特集:「金融経済教育を考えるシンポジウム」の開催

第3回:パネルディスカッション(後編)

〜未来を担う世代のために、いまできること〜
平成16年1月31日(土)

パネルディスカッション(後半部分) 今月号では、前月号に引き続き、金融庁金融研究研修センターの主催により、「未来を担う世代のために、いまできること」をテーマに開催した「金融経済教育を考えるシンポジウム」のうち、パネルディスカッションの後半部分について掲載します。

  ○パネリスト(順不同)
  新井 明(都立国立高等学校教諭)
  伊藤元重(金融知力普及協会理事長)
  柳谷 孝(野村證券専務執行役)
  竹中平蔵(金融担当大臣)
  コーディネーター:野中ともよ(ジャーナリスト)

 

○ 意識開発の必要性

野中  我が日本はと言いますと、お伝えできるものがございません。それでこのシンポジウムが先程、「一つの大きなエポックメーキングのスタートになると良いと思います」と大臣は仰ってくださいました。この経済、金融のことを勉強する目的は何かと言ったら、「株、買ってください」ではもちろんなく、それは結果として、その行為はあるけれども、何かと言ったら、お金を目標に、10万円でも高い給料を取ったお父さんの方が、10万円安いお父さんより何か男が上がるというような感じで、社会全体が進んできた高度成長型の日本のこの価値観を、「お金というのは大事だけれども、目的ではないよ」というのをどこから始めようかということなんだと思うんです。
 柳谷さん、それでストックリーグというのは、株式投資の一つのシュミレーションのゲーム的なことをサポートしてくださっているんだと思います。さっき控え室でとても良いお話をしてくださいました。例えば子供たちに投げかけたら、子供たちは株をどう思って捉えてきたか。

柳谷  福岡県のある中学校のケースですが、子供たちが音楽が大好きで、どういった視点で投資をするかというときに、将来、自分たちが年を取って老人になったときに楽しくロックが聴ける、そういう生活をしたい。そして、そのために自分たちに貢献してくれる企業はどんなところがあるのだろうか。ゆったりくつろげるベッドを作っている会社、もしかしたら独り暮らしかもしれないので安全に関係する会社、あるいは薬を安く売ってくれる会社、こういった視点で企業を選んだりというような、様々な角度で、10銘柄ぐらいでポートフォリオを組んでいきます。このストックリーグというのはパフォーマンスを競うゲームではありません。どのような視点でどういうプロセスで銘柄を選択したかということを大事にしています。

野中  新井先生、実際に先生方が気が付いておやりになり始めて、親御さん、あるいは生徒たち、先生方自身、どんな意識の改革というか、が起こりましたか。

新井  いまストックリーグの紹介があったのですが、私は、東京証券取引所が中心になって提供している株式学習ゲームの授業を取り入れて、今年で8年目です。この株式学習ゲームはストックリーグの先行形態で、ストックリーグが株式学習ゲームを追いかける形になっているわけです。昨年で1,400校7万人ぐらい生徒が参加するようになっています。
 その株式学習ゲームでは、1,000万円を持ったと仮定して、3カ月なり、場合によっては半年なり運用して、日経300から銘柄を売買してその結果を競う。
 ストックリーグの方はポートフォリオを作るというのがメインですが、株式学習ゲームの方は運用の面、つまり何を買うのか売るか、その結果を自分で責任を持つという形がメインなんです。そういう中で、私はもしその日経300のなかに親の会社なり、関連の会社があったら、差し支えなければ必ず買えよといいます。もちろんプライバシーの問題等もありますので、嫌だという子もいます。あとは知っている会社を買えとか、ライバルを買えとか、ヒントとして出すんです。
 例えばそういう中で親の会社を買った生徒がいるんですが、どんどん下がってしまった。全体が上がっている時期なのに下がってしまった。それで、「どうしてなの?」という形で「親子の対話が生まれる。数年前、これは男子の生徒だったのですが、「お父さんの会社、本当に大丈夫?」と言って、「何を言っているんだ」と言われた。もちろんその後、自分の会社はこういうことをやっていて、「がんばっているから大丈夫だ」という話をする。
 先程大臣が言われたけれども、金融は間口が広い。その通りだと思います。経済は間口が広いと言っても良いし、株式学習ゲームでもストックリーグでもとにかく間口が広いんです。
 実は日本の中にも少しずつNPOも含めて、そういうサポートをしていただけるような仕組みができています。ただし、それがまだネットワークにはなっていない。それから大きな力にはなっていないというのが現状なのかなと思います。
 生徒は株式学習ゲームをやって、株はギャンブルだというレポートを書く子が結構多いんです。でも、私はそれで良いと思っているんです。それから2度と買わないという子もいます。実際に自分で責任を持って買って、何カ月か運用したら、1,000万円が700万円ぐらいになってしまうこともある。そういう意味では2度と買わないという子が結構多いです。でも、私はそれで良いと思っています。
 それは二つありまして、一つはビギナーズラックは怖いというのが一般論です。必ず儲かるなんていうことはない。あともう一つは自分で体験をしてやってみた。体験をして痛い目に遭う。
 そういう中で「やらないよ」と今は言う。でも、そういう体験をした生徒がもう少し大人になってやりだしたら、これは本物です。

