金融審議会「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」(第5回)

日時:平成19年3月13日(火)12時30分~14時30分

場所:中央合同庁舎4号館9階 特別会議室

○池尾座長

それでは、定刻になりましたので、ただいまより我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループの第5回会合を開催いたしたいと思います。

皆様、ご多忙中のところご参集いただきまして、誠にありがとうございます。できるだけ多くの委員の方に集まってもらうために、時間調整ということで、変則的で12時半からというような感じになっています。それで軽食が用意されておりますので、適当に食べていただければと思います。

初めに、本日の議事について説明したいと思います。本日は、前の3回に引き続きましてヒアリングですが、日本の金融・資本市場の国際化に関して、有識者からヒアリングを行う予定でありまして、本日は3名の方を予定しております。当スタディグループの柴田メンバーと藤原メンバーに加えまして、外部有識者として三國事務所の三國陽夫さんをお招きしております。

三國さん、どうも本日はありがとうございます。よろしくお願いいたします。

ということで、お3方からのヒアリングですが、それに先立ちまして、事務局から資料の確認等をお願いしたいと思います。

○三井市場課長

それでは、資料、横長のものが4つで塊になってございます。1が柴田様、2-1、2-2が藤原様、資料3が三國様から頂戴している資料でございます。ご確認いただくように存じます。

以上です。

○池尾座長

それでは、早速お話を伺うことにいたしたいと思います。初めに柴田メンバーからいきたいと思いますが、15分ということで、よろしくお願いいたします。

○柴田メンバー

資料1の1ページをご覧いただきたいと思います。第1回の会合では、日本の金融・資本市場の国際化のためには、省庁の壁を超えた包括的な国家としての戦略が必要であって、不良債権処理などに対処している間に市場間競争で立ち遅れた我が国は、先行している諸外国から謙虚に学ぶことで挽回を図るべき、と申し上げました。

また、証券業ひいては投資銀行業を産業として発展させるためには、英国の金融監督当局のやり方を参考にして、リテール業務では消費者保護に軸足を置きつつも、ホールセール業務では高度な自由を許容するような、リテールとホールセール金融業務の監督を分離した二元的な監督方式を検討なさるべきだと申し上げました。

また、ホールセール金融・資本市場に市場としても厚みをつけるためには外国から学び、多くの多様な投資戦略をもつ運用会社としての機関投資家層を、日本でも育成することが急務であるという趣旨のことを申し上げました。本日は、この主張を踏まえまして、少し踏み込んだ議論をしてみたいと思います。

2ページをご覧ください。成功している国際金融センターはニューヨークやロンドンの例のように、自分の属するタイムゾーンでは圧倒的な占有力を持つものですけれども、東京と同じ時間帯では、香港とシンガポールが頑張っています。四半世紀前には約束されていたはずの世界三極の一画という地位でございますけれども、それを手に入れてからのロンドンとニューヨークの躍進とは対照的に、東京はまだスタートラインにも届いていないような感がございます。世界の3極を占めるどころか、地域金融センターの地位でも、中国とASEANをバックグラウンドとした香港とシンガポールに、後塵を拝する状況に至っています。外国金融機関は、アジア地域の本部は香港、シンガポールに置くケースが多く、東京は在日代表の居住地であります。経済的な規模と金融資産の保有額で、圧倒的に有利な競争条件を持つ国が、近隣の諸国との競争に後れを取るのは、自らに何か原因があるはずでございまして、自分でつくった原因は自分で取り除くしかございません。

さて、国際金融センターとは世界に開かれている市場のことです。しかし、それはリテールの金融・資本市場ではなくて、ホールセールの金融・資本市場のことでございます。リテール金融・資本市場はどれほど国際性があっても、あくまでも国内市場です。国際金融センターとはオンショア市場とオフショア市場を自由に行き来して、発行体である機関投資家を自由に結びつけることができる仕組みを持った、プロ同士のホールセール金融・資本市場のことでございます。

3ページをご覧いただきたく存じます。もちろん商業銀行の伝統的な業務、つまりコーポレートバンキング、キャッシュマネジメント、為替取引などでは東京市場の国際化は十分に進展をしておりまして、国際的に見ましても遜色がございません。ただ、東京市場が世界とアジアの仲介機能を果たしているわけではございませんし、また、国際化の進展と申し上げましても、伝統的なビジネス分野での限られた成功に過ぎません。

日本がさらに立ち遅れていますのは、世界の市場間競争で現在の主戦場となっているホールセール分野の投資銀行業務でございます。投資銀行業務は事業会社に対しては助言、引受業務を営み、機関投資家に対しては調査提供、証券取引を行う業務ですが、日本の金融・資本市場は世界第2の経済大国の地位に見合う役割を、この分野では果たしていません。投資銀行や証券業者がロンドン、シンガポール、香港などの国際金融センターに進出する前には、進出先やその周辺国で引受助言業務のお客様としてはどんな政府が、またどんな事業会社があり、証券取引のお客様としてはどんな資金運用会社があるか、つまり法人のお客様を想定したビジネスプランを書きます。ニューヨークに進出する海外の投資銀行も、ほとんどはホールセール市場で業務展開をいたします。日本に進出する外資系業者も、まずはホールセール業務の展開を念頭に置いてビジネスプランをつくります。この理由は、欧米での投資銀行の利益の源泉はホールセール分野であるからでございます。

それでは、彼らは十分な利益を日本のホールセール金融業務で上げているかといいますと、日本では苦戦をしています。不良債権、ゴルフ場など不動産に対する自己投資部門からの利益は大きいけれども、これはクライアントビジネスとは違います。また、民族資本も実はホールセール分野では苦戦をしています。外見上は日本の証券会社でもホールセールビジネスが順調のようには見えますが、その利益の主たる源泉は、リテールネットワークへの商品を組成供給するサービスに対する対価でございます。機関投資家や発行体だけを相手に完結する純粋ホールセールビジネスではございません。

4ページをご覧いただきたく存じます。民族資本も海外資本も、ともに苦戦をしているのが日本のホールセール市場であるとなりますと、問題は、日本の市場の構造そのものにあることになります。市場の自由度にはさらなる向上の余地があり、また市場のお客様を増やすことにも改善の余地がある。解決への鍵は、市場の自由度をどう向上させるか、市場のお客様をどう育成するか、この2つになります。

したがいまして、大きな柱の第一は、市場の自由度の向上でございます。ホールセール金融業務発展のためには、高度な自由を許容する監督体制が必要です。その具体案につきましては、別途ワーキンググループなどの場で体系的な議論をすべきでありますが、ここでは自由な発想で、今、この場で考えられるイメージを例示してみたいと思います。

bをご覧ください。第一にグローバルな投資家等仲介業者を日本に呼び込むために、当事者間の私的取引の契約につきましては、日本法に限ることなく、英米法の使用も明示的に認める。

第2に機関投資家相手の証券の募集販売につきましては、日本でも米国の144Aのような疑似公募規定を活用する。プロ投資家を対象とする場合に限りましては、日本語による開示書類に拘泥せずに、ユーロ市場で認められているような英文目論見書の使用も認める。

ご参考までに、米国の144Aは、米国の証券取引所に上場または店頭公開されていない未公開の証券につきましては、適格機関投資家に限りましては転売を認める制度です。適格機関投資家を相手とする限りは、SECへの登録が必要な米国の開示規制もかかりません。

ちなみに前回の会合でのデレック・モーン氏の発言に、ニューヨークで商売をするときは、顧客の投資家が国内であろうと海外であろうと、意識はしないというものがございました。印象的な発言です。オフショアとオンショアの機関投資家市場を結びつけて融合させることは、英国であると米国であると問わず、市場振興策の要となっております。米国の144Aはこのための仕組みでございますが、日本と米国では証券関係の法律体系が似ておりますので、行政サイドが米国の144Aにならったプロ私募の規定の柔軟な活用を関係者に対して促すだけで解決可能なのかもしれません。検討が待たれるところでございます。

第3に、東京や大阪の証券取引所につきましては、機関投資家相手の簡易上場市場の創設を認めて、そこでは英文の目論見書、及び国際的に認められた会計基準による財務諸表を無修正で使用することは認める。こうした施策でオフショア市場とオンショアの機関投資家市場を結びつけ、ひいてはグローバルな投資家の対日進出をやりやすくする、こういったイメージの試案でございます。

国際金融の世界では、英米法、米欧の会計基準、そして共通言語としての英語が世界標準となっていることは認めざるを得ず、個人投資家ならば日本の英語教育の水準が十分でない以上、英文目論見書の使用には議論の余地がございますけれども、プロである機関投資家が相手ならば、自己責任の範囲で、英文目論見書の使用を認めればよいと考える次第です。

ここで脇道に少しそれますけれども、監督の仕組みにかかる議論の一環として、一般投資家を対象にした公募につきましても、一言だけつけ加えさせていただきたいと存じます。新興企業の株式のグローバル公募において、日本での当局による審査の段階で、国際会計基準のIFRSを使ってもよいが、それでは、現地の当局の監督体制は十分といえるのかという質問が出て、引受の担当者が対応したことがございます。窓口の人員には限りがあります。また、窓口の方々の責任感に依存して、根幹である現地の監督体制のチェックまで求めるといたしますと、少々無理があるように思います。窓口に要求する仕事は個別企業の開示だけに留めて、現地の会計とその監督体制につきましては、もっと大きな仕掛けで、しかも迅速に対応した方がよいような気がいたします。グローバルオファリングの場合、欧米の当局や証券取引所も審査をしておりますので、当局間での国際的な責任分担体制を考える余地もあるかと存じます。

5ページをご覧いただきたく存じます。さて、国際的な金融センターは監督体制の整理だけで成立するものではございません。市場のお客をどうやって増やすか。つまり、市場そのものの振興策が必要となります。これが本日の提案の2つ目の柱でございます。前回のデレック ・モーン氏の発言に、「日本市場は未成熟」という発言がございました。これに関連いたしまして幾つかの論点を提示してみたいと思います。

