「出題の趣旨」の公表について

 平成17年公認会計士試験第2次試験論文式試験の「出題の趣旨」を、次のとおり公表する。


【簿 記】

 第1問
 本問は、個別企業の残高試算表と決算整理事項から、貸借対照表と損益計算書を作成する能力を問う問題である。決算整理事項としては、当座預金に関する残高証明額との調整、割賦販売と委託販売、商品の期末棚卸高、有価証券の期末評価、有形固定資産の減価償却、貸倒引当金の設定、外貨建金銭債権債務の換算、社債の会計処理、退職給付引当金の設定等、いずれも基本的なものを取り上げている。問題のパターンはオーソドックスであり、難度も標準的であるから、十分に解答できる問題である。

 第2問
 本問は、連結財務諸表の作成に係る簿記上の処理能力や計算能力を問う問題である。
  問1 では、部分時価評価法による資本連結の手続について十分に理解し、それに係る計算や仕訳を正確に行うことができるかどうかを問題としている。
  問2 では、個別財務諸表や内部取引等の基礎資料から連結財務諸表を正確に作成できるかどうかを問題としている。連結子会社による親会社株式の売却等、やや難度の高い論点も一部含まれているが、連結財務諸表の作成について基本的な学習を丁寧に行っていれば、十分に解答できる問題である。


【財務諸表論】

 第3問
  問1 本問は、資産の評価損について幅広く問うことを目的としている。同じ取得原価主義の範囲内での評価減である、従来のケースと新たな減損会計について基本的考え方を問うている。両者の比較をしながら簡潔な説明を要求している。さらに事業用固定資産については個別に適用方法の説明を求めた。また減損損失の戻入れについては説が分かれているが理由を付して解答者の意見を聞いている。
  問2 ファイナンス・リース取引では、所有権移転外のものとしての扱いが受けられるようにリース契約を定めるのが一般的である。それは、「リース取引に係る会計基準」がその取引に求めている原則的処理である売買取引処理の適用を避け、賃貸借処理によってリース資産とリース負債とをオフバランスにすることを可能にするためである。本問は、注記例を資料にして、ファイナンス・リース取引に関する売買取引処理と賃貸借処理という二つの処理を適切に理解しているかを確認したうえで、財務諸表利用者へのファイナンス・リース取引に係る情報提供について注記による場合とオンバランス処理する場合との間に違いが生じうることが理解できているかを確認することを狙ったものである。

 第4問
  問1 本問のマル1は、個別財務諸表準拠性の原則が正規の簿記の原則といかに関係しているのかを問うている。ポイントは、連結財務諸表が個別財務諸表準拠性の原則に従い個別財務諸表を基礎にして作成され、個別財務諸表は正規の簿記の原則に従って作成された会計帳簿から作成される、ということにある。本問のマル2は、個別財務諸表が財政状態および経営成績を適正に示していない場合、連結財務諸表の作成上これをどのように扱うのかを問うている。ポイントは、そのような場合は個別財務諸表を適正に修正して連結決算を行わなければならない、ということにある。
  問2 は、新株予約権を材料として、負債と資本の区分に関する理論的な理解を問う問題である。ストック・オプションとして発行される新株予約権は、現在の日本の制度では、保有者の権利行使までオフバランスとされている。しかし、理論上は、このオフバランス処理に批判的な見解が支配的となっている。ただし、発行時点でオンバランスするとしても、その仕訳の貸方勘定を負債とするか、負債と資本の中間項目とするか、資本とするかについては見解の分かれるところである。現行の制度に関する知識のみを尋ねる問題が多い中で、本問は、複数の解釈が成立する際の理論的な説明能力を確かめることを狙ったものである。
  問3 「企業会計原則、損益計算書原則、三、F」に定められている長期請負工事における販売費および一般管理費の原価算入処理については、特定の事業における特殊な会計処理であると受けとられるきらいがある。ただ、企業会計原則は、基本的には、事業サイクル期間が会計期間内におさまる場合の企業活動を想定して会計基準を定めていることに照らせば、工事期間が少なくとも3会計期間にまたがるような長期請負工事の会計をどのように処理するかは、企業会計原則を支える会計理論への理解力を確かめる格好な題材である。この視点から、これまでに出題されている収益会計ではなく、費用会計の領域に焦点をあて、費用収益対応の原則への理解を確かめることを狙ったものである。
  問4 企業会計の基本問題である資本と利益の区別、特に資本剰余金と利益剰余金との区別の基準に関する問題である。本問は、両者のグレー・ゾーンにある贈与剰余金(国庫補助金)がそのいずれなのかについて、あえて現行制度にとらわれずに、資本剰余金説を提示して賛否を問う形式を採用している。