野中  自己責任においてやるんだということが自覚できるわけですからね。

新井  そういう教育は高校では実は遅いんですね。もう少し下の段階から日常的なもののなかでやるべきだし、その体制が少しずつできてきているかなという、そういう実感ですね。

 

○ 日銀総裁の飛び入り −お金を「生き生き」させる−

野中  何かあっという間にこんな時間になってしまったのですが、それで一応、このシンポジウムの場の議論はプレゼンテーションを聞いて、また引き続きやっていきたいと思います。
 野中は目が良いので、約1名とても素敵な方を会場で発見してしまいました。ステージに上がって、ちょっとご挨拶とコメントいただけますか。日銀の福井総裁でございます。
 土曜日のお忙しいなかありがとうございます。総裁が、「何か挨拶とか、そういう堅苦しいのをやると、みんなシーンと場が白けてしまうから、そういうのはだめよ。その代わり、ぼく一人で端っこで聞いて、うまくやったかどうかというのだけチェックしてあげる」と仰ってくださったのですが、見つけてしまいました。
 今まで、お聞きいただいていかがでしたか。

福井  何か飛び入りみたいになりまして、本当に申し訳なく思っています。
 今日は久しぶりの休みで、野中さんから、「今日はこのシンポジウムに来て勉強してください」、そういうことでございまして、先程から実は舞台裏で、もう席がないと思って聞かせていただいていました。
 いま大臣とも協力をさせていただいて、要するに日本経済を元気にする。不況を脱却し、デフレを脱却し、新しいものを作りだす力の強い日本経済、国際競争力がしっかり身についた日本経済にしたいということで必死になってがんばっているんです。一言で言うと、企業も金融機関も、それからここにいらっしゃる方々を含め、我々一人ひとりがお金をいかに生き生き使えるかと、そういう状況に早く持っていきたいということだと思っています。
 企業も過去、ちょっと借り過ぎたなというお金はちゃんとお返しして、これから新しく価値創造、本当に皆さんが必要だと思われている「財」とか「サービス」をきちんと作り出せるようなところ、つまり付加価値の高いところにきちんとお金を使う。これは企業がお金を生き生きと使ってくださることだし、金融機関の方も過去に貸し過ぎてちょっと不良債権になったというのは、あまり生き生きしたお金ではないので早く後始末をして、これから目の光を輝かせて新しいことをやりたいという企業の方にきちんとお金を流す。
 多分以前に比べたら、銀行がお金を貸すというだけでは、これからの世の中は足りないと私は思います。企業は色々な形の新しいビジネスをやっていくし、事業の性格とか企業が取っていくリスクの度合いとか、対応が非常に変わってきますから、それの体格にぴったり合ったお金を供給していかなければいけない。このことを日本銀行ではシームレスな金融仲介機能といっています。本当に事業の性格とリスクのプロファイルにピタッと合ったオーダーメードのお金の供給体制が必要だと、そういう意味で金融機関は従来よりもうんと幅広く市場を通じて、お金を生き生き流してもらいたい。
 我々個人もお金を使うときは、本当に自分たちがより質の高い幸せを得られるような使い方をきちんとする。でも自分が使わないお金はどうでもいいや、ちょっと置いておけば良いというのではなくて。自分の使うお金はもちろん自分の幸せのために生き生き使ってもらわなければいけませんが、差し当たり自分が使わないお金も世の中で生き生き活動して、でもちゃんと自分が使いたいときには自分が使える。これでなければいけない。要するにお金が退屈して寝ていてはいけない。カビが生えてしまう。それは絶対いけない。そのためにどうやって自分が使わない金を置いておけば良いか。今日は投資ということに焦点をあてておられますか。

