「出題の趣旨」の公表について

 平成17年公認会計士試験第3次試験筆記試験の「出題の趣旨」を、次のとおり公表する。

 

財務に関する監査実務】

 

1問

 

 本問は、グローバルに展開する大会社を例として、連結監査と単体監査を同時一体的に行う場合を想定し、全体として監査実務の基本的事項の理解と実践能力を問うことをねらいとしている。
 問題1は、与えられた情報や財務数値及びその趨勢から、財務諸表項目に存在する固有のリスクを適切に認識して説明できるかを求めており、リスク・アプローチの理解と監査実務での実践能力を問う問題である。この問題では、解答として選択する勘定科目が唯一かつ絶対的なものとは言い切れないので、選択した勘定科目の理由をいかに合理的に説明できるかがポイントである。
 問題2は、経営者とのディスカッションの意義及びディスカッション項目を説明させることにより、リスク・アプローチにおける経営者とのディスカッションの重要性とその位置づけを正しく認識しているかを問う問題である。特に、不正のリスクに対して留意しているかどうかがひとつの重要なポイントである。
 問題3は、他の監査人の監査結果を利用する場合において、具体的にどのように監査手続きを実施し、問題が発生したときにどう対処するのかを、監査指示書への記載内容と個別事案に対する対応を述べさせることにより、その実務対応能力を問う問題である。特に、他の監査人の監査結果を利用する場合でも、十分な関与の必要性を認識しているかどうかがポイントである。
 問題4は、個別監査論点として、単体決算としての投資損失引当金の取り扱い、連結決算として子会社留保利益に対する取り扱いを取り上げ、その判断能力を問う問題である。前者は、投資損失引当金は減損処理を代替するものではないことを認識しているかどうか、後者は、原則として繰延税金負債の計上が必要となることを理解しているかどうかがポイントである。



2問

 

 問題1本問は、工場閉鎖という事象の中で財務諸表に重要な虚偽表示となる可能性のある取引又は勘定科目を特定する能力を問う問題である。具体的には、土壌汚染の原状回復という未確定事項を含む土地売却益の計上、大量退職による退職給付引当金の処理、及び固定資産の除売却取引の網羅性や棚卸資産の処分などにどのようなリスクがあるかを問う。
 問題2本問は、財務諸表監査におけるIT監査の基本的な概念を問う問題である。問1は、ITが監査計画の策定や監査人が実施するリスク評価にどのような影響があるかを問うと共に、情報システムの不備と追加的リスク評価手続や監査役等及び経営者とのコミュニケーションとの関係を問う問題であり、問2は、販売管理システムにおける内部統制を達成させるためのコントロールの内容を理解しているかを問う問題である。
 問題3本問は、繰延税金資産の回収可能性に関する理解度を問う問題である。問1は、甲社の実態を把握して例示区分のどの会社分類になるかを問う問題であり、問2は、甲社の繰延税金資産の回収可能性を繰越欠損金の存在、一時差異のスケジューリング及び将来の見積課税所得の関係から判断する問題である。
 問題4本問は、訴訟事件等に係わる弁護士確認状に関する問題である。問1は、弁護士確認状の回答がない場合の代替的監査手続を理解しているかを問う問題であり、問2は、甲社の訴訟案件の実態を把握して訴訟損失引当金の計上の必要性を問う問題である。また、後発事象の考え方についても問う問題である。

 

財務に関する分析実務】

 

3問

 

 問題1実際の財務諸表を用いて、分析評価を行う力をみるための設問である。基本的な財務分析指標の計算問題を出題して、計算された指標を機械的にではなく、企業の組織構造や一時的な要因を考慮しながら解釈し利用することができるかどうか、また、企業のバランスシートや財務運営を全体的に把握評価する力を身につけているかどうかを測定する趣旨である。
 問題2多くの分野で用いられるようになってきた割引キャッシュ・フロー法の基本を理解しているかどうかを問う問題である。極めて簡素化した数値例を用い、実務で多く用いられるパーセント・トゥ・セールス法による将来キャッシュ・フローの予測を行って、適切に事業の価値、企業価値、株主資本価値を導くことができるかどうかを測定する趣旨である。
 問題3複数の財務分析指標の長時間の時系列データを示して、この間の企業の株主資本比率の変化の要因分析を行うことと、データから企業の配当政策を読みとることを求めた。財務分析指標相互の関係を十分理解しているかどうか、単に個別の指標の優劣ではなく、複数のデータを総合的に分析して経営財務の状況を把握し、評価する力を身につけているかどうかを測定する趣旨である。



4問

 

