないかというご指摘がございました。

それから監査人の交代・引き継ぎに関しましては、あまり多くのご意見はなかったのですけれども、そこには2つほど書かせていただいております。下のほうのご意見を見ますと、前任の方は結局どこまでやったら自分たちが締結している監査契約の義務を果たしたことになるのか、この観点から考えたときに、おざなりの引き継ぎだけをやって監査契約上の義務が果たされたというふうにはおそらく言えないというご指摘がなされております。

このようなこれまでのご議論も踏まえまして、ここでは2つの論点を書かせていただいております。1つ目は、追加的な監査手続等を行う必要が生じた場合に、弾力的な対応が行えるようにするという観点から、監査契約書あるいは監査約款の記載をどのように考えるかという点。それから2点目は、監査人が交代・引き継ぎを行う場合の具体的内容につきまして、先般お示しさせていただきました「不正に対応した監査の基準の考え方(案)」では、監査基準において明確化することを提案させていただきましたけれども、監査契約書あるいは監査約款においても対応する必要があるのか、ないのかという点がポイントになるかと存じます。私からは以上でございます。

○脇田部会長

それではただいまの事務局からの説明に基づきまして、皆様方からご質問、あるいはご意見を伺ってまいりたいと存じます。どなたでも結構でございますから、どうぞお手を挙げていただきたいと思います。なお、4のところに論点で、2つ整理されておりますが、順番でなくて結構でございますから、どうぞ順次ご発言ください。

井上委員、どうぞ。

○井上委員

ありがとうございます。論点が2つ掲げられておりますけれども、まず1つ目の論点でございますが、この監査契約の締結に当たりましては、資料の後ろのほうに監査報酬に関する取り決めの流れの一例というのが資料としてございますけれども、現状でもここに掲げられているように、監査の工数であるとか、時間の見積もり、これが報酬の基礎になっていると理解しております。これ、各社ともぎりぎりの交渉を行っていると考えておりまして、この当初の見積もりと差が出た場合につきましても、下のほうにございますけれども、報酬決定の交渉の中に含まれてきているというのが実態であるかなと考えております。

そういうことを踏まえますと、今回の監査契約書の記載を変更したことで、現在の今申し上げたような交渉の手順自体が何か大きく変わるということではないかなと思いますし、また監査契約の記載の変更自体が不正の発見に対して絶大な効果を発揮するというのは、ちょっと考えにくいかなということで、企業の側からするとこれは積極的に変更すべきという意見はあまり多くはないという状況でございます。しかし、いずれにしましても、監査契約は民間の監査法人と企業との契約でございますので、もう少し具体的な提案をもって、当事者間で議論を続ける必要はあると考えております。

これに関連しまして重要と思いますのは、この論点の1番にありますように、追加的な監査手続等というのがどういう程度で発生するのかと。この部会のまさに最も重要な論点だと思うのですけれども、これまでの意見の繰り返しとなってしまいますけれども、通常の企業にはこのような不正の発見に係る追加的な大きな手続変更は生じないという前提で今まで議論をさせていただいているつもりでありますし、徹底した調査を行う必要が出てくるような不正の端緒というのは相当黒に近い部分であると我々は考えて議論を続けているわけでございます。ただし、前回席上配付されました公認会計士協会の会長名の意見書におきまして、全く逆の見解が示されているところでございまして、このあたりにつきまして企業側から懸念がちょっと広がっているということでございますので、この点につきましては、この部会全体のコンセンサスを得るような努力を引き続きお願いしたいと考えております。

2つ目の論点でございますけれども、監査人の交代・引き継ぎに関しましては、契約の中ではなくて監査基準側の問題であるかなと考えておりまして、契約書で対応する必要性というのが乏しいのではないかなと考えております。以上でございます。

○脇田部会長

ありがとうございました。引き続きまして、どうぞご発言ください。田中委員、どうぞ。

○田中委員

報酬と引き継ぎに関して意見ないし質問をさせていただきます。まず、報酬に関しましては、以前も監査人にインセンティブを与えるためには報酬が確保されている必要があるのではないかと申し上げた立場からすれば、やはり、報酬に関して、現在の契約規定のような「双方協議」というものから、米国型の、追加的に仕事をした場合は当然報酬が増えるんだということを明示的に規定するというのは、一定の意義があるかと思います。確かに、報酬の事後的な決定の際には、いずれにせよ、両者の協議が介在する必要があるとはいえ、現行の契約規定のように、誠意をもって協議をするというものだけですと、協議が成立しない場合にどうなるかという点で、やはり、監査人の立場が不安定になるという面は否定できないようにも思いますので、あらかじめ、追加的な仕事に対しては報酬をいただきますということを規定するというのは確かに一定の意義があるのではないかと思いますので、積極的にこの方向で検討するのがいいのではないかと考えました。

それから引き継ぎに関してですが、ちょっと私、監査約款を拝見しまして、引き継ぎの規定についての条項もさることながら、第9条の守秘義務との関係が少し気になっております。いただいた資料ですと、12ページの、これが約款でちょっと小さい字で44と書いてあるほうですけれども、そこの9条2項4号という規定についてです。この条項は、監査人には原則的に守秘義務があるのだけれども、正当な理由がある場合には守秘義務は解除されるとし、その「正当な理由」の中に、引き継ぎに関することが含まれるわけですけれども、引き継ぎに際して、「後任監査人からの質問及び監査調書の閲覧請求に応じる場合」というのはいいのですが、それ以外の場合としては、「後任監査人に財務諸表等における虚偽の表示にかかわる情報または状況を伝達する場合」という、これだけになっておりまして、この規定を卒然と読むと、後任から質問が来たのに答える分には特に内容に限定なく、正当な理由があるのに対し、自分から後任監査人に情報を伝達する場合には、虚偽の表示にかかわるものに限られるような感じの規定になっておりまして、これでは、虚偽の表示であるということが主張・立証されないと、前任監査人のほうから、情報または状況伝達した場合に、正当な理由があるとは言いにくいという作りになっておりまして、「正当の理由」の範囲が少し限定的過ぎるのかなという気がいたします。

後任監査人に対する情報伝達は、義務としてどの程度するかはともかくとして、少なくとも、守秘義務との関係からしますと、後任監査人も当然守秘義務を負っていて、その義務を前提にして監査をするわけですから、後任監査人に対する引き継ぎとの関係ではもっと広範に正当な理由が認められてもいいのではないかと思います。ですから、引き継ぎに関して監査約款の検討をするとすれば、同時に、この守秘義務との関係も検討されたほうがよろしいのではないかと考えました。以上でございます。

○脇田部会長

ありがとうございました。引き続きまして、どうぞ、ご発言を。関根委員、どうぞ。

○関根委員

ありがとうございます。私のほうは実務家の観点から、2点の論点についてそれぞれ述べさせていただきたいと思います。まず、追加的な監査手続等を行う必要が生じた場合の監査契約書についてですけれども、不正に限らず追加的な監査手続等を行う必要が生じた場合には、予定した監査時間数を超えることになります。ご説明にもありましたとおりであり、監査契約書の監査約款においても、監査人はあらかじめ契約した報酬額の改定を申し出ることができるものとし、双方誠意をもって協議するものとするとされていますが、実際のところは監査時間が予定を超えた場合に全て追加報酬として請求をして回収できるかというと必ずしもそうではないと思っております。もちろんこれはいろいろなケースがありますし、私どもの責任の部分があるかもしれませんので、これを一概に、悪いとかいいとかいうことは必ずしも言えないところもあります。また、不正の疑いがある場合には、監査人の責任を果たすために、追加報酬の交渉よりも先に業務を行うことを優先するというのが一般的な実務なのではないかと思っています。これは言いかえれば報酬が払われなさそうだから、追加手続をやらないということはないと考えていただければいいかと思います。