野中  いいえ、金融経済教育、いままさに総裁が仰ってくださったお金というのは食べるのが目的、使うのが目的ではなくて、人生一回しかない。この一回ある命を生き生きとさせるためのパートナーとして、もう一回見直そうということのためのシンポジウムでございます。

福井  自分が差し当たり使わないお金がどういうふうに生き生き使われているか。生き生き使ってくれそうなところに、きちんと自分のお金も置くという感覚が必要ですよね。
 私も昔から教育場面に行くと、先生が怖くて硬直するじゃないですか。だから、自分でまず考える。それでちょっとわからないところをきちんとわかるような、色々な材料を整えるとか、ちょっと話を聞かせてくださるというところから始めると、先生が怖くなくなってくる。そういう体制が必要だと思いました。先程からお話を伺っていて、今日は本当にそういうふうな雰囲気のなかで話が進んでいるし、おそらく聞いておられる皆様方もそういう気持ちで聞いておられて、メモを書いて、後からもう一回読み返さなければわからないというお話ではなかったように思います。こういうことは非常に大事だと思います。わかりやすく、忘れないと、こういう意味です。

野中  ありがとうございます、総裁。それを金融庁が主催してくださった。大臣、それで今の総裁のお話を大臣はどんなふうに。

竹中  総裁のお話を聞いていて、二つきちっとキーワードを言ってくださった感じがするんです。一つは「生き生き」という言葉で、本当に我々の活力の源になるような、そういうお金、人生のよきパートナーとしての、そういう仕組みを我々で作っていかなければいけない。我々もそういう意識を持って接していかなければいけないということだと思うんです。
 もう一つは「シームレス」という言葉だと思います。教育に関しても実はシームレスというのはいま大変重要になっています。例えば今まで子供の教育は文部科学省だった。大人の職業訓練という教育は厚生労働省だった。しかし、子供の教育の中に職業教育が出てこなければいけませんね。大人も大学、場合によっては高校にもう一回行けるようにしなければいけません。そこの人間力強化というのが役所の壁を超えてシームレスにならなければいけない。同じことは、この金融経済教育にいったいそれぞれの役所なり、それぞれの会社、NPOがどう主体的に関わっていくのかというのは、実はシームレスでなければいけないということなんだと思うんです。そういう二つのキーワードをさすがに総裁はちゃんと言ってくださったと思います。
 それにしても、私はいま総裁の横顔を拝見していて思い出したのですが、お金というのは、昔と今と我々の関わり方が違っているんです。もちろんこれはビジブルに、例えば給料袋も昔は厚かったけれども、今は振り込みになった。それも違いますけれども、総裁が日銀に入られたころは、銀行でやるみたいに札束を数えたんだそうです。今の日銀マンはそれができないんだそうです。だから、いま福井総裁は日本銀行で一番お札の数え方がうまい方なんだそうです。(笑)

福井  それは本当です。ちょうどいま皆さんが使っておられる5,000円札、1万円札は、私が日本銀行に若いときに入った、その年の暮ぐらいから出てきたんです。ですから、日本銀行に入って、最初にお札を数えたのは500円札とか1,000円札。1,000円札なんていうのは、私のこの小さな手は非常に数えやすかった。ところが5,000円、1万円は大きくて重くて大変難儀をした覚えがあります。でも、今はちゃんと数えられます。

野中  この2004年の日本丸において、G7もすぐ目の前にしていますけれども、先程の「シームレスなお金の生き生きとした」あり方は、このお二人の肩にずいぶんかかっていらっしゃる。