グローバルにホールセール金融ビジネスを展開して利益を上げている欧米業者が、なぜ日本では利益が上げられないのか。デリバティブや証券化などの先端金融技術を学ぶ能力のある人が多い日本で、なぜ金融技術のイノベーションが起こらないのか。多額の国費をつぎ込んだ日本長期信用銀行の再生でリスクをとり、利益を上げたのが、なぜ外国の投資家で、日本の公的年金ではなかったのか。

第1の論点です。グローバルにホールセール金融ビジネスを展開して利益を上げている欧米業者が日本では収益が上げられないのはなぜか。日本ではホールセール市場の規模が小さく顧客層が限られているからです。資産運用業に産業としての広がりがなく、資産運用文化が社会にまだ定着をしていない。端的に申し上げますと、店を開いても来店してくれるお客様が少ない市場でございます。

この実態は日本人の言語感覚の特異性にはっきり反映されています。例えば、「機関投資家」という言葉を聞いて、日本人の頭に真っ先に思い浮かぶのは、銀行、信託銀行や生命保険会社です。一方、欧米人にとりましては、機関投資家に生命保険は入りますが、あとは年金の基金、大学基金、または第三者のお金をファンドの形で運用する運用会社であるかと思います。日本ではこの運用会社の存在感、ひいては運用文化の浸透度が極めて希薄でございます。

6ページをご覧いただきたく存じます。これは日本と米国の資産運用会社の規模を比べたものです。2005年のデータでございますが、右に載っている日本の最大手の業者でありましても、米国の第25位にさえも、規模で遠く及びません。また、ここに載っております運用会社は、伝統的な運用手法の会社だけでございますので、これに代替投資といわれるプライベートエクイティやヘッジファンドの運用会社を加えますと、世界の投資銀行から見ますと、日本の機関投資家市場からの収益機会はさらにお寒いものに映ります。

7ページをご覧いただきたく存じます。このページは投資信託と定期性預金規模を日米で比べたものでございます。間接金融主体のものになっている我が国と、市場型金融モデルが発達しているかの国の違いが出ています。いうまでもなく投資信託は小口の資金でも分散投資を可能とする投資手段サービスでございまして、お金持ちのためというよりは大衆資本主義の象徴でございます。欧米におきましては、信用供与の主体がもはや銀行ではなく、証券化商品を購入している運用会社に移行しています。その彼我の差をつくっているドライバーはここにございます。

次のページをご覧いただきたく存じます。第2の論点は、先端金融技術を学ぶ能力がある人材が多数する日本で、なぜ金融技術のイノベーションが起こらないのか。実は日本の金融機関でもスワップ、デリバティブ、証券化のテクノロジーをマスターしている人間は十分ございます。

それでは、なぜ日本の金融機関からイノベーションが出ないのか。一般的には日本の金融機関の組織的な硬直性などが言われておりますけれども、それだけを理由とするならば、私は全く違うと思います。日本の金融機関は利益機会の追求には貪欲です。利潤の機会があれば必ず参入してきます。強いて申し上げますと、余りの貪欲さに市場に参入するたびに、その市場の平均的な利潤を押し下げてしまうきらいがございますけれども、要は儲かると思えば必ず組織的な参入をしてまいります。日本の金融機関からイノベーションがなかなか出てこないのは、イノベーションをしても、それを受け入れてくれるお客様が日本では限られているからです。金融技術のイノベーションはデリバティブ、スワップ、証券化、CLO、CDS、コモディティ関連商品などの分野で進展してまいりました。これらの新商品を開発いたしましたのは投資銀行ですが、実は、これを受け入れる熟練度が高いプロのお客様がいて、初めて商売として成り立つわけでございます。つまりイノベーション推進のエンジンは、多様なストラテジーを持つ運用会社の間の競争でございまして、その多様性を可能にする開かれた年金市場、投資信託市場の存在です。

先日は、日本の公的年金システムが置かれている制約の話をさせていただきましたが、運用の自由がないところに、運用手法のイノベーションも多様化も達成のしようがございません。年金基金の運用成績の向上のために、自前運用部門と民間の運用会社がそれぞれ先端的な運用手法を駆使して競争をする、そういった運用文化が日本に登場すれば、金融技術のイノベーションが日本でも進むと考えます。

9ページ目でございます。第3の論点は、多額の国費をつぎ込んだ日本長期信用銀行の再生で、リスクをとって利益を上げたのが外国の投資家であって、なぜ日本の公的年金ではなかったのかです。新生銀行で利益を上げたのはクリス・フラワーズとリップルウッドが運営するプライベートエクイティファンドでした。日本の公的年金からは運用の自由が奪われていて、外国のプライベートエクイティファンドに出資をする道もなければ、日本のプライベートエクイティファンドに投資する道もなかったのは残念です。

日本の国民は納税者であり、公的年金の受益者でもあります。納税者として新生銀行の再生の費用の負担はするけれども、公的年金の受益者としては、新生銀行の再生からの利益には参加できなかった。もちろん道が開かれていても、競争状況などで新生銀行への出資には参加できなかったかもしれません。しかし、競争に参加することさえにも道が閉ざされているような仕組みには改善の余地があるかと思います。

ちなみに、欧米の公的年金は、債券、株式の流動性の高い市場で資金運用をする一方で、その一部をオルタナティブ投資といわれるヘッジファンド、プライベートエクイティファンド、そしてインフラファンドに投資をすることで運用成績の向上を図っています。また、年金運用にとりまして大切な要素の1つに、インフレ・ヘッジがございます。公共的な料金にはインフレ連動性があります。公共的な料金からの収入が見込める高速道路、空港ビルなどをインフレ・ヘッジ目的で買収する年金も存在することを申し述べておきたいと思います。これは、前向きのインフラ投資のための民間活力が必要な我が国にも参考になる話ではないかと思います。

10ページ目です。最後に日米の年金投資家の規模と、日豪の投資信託市場の規模の比較をお見せしてプレゼンテーションを終えたいと思います。ここでは公的年金の200兆円に対して、年金積立金管理運用独立行政法人の金額は100兆円相当と過小に示されておりますが、それでも断トツに大きいことはご理解いただけると思います。

次のページをご覧いただきます。また人口2,000万のオーストラリアの投資信託市場は、人口1億2,000万の日本を凌駕するペースで成長しています。第3回の会合で申し上げた施策、すなわち日本の年金積立金管理運用独立行政法人に課せられている制約の除去、またオーストラリア並みの401k制度の充実をお考えいただく時期が来たかと思います。

12ページに、これまでの主張のまとめをつけさせていただきました。これは金融・資本市場の振興策に限っての試案でございますけれども、これに加えて法人税、労働強化、教育などの包括的なパッケージにつきましては、ロンドンやシンガポールを相手に、東京や大阪をベンチマーキングするのも一考かと存じます。ご覧になっていただきたいと思います。

巻末の新聞記事のコピーでございますが、外貨準備の運用につきまして、シンガポール方式が中国にも導入されていること、その次は、米国での大学基金の運用につきましての実態を示すものです。日本のホールセール金融・資本市場に、市場としての厚みをつけるためには、奥の深いさまざまな投資戦略を持つ機関投資家層を日本でも育成することが急務です。そして、それに必要な資源、すなわちお金だけは日本に十分にあるということは強調しておきたいと存じます。

本日は公的な年金の200兆円につきまして申し上げましたけれども、シンガポール方式で外貨準備の有効活用をする国も増えていることを考えますと、100兆円の外貨準備も日本の国民の資源と考えられます。また、もとより1,500兆円の個人金融資産も、受益者の利益と、日本経済の活性化の両方に役立てるような道があるはずでございます。必要な資源がある以上、日本は周辺諸国に比べて、圧倒的な競争上の優位性があるはずです。惜しむらくは資産運用文化への理解が不足している我が国は、この貴重な資源に自ら鎖を巻いて自由を奪っているように見えます。この国に必要なのは、自らに課した呪縛を解き放ち、資産運用文化を育み、金融資産に自由を与えることではないでしょうか。

以上でございます。

○池尾座長

どうも大変ありがとうございました。

討論、質疑はお3方のお話をすべて伺った後に一括して行いたいと思いますので、引き続き、藤原メンバーからプレゼンテーションをお願いしたいと思います。

○藤原メンバー

アドバンスト・ビジネス・ダイレクションズ株式会社代表取締役をしております藤原と申します。

皆さん、まず参考資料の方を見てください。図 I -1、これは過去20年間の米国、英国、日本、ドイツの株式指標の動きを示した表です。アメリカはダウジョーンズが6.6倍になり、英国は4倍になり、ドイツは4.3倍になっております。先進国の株式市場で日本だけが現状維持という状態になっております。私は、金融・資本市場に長く仕事をしてきて、こういう状況が偶然起こったとは思っていません 。

次に、図 I -2を見てください。これはアメリカのリサーチ会社が年1回発表するヘッジファンドマネージャーの報酬です。前回のミーティングのときに、アメリカの商工会議所の方がいろいろいいアドバイスをしてくださいました。私が聞きたかった質問の1つが、日本では格差問題が大きくなってますが、アメリカではヘッジファンドの代表が年収1000億円以上もらっても格差の問題にはならないで自然に受け入れられている。この土壌の違いは何なのかについて少し疑問に思ったので、この資料をつけ加えました。

図 I -3は、私が前に日本経済新聞にちょっと書いた、外資系金融機関で働きながら感じたことです。

それでは、プレゼン資料の2ページ目を見てください。金融・資本市場の国際化においては、将来目標をつくることが大事だと思います。目標設定の例として1つ挙げられるのは、日本の金融・資本市場をアジアにおけるナンバー1市場にするという目標です。もう一つは、日本の発行体と日本の投資家のための市場、つまり、ドメの市場という目標です。残念ながら、私が長らく仕事をしてきた日本の金融・資本市場関係者は2の方の目標でいいと主張する方たちが多いです。

私は1の方で行かざるを得ない、という意見の持ち主です。それはなぜかといいますと、日本の金融・資本市場の国際化で「国興し」ができると考えているからです。つまり、金融セクターを拡大することで、日本経済を発展させ、日本の国民の生活を豊かにし、持続的な雇用を生み出すという「国興し」が、今からでも可能だと信じているからです。この目標を実現するためには、中長期計画の作成が必要です。そして、中期計画は、省益を超えた国家プロジェクトとして作成されることが大事であると思っています。その際、どういうものさしを使ってナンバー1であることを計るのかという基準を決めておくことも重要であると思い、いくつかの例を2ページ目の下に書きました。

