特集:
お金の使い方と地域社会について考えるシンポジウム
〜お金活き活き、まち活き活き〜
 
第2回:パネルディスカッション セッション1
「金融経済教育の必要性を考える」
 
 前号に引き続き、金融庁、近畿財務局、大阪府の主催により開催した「お金の使い方と地域社会について考えるシンポジウム〜お金活き活き、まち活き活き〜」について掲載します。
 今回は、パネルディスカッションのセッション1「金融経済教育の必要性を考える」の模様をご紹介します。
 

パネルディスカッション・セッション1「金融経済教育の必要性を考える」

 

(司会) それではこれより、パネルディスカッションに移ります。本日ご出演の方々のプロフィールをご紹介させていただきます。
 まず、最初にこのパネルディスカッションのコーディネーターをお願いします、キャスターの生島ヒロシさんです。生島さんは1976年TBSにアナウンサーとして入社、1989年に独立された後は健康、福祉、経済などの幅広い分野でテレビやラジオ、講演、セミナー司会など多方面にわたり活躍されています。
  続いて、同志社大学政策学部教授の川北英隆さんです。川北さんは1974年日本生命保険相互会社に入社、2003年退社後は主に証券市場、証券投資、投資家行動を専門に活動され、同志社大学政策学部教授のほか日本証券アナリスト協会副会長、日本ファイナンス学会会長を歴任するなど、多方面で活躍されています。
 続いて、NPO法人おおさか元気ネットワーク副理事長の高見一夫さんです。高見さんは中小企業の経営支援を行いながら、地域社会づくりをテーマに福祉や環境、障害者などの仕事づくりや、福祉の町づくりを中心に活動されており、NPO法人おおさか元気ネットワークの副理事長として活躍されています。


稲岡真理子氏(ライフマネジメント研究所長)より「活き活き人生創りのサポーターとして」、大久保育子氏(金融学習グループOLC代表)より「私たちの金融学習」と題して発表いただいた後、両氏を交えて次のとおりパネルディスカッションが行われました。〜
 

生島ヒロシ氏(生島) さて、貯蓄から投資へという流れになっています。なぜかというと、戦後、ある程度お仕事をして一所懸命働いていれば、給料は右肩上がりで退職金が出て、住宅ローンがその退職金で払えて、お孫さんの面倒をみられて、年金も安定していた時代がありました。ところが、先ほどスライドにも出ていましたが、今後年金はどうなっていくのでしょうか。金利もゼロ金利が続いています。つまり老後までに蓄えたお金、退職後蓄えた退職金が増えていかずに目減りしていき、長生きする可能性も高いので、どんどん不安になっていきます。そんな中で金銭的にみれば、例えばそれまでに蓄えたお金がいい形で運用利回りが高ければそのまま増えていくのですが、やはり老後を年金とそれまでのストックで生きていかなければいけないわけです。昔は郵便貯金や銀行に預けておけば利子が6〜7%ありましたから、自然にお金が増えた時代がありました。それまでの成功の設計図が今崩れてしまっています。そこを何とかしなければいけないのではないかという中で、貯蓄から投資へ、そしてうまくお金に働いてもらおうという時代になってきていると思います。そこで、川北先生、そういう時代の要請の中で、個人としてやはり当然のことながら、一生懸命真面目にやってくれる人もいれば、だましてお金をぶん取ろうという悪い輩も出てくるわけですが、個人として身につけておかなければいけない知識は、どの程度持っていればいいとお考えでしょうか?

川北英隆氏(川北) 欲を言えばきりがないというのが正直なところです。ただし、儲けるというのは、ただではないと、肝に銘じるのが大切です。よくただ飯はない、フリーランチはないという言い方をされますが、儲かる話は、いい業者、悪い業者共に、何かやはり裏があると考えないといけない。一番端的な例は株式で、株式の現物を持っていれば、会社が潰れない限り無一文にはならないです。一方、インターネットで証券会社のホームページを見るとたくさん誘惑があり、信用取引もその一つです。学生に信用取引はやるなと言っています。信用取引というのは、要は値上がればとても儲かりますが、損すれば資金はゼロになるどころかマイナスになります。投資の場合、儲かればどれだけ儲かるのかは誰もがすぐに描くわけですが、逆に損したときにどれくらい損するのか、その最悪のときの損失が、自分の財産、自分の生活設計に大きく影響を与えるのかどうか、少なくともその程度のことを考えるべきだというのが最低限、知っておくべき知識というか知恵です。証券会社若しくは他の業者から勧誘があったときに、損すればどの程度までいくのか、これはやはり自らの防衛として質問すべきでしょう。ですから、その質問ができる程度の知識は必要だと思います。あとは業者の責任ですから、きちんと説明する、説明しなければ金融庁に取り締まってもらう、ということでいいと思います。

