【国際会議入門】
 
「決まる」ってどういうことか
 
 金融庁の仕事というと、とかく法律や規則などのルール作り、金融機関の検査・監督といった国内での仕事に焦点があたりがちですが、本当は、金融行政の世界はとても国際色豊かなのです。そこでアクセスFSAでは、今号から数回にわたって、こうした金融庁の国際的な仕事ぶりの一端をご紹介していきたいと思います。
 
 「最近の国際的議論の動向について」といったテーマで講演をしたところ、「ところで国際会議でものが決まるっていうのは、どういうことを言うのですか。」という質問を受けたことがあります。組織内での会議のように最後は組織の長の判断によるのではなく、といって決定の都度投票を行っているわけでもなく、一言ではどうもうまく説明できないものです。
 そこで、本稿では、「初めて国際的な委員会に出席することとなった課長補佐T君へのアドバイス」という形式で、国際会議がどんなふうに展開するかの紹介を試みました。読者の皆さんに、会議の様子に思いをはせ、そして、多くの「T補佐」達の奮闘を応援していただければ幸いです。


.デビューする
 

(1)  会議前
 開始時刻の少し前に会議場へ行くと、会議のメンバーが、コーヒーを片手に、クッキーでもつまみながら、三々五々談笑をしている姿が目に入るでしょう。T君も書類を自分の席に置いたらば早速輪にはいりましょう。ファーストネームで親しげに呼び合い、あるいは早速会議のテーマを論じ、あるいは互いの近況の話題に興じという様子に、少々気後れするかもしれませんが、気にすることはありません。「今回からメンバーとなった日本のTです」と自己紹介をして右手を差し出せば、皆、握手や自己紹介をしてくれるはず、場慣れした人であれば、「そういえばこの前新聞で読んだのだけれど日本では…。」などと話を振ってくれるかもしれません。あとは、議長(委員長)と事務局員を見つけて自己紹介をしておけるといいですね。

(2)

 会議中
 会議ではまず、T君が今後この委員会の熱心なメンバーとして参加していくつもりだということをしっかり印象づけましょう。さもないと、他の国に比べ人事ローテーションの短い日本の場合、他のメンバーからは「どうせすぐ変わるのだろう」と、冷めた目で迎えられるおそれがあります。自分を印象付ける方法はいろいろあるでしょうが、T君にはやはり、小さなテーマでも丁寧に発言を重ねていくという王道を行ってほしいと思います。既に自分と同じ意見が相次いで出されていて、今更自分が発言するまでもないと思っても「自分も同意見である」と言う、文章の平仄を整えるような直接損得には関係ないような点についても積極的に知恵を絞り貢献する等々。日頃から、勉強熱心なT君のことだから大丈夫だとは思うけれど、そのためにも中身を少しでも深く研究しておきましょう。日本の場合は、担当になったからその分野を勉強するわけですが、諸外国から見れば、その分野に精通しているからこそ担当となり委員会のメンバーとなったと考えるのが普通です。最初ですから会議の過去の経緯についてはわからなくても仕方ないところですが、内容については専門家であることが期待されています。


.主張する
 

(1)  どう主張するか
 さて、無事デビューをはたし、いよいよ、当方の立場を主張する場面です。ここで、常に忘れてはならないのは、「国際会議とは、誰が多数派を構成することができるかの争いである」ということです。立派な演説を行ったところで、他のメンバーが支持してくれなければ意味ありません。例えば、T君の主張したCという意見について他のメンバーの支持がなければ、「メンバーの意見は主としてAという考え方とBという考え方に分かれた。そのほかC,Dのような意見もあった」といった形に整理され、その後の議論はA,Bを中心に展開するでしょう。そこで、Cについて誰も反論しないからといって、C案が残っているというのではなく、他のメンバーの眼中にはないということです。
 自分の主張に他のメンバーの支持を集めるには何が必要でしょう。
 当然のことながら、日本の事情・都合をいくら言っても他国の支持にはつながりません。“監督の向上”“健全性確保”“利用者保護”といった会議の共通の目標にいかに合致するかという一般的観点からの主張でなければならないことは言うまでもありません。その上で他のメンバーの出方を踏まえ工夫を加えることになります。
 例えば、T君がa,b,c,d4つ理由をあげて主張しようとしているとき、あるメンバーは「結論にはまあ賛成してもいいけれどcという考え方には異論がある」と、別にメンバーは「dということがなければ賛成してもいいなあ」と考えているかもしれません。そうであれば、一見理由が薄弱になるようでも、a,bという理由だけで主張したほうがメンバーの支持を集めやすくなります。あるいは、T君として100%満足できる案と8割がたOKの案を考えている場合、100%の案では他のメンバーの支持を得られなくても、8割がたOKの案であればある程度支持が得られそうであれば、最初から8割の案を主張して支持を集めることもあるでしょう。