次に3ページ目を見てください。私はイギリスの金融センター、シティで長く仕事をし、ビッグバンを体験しました。ビックバンと民営化の実施後、イギリス経済がマクロ経済的にどう甦ったかについて、ビックバン10年後の数字を使って少し説明していきたいと思います。

英国の場合、目標は明確で、「欧州一の金融・資本市場を目指す」でした。その目標を実現化するために、手数料の自由化と民営化を英国政府は実施しました。

ここからは図 II -1を見てください。英国の金融サービス業のGDPに対する比較は、1982年の11.5%から10年後には17%と伸び、現在は約20%です。日本はいまだに8~9%です。

次に、図 II -2を見てください。これは、いかに持続的な仕事の雇用が創出されたかをあらわしている表ですが、1981年から1991年の10年間に、普通銀行業務の雇用はそれほど増えませんでしたが、為替、引受、M&A、投資顧問業務の雇用は7割増加しました。また、ビジネスサービス部門の雇用も5割増えました。ビジネスサービスとはITのことです。金融はイコール信用で、その信用をITの開発によってつくったようなところもあります。繰り返しになりますが、金融業務が拡大することで、ITに対する雇用も増えていったのです。他には、会計士、法律事務所も雇用が創出されております。

また、金融の専門家を育成するために、社内研修では追いつかなくなり、社外での研修機関を使って人材育成をしていきましたので、ここでも雇用が生まれました。

次に、図 II -3を見てください。これは1991年を100とした金融業務の年間取引額を示した表です。例えば外国株の場合、取引額はほぼ4倍近く、英国株も3倍、ユーロ債引受の場合は2倍へと増加しました。下から2番目の国際投資顧問、これはファンドですが、これもほぼ8倍に取引額が増加し、雇用の創出に繋がったのです。

次に、図 II -4を見ていただきたいのですが、この表は監査法人の場合、1982年から1992年までに手数料収入がどれだけ増えたのか、また、プロのスタッフの雇用がどれだけ生まれたのかについて示しています。手数料収入は7倍、プロのスタッフは2倍に増えました。私がイギリスで仕事をしていてびっくりしたことの一つは、イギリスの法律事務所というのは、大手の場合、手数料の7割が金融サービス業務からということです。法律事務所も金融機関がグローバル化すると同時に業務をグローバル化していき、雇用と収入を増やしていったのです。

次に、シティで働く人達の所得の増加について見ていきたいと思います。図 II -5を見てくださればわかりますように、外国為替のマネージャーの年収は、1980年と1992年の12年間に年平均25%で上がってきました。この数字はインフレを考慮しておりません。次に図 II -6を見ていただきたいと思います。これは民営化する前の公的機関(例えばイギリスの電電公社)の役員の年収が、民営化した後の10年間でどれだけ増えたかを表している表です。BTは1984年に民営化しましたが、民間に移され、民間のリスクをとっての経営、株主のための経営をすることによって、役員年収は1,000万円から6,000万円へと6倍に増えました。英国の労働党は、不公平であると政治問題として国会で取り上げましたが、機関投資家は、経営陣は株主価値をそれだけ上げたのだから当然であると主張し、役員報酬の増加を受け入れました。

次に、図 II -7を見ていただきたいんですが、これは1990年代にイギリスのIT投資がいかに伸びたかを産業別に表したものです。金融が拡大することにより、スワップとか、デリバティブ業務が増え、その結果、IT投資が非常に伸びていました。その中で、金融業のIT投資は英国平均のIT投資の2倍に増えたのです。

さて、図 II -8を見ていただきたいんですが、シティで金融業務取引額とか仕事が増えて、雇用が生まれた後に何が起こったのかと申しますと、オフィス・スペースの不足が深刻化していったのです。それゆえ、英国政府は第2の金融センターを設立するために、ドックランド開発に資本を投下し、それによりインフラ投資への国家予算が増加しました。例えば、地下鉄の延長とか、シティの飛行場の建設、また道路の拡張工事とかが行われ、20億ポンドぐらいの国家予算が10年間で使われました。

その次の図 II -9ですが、これは1993年の1年間に、4,100万人の人達がヒースロー空港を利用したことを表している表です。ヒースロー利用客の半分がビジネスマンで、ビジネスマンにイギリスへ来てもらうことにより、イギリスのホテル、タクシー、バス、それからレストランの売上は伸びていきました。こういう感じで、英国政府の最初の目的はイギリスの金融市場を欧州一にしようということでしたが、計画を実施することで、結果的には「国興し」が実現し、英国は経済大国として豊かになっていったのです。

次に、金融・資本市場を国際化するための取組み、施策について二、三お話ししたいと思います。金融・資本市場の国際化を実現するには、投資家、発行体である企業、銀行、証券会社、証券取引所、監督官庁、法務当局、マスコミなどのチームワークが必要だと思います。皆が同じ目標に向かって計画の実施に協力することが大事です。

私は先ほど国家プロジェクトの実施ということを話しましたが、国家プロジェクトとして実施する場合は、実施に協力することが国民にとってどういったメリットがあるのかということを、説明する必要があります。また、目標を実現化するための中長期計画には、30代、40代の人たちを参加させてつくるということも大事ではないかと思います。経済を活性化するには、若い人たちのエネルギーが必要だからです。

次に、6ページ目を見ていただきたいんですが、日本では個人金融資産が1,400兆、1,500兆とあるわけですが、ゼロ金利にもかかわらず、50%の個人金融資産が預貯金になっています。その表が図 III -1です。米国、英国と日本との比較をすると、その比率がいかに高いかが分かります。

図 III -2を見ていただきたいんですが、これは金融広報中央委員会の資料ですが、日本に個人金融資本が1,400兆円あるにもかかわらず、70%の方が株式、債券などの証券投資についてほとんど知らない、また57%、60%近くの人が金融商品についてあまり知識がないと答えています。この数字を下げるための金融教育が必要だと思います。

15ページのリスク・リターン表を見て下さい。私は金融で仕事をしてきているので、少ないリスクをとるとリターンは少なく、大きなリスクをとるとリターンは大きくなるということは知っています。しかし、日本ではリスクは危険と訳され、危険なことはしてはいけないという結論になってしまいます。リスクの定義、リスクとリターンの関係の説明を、もっと一般の人たちに教えてもいいのではないでしょうか。

図 III -4とか図 III -5は、時間が少なくなってきたので飛ばします。7ページ目を見ていただきたいと思います。金融庁、証券取引所、証券業協会がとるべき施策について、簡単に触れたいと思います。これから団塊世代が大量に退職していくのですが、例えば証券会社をリタイヤする人たちを対象に、プログラムを設定して講習を受けてもらい、投資教育セミナーの講師としての資格を与えて、小学生とか中学生たちに金融一般のことを教えてもらい、金融の知識を増やしてもらう試みがあってもいいのではないでしょうか。その際、私は投資ゲーム的なアメリカ的な教え方は反対です。それよりも、どうやって経済活動が営まれているのか、企業はどうやって資金調達するのか、といった点について、中学生ぐらいから、ある程度教えてもいいのではないかと思います。また、テレビの番組を使ったりすることもいいのではないでしょうか。

次に、日本の市場で不足していることについて説明したいと思います。それはアナリスト、絶対的にアナリストが不足しております。その結果、上場企業でも、アナリストによってカバーされない企業というのが日本では非常に多いです。そのために、私は証券業協会が、アナリストを育成する講座とか、あと、国際化ということでは、英語を話せる人たちを増やす講座を開設することを提案します。英語での取引を増やすための金融英語実践講座とかを証券業協会が実施していくことも、非常に大事なのではないかと思います。例えば、シンガポールとか香港はアジア第一の金融市場を目指してますが、彼らの日本との比較優位性の一つに、英語を話せる金融のプロが沢山いることが挙げられます。こういう市場では、イギリス人が仕事をしているのではなくて、中国人がサバイバルのため、雇用のために英語を覚えて、そこで仕事をしているのです。

次に3番目の点ですが、税制措置。これは非常に大事な点だと思います。シンガポールや香港は、日本に比べて税金が非常に安いです。

4つ目のポイントは、先週の委員会に出て、飛山さんのお話を聞いていて、なるほどと思った点についてです。国内株の取引の6割が外国人株主中心に行われているのに、一方で、公的年金は250兆円の資金があるのに、基本ポートフォリオの11%しか国内株に投資できないという現実です。日本株の比率を上げるような改革が必要だと思います。

次のポイントは、既に話したことにも関連しますが、英語や中国語で仕事をできる日本人を増やす施策の実施についてです。世界中の人たちが中国に注目しております。日本は距離的に中国に近いですし、日本で資金調達をする際、英語の目論見書が許されるようになれば、それだけ供給と需要サイドが広がると思います。これは雇用の増加にもつながります。

次に、8ページ目を見ていただきたいんですが、政府関係者、経営者が取り込むべき施策について話をしていきたいと思います。企業経営者の金融教育というのを、もうちょっとしてもいいのではないかと思います。どういう形でするのかというのは、今の段階では、時間もないことですし、申し上げませんが、例えば銀行借入と私募債と増資、株式で資金調達をするというのはどういうメリットとデメリットがあるのかとか、企業価値を高める経営のためには何を経営者はすべきか、どういう意味かということについて、企業家が学ぶようなチャンスがあってもいいのではないかと思います。

それから、日本の企業経営者は、今まで、どちらかというとP/L中心の経営をしてますが、これからはもっとB/Sを意識した経営を学んでいく必要があると思います。理由は、株主はB/S経営に注目しているからです。

政府関係者については、専門家の育成が大事だと思います。なぜかといいますと、グローバルのルールづくりに政府機関の方たちが参加していくということが、今後もますます増えてくると思うからです。ルール作りの段階で自分達の意見が通ると、半分勝負に勝ったことと同じだと思います。

特に、デリバティブ業務に関しては、これから、いろいろな形で、またルールづくりが始まっていくのではないかと思います。その場合、デリバティブ取引を市場でやったことがある人たちも含めてのルールづくりというのが、より質の高いルールづくりになるのではないでしょうか。役人と金融マンとの連携も重要だと思います。

