【集中連載】
 
ペイオフ解禁拡大(第4回:送金や振込中のお金はどうなるの?)

 これまで3回にわたり、4月以降の預金保護の姿がどうなるのかを説明してきました。今回は、預金保険制度に組み込まれた「決済機能の安定確保策」の説明をしましょう。これは、皆さんが金融機関を使って行う送金や振込を保護する制度なのです。


.仕掛かり中の決済ってなんだろう???
 金融機関は、皆さんから振込依頼を受けた場合、その資金を皆さんの預金口座から別段預金や仮受金勘定などに一時的に移し、その後、決済のためのシステム(全国銀行協会が中心に作り上げたシステムなので、「全銀システム」と呼ぶことにします。)などを通じて振込などの取引の決済を行います(分かりやすく説明するために簡略化しています)。
 振込依頼が日中の早い時間(通常は14時まで)に行われた場合は、当該営業日に全銀システムにおいて金融機関どうしの決済が行われ、その後、受取人側の金融機関にある受取人口座に入金されて決済が完了するのですが、振込依頼が日中の遅い時間に行われた場合には、全銀システムによる決済が翌日以降の扱いとなってしまい、振込依頼をした日には決済が終了しない(受取人に入金されない)のです(これを「仕掛り(しかかり)中の決済取引」と言います。詳しくは下図参照)。また、決済日をあらかじめ何日か後に指定して振込依頼を行う場合にも、依頼した日には決済が終了しません。
 金融機関が、こうした取引のための資金を別段預金で経理しておれば預金保険の対象になるのは明らかですね。でも、破綻した金融機関がこうした資金を、仮受金など預金以外の勘定に経理しているとどうなるのでしょう?「振り込んだ資金が預金保険で保護されず、先方に入金されないじゃないか?!」と心配する人もいるのではないでしょうか。
 
仕掛かり中の決済ってなんだろう???


.決済債務も保護

 ご安心ください。金融機関が破綻したために、決済のために送金や振込した資金が受取人に届かないような制度では、金融システムだけでなく我が国の経済活動全体が混乱することになります。更に、迅速な破綻処理の障害にもなってしまうので、預金保険制度はこの仕掛り中の決済も保護しているのです。
 例えば、月末に光熱費などの口座引落しがあるとしましょう。多くの人が、この代金を引落し日の数日前に口座入金していると考えられます。先月号までの特集を読んで頂いた方は、ピンとくるでしょう!そうこの代金も決済用預金や、名寄せしても1000万円以下の口座に預けていれば保護されます。そして、引落しされた後の仕掛かり中の決済も保護されているので、金融機関が破綻しても、光熱費は無事受取人に支払いされることになるのです。
 

(参

考)技術的な面を簡単に説明すると、預金保険制度では仕掛かり中の決済を「特定決済債務」と名づけ、特定決済債務を決済用預金に係る債務とみなして全額保護しています。
 また、倒産手続に詳しい人は、破産や民事再生手続が開始されると、破綻した会社は勝手に支払いできないはずじゃないの?と気づかれるかもしれませんが、預金保険制度は、仕掛かり中の決済を保護するために、預金保険機構がこれに必要な資金を破綻金融機関に貸し付け、もしその資金が回収できなくなってもそれは預金保険機構の資金(金融機関が毎年納付する保険料)で穴埋めする仕組みにしているので、破綻した金融機関に破産などの手続が開始されても、預金や決済のための支払いは裁判所からも認めてもらえる制度にしているのです。

 ただし、金融機関が破綻すると、この処理のための事務を行うのに多くの人手と時間を要します。しかも、その事務の中心になるのは、破綻前はその金融機関に全く関係のなかった金融整理管財人なので、破綻前と同じ事務手続で行うとは限らず、少し時間がかかることも考えられます。でも、いったん口座から引き落とされたり入金した決済用の資金は、必ず受取人の口座に入金されるので決して慌てないでくださいね。


.不渡り手形は救済されません・・・
 預金保険が保護する仕掛り中の決済の範囲は、(1)為替取引、(2)手形・小切手等について手形交換所における提示に基づき行われる取引、(3)金融機関が自己宛に振り出した小切手(いわゆる預手とか自己宛て小切手といわれるもの)に係る取引、に関し金融機関が負担する債務とされています。
 これにより、振込や送金のほか、手形・小切手の振出人が決済用資金を当座預金等に入金され、これが手形交換所などに提示されたものであれば、こうした決済も保護されます。
 また、国、地方公共団体等の金銭の収納業務や代理貸付業務に係る取引についても為替取引に該当して保護の対象となるのです。

 ただし、手形振出人がその資金を用立てせずに「不渡り」になるような決済や残高不足の口座の決済までも保護する制度ではないので、ご注意ください。預金保険法は、金融機関が破綻しなければ、当然、履行されていたはずの決済のみを保護する制度なのです。
 やはり買い物のし過ぎや、お金の借りすぎ、資金計画のない手形の振り出しなどは、一人一人の責任で気をつけないといけませんね。

(来月号は「ペイオフ本格実施総集編」です。)


 ペイオフ解禁拡大については、金融庁ホームページの「預金保険制度(ペイオフ本格実施)」にもアクセスしてください。

【集中連載】
 
−金融サービス立国への挑戦−(第2回:活力ある金融システムの創造に向けて)

 先月号から始めました、「金融改革プログラム−金融サービス立国への挑戦−」特集。今回は、前回ご紹介した「今後金融改革を進めるに当たっての5つの視点」のうち、活力ある金融システムの創造に向けた3つの視点(下記参照)の内容について、Q&A方式でご紹介していきます。
 
<活力ある金融システムの創造に向けた3つの視点>
(1)  利用者ニーズの重視と利用者保護ルールの徹底
(2)  ITの戦略的活用等による金融機関の競争力の強化及び金融市場インフラの整備
(3)  国際的に開かれた金融システムの構築と金融行政の国際化

   
Q.それぞれの視点はどのような問題意識を反映したものなのですか?