(生島) 稲岡さん、自分でライフプラン、マネープランもきちんと立てましょうと仰っていました。今までは我々は、ひとつのツアーのパッケージに乗り、添乗員に任せておけば、そのまま人生行けた感じがしたのですが、今は川下りをして大海原に出て、それからみんな自分の船で大海原を乗り越えていきなさいという時代に入ってきたわけです。そんな中で稲岡さんは、特に「いくらあったらいいですか」という質問があったと仰っていましたが、本音のところそういうことだと思います。こういう時代の流れの中で、個人は防衛策も含めてどういうことをしておかなければいけない、考え方の基本はどうすればいいですか?
(稲岡) そういう方には必ず質問することがひとつあります。「あと何年ぐらい生きたいですか」と聞きます。「えー?」と言って、「生きられるだけ生きたい」という方と、それから、「まあ寿命だけ」、「孫の顔が見られたら」などと仰います。でも、そうではなく自分の意思で、自分はこれとこれ、こんなことをして、最後に「やった!」と達成感を持って死にたいと考えると、「時間軸でいくとあと何年間ですか」と言って全部、時間に計算してもらうのです。これまで、その遠い未来のためには先ず何を準備すればいいのか、具体的に考えるためのトレーニングの場やきっかけがなかったのではないかと思い、そういう質問をしながらライフプランの話を進めています。
(生島) さっき申し上げたのですが、よく生命保険文化センターが、例えば定年を迎えたときに、普通の生活ならば1カ月約24万円、ゆとりある生活なら38万円が必要ですと言っていますが、80〜85歳ぐらいの計算でいくと、約8,000〜1億2,000万円という数字になります。「全部?えーっ」とみんなびっくりするわけですが、基本的には年金で7〜8割はまかなえるのですか?
(稲岡) その方の希望する生活次第ですね。今6,000万円や1億円持っていなくてもいいということはその次に言います。そして、自分はいくら必要で、それを具体的に計算して、いつまでにどんなふうにと、時間軸で物事を考えようということです。そうすれば、ものすごく不安に駆られることもないと思います。準備するにも投資するにもそうしたことから考えていこうという話で、「では準備を進めます」というスタートラインに立てるようになります。でも、そういうことを誰も言わない、誰も言ってくれる機会がなかった大人が多いことに問題を感じます。学校教育でも、先生方があまり金銭教育を教えませんので、金融経済教育や啓発に携わる者として心配しています。
(生島) 大久保さん、投資活動、とてもいいと思いますが、やはりお金は「増やしたい」、「守りたい」、「節約したい」など色々なブロックに考えるべきだと私は思います。そう考えると、今日は退職された方もいらっしゃいますが、退職されたら基本的にはお給料が入ってこないわけです。それまで蓄えたお金をそのまま銀行に預けてゼロ金利でいくのか、それともその蓄えたお金が例えば1,000万あるならば、リスクを考慮の上で、掛ける運用利回りで、5%でいくのか、8%でいくのか、または倍になるのかという、そういう運用利回りを考えなければいけません。目先で動くよりも中長期で、複利でうまく運用を活かすと、1万円の積み立てだって30年経ったらたくさんのお金になったりするわけです。そのあたりの中長期の教育もかなりされていらっしゃるのですか?