図 III -6を見ていただきたいと思います。これはファイナンシャルタイムに2004年3月11日に載ったミスター・フラワーズについて書かれた記事です。日本は長銀に公的資金を8兆円入れ、リップルウッドに10億円で売り、再上場で元GSのフラワーズが10億ドルを儲けたと書かれていますが、この記事を見て、日本人として残念に思いました。金融・資本市場が国際化されても、こういうことを許してはいけないと思うからです。納税者のお金を使った場合は、納税者に利益が起こるような仕組みを、今後は目指してもいいのではないかと思います。

次に、ヘッジファンドについて触れたいと思います。私は金融市場にいて、これからますます日本にはヘッジファンドが来るように思います。ドイツ政府もイギリス政府も、ヘッジファンドをどう規制していくべきかについて頭を悩ませています。政府間のヘッジファンドに対するネットワークづくり、ルールづくりに参加していくことは、今後日本の市場を国際化する上でプラスになると思います。

さて、9ページ目を見ていただきたいんですが、これはちょっと“釈迦に説法”と言われるかもしれませんが、私は日本が金融・資本市場の比較優位性、日本の市場が、例えば香港とかシンガポールについてどういて点で比較優位性があるのかという資料を見たことがありません。

図 III -7と図 III -8、特に図 III -8はドイツのリサーチ会社が、ドイツとフランスとイギリスの金融・資本市場の比較優位性を調べたものです。こういう感じの項目で、日本もアジア地域の中で、どう比較優位性があるのかというのをまとめてみることを提案したいと思います。

さて、次は金融センターの設立についてですが、日本の中には金融センターがあるような感じで、実はありません。今後は金融センターの設立というのを考えて、金融・資本市場の国際化に取り組んでもらいたいと思います。

最後の2つは、お給料についてです。イギリスは金融の自由化の実施により、結果的にはウィンブルドン現象が起こりましたが、私が最初に英国へ行った1980年代は、イギリス人はウィンブルドン現象が起こるとは思っていなかったと思うんです。1つ起こったことは、アメリカの金融資本の方が大きくて、ロンドンの市場が拡大していったときに、米国金融機関の中途採用・新入社員の給料を上げていき、優秀な人材を集めていきました。その結果、イギリスの銀行とアメリカの銀行の給料格差が開いてきました。これは私のただの心配に過ぎないのかもしれませんが、今、初任給では日本の銀行と米系とでは1対3ぐらい、つまり、米系の方の初任給が3倍です。優秀な人たちが最初から米系銀行に行くという現象が起きているような気がします。

この給料格差は、日本の上場企業の経営者の年収にも現れています。私は日本の経営者の報酬は増やすべきだと思っています。例えば英国の場合、民営化後、公的機関の経営陣の報酬が大幅にアップしました。日本はどうかと申しますと、図 III -9からも分かりますように、英国電電とNTTとかを比較した場合、売上高ではNTTがBTの3倍です。私はNTTの経営人の年収はわかりませんが、年収では3分の1以下だと思います。日本の経営者は一生懸命頑張っても見返りが少なく、そのリスクに対するリターンが合わない状態が長く続くと、誰もリスクをとらなくなってくるような気がいたします。上場企業の経営人がリスクをとって企業を大きくした場合は、それに見合った報酬が支払われることが大事だと思います。

以上でございます。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、三國参考人、お願いいたします。

○三國参考人

本日は「日本の金融・資本市場の国際化」というテーマでお話し申し上げる機会をいただきましてありがとうございます。

皆様のお手元にあります資料3に基づいて説明してまいります。最初に1ページをあけていただきますと、そこに私が今日お話し申し上げたいポイントがございます。2ページ以下はグラフと図ですが、適宜参照していただきながら進めてまいります。

はじめに、これからの日本の国際化について考えてみたいと思います。国際化と申しますと、日本から世界市場に向けて、製品やお金の輸出をいかにして拡大するかということが頭に浮かびます。多少逆説的になりますが、私は国内市場を整備して内外の製品やお金の移動、特に内への移動を活発にすること。その結果生活を豊かにして、国内経済が成長することではないかとみています。そして、その意味での一連の国際化の進展が必要だと考えております。

なぜこのようなことを考えるかと申しますと、日本では輸出と設備投資が経済成長のエンジンとなり、貿易黒字が恒常化しています。その黒字分が資本輸出としてアメリカに戻り、日本国内ではお金が回らず、なかなかデフレからの脱却には至っていません。国内市場の狭隘化が進んでいます。

さらに日本をはじめとするアジア諸国や石油産出国の黒字拡大と、アメリカの赤字拡大が世界的な過剰流動性を発生させています。この2点を解決する目的で、国内市場の整備に重点を置く国際化が必要です。

お手元の資料をご覧いただきながら説明いたします。2ページをご覧ください。これは日本の貿易黒字がアメリカに戻る仕組みを整理したものです。まずマル1マル2ですが、日本企業は品物をアメリカに輸出します。アメリカは品物の代金を、ドルで日本の企業に払います。日本企業は受け取ったお金で、給料や原材料の仕入代金を支払わなくてはなりません。しかしドルでは払えません。そこでマル3にあるように、日本の銀行や投資家にドルを売って円を買います。円になれば、日本企業は従業員に給料が払えます。このように、輸出関連の日本企業では代金の回収が進み、お金は潤沢です。

一方、ドルを買い取った日本の銀行や投資家は、そのままドルで運用します。例えばアメリカの国債を買って持ち続けます。マル4のところです。ドルを売って円を買うと、日本は出超ですから円高になり、輸出の採算が悪化するからです。こうして輸出代金はグルリと回ってアメリカに戻ります。日本全体としてみますと、輸出代金は使えるお金として手元に回収されていません。

アメリカは日本から品物を輸入すればするほど、お金も入り、経済は活性化します。財布が空になるまで買い物をしても、次に財布をあけたときには、お金が戻って溢れています。私は、このことをアメリカの“魔法の財布”と呼んでおります。これについてはいろいろな表現がありまして“涙のない赤字”という表現もございます。これがマル5の過剰流動性の根因です。そして、マル6の住宅ローンを拡大して住宅バブルをつくり出しました。

さらにマル7にありますように、アメリカから溢れたお金は海外への証券投資となり、日本企業を買収する資金ともなっているわけです。その上投資をすると、そのお金もまたアメリカに戻ってくるのです。結局のところ、日本からただで無限に買い物ができてしまう仕組みになっております。

アメリカの過剰流動性を別の視点から整理したのが3ページの図です。下の方に日本とアメリカがあり、日銀とFRBがそれぞれ金融を緩和しています。ちょうどアメリカのITバブルが崩壊した直後の状態です。アメリカの赤字と日本の黒字が続く限り、日本からアメリカへの資本輸出がなされます。いわば2つの中央銀行がそろってアメリカに資金を供給し、歴史上まれな過剰流動性をつくり上げることになりました。

それでは、本格的に日本の国際化を進展するためには、どのようにしたらよいのでしょうか。私は3つの点を考えております。第1は「強い円」により国内市場を拡大すること、第2は経済成長のエンジンを「輸出と設備投資」から、「消費と住宅投資」に転換すること、そして第3は日本が世界の「買い手」となることです。これらが実現されたとき、経済成長率を高めるという意味において、日本の国際競争力が向上すると考えられます。

円が強くなりますと、輸出採算が悪化するため、反射的に円高阻止となりがちです。しかし、自国通貨である円が強いということのプラス面とマイナス面を、正確に議論する必要があると、私は考えております。「強い円」は国内の購買力を大きく高めることができます。消費と住宅投資の拡大をもたらします。私は家計部門が主役となって、国内市場の拡大をもたらすとみております。そして輸入を拡大して世界の買い手となることが、お金を国内に呼び戻し、デフレを終了させます。そればかりか、日本が市場を提供することができれば、外交上の日本の位置づけを高めることにもなるのではないでしょうか。

具体策としては4つあると考えています。まず第1に金利の正常化でございます。具体的に申し上げると、現在、日本銀行の貸借対照表を見ますと、大体30兆円前後のお金がタンス預金となって市中に、それこそ土の中に埋められているような状態になっていると推定されます。このタンス預金を銀行システムに戻すことが大事だと考えております。金利を上げていってタンス預金を解消させることになりますと、銀行の流動性が回復しますから、銀行が貸出をしやすくなります。また金利が上がってきますと、外国に流れていたお金を日本の国内に呼び戻すことにもなろうかと思います。

2番目に、お金が日本の銀行に戻ってきたといたしましても、そのお金を借りてくれる方々が出てくる必要がございます。その場合、最後に残っているのは、私は家計部門の住宅ローンではないかと考えております。住宅ローンの保護育成と既存住宅の流通市場の整備が大事だと思っています。特に税制で大きな役割を果たせると思いますのは、今まで日本の場合の家計部門では、お金をためるときに税負担が優遇され、お金を使った場合にはほとんどメリットがない仕組みでございました。これを180度変えまして、受取利子を総合課税の対象にし、逆に住宅ローンの支払利子を損金算入ができるという形にします。家計部門がリスクをとって住宅を建てた場合に、支払利子を所得控除することによって、政府としてはお金を使うことにインセンティブを与える、これが大事な施策ではないかと思います。

3番目は、今後の銀行の国際業務を円建てを中心にしていくことです。私どもでみておりますと、1980年代に日本の銀行は国際化を進めました。正確には預金ではないと思いますが、ドル建ての預金を集めまして、ドル建ての融資をしてきました。多額の対外資産と負債を積み上げていったわけです。銀行が信用不安に陥った場合に、アメリカのFRBは、ドルの預金を持っているアメリカの銀行に対してはラストリゾートとして働きますけれども、日本の銀行に対してはそういう義務はございません。一方、日銀はドルで信用創造できませんから、ドル預金に依存する日本の銀行を助け切れません。

90年代後半に入りまして、日本の銀行が金融危機に直面したときに、海外で日本の銀行が取りつけに近い状態に遭ったことがございます。そのときに、結局のところ、日本国内から多額の送金をせざるを得ない状態に追い込まれていって、日本の大手金融機関が経営破綻したのではないかと、私どもはみております。こうした経験を踏まえて、これから銀行の国際化を進めるときには、円建て中心になさることが必要ではないかと考えています。