【原価計算】

 第5問
  問題1 は、工程別総合原価計算に関して、単純な単一製品のケースからはじまり、等級別原価計算まで展開していく過程を問う問題である。同時に、累加法と非累加法、全原価要素工程別原価計算と加工費工程別原価計算の正確な理解度も問うている。
  問題2 は、全部標準原価計算を前提にして利益差異分析と製造間接費の差異分析を計算する問題と予算管理から利益管理につなげるための直接標準原価計算の特徴を理論的に検討できるかどうかを問う問題等である。

 第6問
  問題1 は、事業部制組織の意思決定と業績評価に関する理解を問う問題である。与えられた業績数値を正しく分析し、その結果を簡潔に説明する能力と、価値評価に関する基礎知識を問う出題である。
  問題2 は、直接原価計算方式の損益計算書を使って、商品別の収益性を判断させる問題である。営業利益の予実算差異分析や損益分岐点分析を行う能力を試す基本問題に続いて、市場環境等を認識して収益性を説明できるかどうかの能力を見ようとしている。


【監査論】

 第7問
  問題1 財務諸表の監査は、リスク・アプローチにより実施されるが、とりわけ統制リスクの評価は監査の成否の鍵であるといえる。
 このため、統制リスクの評価の対象である内部統制について、 問1 では、内部統制の有効性にかかわる限界を問い、 問2 では、会計上の見積りにおける適切な内部統制にはどのようなものがあるかを問い、さらに 問3 では、内部統制における内部監査の役割を問うことで、内部統制についての基礎的な理解の程度を試す問題である。
  問題2 財務諸表の監査においては、監査人は常に監査リスクと監査上の重要性を念頭に置きつつ、その業務を遂行している。この監査リスクと監査上の重要性について、 問1 では監査リスクと監査上の重要性との相関関係についての理解度を問い、また、 問2 ではこれらの相関関係を踏まえて、監査上の重要性についての不適切な決定がもたらす監査上の問題点、及び当該決定が財務諸表利用者の意思決定に与える影響を問う問題である。

 第8問
 本問は、連結財務諸表監査を実施した結果に基づいて監査報告書を作成する際の基本的な事項についての理解力および判断力を問う問題である。
 つまり、単なる知識の有無を問うのではなく、主として、監査人が発見した重要な会計処理の誤りとこれにかかわる監査報告書の記載との関係、正当な理由による会計方針の変更についての追記情報の記載、および重要な監査手続が実施できなかった場合の監査報告書の記載内容等を問うことで、監査人として必要となる思考力を試している。


【商 法】

 第9問
 本問は、商業登記の効力を定める商法12条と表見代表取締役の行為による会社の責任を定める商法262条との関係を問う問題である。すなわち代表取締役として登記されていない表見代表取締役の行為につき、善意の第三者は262条による保護を受けることができるのかという問題を、商業登記の積極的公示力をどのように考えて両条の関係を解するか。また商法262条の適用要件である外観、会社の帰責事由および第三者の主観的要件をどのように解するか、学説・判例の状況を理解して、論理的に論述することが求められている。