(2)

 どのような準備が必要か
 理屈に裏付けられた筋道立った主張の構築が会議準備の第一歩になりますが、それはできたという前提で、少し「会議対策」的なことに触れましょう。
 

(a)

 情報収集
 先ほど述べたように、効果的な主張をするには、他のメンバーがどう反応しそうかについての情報が重要です。まずヒントになるのは日頃の各メンバーの会議での発言ぶりです。結論だけでなく、背後にある考え方、理由付けの癖等々をよく感じとっておくと次につながります。といっても会議の表に出てくる情報量には限りがありますから、場外での会話がものを言います。問題となる議題と直接関係なくても、例えば、日頃から既に終わった議題について感想を述べ合ったりして各メンバーがどのような考え方を持っているかわかっていれば、ある議題についての反応も予想しやすくなります。もちろんさらに具体的に、問題となる議題についての意見をあらかじめ打診するということもあるでしょう。コーヒーブレイク時に、食事中に、あるいは会話の中でさりげなく、あるいは深刻な顔を寄せ合って、こんな情報交換が行われているのです。逆に他のメンバーもT君の考え方を探っているはずです。日頃から自分の考えをうまく流すことによって、他のメンバーの主張にT君への配慮が反映されるように図りましょう。

(b)

 事前の対処方針
 気をつけなければならないのは、出張前に国内で打ち合わせる対処方針です。発言ぶりまで細かく決めてしまうと、折角現地で他のメンバーの動向についての良い情報が収集できても、会議での発言に活かすことができません。対処方針の打ち合わせにあたっては、「発言要領」のような形で決めるのではなく、今回の会議で何をめざすのか、何は困るのか、優先度合いはといったことについての考え方を関係者と一致させるようにしておくと、現地で他のメンバーの感触にあわせて適切な対応をとれるでしょう。

 「敵を知り己を知れば百戦危うからず」、各国の考え方を熟知し、日本としての物事の優先順位を明確にできれば、効果的な主張が展開できるはずですが、実際には断片的な情報から他の国の出方を思い悩み、日本として何が望ましいかも判断しかねるなかで、暗中模索で発言するのが現実です。


.交渉する
 

(1)  発言力
 さて、主な主張が出揃うといよいよ議論が展開されます。手法・戦略は、まず考えの近い同士で共通の立場を固める、まず最も厄介な相手にあたる等々、その時々に応じていろいろでしょう。ただ、一貫して言えると思うのは、「いかに自らの発言力を強めるか」を念頭に行動することです。先ほど「国際会議とは多数派をめぐる争い」と言いましたが、「多数派」とは単なる数ではなく、それぞれ発言力の強弱があります。そしてここでの鍵となるのが「信頼度」です。もちろん、発言の質が高くなければ信頼されようがありませんが、そこは頭脳明晰なT君のこと、大丈夫だと思うので、少しテクニック的なことを話しましょう。
 まず、重要なのは、自分の主張を安易に変えないということです。たとえ主張が似通っていても、いつ意見を変えてしまうかわからないメンバーとは危なっかしくて組めないと感じるでしょうし、逆に主張が大きく異なるメンバーからすれば、何が本当の主張かわからない相手では交渉しがいがない奴と見えます。主張を安易に変えれば、いわば敵味方どちらからも相手にされなくなってしまいます。そして裏を返せば、そのためにも、「とりあえず高い玉」ではなく、最初からある程度維持可能な主張をしておく必要があります。
 といっても、ただ自分の主張に固執しているだけでは、次の展開はないわけで、一方で落としどころをよく探る必要があります。「本当に確保したいことは何なのか」「どの部分については工夫の余地があるのか」について、会議場内外で、自分もサインを送り、他のメンバーのサインを読みつつ「理は誰にあるか」「分はどちらにあるか」を見極めていきます。
 その上で、ここぞと思ったところで、那須与一の思いで、一回で的を射るべく合意案を出します(あるいはそういう案にのります)。一気に落としどころまでいくのは、いきなり譲歩のしすぎで損ではないかと思うかもしれませんが、その後の議論がT君の案を軸に流れることになるので、結局は有利な結果につなげやすいと思います。また長期的にみれば、他のメンバーが「Tは最終結論に直結するような意見を出せる奴」と認識するようになりますから、発言力が強まります。
 そうそう、当たり前のことですが、「相手の期待を裏切らない」ことは大事です。事前に場外でT君が自分と同意見であることを知った人は、T君の支持を期待して発言しています。そこで、黙っていては「Tは根回しのしがいのない奴」ということになってしまい、この先、相手にしてくれなくなります。日本にとっての関心が低いテーマであっても相手の期待を裏切らないようきちんと発言すること、また、いつでもそうした発言ができるよう、直接日本にはあまり関係のなさそうな論点についてもしっかり勉強しておくことが必要です。
 ところで、発言力を左右するものには、「信頼度」のほかに「国力」があります。日本は大市場ですから、大抵の場合、もともと相応の発言力はあります。他の国の出方を気にせず、自らの国力頼みで押していく路線をとっても、最初から無視されるということはそうないでしょう。ただ、力任せの議論を続け孤立してしまっては結局ほとんど実をとれないのみならず、その後も尾をひき、何かと警戒され、対抗するために共同戦線を張られたりされるようになりがちのようです。力任せの主張をする場合は、孤立寸前に方向転換する退き際のアートが肝心といったところでしょうか。