それから最後に申し上げたいことは、海外からは円建ての国債で資金を調達し、海外へは株式で運用することです。

この点につきましては、4ページのグラフをご覧いただきたいと思います。ここには、日本とアメリカそれぞれの対外純資産のGDPに対する比率が出ています。アメリカはご覧いただいておわかりのように、1989年に債務超過になりました。それ以来、債務超過状態が20年近く続いております。しかし、これだけの対外債務を抱えているにもかかわらず、過去90年にわたり、海外との利子や配当の収支は黒字を続けてきました。

このことは、5ページのグラフでご説明します。いくら海外から借金をしても利子や配当の受け払いが黒字であれば、当面問題は表面化しません。これはわずかな金額だということでしょうが、それにしても、1915年に所得収支が黒字化して以来、90年間、黒字が続いております。去年は恐らく、まだ正式に発表になっていないと思いますけれども、赤字になったと推定されております(注:改訂値で所得収支は黒字となりました)。

このことが「強いドル」の理由の1つというふうにいわれてきたわけでございます。これはある意味で、一見不可解なことに見えますけれども、アメリカの場合は、海外に対する投資では株式投資が大きく、海外からの調達は信用が高く、金利が低い国債等の債券が中心だからです。

次に日本の場合はどうかといいますと、アメリカとは全く逆になっています。

次の6ページをご覧いただきますと、日本の対外資産の内容が出ております。対外資産の中で直接投資と株式投資、いわゆる資産の取得に関しては少ない金額です。一方、外貨準備を含めた対外債券投資が圧倒的に大きい。これらは資産の取得ではなくて、言ってみれば請求書を送っているような話でございます。

7ページには、海外から日本の国内に向けての投資がありますが、これは株式投資が中心でございます。対内直接投資は少なく、対内株式投資が多額になっております。

この数年、海外からの株式投資が大きく増えてきています。そして、日本からの海外への投資は債券が中心になって増えています。ということは、まるで日本の株式を購入する資金を海外に提供しているように見えるわけでございます。このことも、先ほど申し上げましたように、海外が日本の株式を買う、その代金を日本が提供するという形になっていることを示していると思います。

最後に、日本人は“額に汗して働く”ことを厭いません。その働きの代償をきっちりと手にして、生活に豊かさを求めることが実感のある経済成長をもたらすと考えています。私は格付けの仕事を通じて貸したものを回収することの大切さを理解しております。

ご清聴ありがとうございました。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、今から質疑応答、自由討議に移りたいと思います。お3方からのプレゼンテーションに関するご質問とか、ご意見等がありましたら、ご自由にご発言いただきたいと思いますので、挙手をいただくか、ネームプレートを立てていただきますようお願いいたします。

平野さんからどうぞ。

○平野メンバー

本日お伺いいたしましたお3方のご意見、大変に示唆に富むものであったと思います。特に柴田メンバーからのプレゼンテーションの中にございました機関投資家育成の重要性、この点につきましては、私は全く同感でございまして、少し補足も含めましてコメントをさせていただきたいと思います。

実は、私、1994年から2001年まで、ニューヨーク市場に身を置いておりまして、ちょうどその間、アメリカでは、いわゆるディスインターミディエーションが始まり、その中で機関投資家がだんだん大きくなってくるという現象がございました。90年代の初めに、いわゆる3つのL、土地-不動産ですね。それから、レバレッジドバイアウト、あとラテンアメリカ向けの貸出が不良債権化するという現象がございまして、商業銀行の持つ貸出能力、あるいは信用リスクテイク能力というのが著しく低下したという中で、資本市場と投資家が直接結びつくという動きが活発化したわけでございます。

その中で、先ほどからもご紹介があるとおりで、機関投資家が次第に多様化しておりまして、伝統的な生命保険会社、あるいは基金に加えて、資産運用会社、ヘッジファンド、最近ではプライベートエクイティファンドというふうに、さまざまなリスクプロファイルを持った投資を手がける機関投資家が育ってきたということがございます。それがアメリカの市場に厚みを増したという歴史がございます。

一方、このスタディグループの中でも、早い段階から話題になっております東京市場をどうするか、ということについて申し上げますと、日本の個人の金融資産、1,500兆円という個人金融資産をどう活用するかというのが大きなテーマだろうと思います。先ほど、藤原メンバーからもご指摘があったとおりで、引き続き50%近くが預金のままで滞留している。確かに、過去数年、低金利の中で投信であるとか、あるいは変額保険、年金保険等に資金の集中化が始まっているということはございますけれども、最近、実は少し金利が上がってくると、私どもの銀行でも起こっておりますが、むしろ定期預金に回帰するというような現象が一部見えてきているということで、なかなか日本の個人の投資を、資金を貯蓄から投資に振り向けるというのは難しい面がございます。そういう意味で、ただいま話題になっております機関投資家というのが、まさに個人と市場をつなぐものという役割を果たしているというふうにいえると思います。

先ほど、藤原メンバーの資料の中にもございましたけれども、例えば個人の株式の保有だけを比べてみると、藤原メンバーの資料の13ページでありますけれども、日本の株式保有が7.2%、アメリカ13.6%、英国10.7%と、実はそんなに、いわれているほど変わっているわけではないんです。違うところは何かというと、例えば米国に関していうと、日本では3.6%にとどまっている投信が13.8%、あるいは年金保険、それから出資金が高いということで、ここで新たに機関投資家を通じて、個人の資金が市場に流れているということがご理解いただけるのではないかというふうに思います。

個人の指向を変えるのはなかなか難しい。もちろん、資産運用文化を育み、あるいは藤原さんからご指摘になった投資教育を充実させる、これは大変重要なことだというふうに思っておりますし、私どもも取り組みたいと思っておりますけれども、一朝一夕に変えることは難しいという意味では、プロフェッショナルな機関投資家を、いかに日本で育んでいけるのかというのが、大きな課題ではないかというふうに考えております。

そういう意味では、もう一つの論点として柴田メンバーがおっしゃった、これは制度論だと思いますけれども、ホールセールとリテール市場の二元論的なアプローチというものも非常に現実的なアプローチではないかなというふうに、私は感じておりまして、先ごろ成立いたしました金融商品取引法の中で、横断化と柔軟化ということで、柔軟化の中でプロアマの区別というのが入っておりますけれども、このあたりを一層推し進めるような形で、プロフェッショナルな市場、ここを育てて、それを国際化のてこにしていくというのが非常に現実的なアプローチではないかというふうに考えております。

以上でございます。

○池尾座長

ありがとうございました。

ほかにご意見いかかでしょうか。

では、藤巻委員。

○藤巻メンバー

柴田メンバーのご提案、非常に納得するものがありました。柴田メンバーのご提案をすべて入れますと、いい市場ができるかとは思うんですが、日本の金融機関と外銀に勤めた経験からしますと、もう一つ非常に大事なことがあると思うのです。それは、邦銀と外銀ではリスクテイク能力に大きな違いがあるのです。柴田メンバーの話の中に、日本長期信用銀行再生に、なぜ民族資本ができなかったかの話がありました。これは民族資本にリスクをとるだけのガッツがなかったからだと思います。柴田メンバーのいうように、日本の公的年金がプライベートエクイティに参加できたらどうだったかという制度面の問題も、日本の公的年金がそういうようなプライベートエクイティに投資するだけのリスクテイクをできたかどうか、という問題もあるわけです。そういうことを考えあわせてもリスクテイクの能力というのは邦銀と外資系金融機関の間に非常に大きい差があるのかなというふうに考えます。

スワップ業務に関して私の経験を述べれば、機関投資家の中に自分たちで大きい自己ポジションリスクをとる部署が存在しませんと、なかなかスワップビジネスを発展させることが出来ない。お客さんからのビジネスをマーケットにつなぐ前に一時的に自分たちで飲み込まなくてはならないことが大いにあるのです。そうでないとお客さんにタイミングよく売れないということがあるからです。機関投資家でも、個人でもリスクテイク能力が日本人の間にちょっと欠如しているのではないかというふうに考えています。どういうことによってリスクテイクをするカルチャーというか、モチベーションを導き出すかということを考えませんと、いい制度をつくってもワークしないのではないかと思います

なぜリスクテイクをしないかというと、1つには税制の問題かもしれません。ハイリスクをとってハイリターンを得たとしても税金で持っていかれちゃうという問題があるのかもしれませんし、それから、まだ簿価会計が残っていて、徹底的な時価会計になっていないせいかもしれません。終身雇用制度であり、所詮はサラリーマンディラーにすぎないからかもしれません。もしくは、日本の金利が低いので、わざわざ高いリスクをとる必要はないと思っているのかもしれません。ヘッジファンドマネージャーの成績というのは、6カ月金利と比べられるわけです。米国のように5%という高い6カ月金利なら5%以上のリターンを得なければ、ボーナスはでないわけです。けれども、日本のように、今、金利が0%に近いのであれば、低いリターンでボーナスが出るのです。それで、リスクをとっていないのかもしれません。理由はよくわかりませんがいかにリスクをとるようなカルチャーなり、仕組みというのをつくっていくのかを考える必要があるのかなと思います。

それと、もう一つは、三國さんのプレゼンテーションに関して、ちょっと失礼な言い方になるかもしれませんけれども、私の持論と大分違っているもので、一言だけ言わせていただきます。三國先生のおっしゃることは、どうも金本位制の中での議論ではないのかなという気がいたします。というのは、資本輸出において日本国内でお金が回らないというのは、これはいかにも現実と離れているのではないかと思うのです。現在、日銀が幾ら量的緩和をしても、金融システムの中でお金が残ってしまって実態経済に行っていません。それはアメリカにお金が行っちゃって、お金が足りなかったわけではないと思います。管理通貨制度のもとではお金というのは、中央銀行がいくらでもでも殖やすことができるわけですから、資金がアメリカに行っちゃって日本にお金がないという議論は、そのスタート時点からちょっと違うのかなという感想を受けました。

