企業会計審議会総会議事録

1.日時:平成22年7月8日(木曜日)10時00分~12時01分

2.場所:中央合同庁舎第7号館 13階 金融庁共用第一特別会議室

○安藤会長

定刻になりましたので、これより企業会計審議会総会を開催いたします。

皆様には、ご多忙のところご参集いただきまして、誠にありがとうございます。

なお、本日の会合も、企業会計審議会の議事規則に則り公開することにしたいと思いますが、よろしいでしょうか。

ご了解いただきましたので、そのように取り扱わせていただきます。

これから議事に入りますので、撮影等はやめてください。

それでは、議事に入ります。

前回に引き続き、「単体財務諸表の会計基準のあり方(コンバージェンス)について」ご審議をいただきたいと存じます。

前回の総会でも申し上げましたが、確認の意味で再度本議題を当審議会で行う趣旨等を申し上げます。

コンバージェンスの継続・加速化に向けまして企業会計基準委員会(ASBJ)では、具体的な会計基準の検討が行われておりますが、その過程で連結と単体の関係についてさまざまな議論があるものと承知しております。

当審議会の公表した中間報告ではいわゆる連結先行の考え方が示され、その後金融庁からはダイナミック・アプローチの考え方が説明されています。

こうしたことから連結財務諸表の会計基準と単体の会計基準のあり方を、連結先行を提示した企業会計審議会で改めて議論してはどうかとの要望も寄せられ、前回当審議会においてご審議させていただいたところです。

当審議会では、個々の会計基準の検討はASBJが行っていくことを大前提として、ASBJの今後の議論を前向きに行っていただくため当審議会で議論を行い、今後ASBJで議論を行う際の論点を明確にしていただければと考えております。

本日は、まず事務局から前回のご議論や委員からの宿題となっていました事項も含めまして、単体の会計基準のあり方をご議論いただくに際して参考となると考えられます事項につき説明していただきます。

次に、本日もお2人の参考人の方からご意見等を頂き、その後意見交換をさせていただきたいと思います。

それでは、まず事務局から議論の参考となる事項等につきまして説明してください。

○三井企業開示課長

それでは、お手元にあります資料の1―1から1-7が事務局資料でございます。そのうち説明に使わせていただきます資料は、1-1から1-4まででございます。ちなみに1-5は、今会長からお話のありました昨年の企業会計審議会の中間報告の連結先行の考え方の抜粋部分であります。それから、1-6と7は、前回お配りいたしました開示制度に関する英・独・仏などの資料でございますので、今日の資料では参考までに配付ということで割愛させていただきます。

それでは、資料1-1でございます。資料1-5、去年の中間報告の連結先行の考え方の抜粋部分を横に置いておいていただければと思います。

と申しますのは、この報告書では(注)のところで、コンバージェンスの継続・加速化におけるいわゆる「連結先行」の考え方という表題にありますように、コンバージェンスというのが国際的には避けて通れないというか、乗り越えていかざるを得ない大きな課題であると、こういう状況のもとで実務的な工夫として連結先行の考え方、現状、私ども事務方は連・単の「ダイナミック・アプローチ」と申していますが、を提言あるいは取りまとめているということでございまして、その前提としてこの10年間のコンバージェンスというものが、大きな課題として実際に日本の会計の世界で大きなものであったということがございます。そのコンバージェンスが終わったということではありませんで、現在も続けていかざるを得ないし、続けていくということをコミットしているものでもありますので、資料1-1でこの現状を、ごく手短におさらいをしたいと存じます。

表紙をめくっていただきまして1ページ目でございます。ご案内のとおりの過去の歴史でございますけれども、EUが強制適用の契機となりました、域内の規制市場において、連結財務諸表にIFRSを強制適用するということをめぐる各指令等でございます。

ここにありますような一連の動きから域内企業だけではなくて第三国、EU域外の日本企業も含む域外企業に対して国際会計基準ないしは、それと同等の会計基準でない限り域内でのエクイティーの公募による資金調達ないしは規制市場への上場は認めないと、こういうルールが発効いたしまして、日本もこの同等性評価の対象になったわけでございます。

同等性評価の決定文でございます。これも企業会計審議会では、既にご報告させていただきましたけれども、日本はこの真ん中の四角でございますけれども、2008年までに重要な差異を、2011年末までに、これはまだ来ていない将来の期日、東京合意では2011年6月末ですけれども、このEU決定文書では、2011年末までに既存の差異をなくすことをIASBとASBJが合意していると、これが実際に2008年末時点というか、このEUの決定自体、もう少し手前の秋になりますけれども、この時点までのところ、非常にスケジュールどおりにきっちり進んでいるということが書かれています。

それから、日本政府はEU企業に対して、IFRSに基づいて作成された財務諸表に数値調整表を要求していないことから、同等であるというふうにみなすことが適当であるとの決定がされています。

他方米国は、日本とはニュアンスの異なる文章になっていまして、2006年のMOUに基づいて、米国基準とIFRSの重要な差異の多くは解消したという過去形で書かれているという点が日本と違います。

中国、カナダ、インド、韓国等については、これはいわば経過措置的な文言になっております。

次の2ページ以下、具体的な会計基準の中身として何が取り上げられたかということでございまして、いわゆる26項目と言われているものが、この2ページの一覧でございます。この中のほとんどのものについては、3ページ以下にありますとおりにコンバージェンス作業は終了しております。主だったものでこの中で残っているものは開発費でございます。

3ページでございますけれども、東京合意、これもこの場で報告させていただきましたけれども、EUの指摘された「重要な差異」に含まれる項目が2008年までに結論を得る。それから、2011年6月までには「既存の差異」のコンバージェンスを行うと、それ以降に適用されるものについては、国際的なアプローチということを述べつつ日本が基準づくりに参加するという、そういうことになっております。

そして、次の4ページ目でございます。既存の差異と言われているもの、ここに掲げられていますようなものでございまして、現状作業中のものでいいますと、企業結合のSTEP2、あるいは無形資産(開発費を含む)、これらの項目が現在作業中ということになります。

ちなみにMOU項目というふうに言われていますのは、アメリカのFASBとIASBがコンバージェンスの作業をしておりまして、例えばこの中には日本と米国基準が同じ取り扱いだけれども、IFRSとは違うと、こういったものなども含まれております。

以上がコンバージェンスのおさらいでございまして、例えば、無形資産の中に含まれます開発費というのは、先ほどのEUにおける同等性評価の決定文書上は、2011年末までに解消するということが十分に見込まれるということが、同等性評価に当たって踏まえられる項目として含まれ、その上で、そういう差異が解消されるであろうから、同等性があるというふうに評価すると、こういうふうな論理構成になっているというのが、このEUの決定の文章からの状況でございます。

5ページ以下は、近隣諸国の状況でございまして、過去のコンバージェンスと足元のコンバージェンスというのは、実質的に若干変わったフェーズに入ってきてございます。と申しますのもコンバージェンスということと、それから、アドプションということは英語圏、それから、英語圏以外で若干そのニュアンスが違う、ないしはニュアンスが同じことであったとしても、少し気をつけてそれを読むべきところがあるということでございまして、中国は従来からコンバージェンスというふうに言っています。

現状どの程度コンバージェンスされたかということについては、さまざまな解釈があるというふうに承知してございますが、中国では国際会計基準を英語のままアドプションするということは、言っていないということでございまして、中国政府の言葉をかりますと中国語にそのまま逐語的に訳したもの、できる限り逐語的に訳したもの、最小限度の違いは中国は国営企業がほとんどであるとか、多分その他の考慮もあるのかもしれませんけれども、差異を最小限にするということを前提にできるだけ逐語訳に近いもの、あるいは逐語訳的なものにするというふうなことを、少なくとも中国政府が外向きには言っているということでございます。

インドは、英語でIFRSとほとんど同じ文章の会計基準を、インド基準として適用する。

それから、韓国ではアドプションと言っていますけれども、これもIFRSを逐語訳、非常に正確な逐語訳として、これは韓国語に直訳したものを韓国基準というふうに韓国の法制上では位置づけて、それを強制適用するという意味でのアドプションをするというふうに言っています。

シンガポールは英語圏の国でございまして、IFRSと同じ文章の会計基準をシンガポール基準として適用すると、こういう言い方になっているようでございます。

その他の詳細な点につきましては時間の関係で、そのイニシャルな説明からは割愛させていただきます。

資料1-2でございまして、先ほどの連結先行ないしは連結・単体のダイナミック・アプローチについて、これの具体的な適用の仕方ないし、この連結先行の考え方自体に対する問題提起もございましたので、この適用に関するあるいは連結と単体の関係に関する一つの検討例を、ここでの議論の材料として、会長のご指示のもとで作成いたしまして提示させていただいてございます。

会長からお話がありましたとおり、会計基準はASBJで作るということを、既に日本の会計関係者の総意として決めておりますので、ここではいわば連結と単体の関係についてのフレームワークを議論するに当たって、現状既に俎上に上がっているものを、実際の例として取り上げて突っ込んだ議論を行うということでございまして、あくまで基準はASBJに決めていただくというものでございます。したがいましてここでの議論を、個々の基準の議決に当たってASBJを拘束するものでは全くないということでございます。

という前提で、1枚おめくりいただきまして、1ページですが、前回の総会における企業会計基準委員会の資料を載せてございます。まず、包括利益の表示に関する会計基準でございます。これは先般ASBJで既に公開草案が議決されております。中身の説明については、前回ASBJの委員長から説明がございましたので繰り返しは避けますけれども、包括利益の表示、連結と単体を一致させてその他包括利益の表示をする場合の、いわゆる広い意味でのソーシャル・コストなりあるいはデメリットということでしょうか。それから、この連結と単体が異なる取り扱いになる、それを連結先行と言うのか、あるいは連・単分離と言うのかはともかく、連結と単体が、一時的であれ長期間であれ、ズレるということになった場合のソーシャルコスト、ないしはデメリットについてそれぞれ上の段と下の段に掲げられています。

例えば上の段で言いますとOCIノンリサイクリング処理などが、仮に今後行われていくということになると、当期純利益の意義を変質させる可能性があるということが指摘されているということがあります。それから、会社法上の計算書類との概念整理等の問題があります。

それから、下の段、連結と単体が異なる取り扱いになるという場合のコストでございますけれども、1つ目の丸、これは個別財務諸表で包括利益を財務諸表の分析上、活用する場合があるのではないかといった話、あるいは単体情報と連結情報を利用するに当たって頭の中でそれを理解するために分解したり、再構成するという意味でのコストがかかるのではないか等々のことが書かれてございます。

結論的には2ページのとおりでございまして、個別財務諸表についての包括利益の表示に関する会計基準の導入については、1年後を目途に判断することとされたということでございまして、3ページでございますけれども、その理由がここに整理されております。

これはASBJで既にお決めいただいていたものでございます。すみません、先ほど公開草案と言ってしまいましたが最終議決をしております。訂正いたします。

それから、4ページ、開発費でございますけれども、これが今後公開素案を公表していくというスケジュールになっているものかと存じます。上の段が連・単を仮に一致させた場合の問題点について書いてあるということで、下段が連・単がズレる場合の問題点でございます。

