金融審議会「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」(第12回)議事録

日時:平成19年6月1日(金)16時30分~19時00分

場所:中央合同庁舎4号館9階 特別会議室

○池尾座長

それでは、定刻になりましたので、ただ今より我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループの第12回会合を開催いたしたいと思います。

皆様にはご多忙中のところご参集いただきまして、誠にありがとうございます。

それでは、初めに本日の議事についてご説明したいと思います。お手元に議事次第がありますが、本日は前半と後半の2部構成で行いたいと思っております。前半では機関投資家の役割について議論をいたすことにしまして、そして後半では決済システムの問題点についてそれぞれ議論を行う予定になっております。

ということで、まずは事務局から資料の確認をお願いしたいと思います。

○三井市場課長

本日、6月1日から9月末までの間、クールビズ、夏期の服装の期間になります。したがいまして、役所の方では上着を着用しない、それからネクタイも着用しない、そのかわりに部屋の温度は28度以上に設定するということで進めさせていただいています。部屋が暑くなるかもしれません、軽い服装で対応していただければと存じます。

それから資料でございます。今日、お手元に資料1、それから2-1、2-2、それから資料の3、それから英文のものをお配りさせていただいております。ご確認いただければ幸いです。

以上です。

○池尾座長

クールビズの期間とのことですので、私もこういう格好をしておりますが、これはクールビズだという認識のもとに行動しておりますので、あしからず。

それでは、ただいまより前半のパートを始めたいと思います。前半では、機関投資家につきまして有識者からの意見聴取として企業年金連合会常務理事の鹿毛雄二さんをお招きしております。鹿毛さん、本日はよろしくお願いいたします。

それでは早速ですが、鹿毛さんからプレゼンテーションをお願いしたいと思います。そのあと、自由討議ということでやらせていただきたいと思います。

○鹿毛参考人

ご紹介いただきました鹿毛でございます。今、私は企業年金連合会というところで約13兆円の資産の運用に携わっております。これまで銀行あるいは投資顧問会社という立場で、内外の資本市場における実務に長い間携わって参りましたので、今回のこちらの議論に大変関心をもって拝見しております。特に論点整理に従来余り出てこなかったような新しいご提言の議論が出てきておりますので、少しでもこういう方向性が具体的な政策といいましょうか、実施に反映されていくことを大いに期待しているところでございます。

早速ですが、今日頂戴しましたテーマはICGN、機関投資家の責任原則と日本の課題ということです。ICGNと申しますのは International Corporate Governance Networkといいまして、これはコーポレート・ガバナンスに関する関心が世界的に高まってきていることを背景にしまして、世界の主要な機関投資家あるいはレギュレーター、弁護士、学者等、400ほどの専門家の個人あるいは法人が参加してもう10年以上になる組織であります。この世界では一応代表的な組織として考えられております。ここで最近、1年かけまして機関投資家の責任というテーマで議論をいたしまして、その成果をつい先ほど発表致しました。実は私もこのメンバーの一人として参加しておりましたので、今日それについてのご報告と、それに加えまして日本についてのインプリケーションといいますか、参考になるような点を若干付け加えさせていただきたいと思います。

ICGNがここで機関投資家という場合は年金、保険、投信といった多数の従業員とか契約者というものを背景に持ち、その資金をプールした投資組織というふうに定義しております。そして、機関投資家というのはいわばそういう多数の最終受益者の代理人であると捉えています。そこでいわゆるエージェンシー問題とか受託者責任とかというところに注目していこうということです。それから、いわゆる監督と執行の明確な分離であるとか透明性の確保といった通常言われる議論に加えて、もう一つ特徴があります。機関投資家の場合は最近では権利の主張ということがあるんですね。もの言う株主、いろんな形で出てきておりますけれども、それに加えて実は責任があるんじゃないかという点です。これは当たり前といえば当たり前なのですが、その株式保有ということに関しては企業経営に影響力を持つ以上、責任があるのではないかということを、機関投資家自身ももう一回再確認しようということです。また、代理人と位置づけるということは、結局は機関投資家自身の組織のガバナンスということも問題になってきます。これも従来余り議論にならなかった点でありますけれども、こういった点がこの機関投資家の責任原則のユニークな点といいましょうか、今日的な意味というふうにお考えいただきたいと思います。

では、なぜ機関投資家自身の中からこういった責任というような議論が出てきたかということなのですが、これは2点ありまして、1つはいわゆる議決権行使その他で世界で機関投資家もだんだんとビジブルになってきています。ビジブルになり影響力も出てくるとなるとそれなりの反発、抵抗等も出てくるということもあって、やはりみずからガバナンスということを当然できる話がなければいけない。もう一つは、機関投資家の中でも、いわゆる短期のファンドと申しますか、先ほどの年金、保険といった長期投資家でない短期利益を考える投資家も増えてきて、やはり本来的なこういった機関投資家としてはそういった短期投資家とは一線を画したいと。そういう考え方もあってあえてこの責任ということを前面に打ち出してみようという趣旨がありました。

次に、ICGNの「機関投資家の責任原則」の中身に入らせていただきます。まず、機関投資家自身のガバナンスということにつきまして、これはどちらかといえば新しい概念なのですが、一番の基本はやはりガバニング・ボードといいますか管理・監督機能という点であります。つまり機関投資家は、従来は執行部門、つまり会社の経営とか運用といった現場の執行の部分に主に焦点を当てていたわけですけれども、そもそもガバナンスの議論というのはいうまでもなく、管理・監督とその実行を分けていこうということです。そこがガバナンスの中心の一つでありますので、機関投資家自身についても管理・監督機能を担うガバニング・ボードというようなものをもう少し明確に位置付けて、しかもそのガバニング・ボードというのは受益者の利益を最優先に考えるべきだと。これが先ほどの代理人の考え方であります。さらに、そういった受益者の利益最優先の政策決定を行うべきだということに加えて、そうした意思決定なり運営が行われていく上のモニタリングも担うことになります。

それから、当然そうしたガバニング・ボードをつくるというところからいけば、そのボードメンバーの選任基準がどうであるかとか、そのプロセスがどうであるかというところをしっかりしていかなければいけない。この点がいわゆるコーポレート・ガバナンスにおける株主と取締役会の議論というところでは皆さんもいろいろご存じだと思うのですけれども、それに類似の議論を機関投資家の組織についても考えるべきだということです。それによって最終受益者の利益を守っていこうという考え方を打ち出してきたわけですね。そのためにはそのカバニング・ボードにおいてもしっかりした説明責任、透明性の確保というのは必要だけれども、これはあくまで受益者に対する透明性であり、受益者に対する説明責任です。

それから年金であれ、保険であれ、投信であれ、当然その事業主体といいますか制度の運営主体があるわけですけれども、その事業主体の利益と受益者の利益というのは潜在的には利益相反が十分あるわけです。ですから、この利益相反というものを明確に認識して、それをどういうふうに管理していくか、これをはっきり打ち出していく。同時にこうした受益者のための任務を果たしていくためには単に現場だけでなく、ガバニング・ボードのレベルにおいても適切な専門機能が必要だと強調しています。実は、日本だけでなくて世界的にも、いわゆる理事会とか意思決定の組織において、十分な専門機能があるとは言えないわけで、そういうことが今非常に重要な問題として提起されています。

それから、投資先企業に対するガバナンスについてはもう皆さんご存じのとおりなので、ここは省略させていただきますけれども、1つだけ、このICGNの共通の見解というのは、優れたコーポレート・ガバナンスというものは企業の的確な意思決定とかリスク管理をサポートする役割であって、したがって長期的な企業価値の創造には貢献しうるものだという点です。つまり、企業と相対するものというよりは企業の長期的発展のために同じ舟に乗った信頼関係を形成していくようなものであるべきである。したがって、そうした意味での責任を機関投資家としても果たすべきだということが、この議論の中心になっております。いわゆる最近行われております機関投資家としての利益を全面的に打ち出すという、あるいは企業と相対するというようなこととは少し違った考え方であります。

ここまでがお手元には全文はお届けしてあるかと思いますけれども、ICGNの責任原則の概要です。ここから先は私の若干のコメントを申し上げたいと思うのですけれども、この原則を読まれるにあたって私の感じております留意点というのが資料の次のページです。

一つは、やはりいろいろな意味で世界的にも日本的にも受益者、年金であれば受益者加入者、それから投信であれば投資家、保険であれば契約者、そういったものの利益というものが十分カバーされていたか、保護されていたかということになると、やはりその力関係その他で必ずしも十分でないだろうというのが一般的な認識です。したがいまして、ここでその受益者保護というものを大前提として強調するということが、非常に大事なことだということはいうまでもないと思います。ただ、それを大前提とした上で、例えば年金であれ、保険であれ、もともとそれぞれの事業目的があります。投信は運用ということが100%ですから、ちょっと別かもしれませんけれども、それぞれの事業主体のガバナンスを完全に無視するわけにはいかない。

端的に申しますと、例えば今世界で起こっている企業年金の危機の問題を考えますと、私はこの受益者保護というものは非常に大事だと思っているわけですけれども、特にアメリカとかヨーロッパの場合はこの受益者保護というものが非常に法律的にもがんじがらめに強いという結果、企業が到底負担しきれないという形でどんどん確定給付年金を廃止して撤退していっているわけですね。そうすると最終的には加入者、受給者のためにもなっていないわけです。つまり、ある程度長期に維持可能なシステムがあって初めて最終的には受益者の利益につながるというような点を含めると、短期的な受益者保護というものが余り前面に出ていくということはどうかという疑問もあるわけです。ですからここに書きましたように制度運営、事業主体についてもガバナンスがあり、それからその受益者保護という非常に大事なテーマがあり、やはりケース・バイ・ケースでバランスを考えることも必要ではないかという点が第1点です。

それから、第二に受託者責任です。受託者責任は今回の論点整理、その他にも十分出てきているのですが、実はこの受託者責任という概念はかなり日本においては曖昧というか、あえてやや乱暴に言ってしまいますと、フィデューシャリー・デューティという英米の信託法にあるような概念を受託者責任という言葉に翻訳したことで、少しミスリーディングというか混乱が生じているのではないかという感じが致します。そう申しますのは、早い話が受託者責任というと、じゃあ、委託者は誰かということになります。例えば企業年金であれば、受託者責任とは、一般には加入者、受給者に対する責任と解されますが、我が国法制上は、加入者、受給者は受益者ではあっても受託者にはなっていない。法律的には、受託意思決定機関である代議員会は加入者、受給者の代表が1:1という形で構成されています。受託者責任というときに、誰に対する責任かというときに委託者に対する責任かというと必ずしもそうではない。特に、アメリカの企業年金においては委託者は企業であって、加入者、受給者、要するに従業員というのは受益者です。ですから、これは本来的には受益者保護責任といっていた方がより内容的にははっきりするのだろうと思います。

それはともかく日本の場合は、いずれにしても受益者を保護すべきだというようなことから、年金の世界では長い間監督官庁のご努力もあって、ある程度は受託者責任といういわゆる Fiduciary Dutyの考え方、内容的にいえば忠実義務、注意義務ということになると思いますが、これがある程度は定着してきた。しかし、それ以外の保険とか投信の分野では、まだまだこの受託者責任というのはおそらくこれからの議論だろうと思うのです。その意味で、今回の新しい金融商品取引法で権利者に対する忠実義務、注意義務という形で書かれたというのは、本当にこれは画期的なことだと思います。フィデューシャリー・デューティと比べて、基本的には日本で言っているところの受託者責任、従来の日本の法体系というのは私の理解では組織に対する忠実義務なんですね。例えば、年金基金であったら理事は基金に対する責任があるというようなことです。しかし、この金商法の場合には権利者に対する義務ということでもう少し踏み込んだものになっている。要するに、この受託者責任という言葉自体がまず非常に混乱を招くし、ミスリーディングであって、しかもそれぞれの法律上いわゆる権利義務の関係というのは非常にばらばらです。場合によっては、日本の法体系の中でも必ずしも十分に整合性もとれておらず、この受託者責任という言葉を使っていく場合にはよほど中身をはっきりさせていかないと議論にならないのではないか、という感じは致します。

それからあと一、二点。この機関投資家の責任、あるいは特にスタディグループの方で出された論点整理の関係で機関投資家の質の向上というような点が謳われておりますので、若干このICGNとの関係でコメントを差し上げたいと思います。1つは、日本の機関投資家あるいは日本全体として運用能力が不十分だから運用能力を高めるべきだという議論があるわけですね。これはある面では多分そういう面が十分あるのだろうということは否定できないのですが、これももう少し中身を確認した方がいいのではないかと思うのです。結局、運用能力が高い低いというのは、辣腕のファンドマネージャーがいるとかあるいはジョージ・ソロスのような新しいヘッジファンドが出てきて非常に儲けるとか、やっぱりそういう次元で運用能力が高い低いということでしょう。それで、そういう人が日本には全然いないじゃないか、というような議論になることが多いと思うのですが、特に年金あるいは保険、それから長期になってきた投信の場合、実は誰か辣腕のファンドマネージャーがいて、ある時期非常によかったとしても、ちょっと経ってみたらやっぱりなかなかそうもいかないということもない。つまり、個人個人の運用能力とか才能、技術というのは、実は機関投資家の運用、長期的な運用の世界では二の次なんです。

と申しますのは、いうまでもなく、結局、年金基金とか保険の場合というのは何か特定の資産、株なら株、あるいはインド株とか中国株をやって当たったといったような話ではない。非常に巨大な資金をそれこそ非常に多数の人の方のために運用する以上は、当然長期分散投資がこの運用の常識です。長期分散、特に分散ということは、早い話が株を何割にするか、債券を何割にするか、あるいは国内はどうか、海外はどうかということです。結局は、運用成績は資産配分次第だということであって、一説によればもう8割から9割は資産配分で決まるとされています。これは常識とも合っていると思います。