(2)

 「気」と「機」
 さて、合意に向けてのプロセスでは、「場」の空気がどちらを向いているか、どの程度機が熟しているのかを見なければならないので、当初の主張の時以上に、各国が何を考えどう動いているかの情報収集・意見交換が重要になってきます。会議中の発言の細かい言葉づかいが貴重なサインということもありますし、また、会議場外のあらゆる時が現場になりえます。会議中のコーヒーブレイク、ランチ時はもちろんのこと、出席者の大半が主催者の斡旋したホテルに泊っていることがよくあり、そういう場合は、夜のロビーで、朝食会場で、相手を見つけては様々な意見交換が行われます。いつどこが合意形成の現場になるかわからないと心得、常に周りの動きを見て最新情報のキャッチできるようにしておくことが肝要です。
 とは言っても、最初のうちは、キーワードの重みがわからなかったり、情報が入らなかったりで、なかなか場が読みきれないでしょう。ですから、会議場での表向きの発言を聞いて、「水と油のように相容れない意見が戦わされているなあ」と思っていたところ、コーヒーブレイクが終わったら(あるいは、一夜あけたら)一気に議論が合意になだれこんでいき面くらうということもあるでしょう。流れにとり残されないようにアンテナを張ると同時に、常にどんな急展開にも対応できるだけの準備をしておくことも重要です。
 このあたり、EU内でさまざまな会議を行っているせいでしょうか、総じて欧州勢はうまいなあと思います。


.最後に

   国際業務とはある意味孤独なものです。基本的に、日本のことを知らず、発想方法も違う相手に議論をし、海外事情を知らない(理解しようとしない)国内の人に説明することの繰り返しです。
 各国の情報を収集し、ここぞと思う発言・立ち回りをしても、会議の様子がわからない国内の人からは「最初から弱気の打ち出し」「いきなり譲歩しすぎ」と非難されるかもしれません。
 T君のような補佐の規定の旅費では斡旋されたホテルの宿泊料には足らず、差額も大蔵省主計局通達(昭和27年蔵計922号)により支給されず自己負担になってしまうこともままあるでしょう。
 国内受けをする華々しい主張をしたい、他のメンバーと違う旅費で賄えるホテルに泊まりたいという誘惑にかられることもあるかもしれません。でも、新米補佐のT君も会議に出れば日本の金融監督者の代表、そんな誘惑に負けずに、いかに良い結果を出すかに気持ちを集中して活躍してくれることを祈っています。

【審議会関係】
 
金融審議会金融分科会第一部会報告「投資サービス法(仮称)に向けて」


.はじめに

   金融審議会金融分科会第一部会(部会長:神田秀樹東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、平成17年12月22日、「投資サービス法(仮称)に向けて」と題する報告をとりまとめました。
 第一部会は、平成17年7月7日に、投資サービス法(仮称)(以下「投資サービス法」)の基本的考え方等を示した「中間整理」をとりまとめました。同年9月中に、「中間整理」について広く意見募集を行ったところ、金融関係団体や弁護士会等の意見も含め、100を超える意見が寄せられました。第一部会では、昨年10月5日に審議を再開し、これらの意見も参考としつつ、「中間整理」を踏まえ、投資サービス法の法制化に向けて主要論点等に関する検討が行われました。今回の報告は、3か月の間に合計9回に及ぶ公開の会合を開催し、活発な議論を経て、とりまとめるに至ったものです。
 本稿では、本報告の概要のうち、別稿で解説が行われている公開買付制度及び大量保有報告制度に関する事項以外について解説します。