.
 
(1)  利用者ニーズの重視と利用者保護ルールの徹底について
 

 活力ある金融システムを創造していくに当たっては、金融を担うプレーヤー、即ち各金融機関等に対するルールについて、一度総点検をした上で不要な規制を撤廃するとともに、金融商品・サービスの利用者がしかるべき横断的なルールで守られるという新しい枠組みを構築することが必要です。
 言わば、金融商品・サービスの提供者にとって有益な「Deregulation」(規制緩和)と金融商品・サービスの利用者にとって有益な「Reregulation」(規制の再構築)が必要との問題意識です。

(2)

 ITの戦略的活用等による金融機関の競争力の強化及び金融市場インフラの整備について
 

 この視点は、金融を担うプレーヤーがプレーしやすいフィールドを整備することが必要との問題意識に基づくものです。
 あわせて、プレーヤーの競争力を強化するに当たり、ITを戦略的に活用していくことが重要ではないか、との問題意識も盛り込んでいます。この背景には、経済社会全体でインターネット取引の比重が増している中、わが国金融機関のIT投資が国際的に見て遅れ、ITコストが高止まりしているのではないか、との現状認識があります。
 ITを戦略的に活用することにより、こうした状況が改善され、利用者ニーズに即応した金融商品・サービスが誰にでも安く、速く提供されるようになるとともに、金融機関の競争力が強化され、金融行政も効率化すると考えられます。
ITを武器にした「金融サービス立国」への挑戦

(3)

 国際的に開かれた金融システムの構築と金融行政の国際化について
 

 世界に目を向けて見ると、金融を担うプレーヤー達は、既にグローバルに活躍しています。また、そうした競争力のあるプレーヤー達が、自分達がプレーするグラウンド、即ち市場を自ら選択する時代となっています。同時に、こうした現状を踏まえ、各国の金融当局同士で、ルールや基準を一定の水準に収斂させる動きが進んでいます。
 こうした中で、わが国としては、わが国金融のプレイグラウンド(市場)がプレーヤーから見て魅力的なものとなるよう整備するとともに、国際的なルールの策定に主体的に関わっていく必要があります。

 
Q.それぞれの視点を具体化するための主な施策は何ですか?

.
 
(1)  利用者ニーズの重視と利用者保護ルールの徹底を具体化するための主な施策としては、例えば、「投資サービス法(仮称)」の制定が挙げられます。これは、業態別の縦割り規制が中心であるために新たな登場する金融商品・サービスが登場した場合に、依存の利用者保護ルールでカバーしきれない現状を改め、新たに登場する金融商品・サービスについても利用者保護が図られるようにするとともに、多様な金融商品・サービスの提供を促すため、従来の業態別の規制に代えて機能別・横断的なルールを定めるものです。
 
−信頼できる利用者保護ルールの枠組み−

(2)

 ITの戦略的活用等による金融機関の競争力の強化及び金融市場インフラの整備を具体化するための主な施策としては、例えば、e-バンキングに関する法制の整備の検討や金融検査における評定制度の導入が挙げられます。
 

 e-バンキングについては、利用者の利便性や取引の安全性を確保し、金融においてもIT技術革新の成果を享受するため、電子債権、資金決済システム、前払式支払手段等について法的な枠組みを検討します。

 評定制度については、検査結果を段階評価し、選択的な行政対応につなげることで、金融機関の経営改善に向けたインセンティブを付与していきます。また、専門的・技術的観点から議論を深めるために、1月26日、検査局内に「評定制度研究会」を設置しました。

(3)

 国際的に開かれた金融システムの構築と金融行政の国際化を具体化するための主な施策としては、例えば、金融コングロマリット化に対応した金融法制の整備の検討が挙げられます。これは、金融のコングロマリット化に対応するため、国際的な議論も踏まえつつ、健全性を確保するための枠組みについて検討を行っていくものです。

 なお、わが国証券市場の時価総額をみると、国別では米国に次ぐ世界第2位の規模ですが、EUの金融市場統合に伴い、EU全体を1つと考えますと、世界第3位に止まります。他方、アジアにおいては、香港、シンガポール、更には中国との市場間競争の中で、東京証券取引所は「アジアにおける有力取引所としての地位確立」を目指しています。
 このような国際的な市場間競争の高まりに対応して、わが国金融市場の競争力を強化し、その国際的地位の向上を図ることが必要です。また、その過程では、金融に関する国際的なルール作りに積極的に参加し、主体的な役割を果すことや、海外監督当局との連携を強化していくことも重要となってきます。
 今回は、「活力ある金融システムの創造」に向けた3つの視点と具体的な施策についてご紹介しました。
 わが国金融を巡る状況をサッカーに喩えるならば、これまでは、全員がゴール前で点を取られないように踏ん張っている状況にあったのに対して、今後は、より積極的に何点取れるか、相手のゴール前に何人人を割けるかという状況になりつつあります。金融庁としては、ここでご紹介したような施策の実行を通じて、活力あるプレーヤー達のプレーを後押しするとともに、そうしたプレーヤーが利用者の満足度が高い金融商品・サービスを提供するような金融システムの実現を目指してまいります。
 次回は、「金融改革プログラム」の第3の柱「地域経済への貢献」についてお伝えいたします。


 金融改革プログラムについては、金融庁ホームページの「報道発表など」から「金融改革プログラム−金融サービス立国への挑戦−」(平成16年12月24日)にもアクセスしてみてください。

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