資産計上について、資産計上することについての基準なりを会社が決めるという場合に、それを画一的に整理できるのかどうかということが、参考人のプレゼンテーションの中でもご指摘があったかと思います。それが1つ目の「●」でございます。

それから、保守主義というご指摘がありました。それから、配当制限上、法人税法上の取り扱いについての論点がございますということでありまして、これは連結先行のところで取り上げられました点、資料1-5を横に置いていただいていると思いますが、単体を連結と一緒にコンバージェンスする場合にいわゆるソーシャルコスト、社会的なコストなりデメリットとしてどういうものがあるかということについて、ここでは4つ掲げてございます。

これまでの会計をめぐる実務、それから、商慣行や取引先との関係、これを2つに分ければ5つということになりますけれども、それから会社法との関係、それから税務問題、その4つを例示しまして、「など」ということですのでこれには限られませんけれども、調整を要するさまざまな問題があるということでございまして、これの調整のメドがつかないと連結についても連・単一緒でコンバージェンスができないということになると、非常に喫緊の課題であるコンバージェンスが、円滑にあるいは目論見どおりに進まないということから、ここを弾力的に考えようということでございます。これはこの4つについての見通しがつかない、調整がつかないというところに立ち至った場合には、ズレて考えるということだとするとということが、この4つの項目についてはあり得る話というのが、この「●」の4つのことかというふうに考えられます。

下の段でございまして、ズレるということになると、当然のことながら連結と単体で違った数字が出てまいりますので作成するに当たっては、例えば、開発費を連結では資産計上する方で、単体ではすべてを費用処理をするということでございますけれども、完全に2つのブック、会計帳簿を持って、別々に単体と連結の数字を算出するということであれば、ダブルに会計、全体のコストがかかるということになりますが、そうでないとしても、単体のすべてを費用処理する会計処理をした帳簿から連結段階で資産計上するに当たって、一定の調整が必要になると、この調整に伴うコストがかかるということかと存じます。

それからもう一つは、原価計算上、これは原価計算に組み入れている会社、組み入れていない会社、両方あるというふうに承知していますけれども、この原価計算は、ひいては、経営管理上、そのデータをどのように置くかということについての、その会社での取り扱いについて検討を要するということになることかと思います。これが下の●2つで、それぞれその連結を一致させるにしても、連・単を違う取り扱いにするにしても、それぞれ課題なり問題なりコストがあり得るということでございます。

次の5ページですが、のれんの償却でございます。上の段の1つ目の●、投資原価の一部であって云々というのが会計についての考え方でございます。その後段、これは経営管理上の問題が書かれております。それから、会社法、法人税法上の問題というのが、その下の●2つでして、連結先行の考え方の中にありますようなこれまでの会計をめぐる実務、商慣行、取引先との関係のうち会計についての考え方、それから、商慣行、取引先との関係とありますけれども、これを少し広げるとまさに会社の経営でございます。取引先にどういう値段で商品を売るのかとかサービスを提供するのかと、こういう経営上のいわゆる管理会計といったものに影響していくということになると思います。4つともここでは一定の問題なり課題があるということになります。

連・単を分けるということになりますと監査を含む作成サイド、それから当然アナリストを含む投資家サイドに、それぞれの理解に伴うハードルないしはコスト、あるいは付加的な負担がかかると、こういうことになろうかと思います。

この3つの点、具体的な事例を掲げながら、それでは、それをどういうふうに置きかえることが可能かということでございまして、資料1-5にありますように要素としては4つ、5つ、あるいはもう少しそれを含む概念ということがあるのかもしれません。そういったことから連・単がズレるときのフレーズは、資料1-5で言うと下の数行になりますけれども、単体のほうで掲げられておりますのは、我が国固有の商慣行や伝統的な会計実務といった言葉が挙がっています。

上の段にありますこれまでの会計をめぐる実務、それから、商慣行といったものとダブっておりまして、取引先の関係といったものも、それとダブっているかと思います。こういった4つ、5つのファクター、こうしたものを改めてここでもう少し敷衍してみた、これはその試みの記述でございます。

6ページの資料、「単体のコンバージェンスにあたってマル1」というページをお開きいただきたいと思います。日本基準、それからIFRS、いずれも質の確保された2つの基準ということがいえようかと思います。

次の現状と問題設定とございますけれども、連結は、最初の資料1-1でご説明申し上げましたとおり、コンバージェンスということが、大きな不可避の課題であるということでございまして、それから、単体でございますけれども、今申し上げました具体的な3つの会計基準を例にとりまして、その生じているような問題が連結と一緒に仮にコンバージェンスをしようとすると、ハードルないしはコスト負担としてかかってくるということになります。

したがいまして抽象的にといいましても、今具体的に3つの会計基準を取り上げましたように、少しずつその断面というのは異なってくるかと思います。例えば開発費でございますと原価計算に組み入れている会社がある。また、あるいは税務問題にはどうも直結しそうな気配がある。会社法の計算規定との関係でも、直接的な関係がありそうであると、それに対して、包括利益の表示に関する会計基準のところで言いますと包括利益計算書というものが、日本の社会ないし取引先、あるいは財務諸表を読む読み手ないしマスコミを含むそれを投資家に伝える媒体の受けとめ方に不確定要素があり、それをどう解釈するかということについての理解が、まだ定まっていないというふうな連結と単体をズラす理由について、抽象的な単語で言えば同じ言葉が結局当てはまるのかもしれませんけれども、具体的にイメージがわく問題設定をすると、多少のニュアンスの違いなり中身の違いは出てくるということかと思いまして、そうしますと会計基準の変更に伴う監査人を含む作成者、あるいはアナリストを含む投資家の広い意味でのコストとベネフィットというものを、具体的・実務的に比較衡量していくこととならざるを得ないのではないかということでございます。

ということで、この具体的なイメージを持っていただくための例として掲げましたのがコストの例示でございますけれども、仮に連結と単体を一致してコンバージェンスした場合にあり得る、例えば納税者サイドからすると税負担増のポテンシャリティーがどうか、あるいは包括利益計算書のところで掲げられたものですとリサイクリングでございますし、開発費で言いますと原価計算上のシステムの付加ということかもしれませんけれども、管理会計情報が適切に把握されるかどうか、それから、その3番目も同様でございますけれども、どのような会計情報を使って、その会計情報をそのまま経営管理情報に使う会社、あるいはそれと少し異なる情報を経営管理に使う会社、それぞれによってインパクトが異なってくるかと思いますけれども、それが会社の経営管理に使われ方、変更する、しないのコスト、そして、変更する場合にそれが経営に与える影響といったことがあり得ます。

それから、当然のことながらワンタイムかもしれませんけれども、このシステムやオペレーションについて一時的に、その変更に伴うさまざまなハードルやコストがあり得るということになります。

それから、連結と単体が異なるという場合のコスト(例)になりますと、連結と単体で違った数字が出てくることになりますので、作成者、監査人の立場で言いますと2番目のような調整なり、その間連結と単体をブリッジするためのさまざまなコスト、それから、投資家で言うとその違いを理解するための、また、ブリッジして総合的に理解するためのコストといった、理解するための何らかの追加的な頭の中でのトレーニングなり、あるいは作業上のコストがかかるということになります。

次の7ページでございます。ということで、会計基準ごとに慎重かつ十分な議論を要する問題でございまして、ここにありますように、おおむねすべての企業において連結と単体を一体として移行するという場合に、広い意味でのソーシャルコストが高いというものについては、むしろ連結と単体が異なる取り扱いとなるということを、柔軟に活用していくという考え方が十分にあり得ると、連結先行の考え方も、十分にその取り扱いは含まれるものであるというふうな解釈も可能かとは存じますけれども、そこを確認するということが1つあるかと思います。

それから、逆に個別企業ごとに異なる取り扱い、例えばドイツ、フランスの開発費の事例にありますように選択的な適用を、その単体の会計において、あるいは連結・単体ともに選択的な会計処理の取り扱いを認めるという考え方もあり、そういう取り扱いをするケースがあり得るかと存じます。

それから、最後の「○」でございますけれども、ここは一つの試みの議論でございますけれども、先ほど申しましたようにこの会計というのが、経営あるいは投資家の投資判断と、いずれとも密接不可分に結びついているということ、それから、税制も毎年変化していくということもあります。であるとすると、この連結と単体の関係、現時点での一致したほうが望ましいという場合、あるいは異なる取り扱いのほうが望ましいということが、未来永劫に固定化しているとは限らないと、何年かたってみますと、またこれを取り巻く状況というのは変わっているかもしれないということでございまして、この点について事務局サイドでは、ダイナミック・アプローチということを申し上げたことがございます。

この会計をめぐる状況というのが時々刻々時間軸の中で変わっていくということになりますので、今は連・単が一致している個々の会計基準についても、将来は連結と単体が異なる取り扱いとするほかないケースも当然新たに出てくると思いますし、現状、連結と単体が異なる取り扱いのものであったとしても、将来的に例えば連結と単体の差異をもたらす重要なファクターであった税制が仮に変わったとしますと、連結と単体を一致させたほうがいいような事態が起きるということになり得るという意味で時々刻々と変わっていく、少なくとも長期間で見ると大きく変わっていく可能性があるということではないかというふうに考えられます。

以上の点を、8ページで、絵にしますとミスリードかもしれませんが、あくまでここでの議論のためのたたき台ということでお示ししています。極端な単純化がされてございますので、そういうディスクレーマーつきでご理解いただきたいわけでございますけれども、連結先行というときに矢印が、たしか去年お配りした紙にあったかと思います。

長い時間軸の中でダイナミックな図として書かせていただいたわけでございますけれども、今申し上げましたように税制あるいは経済、経営を取り巻く情勢が、あるいはコンバージェンスの流れが次々と変わっていくことを考えますと、新たに連・単がズレるものも時々刻々と出てくる可能性があるわけでございますので、ここではある一瞬のスナップ・ショットということでしょうか、時間軸を輪切りにしたある一定時点で見た場合には連・単がズレているということを書いてございます。

その後、いろいろな状況で連・単が一致している会計基準がズレるというものも出てくるでしょうし、今ずれているものが一致するというものも出てくるでしょう。取り巻く諸情勢が変わらなければ、ズレたままかなりの期間がずっと過ぎていくというものもあり得るということかと思いまして、そうだとすると作成者サイドで言うと、ズレている場合にはずれているところをどう上手に処理をしていくか、投資家のほうは、ズレているところをどう総合的に理解していくかということに留意しながら、弾力的にずれる考え方を活用するということがあり得るのではないかという絵でございます。

9ページです。若干切り口が違って連結と単体の取り扱いだけではない少し違う話が、ここについでにつけてございます。ただし連・単のズレの議論の中でよく取り上げられる項目でもあるということでございまして、それが減価償却でございます。