.投資サービス法の背景と趣旨・目的

 
(1)  投資サービス法の背景
 第一部会は、これまで、既存の利用者保護の対象となっていない金融商品について、詐欺的な販売事例等がみられたことから、個別に利用者保護策の拡充を提言し、それらを踏まえて、立法上の手当てがなされてきました。証券取引法改正による組合型投資スキームへの同法の規制の適用(平成16年12月施行)や金融先物取引法改正による外国為替証拠金取引への規制の導入(平成17年7月施行)がその例です。
 しかしながら、最近も、多数の一般投資家を対象とした匿名組合形式の事業型ファンドに関する被害事例の報道、また一部金融機関の取引先との金利スワップを巡る不適切な事例にみられるように、既存の利用者保護法制には「隙間」があり、幅広い金融商品について包括的・横断的な利用者保護の枠組みを整備することが必要不可欠です。このような観点から、第一部会報告では、投資サービス法の制定が提言されました。

(2)

 投資サービス法の趣旨・目的
 投資サービス法の趣旨・目的としては、第1に、利用者保護ルールの徹底と利用者利便の向上です。既存の利用者保護法制の対象となっていない「隙間」を埋めるとともに、現在の縦割り業法を見直し、同じ経済的機能を有する金融商品には同じルールを適用します。一方、一般投資家を念頭に置いた規制を特定投資家(プロ)を顧客とする場面で緩和する等、規制の柔構造化により、利用者保護の必要性と利用者利便の向上や金融イノベーション促進との両立を図ります。第2の趣旨・目的は「貯蓄から投資」に向けての市場機能の確保、第3は金融・資本市場の国際化への対応です。


.投資サービス法の対象範囲

 
(1)  基本的な考え方
 「中間整理」では、投資サービス法の対象となる金融商品(以下「投資商品」)について、可能な限り幅広い金融商品を対象とすべきとしつつ、(a)金銭の出資、金銭等の償還の可能性を持ち、(b)資産や指標などに関連して、(c)より高いリターン(経済的効用)を期待してリスクをとるもの、との基準を設定しています。そして、上記(c)における「リスク」は「市場リスク」と「信用リスク」のいずれかのリスクがあること、「リターン」は「金銭的収益」への期待を中心として整理するとされています。

(2)

 預金・保険等の取扱い
 このような整理を踏まえ、預金の取扱いについては、現時点では、為替変動により円建て元本の欠損が生ずるおそれがある外貨預金、円建ての元本保証はあるが、中途解約の場合に発生する違約金により実質的に元本欠損が生じ得る円建てデリバティブ預金は、「投資性」が強い商品として対象とすることが適当とされています。また、保険の取扱いについては、現時点では、変額保険・年金や外貨建て保険は、「投資性」が強い商品として対象とすることが適当とされています。
 シンジケート・ローン及びABL(アセットバック・ローン)については、現状、資金の出し手の太宗が融資を業とする金融機関であるとの実態等から、今回の法改正では規制対象とはしませんが、今後とも参加者の広がり等を注視し、引き続き検討を行うべきとされています。
 デリバティブ取引については、金利・通貨スワップ、クレジット・デリバティブや天候デリバティブ等を含め、幅広く投資サービス業の対象範囲に含めることが適当とされています。

(3)

 「金融サービス・市場法」への展望
 英国型の「金融サービス・市場法」への展望について、第1部会報告では、最近の問題事例には現行法上対応困難なものもあり、まずは喫緊の課題として、包括的・横断的規制の適用について概ね合意がある「投資性のある金融商品」について早期の法制化に取り組むことが適当とされています。そして、金融商品全般を対象とする、より包括的な規制の枠組みの検討については、投資サービス法の法制化とその実施状況、各種金融商品の特性、中長期的な金融制度のあり方なども踏まえ、引き続き精力的な検討を続けるとされています。


.投資サービス業(仮称)の業規制

 
(1)  投資サービス業の対象範囲
 投資サービス業(仮称)の対象範囲については、投資商品に関する「販売・勧誘」、「資産運用・助言」及び「資産管理」を対象とすることが適当であるとされています。現行の証券業の本来業務が販売・勧誘と位置づけられていることに比べると、本来業務が拡大することになります。