大久保育子氏(大久保) この投資クラブでしているのは株に特化したことだけです。金融商品研究というところで、他の金融商品、中長期で運用する商品のパンフレットや広告等を皆で集めてきて、メンバーがユーザーになり店頭で色々と質問をしてみたりしながら、商品研究もしています。
(生島) 川北さん、金融経済教育の必要性が今とても求められていますが、壁になっているのは何だと思いますか?
(川北) 大学生の1年生や2年生を教えて、議論させて、ゼミも担当していますが、生活の中で身近に株式を経験していないのがネックです。金融に関して、当然預金はしていますが、証券、特に一番身近であるはずの株式を皆が知らないということが、かなり大きな壁だと思います。ですから、子供に金融の知識を幅広く身につけさせようとすると、家庭の中でお父さん、お母さんが、先ほど言った現物株だったら安全ですから、よく知った企業の株式に投資した後で、こういう銘柄を買って配当がきたので、この配当で外食に行こうなどと、そんなことを子供に教え、株式を身近に感じさせることが必要だと思います。そんな状況がないというのが、壁と言えば壁ではないかと思っています。
(生島) 我が家の金銭教育として、子供の頃から外食した場合は必ず子供にお財布を預けて、いくらかかったか、領収書を必ずもらうように教育し、例えば銀行に行くときなどは必ず連れて行きました。そういう何気ない行動が大人になって功を奏しているかなと思っています。あとは、子供たちにお手伝いをさせることです。お手伝いを積極的にやる子は将来ニート的にもならないし、自立する確率が高いというアメリカのデータもあります。子供の頃から何気ない日常生活の中で金銭教育を、親も意識してやっていくといいのではないでしょうか。
(稲岡) いわば金銭教育というのは特殊なものではないと思います。生きるという力に応用力をつけていくことだと思います。例えば店頭のネギ1本でも、作った人がいて、輸送、販売する人がいる。それに対して対価を支払わなければいけないということです。学校の先生の知識としても、算数の公式をそのまま教えるのではなく、「りんごがあって」、「八百屋さんの店先で」、というような少し平たくしたような学習指導を行うことが大切であり、日常的なものを教材に取り込みながら、色々な場面で応用力を身につけるということが子供達には少し欠けているという気がします。だからマニュアルチックになったり、数字にこだわりすぎたりということがあるのではないかと思っています。金融経済教育の実践方法の研究をもう少しやっていきたいです。
(生島) 高見さん、色々なご商売などコミュニティ・ビジネスの話を後半でするのでしょうが、例えば、先だって私は、金融広報中央委員会の講演で飛騨高山に行って来ました。そこでは金銭教育を子供たちに、低学年からずっとしているのです。まとまった文集を見せてもらったのですが、子供たちが「もったいない」と言っています。つまり、金銭教育や金融教育をすることによって、子供たちにまず「もったいない」、「無駄をしたくない」という気持ちが生まれてきます。また、スーパーマーケットに行くと自分の目の高さにあるものは何か、売れる商品はどのあたりだろうなど、そういうことが小学校からピピピッとくるようになっているのです。あれは、私はすごい効果だと思いました。
(高見) そうですね。先ほど仰ったように、私も算数など、そういった機能だけを教えているけれども、実学、生活の中でどう活かすかという、お金の使い方や考え方についての訓練は早い段階からしたほうがいいと思います。特に、最近では、中小企業の開業率を廃業率が上回ってしまっているということで、いわゆる起業に挑戦するなど、そういうチャレンジ精神が弱くなっています。こういったこととニート現象、フリーター現象は決して無縁ではないと思います。どこか底流でつながっているような気がしますので、仰っているところは非常に大事な部分だと思います。
(生島) 稲岡さん、お金について、年代によって考えなければいけないことがあると思うのです。例えば、30代だと教育費が一番かかります。それから40〜50代だと介護にお金がかかったり、教育費もかかったりします。子供が離れていった場合、50代後半〜60代で、今度はお二人で老後の蓄えを増やしていきます。このライフプランも絡めて、例えば30代はどういうことを基本的に考えながらお金と向き合えばいいのか、そのあたりを少しご説明いただけませんか?