日経平均が7千円に向かうようなひどいときに、株を2割でも3割でも入れていればそれだけでもうやられてしまう。逆にあそこで株を入れていなければそんなにはやられなかった。資産配分次第ということは、非常に影響力が、非常に大きくぶれるということからいけば、要は株の比率次第です。しかも、その株の比率を高める、株式をたくさん持つということがすなわち大きくぶれる。資産を持つということになりますから、これを言いかえるとリスクをどこまでとるかということになるわけです。要するにリスクをたくさんとれば長期的にはリターンが高くなる。教科書みたいなことで申し訳ないのですが、それが運用成果がよくなるかどうかという話であって、誰か辣腕のファンドマネージャーがいて何かで稼いだかどうかというのは二の次なのです。例えばアメリカの年金などで考えても、基本は株式と債券でやっているわけで、ヘッジファンドとかプライベートエクイティとかいっているのは3%とか4%程度であり、基本的には大勢に影響はないわけですね。

それで、ひるがえって今の日本の企業年金の場合は、会計処理上、ご案内のように基本的に企業の財務諸表、決算の中に組み込まれてしまいましたので、極論すれば1年単位の運用になっています。したがって、企業収益に、業績に影響を与えるほどはリスクはとれない。現実に、今の大企業の企業年金の運用目標というのは大体2.5%から3%であります。これでいい、これ以上狙ってリスクをとったら逆にいうとマイナスも大変なことになるかもしれないから、もうそれ以上は必要ない、それ以上リスクをとるべきでないという考え方です。同じようにこれから残高が150兆円になっていくという公的年金についても、長期的には3.2%が目標で、つまり、ローリスク、ローリターンでいこうという方針を決めているわけですから、ローリターンになるというのは必然的結果です。ですから、これは個人の運用力があるとかないとかという話ではない。申し上げたいのは、これから少子高齢化の時代でもあり、少しでもリターンを高めようということになるとすれば、この一番出発点である基本方針、資産配分を変えていかない限りリターンは上がらないのであって、運用技術、ファンドマネージャーの技術を上げていけば運用利回りが高くなるというのは、実は私は枝葉末節だと思います。

これをちょっと別の言い方で申し上げます。MSCIという、ご存じの方も多いと思いますけれども、国際株式投資をする場合の一番のインデックス、ベンチマークがあります。世界23カ国の1,900銘柄ぐらいを取り出していて、これはいってみれば東証のインデックスに対する日経225のようなものですね。世界の株式市場のサンプルだというのがMSCIのインデックスなのですが、このインデックスをご覧いただくと、大体世界の株式市場でアメリカは時価総額で約半分、日本とイギリスは約1割だということになっています。このMSCIのインデックスは大体世界の株式市場の7割ぐらいをカバーしていますから、まあ、一応有意な標本だということが言えると思います。世界の時価総額が大体日本とイギリス1割ずつということなので、このインデックスにおいても1割ずつになっているわけです。実はこの採用1,900の銘柄のうち、アメリカからは600社、日本からは380社、イギリスから158社と入っているわけです。ここで申し上げたいのは、要は世界のGDP比で見た場合に、ご存じのように日本はイギリスの倍です。ところが、株式時価総額で見たらほとんど一緒、あるいはむしろ少ないくらいだと。GDP比、経済力からいけば、日本は当然イギリスの倍くらいあってしかるべきなのに、現実の時価総額で見たら一緒だということは、要は日本の株式市場は、アメリカはともかくとしてイギリスと比べてさえ、半分にしか評価されていない、と見ることもできるでしょう。

さらに、その全体の1割を日本の代表選手、380社で構成しているわけですが、イギリスは158社しかない。それで同じように時価総額のほぼ同じ1割を占めているということは、この日本の代表選手380銘柄の平均的な力でいけば、ここでもやっぱりイギリスの半分以下だと。要するに倍以上の数集まってきてようやく同じ時価総額だということですから、平均的にいえば日本企業の評価は半分以下だと。したがって、最初に半分、ここでも半分ですから、結局イギリスの企業と比べて日本の企業は、平均的に4分の1にしか評価されていないということになる。一方で、PER、一株当たりの株価ですけれども、これは19と13でちょっと離れていますけれども、大体これはマーケットでだんだん一緒になっていくわけですから、仮に非常に乱暴にこれもほぼ同じだと考え、その市場評価が4分の1だということであれば、一株当たり利益額が4分の1ということになります。結構乱暴な議論ではあるのですが、非常に大ざっぱに言えば、日本の企業の一株当たり利益が、つまり収益力がイギリスの代表的企業の4分の1だといえます。要するに、ここにいらっしゃるような大企業の超優良企業の方を別とすると、380社という日本代表選手を並べたとき、平均的実力はイギリスと比べても実質的に4分の1なのです。これは収益力が4分の1だからだということです。これをまったく別の言い方をしますと、5年間で見ると結構株がまた元へ戻ったりしますけれども、過去10年間の平均収益率で見ますと日本は3.5%なのですけれども、イギリスは7.1%、アメリカは8%で、やっぱり投資の収益率から見ても日本は半分ぐらいなんですね。

ですから、要は運用力があるかないかという議論をするときに、実際に運用するファンドマネージャーの腕の問題もありますけれども、投資した証券の収益率が低いということが大問題で、実はこれが東京市場の魅力のなさの重要な要因の一つであると思います。ついでに申し上げますと、例えば金利でいっても世界最低で、今でも大体1.7%ぐらい。為替でいけばもう今日本は最弱。つまり、日本市場に投資をしようという機関投資家の立場で考えたとき、日本市場は残念ながら今現在最も魅力のない市場です。だから、東京市場の魅力を高めようということのもう一つの、一番大きな対策は、投資したリターンが高まるようにすることです。そうでなければ、東京市場には投資はこない、ということを機関投資家の目から申し上げたい。つまり個人が、今それこそ個人は中国やインド株に投資をしているとか、グローバルソブリンで外債投資、個人でさえ海外にばかり投資をして、日本に全然投資をしていないというのは、まさしく同じような意味ではないかなという感じが致します。

最後にもう一つ、機関投資家自身のガバナンスという問題で、今の日本にとって、やはり一番といいますか非常に大きな問題は、公的年金のガバナンスの問題ではないかというふうに思います。と申しますのは現在、第3回でもお話があったかと思いますけれども、共済等を含めると約200兆円の巨大な資金があるわけですけれども、基本的には賦課方式に基づいて、そのときの現役が払い込んだ金でそのときの年金世代に払っていくという仕組みです。基本的には年金の運用益ということをほとんど期待していない制度となっています。現在、例えば先ほどの3.2%という運用利回り目標はホームページで見るとわかりますけれども、要は実質価値を維持するということが目的になっているわけです。これからの将来的な少子高齢化とか国民負担、結局150兆円の1%違っても1兆5,000億円違うという世界ですから、この問題をどう考えるか、そういうことも考慮した政策決定の仕組みとか有効なガバナンスの仕組みというものも必要なのではないだろうか。原理的にいえば管理監督と執行の分離も必要なのではないか。そういう観点からいきますと、やはり国民生活にこれだけ影響のある公的年金について、多くのいわゆる独立行政法人の一つという形で、例えば経費はどんどん下げていけとか、そういう種類の仕組みのところで公的年金の運用が考えられているのは、私は日本にとっても非常に大きな問題ではないかと思います。これもガバナンスという観点からもそういう問題があるのではないかということを申し上げて、ちょっと時間を超過して失礼いたしましたけれども、説明させていただきました。

○池尾座長

どうも大変ありがとうございました。

それでは、これから質疑応答に移りたいと思いますが、田村政務官からご質問があるそうなので。

○田村政務官

質問というかちょっと意見を申し上げたいと思います。まず、非常にいいプレゼンテーションいただきまして、ありがとうございました。私、一昨日まで中国に出張しまして、西室会長と一緒に行っておりました。西室さんは中国企業の東証での上場というのを一生懸命開拓されていましたけれども、私は違う陳情に行っていまして、CITICという金融グループが中国で一番大きな金融グループの一つなんですけれども、CITICさんと輸出入銀行のリー総裁にちょっとお願いを致しました。あそこは世界最大の外貨準備を今持っていまして、150兆円ぐらいですかね。これはもう報道になりましたようにその0.3%ぐらいをブラックストーンというプライベートエクイティの会社に投資すると。もちろんこれは背景にいろんな意味があるのですけれども、米中戦略会議の中の背景の意味もあるのですけれども、一つは、国際分散投資を公的な資産を使っても進めていこうという流れがあります。150兆円ですから欧米だけではなく日本にも視野に入っているよ、ということを聞いていましたので、ぜひ、莫大な外貨準備の一部でも日本株に投資してくださいとお願いに行ってきたんですね。もちろん、それでは、考えてやるよという話だったのですけれども、世界はそういうふうな動きにあると。

最後の部分で公的年金の話がありました。私、公的年金の積極運用というのを結構言っているのですけれども、厚労省の方と話すとそうやって政治が決めてくれればいいんですよというのを言われるわけですね。というのは、3年前の与党合意でリスク資産は積極的に買わないということが決まっていまして、政治家が言っているのだけれども、政治家の責任でそんなことになっているんですよということなんですね。ですから、こういう議論が出てきて政治の場で決まっていけば柔軟にという感触なんですけれども、僕は非常にいいことだと思うんですね。給付と負担、やっぱりこれだけの人口構造になってきますと、もう負担を増やさずに給付を増やす可能性があるとしたら、もう積極運用しかないと思うんです。これはもう国民的な議論を待たなければいけないと思うのですけれども、国民の支持は得られるのではないかというのが一つ。

もう一つは、先ほど話がありました通り、最近は日本全体がもの申す株主になることはよくないことじゃないかという風潮がひょっとしてあるんじゃないかと私は思っているのです。しかし、年金という国民の財産が株式市場に入っていって、自分たちの財産が入っている株式市場がどうなっているかというのを、さらに国民全体が関心をもってもらうということは、株主としてもの申すことが悪いことではなくて、自分たちの年金もかかっているのだから当然のことじゃないか、ということで株主としての意識も変わっていく。そういうきっかけになり、副次効果もあるのではないかと思うんですね。

あと、組織のことを言われましたけれども、GPIFの方は独法になってからさらにガバナンスがなくなり、理事長が執行・監督もやっているという組織になっていますし、皆さんの大切なお金を一応委託という形でプロの方にも運用してもらっているのですが、目利きのある人が委託しているかどうかというところもあるわけですね。ですから、組織のガバナンスのあり方、組織のプロとのつき合い方、非常に見直すべき点があると思います。

それで、いいプレゼンテーションをしてもらいましたし、結構自分で言うのも何ですけれども、これまでいろんなところで言っていますと、金融関係の部会で発言力のある先生方から、本当かどうかわかりませんけれども、支援を受け始めていまして、ちょっと議論が変わってくるかなと思いますので、ぜひこの問題はここでも積極的に議論していただきたいと思いますし、池尾先生などは非市場性の国債を出すとかいう話もありますけれども、財務省は喜ぶと思いますよ。ただ日本国債がそんなもの出していったら、これからどうなるかわかりませんし、一つの考えとしては鹿毛さんの今日のプレゼンというのは私は非常にありがたいです。この場でも積極的に意見を出していただきたいと思いますので、今日はありがとうございました。そして皆さんよろしくお願いします。

以上です。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、メンバーの方からご質問、ご意見がございましたらお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。どなたからでも結構ですので挙手をいただくかネームプレートを立てていただきたいと思いますが。はい、どうぞ。

○藤巻メンバー

もうファンド全体の運用成績は資産配分方針次第ということなのですけれども、辣腕のファンドマネージャーはあまり関係なくて資産配分ですということになると思うのですけれども、私の見ている限りタイガーのジュリアン・ロバートソンやそれからジョージ・ソロスですね、ジョージ・ソロスはあれはおじいちゃんでやっているのだからということでしたけれども、彼らがなぜすごい運用益を上げていたかというと、資産配分自身を彼らはやったわけですね。私の場合で言いますけれども、外銀で儲けていた人たちというのはなぜ儲けていたかというと、資産配分をやっていたわけです。例えば債券を買って株をどんどん売っちゃうとかゼロにしちゃうとかですね。バブルのときは逆に株ばかり買って債券を売っちゃうとか、その資産配分によって利益をみんな上げていたわけです。ですから、外資において辣腕ファンドマネージャーというか辣腕トレーダーというのはその資産配分をやっていた人たちが辣腕トレーダーになっているわけです。

問題として、私は日本の年金の問題というのはその資産配分を誰も責任をもって決めていないと、過去のデータを使ってみんなで会議か何かで何となく決めて、あとは先ほどおっしゃったように株は23%と決まれば23%をいろんな機関投資家に委託する。こんなの誰がやっても誤差はないと私は思うのです。ですから、確かに資産配分が重要というのは私も賛成なのですけれども、それを決める、それを判断する責任者というか、人というか、判断機関というのですか、それがないのが受託者責任を果たしていないというか、利益を上げるところを日本の年金はそういう仕組みになっていないのではないかと私は思います。

○鹿毛参考人

今ご指摘あったような面はあろうかと思います。ただ、私がお話ししたのは、運用リターンを資産配分が決めるわけですけれども、資産配分を決める仕組みがもう既に完全にでき上がっているということです。今さっき申し上げましたように企業年金でいえば、もう企業はこれ以上リスクをとれないのだと、一連の流れがあってですね、ですからもう2.5%でいいんだと、それ以上狙っていくとまた何かちょっと株が暴落したときに企業が負担しきれない損失が出るのだからと。ですから、これは年金が決めるというよりは最後のそれこそ何千億と負担してきた企業がもうこれで勘弁してくれと、もうその2.5%でいいんだと、リスクとるなと決めちゃっているわけですね。ですから目標が2.5%と決まってしまえば、それ以上狙わないわけですから、資産配分をどうやっても、要するに株の比率というのもある程度下げて、目的を決めたところでもう実は終わっているわけです。