(2)

 銀行業・保険業・信託業等の取扱い
 銀行業、保険業法や信託業等については、銀行法等において免許制等のより高度な業規制が課され、投資性のない商品(決済性預金等)も規制対象とされていること、証券取引法65条の根拠となった利益相反や銀行の優越的地位の濫用の可能性は今なお重要な論点であることから、投資サービス業の業登録の範囲に含めないことが適当とされています。現行の証券取引法65条の枠組みは、登録金融機関制度を含め、維持されることになります。
 銀行代理業、損害保険代理店、生命保険募集人や信託契約代理業についても、銀行業等に準じて考えることが適当とされており、投資サービス業の業登録の範囲に含めないことになります。

(3)

 投資サービス業の業規制の柔構造化
 投資サービス業の対象範囲は横断的なものとしつつ、業務内容の範囲に応じ、(a)すべての投資商品を対象とするすべての業務を行う「第一種業(仮称)」、(b)投資商品のうち流動性の低い商品の売買等、投資商品に関する資産運用や投資商品に関する投資助言を行う「第二種業(仮称)」、(c)他の投資サービス業者の委託を受けた媒介(所属会社制)を行う「仲介業(仮称)」の三段階の区分を設け、業規制を柔構造化することが適当とされています。
 投資サービス業の参入規制は、現行認可制とされている投資信託委託業や投資一任業務等を含め、登録制とすることが適当とされており、規制緩和されることになります。


.投資サービス業の行為規制

 
(1)  基本的枠組み
 投資サービス法の基本的枠組みとして、金融商品の販売等に関する一般的性格を有するものと位置づけ、同じ経済的機能を有する金融商品にはその行為規制を業態を問わず適用するとされています。従って、銀行業等のように投資サービス業の登録制度の対象範囲に含まれない業者であっても、投資性の強い預金・保険等を販売・勧誘する場合には、投資サービス法上の行為規制を適用することが適当とされています。

(2)

 主要な行為規制
 投資サービス法における適合性原則について、体制整備(銀行法第12条の2第2項及び銀行法施行規則第13条の7等)にとどまらず、現行の証券取引法(第43条1号)等と同様の規範として位置づけることが適当とされています。
 民事上の義務である金融商品販売法上の説明義務と同内容の説明義務を業法上の行為規制として位置づけることが適当とされています。これによって、業者が説明義務に違反した場合に直接的に監督処分を発動できることになります。なお、金融商品販売法については、その内容を見直し、説明義務の対象に「取引の仕組み」を追加する等の拡充を図る方向で検討を進めることが適当とされています。
 不招請勧誘の禁止については、適合性原則の遵守をおよそ期待できないような場合に、利用者保護の観点から機動的に対象にできる一般的な枠組みを設けつつ、当面の適用対象を現行の範囲(金融先物取引)と同様とすることが適当とされています。また、再勧誘の禁止を新たな規制として導入し、例えば取引所金融先物取引への適用を検討することが適当とされています。
 手数料開示について、顧客から業者に直接・間接に支払われる手数料(投資信託における信託報酬や販売手数料、変額年金における運用関係経費等)の開示を義務づけることが適当とされています。


.その他

 
(1)  特定投資家(プロ)と一般投資家(アマ)の区分
 適切な利用者保護とリスク・キャピタルの供給の円滑化の両立規制の柔構造化を図る観点から、投資家を機関投資家等の特定投資家と一般投資家に区分し、規制の柔構造化を図るとされています。
 区分のあり方については、(a)一般投資家に移行できない特定投資家、(b)選択により一般投資家に移行可能な特定投資家、(c)選択により特定投資家に移行可能な一般投資家、(d)特定投資家に移行できない一般投資家の4分類とされています。
 特定投資家(プロ)向けの場合に適用除外する行為規制については、書面交付義務等、情報格差の是正を目的とする行為規制は適用除外する一方、虚偽表示禁止や損失補填禁止等、市場の公正確保をも目的とする規制については、適用除外としないことが適当とされています。

(2)

 集団投資スキーム(ファンド)
 多数の一般投資家を対象とした匿名組合形式の事業型ファンドに関する被害事例が報じられていることなどを考慮すると、ファンドについては、実効性ある包括的・横断的規制の整備が必要であるとされています。中間整理では、ファンドについて、(a)開示規制、(b)販売・勧誘に関する業規制・行為規制、(c)資産管理、運用者の受託者責任、運用報告等についての最低限の仕組み規制の適用が必要とされていました。これに対し、第一部会報告では、一般投資家向けファンドについては、違反者に対し行政として最も迅速かつ直接的な対応が可能な業規制(自己募集を含む販売・勧誘、資産運用)等を中心に検討することが適当とされています。