ただ実際には、不正の疑いがあるというのは、不正が存在するという疑いがあるものの、不正が存在すると確定的なわけではありません。ですので、結果的に不正が発見されない場合というのもあり得るわけです。そうした場合にどこまで行うかというのは、先ほど井上委員からも、相当に黒に近い部分で行うような形にすべきではないかといった趣旨の発言を頂き、公認会計士協会の会長名の意見書にも言及いただきました。私どもも、不正の疑いがあまり黒くないときに多くの手続をやるべきと言っているわけではなくて、現在提示されている考え方案ですと、監査人はどうしても非常に保守的に、また懐疑的に文章を読みますので、もっとやらなければいけないのではないかというふうに思ってしまうということをお伝えしているものです。したがって、このあたりの記載をもう少し整理をしていって、ほんとうに必要なことを行うという形にする必要があると思っております。そしてそうした場合に、もしそれでも報酬がなかなか払われないことが万が一あった場合は、それでも手続は行うものの、各事務所、各監査法人、そしてひいては業界として監査の品質や後進育成ということにも、影響が出てくるのではないかと感じております。

こうしたことを避けるために、追加業務のためのコストに見合った報酬が支払われることは必要であり、それは、実は私ども監査を行う者自身が、こういった手続が必要になるということを、この場だけではなく、現場、現場で経営者の方にも十分理解いただけるような形できちんとご説明をして、理解をいただき、社会全体にも理解いただくことが非常に重要なのではないかと考えています。そういう意味で、契約書の書き方の問題ではないと思うこともありますけれども、契約書を変えることによってそういったことを考える機会を持つというのも必要かと思っています。

ただ契約書というのは法律文書でございますので、今の書き方になったというのはいろいろな経緯があると聞いておりまして、私どもも今回のような監査部会の議論がある中で、どういうふうにしていったらいいのかというのを内部で検討を開始しております。今日いただいた意見なども踏まえまして、どのようにしたらいいのかについて、先ほど話にもありましたように、当事者でもう少し考えていきたいなと思っているところでございます。

それからもう1点の交代・引き継ぎの点でございますけれども、これはたしか前回の監査部会で住田委員の説明があったかと思いますけれども、日本公認会計士協会は、監査部会で議論をいただいている方向に沿って、監査人の交代に関する実務指針改正の作業を進めております。前回にも少し説明がございましたけれども、もともと監査は、監査人が監査対象期間の自己の監査意見に対して、100%責任を持つという前提に基づいて実務が成り立っている関係で、その期の監査を行うのは後任になるので後任が主体となって行うことを中心に書かれています。ただこれはいろいろな立場からご指摘もありましたように、後任のほうが情報が少ない中、前任はどこまで行うべきかという意見もいただいておりまして、今それを検討している最中でございます。そういう意味で、先ほどの田中委員のご指摘も、もしかしたらそういったことから、限定的になっているのかもしれないと、私は法律のことはあまり詳しくはございませんけれども、素人ながらに考えております。

また、こちらの報酬の件ですけれども、監査契約書の監査約款において前任の監査人が引き継ぎに要した費用の負担関係が書かれていますが、実務においては前任の監査人が引き継ぎに要した時間に対する報酬というのはあまり請求できてはいないのではないかと思っております。このあたり、実務において実際に有効になる手立てが必要ではないかと思っております。なお、引き継ぎの具体的な内容については、現在改正の作業を進めている監査基準委員会報告書で記載されて、それを遵守するような形にすればよいのではないかと考えております。私からは以上です。

○脇田部会長

ありがとうございました。引き続きまして、どうぞご発言ください。八田委員、どうぞ。

○八田委員

この報酬の件ですけれども、私は昔から納得できないことが2点あります。1つは日本の場合、監査報酬というのは、戦後新たに始まった制度だということから、当時の大蔵省と経団連と会計士協会の三者協議で、いわゆる標準報酬規定というのを定めて、監査人サイドからすればノーリスクの環境の中で、また、そこそこにインフレを踏まえながら上がってきたということです。したがって、ほんとうの意味での監査リスクを評価したり、あるいは必要な時間を厳密に検証しながら報酬が積み上げられてきたわけじゃないということです。こういう対応がなされてきたということは事実なんですね。それが2003年の公認会計士法の改正によってその標準報酬規定が撤廃になり、以後自由だということになったわけです。そうすると当然ながら目に見える形での報酬を算定するためには、担当者がいかほどの時間を提供したのかということが問題にされる。ただ監査の業務というのはブラックボックスの見えない部分、例えば事務所に持ち帰って1日徹夜をしながら上層部が審査するなり検証するなり、このような作業時間等をどうやって評価するのか非常に難しいので、ほんとうは時間だけで算定するということも私はおかしいと思っています。しかし、一応現実は今日いただいている資料の1の10ページ、レビューのところですけれども、担当する方々のレベルによって、コスト、報酬が違うということも踏まえて、何時間それにかかわるかということで算定されています。これをあらかじめ事業年度の始まった第1四半期ぐらいのところで決定していくわけですね。これからどのような作業が加わるかわからない状態にもかかわらず、ほぼこれが報酬額として、確定数値になるということ自体が2つ目の私の疑問なんです。

つまり企業というのは向こう1年間に何が起きるかわからない。激しい変革の中にあって、定型的な業務だけを監査しているわけではないので、当初示す報酬額というのは、本来であれば大まかな見積もりですよというレベルのものだと思うんです。そして期の途中で、さらに追加的な話が出たときに、監査人サイドとしてそれすらも何となく腰が引けて請求できないなんてことが監査業界でまかり通っているとするならば、私はもう日本の監査には将来がないとさえ思います。そうではなくて、やはりどなたかも言われたし、今も紹介があるように、日本の監査制度はよきにつけ悪しきにつけ、いわゆる欧米型の、特にアングロサクソンの米国型のある程度厳格な監査を目指しているわけですから、そちらが導入している監査報酬形態を日本も直ちに導入して、いわゆるタイムチャージをかけていくべきだと思います。そしてそれについては経団連のほうもちゃんと理解していただく必要がある。なぜか監査人サイドと最後に交渉して、できるだけコストカットをするということが、何か会社の使命であり、監査役会の使命であるような、勘違いをしている方がいっぱいいるわけです。そうではなくて、やはり正しい監査をしたならば、正規の報酬を支払うということ。監査はやはり市場を支えているインフラですから、それに対する理解をちゃんと求める必要があると思います。

したがって、まず監査契約のとき、これ大事ですから、ここである程度考えているのは、まさに見積もり額であって、それ以外に、なお書きなり、ただし書きで、ただし追加的な作業が加わった場合にはそれにしかるべき報酬を請求させていただきますということを明示しておく必要があります。それを後ほど双方で協議した上で決めるなんてことは全く必要ないと思います。もしも協議しなければ認められないというくらいに監査業界が信用されていないというならば、これは業界自体の問題ではないでしょうか。

ここまでがいわゆる筋論なのですが、実はよく言われるのが、この監査業界のほうがそれを守っているかというと、聞くところによると、実は大手監査法人でも報酬のダンピングとか、いわゆる値崩れ競争をやっているというのがまことしやかに伝わるわけです。だからこれは実は報酬に対するインセンティブのねじれではなくて、業界自体に規律のねじれがあるんじゃないかと思われます。この辺をちゃんとやるべきじゃないかということです。それを踏まえた上で請求すべきものは正当に請求するという流れをつくっていただきたいということを、まず報酬に関して申し上げたいと思います。

それから、引き継ぎの問題ですけれども、やはりこれは引き継ぐほうはいわゆる初年度監査、初度監査ですから、予備調査あるいはパイロットテスト的なものをちゃんとやらないといけないわけであって、交代がなされる場合には、当然ながら連続的に行っている従前からの監査が行われる場合よりも通例はかなりのコスト増になるということです。これも被監査会社のほうは十分に理解される必要があると思います。ところがこれも業界の流れを見てみると、逆に報酬は下がりますということで、監査人の交代についても企業側のほうは安易に決定してしまう傾向があるように思われます。