同じような意味で公的年金も3.2%と決まっているわけですから、3.2%と決めてしまえば要は例えば債券は67%でいいとか、その目標を決めた途端に資産配分はもうある意味では自動的に決まって、その自由度というのはあまりない。だから逆に言いますと、その目標を決める、これがガバナンスなので、そのガバナンスそのものを変える必要があるのではないかということです。特に公的年金の場合には、変えない限りは資産配分も運用リターンも変わらないだろうということを申し上げたのです。

○池尾座長

他にいかがでしょうか。日本企業の低収益性というのが問題の根本にあるのだと、私もそうだと思うのですが、ただ金融システムの論点整理も少し期待がありますし、それから今日は来られておりませんが、田中さんがおっしゃっていましたけれども、金融市場がガバナンス機能を発揮することによって、日本の低収益性そのものに対しても多少改善効果をもつのではないかというところで、悪循環的になっているものを好循環にどう切り替えていけるかというのが課題かと思うのですが。はい、どうぞ。

○田村政務官

もう一つ言えるのは、ここに法務省さんは来られていないのですけれども、この前も衆議院の法務委員会で民主党の方から質問があって、やっぱりガバナンスを効かせるためには会社法をもう一段、ガバナンスが効くような組織を義務づけるような形に変えてはどうかという提案を受けました。私もちょっとこの前、公認会計士法の改正のときに、もちろんインセンティブのねじれという、監査法人が報酬をもらっているところから監査してもらうというところを変えていくのもそうですけれども、委員会と設置会社を上場企業には義務づけるとか、やっぱり株主の声を執行者に届けやすくする。これは法律でするか、または取引所規則でやっていただければいいのですけれども、委員会設置会社を嫌がるのは、皆さんが指名委員会と報酬委員会というのがあって、人事と報酬まで、外部の者に委ねるのはどうかというので、また新しい類型をつくってそれを取引所規則なり会社法の中で義務づけるとか、とにかく日本の会社組織の中で株主の声がもっと執行側に届くようにする必要があるのではないかと僕は思うんです。あまりこんなことを言うと、ある方から会社の中でオンブズマンを置けということかとか言われてしまったりしたのですけれども、そういうことではなくて、本当にガバナンスを効かせるというのはそういうことが必要なのではないかなと思うのです。

以上です。

○池尾座長

いかがでしょうか。

○江原メンバー

もうこの分野は本当にやらなければいけないことがもう山積しているのだと思うんですね。でも逆から見れば、私も田村さんと同意見でアップサイドは相当あるということだと思います。確かに3%が目標利回りだというように発注者が決めてしまえば、それなりのアセットアロケーションというものが組まれるということだと思うのですが、でも欧米のいろいろな年金だとかの基金を見てみますと、彼らの目線は全然違いますよね。例えば、米国であれば大体利回り14%から18~9%ぐらいですか。ここら辺の目線で見ていらっしゃるんですね。それで、運用チームというのはどうやって評価されるかというと、もちろん単年度ベースで結果は出てくるのですが、でもその時々の株式市場または他の市場を見ながらベンチマークとの比較でもって、その人の評価というのは決まったりします。ということは、元本ベースで見れば単年度でそれを割ることだって致し方ないというこの割り切りがあるわけですね。でも5年とかそういった単位でその人の評価を見てみようじゃないかということなのです。だから、先ほど言われたこの利回り14~18%というレンジというのは、まさしく彼らが4年、5年という単位でもってそれを達成しようと話ですから、単年度で見れば20%を上回るときもあれば、または一桁台のときもあるということなんですね。

もちろん、そのインセンティブとかそういうふうな問題というのはあると思います。日本の場合ですと単年度ベースで評価されて2.5%を下回ったときにはクビが切られ、4%利回ってもそれに対する見返りはないというダウンサイドだけあって、アップサイドがないというのでは、これは運用をしている方もこれはやっていられないというのは、明白な縮図だと思うのです。だからそこら辺のベンチマークづくりとか、ここら辺は実をいうと、もう金融界でも当たり前のように存在しているわけなんですよね。ちょっと勉強すればいくらでもそんなのはありますから。でもやっぱり、このスタディグループでも頻繁に出てくるテーマだと思うのですけれども、改善するんだという意思を持たないといけないと思います。田村さんは相当持っていらっしゃるそうなので、また金融庁の皆さんも私は持っていると思いますので、やればできるんだということでぜひとも、ここは一番日本が遅れているところです。すみません、ちょっと力入れて。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

はい、淵田さん。

○淵田メンバー

機関投資家ということで一括りに議論されることが多いわけですけれども、それぞれに適用される法律が違う以前に監督機関が必ずしも同じではないわけでありまして、ご紹介いただいた機関投資家の責任原則といったものもこれは自主的なものでしょうけれども、本当に機関投資家に対して責任を問う必要があるような場合は監督当局からの統一的な政策ということで対処することは当然必要だと思うわけです。これは受託者責任の分野に限りませんで、例えば、今日本では公的年金ということでは社会保険庁の問題、トラブルとかミスとかいろいろ話題になっているわけで、運用だけの分野の問題ではありません。

考えてみますと、年金基金というのは長期のALMを管理しなくてはいけないということでは保険会社とも似た面があるわけですね。それから正確な資金管理なり口座管理というものが必要という面では銀行とかカストディアンと同じような、それ以上の正確性、信頼性というものが期待されるわけでありまして、諸外国では銀行、保険に加えて年金基金も含めた監督当局というものをつくった国も確かあったと思うのですけれども、こうした監督機関のあり方ですね、それについては何か国際的な議論というのはありませんでしょうか。

○鹿毛参考人

そうですね、今最後におっしゃられた、デンマークとかスウェーデンといったヨーロッパの一部で年金を監督する官庁と生命保険を監督する官庁が同一で、それで同一の規制を例えばソルベンシー比率を管理したり、その財務内容を充実させるという形で打ち出しているケースがあります。この場合、ただ生命保険は言うまでもなく長生きに対してはプラスが出てくる事業ですが、年金というのは長生きの時代はマイナスが出てくる事業です。  ところが、それを幾つかのヨーロッパの国では同じ基準でその負債と資産とを比較して、足りないからこれだけ埋めろという政策を打ち出してきています。結果的にはその規制というのは保険会社にとってはもちろん問題は少ないわけですけれども、年金に関してはかなりの打撃になっているというケースがあるんですね。今、それが世の中で言っているライアビリティ・ドリブン・インベストメント、「長期債務にあわせた資産を持っておかなければいけない。したがって40年、50年ものの債券を買わなければいけない、もう株はやめちまえ。」といった議論が幾つかの国では現実に起きてきています。これに対し、リスクキャピタルの供給の観点からみて本当にそれでいいのかといった議論もあります。ですから今どちらかというと、世界の流れは会計基準、その透明性ということを軸に進んでいて、例えば年金についても非常に長期的な負債を認識して、それに対して資産が足りない、だから埋めろという規制が強くなっています。これに対して、企業としてはとても埋めきれない、やってられないからやめちゃおうという格好で世界の確定給付年金というのは、今どんどんなくなりつつあるわけです。これはもう周知の事実ですね。

ですから、先ほどどなたかのご質問もありましたけれども、結局どうして日本の企業の年金利回りが2.5%とか3%だとかというのは、日本は10年前に国際会計基準を導入して、そういった今お話ししているようなことを世界に先駆けて、ある意味で結果論ですけれども、最悪の場面で入れた結果、日本の大企業は巨額の年金積立不足を認識し、それこそ1,000億円単位で埋めなければいけなかったというのはそういうことなんですね。それで、結果的にそういうことはもう二度と困るという格好で、非常にリスクを抑えたものになっているわけです。ですから、実はこの年金のガバナンスに関しては、会計基準の問題というのが非常に大きくて、例えば今、年金債務の時価評価、即時評価もアメリカではようやく昨年の法改正で、しかも段階的に入ってきているのに、日本は世界に先駆けてやってきたところがあって、そのことがいろんな意味でマイナスに効いていると思うんですね。ですから、企業会計制度に関しても、こういった年金制度の維持ということも含めて、もう少し幅広い観点から見ていかないと、結果的には年金制度を壊していくようなことになりかねないと思います。こうした点も非常に大きい問題点としてあると思います。

○池尾座長

よろしいでしょうか。

それでは、まだいろいろご質問あるかとは思いますが、後半も盛りだくさんなので前半の議論に関しては一応ここまでにさせていただきたいと思います。

鹿毛さん、本日はどうもありがとうございました。

○鹿毛参考人

どうもありがとうございました。

○池尾座長

それでは休憩なしですが、後半に移りたいと思います。後半では証券決済、資金決済あわせた決済システム全般について、有識者からの意見聴取をさせていただきたいと思います。それで、お三方というか合計4人の方に来ていただいておりますが、証券保管振替機構から常務取締役の大前茂さん、それから社債等振替業務部長の池上裕司さんのお二方に来ていただいております。それから麗澤大学教授の中島真志さん、それから総合研究開発機構主席研究員の犬飼重仁さんにお越しいただいております。皆さん、本日はどうもありがとうございます。

それでは、お三方から連続してプレゼンテーションをお願いして、そのあとまとめて質疑応答、ディスカッションをさせていただきたいというふうに思いますので、よろしくお願いいたします。

それでは、初めに麗澤大学教授の中島真志さんからプレゼンテーションをお願いしたいと思います。

○中島参考人

ご紹介いただきました麗澤大学教授の中島でございます。私の方からは、「決済システムの高度化に関する主な論点」ということでご報告させていただきます。

まず、決済システム全般をご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単に概略を説明してから論点の方に移らせていただきます。まず、資金決済の概要ということですけれども、我が国には大きく4つの資金決済がございます。日銀ネット、外為円決済システム、全銀システム、手形交換所とこの4つがございます。運営主体ですが、日銀ネットは日本銀行が運営しております。それから外為円と全銀システムは東京銀行協会、これは全銀協のようなものですが、ここが運営しております。それから手形交換所につきましては、全国各地の銀行協会が運営をしております。

それから決済の内容ですが、日銀ネットにおきましては、インターバンクの資金決済、それから国債取引の決済などが行われております。外為円では外為の円・ドルの取引が行われたときの円の決済が行われております。それから通常我々が資金の振込みとか給与の振込みとか、そういったものを行うのが全銀システムです。それから手形・小切手につきましては全国に140カ所あります手形交換所で交換が行われております。東京手形交換所が金額ベースで全国の約7割ということで最大です。

決済の方式ですけれども、日銀ネットは「RTGS」ということで1件ごとにグロスで決済をするリアルタイム・グロス・セトルメントという決済の方法になっております。それからそのほかの3つですが、「時点ネット決済」ということで一日の終りに自分の支払う額とほかの銀行からもらう額の差額であるネットの金額を決済するという方式でございます。日銀ネット、外為円というのは大口の資金決済でして、全銀システム、手形交換というのは基本的には小口ですが、一部大口が含まれております。

決済の金額・件数でございますけれども、件数で見ますと全銀システムが圧倒的に大きくて一日500万件以上の決済を行っております。ほかの決済システムのウェイトは数パーセントということです。逆に決済金額でみますと、日銀ネットが全体の8割ということで100兆円以上を毎日決済しております。1件当たりの決済金額で見ていただきますと、大口の程度がわかりますけれども、日銀ネットは1件当たり45億円、それから外為円でも6億円ぐらい、全銀システム、手形交換というのは200万円とか100万円とかそういう程度のシステムでございます。

それから証券決済システムの方ですけれども、一応こういったプロセスで進みますけれども、まず、一番上の取引の執行というところで東証、大証、店頭市場などで取引が行われます。そのあと当事者間で取引の内容の確認、取引照合というのが行われますが、これは保振機構の方でやられている「決済照合システム」というのがありまして、そちらで照合が行われます。それが終わりますと、次にクリアリングという段階にいきまして、ここで引き渡します資金と証券の決済金額を確定するということで、これが清算機関あるいはCCPといわれますが、そういったところで行われます。これについてはあとで詳しく述べたいと思います。CCPは、わが国には3つあります。

それから最終的な決済ですけれども、日本の場合、国債は日本銀行、国債以外の証券は保振機構ということで2つの証券決済機関で行われるということになっております。

以上が駆け足ですけれども、全体の概要でございます。

資金決済につきましては、以下の5点を申し上げたいと思います。まず、1点目は、大口資金決済における「日中ファイナリティ」の確保という問題でございます。資金決済につきましては、世界的なスタンダードとして「コア・プリンシプル」というのがございます。これは2001年にBISが公表したスタンダードでございまして、世界各国の決済システムはこれに従うべしということでグローバル・スタンダードになっております。この中で大口資金決済については、日中にファイナリティのある決済を実現することが望ましいということが書かれております。これは通称イントラデイ・ファイナリティ(intra-day finality)というふうに言っておりますけれども、日中にちゃんとファイナルにしなさいということになっています。

ところが、我が国の場合を見ますと、先ほど見ましたように、外為円は1日の終りにならないと決済が完了しないというシステムでございまして、end-of-dayのファイナリティしか得られていない。それから全銀システムにも実は大口の支払いが含まれているわけですけれども、こちらもend-of-dayのファイナリティしかない。実は欧米はもう既にこのコア・プリンシプルはクリアしておりまして、大口の資金決済について日中のファイナリティが得られるという形になっているのですが、日本はそうなっていないということで、ここが最大の問題となっておりました。