○池尾座長

どうぞ。

○柴田メンバー

まず、リスクテイク一般の論理として、例えば欧米の年金基金が大変なリスクをとっているかというと、実はあまりとっていません。それぞれのポートフォリオの中で、コアの部分とサテライトの部分というふうに分けて、大体、ほとんどはコアのところに行けるように、ノーリスクで非常に多様化されたポートフォリオを作りつつ、その中でリスクをとっていい部分というのはあるわけでございまして、これはサテライトとして、そういったところに割り当てているというのが戦略です。

先ほど藤巻さんのお話で触れられた人々についてですが、実はリスクをとってもいい部分だけを預かった方々は、いわゆる代替投資家という方々であって、これはヘッジファンドであったり、プライベートエクイティであったりするわけです。ですから、総体としてはあまりリスクをとっていないように見える欧米の機関投資家であっても、集中的にリスクをとる部分があって、それは例えば新生銀行であるとか、そういうところに向くわけです。

今のご指摘の、例えばマザーズであるとか、ヘラクレスであるとか、そういったところに、なぜ機関投資家が出てこないのかということでございますけれども、非常に単純な答えです。その戦略をとっている機関投資家のところに、まだお金が回っていないということでして、やっとここへ来て、スモール・アンド・ミッドキャップというんですけれども、時価総額が小さい会社と、中ぐらいの会社、1,000億円に届かないぐらいのところ、これについては、スポンサーとなる機関投資家が私どものような運用会社にお金を預け始めているところです。ただ、いかんせん、ここのマーケットがまだあまり大きくないということです。

そういたしますと、将来的には日本にあるお金が、こういったコアとサテライトというものへ自由にアロケーションできるような仕組みを作り、お金の大部分は安全なところに置きつつも、こういったリスクをとってもいいところにも一部回せるような、そういった仕組みが必要であろうかと思います。今でも私どもの国のいろいろな資産を考えるときに、そういったところにアロケーションしても十分いけるだろうと思うんですけれども、惜しむらくは海外の機関投資家は、そもそも日本の小型株が安いので、アロケーションを増やしている方々もいるんですけれども、こういったときに日本の公的基金は、自由度が少ないということだろうと思います。

○池尾座長

どうぞ。

○藤巻メンバー

今の点なんですけれども、日本の年金と海外の違いというのは、私の理解によりますと、海外ですと、1人の責任者が責任を持ってポートフォリオを組むのだろうと思います、日本株を何割、外国株を何割、米国債券を何割と。そのポートフォリオを組み間違えると首になるし、いい成績を上げればリターンが高いのだと私は理解しています。一方、日本の年金の場合には、ポートフォリオ構築は1人の人が責任持って決めるというよりは、多数決というか、過去のデータに基づいて選ぶのだとおもいます。そこで誰も責任をとることがなく、ポートフォリオの構築が決まる。その後、例えば日本株の割合は10%なら10%と決めた中で業者に分配して、その優劣を競わせるということなのです。ポートフォリオの配分のところでリスクをとる主体がいないのが、リスクをとらない理由なんじゃないかなと、私は考えています。年金の成績はポートフォーリオの構築でほぼ決まってしまい、どの株にするかは誤差の範囲だと私は思います。

○池尾座長

どうぞ。

○矢野メンバー

年金の話が出たので、幾つか申し上げたいんですけれども、1つは、柴田さんの意見には私も大賛成でございまして、公的年金の規制緩和というのは、これは必要だと思うんです。

一方で、企業年金につきましては、実は完全に自由化されておりまして、私のところの企業年金連合会でもプライベートエクイティだとか、バイアウトファンドとか、こういったところにも、少ないんですけれども投資をしております。

それから、一般の企業年金ではヘッジファンドの利用というのは非常に多いんです。半分くらいの基金がヘッジファンドをやっていまして、平均しますと、まだ資産の1けた台ですけれども、多いところは2割とか3割、ヘッジファンドに投資している。そういうところもあるんです。

ところが、結果はどうかといいますと、ヘッジファンドをやったところは最近はっきりいってあまりうまくいってない。手数料も非常に高いし、情報開示も不十分だということで、かえって伝統的なやり方の方が、昨今は成績がいいということなんです。

ですから、この点から申し上げたいのは、確かに規制緩和も必要だし、運用も多様化しなければいけないんですけれども、日本のマーケットにいろいろ問題がある。例えば、この前も申し上げたように、いろいろな市場ルールが投資家保護という点からは、まだまだ問題があるとか、手数料が高いとか、そういった日本のマーケットなり運用機関なりも、もう少し頑張っていただかないと、規制緩和しても、こういった運用の多様化が一遍に進むかといったら、そこはそういうわけにはいかないんじゃないかと、そういう気がいたします。

それから、ポートフォリオを決めている人がリスクをとらないんじゃないかという点ですけれども、独法の年金積立金管理運用法人は、これから自らポートフォリオも決められるということになったわけで、やろうと思えば何でもやれるわけです。ただ、この前も申し上げましたように、今運用しているお金というのは100兆円になるわけです。そうしますと、少数の人間で、こういった巨額のファンドを運営するには、とても運用の多様化は難しいわけでして、要は日本経済全体を買うというようなパッシブ運用にならざるを得ないという点があるんです。巨額ファンドを分割して、いろいろな運用手法が現実問題としてできるようになれば、これまた、かなり変わってくると思うのですけれども、今、そういう点で公的年金は非常に巨額な資金を抱えて、少人数でがんじがらめの規制のもとで、多様な運用ができないというところがございます。

○池尾座長

三國参考人、どうぞ。

○三國参考人

先ほど、藤巻さん、私の議論についてコメントをいただきましてありがとうございます。私、2002年の暮れに、「Japan’s Policy Trap」という本をアメリカのBrookings Institutionから出しております。その本の中身というのは、私が先ほど申し上げたような内容です。ご指摘のように金本位制と今の管理通貨制度は違います。金本位制の下で債権大国になるのは意味があるけれども、管理通貨制下では債権大国はむしろ損をする。要するに、金を保有することは、金本位制のときには通貨を増やすことになりますが、管理通貨制になったときに、現在ならアメリカの通貨をたくさん集めても、結局、日本の富をアメリカに持っていくシステムになっているということで、そういうことを理解して書いた本です。この本は、2003年の専門・学術書の経済分野で米国出版協会賞を授賞しましたので、決して間違っていることを書いた本だとは、私は理解しておりませんので、その点だけお伝えさせていただきます。よろしゅうございますでしょうか。

○池尾座長

ほかにご意見。では、木南メンバー。

○木南メンバー

最初の柴田さんからいただいた資料の6ページと10ページを見て、私の友人の話を思い出したんですが、それは、アメリカの大学教授の退職年金というのは、6ページの20番目の運用会社が全部扱っているということと、そして、それ以外に選択肢等を選べるということなので、恐らく、それを10ページに挿入してみますと、相当なアメリカの大手大学を含めた高等教育機関の教職員の退職年金基金というのが、この10ページにあらわれるのではないかなという感想を持ちました。

もう一つは、5ページにありました「機関投資家」という言葉ですが、言語感覚として、どういうふうに受け取れたらいいのかお尋ねしたいんですけれども、欧米人でいう機関投資家というのは、最終的には他の人のお金になるものを預かって動かしている人と思っていいのかということなんですけれども、多分、大学基金というのも、チャリタブル・リメインダー・トラスト(Charitable Remainder Trust)というのを使って、他人のお金を、その人が死ぬまでは運用して、配当して、死んでしまったら元本をもらえるというようなこともやっていて、その部分では他人のお金も運用しているんですけれども、そういう感覚でよろしいんでしょうか。

○柴田メンバー

まさにそのとおりでございます。

○池尾座長

では、まずは根本委員。

○根本メンバー

業界の格付けをしている関係から、優先株とか、劣後債の格づけというのをよくするんですけれども、かなりのロットを出される場合、海外の市場にいって調達する。その理由として、若干特殊のものが、それを引き受ける、リスクを分析する投資家の方が幅が、層が全く違うというのは、よく伺っていまして、それはある意味、海外の投資家がそれだけの、より高いリターンを得ているということで、今日、柴田委員、藤原委員等から伺ったお話で非常に納得するのがありました。資産運用等が根づいていないというところの多くを非常に感じるところなんですけれども、例えば、日本の債権市場の特徴として、投資適格以下は発行が物凄く少ない。これは、アメリカと比べてもそうですし、オーストラリアとかそういう市場と比べても明らかに少ないんですね。海外では過剰流動性という言葉があるんですけれども、そういう市場がどんどん発達しているという中で、大きく遅れをとっている。そういう市場自体が少ないから、それを分析するアナリストも、先ほどお話があったんですけれども、あまり増えないとか、そういう関係になっているんじゃないかと思います。あと、海外で一旦役割変更した債券を、またどのように評価していくかとか、どのくらいリカバリーがあるとか、もちろんその分析もさらに進んでいるということもあります。

ちょっと柴田委員にご質問させていただきたいのは、機関投資家の体制が非常に重要という話があって、そのとおりだと思うんですけれど、公的年金以外に、日本の資産運用会社さんにおいて何か問題、課題みたいなのがあるのか、ことに公的年金においては、人事とか、そういったくびきがあるという話があったんですけれど、民間において、何かより変えるべきものがあるのがというのをお伺いしたかったという点です。

あと、もう一つ、藤原委員に、いろいろな非常に面白い視点をたくさん書いていただいていたんですけれど、その中で市場参加者、「政府及びマスコミのチームワークが不可欠である」とありまして、マスコミというところが具体例がなかったので、どういうお考えなのか、もしお伺いできればと思いました。

以上です。

○池尾座長

それでは、手短にお答えいただけますか。

○柴田メンバー

まず、どういう課題があるかということです。公的年金につきまして申し上げた上で、オーストラリアの投資信託市場全体の規模が大きいことの理由として同国の個人年金制度があり、日本の道具でいきますと401kですが、その使い方に活路があると申し上げました。

実はここに答えがございまして、金額が増えてくる、規模が増えてくる、そうすると、参入してくる業者も増える。最初は外資系だけかもしれません。我々みたいな民族系はひょっとしてシェアは下がるかもしれない。しかし、5年、10年たちますと、外資で働いている人が、やがて独立してきます。日本でたくさんの資産運用会社も出てくるということかと思います。