したがって、私はこの報酬の問題と交代の問題全てに関しては、監査業界のほうの規律づけをちゃんとやることを、この一連の流れの中でもう一回明確にしていただく必要があると思っています。それを踏まえた上で、監査報酬はタイムチャージ、米国型、そして交代に関しても、情報の共有というのがあるので、これは守秘義務の問題もありますけれども、少なくとも今回この監査部会が設置された一つの引き金は昨年のオリンパス社の問題で、十分な引き継ぎがなされていなかったという課題を克服しなければいけないわけですから、当事者同士は守秘義務というものをできるだけ解除できるような、そして法的責任があまり重科されないような形で十分な意見交換、つまり同業者の間で、つまりプロフェッション同士ですから、お互いに守秘義務を守るという前提の中で、お互い同士は全ての情報を共有して引き継いでいって、日本の監査制度をよくしていくといった流れをつくっていただきたいと思います。以上です。

○脇田部会長

ありがとうございました。引き続きまして、どうぞご発言いただきたいと思います。荻原委員、どうぞ。

○荻原委員

現場としまして、簡単に申し上げますと、私どもの会社では監査報酬を安くさせるためには正しい決算と早い対応をするべきだと言っておりまして、それを実践させているということでございます。

それともう1つ、私前回にも申し上げたのですけれども、そもそもリスクがある会社を安易に受ける監査法人があるということ自体がおかしいと。これは会計士協会の中の問題だと私は思っております。リスクを、もしあるということであれば、それをしっかりと伝えるというのが、守秘義務を超えてもいいと私は思っています。そうしないと、この守秘義務云々によりましてリスクを開示しなかった結果、また問題が起きましたら、これは監査制度はもう死んでしまうと思っておりますので、そのあたりはとらわれないという八田先生の意見と全く同じでございます。以上でございます。

○脇田部会長

ありがとうございました。続きまして、ご発言ございますか。清原委員、どうぞ。

○清原委員

ありがとうございます。報酬の話をまずちょっとさせていただくと、今、報酬の増額の話ばかりが出ていたのですが、一歩下がって見てみた場合に、報酬の考え方をみたときに、監査報告まで出て、それで報酬がこれだけだという発想で現在の監査契約が来ているように思うのですけれども、場合によると、不正が見つかったような場合に、事案によっては意見不表明や不適正意見にまでいく手前で、途中で辞任を検討するということも実態としてはあり得るのだろうと思うのですけれども、そういう選択を監査人が現実にできるかというと難しいのではないか。あたかも監査意見まで出さないと、もしくはそれが成果物みたいなものととらえられていて、それが出てこないと、監査が終わらないし報酬がもらえないというような発想があるような感じがしておりまして、契約としては本来委任でありながら「請負」ともいえるような実情になっているのではないかと。約款の規定の改正を検討するのであれば、途中で解除された場合においても、自分が辞任する場合、または解約の場合であったにしても報酬がどうなるか、今のようにどうなるかよくわからないような規定ぶり、すべてが協議に委ねられるというのはいかがなものか、規定ぶりを見直して算定方法を明確化すべきではないかというところがまず1点ございます。

それから、不正があったときに、みずからが全てを監査もしくは調査する場合のほかに、外部の専門家を利用することもありうると思います。そういう場合に、この契約、約款の中には、外部の専門家の利用ということの規定があるにはあるのですが、その場合にかかった費用についての償還請求についての規定は今、明示的に定められていないではないかと。民法の中では委任の規定では費用の償還請求というのはあって、やはり委任事務を実行している受任者は委任事務の履行に関して必要になった費用は本来償還請求できるという、そういった規定がありますが、そこが約款では触れられていないのではないかということがございます。

報酬のところでもう1点、実際に自分がやった報酬が増額する場合と、今のように外部専門家を使って必要な作業をする場合というのが両方あるということのほか、監査役会などの報酬の同意ということを考えた場合には、この約款では会社と、すなわち経営陣とだけ協議してやるかのように書いてあるのですが、ここはやはり監査役会などの関与ということを明記していくことが本来の筋ではないかと。

それから不正の問題を考えた場合には、途中できちっと監査役会等とのコミュニケーションがあってしかるべきでありながら、このコミュニケーションの規定が約款では非常に漠としている。今回配付されている資料2の、AICPAの資料、サンプル・エンゲージメント・レターではガバナンス上責任を持っている機関(those charged with governance)に対するコミュニケーションが求められる項目が細かく契約の中に規定されています。日本では実務報告の中でコミュニケートすべき内容というのは入っているかと思うのですが、重要な会計報告の方針の変更ですとか、見積もりについての考えですとか、個々の項目が米国側のほうの監査契約では明記されていて、こういった報告がきちっと監査人からなされることに明確になっている。今の日本でも当然に監査役会などにきちんと伝えていくということがあって初めて、ほんとうに不正の問題があったときにきちっと監査役会などにも伝わった上で初めて、監査報酬はどうなるんだというふうにもなるはずで、増額についても監査役会などが同意をする上で、情報がちゃんと早期に伝えられ、それを知った上で同意をするかどうか決められると。その流れがちょっとまだ欠けている、十分に組み込まれていないような、そんな契約の約款になっているんじゃないかという問題意識を持っております。

○脇田部会長

ありがとうございました。監査契約書のあり方につきまして、ご発言はよろしゅうございますか。いろいろとご発言をいただきましたけれども、それではよろしいですね。

では、続きまして、第3項目の監査報告書の記載内容についてご審議をいただきたいと思います。まず、事務局より説明をお願いします。

○栗田企業開示課長

それでは資料3に基づいてご説明をさせていただきます。主な検討項目におきましては、検討事項として2つ挙げられておりました。強調事項等(強調事項及びその他説明事項)の活用の可能性、それから義務的記載事項(監査の過程で把握した被監査会社の会計処理に係るリスクなど)の拡充の是非の検討ということでございます。

まず現状でございますけれども、日本の場合、追記情報がどの程度活用されているかでございますが、これは24年3月期決算の東証1部上場会社、1,267社の監査報告について見たところ、強調事項の記載があったのは162社でございます。個別項目はその下に書いてあります。これは重複がありますので、合計は162になりませんけれども、重要な後発事象に関することが一番多い。それから継続企業の前提に関する事項は2社に記載があった。それから強調事項は162あったのですけれども、その他説明事項については記載のあったものは1つもなかったということが現状でございます。

それでは海外ではどうかと申しますと、これも日本と状況は似たような感じでございまして、強調事項及びその他事項につきましては、記載が強制されている項目を除きまして、まれにしか利用されていないということがIAASBの公表した文書にも書かれておりまして、その点は日本と状況に大差はないようでございます。そういうようなこともありまして、海外では現在、監査報告書に義務的記載事項を設けるという方向で議論が進んでいると承知しております。

それで、海外での議論はどうなっているかということでございまして、この点については以前の部会でも一度ご説明をさせていただいておりますけれども、IAASBが今年の6月に市中協議文書を公表しておりまして、幾つかの論点につきましてコメントを求めておるということでございます。まず1つ目が、どこまでの記載を義務化するのかという点でございまして、例えば複雑かつ量も多い財務諸表の中でどのような事項が重要かに関する指針を与えるとか、なぜその事項が監査上重要だったかに関して追加的な説明を行う。必要に応じて実施した監査手続や監査上の発見事項を記載する。あるいは監査上の重要な意思決定に関して説明を行うということについてどうかということを問うております。

それからさらに、各企業の個別の状況について、監査報告書にどこまで細かい記載を求めるのかという論点がございます。これは括弧にありますように、ある会計上の論点に対して複数会社間で同様の記載が行われることを容認するのか、それとも各企業の固有の情報の記載を求めるのかということでございます。この点について補足して説明いたしますと、同じような状況がある会社について、同様の記載をしたほうが利用者にはわかりやすいという意見がある一方で、そういうことになると記載の仕方が画一的になって、結局意味することが重要なメッセージでなくなる可能性があるのではないかという懸念が一方にあるということでございます。