この点につきましては、今日銀の方で「次世代RTGSプロジェクト」というものを進めております。日銀ネットには、これまでは「RTGSモード」というものしかなかったのですけれども、これに加えて「流動性節約モード」というものをつくります。これは日中に順次「オフセッティング」というのですが、受けと払いを同時履行する。一種のネッティングみたいなものを日中にどんどんできるところからやっていってファイナルな決済をしていくというような仕組みでございますが、そういう流動性節約モードというものを日銀ネットの中につくりまして、そこで外為円の決済、それから全銀システムのうちの大口分について、流動性節約モードの方に持ってきて決済をしようというプロジェクトが進んでおります。これができますと、その流動性節約の方でイントラデイでのファイナリティが得られるということで、先ほどのコア・プリンシプルに沿った形になるということで、この問題は解決されることになります。今のところ、2008年度中にこの流動性節約モードの追加と外為円決済システムからの集約化が行われる予定です。それから全銀システムの大口分の集約化はちょっと遅れて2011年になる予定でございます。ということで、問題の1つ目はとりあえず解決の方向に向かっているということでございます。

それから2つ目でございますけれども、これはフォーマットとプロトコルの国際標準化という問題でございます。フォーマットというのは、決済指図を送るときのメッセージのフォーマット、文法のようなものですけれども、これは現在、世界的な決済のネットワークでありますSWIFTというところが使っておりますフォーマットが国際的な標準になっています。

それから通信の手順につきましては、現在はインターネット・プロトコルであるTCP/IPというのが国際的な標準になっております。我が国の場合を見ますと、全銀システムは日本独自の「全銀フォーマット」というのを使っております。それから通信プロトコルにつきましても日本独自の「全銀プロトコル」というものを使っております。特にフォーマットの方は基本的にカタカナの世界になっておりまして、全世界的にはアルファベットの世界でずっとやっている中で、日本に来ると途端にカタカナの世界になるということで、特に外銀や外資系の企業といったところは、その対応に苦慮しているという話を聞いております。日銀ネットと外為円につきましては、一応フォーマットは独自フォーマットを使っておりますけれども、SWIFTフォーマットも併用ができるようになっております。それから通信プロトコルもTCP/IP手順に対応済みということになっております。一方、全銀システムの方は、上述のように独自のものを使っており、国際標準にはなっておりません。全銀システムがオンライン化されたのは1973年、それから全銀プロトコルが制定されたのが1983年ということですから、20年か30年前のものをそのまま使っているという状況でありますので、そろそろ国際化対応を考えた方がいいのではないかということでございます。

資金決済の3点目でございますけれども、金融EDIというのは「Electronic Data Interchange」の略でございますけれども、要は支払いの指図にその支払いが何の支払いかというような明細データですね、remittance informationといいますけれども、それを添付して送るという仕組みでございます。これをやると何がいいかというと、金融機関にとってメリットがあるというよりは、最終ユーザーである企業が非常に便利になります。決済のデータと請求データを今は別々の形で受け取って、それを照合しているのですが、それが一発で自動的に照合できるようになるということです。今ですと例えば取引先から9,800万円もらっても、その9,800万円が何の9,800万円かということで別の資料で探さないといけないという状況でございますので、そこが非常に便利になるということでございます。

図でちょっと説明致しますと、EDIがない場合はX社がA行に支払指図を送って、このACHというのは全銀システムのようなものです、この全銀システムを通じて入金をされるB行の方に送ってあげる。そしてB行はY社にその9,800万円というのを入金してあげます。そうすると決済の関連の情報、その中身とか請求書とかというのは、別の形で郵送とか別のネットワークで送られて、受取企業で別々の形できたものを一生懸命照合しないといけないということで、月に何千件とか何万件とか売上データがあるところは非常にここが大変になっております。それで、EDIがあるとどういうふうになるかといいますと、送金指図に決済情報も一緒に含めて送ってあげればいいので、それが自分の取引銀行から決済インフラ、それから相手銀行から取引先ということで一括していきますので、9,800万円がきたときにそれの内容が何の9,800万円かということが一発でわかるということで便利になります。現在企業間の取引において、受発注など上流工程の方がどんどん電子化されてきておりますので、最後の下流部分であります決済の部分でも、資金の情報とその詳細情報を一括して電子化した形で取り扱いたいというニーズが非常に高まってきているということでございます。

ちなみに海外の例でございますけれども、まず米国ではACHという全銀システムにあたるところですけれども、ここが既にEDI対応を行っておりまして、80文字のファイルを一つ付けてもいいのですが、複数個も付けることができ、最大9,999個まで付けることができるということなので、最大80万文字まで付けることが可能だということでございます。

一方、欧州の方ですが、欧州は現在SEPAという単一ユーロ決済圏というのをつくろうということで運動しております。これは大口決済の方はターゲットといってECBのシステムで繋ぐことができているのですけれども、小口決済の方は依然としてACHが各国ごとに分立している状態でございまして、このままではよくないということで、2010年までに国内でもユーロ域内でも同じ取扱いで送金ができるようにしようと、今ECBなどが進めております。その中で今、送金標準(SEPA Credit Transfer)というのができております。この中で140文字の remittance informationを転送するというのを義務づけるという話になっております。これが2010年までにEUの各国まで導入されるということでありまして、米国は既にEDI対応済み、それから欧州もあと二~三年でEDI対応ができるということで、日本はどうするかという話でございます。

ちなみに米国のACHでの取引例でございますが、この黄色い棒線を見ていただきますと一番わかりやすいと思うのですが、この Addendum個数というのはremittance informationのファイルの数ですが、これがものすごい勢いで伸びているのがわかると思います。毎年15~20%という勢いで伸びてきております。アメリカではさらに去年の秋にFedとCHIPSが共同調査をやりまして、企業のニーズ調査を行いました。そうしたら、その中で企業の支払いの明細データに対する強い要望が明らかになりました。対象企業の94%が FedあるいはCHIPS、これは日銀ネットとそれから外為円にあたる部分ですが、そこで明細データの取扱いを希望しており、現状には非常に不満であるという結論が出ました。 そのうち58%の企業がそういうサービスをやってくれるなら追加コストを払ってもいいとしております。1件当たり平均1.67ドルぐらいまでなら払っていいと、円換算で200円ぐらいでしょうか。これくらいなら払ってもいいというようなことを言っておりまして、これを受けて今FedとCHIPSでは対応を検討している状況です。アメリカはもうACHでEDIができるのですが、さらに次の大口決済の方でもEDI対応ができる状況になるだろうというところまできております。

一方、我が国の現状を見ますと、まったく何もやっていないというわけではなくて、全銀システムにおいて「マッチング・キー方式」というのを96年に導入しております。ただ、実際は20桁ではほとんど何も入らないに等しいので、ほとんど利用されておりません。さすがに全銀協の方でもそれはまずいということで、2000年ぐらいにもう一回このEDI対応について検討した時期があったのですが、その後まだ実際には何もされていないという状況でございます。日本の場合は日銀ネット、それから外為円のところは顧客の送金がそんなにないので米国の場合と違ってそれほど必要はないのかもしれませんけれども、全銀のところはかなり潜在的にはニーズが高いのではないかと思います。このままいくと、また主要国の中で日本だけEDIができないというような状況になりかねないということで懸念をしております。

それから資金決済の4つ目ですが、「チェック・トランケーション」というのがございます。これは手形とか小切手を券面イメージとか金額のデータで電子的にやりとりをして決済をするということで、手形・小切手を現物を使わないで電子的に決済をするという方法でございます。チェック・トランケーションは、ここに挙げたように(1)事務負担が軽減される、(2)災害対策になる、(3)顧客サービスが向上する、(4)決済リスクの管理が向上するといった様々なメリットがあると言われております。諸外国の例をみますと、実は欧州では英・独・仏などのほとんどの主要国で、既にチェック・トランケーションが全国的に実施されておりまして、電子的な手形の交換が行われているということでございます。それから最近、香港やシンガポールでもこのチェック・トランケーションを導入しております。

それから最大の手形・小切手のユーザーであるアメリカなんですけれども、これまではその紙の処理にものすごいコストをかけて大変なことになっていたのですが、2004年に「チェック・トランケーション・アクト」(「21世紀小切手法」)が施行されました。この中では代替小切手(substitute check)というのが認められまして、これは電子的な小切手の情報ですけれども、これに現物の小切手と法律的に同様な効力を与えるという法律をつくりました。その後、各方面で準備が進められまして、SVPCo、耳慣れないと思うのですけれども、昔のニューヨーク手形交換所というところが Image Payment Networkというのを現在運営しておりまして、利用が急拡大しております。この3月の前年比でみると、交換枚数で6.1倍、金額でも3.1倍ということで、まだ全体の1割強ぐらいしか電子化されていないのですが、ただ勢いでいくともう前年の6倍とか3倍とかという勢いなので、もうあと数年でほぼ電子化されるような勢いでございます。業界の見通しでは、2010年ぐらいまでにはほぼ全面的に電子化され、ペーパーレスの世界に入るのではないかとみております。

我が国のトランケーションの現状なのですが、一度全銀協で検討しまして2002年3月にいったんチェック・トランケーションをやりますというアナウンスをしました。電子手形交換所というのをつくってチェック・トランケーションをやりますと言ったのですが、その9カ月後にやっぱり止めますということになりました。このときは費用対効果の問題などを挙げていたわけですけれども、この時期は2002年でございますので、まだ不良債権問題に悩んでいる時期でございまして、業界として金のかかることは一切やらないというのが当時の至上命題であり、止めになったということであります。このままいくと、またズルズル日本だけ紙ベースで手形・小切手の交換をやっている国になってしまうのではないかということを懸念しています。

それから最後に、資金決済の5番目ですけれども、ガバナンスの見直しということでございます。先ほどから縷々申し述べてきたところで、どうも全銀協が絡んでいる部分で何か対応が遅いのではないかと思われたのではないかと思いますけれども、先ほど運営主体として申し上げた東京銀行協会というのは、実はニアリーイコールで全銀協でございまして、全銀協の人が名刺に2つ肩書をつけてやっているということでございます。全銀協には法人格がないので運営主体になれないため、一応その運営主体として法人というものをつくっているのですが、中身は全銀協の人がやっているということでございます。事務局はそういうことで全銀協の一部門ということなので、なかなか決済の専門性がどんどん蓄積していくという形になりにくい。何年かに一度ジェネラリスト・システムでローテーションをしていきますので、他の部門から来た人が、急に金融EDIとかチェック・トランケーションとか言われてもなかなか分からないという話になりがちだということであります。それから意思決定の方は委員会制でやっておりまして、業務委員会というところがあって、そこで委員会制でやるのですが、そこは1行1票制になっておりまして地銀などもみんな1票を持っています。そうすると国際的な動向とかこのスタディグループでやっている東京市場の国際競争力とかそういうことに余り興味がなくて、とりあえず金のかかることは止めてくれという人たちが結構なウェイトで票数を持っている中で、なかなかシステムの見直しに向けた意思決定が進まないということがございます。

これも海外の事例を見ますと、銀行協会というところが決済をやっているというのは非常にめずらしくて、ABA(American Bankers Association)とかBBA(British Bankers Association)などでは、一切決済はやっておりません。銀行協会とは別に決済の専門の組織がありまして、CHIPSCo、 APACSなどですが、そういったところで専門性の高い人たちがその決済をどうしたらいいかということをずっと長年やっているということでございます。それで委員会制の意思決定ということを言いましたけれども、欧米の場合は通常、会社組織になっております。 non-profitですけれども、会社組織になっておりまして、大口のユーザー何社かが役員会を組織するということで、そのボードのメンバーがやろうということで決めるとすぐ意思決定ができ、非常に意思決定が速いし、やるべきことがすぐになされるような体制になっているといます。この辺を変えないと、日本の決済システムにおいてもなかなか必要な改革が行われていかないのかなという感じが前からしております。

それから証券決済につきましては、2点だけ申し上げたいと思います。1つは、国債の決済期間を短縮してT+1にした方がいいのではないかという話と、もう1つは、清算機関の分立とカバレッジの不足をなくした方がいいのではないかという話でございます。

決済期間の短縮化の方ですけれども、ご存じのようにアメリカは国債がT+1決済になっております。株式はT+3です。T+1というのは取引日の翌日に決済をすることであり、株式は取引日から3日後に決済するということです。国債のレポ取引(売戻し・買戻し条件つきの取引)については、T+0決済というのが主流になっております。こういった状況のもとで、アメリカでは株式のT+3のところをT+1にしようというのが98年から2002年ぐらいにかけてかなりの勢いで検討が行われました。ところが、9・11のテロの後はむしろバックアップセンターとかBCPとかというところをやらなければいけないということで、立ち消えになってしまったという経緯があります。

日本は実は今、国債と株式の両方ともT+3、3日後の決済になっております。アメリカがT+1を決済やるんだということで立ち上げたので、日本もじゃあ一緒にやるぞということで少し検討したのですけれども、アメリカが挫折したら、日本もじゃあやらなくていいよねという話になって、何も動きがないということであります。しかし、実はよく考えると、国債のところは一周遅れでありまして、アメリカはもうT+1、T+0で決済しているのですが、日本は依然としてT+3、3日後の決済になっているということでございます。では、T+1で決済期間が短いと何かいいことあるのということでございますけれども、1つは証券決済リスクが削減されるということです。3日後決済ですと3日分の未決済残高がたまるということですので、当然それを1日分に減らせばリスクは3分の1に削減され、リスクは少なくなるということでございます。

それから2つ目は、これはもっと重要なことだと思いますが、市場の発展にも関係するということです。国債による資金の調達・運用の利便性が格段に向上するということです。特にT+0のレポ市場ができれば、当日スタートで資金の調達とか運用、すなわち国債の売却、購入ができるということになる。これは企業や機関投資家、それから証券会社とか金融機関にとっては非常に便利な市場ができるということになります。ちなみに国債の発行残高に対するレポ取引の残高というのを見てみますと、アメリカは約5割がレポ残高になっているのに対して、我が国は約1割ぐらいしか残高がないということで、ここは多分T+1化すると相当市場が発展する余地があるのではないかと考えられます。ということで、市場全体のリスク削減という意味とそれから市場の発展に資するという意味で、国債決済のT+1化を進めた方がいいのではないかと考えております。