日本では税法上の減価償却については、財務省令に基づいて、減価償却の処理が行われている事例が大半というふうに承知してございます。他方、税法上の減価償却の処理が、必ずしもグローバルに認められている減価償却の数字とは一致しないことがあり得るということも、広く知られているところでございます。

巷間、国際会計基準では定額法しか認められないとか、定率法は例外処理で定率法に見合った費用、資産からもたらされる便益の費消パターンが、証明できなければ使えないという誤った理解なり流布のされ方がしてございますけれども、基準書はここに書いてあるとおりでございます。翻訳でございますけれども、ここをご覧いただければおわかりになるとおり定率法と定額法に全く優劣の差はございません。

したがいまして、定率法でも例えば機械設備、生産設備のように、新品に比べて中古のほうが当然これは相対的な生産力の問題になりますので、当然新品の後から出てきた後発の機械に比べて競争力が劣る古い機械ということであれば、そこから得られるベネフィットは逓減しているということが容易に想定されますので、この基準書に照らして考える限りむしろ定額法のほうがおかしい場合というのは十分にあり得て、定率法も十分にイーブンに使えるということが文書上読み取れるということかと思います。

もう一つ、コンポーネント・アプローチということがありまして、日本の税法上は、なぜか非常にこのコンポーネントが粗いという誤解があるようでございますけれども、これは外国での税制と日本の税制にお詳しい方はご案内のとおり、日本の税務上の減価償却省令に定められているコンポーネンツというのは非常に細かいものでございまして、ヨーロッパ等で巷間言われているような税務上のコンポーネンツが非常にざっくりしたものなので、IFRSでは細分化し直さなければならないというような状況ではないことに留意が必要と思われます。

その意味でもこれは当然のことながら実際の経営判断上償却資産の償却状況というのを、減耗状況というのをよくウォッチしている経営者であれば恐らく国際会計基準上も、税法上のコンポーネンツが使える場合が非常に多いであろうということは、容易に想像され得るところであろうかと思います。

また、税法の償却期間というのは関係諸機関が経済界の協力を得ながら詳細な実態調査を行いつつ、その年限を決めているというと承知しておりますので、多くの場合償却期間というのは実態に合っているということでございまして、一般的な場合とは非常に異なる例外的な使われ方がしている場合にのみ問題になるということが、一般的な理解かと思われます。

250%の特別に政策的に加速的に償却するというものを脇に置きますと、ここにありますとおり、かなり減価償却については大きな誤解があるわけでございます。それを前提に実際に税法上の償却が国際会計基準上使えるものであれば、特段連結と単体と違った扱いをすることに大きなメリットは見出せないわけでございまして、例えば加速償却等政策的に優遇されているような償却が、損金経理要件と言いまして、会計処理上費用計上していないと税務上損金に認められないというような税制上の特定の規定があるということに基づきまして、税務上のメリットをとるためやむを得ず費用計上するというケースがあろうかと思います。そのような場合には、連結と単体を異なる取り扱いにせざるを得ないというケースは十分に想定されるとは思われます。

ちなみに10ページは前回の議論との関連かもしれません。開発費の資産計上、会社として、ルノーとMANを例にとられて、大きな違いがあるというふうなご指摘がございました。実際の開示書類、ディスクロージャーされている公表資料から、このような差があるというふうな資料をピックアップしてございます。これについての解釈は両方あるかと思います。ばらつきがあるという見方もあり得ます。ただそのばらつきの程度は、ここにある程度のものでございます。

それから、マネジメントが、どういうフェーズで開発費を計上するかというのを判断するということからマネジメントの判断によるばらつきが出ると、こういうことでありますが、他方で、もう一つはこの下の「●」のところですが、ディスクロージャー書類の中で、この根拠になることをディスクローズしています。一般的に言いますと、例えば非常に研究的な部分が多い企業というのは、開発部分が少なくなりますので開発費の資産計上が少なくなる傾向があるかと思いますが、そのことがこの記述から推察されることになろうかと考えられ、これについての評価は分かれるところかと存じます。

時間の関係で少し残りの資料を手短に説明させていただきますけれども、前回の審議会の宿題でございます。1-3の資料をご覧いただきたいと思います。規制市場と非規制市場というものでございまして、未定稿、「ドイツの取引所」という表題のついているものでございます。ドイツ、フランスでは、EU域内では規制市場(Regulated Market)というところの連結財務諸表にだけ国際会計基準の使用が義務づけられています。それぞれの企業数についてのお尋ねが前回の宿題であったかと思います。

ドイツで言いますと368というのと322というのが、Regulated Marketとして連結財務諸表に国際会計基準の使用が義務づけられています。それ以外にOpen Marketと言われているUnregulated Marketがございます。いわゆるエントリースタンダードというのが新興市場でございまして、これが日本のいわゆる新興市場に相当するようなマーケットでございます。

それから、ドイツには日本にはない取引所制度がございまして、その他というのところでございます。いわゆる日本で自由市場と言われているものでございまして、1万社、この中の大半の企業は上場会社自身が取引所に登録申請しておりません。ここに出席していらっしゃる企業の中でも、恐らくここで取引されている銘柄がたくさんあるかと思います。発行企業の知らないうちにブローカー・ディーラーが日本の国外、ここですとドイツですけれども、ドイツで取引をしたいという場合にはブローカー・ディーラーが、発行企業に断りなく勝手に取引所に登録するということによってここでの上場はされます。そうしますとドイツの国内でのブローカー・ディーラーの取引ができるようになると、こういうふうなものでございまして、日本の場合はこのような制度はございません。

日本の証券会社は、例えばドイツの証券取引所に上場されているドイツの企業の株式を、日本の投資家の間で転売をするという場合に、こういうオープン市場への上場のような手続はなく取引することができます。かつては金融商品取引法第23条の14というところで、証券業協会の自主ルールのもとで比較的自由に投資家に転売できました。金商法が昨年改正されまして、これは売出し規制の中で一定のディスクロージャーを行いながら日本では、その売り買いをするということで処理されるようになってございます。

次のページ、これがフランスでございまして、フランスはこの規制市場がNYSE Euronext Parisというものでございまして、右側の2つが非規制市場ということで、国際会計基準の使用は任意ということになってございます。

資料1-4は、国際会計基準は、Financial Reporting Standardsであって会計基準ではないというご指摘がございました。これについてのIASBの考え方なり、基準書の文章等についての参考資料をお配りしてございます。

私のほうからの説明は以上でございます。長くなって大変恐縮でございました。

○安藤会長

ありがとうございました。

ただいまの事務局の説明に対するご質問、ご意見等につきましては、後ほど時間をおとりしておりますので、その際にお願いいたします。

続きまして、参考人としてご出席いただいております方のうち経済界の2名の方から、単体の会計基準のあり方等につきましてご意見を頂きたいと思います。

最初に住友化学常務執行役員でいらっしゃいます野崎参考人、お願いいたします。

○野崎参考人

住友化学の野崎でございます。どうかよろしくお願いをいたします。

このような場で意見を述べさせていただきます機会を頂きましたことを、ありがたく思っております。

私のほうからは企業会計の国際化ということ、特に単体・連結との関係でございますが、主に企業経営の実務といいますか、それから、我々は製造業でございますので製造業の実態面といったところから見ました課題とか、悩みとかといったものにつきましてお話を申し上げたいと思います。

資料につきましては、資料2ということでパワーポイントの資料がございます。これは私が申し上げたいことを、いわばメモ的に記載をしたものでございます。

最初でございますけれども、当社も含めまして日本の多くの企業が、事業のグローバル展開ということを図っております。当社の場合実は今年の売上高は、多分海外売上高が半分以上になると思います。それから、外人持ち株比率ということで見ましても、ここのところ大体3割前後で推移をいたしております。

そうした中で大きな流れということを見ますと当然投資家の利便性とか会計の国際化、あるいは海外の競争企業とのイコールフッティングというようなことを考えますと、上場会社であればやはり連結の財務諸表につきましてはIFRSまたは、言い方によってはIFRSにコンバージェンスした日本の基準という言い方になるのかもしれませんけれども、そういったものに基づいて連結で作成すること、これはもう避けて通れないというふうに考えております。

ただIFRSの基準そのものが、私の理解が十分でない面もありますが、まだ流動的な面がありますし、それから、現行の日本基準というのとの格差が非常に大きいというふうに思います。その意味では時間のかかる話になるのだろうと、それから、そこのつなぎというのに経済的なコスト、先ほども随分説明がありましたけれども、そういった問題が無視できないということがあろうと思います。

日本のメーカーとしては当然のことながら技術革新の促進であるとか、国際競争力の維持・向上、それから、キャッシュフローの確保等、経営としては非常に大事なことがあるわけで、これについては現行の日本基準の財務諸表というのが、かなり利点があるというふうに考えております。

その辺のところをいろいろ項目としてはありますし、ここの私の資料に挙げておりますのは、コンバージェンスの項目とアダプションの項目と両方混在しているような格好ですけれども、やや具体的な代表例について若干思うところをお話し申し上げたいというふうに思います。

まず研究費につきましてでございます。今も議論になっておりましたけれども、財務体質の健全化とか……研究開発費ですね、失礼、開発費の取り扱い、財務体質の健全化とか原価計算、それから、税の問題というのが当然にあるわけですけれども、我々の立場から見ますとこれは、研究開発の方針ですとか技術革新のスピードといったことにも、ある程度の影響を与える問題ではないかというふうに思っております。

具体的に言いますと、非常に実態の話になりますけれども、やはり開発費がすぐに費用計上される、いわば直接損益に影響するというのは、やはり実態面で見ますと予算管理を厳しくするという面があります。そういう意味で開発費を効率的に使う、開発を早くするといった促進の効果があるのではないかというふうに私自身は思っております。いろいろ理論はあると思うのですけれども、実態的にはそういうところがあるというふうに思います。

それから、有形固定資産の減価償却の問題ですが、これは当然製造業では有形固定資産の減価償却の処理というのは企業活動の根幹にかかわる部分でございます。償却の方法、それから、耐用年数を、いかに設定するかというのは当然棚卸資産の評価、それから、売上原価を左右するということだけではなくて事業の損益の管理、あるいは販売価格の設定にも当然影響しますし、設備投資の意思決定といったことに多大な影響を及ぼすということになります。

私が思いますのに、やはり現在の税法の基準をベースにした、それでかつ柔軟な対応を認めております日本基準というのは、我々にとっては非常にやりやすいものであります。考え方としても保守的であるというふうに言えると思いますし、実務的にもわかりやすく、長い歴史の中で定着してきたものでございますので不合理ではない、合理的であるというふうに私自身は思っています。

それから、連・単の分離を前提としますと、損金経理を前提としました現行の法人税法のもとでは、会計上と税務上が変わってしまう可能性があります。そういう意味では現在の税法をベースとした日本基準が、非常に我々としてはありがたいというふうに思っております。