それから、基準に添付される記載例に各企業の固有の情報をどこまで細かく記載するのかという論点、さらに、記載内容は個々の監査人の判断に委ねるのか、それとも記載項目についてはガイダンスを細かく決めて、それに従って書いていただくのかというような論点があるということでございます。

それから、このIAASBのコメント募集におきましては、実際に監査報告書の文例が添付されております。それが8ページ以降でございまして、これは正直申しますと、あまり評判がよくないものなのですけれども、一応参考になると思いますので、つけさせておいていただいております。

9ページを見ていただきますと、真ん中あたりに監査人によるコメントと書いてあるところがございまして、ここでは4つの例が示されております。1つ目が訴訟、2つ目は、のれんについてのコメントでございますが、ここに書いてありますのは、基本的には財務諸表の注記ですとかMD&Aに記載された情報を引用しているものでございまして、読者に対して年次報告書の中のこの部分が監査人としては重要だと考えているという部分を示すという働きをしているようでございまして、新たな情報が何かつけ加わっているということではないということでございます。

それから3つ目の金融商品の評価のところでございまして、ここではもう少し踏み込んだ記載になっております。この事例におきましては、監査人のリスク評価のほかに、例えば当監査法人の評価の専門家が、経営者の公正価値の見積もりの合理性を評価するため、モデルの使用により見積もりの許容範囲を独立的に算定したということで、実施した監査手続に関する記載がございまして、その後に、経営者が計上した金額は当監査法人の見積もりの許容範囲の範囲内であったということで、その手続の結果についての記載もされているということでございます。

それからもう1つ、4つ目は、収益、売上債権及び現金の受領に関する監査の方針ということで、これは監査人が実施した内部統制の評価に関する記載がなされております。日本の場合ではこれは内部統制報告に関する事項かと思われますけれども、ヨーロッパの場合にはそれも監査報告に含まれるということで記載例がなされているものだと考えられます。先ほどこれがあまり評判がよくないと申しましたのは、今申しましたように、それほどすごいことが書いてあるわけではなくて、この程度ではねというのが大方の意見というのが今の情勢かと考えております。

それからもとに戻っていただきまして、2ページ目でございますけれども、米国のほうでもPCAOBが昨年6月にコンセプトリリースを発表しているということで、米国でもこの点は議論になっているということでございます。それを踏まえましてこれまでの部会においてもいろいろな意見をいただいております。例えば1番目のご意見のところですと、ほんとうに無限定適正の場合には、正真正銘納得してやったんですよということの気概と自負、責任感を監査人に持たせる、そういう方向もあっていいのではないかというご意見をいただいております。

それから次のページに行っていただきまして、3ページの上の丸の後段のところですけれども、除外事項を付した限定意見や強調事項、あるいはその他事項の活用をするためには、監査人側の認識の変革ももちろん必要だと思っているところですけれども、同時にそういう除外事項つき限定意見が出たときに冷静に受けとめていただけるような市場環境の醸成ですとか、あるいは財務諸表や財務諸表以外のセクションのところにリスク情報を積極的に書くというような開示の姿勢、そういうところの手当ても非常に重要になるだろうというご意見をいただいております。

以上のような状況を踏まえまして、論点としてはそこに4つぐらい掲げさせていただいております。まず初めに、監査報告書の記載内容の検討を行う目的をどの辺に置くかという話でございまして、これはいろいろ考えられると思いますし、相互に廃除するものでもないと考えておりますが、例えば投資家の判断により資する情報の提供ということで、無限定適正ではあるけれども、この企業にはこういうところにリスクがあるんだということを投資家に知らせるというようなこと。それから監査品質の向上ということで、監査人としてはこういうリスクに対してこういう手続を尽くしたんだという点をはっきりさせるということ。それから無限定適正意見と限定付適正意見の中間的な情報の提供。これはこの部会でもご議論があったかと思いますけれども、レッドカードはあってもイエローカードがないというような状況に対して、その対応となるのが監査報告書の記載内容ではないかということが考えられるということでございます。

それから2番目といたしましては、強調事項等の監査人の判断で記載することが可能な項目の活用の可能性をどのように考えるかということでございます。

それから3番目は、監査報告書における義務的記載事項を検討するに当たって、海外で論点になっているようなことについてどう考えるかということで、これは先ほどご説明させていただきました。どのような項目について記載を義務化するのか。複数会社間で同様の記載が行われることを容認するのか、各企業の固有の情報の記載を求めるのか。監査報告書にどこまで細かい記載を求めるのか。記載内容は個々の監査人の判断に委ねるのか、記載内容に関してガイダンスを細かく決めるのかという論点でございます。

それから4つ目といたしましては、先ほどご紹介させていただきましたご意見にありましたように、監査報告書の記載事項を拡充するに当たって、どのような環境整備が必要になるかということを論点に挙げさせていただいております。

これまでのこの部会でもお話をさせていただいておりますように、海外でも相当いろいろな議論が起こっているテーマでございまして、今後とも海外の議論もよく踏まえて検討をしていく必要があるのではないかということで、なかなかすぐに結論が出るような課題ではないと考えておりますけれども、重要な論点でございますので、ご議論をいただければと考えております。

○脇田部会長

それでは、ただいまの事務局よりの説明に続きまして、皆様からのご意見、ご質問等を伺いたいと存じます。どうぞ、どなたからでも結構でございますから。ただ論点がたくさん書いてございますけれども、これも時間に限りがございますので、特に区別なくご発言いただいて結構でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

五十嵐委員、どうぞ。

○五十嵐委員

ありがとうございます。監査報告書の改訂は、3つの視点から考えられると思います。その視点は、EC、PCAOBとIAASBです。その中で、ECの改訂案とPCAOBの改訂案は視点が異なっていると理解しています。EC案は監査人の監査手続について、より詳細な内容を監査報告書に記述する事を志向する“監査人に焦点を当てる”傾向があると理解しています。他方、PCAOBは投資家の視点に立ち、“投資家に有用な情報を提供する事を志向する”視点に基づいている傾向があると理解しています。例えばPCAOBの基準ですと、13頁のAに、監査人の検討と分析の内容を記述する提案があります。資料の3番目の箇所に、監査の実施上、困難または経営者と議論のあった事項についても、財務諸表に反映されたとしても監査人としてどのように考えたかについての内容を記述する事が提案されております。その記述により、投資家に有用な情報を提供されること意図しておりますので、ECの改訂案とは異なっている箇所があるように思えます。当該事項を記述することにより、投資家への有用な情報提供とともにより深い監査が要求される可能性があると理解しています。

IAASBは、上記の提案を理解した上で、現在検討している監査報告案の基本的考え方はビルディング・ブロック・アプローチに基づいています。監査報告書に記述する内容を各項目(モジュール)に分け、各国で導入する場合には各国の法令に準拠する必要がありますので、それらの項目を組み合わせて監査報告書を作成する考え方を、現在、検討していると理解しています。こうした考え方は、国際的な基準のコンバージェンスなどには有効な側面を有していますが、最終的な結論は現在議論中であります。

IAASBは、監査報告書の改訂案の文章だけでは抽象的であり、ドラフトなどを読まれる関係者の方に理解されるように例示が提示されております。8頁に、事務局の方からご説明いただきましたように、5つの例が出ております。例文の内容について、どのような内容を含むべきかについては、相当な時間を割いて議論されていたと理解しております。IAASBから提出されました例文には、訴訟とかのれんとか金融商品とか収益とか内部統制といった項目等について記述されていますが、特定の内容を除き、財務諸表に記述された内容を参照して基本的に記述されており、財務諸表に含まれている内容の範囲を超えたものは記述されていない傾向があります。日本が資本市場においても相当数の外国人投資家が株式などを売買している状況であった場合には監査報告も国際的な基準の採用の検討が必要になると思われますが、今後検討されると理解しております。財務諸表に関して経営者と議論した重要な問題が記述されるとすれば、その方向は、PCAOB案のような内容となり、監査人の手続きに焦点を置くことになれば、EC案のような内容になると思います。IAASBは、各国におけるコンバージェンス・アドプションを目指していますので、ビルディング・ブロック・アプローチを採用することになります。現在、IAASBは、世界三か所でラウンド・テーブルを完了しましたので、次回以降の会議でさらに議論が深まることになると思います。