 第10問
 新株発行の差止と無効について、それぞれの目的とその主張方法、さらに差止事由と無効原因における違いを理解しているかどうかを問う。
  問1 はそれぞれの目的と方法について問うが、差止は会社(取締役)の不公正な新株発行を株主が阻止するためのものであるが、無効は新株発行の効力が生じた後の旧株主の保護のみならず、新株主および第三者の利益保護を考えて設けられた制度といえる。手続に関しては、関係条文に基づき解答しているか否かにより理解しているかを確認する問いである。
  問2 は、 問1 で問うたそれぞれの目的を踏まえて、例えば法令・定款に違反する事項であっても、それが差止事由に該当するのかまたは無効原因に該当するのか、すなわちそれぞれを広く解釈するのか狭めて解釈するのかを理由を述べることにより、両者間の違いを理解しているかどうかを確認する問いである。


【経営学】

 第11問
 本問は、企業戦略の主たる内容である事業の定義のなかで、垂直的段階の軸に関わる現象について問うている。エレクトロニクス産業を例に挙げながら最近の企業の動きを問うとともに、垂直的業務の流れのなかのどの段階を自社で行いどの段階を他社に任せるかといった意思決定について、あるいはこの意思決定と企業の競争優位について、アーキテクチャー論、取引コストの経済学、資源ベースの企業論、組織間関係論といったさまざまな考え方の基本的理解を問うている。

 第12問
  問題1 市場の効率性について、基本的理解を問う問題である。市場の効率性はファイナンス理論のバックボ-ンであり、その理解なくしてファイナンスを語ることは出来ない。
  問題2 ファイナンス理論の企業財務におけるこれまでの進展について、基本的理解を問う問題である。資本構成、ならびに、配当政策といった財務の重要な意思決定について、MM理論が打ち立てた功績は大きい。本問では、MM理論を原点にして、これまでの理論の展開についての理解を問うている。


【経済学】

 第13問
  問題1 独占企業の様々な状況における行動(政府の政策の影響、社会的余剰変化を含む)の分析、参入退出自由な完全競争企業の分析、プライスリーダー、クールノー複占の分析、の能力を問う問題である。
  問題2 この問題のねらいは環境財の利用権が隣接する生産主体のどちらに持たれても、自発的交渉によって社会的に最適な総利潤を最大化する資源配分が実現するというコースの定理を具体的数値によって示した点にある。

 第14問
  問題1 は、IS-LMモデルについての基本的知識、すなわち、IS・LM両曲線の意味や導出の仕方、財政金融政策の効果、資産効果等の分析を正確に理解しているかどうかを問うている。計算問題が主だが、連立方程式を丹念に解けば正解が得られるように作られている。
  問題2 は、近年日本で深刻な問題となっている公債の大量発行に関する設問で、どのような条件の下で、公債問題が解決するか悪化するかを、理論的に考えることを問題としている。


【民 法】

 第15問
  問1 本問は、親権者の保護下にある未成年者の財産管理について、親権者の代理権の濫用的行為、利益相反的行為をどのように理解すべきかを問うものである。
 小問(1)は、親権者と内縁の夫との利害の共同性が密接であることから、利益相反行為性の成否を問うものである。
 小問(2)は、選挙資金として農協が貸付ける行為が目的範囲外か否かを問うものである。
  問2 本問は、油絵とショベルカーとの交換契約において、真筆だと信じて時価相当額で油絵を取得した者が、動機の錯誤たる性質の錯誤を理由に民法95条の要素の錯誤を主張しうるかを問い、もしこれが肯定された後に、自らが交換に供した目的物が盗まれて、善意・無過失の第三者の手に帰した場合に、この目的物の返還請求と共に使用利益の請求をなしうるのかを問題としている。

 第16問
 本問は、下請負関係における下請負人の代金債権確保をめぐる法律関係を中心に問うものである。
  問1 は、添付法理を用いた償金請求の可能性を問うものであるが、建前所有権の帰属をどう考えるかが主たる論点となる。
  問2 は、いわゆる転用物訴権の問題である。注文者の利得に法律上の原因があるかが論点となるが、それを判断するためには、特約に基づく解除の効果を契約解釈から導く必要がある。
  問3 は、債務不履行解除の場合における建前所有権の帰属をどう考えるか、解除の効果をどう考えるか(一部解除か遡及効を伴った全部解除か)が問題となる応用的問題である。

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