【集中連載】
 
いよいよペイオフ解禁拡大!(第5回:ペイオフ本格実施総集編)

 来月から、ペイオフ解禁拡大です。これまで4回に渡り組んできたペイオフ解禁拡大に関する特集を読んで頂いて、皆さんがもっていた不安解消の一助となったでしょうか。
 今回は、これまでの復習と今後の金融行政が進む方向を解説します。ペイオフ解禁拡大後は、更に強固な金融システムを築くよう金融行政も転換を目指しています。


.預金保険で保護される預金の範囲について
 本年4月以降の預金保護の姿については、下図をご覧頂ください。
預金保険で保護される預金の範囲について
 
(※1 )決済用預金といい、「無利息、要求払い、決済サービスを提供できること」という3要件を満たすものとなる。
(※2 )当分の間、金融機関が平成15年4月以降に合併を行ったり、営業(事業)のすべてを譲り受けた場合には、その後1年間に限り、当該保護金額が1,000万円までではなく、「1,000万円×合併等に関わる金融機関の数」による金額(例えば、2行合併の場合は、2,000万円まで)となる。
(※3 )定期積金の給付補てん金、金銭信託における収益の分配等も利息と同様保護される。


.決済用預金とは?
 平成14年12月に改正された預金保険法により創設されたもので、「決済サービスが提供できること、その預金者がその払戻しをいつでも請求することができるものであること、利息が付されていないものであること」という3要件(便宜的に広報活動などでは「無利息、要求払い、決済サービスが提供できる」といっている。)を満たす預金である、この3要件を満たせば、預金の名称にかかわらず17年4月以降も全額保護されます。
 なお、平成17年2月末時点で当庁がヒアリング調査したところ(注参照)、3月末までに「決済用預金(当座預金以外のもの)を提供する予定」もしくは「既に商品として提供している」と回答された金融機関は97.6%となっています。
 
(注 )広く一般的に預金業務を展開している622の金融機関に対してヒアリングを実施したもの。


.ペイオフ解禁拡大の必要性
 巷間ではこの制度変更のことを、「ペイオフ完全解禁」や「ペイオフ完全実施」とする表現が多く用いられていますが、金融行政では、「ペイオフ解禁拡大」としています。これは、平成14年4月に定期性預金についてペイオフが解禁され、既に金融機関が破綻した場合には預金がカットされる制度となっていること、本年4月以降はこのカットの対象に決済用預金の要件を満たさない普通預金と別段預金が加わることから、制度の移行を正確に表現するという意味で用いているものです。
 こうしたことを踏まえれば、既に預金者の皆さんは自己の預金資産を守るため金融機関を選別する時代に入っており、今回のペイオフ解禁拡大について必要以上に身構え、不安視することは適切ではないと考えられますが、やはり、これまで全額保護されていた利息の付く普通預金などが全額保護されないとなれば、資産の保全と運用の手段を改めて見直す必要があるでしょう。
 一方、預金者の皆さんのニーズに応えるためには、金融機関は皆さんからの信頼を得られるよう緊張感をもって真剣に経営に取組む必要があり、市場規律の下で「金融機関が預金者の選択と信頼を競い合う」新たな時代の出発点となるのではないでしょうか。こうした取組みにより我が国の金融システム全体としての安定性が持続的に確保されると期待されます。
 また、金融行政としても、こうした「選択と信頼」を基盤とする金融システムを構築するため、利用者ニーズの重視と利用者保護ルールに基づいた検査・監督を行うこととなります。


.なぜ今年の4月から実施するのか
 平成14年秋に構造改革を加速させるための政策強化を行い、政府・日銀一体となってデフレ克服に取組み、平成16年度には不良債権問題を終結させるという総理説示がありました。当時、平成15年4月からとされていた当座預金、普通預金、別段預金についてのペイオフ解禁も、決済機能の安定確保のための制度面での手当てなどの準備を整えることとするが、その実施は金融システムの安定確保の観点から不良債権問題が終結した後の平成17年4月からとされたためなのです。
 この不良債権問題の正常化という点について、当時(平成14年3月末)の主要行の平均不良債権比率(8.4%)を平成17年3月末に半分程度に減少させるという目標が金融再生プログラムにおいて定められ、平成16年9月末の主要行の不良債権比率は4.7%とほぼ半減目標に向け順調に低下しています。