○脇田部会長

ありがとうございました。引き続きまして、どうぞご発言ください。

引頭委員、どうぞ。

○引頭委員

ありがとうございます。監査報告書に関しましては、大変残念なことに、利用者としてはどの企業のものを読んでもほとんど同じでありまして、これまであまり投資判断の材料としては全く活用できなかったというのが実態かと思います。そうした中で、先ほど栗田課長からご紹介いただいたように、IAASBから新しい監査報告書の記載について御提案があったわけですが、やはりご指摘のとおり、利用者としては、新しい情報が記載されていないということで、少しがっかりしております。現在PCAOBのほうで議論に上がっております、AD&Aに代表されるような新しい情報を記載していただけますと、私ども利用者にとっては、非常によいことだと個人的には思っております。

ただ、先ほど栗田課長もおっしゃったように、この問題は非常に複雑なところがあって、今回だけで決まるということではないと思いますが、このような情報が利用者に提示されることによるプラスの効果について少しお話しさせていただきたいと思います。私は2点あると思っております。まず1点は、監査人が監査手続きを行う際に、どのようなことを考えたかという情報が利用者に提示されることによって、マーケットに対するある種の警告機能となるのではないかと思います。このような警告を受け取ることによって、マーケットはどの企業により注意を払うべきかをある種見分けることができるようになるのではないかと思います。もう1点ですが、これは監査人が危惧していることが提示されることにより、被監査会社が自発的に問題を解決していくという自浄作用が働くのではないか、という点でございます。大事に至るまえに会社自身が直していくことが重要だと思います。

繰り返しですが、監査報告書の内容についてはこれからもっと議論していかなければいけないとは思いますが、改善による効果を考えますと、踏み込んだ議論をすることは十二分に考えられるのではないかと思います。以上です。

○脇田部会長

ありがとうございました。引き続きまして、どうぞご発言ございませんでしょうか。八田委員、どうぞ。

○八田委員

私は監査論を専門というか勉強している一人ですけれども、この監査報告書は監査実務において最も究極的というか生命線だと思うんですね。監査人サイドとクライアント、そして一番求められている利用者とを結ぶ連結間機能を持っているということから、軽々に答えを出すことは避けなければいけないと思います。

今日、この議論を進めていく大前提として、現在の意見表明形態をまず大前提において考えるのか、それとも全くシャッフルをかけて、あり得べき監査報告のあり方といいますか、それを議論していいのかというので大分視点が違ってくると思うんですね。なぜかというと既に我が国の場合も今、引頭委員がおっしゃったように、無味乾燥な画一的な監査報告書に対しては辟易しているのが利用者側の声だとよく言われている。これは、少なくとも監査論上、短文式監査報告書というのは、いわゆる短い文章で、誰が読んでも誤解のないように、そして監査のプロでなくても、アマチュアであっても同じ理解が得られて、そして必要な情報が得られるというものです。つまり財務諸表に対する適正か否かの最終意見を述べる、ここに監査人は生命をかけているわけですから。監査担当者によっていろんなことを言ったりすることで何が重要か素人にはよくわからないといったようなことは避けなければならないというのが、いわゆる公開会社、外部報告向けの監査報告書のあるべき姿だということです。

一方、ある程度クローズドシステムの中で依頼されている監査の場合には、別途長文式の監査報告書という形で、その依頼の趣旨に従って、長々とコメントを書いたり、判断を入れたり、あるいは予測等も書き込んで、そして説明をしていくということになります。おそらくこういうことを言うと、これは長文式が望ましいということで、一般の方の話を聞いても、どうもこちらのほうが今、求められているんじゃないかと思われるくらいです。情報化社会ということからも、私自身それは否定するものではないので、この部会でもかなり早い段階で、私は監査報告書の除外事項のところにある程度、段階的な、格付のような議論が入るのかもしれないと申し上げました。でもあそこではいわゆる意見表明に結びつく部分での除外事項であって、この監査人のコメントとか、感想とか、分析とか、そんなのを言っているわけではありません。ただこういうのが求められるという時代であるならば、本体部分の記載についてはあまり現状のものと変える必要がなくて、その次の、いわゆるアペンディクスといいますか、付録というか、追記という形で、各監査人の創意工夫など、報告書の活用を込めて書かせることがあってもいいのかなとは思います。私は本来監査人というのは、何度も申し上げるように、誰が担当しても同じ品質、同じ結論が担保されていなくてはならないと考えており、これこそがプロフェッションの大前提だと思っています。

そうすると例えば監査報告書の本体を全く従来のものと変えて、何でも自由に書くことが求められるということで、だから自由に書きますとなると、個々人の監査人の対応によって大分違ったものが出てくる可能性がある。これは言うならば、ある程度奇をてらったり、一般受けを狙って書く人も出るかもしれない。かつてそういう事例もありました。本来は特記事項でそういうのを書くべきでないのに、書いたことによって監査的には非常に問題があるのだけれども、社会的にはそれを高く評価するなんていう、こういったギャップが生じた時期もありました。したがって、その辺はちゃんと交通整理をして、この議論をしていただくことが大いに求められるということだと思います。皆さんの意見を伺っていることからも明らかなように、今の無味乾燥な、画一的な監査報告書はやはりもう少し改善の余地があるのではないかという気がします。

ただ、今日見せられているこの報告書ですか、あまり目新しいものがないと思います。それはそうですね。なぜならば、日本の場合には、一歩先んじて、例えばゴーイング・コンサーンに関する情報開示もしてきた、あるいは特記事項から追記情報に変えて情報量を拡大してきた。言うならば一歩ないし、二歩先んじて、日本の監査報告書は実は改善されてきているわけです。そういう意味で考えるならば、何もこの海外の見直しの動きについてあまり深刻に受け取る必要がないと思っています。ただ、冒頭申し上げましたように、この監査報告書の問題だけは、英訳されたりして海外に発信されますから、やはりある程度時間をかけて広く信頼が得られるように議論いただきたいという気がします。

それともう1つは、現状の監査報告書をまず大前提で議論するのか、それともある程度捨象して、全く新しい姿でもいいのかどうか。ただ私は古い人間ですから、この監査報告書については、適正か、不適正か、あるいは意見不表明かの3つの形態が基本となっており、あと中間的なところに除外事項を付した限定付適正意見があると理解しています。そこで、この除外事項の内容にどんなものが入るかということを、より慎重に議論することはあっていいと思います。以上です。

○脇田部会長

ありがとうございました。続きまして、ご発言ございますでしょうか。では、住田委員、どうぞ。

○住田委員

監査報告書の記載内容についての世界的な流れを日本でも十分に追っていく必要があるとは感じているところですが、このIAASBの出したインビテーション・ツー・コメントに対しては、日本公認会計士協会としてコメントを提出しておりますので、協会として重要だと思っていることを少しお話しさせていただきたいと思います。

先ほどこの監査人によるコメントについては、あまり新しみがないというお話もありましたが、読まれる方からすると、あまり新鮮味がないということなのかもしれませんが、書く側に立つ監査人の立場からしますと、今まで一切外に対して書かなかったようなことを監査人によるコメントの中に記載することになってまいりますので、新しい試みということになります。例えば、先ほどご説明いただきました、監査人のコメントの2つ目ののれんの部分ですが、従来ですと財務諸表に注記のある部分だけに強調を付していますが、ここは経営者の説明のセクションで書かれているところも引用しております。この経営者の説明の部分というのは、監査対象外の情報ということになりますので、こういうところを引用することによって、監査人が経営者の説明の中に書かれた情報も監査しているかのような誤解を生じるのではないかという危惧を私どもは持っております。