 問題1本問は、財務諸表分析についての基本的な理解度と能力を問う問題である。問1は、労働生産性(付加価値労働生産性)の算出を問い、問2は、問1で算出した労働生産性を分析し、その分析結果に基づいて、当社の現状を解釈する能力を問う問題である。
 問題2本問は、CVP分析についての基本的な理解度と能力を問う問題である。問1は、与えられたデータに基づいて固変分解する能力を問う問題である。問2から問5は、基本的な計算能力を問う問題である。問6は、問2から問5の計算結果を踏まえながら、経営レバレッジ係数についての理解を問う問題である。
 問題3本問は、設備投資の経済性分析について、インフレおよび法人税がない場合とそれらがある場合の正味現在価値の計算を求めることにより、DCF法についての理解度を問うことを狙いとしている。
 問題4本問は、ケースを踏まえながら、貢献利益アプローチについての基本的な理解度と能力を問う問題である。具体的には、製品Xの収益性を正しく判断すべく貢献利益アプローチに基づく分析を行った上で、整合的に論述することが求められる。

 

その他の会計実務】

 

5問

 

 問題1一株当たり当期純利益及び潜在株式調整後一株当たり当期純利益は一会計期間における企業の成果を示す重要指標である。とりわけ企業実務上、新株予約権や転換社債型新株予約権付社債の発行は多々見られるところであり、これらがマル1一株当たり当期純利益の算定にどのような影響を及ぼすかマル2希薄化効果を有するか否かの判定マル3希薄化効果を有する場合の潜在株式調整後一株当たり当期純利益の算定は、企業の会計監査を担う公認会計士として熟知しておくべきことがらである。本設問は、「一株当たり当期純利益に関する会計基準」(企業会計基準第2号)および「適用指針」の主要取り扱いの理解を問うている。
 問題2連結計算書類の作成が商法においても求められることとなり、公認会計士として日常親子会社で生起する取引が連結書類作成上どのように取り扱われるかを理解することは極めて重要である。本設問はマル1子会社が上場会社である親会社株式を所有する場合の連結仕訳(子会社で時価評価している結果繰延税金負債との関係や少数株主持分との関係を理解しているか)マル2持分法から株式買い増しにより連結対象となった場合の一連の処理が適切に行えるかマル3子会社が時価発行増資したことに伴う持分変動損益の認識等、連結会計の日常生起する課題の基本的理解を問うものである。
 問題3平成13年の商法改正により自己株式の取得及び保有規制の見直し、法定準備金の減少手続き等が創設されたところである。本設問は実務において往々に発生するかかる自己株式取得・処分について個別財務諸表の資本の部および損益計算書及び連結剰余金計算書における取り扱いに関する理解を問うものである。内容としては「自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準」(平成14年2月 企業会計基準第1号)に規定ある主要論点を網羅するよう設問している。



6問

 

 問題1平成17年4月より減損会計が強制適用となりました。問1問2問3問4は減損会計の基本趣旨から兆候に至るまでを出題しております。
 問5は経済的残存使用年数が20年を超える場合の認識の必要性を求めています。問6は共用資産がある場合の測定方法を求めています。これは減損会計の趣旨から測定までの理解を問うています。
 問題2商法特例法の改正により連結適用会社は連結計算書類の作成が義務付けられ、連結重視となりました。そこで「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」の作成を求めております。これは連結の基本事項の理解を問うています。

 

税に関する実務】

 

7問

 

 問題1公認会計士が関与する法人(団体)の範囲は益々拡大している。
 公認会計士として必要な税務知識は、株式会社等の普通法人のみならず、様々な法人形態に対応している必要がある。
 本問は、法人税法上の内国法人について、公共法人・公益法人等・協同組合等・人格のない社団等・普通法人に5区分し、それぞれ、事業年度の所得課税の扱いと清算所得の課税非課税の別に対する理解度を問う問題である。
 問題2公認会計士の関与する法人は、一般的に大法人であり非同族法人が中心である。
 しかしながら、法人税の課税対象法人は圧倒的に同族会社が多く占めている。
 同族会社であるか否かは企業の法人税に関与するにあたり初めに考慮すべき事項である。
 本問は、同族会社の定義と同族会社の留保金課税および同族会社の行為又は計算の否認を問う事によって同族会社に対する特別の課税に対する理解と実務能力を判定する問題である。
 問題3本問は、事業年度の法人税の課税所得と納付法人税額を算出することを求めることにより、広く法人税の基本的理解度を問う問題である。
 主なポイントは以下のとおりである。

 

 1

.税効果会計の法人税等調整額の処理

 2

.納税充当金の繰入・取崩の処理

 3

.減価償却超過額及び減損会計の事後処理

 4

.交際費の範囲と使途秘匿金の処理

 5

.役員退職金の損金算入時期

 6

.受取配当金等の益金不算入計算

 7

.人材投資促進税制の税額控除計算

 

論 文】

 

8問

 

 問1は、取締役の監査事項(非会計事項)と会計監査人の監査事項(会計事項)の両方に関連する問題について、監査役会の中で意見が一致しない場合に、会計監査人はどう対処すべきかの問題である。
 問2商法の配当規制は基本的に個別計算書類を基礎としているが、連結計算書類と個別計算書類の損益が著しく異なる場合に、個別計算書類上の配当規制をどのように考えるべきかを問うものである。
 問3は、監査において多額の使途不明金(使途秘匿金)を見つけた場合に、会計監査人はこれにどのように対処しなければならないかを問うものである。

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