稲岡真理子氏(稲岡) 30代も後半になると人生の中で、先もある程度見えてきて、子供の教育なども基本的な方針が立ってくるというスタートラインではないかと思います。そういうときに、客観的な情報をかなり集めた形で、最終的に「ああ、生きてきてよかった」と思えるように、夫婦単位ではなく、お互いが個人として何年間自分の意思で生きたいかということを、自立できる所帯を持った大人として正面から話し合える世代だと思うので、ぜひそれは、社会教育の中でも進めていくべきだと思っています。男性が特に照れ屋なのか、女房に任せているからという考え方を持っていたりして、非常に男女の中でも取組み方に違いがあると思います。
(生島) 40代はどうですか?
(稲岡) 40代の働き盛りの人の多くは仕事も忙しく、会社や組織の中でかなり重圧感を感じて、自分の人生を考える余力が、エネルギーとしてだんだん薄くなって、気持ちのゆとりも少なくなってきているということは、企業内研修をしていて、実感としてあります。そこで、「あなたは定年後どうしますか?」という質問をすると、「妻と海外旅行に行く」と言われるのですが、多くの妻はそうは思っていないですね。「友だちと」という答えが多いです。同じ40代でも妻の方は、どこの国へ行きたいなどと非常に具体的です。しかし、夫は、とにかく現実から逃避できるという考えで、情報も少ないと同時に、自分の人生に対する逼迫した真剣さがないのではないか、会社人間、社会人間に少しなりすぎていたりして、いわば1人の人間としてどう生きたいかというところの具体化を40代の男性には特にお願いしたいと思います。  
(生島) 今、私は55歳になるのですが、50代はまず具体的なところでいうと、保険の見直しをしたほうがいいのではないかと思っています。その50代のポイントは何でしょう?  
(稲岡) もうまさに仰るとおり、50代は自分のこれからの生活を支える基盤の確認です。50代の後半よりも前半のほうがいいですね。前半で見直しをすればまだ手当てができます。40代だと少しまだ不確定要因がありますが、50代の前半は、保険の場合で言えば特約をつけておこう、乗り換えようなど、その手当てが間に合います。そういうことでの見直しです。それから、やはり目標の微調整が必要と私は思っています。  
(生島) 60代になると定年退職を迎えられる方もいらっしゃって、それまでご自分の蓄えられたものが大きければいいですが、少ない方はリスクをとるのが怖くなってしまう、失敗も許されない年代です。そういう方のマネープランとしてはどういうことを押さえておけば安心ですか?
(稲岡) まず、自分の生活の実態を確認することです。収入と支出、それから負債や財産の実態の確実な把握をしなければ先へ進めません。  
(生島) 保険や資産の一覧表を作るべきですね?  
(稲岡) はい。一覧表を作って、負債など早めたほうがよいと思われるものは早めるなど、とにかく不安に駆られるだけではなく実態把握に尽きると思います。  
(生島) 保険に関していうと、私は医療費を厚くして、生命保険の分を減らしました。やはり皆さんも付き合いで入っていたりして、意外に無駄なものを掛けていたり、重なっていることがあるのですが、保険の見直しの部分に関して押さえておくポイントはどういうところでしょうか?  
(川北) すみません、私は保険の販売を全くしたことがないので、商品についてはよく分かりません。ただ、自分自身のことを考えてみると、今は貯蓄目的で保険に入るのは、やめたほうがいいと思います。仰るように、自分が万が一病気になったときにどの程度の医療費が保険として給付されるのか、一方病院にいくら支払うのかを中心に組み立てられるのが一番いいと思います。  
(生島) 私の場合は、入院したり介護になる可能性があるので、例えば差額ベッド代を、1日1万5000〜2万円出るものにしておいたり、生命保険に関しても、子供たちが小さなうちは一家の大黒柱が倒れると大変ですから、保険金を高く掛けていましたが、もう20歳を過ぎたので、それも多く掛けている必要はないなと思いました。保険には貯蓄と保障という部分がありますが、貯蓄の部分は他の商品にして、保障という部分で入るという考え方もあるのです。
 さて、やはり皆さんがある程度経済的に豊かな生活を送りたいと思うのは当然だと思います。そこで、世界で豊かになる公式がひとつだけあります。{(収入−支出)+資産×運用利回り}が世界で共通の豊かになる法則だと私は思うのです。運用利回りが高ければ高いほどお金は増えていくわけですが、収入を増やすことも大切です。いかに個人がお金を稼げる力を持っているかが重要なわけです。だから、若い子たちに、「まず、好きなことをやりなさい。好きなことでお金が稼げるようになることが重要で、そのためには色々な意味でその努力も惜しんではいけない」と私は言っています。そこでポイントは、個人が働くということ、そのために必要なのはアイデアです。これから日本はもっと金融立国になっていかないと、本当に人口も減る、資源も少ないわけですから、個人としては、構想力、豊かな発想力、そして土俵際に追い込まれても負けないような実行力と耐える力を持っていることが重要です。次に、支出の部分でいかに減らすかがポイントです。大久保さん、これは得意分野かどうか分かりませんが、個人が一番支出を減らすには何が大切だと思いますか?
(大久保) 節約です。