それから、3番目にのれんとか固定資産の減損の取り扱いでございます。これも今いろいろ議論があるところなのですけれども、のれんの償却を認めませんで、減損処理のみということになりますと、やはりこれは損益の振れ幅が非常に大きくなります。それから、固定資産の減損についても、私の理解が十分でないのかもしれませんけれども、IFRSでは一たん減損処理したものを、場合によっては戻し入れというふうなこともあるというふうに理解しております。ということになりますと、やはり損益の振れ幅というのが非常に大きくなります。やはり日本の企業というのは、非常に長期的な視野に立った経営というのが一番大事なことですし、それから、安定的な株主還元ということも考えますと、こういった形の償却を認めない減損のみというのは、ちょっとどうかなというふうに私自身は思っております。

それから4番目、これは化学工業に特異なことかもしれないのですが、化学は装置産業でございますので、4年に一度に大きな設備の大定修というのを行います。工場全体をオールストップして、それで定修を行います。これは非常に大きなコストがかかります。日本の現在の基準のもとでは定期修繕引当金という形で、4年分のコストの平準化というのが認められております。今私の理解ではIFRSは、これは債務性がないということでこれが認められないというふうに理解しております。

それが認められないとなると、当社の場合ですと100億円程度のコストがかかるのですけれども、営業利益が数百億あるいは1,000億程度のレベルのときの100億円というのは非常に大きゅうございまして、これは製品の競争力をはかるというようなところでも非常に大きな問題であるというふうに思っております。

幾つか具体的な代表例だけを挙げさせていただきましたのですが、2ページ目に書いておりますのが私のお願いといいますか、要望といいますか、そういったことでございます。そういう意味では我々の立場から考えますと、数々利点があります現行の日本基準を考慮した会計処理をIFRSの中に取り込む、組み込むというようなことができないかと、いろいろ関係者の方々がご苦労をされていることを承知しております。そういう中でいわばコンバージェンスの1つの形としてIFRSのほうを、日本の基準に近づけていただくというようなことができれば大変ありがたいのではないかというふうに思います。

ただこれはなかなか大変なことですし、時間もかかるということになろうと思います。したがいまして企業経営の面から申しますと、今申し上げましたようないろいろ利点のある現在の日本の基準を堅持するということが、やはり必要ではないかというふうに思います。

ですから単体については、連結とは異なる日本基準で作成するいわゆる連・単分離を、相当程度の期間認めていただけるような措置というのが必要だと思います。言い方を変えれば先ほどお話にありましたような連結先行という選択肢を、我々がとることができるというような考え方になろうかと思います。

ただ一方でコンバージェンス、そういった期間というのが相当程度になりますと(ただ一方で、コンバージェンスというか、そういったものが相当程度すすみますと)、会計と税務の乖離ということが当然に生じてきますので、税務の面でのデメリットというのが出てくるということになります。その意味では上場会社に関しましては確定決算主義、あるいは損金経理要件といったものの緩和ということ、そういった税制の柔軟な対応というのが大変重要になってくるし、この点はご要望申し上げたいというふうに思います。

それから、最後のページでございますが、これはちょっと悩みみたいな話なんですけれども、連結と単体を分離した場合、すなわち連結先行という考え方をとった場合、もちろん私はそれがやっぱり一番いいのじゃないかというふうに、望ましいというふうに思っているんですが、それでも実務上はいろいろと悩みがございます。その悩みについてちょっとお話し申し上げたいと思います。

当然製造業の経営にとって原価計算というのは、非常に大きな位置を占めます。特に化学工業の場合は、大体複数の原料を投入して複数の製品を産出し、主産品と副産品が幾つもあるというようなのが通常でございます。かつ原料の品質とか運転の状況とか、そういったことによって投入量と産出量、あるいは産出する製品の比率といったものが変動するというような、非常に複雑な生産形態になります。

ですので、当社の場合は、いわゆる標準原価計算に基づいて製品の品目ごとの原価計算を行って、実際の原価との差額は、原価差額調整という形で売上原価と期末の棚卸に按分するというようなことをしております。そういったことをした後で最後に低価法の適用を行うと、そういった処理をしております。

当然単体と連結が違う処理になった場合に、例えば減価償却とか定期修繕引当金というようなものが違うという場合には、これは原価差額調整の手続が非常に複雑化すると、最終的に低価法を適用するときにどういった原価をベースにすればよいかといったところが、なかなか実務上も経営上も大変難しいと、そういう問題がございます。

ですから連・単の分離を前提に考えれば、私自身思いますのは、やっぱり経営管理の目的からは従来の日本基準というのをベースに原価計算を行うということで、それを投資家等に開示される連結財務諸表にどういった形で調整をしていくかということについて、これからの検討ですけれども、できるだけ平易な形というのを望みたいというふうに思っております。

その点に関していいますと、やはりいろいろな面でグループ全体の会計基準が大きく変わるということに変わりはありませんので、相当の負担ということがあります。それから、できるだけ平易な組みかえあるいは調整ということになりますと、これはやはり会計監査の面での対応というのが非常に大きくなってくると思います。そういう意味でできるだけ負担が生じない、あるいは過度な負担がないような形で監査基準についても、柔軟な形でのスタンダードというのがぜひ必要だと思いますので、その点どうかよろしくお願いを申し上げます。

以上でございます。

○安藤会長

ありがとうございました。

続きまして、富士通執行役員専務でいらっしゃいます加藤参考人、お願いいたします。

○加藤参考人

加藤でございます。おはようございます。

まず富士通のビジネスについて、最初に概況をご説明させていただきます。

弊社の海外売上の比率は、連結ベースで現状40%弱ありまして、約60カ国の国あるいは地域でビジネスを行っております。今後お客様のビジネスが展開していくにつれて、活動範囲はさらに拡大していくものと予想しています。

海外ビジネスの特色として2点挙げることができます。1点目は、政府系を中心にしたお客様からシステム運用を一括して受託していくサービスが多いということで、データセンターを各国に展開しており、契約は長期なものが多いという特色があります。

もう一つは、ハードウエアとソフトウエアの開発及び製造、販売の拠点としての役割を担うものであります。特にドイツ、米国、それにアジア地区が主要拠点となっております。

こうした状況の中、弊社の財務諸表の報告は日本基準によって行っていますが、海外子会社につきましては、2008年度からIFRSに準拠した富士通としての基準書を作成して統一しました。各社のCEO並びにCFOは現地採用を基本としておりますので、コミュニケーションのツールとして、世界共通言語としてのIFRSを採用したというものです。ガバナンスを効かせるという意味でも、まずは会計基準を合わせる必要がありました。

海外には400社近い子会社があるのですが、各子会社がIFRSをベースに本社に財務情報を報告してきます。これを本社で日本基準に調整して連結していくという手続きをとっております。日本基準からIFRSではなくて、海外はIFRSで報告が来たものを我々が逆に日本基準に変えていると、こういう形になります。

本日は、こうした実務的な対応について、具体的にお話しさせていただければと存じます。資料は、非常に簡単なものですが、お手元の資料3をご参照願います。

本日の議題に関して、連結と単独のあり方についてですが、連結決算がIFRSあるいはコンバージェンスが進んだ日本基準、つまりIFRSに近づいた日本基準ということですが、そのような基準を適用した場合、単独も同じ基準を適用することが本来あるべき姿だろうと考えています。

こう申し上げる理由ですが、まず連結と単独の会計基準が同じであったほうが、単に会計の問題にとどまらず、グループとしての仕組みを統一してつくりやすいからです。また、グループ内部で会社や部門が違っても、同じ土俵で評価ができるということがありますし、何より二重管理の手間が省けて、財務諸表を作成するためのコストが抑制できるというメリットがあると考えております。

以下、具体的な事象として4点ほど挙げさせていただきたいと思います。

まず、冒頭申し上げましたように我々が各国で展開するデータセンターというのは、毎年の設備投資が重要になっております。この投資の回収状況の評価・判断基準は、やはり統一しておきたいという必要性があります。単独の日本におけるデータセンターと、海外のグループ会社の基準が違っていると、今まで社内で議論をやっていましても判断の拠り所がずれてしまうというのを実感しています。こうした思いで我々の場合は、減価償却の方法並びに耐用年数を統一しました。我々はビジネスの実態に合わせて、定額法に変えたというところです。

2番目に、国をまたがって複数の地域で開発・製造しているわけですが、開発費の計上方法、それから、製造原価計算の方法あるいは範囲などを統一しておきませんと、物が相互に流れている我々のビジネスは立ち行かなくなると思っています。ここのところはまだまだ課題の多い分野なのですけれども、たとえば製品保証の考え方について、日本とドイツで会計処理が統一されたことで、品質に対する指標が標準化できてきました。これは大きな改善、コストダウンにつながってきております。

3つ目は、海外子会社において、CEOを含めてマネジメント全体のインセンティブ制度をどう統一していくかというのが、我々の大きな課題のひとつであったのですが、業績評価の基準という意味で会計基準を統一することで、海外のインセンティブ制度がようやく統一できたということが挙げられます。次のステップとして、この海外子会社のマネジメントグループを、国内のマネジメントグループと合わせたインセンティブ制度にどうやって統一していくかが重要だと考えていまして、今この検討に入っています。

最後に配当の問題についてですが、弊社は現在、安定配当を方針としています。海外の投資家からは、連結の業績を見て株主還元策を期待されるわけですが、連結と単独で会計基準に大きな差が出た場合、配当方針について説明が非常に難しくなってくるのではないかというのが懸念事項になります。

なお、もう一つ気になることはありまして、親子間の取引価格の決定方法の問題です。特に海外子会社との取引価格については、マネジメントの実態を反映させるという意味では会計基準が合っていたほうが、本当はトレースしやすいのではないか、と思っております。会計基準がもし違っていた場合ですけれども、調整項目の説明を、財務報告とは別な形でできるような体制づくりをしないと困ってしまうかもしれないと、それでは国が多岐にわたった場合非常にやりにくくなってしまうかもしれないというのが、ちょっと心配になってきています。

以上のようなことから、原則として連結と単独の会計基準は一致していたほうが望ましいと申し上げております。ただし、税法あるいは会社法といった制度の整備状況によっては、一時的に単独と連結の会計基準が乖離することは、やむを得ない場合もあるのではないかと思っています。会社として特に税務面で不利益をこうむるようなことがあれば、あえて連結と単独を分離した会計処理の方法を選択する、つまり連・単一致に慎重にならざるを得ない場合もあるということです。

当面の間は会計の面でも、柔軟に対応すべきだ考えている一方で、制度面での整備、これもできるだけ早い段階で議論していただきたいと思います。我が国企業の国際競争力をそぐことのないように、ぜひご配慮をいただきたいと思っております。

最後に、冒頭海外子会社をIFRSで統一したと申し上げましたけれども、ローカル基準でのファイリングはグループ各社に任せております。その意味で海外のグループ各社に負荷がかかっているとことは間違いありません。今後このIFRSを任意適用した場合には、同様の対応を日本のグループ各社に求めることになるわけですが、日本基準がIFRSに近づいてきているおかげでほとんど差異はないのではないかというのが、私の大枠での認識です。ただし先ほど住友化学様がおっしゃったように開発費の問題というのは、日本国内では重要な議論になるかもしれないと思っています。