(3)

 民事責任規定(金融商品販売法の見直し)
 金融商品販売法については、金融商品について民法上の不法行為責任を認めた裁判例に照らし、顧客にとってより使いやすいものとする方向で検討を進めることが適当とされています。

(4)

 開示規制
 開示規制については、投資商品をその性質に応じて企業金融型商品と資産金融型商品に分類し、その分類ごとに開示規制を整備することが適当であるとされています。
 また、投資商品の流動性に応じ、上場企業については、他の開示企業に先立ち、四半期報告制度の導入や財務報告に係る内部統制に関する制度の一層の整備を図っていくことが適当である一方、譲渡性が制限されていることなどにより流通の可能性に乏しい投資商品のうち、例えば、その所有者が一定の範囲に留まり、当該所有者が特定できるようなものについては、開示書類を公衆縦覧ではなく直接提供する方向で開示制度を整備することが適当とされています。
 また、適格機関投資家の範囲については、事業会社について適格機関投資家の範囲を拡大するとともに、事業会社以外の法人や個人についても、一定の者が適格機関投資家となる途を開くことを検討するとともに、少人数私募において、勧誘の対象とされる適格機関投資家の人数制限(上限250名)についても、その大幅な緩和ないし撤廃を検討することが適当とされています。

(5)

 自主規制機能を担う取引所の組織のあり方
 株式会社形態をとる取引所においては、株式会社としての営利性と、取引所における公共的性格を有する業務との間に利益相反が生じるおそれがあるため、自主規制機能が他の業務から独立して遂行されることが求められますが、現場の品質管理といった側面も踏まえ、取引所を取り巻く環境や、市場の開設者が自らの市場をどうデザインしていくかとの方針は取引所によって異なり得るものであることから、市場の開設者が自らの判断により組織形態を選択できるものとすることが考えられるとされています。
 また、株式会社形態をとる取引所が上場される場合については、自主規制機能を担う組織の独立性を確保するよう求めるとともに、最近の会社法制改正などを踏まえ、主要株主規制などの現行制度を点検し、必要に応じ適切な対応を講ずることが適当とされています。

(6)

 自主規制機関
 現行の各業法上の自主規制機関は機能に差異がありますが、投資サービス法では、各自主規制機関について、自主規制機関としての性格を最も強く有する証券業協会の機能との同等性を確保するとの観点から諸機能を付与することが適当とされています。
 また、自主規制機関への加入を法的に義務付けることなく規制の実効性を確保するため、未加入業者に自主規制機関の規則などを考慮した社内規則の作成などを求める仕組みを整備すべきとされています。
 このほか、投資サービス法上の自主規制機関以外の民間団体の苦情解決・あっせん業務について、行政の認定により業務の信頼性を確保し、その自主的取組みを通じた苦情解決・あっせんの推進を図る枠組みを整備することが適当とされています。


.おわりに

   金融・投資サービスに関する包括的・横断的法制である投資サービス法の早期法制化は、金融・資本市場の構造改革を一層促進し、活力ある金融システムを創造していく上での喫緊の課題です。このため、本年の通常国会に関係法案(証券取引法等の一部を改正する法律案及び証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(仮称))を提出することを目指して作業を進めているところです。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から「−投資サービス法(仮称)に向けて−金融審議会金融分科会第一部会報告の公表について」(平成17年12月22日)及び「第42回金融審議会金融分科会第一部会資料」(平成17年12月22日開催)(平成17年12月22日)にアクセスしてください。

 

金融審議会金融分科会第一部会公開買付制度等ワーキング・グループ報告 公開買付制度等のあり方について

 近年の企業の合併・買収件数の急速に伸びや、その多様化等を踏まえ、昨年7月に公開買付制度等のあり方について審議を行う公開買付制度等ワーキング・グループが金融審議会第一部会の下に設置されました。同ワーキング・グループにおいては11回にわたる精力的な審議が行われ、その検討結果は12月22日に金融審議会第一部会へ報告がなされました。以下、同報告の概要について、現行制度の見直しが必要となる部分を中心にご紹介します。