竹中  いま総裁が「シームレスに」と仰る中に、本当にお金が潤滑に流れて、日本銀行券が非常に高い価値を持ってみんなに迎え入れられて、有効に活用されている。実はそのためにいま福井総裁は大変苦労しておられるわけですが、日本銀行が銀行に対してお金をたくさん出しても、それがなかなか全体としてのマネーの増加に結び付かない。
 その一つの大きな要因が、まだ残念だけれども、金融機関の中に不良債権があって、なかなかリスクを取った前向きの貸し出しができない。そこをきちっとお金が回るようにする役割は金融庁が大変な重要な役割として担っているわけです。同時にまた不良債権処理をうまくやっていく過程においては、これは原因と結果になるわけですけれども、日本銀行でしっかりとお金が流れるように努力をしていただかなければいけない。
 いま重要なのは、まさに今日のテーマとも一致すると思うのだけれども、問題意識を共有して、それぞれが協力して努力する。そこはあるときには建設的な緊張関係がなければいけない。しかし、問題意識を共有して専門家がネットワークを組んでいく。これはどの場面においても必要なことだと思います。

野中  でも、ここのお二人よりもやはり問われているのは私たち一人ひとりがタンスにしまいこんだり、貯金箱に入れて、これが安心と思っているような今までの当たり前のお金との付き合い方を一歩進めて、どういうふうにしたら生き生きと自分のお金で自分の責任でできるかということを学習する。教えて育てる教育ではなくて、楽しく学ぶという学習の方ですね。それをしていくことだというふうにお二人のコメントを伺いました。
 ありがとうございました。改めまして拍手をお願いいたします。

 

○ まとめ

野中  お約束の時間もおありになる方もいらっしゃると思うんですが、新井先生から一言ずつ、よろしくお願いいたします。

新井  教員は一言ではなく、三言しゃべってしまいます。ということで、言葉としては「目標」と「方法」と「連携」という三つのことばでまとめたいと思います。
 最初の「目標」に関しては、長期と短期があると思うんです。短期では自己破産とか金融トラブル、若い人たちがいま直前にある危機に巻き込まれようとしています。それを何とかしなければいけない。長期的には私はリテラシーという言葉、読み書きですね。要するに経済的な読み書きをマスターすること、これが大事な目標なんだということが確認できたのではないかと思うんです。
 それから、二番目の「方法」に関してはベーシックなところで、投資とか、そういうものよりは選ぶということをきちんと教えたい。選ぶときには当然コストがかかります。この時のコストは機会費用です。日本の学校では今まで一度も教えたことのある概念ではありません。
 しかし、難しいですけれども、極めて日常的なものです。そういうものを教育のなかに入れていくこと、これがすごく大事だと思います。関連して付け加えさせてもらうと体験です。その体験のチャンスは総合的な学習の時間が使えます。総合学習には、学校を開く一つの可能性があると思っています。そういう意味では概念、方法、体験が改善されなければいけない。
 最後に「連携」ということでは、先程から言われていますが、学校でできること、それはきっちり学校でやる。できないことは外部からサポートしていただく。そういう形が確認できればいいのかなと思います。

柳谷  私は、お金にコントロールされる人生を送るのではなくて、金融経済の知識をしっかり身につけることで、人生の目標を達成するための手段としてお金をコントロールしていく。そういうことが非常に大事なのではないかと考えています。証券会社として金融経済に関する知力の向上に引き続いて貢献していきたいと考えています。

伊藤  皆さんのお話を伺っていて、特に最後、生きる力という話を聞いていて、全然違う分野のことを思い付いたのですが、食料のことなんです。最近、私は食べ物に非常に関心があるのですが、自分が食べる物は誰がどう作って、農薬を使っているのか、あるいはどういう人がどういう思いをして作っているのかというのを知りながら食べる。要するに自分が実際にかかわっていることの裏側にあるストーリーだとか、あるいは色々な営みということを知らなければいけない。
 そういう意味では金融も同じだろうと思うんです。ただ、何となくお金を使うとか運用するとかというのではなくて、その後ろにどういう生活があるのか、どういう人生があるのか。最初の高校生の方、あるいは大学生の方の言葉を使うと、ストーリーがどうなっているのかということを知ることは非常に大事だろうと思います。食べることも、それからお金を使うことも、ぜひ主体的に色々考えられれば良いと思います。