それから3つ目の金融商品の評価の例ですが、先ほどPCAOBの提案では投資家目線で経営者と監査人との間で議論があったような項目をAD&Aの中で書くということが提案されているのに対して、ECのほうでは必ずしもそうではないというお話もありました、IAASBの提案は、必ずしもそういうふうに受け取る必要がないのではないかと思っています。例えば、金融商品の評価というのは、おそらく監査人と経営者との間で、その期の監査における重点項目として、経営者とも議論を戦わせたところだろうと思っております。従来ですと、注記に記載されている内容を参照して強調を付すだけですけれども、この例文では実施した監査手続の概要や、経営者が計上した金額は当監査法人の見積もりの許容範囲の範囲内であったという、この領域に関する監査人の一定の見解を最後の文章で述べております。これは、監査の長い歴史の中で、ピースミールな意見、つまり、総合意見のほかに一定項目の意見を述べてはいけないというところに収れんしてきた原則に反しているのではないかと考えています。監査人の責任は財務諸表全体の適正性について意見を述べるというところの立ち位置を変えるべきではなく、一項目に関する結論を書くということについて大変危惧を感じています。

それから、次の監査の方針というところで、新しいシステム導入の話が出ています。日本では内部統制の評価、監査制度が導入されていますが、新しいシステムを導入したということが企業サイドから外部に対して公表されるということは、内部統制の報告制度を通じてもほぼないと思います。今の内部統制の報告制度では、翌年度以降の内部統制に重要な影響を与えるようなシステム導入が後発事象として記載されることもケースとしてはあると思いますが、それほど多くはないと思います。このような情報を監査人によるコメントで記載することになりますと、企業側が外に出していない情報が監査報告書を通じて初めて外に出るようなケースになるのではないかと考えています。

財務諸表の作成責任と監査人の監査責任、二重責任の原則と呼ばれておりますが、この二重責任の原則に抵触しない形でやるならば、監査人によるコメントの提案は、定型的な監査報告書に辟易しているという利用者の側からすると、風穴をあけるきっかけになるのかと思いますが、あくまでも二重責任の原則の枠内において検討をしていく必要があるという点が協会のコメントとして一番強調したかった点です。以上です。

○脇田部会長

ありがとうございました。続きまして、ご発言はございませんか。五十嵐委員、どうぞ。

○五十嵐委員

短時間の間に2回お話しさせていただき申しわけなく思っております。監査報告書の例示が議論されましたので、先ほど述べさせていただきましたことに関連しておりますので、お話させていただきます。

監査報告書の例示は、長文で冗長で、監査報告書として適切かどうかという議論もあると理解しております。例示における8頁に記載された意見並びに意見の基礎は必要だと思います。そして、継続企業の前提の表現は、現在、ヨーロッパの金融・経済状況などの関係があり、企業の継続性に関心を持っておられる方がいらっしゃいますので、提案する例示として必要と思います。監査人のコメントに含める内容の考え方は提案されていますが、詳細な具体的内容はまだ決定していませんのでこれから議論することになります。監査人のコメントの例示について、監査人としての判断を記述する事は、IAASBも関与したアカデミック・リサーチで示された監査報告書と利用者との間のエクスペクテーション/インフォメーション・ギャップをなくすことが必要であり記述することが必要との考えに基づいています。但し、この内容は監査報告書そのものの議論と共に、コーポレートガバナンスに影響する内容も含む可能性もあり、国際的コンバージェンスとその内容についての慎重な検討とのバランスを取りながら進めることが必要になると思います。

次の箇所ですが、10頁の経営者、統治責任者、及び監査人についてのそれぞれの責任を記述している文章を、監査報告書に含める必要でないということがイギリスで考えられています。その理由は、財務諸表の作成は当然経営者の責任であり、監査報告は監査人の責任であり、これを前提に監査を行っていますので、監査報告書の中に当該記述を含むことはあまりにも冗長であるとの考え方を採用し、イギリスの会計事務所によって異なっておりますが、当該事項についてウエブ・サイトを参照する形式の監査報告書を作成している会計事務所もあります。あまりにも定型的過ぎる内容を監査報告書に記述しない考えを採用しておりますので、将来の検討事項の一つと考えられます。

次の事項として、経営者の責任の箇所が長文ですが、監査において、我が国では二重責任の表現が使用されておりますが、財務諸表に対して、経営者及び監査人が二重の責任はないと理解しております。英文では二重責任という用語は使用せず、経営者または監査人のそれぞれの責任と述べております。本例文案にもそれぞれの責任と書いてありますので、そうした言葉の使用が良いと思います。その理由は、監査報告書の利用者が、二重責任の表現により、財務諸表の作成について、経営者と監査人との双方が責任を負うというように理解される可能性があるからです。財務諸表の作成は経営者に、その監査は監査人に責任がある事を明確にしますと、利用者により明確になると思いますので、将来の課題の1つと思います。

監査報告書の改訂案の検討する前提の1つとして、IAASBとAICPAは、現在の監査報告書に関して、グローバルの4つアカデミック・グループに監査報告書の現状調査を依頼しました。その中に、監査報告書に含まれている専門用語である、例えば不正、誤謬などが意図している内容が投資家などは不明瞭であるとの調査結果があります。不正とは、私の理解では、幅広い法律的な概念であり、監査人は不正が発生したかどうかの法律的な判定はしないと理解しております。監査報告書の利用者は、監査報告書に含められている不正、又は、適切性の意味が分かりにくいなどの調査結果があります。こうした専門用語を監査報告書の利用者にどのようにして表現し、利用者に理解していただくかはこれからの検討課題となっております。

あと12頁に記載されております監査報告書の最後に、法令が要求するその他の事項に対する報告は、該当があれば記述しますので、もう少しコンパクトになる可能性もあると思います。

最後に、監査報告改訂の重要な課題の1つとして監査人のコメントがありますが、監査人と監査報告書の利用者間の問題の1つとして、監査人が財務諸表な内容などを適切に記述したと思っても、利用者が監査人の意図どおりにその文章を理解しない可能性もあり、訴訟が起きる可能性も議論されております。監査報告書の改訂で議論されています内容をご説明させていただきました。

○脇田部会長

ありがとうございました。監査報告書の記載内容についてのご意見、ご質問はよろしゅうございましょうか。

それでは続きまして、第4の項目でございます。公認会計士と依頼者との契約に基づいて行われる非監査業務のあり方についてご審議をいただきます。まず事務局よりご説明ください。

○栗田企業開示課長

それでは資料4に基づきましてご説明させていただきます。公認会計士と依頼者との契約に基づいて行われる非監査業務(株価算定等)のあり方ということが主な検討項目にも挙げられてございます。

現状のところでございますが、公認会計士が行っておられる業務の中には、一般的に監査と言われていることのほかに、業務実施者が特定の利用者等との間で合意された手続に基づき発見した事項のみを報告する業務、合意された手続と呼ばれておりますけれども、そういう業務や合意された手続に類似した業務があるということでございます。

この合意された手続というものにつきましては、資料の5ページ目に日本公認会計士協会の研究報告をつけさせていただいておりますけれども、実施される手続が限られた利用者との合意によって特定されるため、業務実施者がみずからの判断により証拠を入手するということはないということ。それから手続の結果のみが報告されるということ。それから合意された手続の実施に当たり、適切な品質管理体制を確立し運用することによって、合意された手続の品質を保持するということでございまして、そういうようなことが述べられておるということでございます。

具体的に合意された手続というのはどういう場合に使われているかということで、そこに2つばかり例を挙げさせていただいておりますが、例えば証券会社における顧客資産の分別管理に関する手続。それから一般労働者派遣事業等の許可審査に係る中間または月次決算書に対する手続というようなものが、この合意された手続であると言われております。