.公開買付規制の適用対象に関する提言
 現行制度上、著しく少数の者からの買付けであっても、買付け後の所有割合が3分の1を超えるような場合には公開買付けによることが義務付けられていますが、このいわゆる3分の1ルールを巡っては、例えば、32%までの株式を市場外で買い付け、その後、市場内で2%の株式を買い付ける、といった態様の取引を行うことにより、公開買付けによらずに3分の1超の株券等を所有するに至る者が出てくることが想定されます。例えば一定期間に行われる取引所市場外での取引と、取引所内での取引等とを合計すると株券等所有割合が3分の1を超えるような場合に、公開買付規制の対象となることが明確なものとなるよう、所要の手当てを講じることが適当です。


.公開買付規制における透明性の確保と公開買付期間等のあり方に関する提言
 公開買付けの手続における公開買付者からの情報開示は、株主・投資者が的確な投資判断を行う上で重要な役割を果たしており、公開買付届出書等における公開買付者による情報開示について、更なる充実を図っていくことが適当です。
 また、公開買付けについて、その対象会社がいかなる意見を有しているかも、株主・投資者が的確な投資判断を行う上で重要な情報であることから、対象会社による意見の表明は義務化していくことが適当です。
 さらに、対象会社による意見表明に際して公開買付者に対する質問がある場合には、意見表明報告書の中で、その点についての言及も行うなど公開買付者に対する対象会社からの質問の機会について一定の制度的枠組みを付与することが適当です。


.公開買付期間に関する提言
 公開買付期間は、現行制度上、20日から60日の間で公開買付者の選択により決定されることとされているが、株主・投資者による十分な熟慮期間の確保等の観点から、連休等が重なる時期の公開買付けを念頭に、営業日ベースと改めることが適当です。
 また、例えば、対象会社が対抗提案を提示し、株主に十分な熟慮期間を与えるために必要な場合には、30営業日を上限に対象会社による公開買付期間の伸長を認めることが適当です。


.いわゆる買収防衛策と公開買付規制のあり方に関する提言
 現行制度上、公開買付けの撤回は、対象会社の破産や合併等限定された場合にのみ認められていますが、いわゆる買収防衛策との関連において、例えば対象会社やその子会社が新株・新株予約権の発行を決定した場合や、重要な資産の売却を決定した場合、あるいは、いわゆる買収防衛策が解除されないことが確実な場合等において、公開買付けの目的の達成に重大な支障となるようなときは、公開買付けの撤回を認めることが考えられます。
 さらに、買付条件の変更についても、現行制度上、買付価格の引下げ等、応募株主に不利となる方向での変更は禁止されていますが、例えば対象会社による株式分割等により株価が希釈化された場合に、当該希釈分に対応した公開買付価格の引下げを認めることが適当です。


.公開買付けにおける投資者間の公平性確保、株主の保護に関する提言
 現行制度上、公開買付者は、応募株券等の数の合計が買付予定数を超えるときは、按分比例の方法により、その超える部分の全部又は一部の買付けをしないことが認められています。
 しかし、上場廃止等に至るような公開買付けの局面においては、手残り株をかかえることになる零細な株主が著しく不安定な地位に置かれる場合が想定されるため、例えば公開買付け後における株券等所有割合が3分の2を超えるような場合については、公開買付者に全部買付義務を課すことが適当です。


.買付けが競合する局面における投資者の保護に関する提言
 ある者が公開買付けを実施している期間中に、他の者が取引所市場内で当該株券等を大量に買い進めるなど、会社支配権に影響のある株式の買付けが競合するような場合について、公開買付けを義務付けることが考えられますが、過剰規制とならないよう、相当厳格な要件の下での義務付けを検討することが適当です。

 以上に加えて、大量保有報告制度について、証券市場に与える影響などには十分配意しつつ、証券取引の透明性、公正性の向上の観点から、そのあり方について所要の見直しを行っていくことが適当であるとの提言がなされています。
 具体的には、機関投資家の事務負担が過大とならないよう報告頻度の軽減を認めている特例報告制度に係る報告期限・頻度等については、例えば2週間ごとの基準日における保有状況を5営業日以内に報告するなど可能な限りの短縮等を図っていくことが適当であるとされています。なお、この点については、特例報告に係る報告期限・頻度等の短縮等は基本的に行うべきでないとの指摘もありました。報告期限・頻度等の短縮等に当たっては、併せて、保有目的などに応じて機関投資家であっても的確に一般報告が提出されるよう、規定の整備等の余地がないか、更なる検討が進められるべきです。また、大量保有報告書の提出義務の有無の判断に当たって、共同保有者間の重複計上をネットアウトして保有割合を算出することを認めるなどの合理化を図っていくことが適当です。
 なお、現状、保有割合が10%を上回る取引を行った際には、特例対象者であっても一般の報告が求められていますが、10%超保有の状態から保有割合が10%を下回る取引を行った場合についても、一般の報告が行われるよう所要の見直しが必要です。