(生島) 最大の部分の節約は何でしょうか? 今色々と耐震偽装問題で揺れていますが、1つに住宅があげられます。日本人は安全志向だといわれている割には、住宅に関して言うと、例えば1億円の買い物を頭金2000万円入れて8000万円のローンを組むわけです。向こう20〜30年といったら激動です。そこをあえて、ローンを組むのは土地神話の影響もあるでしょうが、まずローンを組まないこともひとつの発想だと思います。2番目に大きいものは保険です。高額の生命保険に入ってしまって、家計を圧迫していたら、運用までいかないわけです。その支出の部分をこれからもっと考えないといけないと思います。そして、ポイントは、大久保さんの得意分野の運用利回りです。運用利回りを上げるには今一番いいのは何だと思いますか?
(大久保) 今は国内株式だと思います。
(生島) 国内株でも特にどうなのでしょう?
(大久保) 電力株がいい、何株がいいといったものはよく分からないのです。今、円のほうが安くなっているから、こういった業種がいいなどと新聞や雑誌には載っていますが、投資クラブを始めてからそういう情報に余り右往左往しなくなりました。やはりもう地道に、自分が消費者として使っている製品や周りのサービスなどを見ていって、そこの財務諸表を見て選ぶというスタンスに変わってきました。だから、今はこの業界がいいといった切り口で考えなくなったので、今のようなご質問に、今ならこれだというお答えができないのです。素人で申し訳ありません。
(生島) とてもいいと思います。先生、株式投資に関しては、やはりまず主婦の方はご自分が普段よく買われるもの、身につけるものから企業を応援するサポーターのようになるというきっかけが一番いいのではないでしょうか?
(川北) 私もそれを推奨しています。衣食住の関連です。やはり自分が使ってみてとても気に入ったもの、それからあとは気に入ったサービスです。例えば宅配業者も千差万別で、大きなサービスの差があります。そういう日ごろの接触から、この業者はいいと思う感覚を信じ、株式に投資をするのが最も近道だと思います。
(生島) 稲岡さん。私は正直言って、体験しないと納得できないし、話せないので、自分でありとあらゆるものを結構しているのです。
(稲岡) 損もされましたか?
(生島) 損もしました。バブルの前は、やはり金儲けをするためには、現金と株と不動産投資だと言われてどんどん買いました。一時は私も厳しくなりました。だから不動産投資に関しては気をつけなければいけないと思っています。ただ、リスクの問題ですが、先ほど先生が仰ったように、信用で借金をしないで、現物で、例えば今1万円ずつでも投資信託など買えますし、銀行に預けているよりも増える確率が高いわけです。損したら損したで、それは勉強になるから学習になるわけです。つまり、株をすることによって幾つになっても頭を使いますから、私はボケる確率も減るような気がします。そのようにして、学習効果と楽しさを学べます。ただ気をつけなくてはいけないこともあります。そのあたりはどういう心構えをして、株式投資に向かえばいいと思いますか?
(稲岡) なけなしのお金をはたいて買うというか、損をしたときに生活が崩れるような資金では絶対にやめましょうということです。自分への投資も含めて、将来の自分づくりや株などの勉強といった実践的な学びのための投資として、自分の可処分所得の中から最低1割を活かして、自分を培っていきましょうということを勧めています。
(生島) お給料が入ってきたらまず、天引きで1〜2割を貯蓄するなり運用に回すということをこれからおやりになるといいのではないでしょうか。
(稲岡) それを社会人1年生のときからずっとしていけば、かなり鍛えられていくと思いますし、いわば血となり肉となるというか、自然体でできるようになると思います。気張ってするとどこかでつまずきますが、気分的に大らかな自然体でしていけば、情報も偏った入り方をしなくなると思います。金融経済教育ではそこが一番大事かなと私は思っています。
(生島) 株も新規公開株、IPO、ジェイコムが今回話題になりましたし、そういう投資の仕方もあります。あとは投資信託のように、プロにお任せしながら、外国のもの、日本のものに投資できます。また、株だけではなくて債券という投資の仕方もあります。守りの商品では、元本保証が好きな日本の国民は個人向け国債という選択肢もありますが、最低でも0.05%で今回は0.564という感じです。実際株式投資をおやりになると、守りの金融商品に関しては、だんだん魅力が薄れるのですが、サッカーと同じで攻めと守りの両方をしておかなければいけないでしょう?
(大久保) もちろんそうだと思います。私自身もまだまだ教育費のかかる子供を抱えていますので、私の場合は2年分の生活のお金には絶対に手をつけないというルールを決めています。何事もこの範囲でするというルールを最初に決めておくことが大変大事だと思います。その中で、投資、リスク商品を始めても、今度そのリスクをどこまで受け入れられるかを、自分の身の丈に合わせてよく考えておくことです。株式投資で言うならば、自分はこの場合にはどうするのかというロスカットを最初に決めておくことがとても大切だと思います。
(生島) ロスカットというのは、例えば買った金額よりも10%または20%下がったら自動的に売ってしまうということを決めておくことですね?
(大久保) はい。
(生島) 高見さん、そういう意味では、今金融経済教育や個人の意識の改革もどんどん変わってくればいいと思います。こういう変化は、会社を持つ人の意識や社会を変えていくことになると思いますが、このあたりどうお考えでしょうか?