私どもの会社の海外株主の比率ですが、約40%まで上がってきました。海外でIRを行う場合には、日本ではなくて海外のコンペティターとのベンチマークに関する質問が非常に多くなってきています。その意味で上場会社にとってIFRSの適用あるいはコンバージェンスという方向が、大前提だろうと理解しております。金融市場の国際化が進んできていることを実感しておりますが、こうした状況では国際的なスタンダードが、少なくとも連結決算については必要だろうと考えています。ですが、決算と開示の実務にかかる負荷につきましては、できるだけ軽減していただくように、現実的な対応をぜひご配慮いただければとお願いする次第であります。

以上であります。

○安藤会長

ありがとうございました。

それでは、これまでの事務局、それから、ただいまの参考人の方々からのご意見を踏まえまして、単体の会計基準のあり方に関してご自由にご意見を伺えればと思います。

ご意見等のある方は挙手をお願いいたします。

西川委員、どうぞ。

○西川委員

前回の議論というものも考慮してASBJのスタンスを、簡単に申し上げておきたいと思います。

ASBJは、IASBと2007年に東京合意を結びまして、その進捗を踏まえてEUの同等性評価がなされているなどIFRSとのコンバージェンスを進めることは、国際公約となっていると理解しております。昨年6月のこの審議会の中間報告の公表以降は、将来的なアダプションも視野に入れた形でコンバージェンスに積極的に取り組んでいるというところでございます。その中で中間報告で示された連結先行の考え方というのは、連結財務諸表においてコンバージェンスを着実に進める上での実務上の工夫として、関係者のコンセンサスとなっているというふうに認識しております。

一方、個別財務諸表については、特に法人税や会社法との関係が深いテーマについては、連結先行の考え方を取り入れることが有効であるというふうに考えておりまして、時間軸を利用しながら整理をしていくということになると考えております。

このように連結先行における連・単の扱い、あるいは連・単の差というものは、会計思想とか会計上の理屈を前面に出して整理するというものではなくて、制度などとの関係で実務上の対応をするというふうに整理していくべきものではないかと考えています。

今回この審議会において、開示制度の中での個別財務諸表のあり方全般について議論をいただくということは、会計基準開発における環境整備になるということで期待しております。その中で本日の議論でも連結先行に関する個々のテーマを、題材として事務局から取り上げていただいているわけですけれども、個々のテーマについてこの審議会で結論めいたものを出すべきものとは理解しておりません。ただ連結先行は、もともと会計上の理屈で整理するものではないという意味もありまして、連結先行についての整理の仕方の全般的な方向性に、示唆等があれば拝聴したいというふうに考えております。

本日既に安藤会長、三井課長からお話があったとおり、上場会社等の連結財務諸表や個別財務諸表に関する個々の会計基準開発は、ASBJの業務ということでございますので、ASBJとしては、この審議会の議論も踏まえ引き続き幅広く意見を収集する中で、個々のテーマごとに結論を出すという考えでございます。

言いかえれば、前回個別財務諸表について別個の設定主体を置くような話があったかと思いますが、上場会社の連結財務諸表、個別財務諸表については、それぞれの関係を把握した上で基準開発をすべきであって、両者について別の主体が別個に基準開発するということは、混乱を招くだけではないかというふうに考えております。

○安藤会長

ほかにいかがでしょうか。

友永委員、お願いします。

○友永委員

前回の総会においてさまざまな議論があったわけですが、その中で日本公認会計士協会の増田も発言しておりますけれども、協会としての考えを整理をいたしまして、もう少し明確にしたいということで資料4をお出ししておりますので、私のほうから説明させていただきたいと思います。

まず初めのところにはグローバル化、それから、国際経済との一体性という観点からIFRSの導入が不可避ということで、昨年の6月に当審議会で決定されました我が国の方針、コンバージェンスを進めながら連結先行でいくという、こういう考え方について強く支持をするものでございます。協会としては上場会社の個別財務諸表の会計基準のあり方、それから、個別財務諸表の会計基準の設定主体のあり方と、この2つについて考えを述べさせていただきたいと思います。

まず個別財務諸表の会計基準のあり方でございますけれども、3つの観点から基本的には制度面の差異等の課題を克服しつつ、連・単一致を目標にコンバージェンスを継続するという連結先行の方針を、維持することが重要と考えております。

まず投資家・債権者等の視点でございますけれども、現在のディスクロージャー制度では、連・単双方の財務諸表の開示が要求されており、会社法が個別財務諸表の開示を要求していること、また、個別財務諸表のみが開示している有用な判断材料があるとの財務諸表利用者の強い意見等があることを踏まえまして、個別財務諸表の開示は必要と考えております。

連・単分離の会計基準のもとでは、開示される連・単双方の財務情報の間に整合性の確保が困難となる可能性が高いということで、投資家・債権者等の判断を惑わす情報を提供することになるということがないよう、今後もコンバージェンスを継続していく必要があると考えております。

財務諸表の作成者・監査人の視点ということからいきましても、先ほどお話があったように、基本的には財務情報と管理情報の一元化による強力な業務執行体制の構築というのは、企業に大きなメリットがあると認識をしております。また、監査人の立場からは連・単の会計基準が分離していると、例えば連結上の会計処理の妥当性の判断等において、会計基準の適用関係が複雑化するということから連・単の会計基準はできるだけ同一にするということが、監査の質の向上に寄与するというふうに考えております。

会社法、税法との関係、これは会社法における配当可能利益の計算や、税法における課税所得の計算の基本となることから、一定の期間連・単の処理に差異が生じることはやむを得ないということでございますけれども、基本的には連・単一致を目標にIFRSと会社法及び税法との間に横たわる課題を、一つ一つ克服すべく粘り強く前向きに検討していくということが建設的な対応であると考えます。

また、個別財務諸表の会計基準の設定主体のあり方ということで、民間の設定主体である企業会計基準委員会が策定すべきということでございまして、先ほどありましたように連・単双方の会計基準ともに株主、債権者、経営者、取引先等の、そういった利害関係全部を視野に入れてこの民間の設定主体は設立されておりますので、その連・単双方の会計基準ともに、関係者の代表により構成されるカバナンス機能を備えた企業会計基準委員会で作成されるべきというふうに考えております。

以上です。

○安藤会長

ありがとうございました。

久保田委員、お先に。

○久保田委員

ありがとうございます。

まず先ほど三井課長からご説明がございました企業会計審議会会長と事務局名の、資料の1-2で示されました基本的な方針について私どもは賛成でございまして、個々の基準ごとに実務負担の軽減や、税、会社法、その他の制度との関連を考慮して連結と単体の両方の基準につきまして、ASBJの基準作成の場で関係者の意見を総合的に勘案して、検討を進めていただきたいと思っております。

それから、アドプションについては今後の情勢いかんということもありますけれども、上場企業は、アドプションを念頭に置きながらいろいろ準備というか勉強を開始しておりまして、コンバージェンスのところもそうですが、アドプション後の連結財務諸表と個別財務諸表との総合的な姿についても、この審議会の場でなるべく早く議論、あるいは姿を示してもらいたいと思っております。

それから、先ほど住友化学の野崎常務からもいろいろお話がありましたけれども、やはりコストの問題というのは、企業にとって今非常に重要な問題でございます。新成長戦略の中でも、こういったコストの観点から開示制度の簡素化というのが検討されているわけでございますけれども、特にIFRSの導入を機に個別財務諸表の問題につきましては、これは従来から経団連は申しておりますけれども、廃止も含めた抜本的な簡素化を是非していただきたい。以上3点でございます。

○安藤会長

ありがとうございました。

それでは、八木委員、どうぞ。

○八木委員

八木でございます。

私のほうからは実務の観点からコメントをさせていただきたいと思います。

先ほどから話がありましたけれども、会計基準は、基本的に連結と単独が同一基準であることが望ましいと考えております。これは会計基準が連単で異なるのは理論的におかしいだけではなく、実務的にも連・単で会計基準の異なる2つのものでつくり上げていくということは大変負担が大きいと考えられますし、その後のプロセス(監査、開示)でも、弊害が出るのではないかと思っております。今後連結(開示情報)につきましてはIFRSに収斂ということになれば、必然的に単独もいずれはIFRSへ統合されていくという形になる方向かとおもいます。しかしながら、先ほどから指摘されていますように、単独決算には、税法との調整とか会計のシステム構築等の準備がありますので、これについては十分な時間をとって統合していくということが必要であろうと考えます。このため、連結先行で進めていく事になるかとおもいます。連・単分離ではなくて連結先行という形の中で、いかにこの辺のところの制度を改定していくかということが基本だろうと思っています。

企業経営は、特に公開している企業というのは2つの大きな市場に対峙しております。1つは、簡単な言い方をしますと”商品市場”です。この商品市場というのは唯一企業が付加価値を高めていく場所だと私は思っておりますので、そこにおける企業戦略の妥当性、経営の公明性、といったことが極めて重要となります。昔、会計はビジネスランゲージだと教わりましたけれども、まさにここのところが基本だろうと思っています。特に日本の製造業の場合には原価計算の仕組みというのが、一番大きな戦略的な意味を持っているというふうに考えています。これを左側の会計と定義すると、公開企業が対峙しているもう一つの市場が、”資本市場”(右側の会計)になります。株式という有価証券を新発市場、融通市場で公開企業は商品としてこれを商っております。IRはまさにこの活動(資本市場のセールスマン)ということになりますので、そうなると有価証券という商品である以上、一定の(行き過ぎない)時価評価という基準が概念として入ってくるということは避けられないと考えます。会計というのはこの左右の利用目的を融合していくところに本来の意味があると思っています。

左側の商品市場については単独、右側の資本市場に関しては連結という考え方では、なかなか会計の統合がはかれないのではないかとおもいます。資本市場のニーズをかなえながら、企業が商品を開発・製造・販売していく付加価値活動(本来の投資家なら知りたいはず)、この企業活動の生命線を、会計基準に合わせ込んでいくということが重要だとおもいます。

このため、一案ですがこの機会に(日本の)原価計算システムについて、最新の会計学の成果をとりいれた新しい基準を構築する事も考えられないか。IFRSへの一方的なアドプションだけではなく、日本が発信する原価計算基準をIFRSに対するアダプテーションするような提案をやらないと、左右の会計の問題は、解決しないんではないかなという認識を持っております。

これ以降はお願い事なりますが、結果的にIFRS導入された場合に、導入企業の債権者の保護ということを考えた場合、配当等の制限規定に関する会社法の改正を求めるべきではないかと思っています。それも含めまして、会計基準としてのIFRSだけが先行するということではなくて、やはり税法、会社法といったものが連携してこれをバックアップ(含適正な規制)していくという仕組みがないと、 我々製造業の立場からすると不安でしようがないということがあります。企業会計、企業関連法規の総合調整を希望します。

それから、先ほどから意見が出ておりますように税法に関しては、現在損金経理要件というのがありますが、IFRS導入した会社(結果として少数)と非上場会社のように導入しない会社とで、国家戦略としての税法に関する適用基準が変わってくるということに対して矛盾があると思いますので、ここは租税特別措置の対応でお願いできないかというふうに考えております。