それから今回の議論の中心になりますのは、その下にあります合意された手続に類似した業務として、例えば企業価値の評価というものが挙げられるかと思います。この企業価値の評価につきましては、オリンパス事案においても1つの論点となったところかと存じ上げておりますけれども、同じく日本公認会計士協会さんの「企業価値評価ガイドライン」というものが出されておりまして、これは後ろの6ページ以下につけさせていただいておりますけれども、そこの記載をそこに幾つか引っ張ってきております。公認会計士が株式の価値を評価する場合の実施報告について、我が国の評価実務を取りまとめたものであるということで、実際に評価業務を行う際には、本ガイドラインの内容を検討する必要があるとされておりますけれども、本ガイドラインは研究報告であって、準拠しなければならない基準やマニュアルではないとされております。

それから、その評価対象会社から入手する資料の有用性については、わかりにくい表現になっておるんですけれども、まず評価は依頼人との一定の契約関係や双方の合意を前提に実施される。このため会社から入手する資料に関して、真実性・正確性・網羅性を検証するための手続を別途行うことはまれであるとされておりますが、その後に評価対象会社から入手する資料に関するこれらの検証にかえて、評価に際して採用できるかといった有用性の観点からの検討分析が必要であるとされておりまして、その結果入手した資料が有用性の点から不適切であると判断した場合、資料の訂正、再提出を依頼する必要があるということが掲げられております。さらに飛んでいただいて(5)のところなんですが、資料の有用性については、以下の制約があることにも留意しなければならないということで、時間的制約、業界、会社に関する情報、将来予測、費用的制約等が挙げられております。そういうような記載がされている企業価値評価ガイドラインに基づいて、この企業価値の評価という業務が行われているというのが現状でございます。

それで、海外ではどうかといいますと、例えばIAASBの出しております国際関連サービス基準の4400では、この合意された手続に関する記載がございまして、監査人は単に合意した手続による発見事項を報告するだけであり、いかなる保証も表明されない、報告は実施すべき手続に関して合意した関係者に限られるというようなことが書かれております。

それから米国においても米国公認会計士協会のAT Section201というのがございまして、ここにも業務実施者の報告書には、報告書の利用は当該特定の者に制限されることが明記されるということや、業務実施者は主題に対する意見表明を目的とした検証業務を実施しておらず、追加の手続を実施した場合、報告すべき他の事項が発見される可能性があるというようなことが述べられております。

それで、これまでの本部会におきましても、この点について意見が出されておりまして、そこには1つだけ書かせていただいておりますけれども、企業評価価値を行う場合に、公認会計士が企業価値評価を行い、その評価が結果として例えばオリンパスの事例において不正を幇助するような結果を持ったということは、同業の公認会計士が行った評価を必ずしも監査の際に信頼できないという状況が出てきているということになりますというようなご意見があります。

以上を踏まえまして、検討をしていただきたいと考えられます論点を、ここでは3つほど書かせていただいております。1つは、監査と異なり報告の利用者が限定されている合意された手続等の業務について、その手続の性格に関して、広く周知する必要があるのではないかということでございまして、この点はあまりよく知られていないのではないかという問題意識でございます。

それから先ほどの株価算定に係る企業価値ガイドラインにおきましては、基本的には会社からの情報をそのまま利用できることになっておりますが、有用性の観点からの検討分析の結果、職業専門家としての公認会計士が不適切と判断した場合には、適切な対応をとることを明確にする必要があるのではないかという点でございます。

それから3つ目でございますが、監査基準のほうでございますが、監査基準上、専門家の業務を利用する場合には、その業務の結果が監査証拠として十分かつ適切であるかどうかを確かめなければならないということになっており、このような合意された手続という業務の結果もこれに含まれるわけでございますが、その点についてどう考えるかということを掲げさせていただいております。以上でございます。

○脇田部会長

それではただいまの事務局の説明に基づきまして、皆様方からご意見、ご発言をいただきたいと思います。どなたからでも結構でございます。どうぞ挙手をお願いしたいと思います。いかがでございましょうか。

では後藤委員、どうぞ。

○後藤委員

今回のオリンパスの問題では、企業価値の評価といったところで問題が生じたと思うのですが、なぜこれを監査法人のほうがそのまま受け入れるようなことになったかといえば、結局それは外部の企業価値評価をした人間以上のノウハウを持った人材が内部にいなかったからかもしれないとも思います。監査法人で無限に人材を抱えることは難しいと思います。ただこういった企業価値評価などでも専門家に十分渡り合えるように、技能を持った人材も広く抱えて、監査に臨むべきだと考えております。以上です。

○脇田部会長

ありがとうございました。いかがでございましょうか、ご発言。関根委員、どうぞ。

○関根委員

ありがとうございます。こちらで挙げられた論点3点について、それぞれ少し意見を述べさせていただきたいと思います。

まず1点目、周知については、お話がありましたように、ここでご説明いただいたような手続はどちらもその手続の性格が必ずしも的確には理解されていないところがあるように思われます。合意された手続は、ご説明にありましたように、限られた関係者の間で合意された手続を実施して結果を報告することですので、そういう意味ではお互いがわかった状態で行うものであり、また結論とか保証とかは一切提供しないというものでございます。公認会計士が行っているということによって、何かを保証しているように見られることがあり、公認会計士というと監査というイメージを持っていただいているのかもしれませんけれども、実際はそうではなく、きちんと区別をして説明していかなければならないと思っています。

また、企業価値評価ガイドラインが挙げられていましたけれども、こちらは合意された手続とは異なりまして、企業価値評価という専門業務といえます。専門業務というだけだと説明にはなっていないのかもしれませんけれども、専門家として有用性を検討して行う業務だと考えております。そういう意味ではこの有用性というのは保証とは異なるものですけれども、専門家として有用かどうかというのは検討するということになっているのではないかと思っています。

なお、実際の評価業務というのは、監査とは異なり、さまざまな制約のもとで実施されているかと思います。ところが、実際数字が出てきてしまうと、完全にそろった基礎資料のもとに、何かきっちりとつくっているようにも見られ、ともすると、出てきた数字が絶対のものであるようにも見られるようなところもあります。しかしながら、本当は、そういったことというのはそんなに簡単にできるものではありません。不確実性の高い将来値を基礎資料にしますので、非常に夢物語みたいだったらおかしいとは思いますけれども、その中間だったら、どこであれば正しいのかというのはそう簡単に言えるものではないと思っております。ただそうは言っても、財務諸表を作成する際の見積もりを行う上で等、こういった前提での業務が必要となっているのではないかと考えております。そのあたり、実際これがどういう性格のものかというのを理解していただく必要があると思いますし、こういった業務を行う専門家の方もそのあたりをきちんと説明していく必要があるのではないかと思っています。

これは2点目にもつながるため繰り返しになりますけれども、評価業務は、将来情報も扱っているという特徴からも保証を行うものではありませんので、保証していると誤解されることを避けるために、注意喚起の文章を入れていることとしています。ところがそのために逆に、必ずしも十分な検討が行われていないような例があるように思われ、注意喚起があるからいいのではないかと、たとえ、実際に作成した人はそういうふうに思っていなかったとしても、周りに思われてしまうこともあるように思います。信用され過ぎとされなさ過ぎというか、その両方みたいなものが出ているのではないかと思っております。

日本公認会計士協会では、こういったことに留意が必要と考え、今回の件もありましたので、まずは、2012年7月に自主規制・業務本部 平成24年審理通達第3号として、「公認会計士等が企業価値評価等の評価業務を依頼された場合の対応」を公表しております。これは、非常に短いもので、裏表2ページぐらいのものでございます。そこに書いてあるのは、倫理規則をきちんと守り、誤解を生むようなことにかかわってはいけないということです。実はこれを出すに当たって議論をしたときに、もっと具体的なことが何か言えるのではないかとも考えたんですけれども、まずは、公認会計士が行う業務として、監査ではないので独立性とは少々異なりますが、倫理規則、特にその誠実性の原則をきちんと守るべきとされていることを注意喚起すべきではないかということで発出しております。