それからCCPの問題ですけれども、CCPというのは Central Counterpartyの略で、日本語では清算機関と訳されています。要はどういうことかというと、左側の図で見ますと、A証券はB証券とC証券とD証券といろんなところと決済をすると、それぞれ個別に資金をもらって証券を渡してということをやらなければいけないわけですね。次に、右側のCCPがある世界にいきますと、CCPが売り手と買い手の間に必ず入り、そして決済を保証するという機能を持っておりますので、各証券会社にとっては非常にリスクが削減されるというメリットがございます。それからもう1つは、左側ですとA証券はB証券ともC証券ともD証券ともそれぞれ個別に資金も決済、証券も決済しなければいけないのですが、右側の図ですとA証券はCCPだけを相手に決済をすればいいということで、非常にコストも削減されます。決済リスクが削減されて、コストも削減されるということでございます。こういうCCPのメリットが最近は市場の関係者に非常に深く理解されるようになってきておりまして、CCPを幅広い有価証券に適用していこうというのが世界の流れになっております。

翻って我が国はどうなっているかということですけれども、我が国には実は3つCCPがございます。1つ目が日本証券クリアリング機構、JSCCというもので、これは株式のクリアリングをやっております。それから保振クリアリングというのがもう1つありまして、これも株式をやっています。どう違うのかというと、クリアリング機構はストリート・サイド、要は東証でA証券とB証券が取引をしましたというときの受渡しのCCPでございます。これに対して、保振クリアリングの方は買った証券会社がそれを機関投資家のカストディアンの方に渡す、要するに自分の買った株式を銀行に渡すというときのCCPです。国債については、JGBCCというのがありまして、国債のクリアリングをやっていますということで合わせて3つのCCPがあります。

我が国のCCPの特徴についてみますと、比較的CCPの発達が遅かったというのが1つ目の特徴でございます。先ほどの表で見ていただきますと分かりますとおり、業務開始がいずれも2003年から2005年にかけてということで、独立したCCPという形になったのが非常に遅かったということでございます。

それから2つ目は、3つのCCPが分立しているということでございます。そうしますと、ユーザーはシステムもそれぞれのCCPにつながないといけないし、担保や証拠金とかそれから清算基金も別々に差し入れないといけないということで、ユーザーにとっては負担が大きいということでございます。特に株式で2つのCCPがあるというのは海外では例がなくて、ここはやっぱり何とか一つにしていった方がいいのではないかなというふうに考えております。

それからCCPのカバレッジが狭いということなのですが、対象になっているのが株式と国債だけでございまして、それ以外の社債、地方債、政府関係機関債、投信、ABSなどについてはCCPが存在しておりません。依然として、個別に先ほどの左の世界でやっているということでございます。

これも海外はどうなっているかということで見ますと、アメリカの場合はFICCというところが国債とそれからABSの清算をやっています。それ以外の債券につきましては幅広くNSCCというところがクリアリングをしています。日本は多分この世界を目指した方がいいのではないかと思われます。というのは、決済機関が2つに分かれておりますので、その前の清算機関も2つに分かれているというのが自然ではないかと思います。欧州はイギリスにあるLCH(ロンドン・クリアリング・ハウス)というのとフランスのクリアネットというのがありまして、実はこの2つが経営統合してLCH.Clearnetという連合になっておりますが、そことドイツに Eurex Clearingというのがありまして、ここが幅広く有価証券の清算を実施しております。これらのCCPでは、社債とか地方債とかも含めて幅広くやっております。これらのCCPは、現物だけでなくてデリバティブも全部一緒にやっているというのが特徴なのですけれども、海外を見るとやはりCCPをかました方が効率的であり、リスクも削減できるということで幅広くやっているということでございます。日本の場合は株式に2つある一方で、一般債のところは空白になっているということで、是非とも考え直した方がいいのではないかということでございます。

終りにですけれども、今申し上げてきた決済システムは、経済を支える重要な社会インフラであるということは皆さんの認識が一致しているところだと思います。インフラの特徴というのは、短期的には多少使い勝手が悪くても困らないのですけれども、長期的にはじわじわと市場の競争力に影響してくるということでございますので、こういったところで建設的な提言を出していくということは非常に大事なことではないかと思います。

以上です。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、ちょっと外でお待たせしてしまったみたいですけれども、証券保管振替機構の大前さんとそれから池上さん、お願いします。プレゼンテーションを早速ですが、ちょっと時間が押していますので、すみません。

○大前参考人

証券保管振替機構の大前でございます。本日はこういう機会を与えていただきましてどうもありがとうございます。資料としましては資料2-1と資料2-2、2つ用意しておるのですが、今日は主に資料の2-1をご覧いただきながらお話をさせていただきたいと思います。分厚い方の2-2は後ほどご参考にしていただければというふうに思います。

決済といいますのは、今も中島先生からお話がありましたが、投資家や発行体からよく見えるフロントの取引に対しまして、その後の証券と資金の受渡しが完了するまでのバックヤードでの非常に地味で目立たないプロセスでございます。ただ、地味で目立たないプロセスではありますけれども、極めて重要なプロセスだというふうに認識しております。資料の1ページをお開きいただきたいと思いますが、あるいは4ページもあわせてご覧いただきたいと思うのですけれども、ここでは証券決済の仕組みを説明しております。

1ページ横に有価証券の種類をざっと書きまして、縦に注文から決済に至るまでの処理の流れを書いております。我が国におきましては、投資家が売買の注文を出しましてから、取引所で売買が成立した日の、今もお話にありましたけれども、3日後に証券と資金の受渡しが行われるT+3というのが慣行でございます。アメリカもそうでありますけれども、海外でも今のところ、このT+3が一般的というふうに聞いております。その過程で取引の内容と決済の内容について確認が行われるわけなのですけれども、これを照合といっております。例えば取引所で株の取引を行った証券会社と投資家あるいは機関投資家との間で、どの銘柄の株をどれだけ売買したかといったような取引内容の確認、それからどの口座に証券を振替えるかといった決済の内容の確認を行いますけれども、これをそれぞれ約定照合、決済照合といっております。これにつきましては私ども保振がその機能を提供しているところでございます。

ちょっと下の方、○で囲みましたDVP決済というところがございます。このDVPというのはデリバリー・バーサス・ペイメントの略で、これは証券と資金の授受を連動させる決済という意味でございますけれども、この欄にネット=ネット型DVPだとかグロス=ネット型DVPだとか書いてあります。ネット=ネット型といいますのは証券の受渡しも資金の授受もネッティングしてから行う方式でございます。また、グロス=ネット型というのは証券の受渡しは1件ずつ行いまして、資金の授受はネッティングしてから行う方式でございます。こういった場合、すなわち、資金がネッティングされる方式をとっている株や国債につきましてはネッティングを計算するための清算機関が置かれております。

それから証券振替の欄で青いところ、保振という欄がずっと伸びておりますけれども、かつては保振は株式しか扱っていなかったのですが、現在では国債を除きましてすべての有価証券の決済を行っているところでございます。

下の四角枠内の取扱い残高でございますけれども、3月末時点で保振が取扱っている有価証券、株、社債、投信、CP、全部あわせまして大体8万銘柄、残高規模では時価ベースで760兆円ございます。株式について申しますと10年前に発行済み株券の2割弱しか保振に預託されておりませんでしたけれども、今では8割を超えるほど預託されているという状況でございます。株券電子化が完成致します2009年ごろにはこの全体の残高が800兆円から900兆円になると思われます。

資料の2ページには「改革スケジュールと保振の対応」というふうに書いておりますけれども、我が国において証券決済制度の改革がスタートいたしましたのは1999年ごろといわれております。それから8年たっておりますが、ペーパーレスに関して申しますと、2003年の電子CPを皮切りにしまして昨年は社債、それから本年は投資信託の受益証券と順次ペーパーレスの対象を広げてきております。株券の電子化につきましては、これは実務界の目標ですが、2009年の1月というふうにしております。これまでほぼ10年計画で取り組んできました無券面化を含む当面の決済制度改革の作業はここで一応終了致します。もちろん全体の改革というのは非常に大きなものがあろうかと思うのですけれども、ペーパーレスという意味で決済制度改革の作業がここで一応終了するということでございます。

ちなみに、保振のことを少し紹介させていただきますと、私ども保振は、22年前に株券の保管振替を行う目的で、当初財団法人として設立されました。有価証券のペーパーレス法制が整備される中で、ガバナンス強化の観点から既に5年前に株式会社化しております。ただし株式会社と申しましても営利を目的とするわけではありませんで、収支均衡というのが基本的スタンスでございます。したがって、利益が出ますと利用者に手数料を割り戻すということにしております。保振の株主というのは、保振に口座を開いております証券会社、銀行、信託銀行等でございまして、利用シェアに応じて株を保有していただいております。それで非上場で譲渡制限をつけております。このような性格は海外どの決済機関も大体同じようだというふうに認識しております。

次に資料3ページ、「証券決済制度改革への取組み」ということで3つの○が描いてあるのですけれども、証券・決済制度改革のねらいというのはリスクやコストの削減とそれから国際競争力の向上ということでございまして、改革がスタートした8年前の状況は国際標準、例えばG30という民間金融機関の有識者グループの集まりがあるのですけれども、そういったところで提言された勧告等で見まして、欧米はおろかアジアの主な市場と比べても劣後していたというのが実情でございました。

右側の○のDVP、先ほど申しましたデリバリー・バーサス・ペイメントでございますけれども、これは元本リスクを減らすために理論的にも実務的にも「モノ」と「カネ」を結びつけて決済するというDVPの機能を備えることが世界的な必要最低基準でございまして、保振では3年前から一般振替DVPを稼働させているところでございます。

それから左側の○、STPと書いていますが、これはストレート・スルー・プロセシングの略でございます。取引から証券・資金の決済まで、約定や決済の内容を確認する作業が必要でございまして、人手を介さないシステムで自動的に処理しようというのがSTPでございます。このSTPは世界各決済機関の共通のテーマでございまして、その入口は電子照合でございます。保振は5年以上前から決済照合システムを稼働させておりまして、今徐々にその運用範囲を拡大してきているところでございます。その結果、決済照合システムにつきましては99%という照合率になっておりますけれども、こうしたことを含めまして世界の最先端をいくものであるということで、海外から高い評価を得ているところでございます。

それから真ん中の○がペーパーレスということなのですが、株の券面の存在によるコストというのは一説には年間1,000億円ともいわれておりまして、ペーパーレスによって相当大きなコストダウンが期待できるわけでございます。もちろん盗難とか偽造とか紛失という券面特有のリスクもなくなるわけでございます。他方でますます装置産業化することによりまして、新たなリスクが生じますので、システムリスク・コントロールは極めて重要でございます。保振としましては、システムの安全性に対して万全な対策を講じております。加えて、大規模災害に備えて7年前にバックアップセンターを設置しているところでございます。なお、従来の保管振替制度といいますのは流通面の合理化という部分が中心でございますけれども、これがペーパーレスになりますと、有価証券の誕生からお葬式までと私ども言っておりますが、権利の発生・移動・消滅全体が電子処理となりますので、これはより根源的、包括的な変化でございまして、関連ビジネスの合理化につながると予想しているところでございます。

続きまして、ちょっとページを飛ばしていただいて国際比較の表をご覧いただきたいと思います。6ページでございますが、字が細かくて申し訳ありませんけれども、この国際比較の表で真ん中あたりに保管残高という欄がございます。この保管残高を比べますとアメリカのDTCCが保振の大体5~6倍持っております。またヨーロッパ、ユーロクリアが4倍程度、それからクリアストリームが2倍ほどとなっております。また、決済金額の欄ではアメリカのDTCCは日本の20倍ほどになっております。またここに書いておりませんけれども、DTCCのグループ会社で行っている国債の清算も含めますと、これはもう日本の100倍以上になるわけでございます。これは我が国に比べまして欧米の資本市場の規模が大きいこと、アメリカでは株の時価総額の4倍、売買だけで6倍というふうになっておりますが、そういうことだけではなくて、商品の取扱い範囲が保振よりも広いためというふうに見ております。

下の方に業務内容という欄がございますけれども、保振と比べて業務内容が広い項目、これを整理してみますと、まず資金の取扱いでございますが、欧米では元利金や配当金の資金決済を決済機関自身の資金口座を介して行っております。それからレンディングといわれる証券貸借あるいは担保管理、これにつきましては日本では決済不履行の発生が低いということで余りニーズは高くないのですけれども、流通が活発な海外市場におきましてフェイルといっておるのですが、証券と資金の受渡しが予定通り行われない、そういうフェイルを防止するために決済機関がレンディングなどのサービスも行っているところでございます。

それからコーポレートアクション、これは投資家の権利義務にかかわる会社の行為ということになりますが、コーポレートアクション関連業務につきましては投資家の権利を保全するために発行会社から網羅的に正確で、かつタイムリーなコーポレートアクション情報の提供が必要でございます。海外の決済機関におきましては株式分割とか株主総会のお知らせあるいは社債の繰上げ償還の実施、そういった幅広いコーポレートアクション情報の提供だけではなくて、利用者側の処理のためのデータ提供まで行っているというふうに聞いております。それから口座開設ということなのですが、欧米の決済機関の中には外国の決済機関の口座開設を認めてリンケージを構築しているケースがございまして、ごく最近でございますけれども、個別に私どもの方にも内々口座開設の申し入れをしてくる海外の決済機関がございます。