それから、本当に負債の時価評価というのが、これはIFRSでは正しいと言っておりますけれども、本当に長期的な投資家から見た場合、負債を時価で評価するという会計が本当に正しいんだろうかということも含めて、やはりIFRSの全体像をもう一度見直していただきたいと思います。

それから、これは一つの簡単なイメージですけれども、企業活動というのは一回(一年)ごとに航海を終えて、帰ってきたらその場で全部精算するというイメージでは全くないわけです。(IFRSの考えはこれに近い)企業活動は、継続的な発展を続けていくことであり、 その期間成果を1年に1回(四半期でも)レポーティングを出す、この視点が会計基準には必要とおもいます。

企業は、将来に向かった活動をしながら企業価値を高めていく。これを劇場の芝居に例えると、投資家というのは、折々にチケット(株券)を買う観客だというふうに私は思っています。当然 興味が無ければチケットを買わなければいいわけですし、チケットを買って役者がつまらなければ、文句も言えるし、力があれば役者を首にする権利も持っています。(でもそれだけのこと)やはり会計基準をつくるときには、芝居小屋を清算したら幾らという見方だけではなく、芝居そのものが永続的に発展をしていくということに大きな視点を置いていかないと、結果的には芝居を見ている投資家にとってもメリットが出てこないだろうというふうに思っています。

結論的に言いますと、いずれIFRSにコンバージェンスしていくことが流れだと思いますけれども、投資家のためにも、原価計算基準などIFRSの中に左右の会計の融合を問題提起していくようなことも、日本としてやっていただければというふうに思っています。

以上です。

○安藤会長

ありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。

黒川委員。

○黒川委員

会長、ありがとうございます。

私は、前回の審議会では多くの先生方が発言されたので時間切れになり、発言するチャンスを逃しましたので、本日は2回分発言させていただけるのかなと思っております。

まず第1番目ですけれども、今日の三井課長のダイナミック・アプローチの新しいバージョン、時間軸に沿って1方向だけではないというのは大きなポイントだろうと思います。これをどのように解釈するのかということですが、連・単分離問題が確定決算主義等を中心とする税務および会社法と企業会計の開示問題との関係についての問題もありながら、他方、開示問題の中での連結財務諸表の開示と個別財務諸表の開示という問題、これが複雑に絡み合っている、これを分けて考えなければならないということを想起させるからです。

それで、今各委員がおっしゃったように、初めのほうの税務の問題と会社法の問題は制度の問題でありまして、ここが大変難しいので、時間軸上1方向で連結と個別が一緒になっていく方向だけを考えるのは大変難しく、いろいろな要件を考えなくてはいけないだろうということではないかなと思っています。 特に、納税問題は上場会社だけでなく一般の会社全部に相当しますから、ここでまた問題が発生する。

さてそこで、とりあえず上場会社の開示問題だけに絞って連・単の関係を考えてみたいと思うのです。そうするとこれまでの先生方のご意見の多くは、連・単の問題というよりもIFRSと日本基準との問題、特にIFRSが強制適用されてしまったらどうなるのだろうと、そういうようなところに焦点を当てた意見が多かったのではないかと思います。

IFRSが投資家、特に国際間資金移動を資本市場で担う投資家に対して、その投資家が意思決定に利用する情報提供のためにあるということは、かなりわかってきたというか、そのような理解へのコンセンサスが得られてきたと思います。さて、国際間資金移動を担っている投資家は、恐らく機関投資家だろうと思いますけれども、その機関投資家がアクティブ運用をもしするとするならば、まず、どのような会社の株式や社債を自分のポートフォリオに組み込む候補とするのかについて、考えなければならないと思うのです。

そこで、我が国の上場会社三千数百社、大分減ってきましたけれども、約4,000社弱のすべての会社が、国際間資金移動を担うような機関投資家のアクティブ運用上のポートフォリオの候補になっているのかどうかということを、まず考えなければならないのではないかと思うのです。

そのような大きな資金移動を担うような機関投資家は、インタビュー調査をしてお聞きしたところによると、数カ月に一度ポートフォリオの中の銘柄の組み換えをするかどうか判定をするらしいのですが、そのときの考慮事項の一つとして、買ったり売ったりする際に市場に対する影響が大きいかどうかとか、あるいは容易に売ったり買ったりできるかというような、いわゆる流動性の問題を考慮する。その流動性が高いというのは発行株式数が多いかどうか、あるいは市場で流通している株数が多いかどうかというのが問題であります。我が国の上場会社全部の銘柄が、大規模な資金移動を伴うような機関投資家の投資対象になるほど流通市場で高い流動性をもって存在しているのかということが問題で、恐らくそのような流動性の問題から投資対象となる会社は限られていると思うわけです。

投資家サイドの2番目の存在として、機関投資家ではなくて、国際間で投資をしようとする個人投資家みたいなものを考えてみます。そのような個人投資家はナイーブな投資家ではなくて洗練された投資家ということになると思います。しかも国際的に投資をしようと考える人たちはアナリスト、特にセルサイドのアナリストのレポート等は絶対に読んでいるだろうし、投資顧問なんかも雇っているかもしれない。そういうようなことを考えるとアナリストが、どのくらいの会社を継続的にフォローしているのだろうかということに、やはり着目しなければならないだろうと思うのです。

これも文部省科学研究費を利用したインタビュー調査でわかったのですけれども、正確なことは言えませんが、我が国の上場会社の中で恐らく3分の1程度の会社しかアナリストは、フォローしていないのでないかということのようです。つまり、上場会社全部をフォローしていない。

しかも、四、五人のアナリストが継続してフォローしているとアナリスト間の評価のコンセンサスが得られ、企業評価の結果得られたファンダメンタル価値の株価への反映度はよくなるらしいのです。ともかくも、少なくとも1人以上のアナリストがフォローしている会社は3分の1程度ではないかという、これは正確ではないのですが、そんなことがわかった。

そうすると上場会社の中で3分の1程度の会社しかアナリストがフォローしていないということは、それ以外の会社に海外の投資家が投資する、要するに自分のポートフォリオに組み込む、あるいは投資をしようとして分析をするだろうか。それは多いに疑問であって、要するに結論は、資本市場の実態をみると、我が国の上場会社全部をIFRSにするというニーズは、資本市場における投資家側には今のところないのではないか。もちろん、国際的機関投資家の投資対象になるような一部の会社にはIFRSに基づく情報ニーズはあるのでしょうが、すべての上場会社に対して、そのようなニーズがあるとは思えない。

次に考えるのは、作成者サイドの事情です。これは、それぞれの参考人の方々の自社の置かれる状況によって意見が分かれておりますね。もちろん、いろいろなご意見があり、すべて傾聴すべき意見ばかりだったのですけれども、一言で言えば資金調達政策とガバナンス問題ではないかと思います。我が社が海外の投資家の方々からも資金調達をしようと思っているかどうか、あるいはガバナンス上も海外の投資家の方々に積極的に我が社の株主になっていただくかどうか、こういうような方針を持っている会社かどうかではないか。そうであれば、我が国の上場会社すべてがIFRSを絶対に導入したいと思っている会社ばかりとは言えないのではないか、つまり、作成者サイドからもIFRSのみの会計制度に対するニーズがあるかというと、

そうとは言えないのではないかと思うわけです。

そうすると結論は何かというと、結局IFRSか日本基準かといったときにIFRSのみの強制適用にするのか否かが問題で、これは2年後に決めるということなので今からこういうことを言うのは問題ですけれども、ともかく日本基準とIFRS基準というものがあって、資本市場の利用者サイドと作成者サイドの双方でそれぞれの基準へのニーズがあったとするならば、我が国全体として見れば両者の併存ということを想定するのが自然であろう。それによって前回と今回の議論、心配事の多くが解消されると思うのです。

ただ問題は、併存ということになると、この会社はIFRSで作成され、あの会社は日本基準で作成されているというような資本市場の情報開示に関するカオスを生みます。本日は、東証の斉藤社長がいらっしゃるので、もし東証で可能ならば東証の中にIFRS版の上場の場と、日本基準版の上場の場を分けていただいて、仮に東証が無理だというのであれば大証にお願いして、大証に日本基準版の上場の場を設けるというようにすれば、資本市場の情報開示のカオスのおそれが少しは減ると思うのです。

このアイデアは、これまでの例えば新興市場から一部上場に移るときのように、もし日本基準でやっていてIFRSに移る、あるいはIFRSでやっていてもあまりメリットがないと思えば日本基準に移るというように、二、三年の上場変更の準備をして移ることを想像すればいいのではないかと思います。ここでの発言は、またまた非常に特異な議論かもしれませんけれども、このように考えることによって、これまでの有益なご意見中にあった懸念が消えていくのではないかなと思いました。

2回分ありがとうございました。

○安藤会長

ご提案まで含めてありがとうございました。

弥永委員、どうぞ。

○弥永委員

ありがとうございます。

今日、委員の方々や参考人の方々のお話を伺って、また、一般的に考えたときに連・単はできれば一致させる、これは理論的にも一番自然、実務的にも自然だということは確かだと思います。しかし、短期的には、連・単にずれが生じるのはやむを得ないというのもまた確かだと思います。

しかも、税との関係、あるいは会社法との関係で連・単にずれが生じるのはやむを得ないということは、しばしば強調されるわけですけれども、既に今日のご指摘の中にもありましたように、IFRSには、必ずしもベストな会計処理を示しているとは思われない部分があるわけでして、それは恐らく、中間報告でいわれているこれまでの会計をめぐる実務とか商慣習とかいったところで説明がつくのかもしれません。そうであれば、もしIFRSが指示しているような会計処理の方法がベストとは思えない、現行の日本基準のほうがよいと思うというような場合にコンバージェンスを理由として、単体の会計処理方法を巻き添えにすべきだというのは、やはり、そもそも本末転倒だと思うのです。

もちろん、東京合意がある、コンバージェンスをするという公約をしてしまっているので、やむを得ず、これはおかしいな、あるいはちょっと問題があるのではないかなと思っても、コンバージェンスをしなければならない状況に追い込まれているのかもしれませんけれども。こういうときの自衛手段と申しますか、このような観点からすると、連結ベースではコンバージェンスを約束どおり果たす。しかしながら、個別の財務諸表に適用される基準まで、望ましくないなと思いながら合わせるというのはやはり問題があるとおもいます。このような観点からもやはり連・単のずれを短期的には維持せざるを得ない。発生させざるを得ないのではないかと思います。過度に楽観的なシナリオかもしれませんけれども、おかしいなと思われるようなものについては、個別財務諸表に適用されるルールは合わせないでおいて、IASBに対して意見発信を続けて、いずれIFRSを改定していただいて、この場合には一たんIFRSに合わせて変更した連結財務諸表に適用される会計基準を、より妥当だと日本では考えている、個別財務諸表に適用される会計基準にまた近づける。連結のほうから個別に近づけるというシナリオの余地はやはり残さなければならないと思います。一たん単体の財務諸表に適用される会計基準まで、おかしいなと思いつつ、IFRSに合わせてしまうと、後になってからやっぱりおかしかったから元に戻すというのは難しいような気がいたします。単に税や会社法との関係だけに注目するのではなく、IFRSが指示する会計基準が、必ずしもベストとは限らないということをやはり一つの理由として、ダイナミック・アプローチを、考えなければならないのではないかと思いました。