ですから、課題というのは、業界全体の投資戦略の多様性を許すだけの規模と激しい競争状況が生まれれば、おのずと、市場関係者はそれに従って行動するということかと思います。

○藤原メンバー

時間の関係でマスコミのところはカットしたんですが、日経や日本の新聞はファンドについての記事を書く場合、ただファンドとか欧州ファンドとか、米ファンドと書きます。一方、英国のFTの場合、そのファンドがヘッジファンドなのか、プライベートエクイティファンドなのか、それとも投資ユニットトラストファンドなのか明確に書きます。というのは、ファンドにはいろんなファンドがあるからです。言葉の定義をハッキリすることで、一般の人たちはもっと記事内容を理解できるのです。政府の人達にとっても、自分達が使う金融用語をもっと明確化することが大事だと思います。それから、2つ目は、「ヘッジファンド」と「ヘッジドファンド」の違いについてです。ヘッジファンドとは日本語に直すと、“お任せファンド”みたいな感じで、中身はよくわからないけれども、アブソルートリターンを求める投機的なファンドを言います。これはロング投資を目的とするファンドとはまったく違うファンドなのです。しかし、マスコミや官僚の人達の中には、ヘッジしているファンドと誤解している人達もいます。このあたりのところも、政府とマスコミが一緒になって、もうちょっと新聞を通して説明してもいいのではないかと思います。

最後の点は、リスクの意味、リスクイコール危険だから、危険なことはやめておけ、と感じている一般投資家は多くいます。これは間違いであって、金融資本市場におけるリスクというのは、危険ではなくて、不確実性の問題を言います。例えば、銀行預金の場合、1年後の金利と元本が分かります。だから、リスクは低いのです。しかし、株に投資した場合、1年後の株価は分かりません。つまり、不確実なので預金よりリスクが高い。こういうことについても、マスコミを通して、金融教育みたいなものが、もうちょっとあってもいいのではないかと思っています。

○池尾座長

岩原さん、どうぞ。

○岩原第二部会長

すみません、こちらの方からも発言させていただきます。

3人の方のプレゼンテーション、いずれも非常に興味深いもので大変勉強になりました。その中でも、特に柴田メンバーのプレゼンテーションは、具体的ないろいろなご提案、特に制度的なご提案を伴っておりますので、私の専門の法律にもかかわるところが多いので、非常に興味深く、かつ、より具体的に、さらに具体的にどういうことをご提案いただけるのかご質問させていただき、かつ、私もコメントしたいと思います。

まず、一番細かい、あまり細かい話なのでこういうスタディグループにふさわしくないかもしれませんけれども、柴田さんのレジュメの4ページのところ、ここのところで、かなり具体的なご提案をされております。私もこの通りだと思うんですけれども、特に、1のbのところで、かなり具体的なことをおっしゃっていまして、まず(1)で「プロ同士の私的取引契約、英米法の使用も認める」というご提案ですが、これは国際司法の考えからは、原則として準拠法の指定は自由なわけですので、現に運送保険とかそういう部分は、むしろイギリス法を準拠法にするのが一般的でありますし、もし、準拠法の指定ができないとすれば、公序の部分に当たるところなどになるわけですけれども、そういう点も現在の制度で、何か制約になっているところがあるのかどうかということを、まず伺いたいと思います。いわば公序として自由な準拠法の指定等ができなくて、取引ができないとか、幾つかまとめて質問させていただきます。

それから、次の(2)の「プロ相手の証券の募集・販売について、疑似公募規定の導入」という「疑似公募」という言葉がまぎらわしいかなという気もするんですけれども、確かにアメリカの144Aは非常に参考になると思うんですが、既に日本でも平成4年の改正以来、機関投資家に関する買い手規制の適用除外というのは認めてきて、しかも、それ以後も何度か改正をして拡大してきています。特に金融審議会では、平成14年の報告に基づきまして、平成15年の法令改正等でさらに拡大してきています。そこで、現在も証取法の2条3項、特に1号、2号等に基づいて、既にプロ私募に関する適用除外は認められているわけですが、それは具体的に、どの部分においてさらにプロ私募に関する適用除外というか、開示規制を対象外とすることをすべきだというふうにお考えなのか、それを伺いたいと思います。

それから、その次に英文目論見書。これにつきましても、平成16年の金融審の報告で方向を示しまして、平成17年から英文開示がかなり拡大されていますし、それから、平成19年にさらに第2段が、ツーステップ目に入るというふうに、確か了解されていたと思いますけれども、現在、そういうふうに進められております英文開示、あるいは外国の会計基準の使用、あるいは外国におけるフォームの使用ですとか、あるいは監査をそのまま使うことなども認められてきているわけですけれども、そのような現在のステップで、なお足りないというか、ここが根本的に足りないんじゃないかということがあれば、それを教えていただきたい。まず非常に細かい話、これが一まとまりとして伺います。

それから、2点目は、これは柴田メンバー以外の話にもあったんですけれども、私も年金基金をより活発にするということは非常に大事だと思っています。それから、もう一つは外国為替の問題なんですけれども、日本では、年金の管理者に対するある意味で制度的な規律づけについて、なお不十分なところがあるように思っておりまして、年金の管理者が、より受益者のために十分なパフォーマンスを上げるようにするということを制度的にも担保するような制度が必要だと思っていまして、そういう意味では米国のエリサ法みたいな包括的な年金に関する法制の整備が、私は必要だと思っています。

それから、もう一つは、これはもっと、あまりにも大きい問題かもしれませんが、現在の外為特会のあり方が非常に問題だと思っておりまして、これはむしろ国全体の根本にかかわる問題として、今後検討していただけたらと思います。これが2番目のグループです。

3番目が、柴田さんの1ページ目のところなんですけれども、国家戦略というところ、だんだん抽象度が上がってきますけれども、これは非常に大事なことをいっていらっしゃると思っていまして、私もこのとおりだとは思うんですけれども、ただ、後ろの方に行けば行くほど、どうも産業政策、入国管理というような話になってくると、及ぶ影響が非常に大きい。特に柴田さんのようなキャッシュマネジメントサービス、特に投資銀行サービスを拡大するということになると、恐らくM&Aその他に関する法制度等を直していかないと、日本では本格的なサービスの提供が発展するということは難しいのではないかという気もします。

ただ、それが最近の三角合併の理論を見ればわかりますように、非常に根本的な産業政策あるいは経済、社会のあり方に関する理論に結びつきますし、また、恐らく金融は発展するかもしれないけれども、産業界の方から、それが逆なサイドエフェクトをもたらすというご意見も当然出てくると思いますので、そこら辺を、ある意味でいうと、根本的な日本の経済社会のあり方の調査の問題になってくると思いますので、それについてどう考えるかという、そこを伺いたいし、また、ここで議論すべきではないかというように思っております。

最後に、4番目には、金融資本市場の国際化というとき、主に議論されているのは投資銀行の範囲の国際化が議論されているように思いますけれども、それ以外にも、まさにかつての円ドルみたいな国際決済の面とか、それから、国際的な融資、あるいはデリバティブ、あるいは証券取引所の国際化というふうに、いろいろ問題ごとに、実はそれぞれ対策も違ってくるし、また考えるべきことも違ってくるように思いますので、このスタディグループとしては、それぞれに分けて、今後は検討していく必要があるのかなという感想を持っています。

以上です。

○池尾座長

盛りだくさんで、私もいろいろ発言したくなったこともあるんですが、どうぞ。

○柴田メンバー

大きい方からまず申し上げますと、金融という産業に対して、どういう産業政策をとるかということであろうかと思います。特に日本において欠如していて、世界において繁栄しているのは、この投資銀行業務であると思います。非常に産業としては大きいし、雇用面では、先ほどの藤原さんと同じで、非常にいろいろな波及効果があるということを申し上げました。産業政策の根本的なフレームワークをきちんとするということが大切だろうかと思います。

それから、大きいところの2つ目で、国家戦略のところで、確かに右の方へ行けば行くほど大変ですね、というのがあると思うんですが、幸いにして金融という産業だけを考えた場合には、社会的なインパクトにおいて、余りネガティブのことは想定しにくいということであります。すなわち、金融及びその周辺産業というのは知的産業であり、それなりの資質を持った方々が自由に入ってこられる、ということが大事であろうかと思います。金融のプロフェッショナル、会計士、そして弁護士というところがイメージです。また広報、印刷、ITもあると思います。いわゆる「一般的な日本人がやりたくないようなお仕事」をやる方々を日本に入れてくるというのとは、全く違うことが可能かと思いますので、非常に問題は少ないのではないかと思います。

それから、年金につきましては、まさにおっしゃるとおりでございまして、例えて申しますと、日本の企業は、例えば団塊の世代が引退するときに、退職金を支払います。つまり、60歳のときに初めて大金をもらう。60歳の方が、もらった大金をスーパーマーケットで使ったり、キャピタルマーケットで投資をするかというと、少し違います。年齢が高ければ投資に対するリスクブロファイルが違ってくるということで、米国におけるベイビーブーマーは、自らがお金を一番稼げると時期、つまり一番リスクをとってもいいはずの30代、40代において投資をすることができ、資産を増やせたということです。社会全体が支払う金額は日本でも米国でも仮に同じであると仮定しますと、米国の方は比較的幸せになった人が多いけれども、日本の場合は、社会全体の費用が同じであるにもかかわらず、どうもリスクを取れないような時期に、初めてお金をもらうということになると思います。

特に、お金の分布でございますが、個人金融資産のうちの8割が50歳を超える方々のところにあって、リスクプロファイルとか消費性向が、両方ともあまり高くないところに集中する。相続が起きる場合は、ご両親が80歳ぐらいで亡くなられますと、50歳の人におりてくるというので、日本の活力等々に一番役に立つであろう若い世代にお金が回らないし、その世代が自らの老後を豊かにするための投資もできないというところです。一般的な資本市場を「金持ちのためのものである」というふうに考えることは間違っていて、「勤労者の財産形成」と「高齢者の生活資金」は、実は同意語であり、全く同じ人の話です。エリサ、401k、スーパーアニュエーションといったものが日本でも必要であろうかと思います。