資料からちょっと離れますけれども、保振の当面の課題についてお話させていただきたいと思います。まず、何といっても一番目は決済制度改革の実現ということでございます。これが当面の最大の課題でございます。株の電子化稼働が1年半後に迫っておりますけれども、これに向けて全力を挙げて取り組んでいるところでございます。制度面とか実務的な仕組みの整理というのは概ねついておりまして、現在はシステム開発中でございます。スムーズにペーパーレスの世界に移行できるように個人のたんす株券保有者等に対するPRもテレビなどで既にご覧いただいているかと思うのですけれども、マスコミを通じて今精力的に行っているところでございます。

それから2つ目の課題が、コストの引き下げということでございます。これまで株券の手数料の引き下げは保振として重ねて実施してきたところでございますけれども、それでもアメリカに比べまして手数料が高いというふうにいわれております。ペーパーレス化によって株券を管理するコストを削減することがさらに可能になると思われますので、さらなる手数料引き下げの努力をしていきたいと考えております。

それから3つ目の大きな課題は、リスク管理ということでございます。先ほどもちょっと申しましたが、これだけ重要なインフラを司る上ではシステム障害とか災害対策のほかにもさまざまなリスク管理の強化が重要でございます。その1つが個人情報の保護ということでございますけれども、ペーパーレスになりますと株券を電子化によって管理するだけではなくて、株主情報についてもデータを一元的に保振が管理することになります。これまで決算期における株主情報として保振が持っていましたのは、保有者の管理番号と銘柄ごとの残高だけだったのですけれども、これが電子化後になりますと個々の株主の氏名、住所情報もデータとして全部保振に集められて発行会社に知らせるという、そういう仕組みに変わるわけでございます。これで相当の事務の効率化、コスト軽減が見込まれますけれども、その一方で延べ5,000万人もの株主の個人情報が一カ所に集まることになりますので、保振としまして個人情報の保護が極めて重要となりますことから、万全の対策をとることとしております。

次に、国際競争と国際協調ということで簡単に申し上げたいと思いますが、まず、国際競争の面ではクロス・ボーダーの証券取引が拡大することによりまして、その対応が大きな課題になりつつあります。例えば我が国の株式市場におきまして、現在非居住者が大きなウェイトを占めております。それから証券のクロス・ボーダー取引のSTP化が世界的な課題となっております。あるいは最近の市場、ユーロネクストとニューヨーク取引所の合併に見られますように、国境や大陸をまたいだ取引所の合併・提携という大きな動きがありますし、それとともに決済機関の連携の動きが進んでおりまして、効率化に向けた競争が一層激しくなっております。このような中で海外決済機関と伍して対応していくためには、クロス・ボーダーの障害を除去いたしましてコストを引き下げることが必要でございますし、あるいは国際標準への対応でありますとか、海外の決済機関と比較して、先ほどもちょっと表で申し上げましたけれども、活動範囲が狭いということをどう考えるかということもございます。また、決済機関同士の連携も一層重要になってくると思われます。

ヨーロッパにおきまして、ユーロクリアなどの国をまたがったインターナショナルな決済機関、これを私どもICSD、インターナショナルのCSDというふうに呼んでおりますけれども、こういったものが存在しております。投資家の海外投資にかかる資産管理を行うというグローバルカストディアンの性質が強いこのICSDが、各国に個別の決済機関であるCSDをグループ化する状況になりまして、多彩なサービスがさらにヨーロッパ大陸を超えて提供される環境になりつつある状況でございます。

また、ごく最近におきましては、「プロジェクトターコイズ」即ち「トルコ石プロジェクト」と呼ばれております、7つの世界規模の投資銀行が私設取引所をつくる計画が発表されましたけれども、その清算業務をアメリカのDTCCがロンドンに持っております子会社を通じて行うということも計画されていると、そういったニュースなどもございます。

先ほど資料で海外との業務内容の差をちょっとご紹介させていただきましたけれども、欧米の決済機関はもっと先に進んだ先進的な戦略を考えているというのが実情でございます。今後、クロス・ボーダーの証券取引はますます増加しますとともに、海外市場との競争が現実味を帯びてくる中では、我が国の資本市場の国際化を進めて国内の市場や決済機関が海外と伍して競争していくために、少なくとも海外の決済機関と大きくサービスに差異があることについては私どもとしまして強い問題意識をもっているところでございます。

また、資料の7ページに書いておりますけれども、国際競争と同時に国際協調あるいは国際貢献、こういったことも保振として力を入れているところでございます。2年に1回、世界の決済機関が集まりまして情報交換あるいは直面する問題点についての議論をしておるのですけれども、今年の4月には日本と韓国、台湾が共催いたしまして、韓国でこの世界大会を開催しております。アジアパシフィック地域の決済機関連合におきましても、日本は情報交換関係の仕事を担当するなど中心的な役割を果たしているところでございます。また、アメリカのDTCCや台湾、韓国、中国のCSDとも個別に情報交換契約を締結をしております。このように保振は世界の決済機関グループにおける連携を高めるための重要な役割を担っているというふうに認識しておりまして、個別にも提携の相手を増やしていくこととしております。

以上、いずれにしましても決済というのはインフラの最下流を分担しておりまして、発行体、投資家には見えにくい存在でございますけれども、最もシンプルでITシステムを得意とする分野であります。したがって欧州でも清算機関、取引所に先行して合併が進んでいるところでございます。決済機関に情報が集中しますことから、この情報をベースに広範な資本市場の統一化を進めているというのが欧米の実情でございまして、我が国もこれに後れをとらないように進める必要があるというふうに考えております。

私からのご報告は以上でございます。ありがとうございました。

○池尾座長

どうも大変ありがとうございました。それでは、ちょっと時間が押しておりますので、早速ですがNIRAの犬飼主席研究員からご報告をお願いします。

○犬飼参考人

ただいまご紹介いただきましたNIRAの犬飼でございます。よろしくお願いいたします。本日は大変貴重な場でお話をさせていただけることを大変光栄に存じます。

私は三菱商事の社員でございまして、ただいま内閣府の関係のシンクタンクでありますNIRA、総合研究開発機構に出向しております。そういう人間が証券決済のお話をここでさせていただくというのは大変僣越とは思いますけれども、実は私、財務の経験が長くございまして20年ほど三菱商事の財務関係部局におりました。そしてその間の87年から94年まで、6年3カ月間ロンドンの金融子会社で調達、運用、そして管理部門の経験を持っております。そのときにその金融子会社がメンバーでありましたユーロクリアの関係のオペレーションの責任者もいたしまして、直接自分でベルギーのブリュッセルのユーロクリアのオペレーションを動かした経験もございます。そういう意味で、一応、ハンズ・オンの経験があるかなということでございます。

(P.2)プレゼン資料「わが国証券決済改革の実績と展望-金融資本市場システムインフラ改革へのグランドデザインの必要性」の最初のページには、これも皆様はとうにご承知のお話ですが、1999年の規制緩和3カ年計画から始まった「証券のペーパーレス化の歴史的な流れ」を、簡単に書かせていただいております。実は、企業財務協議会という大手企業の財務部局で金融資本市場調達を担当する者たちの協議会がございまして、2000年の5月に、その中に「日本コマーシャルペーパー協議会(略称:CP協議会。現在の日本資本市場協議会)」というものをつくらせていただいて、私が事務局長を務めました。そのあとすぐに、プレゼン資料2ページの赤○で囲っておる部分ですが、非常に重要な、2000年6月の、金融審議会の報告が出たということでございます。

この金融審議会報告が、その後のCP・社債・株式のペーパーレス化、証券決済の流れを決める非常に重要なものであったと認識しております。その前からご当局に音頭をお取りいただいてコマーシャルペーパーについて紙の手形ベースのものを完全に電子化するにはどうしたいいかという「CPペーパーレス化に関する研究会」を約一年間に亘り開催していただいていたわけですが、その結果、短期社債としてCPの完全電子化を行うという法制度の枠組みが整ったということで、ではその次に実際の振替決済のシステムをどうつくればいいのか考えようということで、私どもの協議会で、欧州証券決済制度調査ミッションを送ったりしまして、CP協議会として約半年ほどかけて自主的に「電子CPの決済システムのグランドデザイン」のとりまとめを行ないました。

このCP協議会で取りまとめたそのグランドデザインが日本経団連に採用されまして、その後、日本証券業協会にもそのアイデアへのご賛同をいただき、それを受けて私どもの原案をベースにした民間サイドの草案という形のものを保振機構さんにご提案申し上げ、その後保振さんには大変なご尽力をいただいて、ただいまのペーパーレスの流れができたということでございます。このように、その最初のところで、多少とも私どもが意見を申し上げるなどのお手伝いをさせていただいたくことができたのかなと思っております。

ただ、このときはあくまでもコマーシャルペーパーの電子化のグランドデザインをとりまとめたということで、その後、保振さんには、実際の2003年のCP、2006年の社債、そして2009年の株式の電子化(振替決済)システムの構築に向けて大変なご尽力をいただいているということは、大変ありがたいと思っております。

そういう意味で、これは保振さんのご努力の賜物ですが、有価証券のペーパーレス化では、我が国は「欧米の周回遅れの状態から、いまや最先端の状態」に現状なっていると思います。ただ、株券電子化が日本の証券決済システム改革の最終目標かというと、多分そうでもないのだろうと思います。

(P.3)先ほど、2000年6月の金融審議会の報告が大事だと申し上げましたが、当時そこで指摘されていたことは、ここの3ページに書いてございますように、ほとんど実現をみております。これも大変なことだと思いますが、ただ、これも先ほど大前さんからご指摘がございましたが、実はこのとき既に「クロス・ボーダー取引の円滑化」という言葉が謳われておりました。ただ、これは残念ながら、ようやく今になって問題の重要性が認識されはじめてきたのではないかなと思っております。

(P.4)では、そのときに、2000年6月の金融審議会の証券決済ワーキング報告でどういうことがいわれていたのかということなのですが、「クロス・ボーダー取引にかかわる決済を円滑に行うためには内外の証券集中保管機構の提携が重要」とされております。「その手法についてはさまざまなものが考えられるが、我が国の証券決済機関と海外の証券集中保管機構が相互に口座を開設することによって連携を図るということも可能にすべき」と謳われております。非常に重要な指摘が、この時点でもう既に行なわれていた。ただ、その下に書いてございますように、当時は、当面の課題としてSTP、DVP、ペーパーレス化の国内対応が非常に重要であったということで、既存の枠組みの範囲内でクロス・ボーダー取引の市場慣行を最大限意識して整備していくという対応が、精一杯であったものと考えられます。まだ具体的なものが出てきてはいなかったということが言えるのかもしれません。それはそれでしようがなかったと思いますが、しかし「ただいまの現時点ではそれでは十分ではない」というのが、ここにきて日本全体の認識になっているのではないかと思われます。

やはり、先程来お話が出ておりますように、決済システムというものはなかなか目立ちませんが、非常に重要でございます。最近、日本の金融資本市場の国際化が政府レベルにおいてさかんに議論され、わが国金融プラットフォームの一段の国際化を求める声が強くなっております。日本がアジアの中核市場を目指すならば、決済システムのグローバル化についても議論を行う必要があるのではないか。株券電子化は証券決済システム改革の最終目標ではなく手段です。関係者は株券電子化で精一杯かもしれませんが、それを乗り越えて、わが国金融プラットフォームの重要部分である、決済システムを始めとする市場インフラのさらなる利便性の向上、効率性、コスト競争力の向上、ひいては国際化のために、市場関係者のご努力が必要になっているのではないかと思われるところでございます。

(P.5)実は、それらの点に関しまして、今年になりましてから数カ月の間に、官邸、政府関係機関で3つの大変重要なレポートが出てきていると認識しております。

最初のものは、首相官邸から5月16日に出ました「アジア・ゲートウェイ構想」です。2番目は経済財政諮問会議のグローバル化改革専門調査会のワーキンググループから出ているものです。そして3番目が、こちらの金融審議会のスタディグループから出されているものです。

この3つの報告を拝見致しまして、非常に重要な指摘がそれぞれなされていると思います。それらを貫く考え方と致しまして「日本が目指すべき金融サービス市場とその構成インフラのグランドデザインというものが必要になっている」ということかと思います。

資料の5ページの左下の方に書かせていただいておりますのは、金融商品取引法(FIEL)をはじめとする法規制体系、それには開示制度や税制も入りますが、金融サービス市場のインフラとしてそういうものを発展させ、これからさらにきちっとしたものになっていかなければいけないということかと思います。

右下の方に書かせていただいているのは、金融資本市場のシステムのインフラです。そういうシステムインフラは、証券決済制度もその一つですが、取引所のシステムから、証券の清算や保管振替のシステム、証券取引情報収集登録のためのシステムや、資金取引のためのITコミュニケーションシステム、またシステム障害など万一の場合の業務継続計画(BCP:Business Continuity Plan)にいたるまで、そういうものを統合的かつ同時的に整備し、効率化、高度化をしていく必要があるということです。

そういうものがそろって初めて、つまり右と左の、法規制システムと市場システムインフラとがそろって初めて、金融資本市場の国際化、アジアの金融センター化というものがなされるのではないかということかと思います。

(P.6)これは既に公表されていることですが、アジア・ゲートウェイ構想の中には、大変進んだ考えといったらいいのでしょうか、注目されるべき記載事項がたくさん出ております。ただ、アジア・ゲートウェイ構想に関する新聞記事等を拝見すると、残念ながら羽田の発着枠の話だとかそういうことしか載っておりませんで、金融関係のことが余り報道されていないのですが、その中身の方は大変大事なことがたくさん書かれていると考えております。例えば、「証券・資金決済を一体として行う集中決済システムを創設することが重要」ということが、おそらくこういう形では初めて書かれていると思います。