○安藤会長

辻山委員、さっき挙げておられました。

○辻山委員

会長、ありがとうございます。

今日たくさんの資料を出していただきまして大分整理できてありがたかったのですけれども、まず資料の1-1の5ページ、中国とその他のアジアということでお示しいただいていますけれども、コンバージェンスとアドプションについては、いろいろな概念規定があると思いますが、これはやはり素直に読めば中国はコンバージェンスであって、インド、韓国、シンガポールはアドプションに近い形なのかなというふうに読めます。さらにアドプションかコンバージェンスかということに加えて、もう一つ第三の道というか、先ほど黒川委員が発言されてちょっと皆さん笑われたんですけれども、あれは現実的な、あまり突拍子もない発言ではなくて、今後例えばアメリカが仮にアドプションに進むとしても、アメリカの上場企業すべてがアドプションになるかどうかというのは慎重に考えなければいけないし、日本もまた全部にアドプションするということは現実的ではないかもしれないという意味で、第三の道も念頭に置いて、連・単の問題を考えてみなければいけないというふうに考えております。

まずアドプションするということになった場合には、これは当然に連・単分離になるのかなと、なぜならば単体というのは強行法規と結びついておりますので、税法、会社法との結びつきを切れない。それがIASBというロンドンを拠点として活動している民間団体が決めるIFRS、そこに依存しているということは考えられないということで、連・単分離というのが当然の結論なのかなというふうに思います。

一方、連結のほうをコンバージェンスということなら、今日のタイトルは「単体財務諸表の会計基準のあり方(コンバージェンス)」となっておりますので、それを念頭に置いたご提案、問題の整理なのかなというふうに考えますが、コンバージェンスについては、これはやはりなぜ日本がIFRSにコンバージェンスしなければならないのかを考える必要がある。事の発端は、EUの同等性評価だということが重要なことだと思うんですね。

EUの同等性評価に入っていない例えば典型的なものは、のれんの償却ですけれども、これはEUの同等性評価の対象には入っておりません。EU自体も今後どうなるかわからないということです。つまりコンバージェンスのあり方をかなり慎重にしていって日本の単体との親和性の高いようなコンバージェンスの形、一つ一つ基準ごとの吟味ということがきちっとしていれば必ずしも連・単を分離する必要はない。一時的には今日のご提案にあるように時間軸で見た連結先行ということはあり得ますけれども、分離という結論はない、完全な分離ということにはならないのではないかということです。

その場合に例えばのれんの償却については、これからASBJで検討されるというふうに伺っておりますけれども、さまざまな差異の問題を、とにかく機械的にIFRSを受け入れるような形で、IFRSとの一致を機械的に行っていくということであれば、これはアドプションと同じことですから恐らく連・単というのは分離というのが将来的な姿であろうと思いますし、そうではなくてできるだけ連・単が分離しないような形で一つ一つの内容を詰めていくのであれば、先ほど来IFRSの中身がどうかという議論があってそれについては申し上げたいことがいっぱいありますけれども、ここでは制度の問題なのだということで申し上げませんけれども、要するにコンバージェンスのあり方次第で、今後の連・単、単体との関係が決まってくるのではないかというふうに考えております。

以上でございます。

○安藤会長

ありがとうございました。

それでは、萩原委員、どうぞ。

○萩原委員

ありがとうございます。

実はここの審議会の前回からの議論で、どのあたりに落としどころをつくって、この単独の問題の結論をつけるのかということですけれども、前回、それから、今回もそうですが、議論を聞いていると議論そのものが少し拡散していないのかなと感じます。といいますのは、IFRSそのものの中身の問題や、あるいは昨年の6月の中間報告で一応の道筋を示したことがよかったのか悪かったのかというような議論になりますと、山ほど議論は出てくるだろうと危惧しています。私自身は前回と今回、あるいはあと一、二回で結論を出すべきと考えます。前回、この場で議論をする目的は何かということに関し、安藤先生のほうから、ASBJがデッドロックに乗っちゃったからその解決をというお話があったんですが、私自身は個人的に、別にデッドロックに乗ったからこの議論があるんではなくて連結先行ということを、昨年の6月に決めた段階から単体の扱いは一体どうするんだということは、当然どこかでこの議論をし、整理をしていく必要があるんだろうということから、この会議が開かれているんだろうというふうに思っております。

前回、今回と、さまざまな参考人からのご意見もあったわけですけれども、この単体の取り扱い等については、業界や個別企業によって立場が違いますからいろいろな意見があることは事実であります。意見を聴取して全体的な方向性を考えていくべきだということもそのとおりです。しかし、三井課長のお話にもあるように、徐々に連結先行のありよう、あるいは考え方が少しずつ明らかになってきたように思いますが、問題は議論の結果として広く各般の意見を聞きながら総合的にASBJの判断で、国内の基準の取扱を決めるということになりますと、これは言うのは簡単ですけれども、実際的にはそう簡単ではないように思っています。

というのは単なるコストだけの比較ではなくて、どういう選択をすることが日本のオール・ジャパンとしての利益につながっていくのか、あるいは国際社会の中での日本の今の状況の中でどうあるべきかというようなことも、総合的に考えて判断する必要もあるんだろうと考えるからです。そういう意味ではASBJが適切に、あるいはタイミングよく合理的に判断ができるように、どういう仕掛けあるいは仕組みをつくって世の中の意見を集約して、その上でASBJの最終判断に任せていくのかというようなプロセスが、非常に重要なポイントになってくるだろうというふうに考えています。

いずれにしてもこの単体の問題を扱いながら、山ほど議論をして積み重ねるても、クリーンカットな結論が出るということにはいかない。意見をたくさん聞きながら議論をするのは構わないんですけれども、どこかで少しずつ整理をしていただいて早目にこういう基本的な考え方の中でASBJにこれを任せていこうというようなことを考えていきませんと、理想として会計基準が連・単一緒のほうが望ましいというような議論をしていたら、いつまでたっても議論はつきません。そのことを十分検討の上で去年の6月連結先行の方向性を打ち出した、と考えています。ぜひ今日のご議論、前回のご議論を踏まえて、私はできるだけ早いうちに結論を導いていただいて、先に進んでいただけるようにということをお願いしておきたいというふうに思います。

○安藤会長

ありがとうございました。

それでは、斉藤惇委員。

○斉藤(惇)委員

黒川先生のポートフォリオ理論で、大変ご配慮いただきましてありがとうございます。

ただ株式市場上場会社というのは、国家の資本戦略の場所であって、単なる機関投資家が投資するとかしないとかそういう問題よりも、はるかに大きな問題だと思うんです。

我々は昨年IFRS、連結先行で入りましょうと言った、まず発火点は、大きなグループに入らなければ正しいとか正しくないとかいうことを主張することすらできないと、世界の流れがどんどん流れていっているときに「自分は正しいんだ」ということをどれだけ叫んでも、まさか鎖国しているわけでもあるまいし、日本の大・中・小法人、個人、全部インターナショナルベースでリンケージしている時代になって、まず大きな仲間に入ってその中で我々は我々なりの主張をしようではないかということで、まさしくおっしゃるように単体との問題はあるなということは皆さんわかった上で、でも、これは日本が孤立しないために入ろうということで入ったと理解しております。

ですからもちろんIFRSがパーフェクトでもないという証拠として多くの国々が、いろいろ個別会計を自分の中にまだ持っているということもありましょうし、その辺はインターナショナルベースでいろいろ討議をして、さらにIFRSそのものが発展していくと思います。

今例えば我々東証は連結、個別会計をやっておるところでも連結をやってもらおうという考えを持っておりますけれども、それはなぜかというと、例えばこのごろ東証の出来高が低い、日本の投資家が買わないから韓国へ行って上場しましょう、香港へ行って上場しましょう、インドへ行って上場しましょうという日本の企業も出てまいりました。彼らが行けば全部これは一種の、パーフェクトでないかどうかは別として、何らかの形でIFRSが適用されます。

したがって日本に外国の企業が今度は来た場合に、日本はグローバルなIFRSと日本独特の個別会計、両方出せというようなことを彼等に言えば、東京へなどだれも来なくなってしまう。そうやって国家の資本戦略をどんどん落としていくのかという問題だと思います。我々は世界の資本をできるだけ有利に日本の企業に使っていただきたい、あるいは国家として資本をこの国に取り入れていこうという考えから、こういうことをやっていると私は思います。

したがって結論としては、やはりいろいろな問題があるということは、これはもう承知しなきゃいけないし、コストもまたかかるので、そういうことはできるだけ削減する方法を、皆さんと考えていかなきゃいけないと思いますけれども、結論的には最初にダイナミック・アプローチでスタートして、時間はある程度かけながら、徐々に連・単の一致を見ていこうということでいかざるを得ないのではないかと思っております。

○安藤会長

ありがとうございます。

それでは、五十嵐委員、どうぞ。

○五十嵐(則夫)委員

ありがとうございます。

本委員会の議論は、資本市場における財務報告のあり方について議論されていると理解していることを前提にお話しさせていただきます。

2010年1月における約122カ国の調査があり、その内容は上場会社及び非上場会社についての連結財務諸表と個別財務諸表へのIFRSの採用状況、及び会社法と税法への基準の適用状況が含まれております。その調査に基づき各国の状況を見ますと、上場企業と非上場企業の連結財務諸表及び個別財務諸表のすべてについてIFRSを適用しているという国はほとんどありません。少しの例外はありますけれども、ほとんどないと見られます。

その調査に基づく主要な内容を見ますと、まず第1にやはり連結財務諸表をIFRSから適用していこうという国が多いと思えます。こうした内容を基に考えますと、我が国で2009年6月に公表されました連結先行という方向性に基づき、IFRSを導入していくべきじゃないかと考えます。

それでは、個別財務諸表についてはどうかといいますと、先ほど、西川委員からご報告がありましたように、ASBJとIASBとの東京合意がありますので、日本の会計基準がコンバージェンスされていくという時間枠の中で考えていきながら、我が国の個別財務諸表の会計基準のあり方を考えていったほうがいいのではないかと思います。

こうした考えに基づき、まずダイナミック・アプローチに基づく連結財務諸表を主体として、次に、個別財務諸表はASBJの会計基準のコンバージェンスということで収れん化していくことがよいのではないかと思います。