野中  金融庁の大久保審議官、お願いします。

大久保  きょう「金融」という言葉が大変たくさん使われておりまして、私は色々なお話を伺っていて、「金融」というのは非常に狭い意味の言葉と非常に広い意味の言葉があるんだなということを痛感いたしました。狭い意味の言葉でいえば、もちろん金融庁とか日本銀行、あるいは銀行とか証券会社とか、たくさんの金融のお仕事をされている方がそれぞれしっかり仕事をしていく必要があると思うんです。
 もう少し広い意味の金融という言葉は、まず生きる力とか人生の設計とか、主体的に色々考えていくとか、そういうことですから、そういうことがしっかり社会のなかに根付いていくことによって金融の仕組みもよくなる。市場もよくなる。金融機関の仕事もよくなる。そういうことになるのではないかということを痛感したしだいでございます。
 また、色々なご意見をお寄せいただいて、私どもはそういったなかで積極的な役割を果たしていければありがたいと思っております。

野中  総裁、最後に、是非。

福井  先程から伺っておりますと、投資は金儲け、株式投資はバクチかという話もありました。私の感じますのはお金が命よりも大事、お金を抱えて墓場まで行きたいという人には、これはぴったりですね。しかし、これは金銭教育いき過ぎの人だと思います。こういう人には金銭教育以外の教育がうんと必要です。
 普通は、先程私はお金、「生き生き」と言いました。自分のお金を自分のために生き生き使う。小さいかもしれないけれども、自分の夢を実現するためにお金を使う人、これは本当にお金が生き生きするし、その人本人も生き生きするということになると思います。それで自分が差し当たり使わないお金を上手に置きましょう、上手に投資しましょうというのは、自分を含め、世の中の人全体と一緒に大きな夢を実現しましょう。そのためにお金を最適な場所に置きましょう。これが生き生きとしたお金の使い方、自分が差し当たり使わないお金を生き生きと使うやり方です。そうしますと、世の中全体の夢が実現する。
 しかし、夢というのは必ず実現するとは限らない。そこが夢の良いところで、結局、実現しない夢もあるので、夢は必ずしも実現しない。その部分がリスクという部分だと思います。
 先程からポートフォリオ、あるいはリスク分散という言葉が出ましたが、結局、世の中の人々が広く全体に実現しようとしている夢のなかのどこに焦点を当てて、自分は世の中の人と一緒に夢を実現したいか。これがポートフォリオの組み方だと思いますし、一部実現しない場合もある。それはある意味で覚悟のうえだし、しかし、分散して投資をしていれば、全面的に自分のところにリスクが跳ね返ってくるわけではない。相当程度、夢が実現する部分がある。そこで利口になって、また次の夢の実現に向かって、お金を投資していく。夢の実現のためにお金を投資するというのは、本当に広がりのある話だと思います。先程企業の社会的責任、Social Responsibility、これを実現するために企業が行動することがある。環境問題を克服するために企業は結構投資をする。その投資は目先の利益にはつながらないけれども、長い目で見て人々の夢の実現の方向に企業活動の一部を振り向けるということですから、この企業は世の中の人々から夢を実現する企業であるとみられる。そういう意味の企業価値が上がっていく。
 したがって、長い目で見て、この企業は投資をしていく価値があるんです。どうしてかというと、夢の実現に通じるから。人々の心がそれだけ広がると思います。もっと広がろうと、つまり企業を離れても、NPO、NGO、人々がどうしても実現してもらわなければいけない価値を実現するために活動している団体です。そういったところに寄付しようか。これも立派にお金を生き生きと使う方法だと思います。
 私は日本銀行で仕事をさせていただいておりますけれども、お金というのは皆様方が墓場まで持っていくためではなくて、世の中の夢の実現のために大いに生き生きと使っていただきたいと思います。ありがとうございます。