特に、日本の国民のかなりの方々が、そういった自衛措置をとることが可能になるとすると、社会にとってのセーフティネットの費用も恐らく減るだろうと思われます。

この後、岩原先生と法律議論をしますと、必ず負けますので、適度に止めておきたいんですが、まず、英米法につきまして公序良俗に反する部分、それから、例えば刑法等々に関するところ、これは、その国の属地法でいいのだろうと思います。例えば、今でもスワップ等々の取引においては、ISDAの標準契約書があって、よく読みますと管轄法を書いてあるし、準拠法も書いてあるということです。これが惜しむらくは、どちらかというと銀行の方に偏っている感じはしますので、いわゆる有価証券市場等々においても、私的取引が可能になるような措置が将来必要なのではないか、ということでございます。

2番目の、これはレジュメの方にはこう書いておりますが、実際のスピーチのところでは、「プロ私募の規定を有効活用することによって打開可能ではないか」、というように申し上げました。これはどういうことかと申しますと、欧米において、私どもはよくグローバルオファリングをやったわけですが、あるときから、アメリカにおけるSEC登録をやめて、アメリカの機関投資家だけをターゲットにするグローバルオファリングが、今のエクイティの世界でもあり、また債券の世界でも、始まったわけです。

日本のプロ私募の規定は、まさに144Aを参考にしてつくったものでありますので、その真髄は、プロ相手の取引を自由にするということもあるんですけれども、日本という市場をグローバルな資本市場の中に組み込むための道具であるとしますと、これが十分にまだ活用できていないような気がいたしますので、その活用方法についての勉強というものが必要なのではないか、ということでございます。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

まだ少々時間がございますが、ご発言ございませんか。

矢野委員、どうぞ。

○矢野メンバー

年金の運用について日本版エリサ法をつくるという話ですけれども、実は、私が年金局にいたころ、関係省庁で随分、エリサ法をつくろうじゃないかということで相談したんですけれども、結局、統一的な法律をつくるというのは、立法技術的にいろいろ問題がありまして、公的年金、企業年金の各関係法令の中で、エリサと同じように、年金管理者は受益者のために忠実義務や注意義務を果たさなければいけないんだという、そういう受託者責任の義務を各個別法で盛り込んだという経緯があるんですね。それに基づいて行政の方でもガイドラインをつくるとかいうことで、かなり細かく規範を定めておりまして、そういった点ではあまり問題ないのではないかと思います。ただし先ほど出ましたように、特に公的年金については、非常に規制が厳しい。だから、運用の多様化をするにも、先ほど100兆円の巨額ファンドの分割の話をしましたけれども、あともう一つは人材なんです。プライベートエクイティにしろ、不動産にしろ、ヘッジファンドにしろ、それなりの人材を年金基金サイドに置かないと、プロ相手には本当に確信を持って運用できないということなんですけれども、今の独法の仕組みの中では、人件費は減らせ、人は減らせということなので、専門家の確保が困難でなかなか思うようにやれないというのが現状ではないかと思います。

○池尾座長

どうぞ。

○田村政務官

今までいろいろヒアリングしてきまして、ヒアリングすればするほど、監督機関とか、法律とか、取引所とか、いろいろ課題をご提言いただきまして、ありがたいんですけれども、まずプレイヤーの方から、“まず魁より始めよ”でやっていただくというのはどうでしょう。例えば野村さんあたり、社内の資料を全部英語にして、ボードミーティングも全部英語でやって、ゴールドマンとかリーマンとか、人材を全部権限と報酬体系にならって、集めて、まずプレイヤーの方から国際化していただく。そこから始まっていくというのもいいんじゃないかなと思うんですが、いかがですか。

○柴田メンバー

おっしゃるとおりだと思います。ちなみに、我々はアセットマネジメント会社ですが、会社の中で何をやっているかということでございますけれども、まず、全体の4割5分が学校を出られて直接入られた方々、野村グループから入られた方々が2割未満なんです。恐らく、現時点においてヘッドハントして入ってこられて方々が3割5分ないし4割ということで、これが何を意味するかといいますと多様性です。新しい分野に参入するとなると、若い人を育てるだけでなく、それなりの方々をお雇いして、その人たちに若い人たちを育てていただくという方がいいということだと思います。

それから、また海外での採用もやっていますが、例えば在日の中国人や在日の韓国人のように、日本語となにか外国語ができて、できれば英語もできる方をお雇いするようなリクルートプログラムをやっています。小さい会社ながら、少しいろいろなことをやっていきたいということです。

○藤巻メンバー

今、政務官の方から、“まず魁より始めよ”というお話がありました。ちょっと奇抜な考え方かもしれないですけれども、実は私は国がもっとやってもいいんじゃないかと思っているんです。というのは、さっき先生からもご指摘があった外為特会の問題、先生がどういう意味でおっしゃったのかよくわかりませんが、私は外為特会の活用大いに賛成なのです。確かにこれ以上、為替の介入をやると、諸外国からクレームが出てくるかもしれませんでも、あれは、日本で最大というか、世界で最大のキャリートレードなのです。今、たしか5兆円ぐらい儲けているわけです。消費税の2%以上も儲けているわけです。シンガポールでもGICという政府機関の投資家があります。 かなり積極的です。同様に日本でも政府が資産運用してもいいのじゃないか。これは奇抜過ぎるかもしれない、かもしれませんが、そう思います。政府は大変な累積赤字なんですから。

○田村政務官

実際、今、検討していますので、資産債務改革というところで、国の資産を一括的にプロに管理してもらうという、GICとかテマセックをモデルにして検討していますので、また、ご指導よろしくお願いします。

○池尾座長

どうぞ、木南委員。

○木南メンバー

先ほど、年金の受託者責任と日本版エリサ法というのが出ましたけれども、法律に書くだけではどうしようもなくて、エリサ法等の規定に類したような規定ができたとして、受託者責任に関する規定ができたとして、それについて、受益者に相当する人、あるいは受益者が意見をいって、その中身を実現する手段を提供しなければならない。ですから、エリサ法だったらアメリカの労働省とか、そういうところが、代わりにそれについての発言をするとか、個人が持っている請求をクラスアクションという形でまとめて言いに行くとか、そこまでセットにした仕組みというのは大切だというふうに考えた上で見れば、まだ日本では、そのものについて、今後、もうちょっと考えをめぐらせて、今の日本の紛争解決システムの中に、どういうふうにそれを盛り込んでいくかという課題があるように思うんですけれども。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

私もその点、全く同感というか、年金基金だけではなくて、広く、柴田委員がおっしゃった意味での機関投資家、他人のお金を運用する人に関しての受託者責任の実効性ある確保というのは、非常に大きな課題というか、今議論しているテーマの中の割と中核的な課題ではないかというふうに、個人的には思っているんです。

日本というのは、全体として市場型の金融というのは、まだまだ未発達なわけですけれども、一部発達している市場型の金融が、非常に直接金融化しているんです。というのは、要するに個人が、先ほどのマザーズとかの話がありましたけれども、個人投資家が中心で、機関投資家を経由して入るという間接型の、市場型間接金融になっていないんです。本来の市場型金融というのは市場型間接金融のことだと、私は思っているんですけれども、日本では、限定された市場型金融が直接金融になっているので、市場型間接金融みたいなぎこちない言葉をわざわざ使わなければいけないと。こんな変な言葉は、あまり使う必要は本来ないはずなんだけれども、使わざるを得ないということです。では、どうして市場型金融が直接金融化してしまったのだろうというと、今はそういうことはないと思いますけれども、かつては、投資信託を買うと損をさせられるから、そのくらいだったら自分で直接個別銘柄を買った方がいいというふうな世界があったから、そうなったという面が非常に多いと思います。それゆえ、他人のお金を運用する人が、受託者に対してきっちりとした責任を果たしてもらうということにする、すると、市場は当然情報収集力とか、運用に関する技術力とか要求されるんだから、個人が、のこのこ入っていったって、なかなか成果を上げられるものではないんだから、当然、市場はプロを中心に構成される。

繰り返しになりますが、「市場型間接金融」みたいな変な言葉を使わなくても、「市場型金融」と言えば済むように、そういうものなんだというふうな認識になるためには、フィデューシャリーという問題は非常に大きな鍵を握っているんじゃないかというふうに思っています。

だから、ロンドン市場のAIMにしたって、アメリカのピンクシート市場にしたって、制度的に個人が入ってはいけないと規制しているわけではないわけですね。個人なんかに売ると、適合性原則だとかいろいろなところでおかしいということで、自主的に自己規制的なものが働いて、プロだけが参加しているということになっているわけですから、そういう形でプロ向けの市場を、あまり人為的に制約しなくても成立するような投資家保護の体制みたいなことが、実効性を持って確保されていくということが、最もキーストーンじゃないかというふうに、私個人は考えていますので、意見を言わせていただきました。

それで、この後、クオメンバーから、次回、ヒアリングをさせていただいた後は、先ほど岩原部会長からもありましたが、どういうふうな形で今後議論していくかという議論の進め方を少し考えていかなければいけないし、スタディグループとして勉強会を続けるという部分と、本当に制度問題として改善に着手していかなければいけないような事柄があるとすると、それは第一部会なり、第二部会に引き継いで議論していただくというふうな仕分けもしていかなければいけないと思いますので、次回ぐらいから、ヒアリングは次回の前半ぐらいまででとどめて、それ以後、論点の少しそういう形で仕分けを考えていくという議論に移っていきたいというふうに思っております。

そういうことで、あと、何か本日中にご発言を、特にしておきたいということがございましたらお受けしますが、いかがでしょうか。

特段、ないようでしたら、それでは、最後に事務局からお願いします。

○三井市場課長

それでは、日程のご連絡でございます。次回は、第6回でございまして、23日、金曜日、午後2時から4時の予定でございます。その次が27日、火曜日の午前10時から12時でございます。次回の第6回、23日の金曜日につきましては、今、座長からご発言がありましたとおり、クオメンバーからヒアリングを行います。事務局からも若干の資料説明などがあるかもしれません。その後、ご議論いただく時間をとるように手配したいと存じます。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

三國さん、わざわざありがとうございました。

それでは、本日はこれまでといたしたいと思います。次回以降、23日、27日と続きますが、よろしくお願いします。

どうもありがとうございました。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局市場課(内線3615)

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