 これらの提言には、法律事項に係るものが多く含まれており、金融庁としては、通常国会への提出を目指している「投資サービス法案」(仮称)の取扱いと併せて、今後鋭意作業を進めていくことを予定しています。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から「第42回金融審議会金融分科会第一部会議事要旨」(平成17年12月22日開催)(平成18年1月24日)及び「第42回金融審議会金融分科会第一部会資料」(平成17年12月22日開催)(平成17年12月22日)にアクセスしてください。

 

企業会計審議会内部統制部会報告 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について

 昨今のディスクロージャーをめぐる不適正な事例については、その要因の一つとして、ディスクロージャーの信頼性を確保するための内部統制が有効に機能していなかったことが指摘されています。また、米国においては、企業改革法(サーベンス=オクスリー法)により、平成16年から財務報告に係る内部統制について経営者による評価と公認会計士による監査が義務づけられています。こうした動きを受け、企業会計審議会内部統制部会(部会長:八田 進ニ 青山学院大学大学院教授)では、財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者の評価及び公認会計士等による監査の基準について審議が進められ、平成17年12月8日に内部統制部会報告「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方」が取りまとめられました。
 本報告で示した基準案は、(a)経営者が整備・運用する役割と責任を有している内部統制それ自体についての定義、概念的な枠組みを示す「I内部統制の基本的枠組み」、(b)財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者による評価についての考え方を示す「II財務報告に係る内部統制の評価及び報告」、(c)公認会計士等による監査の基準についての考え方を示す「III財務報告に係る内部統制の監査」の3部から構成されています。


.内部統制の基本的枠組み
 内部統制は、基本的に、企業等の4つの目的((a)業務の有効性及び効率性、(b)財務報告の信頼性、(c)事業活動に関わる法令等の遵守、(d)資産の保全)の達成のために企業内のすべての者によって遂行されるプロセスで、6つの基本的要素((a)統制環境、(b)リスクと評価と対応、(c)統制活動、(d)情報と伝達、(e)モニタリング、(f)ITへの対応)から構成されます。このうち、財務報告の信頼性を確保するための内部統制を「財務報告に係る内部統制」と定義して、本基準案における評価及び監査の対象としています。


.財務報告に係る内部統制の評価及び報告
 経営者は、内部統制を整備・運用する役割と責任を有しており、財務報告に係る内部統制については、その有効性を自ら評価し、その結果を内部統制報告書として外部に報告することが求められます。経営者が内部統制の有効性を評価するに当たっては、まず、財務報告全体に重要な影響を及ぼす内部統制(全社的な内部統制)について評価を行い、その結果を踏まえて、業務に係る内部統制について評価を行うこととなります。


.財務報告に係る内部統制の監査
 経営者による財務報告に係る内部統制の有効性の評価について、その評価結果が適正であるかどうかについて、当該企業の財務諸表の監査を行っている監査人が監査を行います。監査人は、監査の結果を内部統制監査報告書として作成し、経営者に提出することとなります。
 本報告においては、我が国の会社法制と整合的で、かつ、国際的にも説明可能な実効性ある基準のあり方が示されるとともに、財務報告に係る内部統制について経営者による評価及び監査人の監査を求めることが過度の負担になるのではないかとの議論を踏まえ、先行して制度が導入された米国の運用状況等も検証し、コスト等が過大とならないための方策が盛り込まれています。
 また、同報告において示された基準案に対しては、これを実務に適用していくとした場合のより詳細な実務上の指針(実施基準)の整備を求める声が多く寄せられたことから、同部会では今後、さらに実施基準の検討を進めることとされ、昨年12月に同部会の下に作業部会(座長・橋本 尚 青山学院大学大学院教授)が設置されました。
 なお、昨年12月22日の金融審議会第一部会報告において、上場会社における財務報告の適正性を確保する観点から、財務報告に係る内部統制に関する経営者による評価と公認会計士による監査について、本報告を踏まえ、その義務化を図ることが提言されています。また、その際、有価証券報告書の記載内容の適正性についての経営者の確認を求める制度についても、併せて導入することが提言されています。


 詳しくは、金融庁ホームページの「報道発表資料」から、「企業会計審議会内部統制部会の報告書のとりまとめについて」(平成17年12月8日)にアクセスしてください。

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