とはいえ、精神論だけでは実務上具体的に対応するのが難しい面があるものであり、このガイドラインについて、その文章というのが若干誤解を生むようなところがあったのではないかといったことも考える必要がないかが議論されています。このガイドラインは、もともとは、いろいろな評価業務のために、どういった形でやればいいのかに資するために作成したもので、そもそも株価算定等の場合、買い手と売り手という立ち位置としては相反するものの中で、中立な形で行おうという観点で作成しています。けれども、今回のように不正に利用されるということになりますと、観点が異なる部分があり、そういったことも考慮する必要があるのではないかという議論です。そうしたことを、多くの業務の中でどうやって記載していったらいいのか、誤解が生じないような記載をしたいということで考えているという話を聞いております。

それから最後の論点になりますけれども、これらの業務というのは、専門家の業務としてまさに監査基準上、監査基準委員会報告書で証拠として検討しているのではないかと思っております。専門家の業務と一口に言いましても、監査人にとっては企業が利用する専門家と監査人が利用する専門家とを分けて考えられております。企業が利用する専門家の業務は、企業が企業価値評価とか株価算定の際に利用するもので、その業務の結果というのは、監査上、企業が提出した証拠の1つとして検討します。また、そういった検討をするに当たって監査人側は、監査人として別の専門家を利用することがあります。例えば、鑑定評価のことを詳しくない私自身がそうした証拠を検討するというのは、やはり限界があります。ですので、監査人側もこういった鑑定評価とかに強い専門家を、場合によって提携している事務所とか、子会社にいる場合もあるかもしれませんけれども、そういったところから自分たちで相対するような専門家を見つけてきて、それを利用するような形で評価しているというふうに私どもは理解しております。とはいっても適用についてはまだまだ検討していかなければいけないところがありますので、そのあたりは今後もガイドラインの改定とともに検討していきたいと思っております。

○脇田部会長

ありがとうございました。いかがでございましょうか。八田委員、どうぞ。

○八田委員

この4番目のテーマもまさにオリンパス社の事案として問題視されたことが多分契機になっていると思うんですね。例の国内3社の買収に関してののれんの評価に関して、私もその資料を見せてもらった機会がありましたけれども、全くの素人が見ても何でこんなずさんなデータに対して、将来3年後、5年後に売上高が倍々ゲームでいくかという、この企業評価結果を会計士の立場で表明できるのだろうかと。やはり非常に疑念を持っているところです。

したがって、まずやっていただく必要があるのは、事の整理をするために、あの評価にかかわった当事者の公認会計士の方に対して会計士業界としてそれなりの厳格な調査をするべきではないかと思います。そのときに、今日の資料の4番目の一番下に書いてありますように、これは基本的には合意された手続等々の場合に該当するとして、非監査業務の場合の中心的なものはみずから何か証拠をプラスアルファで追い求めるものではないとされています。企業等から提出されたデータ等の整合性等を勘案しながら、ある程度検証結果や確認結果を出すということです。確かにそれはそうなのですけれども、一番最後にありますように、提供されているこの資料とこれがちゃんと有用なものなのか、あるいはもっと言うと、真正かつ真実なものなのか。これはやはり確認することが当然あってしかるべきであって、あの事例の場合にそれをちゃんとしていたのかどうか。ただ会社側の言いなりに従って、お墨つきを与えて、それなりの報酬をもらっていたのか。つまり会社側にただ利用されただけなのかということの検証はやっぱり必要だと思います。

私は大きい問題として、Agreed upon proceduresという合意された手続についての理解が広くなされていないということがあると思っています。日本ではあまり関係ないのかなと思っていたのですけれども、実は昨今よく企業で不祥事が起きたときに必ずといっていいほど立ち上げられているいわゆる第三者委員会。あの委員会、これも非常に玉石混合といいますか、真偽に関してもかなり疑念のあるものもありますけれども、日弁連がこの第三者委員会に対するガイドライン的なものを出して、それなりに一定の品質を担保しようとしていますが、あれは読めば読むほど、あそこで求められている第三者委員会が行うべき手続はまさに合意された手続だということなんです。したがってこれは公認会計士が最も得意とするような検証業務、調査業務なのですが、なかなかああいうメンバーの中に会計士が入っていないという問題があります。そして、会計とか監査とはほとんど無縁であろう法律家が何だかよくわからないような手続をやって、人によっては信頼性がある、また人によっては信頼性のないような意見が出ているということもありますので、ぜひ我が国でもこの合意された手続と、これに対する信頼性をちゃんと担保し、社会に対しても正しい理解を求めるために、とりわけ会計士協会は1つの職域としてこれをある程度信頼し得るものとして確立するために、この3番目にありましたけれども、広く周知徹底するようにしてもらいたいと思います。それは今回ある程度失敗から学ぶということもあって、この資料の3ページあるような1番目の、必要があるのではないかというのは大いに必要があると考えるものであります。

それから2つ目のところに書いてあるように、会計士が不適切と判断した場合には適切な対応云々というのは、さっき申し上げたように、やはりこの有用性という観点についても明確にした方が良いと思います。これは合意された手続の場合に、単に受け取ったものであればいいというのではなくて、実は我が国の場合には監査人としての監査行為遂行の視点として、いわゆる実質的な判断という考え方が平成14年の監査基準の中に入っているわけです。したがって監査人は旧来と違って、形式的なおざなりの整合性ある形のチェックをするだけではなくて、やはりその実質的な内容についてもある程度勘案しながら臨まないといけないという姿勢を求めているわけですから、いくらこれが非監査業務であってもそういう姿勢をとっていただくためには、この辺のところも重要な要請として、ある程度明確にすべきじゃないかという気がします。以上です。

○脇田部会長

ありがとうございました。住田委員、手を挙げられました? どうぞ。

○住田委員

この論点の1つ目として挙げていただいている合意された手続の業務についての性格を広く周知する必要があるのではないかというのは、まさにそのとおりだと考えております。公認会計士が行う業務は、保証業務に限らず、AUPですとか、株価算定等の専門業務とか、多様なものがありますが、日本では、ベースとなる業務実施の規範、業務実施基準が必ずしもきちんと整備されていないという面があります。

先ほど1つ目の資料1のところでもご紹介いただきましたが、ISA800番代の特別目的の枠組みに基づく監査業務とか、財務諸表の一部を構成する財務情報の監査業務、これらについても、まだ残念ながら業務を実施するためのルールが整備されていない状態です。AUPの業務実施基準も、四半期財務諸表の限定的保証のレビュー基準はありますが、年次の財務情報に対する限定的保証を提供するレビュー基準も整備されていません。公認会計士が行う業務の品質を確保するためには、そういう多様な業務に対応できるそれぞれの規範をつくっていく必要があるのではないかと考えております。

○脇田部会長

ありがとうございました。そろそろ時間が迫ってまいりましたけれども、よろしゅうございましょうか。

それでは本日の審議はこのあたりにさせていただきたいと思います。

本日のご審議で、7月の部会で了承していただきました主な検討項目につきましては、一部を除き一通りご審議をいただいたものと思っております。つきましては、当部会においていただきましたご意見などを踏まえまして、事務局において具体的な案を準備し、それに基づきまして委員の皆様より、今後ご質問、ご意見を伺ってまいりたいと思います。

次回の日程等につきましては、事務局よりご説明をさせていただきます。お願いします。

○栗田企業開示課長

次回の日程につきましては、事務局より改めてご連絡をさせていただきたいと存じますので、よろしくお願いしたいと存じます。

○脇田部会長

それでは本日の監査部会はこれをもちまして終了いたします。お忙しいところご参集いただきまして、大変ありがとうございました。閉会いたします。

以上

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企業開示課(内線3672、3656)

サイトマップ

ページの先頭に戻る