高見一夫氏(高見) どちらかからお話ありましたが、いいサプライヤーをどう育てていくかにお金を使いたいということがあると思います。
(生島) いいサプライヤー、どういう意味ですか?
(高見) つまりいい供給者、サービス提供者です。いい会社をいかに育てるかという観点もあるのではないかと思っています。最近では社会責任投資(SRI)という形も出てきていますし、そういう観点を持っていきたいというのがひとつです。また、最近、コミュニティ・ビジネスの講座に来られた高齢の女性は退職金の使い方を考えておられました。預貯金といった分野ではなく、自分の老後と地域生活に投資したいということです。つまり、自分の地域の中で役に立つ、生きがいのある仕事、例えば子育て支援などという形の中で展開していきたいと考えていらっしゃいました。こういう発想も、最近新しいなと思って見ています。
(生島) それは大変面白いです。それを第2部で、細かく聞かせていただきたいです。地域が発展することはとても重要なので、川北先生と高見先生には第2部で引き続き解説をしていただきたいと思います。
 さて、もっとお話を伺いたいのですが、セッション1はそろそろ時間です。稲岡先生、これからは複利の運用、複利計算がとても重要になって、例えば5万円を毎月積み立てて、ゼロ金利だと20年経っても1200万です。8%の運用利回りだと5万円で20年経つと2965万円、約1700万円の差になるのですね?
(稲岡) そうですね。
(生島) 年数が経てば経つほどどんどん差が出ますね?
(稲岡) はい。だからこそ、時間軸で色々なことを考えてみるということです。早く考えれば考えるほど、プラスアルファが自分の中に戻ってきます。もうひとつ、自分の持っているお金の力をもっと自覚して、自信を持って運用する、いわば「社会と接点を持った視点で」ということが大切です。銀行、金融機関選びや投資選びでも、まさに自分が社会を動かすという力をどこで発揮するかが重要です。
(生島) せっかく与えられた命、人生ですから、やはり皆さん活き活き生きていきたいと思います。そのためには、お金は全てではありませんが、いい意味での手段になるわけですから、お金にうまく働いてもらって、お金を活かすことによって豊かな老後生活も送れると思います。
(稲岡) お金で買えないものを手にするためには、やはり知恵もお金も効果的に活かすべしということに尽きると思います。
(生島) どうもありがとうございました。


  次号では、セッション2「市民による地域社会の活性化・地域社会に貢献する市民のお金の使い方を考える」の模様を掲載予定です。

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