それと、「アジア債券市場育成の取組みを一層強化する」と謳われていますが、アジア債券市場というのは一体何なのだというところが、巷間いろいろ言われる割にはあまり議論が進んでいない分野であったのかもしれないと思うわけです。例えば、6ページの下の方ですが、「クロス・ボーダーのアジア国際債券市場の創設等」というところで、「アジア債券市場育成の取組みを一層強化し、究極的には、アジア各国と協力し、アジア域内に各国の規制の枠組みを超えた、ユーロ市場並みの高度の自由の許容されるクロス・ボーダーの市場が創設されることを目指す」と書かれております。ちょっとこれだけ見ると何のことかわかりにくいのですが、非常に重要なことが書いてあると思います。

ここで釈迦に説法ですが、債券というのは3つの種類があると思っております。それは通常の国内債がまずその第1番目です。第2番目がクロス・ボーダー債というものだと思いますが、クロス・ボーダー債を2つに分けるとするならば、1つは、外国の国内市場で発行される国外債ですね。例えば、これが日本で外国の方が発行する場合にはサムライ債、日本企業等がアメリカで発行する場合にはヤンキー債、韓国で発行する場合にはアリラン債というふうに呼ばれるものですが、これらは国内債の一種ですね。外国人が出すわけですが、国内債の一種です。それで、もう一つのクロス・ボーダー債は、いわゆるユーロ債のようなものです。これは場合によってはオフショア債と言われたり、あるいは民間企業等が出す場合には民間国外債というふうに言われたり、いろんな言い方がありますが、まだまとまった名前がございません。実は、この後者の方が、これから日本とアジアの時代を画していく、我が国とアジアにとって非常に重要なものではないかと思っております。ただ、これを総称してアジア債、アジアボンドというふうに呼ぶ場合もありますが、この辺の議論がまだよく尽くされていないということで、「何がアジア債なのか」、また「アジア債というものをどのようにつくっていかなければいけないのか」という議論は深まっておりません。

私どもが、ロンドンの金融市場、そしてユーロ債市場のICSD(International Central Securities Depositary)であるベルギーのユーロクリア等を見て、経験して、実感しますのは、「アジア域内において、ユーロ債のようなアジア債を出したい、しかしそのアジア債が、ベルギーのブリュッセルまで行って、ユーロクリアのシステムにのせて決済しなければいけないという状況はどうなのだろう?」ということです。ユーロ円であればいいのかもしれませんが、「今後、アジア各国の発行体がアジア通貨建てのアジア債を出していく場合に、それがすべて、例えばユーロクリア決済になってしまうというのはどうなのだろう」という気持ちはございます。ただ、それ以前に、ユーロクリアでは、特定のアジア通貨建ての債券しか取り扱ってもらえないとか、決済が一日遅れるといった問題があるわけです。また、一般化した言い方ですが、欧米の決済のシステム、欧米の仲介機能・仲介等の業者の手によってアジア債ないしアジアのインターナショナル債がすべて決済され、仲介され、保管されるという状況を、今後アジアに定着させるということがどうなのか? これはグローバルカストディアン業務あるいはセトルメントおよびクリアリングの業務を含めてということですが。つまり、そういうアジア債券市場の発行と流通に関する市場インフラと呼べるようなものを、大変かもしれませんが、日本だけということではないのですが、アジア域内全体で何とかつくっていくということが考えられていいのではないかという感じが致します。

(P.7)2番目は、これは経済財政諮問会議の報告なのですが、わが国の市場のあり方に関して「決済システムの戦略的強化」ということが書かれてございます。ここでも「証券決済と資金決済が一体として効率的に機能」とか、「決済システムの国際標準化、清算決済機関の国際的な連携強化を図るべき」ということで、中島先生や大前さんが今おっしゃっていただいたことが、まさに書いてあるということではないかと思います。大変これも進んだ考えのことが書かれていて、素晴らしいと思います。

(P.8)そしてこちらは金融審議会から出していただいたペーパーですが、「国際的な競争力の高い金融資本市場となるためには、市場を支えるインフラとなる決済システムが、グローバル化、IT化の流れに対応したものであることが重要」と書かれています。

さて、これらの3つの報告をざっと見てまいりまして、それぞれ整合性が取れていると思いますが、今の段階は、先ほどの2000年の6月の金融審議会答申の直前の段階のような雰囲気が感じられます。といいますのは、決済システムのお話というのはなかなか難しいと思いますが、やはり市場実務家、市場関係者の間で議論をこれから高めていく、その前の段階にあたるのかなと、つまり、2000年の6月の前のような状況かもしれないなと思うわけです。ただ、2000年のときは、国内の話をしていればよかったのですけれども、これからは国内だけではなく、日本を含むアジア域内外を対象とする国際的な金融資本市場システムのインフラの創造と改革へのグランドデザイン、そして工程表というものが、これからは多分必要になるのではないかと思います。

(P.9)次に示しておりますのは、NIRAの金融プラットフォーム小委員会として、本年2月にアジア・ゲートウェイ戦略会議に提出・提案をさせていただいたペーパーからの抜粋でございます。かなり分厚い提言を出させていただいておりますけれども、先ほど申し上げましたように、金融サービス市場の構成要素としては、売る人、買う人、仲介する人、それの中にあらゆるいろいろなシステムがありまして、そういうものを一体的にこれからよくしていく必要があるのではないかということを提言させていただいております。

9ページの右の方に書かせていただいているのは、実は今、SE、つまりシステムエンジニアの方たちが不足しているということのようです。株券電子化まで2年を切った今日では目前の株券の電子化対応、あるいは企業と金融業界の日本版SOX法対応、電子政府対応、あるいは各省庁の業務・システム最適化対応等々で、今皆さん大変に忙しい状況にあって、新しいことなどやれないような状況にあるのではないかなということが言われます。少なくとも2009年ぐらいまではまったく新しいことができないのではないかと言われておりますが、その状況について金融庁さんは1年前にそういう調査もされているようでございますが、その辺を今後どう考えるのかというのも一つ重要なポイントになろうかと思います。必要なのはSEをたくさん確保してシステムをつくりにいくということではなくて、いまこれから早急にやらなければいけないのはその前段階のグランドデザインづくりではないかなという感じが致しております。その不在というのは、最終的にはやはり我が国とアジア域内全体の金融サービス産業の空洞化へのリスクを高めることにならないかというのが非常に懸念されるところでございます。

(P.10)続いて、字がいっぱい書いてあって恐縮でございますが、これは先般、NIRAの方で東大の神田秀樹教授と私で対談をやらせていただいたときに、神田先生の方から教えていただいたことを転記させていただいているのですが、「マーケットのグローバリゼーションの意味とは何か」というところで非常に重要なご指摘をいただいております。これはお読みいただきたいと思うのですが、まとめていいますと、「金融の世界というのは決め事の世界である。決済にせよ何にせよ、何をしたらいいのかというのが見えている、つまり各論のカタログは見えているので、あとは決め事の世界の問題である」と、当たり前といえば当たり前かもしれませんが、そういう認識が重要であるということです。

10ページの下のまとめのところにありますように、「金融市場というもの自体がまさに人為的なもので、ものづくりの世界と異なって、どういう市場をつくるかは決め事の世界なので、したがって、市場のシステムインフラのつくり方が重要である。つまり、規制しないのも当局の判断、決め事である。それで、日本のためだけのオフショア市場というものは不用であって、やっぱりアジア全体のことを考えて、国内市場とクロス・ボーダー市場のデザインを構想しなければいけない。それで、アジア各国の金融市場のビジョンが必要となる」ということです。なお、「既存の各国の国内市場にもう一つ、参加者・ルール・税制が違う市場が共存するのがクロス・ボーダー市場である」という点も重要です。これは先ほど申し上げたクロス・ボーダー市場の2番目の方だと思いますけれども、いわゆるオフショア型ということだと思うのです。

ただ、ここで一つ申し上げなければいけないのは、「オフショア」という言葉を使いますと、「何かよくないもの」という印象が我が国では強いのではないかと思います。したがいまして、オフショアという言葉はあまり使わない方がいいかなと思っております。すなわち、「マネーロンダリングの世界」であるとか「税金をごまかす世界」であるとか、そういうふうな意味合いのニュアンスがオフショアという言葉にはありますので、ちょっとこれから言葉の使い方は難しいかなというふうに思っております。いずれにせよ、この「クロス・ボーダー市場の整備がアジアに欠落していることは事実である」ということで、「アジア各国の民間と政府との対話でクロス・ボーダー市場の制度を積み上げていくということが重要」ではないかと神田先生はおっしゃっておられます。

それを受けまして、オフショアという言葉を使わないでアジアボンド市場ということをもう少し詳しく言った場合に、我々は、「アジア域内国際債市場」、ないし「Asian Inter-regional Professional Securities Market」、最近は略して「AIR市場」の創設が必要という提言をさせていただいております。

(P.11)こちらはそのNIRAの提言の中から、「アジアボンド発行市場へのロードマップ」ということで、表の4番の証券決済のところを見ていただきたいのですが、「Dual Core Asian international CSD」というものがありうるのではないかという提言をさせていただいております。

(P.12-13)では、その Dual Coreとは一体何だということなのですが、これは先ほど2000年6月の中に出てきておりましたように、例えば日本の保振と韓国のKSDを結んで相互に決済するようなことを考えれば、ベルギーのブリュッセルにありますユーロクリアまでいかなくても、アジアの中で、各国の国内で決済される国内債に加えて、アジア域内で自己完結するアジアボンドつまりインターナショナル債(AIR債)をつくり出すことができるのではないかというような提言をさせていただいているわけでございます。

(P.14-15)もう一つ、これはADB(アジア開発銀行)がホストを務められるABMIの検討の中で、RSIという議論が最近なされております。これはいわゆるアジアクリアだとかアジアセトルだとか言われるものとほぼ同じで、アジアのICSDということなのですが、これを Regional Settlement Intermediaryという名前で呼んでおられるようで、それについて韓国のテクニカルアナリストの方を中心に大変に重要な議論が行われているように見受けられます。RSIのあり方をどうすべきか、ということで、進んだ議論が行われているということは、我々もきちっと見ておく必要があるのではないかと思います。ここで重要なのは、ユーロクリアはアジア各国通貨の中でも日本円やその他一部の国の通貨が効率的に決済できるに過ぎません。将来に亘る中長期で考えますと、やはりアジアの各国が、アジア通貨建てのアジアボンド(インターナショナル債)をいかにうまく創っていけるかというところが問題になると思います。そういう意味で、アジア各国通貨の決済の円滑化の問題、具体的にはセトルメントの話、アジアのインターナショナルCSDあるいはRSIの議論をするときには、そういう決済通貨の問題も同時に考える必要があるというところの指摘がなされているところです。

(P.16)こちらのページは、先ほど中島先生から、日本にはCCP(セントラル・カウンター・パーティ(清算機関))がいくつもありますというお話があったかと思いますが、これを絵に描くと、こんな感じになるかと思います。小さいものも入れますと、大阪証券取引所にもCCPがあり、国際清算機関、日本証券クリアリング機構、そして保振のクリアリングということで4つあります。これがばらばらになっているということです。先ほどの中島先生のお話のように、CCPというのは非常にメリットがあるが、ただユーザーメリットということを考えた場合には、この4つをさらに集約するということはありうるのかどうかというのも、ひとつ検討課題なのではないだろうかと思います。

それと同じような意味合いにおきまして、CSD(国内の証券集中預託機関)ということで括らせていただいておりますけれども、一般債の場合には保振さんが担われておりまして、国債の場合には日本銀行が資金決済も含めて担われているということだと思うのですが、保振さんの場合には残念ながらというか現状は証券決済だけでございまして、これを例えば保振さんの中で証券決済と資金決済と両方が行われるようなことができないだろうかという検討も、必要になるかもしれないと思います。いずれにしてもいろいろな議論がありうると思いますので、従来はスピーディな制度整備の観点で、個別最適を重視していろいろな制度設計が行われてきたわけでございますが、今後はもう少し全体最適の議論というものを重視すべきではないかなという感じが致しております。

(P.17)今申し上げたことをまとめますと17ページのようになりますが、ここでひとつ指摘をさせていただきたいのは、ページの真ん中あたりなのですが、欧米がどうなっているかというところで、先ほどもお二人の方からお話がございましたけれども、私の見るところでは、欧米の諸国は、証券取引にかかわる横断的かつ統合的な観点を重視して、統一的なインターフェイス構築や清算・決済機関等の組織運営の一元化など、証券決済全体の効率性を常に目配りし、目指しているのではないかという感じが致します。例えば、米国の証券決済制度というのは、日本のそれと機能配置、組織やシステム配置は似ているわけですが、いわゆるインターフェイスの一元化、資金決済や担保利用の効率化が非常に進んでおりまして、「事実上全体で最適化が図られている」のではないかと、完全かどうかわかりませんが、外から見るとそういう感じが致します。また、向こうではセキュリティ・インダストリーが競争力向上に常に前向きであるような印象を受けております。それと、国はサポートする程度と感じます。

また、米国だけではなく欧州・EUも、同じように市場関係者中心に決済効率の追及に向けて積極的な取組みが種々行われているのではないかということです。

従いまして、アジア域内の市場システムのあり方に関しては、日本とアジア域内の決済システムをはじめとする国際的なアジア域内の金融資本市場システムインフラといってもいいかもしれませんが、それらの効率性、競争力というものは、おそらく市場規模で最も大きい日本がイニシアチブをとり、そしてその次は韓国であるわけですが、日本、韓国、そして中国あたりがお互いにきちっと相談をしつつ、その辺の議論をこれからはしていく必要があるのではないかという感じが致しております。