.ペイオフ解禁拡大する環境は整っているのか
 
(1)  健全性が向上
 主要行の不良債権比率は本年3月末までに8.4%の半分程度にするとの目標達成に向け順調に低下しているところであり、地域金融機関についても、全体でみるとリレーションシップバンキングへの取組みが着実な進展をみせる中で、不良債権比率は、全体として低下のトレンドに入っていると考えられること、また、我が国の金融機関のリスク管理態勢や資産査定の信頼性が全体として大幅に改善しており自己資本比率も改善しています。

(2)

 ディスクロージャーが充実
 金融機関がディスクロージャーを充実させることは、金融機関の経営の透明性を高め、市場規律により経営の自己規制を促すとともに、預金者の皆さんの自己責任原則の確立のための基盤となることから、極めて重要なのです(平成11年12月21日金融審議会答申「特例措置終了後の預金保険制度及び金融機関の破綻処理のあり方について」参照。)。この考え方に基づき、預金取扱金融機関のディスクロージャーについては、平成11年3月期から、業務・財産の状況に関し法定された事項を、単体及び連結ベースで開示することが罰則付で義務化されました。
 これに加え、「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」にお
 いては、株式非公開銀行に対して株式公開銀行と同様の開示(四半期開示、タイムリーディスクロージャー)を平成16年度から実施するよう要請し、協同組織金融機関に対しては、昨年度から半期開示を実施するよう要請するなど、更なるディスクロージャーの充実を図っています(注参照)。
 
(注 )開示制度充実の経緯
 
(1)  平成10年3月期から(協同組織金融機関は11年3月期から)、米国証券取引委員会の基準と同様の基準による不良債権の情報開示
(2)  平成11年3月期から(地域銀行は11年9月期、協同組織金融機関は12年3月期から)、金融機能再生緊急措置法による資産査定の開示
(3)  平成11年3月期から、預金取扱金融機関の業務・財産の状況に関し、法令に規定された具体的な事項を単体・連結ベースで開示することが罰則付で義務化
(4)  平成15年度から、協同組織金融機関に対し半期開示を要請(全ての信用金庫、信用組合が実施)
(5)  平成16年度から、株式非公開銀行に対し、株式公開銀行と同様の開示(四半期開示、タイムリーディスクロージャー)を要請(株式非公開の地域銀行19行全てが四半期開示を実施し、16行がタイムリーディスクロージャーを実施)
   なお、地域金融機関の財務状況については、主な経営指標を当庁のホームページにも掲載しているので、「http://www.fsa.go.jp/policy/chusho/shihyou.html(中小・地域金融機関の主な経営指標)」を参考にして頂くことができます。

(3)

 その他の環境整備
 万が一金融機関が破綻した場合は、迅速な破綻処理を行いできるだけ早期に預金等を払い戻すことが求められます。この前提として、預金口座ごとに預金者データを整備すること(「名寄せデータ整備」という。)を各金融機関に求めています。
 金融庁は、預金保険機構と連携して、各金融機関の名寄せデータ整備状況を検査していますが、この検査も3月末までに一巡しました。預金口座のデータは預金者の転居や改姓などにより随時変動するものであるため、各金融機関においてはその精度の維持、向上が求めています。
 金融庁としては、ペイオフ解禁拡大後も引き続き名寄せデータの整備状況について厳正な検査、監督を行うこととしているが、預金者の皆様におかれても、転居や改姓された場合は取引のある金融機関にも届け出ていただく必要があると考えています。


.まとめ
 以上のように、ペイオフ解禁を拡大する環境は整ったものと考えられますが、金融システム全体の安定性を持続的に維持するには、まずは各金融機関が、自己責任原則の下で適切なリスク管理・財務の健全性の維持・ディスクロージャーの充実を図り、市場規律の下で健全性の確保に取組んでいくことが重要です。
 金融庁としては、そうした金融機関の自主的な努力を最大限尊重するとともに、適切な検査、監督の実施を通じ、個々の金融機関に問題が生じうる場合の早め早めの対応をするよう、引き続き尽力してまいります。


 ペイオフ解禁拡大については、金融庁ホームページの「預金保険制度(ペイオフ本格実施)」にもアクセスしてください。

【集中連載】
 
金融改革プログラム −金融サービス立国への挑戦−(第3回:地域経済への貢献)

 1月号から始めました、「金融改革プログラム−金融サービス立国への挑戦−」特集。今回は、初回にご紹介した「今後金融改革を進めるに当たっての5つの視点」のうち、「地域経済への貢献」について、その問題意識や具体的施策についてQ&A方式でご紹介していきます。
 