野中  ありがとうございました。
 本当に皆さん、時間をオーバーしてしまったことをお許しください。でも、天気の良い土曜日に足を運んでみてよかったなときっと思ってくださっていると思います。その思いは本日お出にならなかった方にも伝えてください。そうすると、運動が倍に広がっていきます。
 いま総裁がまとめてくださったように、お金について学ぶこと、金融経済のことについて学ぶことは、いかに儲かりまっかという人生を送るかではなくて、生き生きとしたその人なりの人生を実現するためのもの。
 自分が学ぶというのは、残り少ない、そして未来につながる世代が「よい社会だね、ここは」と言ってもらえるためのこと。今、自分の意思決定をすると、ものすごく大きな社会改革ができるのだ。そして、その主人公は私たちだということにお気付きいただければ、その一助になればと思って行われたシンポジウムでございます。皆さんの人生がより幸せになるお手伝いができたら、幸せでした。
 改めまして壇上の皆様に拍手をお願いいたします。ありがとうございました。

司会  野中さん、ありがとうございました。皆様、どうぞプレゼンテーターの皆様、そしてゲストの皆様にもう一度大きな拍手をお願いいたします。
 さて、皆様、いかがでしたでしょうか。本日は金融経済教育について行ってまいりましたが、皆様もぜひきょうのシンポジウムを今後にお役立ていただければ幸いと思います。本日はお忙しいなか、「金融経済教育を考えるシンポジウム」にご参加いただき、誠にありがとうございました。

○ 「金融経済教育を考えるシンポジム」アンケート結果のポイント

 シンポジウム当日は、参加いただいた皆様に対してシンポジウムの感想や金融経済教育についてのアンケートを実施し、参加者(284名)のうち219名の方から回答をいただきました(回収率77.1%)。その概要をご紹介します。

(回

答者の属性)
 
 職業別:会社員121名(55.3%)、教育関係者37名(16.9%)、その他
 年齢別:40歳台83名(37.9%)、30歳台52名(23.7%)、50歳台36名(16.4%)、その他

(回

答結果概要)
 
 シンポジウムに関しては、今後もこのようなシンポジウムが開かれれば「参加したい」との回答が6割を超え、「テーマによっては参加したい」を加えると約92%となっています。
 金融経済教育の必要性については、「大変強く感じた」あるいは「強く感じた」との回答が91%を超え、その必要性の理解が進んでいる結果となっています。ただ、その方法論については、今後議論を深めて欲しいとの意見も寄せられました。
 属性の違いから単純な比較はできないものの、平成14年5月に内閣府が実施した世論調査中、「学校教育で金融・証券に関する基本的知識を教える必要性」との問に対し、「必要である」あるいは「ある程度は必要である」と回答したのは66.0%であったのに対して、本アンケートにおいてはそれを大きく上回る結果となっています。
・ 金融経済教育を取り組むべき段階(重複回答)については、「中学校」と「高等学校」がそれぞれ167名(76.3%)と最も多く、「小学校」の110名(50.2%)を大きく上回る結果となっています。
 平成14年に行われた前書の世論調査のときには、「学校教育における金融・教育の開始段階」との問い(単数回答)に対し、「高等学校」との回答が51.2%、「中学校」は33.1%という結果が残っています。
(主 な意見)
 
 今後の活動に活かしたいので、応援して欲しい。
 地方でも開催して欲しい。
 継続して開催して欲しい。
 本日のシンポジウムの内容や存在を広く伝えて行くべき。
 と、シンポジウムの開催に関して今後ともやって欲しいというような意見の一方で、
 
 もっと多くの教師が参加できるよう努力すべきではなかったか。
 証券投資に片寄り過ぎではなかったか。
 とのご意見もいただきました。

 アンケート結果としては、シンポジウム自体への評価は、概ね好評であったと思われるが、運営等に関して若干厳しいご意見もいただきました。今後、今回いただいたアンケートの結果を参考にしていきたいと考えています。


 金融庁では、金融経済に関する教育の推進に資するための副教材「インターネットで学ぼう わたしたちの生活と金融の働き」をホームページに掲載しております。
 この副教材に関するご意見及び授業における実践例等を募っております。
 「インターネットで学ぼう わたしたちの生活と金融の働き」
   ホームページアドレス  http://www.fsa.go.jp/fukukyouzai/index.html
   副教材に関する意見等のメールアドレス  fukukyouzai@fsa.go.jp

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