(P.18)最後に、我が国証券決済システムの当面の展望と致しましては、3つ書いてございますが、重要と思いますのは、(1)ペーパーレス制度の方を市場拡大につなげられるかどうか、一般債はどうか、またペーパーレスだけで効率性・コスト競争力の向上が達成できるかという点、それと、先ほど申し上げたように、(2)アジアの中核市場としての(わが国の)ビジネス戦略というものが、これから必要になるのではないかという点。つまり、わが国の清算・決済機関と関係当事者は、互いに連携して、より効率的でアジアに開かれた決済システムの提供を、ビジネスプランとして明確にすべきではないか。豊富な金融資産を持つ日本市場はアジア諸国にとってやはり魅力的ですので、今のうちに、アジアの国々と、あるべき金融プラットフォームについて真剣な議論を行い、実現可能なものから着手しつつ、ビジネス面での連携を深めることが必要で、特に日韓対話が、その第一段階として重要と思います。そして、これも先ほど申し上げましたように、(3)効率性向上には既存の枠組みを超えた取組み、米国の例に学ぶということが必要ではないか。DVP決済についても、元利金決済の効率化など非常に細かい部分の話もございますが、それと先ほど申し上げた、資金と証券の一体的な取扱いが現在可能になっていないわけですが、例えば銀行免許が必要かどうかわかりませんが、保振さんがそういう機能を持っていただくことがどうなのかというご検討も、今後検討に値するのではないかと、そういう感じが致しております。

大変に勝手なこといろいろ申し上げているような気がしておるわけでございますが、あくまでも素人考えかもしれませんが、ヨーロッパの決済システムを実際に使った経験、そしてコマーシャルペーパーの決済システムを提言させていただいた経験、そして実際の資本市場のユーザー、市場実務家としての経験をベースにいたしまして、コメントをさせていただきました。どうもありがとうございます。

以上です。

○池尾座長

どうもありがとうございました。残念ながらもうちょっとほとんど議論をする時間は残っていないのですけれども、ご質問等、特にこれという感じでございましたらお願いしたいなというふうに思うのですが、いずれにせよ、とにかく論点が非常に広範囲にわたっていてプレゼンテーションをしていただく方々にも非常に短い時間でちょっと無理なことをお願いした面もあって、なかなか十分な議論ができない面があると思いますが、何かございますでしょうか。

はい、どうぞ。

○國部メンバー

中島先生の方から資金決済システムについて幾つかご指摘をいただきまして、私の方から何点か申し上げさせていただきたいと思います。決済システムを考えるときに、やはり安全性、効率性というところを機軸に考えていくべきだということだと思います。国際基準との整合性については、例えば中島先生の方からプレゼンテーションにございましたけれども、コア・プリンシプルに沿って外為円決済については2008年度中、それから大口の内国為替取引については2011年度を目途にRTGSとしていくということで今進めております。

それからフォーマットの件、ご指摘いただいたのですが、英文のSWIFTフォーマットを直接受けつける等々の手当てをすべきという観点だと思うのですが、決済システムでその機能の強化であるとか、リスク管理の強化をやっていくときに、やはり一つの考え方として多くの参加者が受益者となる必要があるということと認識しています。全銀システムは一日530万件の振込みを処理しているわけですけれども、現在このご指摘の点は英語で取引を管理している場合のみメリットが出るように私は思うのですけれども、日本語で取引がされて管理されておりますし、また少しシステムを手当てしたとしても、その英文のデータとそれから日本語の受取り口座、これをいずれにしてもマッチングする機能をつくらないといけないのですけれども、それをこういう決済システムという制度で担うのかどうかという議論だと思います。それで例えば、一部邦銀ではそのSWIFTのデータを全銀システムのフォーマットへ変換することを含めてキャッシュマネージメントサービスを提供していると、こういった工夫もしておりますので、そういったことである程度対応は可能だと思います。

それからEDI、これは過去議論をしたことが全銀協としてもございます。現在20文字なので入れられるデータは非常に限定されているというのは事実です。これは送る側、それから受け取る側の企業のニーズをよく聴取して考えていくべき問題だと思います。このEDIが求めているものとして、例えば入金照合であるとかあるいはどういった取引にともなう決済なのかということを特定するというニーズがあるわけですけれども、これは今かなりの銀行がやっておりますけれども、被振込口座を請求先ごとに開設して、その入金明細と請求明細を照合していくというサービスをやっておりまして、これで企業の方では請求に見合う入金のデータだというのが突合できますし、その被振込口座を分けることによって、どういう取引にともなうものかというものが特定できるということになってございます。それをちょっとご紹介させていただきます。

それからガバナンスのところを少しご指摘をいただいたのでございますけれども、もともとABA、BBAとは協会の成り立ちが違いまして、東京銀行協会は全銀システムあるいは手形交換制度といったものを運営するものでございますので、少し海外とはその存立趣意が違います。したがいまして、ご指摘いただきましたとおりいろいろな昨今の状況を踏まえて決済システムの高度化について、我々として進めていくということの重要性はそのとおりだと思いますが、ガバナンス上、例えば意思決定が遅いとかいうご指摘もいただいたのですが、そういうことはございませんので、申し添えさせていただきます。

○池尾座長

はい、木南さん。

○木南メンバー

中島先生の資料の8ページに「基本的にカタカナの世界」と書いてあったのはどういうふうにしてこれを知られたのかということに非常に関心があると。というのは全国銀行の内国為替取扱い規則というのは対外秘となっていまして、ものの本には書いてあるのですけれども、対外秘のことがこうして書かれているのですけれども、ある部分は対外秘で、フォーマットとかセキュリティに関するものは対外秘だと思うのです。しかし、どこまで対外秘にするのか、これを考えていただかないと、エンドユーザーから見たら申込書にふりがなを書いたら、ふりがなで決まっていて、書いた漢字は意味がないと、そして口座番号とかを書いたのも意味がないというふうな扱いで、ふりがなで書いたところ自体でカタカナで書いたことだけが意味をもつという仕組みになっているということがあって、外から見たらわからないという仕組みになっているので、中島先生がどうして知られたかということ知りたいわけではなくて、内国為替取扱規則の東京銀行協会はウェブサイトで公開してほしいという希望だということです。

それともう一つは、資料2-1で大前さんが触れられなかったのですが、5ページに一般債の新規発行、元利金支払処理イメージというのが載っていまして、元利金処理イメージというので非常に内容がよくわかったのですが、これが国債の場合、あるいは株式の配当の場合も同じことなのかどうかということが関心がありまして、教えていただければありがたいと思います。

それから同じ6ページの資料のところで、その○とか×で業務内容が書いてあるのですが、これは先ほど最後のプレゼンテーションの中に出てきました事業をするときの免許の問題と関連しているのかどうかということで、例えばDTCというのは信託銀行だと思いますし、ユーロクリアというのも銀行免許を持ってやっているということがあると思うのですが、そのことと関連している部分なのか、関連していない部分なのかということについて関心がありましたので、教えていただければありがたいと思います。

○池尾座長

その点はちょっとスペシフィックな質問ですので、お答えいただけるでしょうか、2点。

○池上参考人

証券保管振替機構の池上でございます。まず、元利金の取扱いでございますけれども、一般債の処理につきましては保振が残高を管理しており、それに基づいて利息を計算したものを発行者の方に請求する。ただ、請求の情報は保振機構がまとめるものの、資金については、直接これは日本銀行さんの当座預金口座を使ってお金を支払う、そんな仕組みになっております。あと、国債については、振替機関として日本銀行さんが業務を行っていらっしゃいます。日本銀行さんは当座預金のシステムも持っておりますので、基本的には資金もあわせて日本銀行さんが国債の利息を支払うという仕組みになっております。

それからあと、株券の方の配当金でございますけれども、これは基本的に現状保振の方では処理をしておりません。発行者の株主名簿管理人が株主名簿に記載された株主の方々に直接配当金を支払うというやり方になっておりますので、この点では保振は今やっていないということでございます。

それから海外との比較でございますけれども、証券保管振替機構は、株券の世界では保管振替法に基づく保管振替業務、それから社債等振替法に基づきます振替機関ということで金融庁さんの指定をいただいて、業務を行っているということでございます。具体的に株券であれば保管及び振替に関する業務、これを本業とするということで、それ以外の業務については兼業ということでのその都度のご承認をいただいてやっているということでございます。

○池尾座長

よろしいですか。では、ほかにご質問、ご意見ございますでしょうか。はい、どうぞ。

○淵田メンバー

ちょっと手短ではないかもしれないけれども、3つほど。1つは細かい話で恐縮ですが、中島さんに資金決済について。日本の場合、決済用預金が導入されたとき、決済途上の資金も保護されるということになり、この結果、決済リスク削減のためにシステムの参加者が本来払うべき努力が払われなくなってしまうのではないかという懸念が生じたと思うのですが、その後、そういうことは杞憂だったのか、それとも何かまだ懸念すべきことがあるのかどうかということをちょっと伺いたいと思います。

それから先ほどメッセージの国際標準化の議論がありまして、銀行取引、資金決済の場合は国内の取引が非常に多いということだったのですが、証券取引については今、非居住者の日本市場へのプレゼンスがどんどん高まってきているわけでありまして、そうした海外投資家あるいは海外の外国の業者さんが日本の市場で取引をする際に、日本の市場の仕様にあわせるために追加的なコストが非常にかかるマーケットなのか、その点はそんな心配ないのかということを伺いたいと思います。これはどなたでも結構です。

例えば欧州の中では市場統合を進める上で、やはりクロス・ボーダーの証券決済を効率化しなければいけないということで、一番最近の動きとしてはISO20022という国際標準取引の標準化を進めています。これは別に証券取引だけではなくて金融取引にもどんどん応用されつつあるわけですけれども、これはEUだけの話ではなくて、今アメリカサイドでもどんどんEU市場との何らかの意味の一体化なり統合ということを目指す動きになっています。欧米をまたにかけたグローバルプレイヤーにとってはアメリカとそれからEUが同じような制度、会計基準、それからこういう証券取引の細かい部分まで一体化していくという方向にどんどんなっていくのではないかというふうに展望されるわけでありまして、そういうことを考えると5年か10年たったときにEUと米でこうした標準化が進み、日本はそういう国際標準から非常にはずれた姿になっていないかどうか危惧されます。こうしたことの議論というのはまだ余りされていないのでしょうか。

そのことも含めて、本日いろんな提言があったわけですけれども、やはり直接のユーザーさんとか参加者の方にとっては、コストは非常に見えるけれどもベネフィットは余り見えないという部分も多いかと思います。そこで、やっぱり国としてあるいは市場全体としてこういうインフラをどうすべきかとか、そういう問題意識とやはり個々のプレイヤーさんにとってのコストベネフィットということの調整というものがどうしても必要になってくると思います。こういうのをほかの国は一体どう乗り越えていっているのかということですね、もし何かご示唆があればと思っております。

○池尾座長

それでは、ちょっと時間もないのでお答えいただける範囲で手短に。中島さん、お願いできますかね。最初の1点目とか2点目、3点目もあれですけれども。

○中島参考人

いろいろご質問いただきましてありがとうございました。始めの方のSWIFTのフォーマットとかEDIとかガバナンスについての話ですけれども、国内だけの取引を考えていれば支障はないのかもしれないのですが、このスタディグループでやっているような国際化といったようなことを考えると、やっぱり外国企業とか外国人というのも増えてきているわけですし、グローバルにやっている外銀というのも東京市場でこれからどんどんやっていってもらわないといけないということでありますので、そういう面ではやっぱり国際化の対応をやっていくべきだろうということであります。

それから私、これちょっと未確認ですけれども、マネロン対応という意味でもいろいろデータベースが英語でできていたりするので、それとカタカナとをチェックするというのは結構大変なことになっているという話もありますので、そういう面からもやっぱり英語対応をやっていった方がいいんじゃないかなという気がしております。

それからEDIについても、インフラが十分でなくても個別対応でできているからいいじゃないかというお話だったのですが、私の議論はそれだったら中央のパイプをきちっと通した方が社会全体としての効率性が高まるのではないかということを申し上げたということです。

それからガバナンスは、私は10年ぐらい見ていますけれども、やっぱりちょっと遅いのではないかなという気がしております。海外はやっぱりもっと速いです。スピード感があります。

淵田さんのご質問の方ですけれども、金融庁で決済途上の債務は全部保護するということを決められたということで、それを受けて全銀協サイドで今やっている決済システムのリスク管理策は、もう不要ではないかという議論で全部やめようかという話が一時あったというふうに伺っておりますが、やっぱりさすがにそれはまずいということになり、今のところはリスク管理策が続いているということだと思います。

それからクロス・ボーダー決済については、実は欧州には20ぐらいのCSDがありまして、それを段々一つにしていこうということで進めました。当時一つはクロス・ボーダーリンク構想というのがあって、それぞれのCSDを繋げばいいじゃないかという話があったのですが、それはうまくいきませんでした。スパゲッティ構想とかいわれて、もうぐちゃぐちゃになってしまうということでうまくいかなくて、やっぱり大きなユーロクリア、クリアストリームというところを中心に今統合が進んでいるというのが現実だと思いますので、やっぱりどこか大きなところに収斂されていくということではないかなというふうに考えております。

○池尾座長

それでは、ちょっと議論も尽きないところがあるのですが、既にというかほぼ時間がきてしまいましたので、どうしてもということがなければこれできょうの質疑は終わらせていただきたいというふうに思います。

非常に活発なご議論をいただいてどうもありがとうございました。今後の進め方ですが、夏休み前というか夏休み前のヒアリングは一応これで終了ということにし、一応もう少ししっかりした論点整理をまとめて責任を果たして夏休みに入りたいということで、次回はとりまとめに向けまして、一回非公開で会合をもたせていただきたいなというふうに思っております。

日程につきましては事務局より、後ほど連絡があるということです。もちろん最終的なバージョンを議論する際は、また公開でやらせていただきますが、ちょっと生煮えのバージョンを途中で議論する必要があるので、一回ちょっとそういう処置をとらせていただきたいというふうには考えております。よろしいでしょうか。

それでは、以上をもちまして本日の会議を終了させていただきます。どうも長丁場をありがとうございました。

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