次に、その調査を見ますと会社法及び税法についてのイギリス、ドイツ及びフランスの制度について、配布資料にも示されていますように、イギリスでは、親会社は英国基準とIFRSとを選択適用できます。なお、IFRS採用の場合グループ内の企業の英国基準の採用については別の規定があります。ドイツでもドイツGAAPに基づく連結財務諸表の作成があれば、個別財務諸表のIFRSの採用が容認されるようになっていますし、また、フランスは法律に基づくファイリングにIFRSは要求されておりません。なお、これら3ケ国の法律の詳細は各国の規則を参照することが必要になりますので留意が必要です。そして、税法はそれらの3ヶ国は会社法に基づく財務諸表に基づいていることを考えますと、やはり各国の歴史とか文化というものがあり、ある一定の時点ですぐに国際的な基準に採用することは容易ではないというふうに感じました。

したがいまして、こうした会社法、税法の問題は、また再度取り上げられるのかもしれませんけれども、それらは法律の問題ですので国としてのあり方を検討することにもなりますので、今回は投資家に対する情報の有用性に基づく財務報告を主として議論され、その方向性を明確にすることが望ましいと思います。

では、個別財務諸表について2つの会計基準で、日本で作成している会社はないのかどうかということですが、日本にアメリカ、ヨーロッパから投資された子会社があります。これらの会社は、本国の会計基準と日本の税法・会社法に基づく2つの財務諸表を数十年来にわたって作成しております。したがいまして、日本にある外国の子会社は相当な投資額を占めていると思いますが、国際的な業務を行うために2つの財務諸表を作成するということは特別に異なることではないと思います。したがいまして、まず連結財務諸表を先行したほうがよろしいのではないかというのが私の考えです。

追加的なことになりますが、金融機関は各国でやはり非常に重要な地位を占めているようでして、国際会計基準に基づいて上場と非上場の会社もIFRSに基づき財務諸表を作成している国がございます。例えばイタリアです。イタリアは上場会社、非上場、連結、個別についてIFRSに基づき財務諸表を作成しております。金融機関について重要であると想定されれば、金融機関の特性からしてIFRSの適用を考慮してもいいのかなと思いますが、全体としての整合性を検討する必要があると思います。現段階において、ダイナミック・アプローチに基づいて進行されることが好ましいと考えます。

以上です。

○安藤会長

ありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。

西村委員、どうぞ。

○西村委員

まずIFRSにコンバージェンスしていくということは、これはもう我々民間企業はそのつもりでほとんどの会社は準備を始めているんじゃないかと思います。現実に当社も例えば収益の基準について先方検収でやるためにはどうしたらいいのか、どの程度の影響が出るのかとか、あるいは開発費の資産計上について、具体的なルールをつくってどうやっていくのかというようなことは、もう既に検討を始めておるところでございますし、償却につきましても、場合によっては定額法でやっていくかというようなことも考えています。

基本的にはこれはやはり先ほど来おっしゃっておられますように、グローバルに経営していくときに、会計基準を統一しておかなければ、なかなかきちんとした評価ができないということで、そういう考え方でやってきておるわけです。このため単体がそういう形になったとしても、それほど問題ないんじゃないかと、あるいはそういう対応はできるんじゃないかというふうに思っているところでございますけれども、幾つかやはりこのIFRSは、M&Aのためのディスクローズというか、そのための基準であるというところもあります。

例えば今回の有報で負債の時価評価というのが出てきておりますけれども、企業の業績が上がれば上がるほど時価評価をすると負債が増えていくこととなり、仮にそれを収益に織り込めばその分は結局は損失になる。逆に企業価値が下がれば下がるほど、業績が悪化すれば悪化するほど負債の額が減っていき、収益化されていく。

こういうような考え方では、やはり企業評価もそうですし、企業経営もできないだろうなというふうに思いまして、コンバージェンスをするところはする訳ですけれども、やはりできないところはできないというのもあると思います。先ほど来出ているように税法上、あるいは会社法上できないところもあると思いますので、そこらあたりは時間をかけてコンバージェンスする。仮に12年までにできなければ、それは単体は単体で従来の考え方でやっていくということであろうかというふうに思いますので、いずれにしてもIFRSとのコンバージェンスを取り組む中で我々としては、いわゆる連結先行の考え方でやっていくということについては何も問題ないというか、基本的にはその方向でいいんじゃないかというふうに思っております。

このため、いろいろ単体との関係で問題が出るわけですけれども、一言で言えば、単体のディスクローズをやらないということにしてしまえばこれらの問題は、ほとんど解決するんじゃないかというふうに思いますし、前回申し上げましたけれども、これはぜひともディスクローズの簡素化という観点からは、真剣に取り組んでいただきたいと、こういうふうに思っているところです。

以上です。

○安藤会長

ありがとうございます。

もう一方ぐらいかと。

小宮山委員、どうぞ。

○小宮山委員

すみません、ありがとうございます。

恐らく今までの議論を聞いていると連結先行でいくという方向性は、ほとんど皆さん同じだと思うんですけれども、時間軸のとり方とか対象について、若干の意見の違いがあるんだろうと思います。

中間報告で言っている商慣習とか伝統的な会計実務とか、さらに税と会社法が絡んでくると、これは4つ全部やると何でもありになってしまって、すべて連・単を一致させないという理由になってしまうんですけれども、この資料の1-2の書いてあることに基本的に賛成なんですが、特に資料の検討例に出ている包括利益の問題とか、それから、のれんの問題とか、それから開発費の問題、多分恐らくこれが一番典型的なんだろうと思うんです。

最も重要なのは、税とか会社法の違いにあるものに限られると思いますが、少しここの審議の中でどういうものについて時間軸を長くとって、どういうものについて時間軸を短くとるということについて少しある程度の決定をしてあげないと、恐らく企業会計基準委員会が非常に困るんだろうと思うんです。違っていい場合がたくさんあると言われてしまうと恐らくそれ以上個別でのコンバージェンスのやりようがないということになりますので。

今まで日本の基準の中で連単の差異があるのは、逆取得の会計処理に連・単の差異があって、それからもう一つは、子会社化したときの段階取得の既取得分の利益の認識に連・単の差があって、それから、最近の包括利益の適用順序に差異があってと、3つぐらいしか今のところないんです。その中で制度的な理由があるのは多分逆取得の場合だけで、あとはどちらかというと納得感がないというよくわからない理由で差異が出ているということでありまして、もう一、二回多分議論があるんでしょうが、少しプライオリティーのつけ方というのを審議会として示してあげないと、その後のコンバージェンス作業はできないのかなと思っています。私はやはり、相当に時間軸を長くとるものは限定していくべきだというふうに思っています。

○安藤会長

ありがとうございました。

永井委員、失礼しました。どうぞ。

○永井委員

手短に申し上げたいと思います。メーカー子会社の社員として前回の参考人、三菱電機の方、JFEの方、また、今回の住友化学の方のお話を伺いまして、個人的に非常に共感を覚える点が多かったと申し上げます。

住友化学の方が今日もおっしゃいましたように、製造業から見て特にそうなのですが、日本基準には非常に長期的な展望に立って経営ができるといった利点がありまして、そういった面からも、連単分離という考え方もあるのではないかと思います。

ただ富士通の方、今日違う意見をおっしゃっていましたが、立場によって考え方が違うというのはこういった分野では当然のことで、そういった面でも非常に難しい問題だということを再認識した次第です。

もちろん最終的には連結と単体を一致させるというのが筋でしょうし、コンバージェンスしていくと実際その方向に向かうと思っていますが、IFRSがどちらの方向に向かっていくのかわからない段階で、性急に一致させる必要はないと思います。

また、これだけいろいろな意見が出るのは、IFRSに違和感を覚える関係者が多いためで、基準作成への意見発信の努力は続けていくべきだと思います。

以上です。

○安藤会長

ありがとうございました。

三井課長が発言を求めています。

○三井企業開示課長

一点報告事項がございます。それともう一点は補足でございます。一点目は負債の時価評価の点でございます。

直近のIASBの検討状況でございますけれども、負債を負っている側、債権ですと発行している会社自身の信用力の劣化が、時価を上にけり上げてしまうと、利益をもたらすという負債の時価評価の点について、発行体だけではなく多くの方々からの批判が、この金融危機を契機にありました。

金融庁としても、IASB関係者と面会した際に、財務諸表のクオリティーを損なっているというふうに発言をしたところでございます。

結果、IASBは、負債の時価評価について自己の信用力の劣化なり、その改善なりが影響する部分については純利益、純損失から外す公開草案を出しています。これが1点の報告でございます。

それからもう一点、開示については当局に対するご指摘だと思います。連結と単体の開示としてのあり方でございますけれども、連結と単体、同じ数字であれば単体の開示の必要性が低いという点はもちろんあるわけですが、前回資料1-6、それから、資料1-7でお示ししたものでございますけれども、ドイツ、フランスは、単体は国内基準、連結はIFRSというものを、開示制度上正面から同一平面で位置づけています。

単体はその国の会計制度を法律上強制し、それを同じ開示の制度の中で、連結は国際的な視点からIFRSを強制すると、こういう位置づけになっていまして、もう一つ、当局サイドで非常に心配なのは、連結と単体で今のような連結はIFRS、単体は日本基準と、こういうふうに、あるいはIFRSと極めてコンバージェンスした連結と、日本的な色彩の強い単体という連結と単体が大きく異なる会計処理を、ある時点でのスナップ・ショットとして置く場合に単体の情報が、課税当局は守秘義務があって外に出さないですけれども、会社法の計算書類として株主にだけ送付されるという事態は、資本市場の当局としては望ましくない状況だと思っておりまして、また、株主はインサイダー情報、開示制度上ディスクロージャーされていない会計情報を受け取っていますので、受け取った日以降株主は、その株式を売却できないことになります。

このように考えますと、連結と単体が大きく異なるという場合には、異なる単体の情報は会社法上の制度としてのみならず、一般投資者向けのディスクロージャー制度にきっちり位置づけてほしいという、そういう願いがございます。ただし開示のコストの負担が全体として重くなっているというのは私どもも十分に共有しておりまして、いかに作成者、監査人の負担を最小化しつつ投資情報として有用な、そういうリバランスといいますか、開示制度の全体の簡素化を図りたいと、こういうふうに思っているところでございます。

○安藤会長

まだまだご発言がおありかと思いますが、そろそろ終了の時間が近づいてまいりました。

次回以降も引き続きご審議をいただければ大変ありがたいと考えておりますが、報告書のように議決をして結論を出すことは、現段階では想定しておりません。もちろん議事録は当然あるわけですが、ここで行われたさまざまな議論は、何らかの簡潔な形で残すといったことがあり得るかと考えているところです。皆様のご意見も別途伺いつつ進める必要はあるかと思いますが、何とぞよろしくお願いいたします。

次回の予定について事務局からお願いいたします。

なお、本日時間の関係でご発言いただけなかった方におかれましては、できますればご意見を文書で事務局あてご提出いただければ幸いでございます。

○三井企業開示課長

次回の日程、今月の下旬を目途に日程調整をさせていただいております。後ほどご連絡させていただきたいと存じます。

○安藤会長

それでは、これで本日の総会を終了いたします。審議にご協力いただきましたこと、ありがとうございました。これにて閉会いたします。

以上

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企業開示課
(内線3672、3656)

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