.「金融改革プログラム」の中で「地域経済への貢献」が柱として盛り込まれた背景を教えてください。

 A .前回、このコーナーの結びで「活力ある金融システム」について、サッカーの試合に喩えながらご紹介しましたが、「点を取られないように自分のゴール前で踏ん張っている」状況から、「点を取るために相手のゴール前に出来る限り多く人を割く」積極的な状況への転換を確固たるものにするには、自分たちの陣地、即ち各地域なり、各地元において、裾野がしっかりとできていることが前提として大切です。
 日本経済の裾野をしっかりと支えられるような金融システムになっていて初めて、利用者に対して、国際的にも高い評価が得られる金融商品・サービスを提供できる余地も生まれてくると考えられることから、地域経済に貢献する金融システムを「金融改革プログラム」の一つの柱として掲げたのです。
 
.地域経済へ貢献できる金融システムとはどのようなものなのですか?

 A
 
.地域経済へ貢献できる金融システムとは、貸し手の金融機関と借り手企業の経営者との長期的に継続する関係の中から、借り手企業の経営者の資質や事業の将来性等についての情報を得て、融資を行うビジネスモデル(間柄重視の地域密着型金融)を、持続可能性を持って実行できる金融システムと考えられます。


.こうした考え方の下、金融庁ではこれまで、平成15年3月28日に公表した、「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」に基づき、リレーションシップバンキング(間柄重視の地域密着型金融)の機能を強化し、中小企業の再生と地域経済の活性化を図ることで、同時に不良債権問題の解決を目指してきたところです。


.「金融改革プログラム」では、現在取り組んでいるこの「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」について、実績等の評価を行った上で、これを承継する新たなアクションプログラムを策定することとしています。
 
.「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」のこれまでの成果について教えて下さい。

 A
 
.現行の「アクションプログラム」の各施策の進捗状況及び各中小・地域金融機関の取組み実績については、平成15年度から平成16年度上半期までの実績を、昨年末(12月27日)に公表したところです。


.この中で、各金融機関の取組み実績を見ると、経営改善支援のための体制整備や政府系金融機関との連携など、地域密着型金融を推進するための基本的な態勢の整備等については、既に相当数の金融機関において取組みが行われ、定着が図られています。
 また、ビジネスマッチング情報を提供する取組みの強化やスコアリングモデル、財務制限条項を活用した担保・保証に過度に依存しない融資等の中小企業金融の円滑化に向けた取組み等についても、強化・拡充が図られてきています。
 更に、デット・エクイティ・スワップや企業再生ファンドの組成・出資などの事業再生に向けた取組み等については、ノウハウの取得や案件の発掘等、実行に移すまでにある程度の期間を要することもあり、成果に結びついていない金融機関もあるものの、件数や融資額等は着実に増えています。


.こうした対応は、大手行の行う不良債権のオフバランス化のように、短期間かつ劇的に不良債権比率を低下させるものではありませんが、中小・地域金融機関についても、不良債権問題は正常化に向け、着実に進展しています。(下図参照)
不良債権の推移(金融再生法開示債権ベース)
 
.新たな「アクションプログラム」では、地域経済へ貢献できる金融システムの担い手である中小・地域金融機関に、どのようなことを求めていくのでしょうか?

 A
 
.リレーションシップバンキング(間柄重視の地域密着型金融)の担い手である中小・地域金融機関には、
 
(1)  事業再生や中小企業金融の円滑化
(2)  経営力の強化
(3)  地域の利用者の利便性向上を図るための地域の特性等を踏まえた個性的な計画の策定を求めていきます。
.また、健全性の確保や収益性の向上、ガバナンスの強化等の観点から、
 
(1)  リスク管理の高度化や経営管理(ガバナンス向上)に向けた取組み
(2)  新たなビジネスモデルの浸透、新規参入の促進
(3)  地域の利用者の利便性向上に向けた情報開示等の充実
を促していきます。
.今後、こうした施策を着実に実行することで、地域の再生・活性化に貢献できる金融システムの構築に取り組んでまいります。
 



 以上で「金融改革プログラム」の4つ目の視点である「地域経済への貢献」についてのご紹介を終わります。
 次回は、「金融改革プログラム」の第5の柱「信頼される金融行政」についてお伝えいたします。


 金融改革プログラムについては、金融庁ホームページの「報道発表など」から「金融改革プログラム−金融サービス立国への挑戦−」(平成16年12月24日)にもアクセスしてみてください。

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